堕天使のちょこっとした冒険   作:コトリュウ

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街への潜入――お手のもの。
誤魔化し偽装も――なんのその。

実力発揮の元スパイ。
ところが今まで逃げただけ。
討伐数は未だゼロ。

これからどうなる冒険者。
目指すは魔王の討伐か?
はたまたゴリラと一騎打ち?

危険渦巻く異世界で、
頑張れ人外娘達!

未来は闇で満ちている!!




殺戮-3

 エ・レエブルの北門では、王都から商売に来たと思わしき商人のキャラバンが通行審査を受けていた。

 パナ達三名はその後ろに並び、静かに順番を待つ。

 これがアダマンタイト級の冒険者であったなら、衛兵達に一声かけるだけで先に通してもらえるのだろうが、(カッパー)級ではどうしようもない。加えてパナの後ろに控える小柄な二人は、怪し過ぎる仮面で顔を隠しているのだから、通るどころか止められて当然の要注意人物だ。

 衛兵も――そんな恰好で門を通れると思っているのか、と訝しげな視線を送ってくる。

 

「さて次は……あ~、確か何日か前に出発した冒険者……と言いたいところだが人数がおかしいな」

 

「え~っと、リグリットさんの事? あの人なら用が有るからって途中で北の方へ行っちゃったよ。手紙をギルド長へ渡すように言われているけどね」

 

 にぱっ、と笑顔を咲かせて友好的な姿勢を見せるパナだが、衛兵が気にしていたのは仮面の二人だろう。

 仮面で、裸足で、黒ローブ――怪しい事この上ない。

 

「おっほん! 後ろの二人は冒険者じゃないようだが、……仮面を取ってもらえるかな」

 

「はいは~い、アン、マイ。顔を見せてあげて」

 

「はい、パナさん」

「ほ~い」

 

 本来なら見せられないはずだ。

 赤い瞳に鋭い牙、暖かな血が流れていない白い肌。街の衛兵ならば一目でヴァンパイアと見抜くだろう。とても爽やかな笑顔で顔を晒す様に促せる状況ではないはずだが……。

 

「おお、これはこれは……綺麗な御嬢さん方だな。姉妹なのかな?」

 

「んふふ、そうだよ~美人の双子姉妹だよ~。衛兵さんもナンパしちゃ駄目だからね。変な噂を撒くのも勘弁だよ。こんな仮面までつけて虫除けしてるんだからね~」

 

 何故か自慢げに振る舞うパナが紹介したのは、人間にしか見えない姉妹であった。

 栗色のサラサラセミロングが美しい――恥ずかしそうに俯く姉アンと、同じ栗色のクセッ毛ショートで元気にVサインをしてくる妹のマイ。

 どちらも田舎から出てきた村娘とは比較にならない美しさだ。無論、どこからどう見てもヴァンパイアではない。

 

「虫除けって、まぁ変な男は寄ってこないと思うが、もうちょっとマシなのあっただろうに。第一、そんな恰好じゃ国禁の奴隷を連れているように見えるぞ。……それで、行先は冒険者ギルドでいいのか?」

 

「そうだよ、ギルド長のロズメットさんに調査結果の報告をしに行くの。この子達は依頼途中で保護した一般の子だから、その処遇についても相談するつもりだよ」

 

「相談ねぇ、まっ何かあったら衛士詰所に来るといい。力になるぞ」

 

「ありがと~」

 

 姉妹が美人だからか、それとも普段から親切なのか? パナには分からなかったが、とりあえずにこやかに手を振ってその場を通り過ぎた。

 

「ふ~、あんまり持続時間が長くない特殊技術(スキル)だから冷や汗かくなぁ。っとアンもマイも仮面被ってね。『偽装』が解けちゃう」

 

「は、はい。分かりました」

「ふぉ~い、久しぶりに人間に戻れたからしばらくこのままで居たいけどな~、仕方ね~なぁ」

 

 マイは懐かしそうに自分の顔を触るが、其処に牙が無い訳ではない。ただ外から見ると人間の顔に見えるよう偽装されているだけだ。

 パナの特殊技術(スキル)『偽装』は、嘘の名称を用いる『詐称』に似た、アバターの外見及びステータスを誤魔化す能力だ。故にもちろんヴァンパイアの外見を人間のように見せ掛ける事は出来るが、所詮は誤魔化しに過ぎない。

 能力に変化は無いし、持続時間も微妙に短い。ユグドラシル時代は、相手に間違った情報を与えることで戦闘を有利に進める事が可能――と謳っていたが、簡単に看破されるのであまり意味を成さなかった。

 所詮は低レベル時代にしか力を発揮できない残念特殊技術(スキル)である。

 

「『詐称』は凄く長持ちで看破され難いけど文字と数値しか誤魔化せないし、『変身』は絶対バレない人間に出来るけど自分自身にしか効果無いし……。うむむ、残念」

 

 エ・レエブルまでの道中いろいろ試してみたが、ユグドラシル時代と同じように『変身』を他者へ掛ける事は出来なかった。

 異世界に来てもユグドラシルの法則が適用されるのは疑問でしかなかったが、位階魔法や特殊技術(スキル)が使用出来ている時点で同じ原理原則の世界という事なのだろう。ぷにっと萌えが居れば更なる深みまで研究できたかもしれないが、堕天使の頭では原理の扉を開ける前に脱落必至だ。

 専門外の事に手を出すべきではない。ユグドラシルでも――異世界でも。

 

「さぁ~て、こっちだよ。さっさと冒険者ギルドに行って用事を済ませちゃおう!」

 

 先輩面のパナは二人の仮面ヴァンパイアを連れて街の中を歩き進んだ。

 この時パナは何の索敵も行わず、周囲の声も聞いていなかったが、ほんの少し耳を澄ませていればよろしくない囁きが聞こえていた事だろう。

 (カッパー)のプレートを持った冒険者が、仮面で顔を隠された裸足の奴隷を連れていると……。

 人身売買が違法になったとは言え、何かしらの脱法行為で奴隷を入手したのだろうと……。

 衛兵のように依頼途中で保護した一般人であることを理解していれば、そんな誤解は生まれなかっただろうが、平穏な暮らしをしている街の住人にとっては少々刺激が強かったのかもしれない。

 せめて靴ぐらい履いていれば印象も違っただろうに……。

 

 冒険者ギルドでは、あからさまに「なんだコイツ」みたいな表情を受付嬢にされてしまい、パナはちょっぴりへこんでいた。

 原因は間違いなくあの仮面だとは思うが、やっぱり呪われているのだろうか? モモンガに付き添ってクリスマスは必ずログインしていたのだから、仮面を受け取ってしまうのは当然だし、そんな毎年恒例の行事だったのだから仮面はまだ複数枚持っている。

 でも女なんだから関係ないはずだ、絶対そうだ!

 パナは心の中でモモンガに仮面を投げつけると、大人しくギルド長が来るのを待つのであった。

 

「お待たせしました~、お早い御帰りで……。おや、リグリットさんはどうされたのですか? まさか……」

 

「ち、違いますよ! あの人はピンピンしてますよ。リグリットさんは重要な用事で向かわなければならない所が有ったんです。それで……この手紙を預かってきました」

 

 二階の広い部屋で待っていたパナは、顔を見せたギルド長に複数枚の羊皮紙を渡す。

 自分が説明するよりリグリットの報告書を見せた方が簡単だと判断したのだ。パナが口を開けは「プレイヤー」だの「ユグドラシル」だの「ヴァンパイア」だのと口を滑らせかねない。

 もっともギルド長の関心は、パナの後ろに控える二人の仮面に向けられているようだが……。

 

「――はぁ?! 人類の危機? まっ、まさかトブの大森林にそんな化け物がっ、何という事だ! こ、こんな事信じられる訳が――」

 

 読み進めていくほどに顔色が変わっているギルド長の有様は、見る分には滑稽だったかもしれないが、当人にとっては最悪の気分であっただろう。

 トブの大森林で厄介事が起こったのは仕方ない、と思っていた。

 ある程度の予算を付けて討伐依頼を出すしかない、とも覚悟していた。

 エ・レエブルの副領主――領主は王都に出向いていて不在――に相談する事になるだろうとため息をつく事態のはずだった。

 しかし、しかしだ。

 手にした羊皮紙に書かれていた内容は、全ての予想を吹っ飛ばす人類への最終通告であったのだ。

 元アダマンタイト級冒険者のリグリットが書いたのでなければ、そのままゴミ箱行きの妄想であっただろう。しかし、現実にリグリットの必死さが文字から透けて見える。これは間違いなく、真実を叫んでいるに違いない。

 

「馬鹿な、こんな馬鹿な! どうしろと言うのだっ! アダマンタイト級でも勝てない化け物だと?! くそっ、街の住人を避難させるか? いや何処へ行けばいいと言うのだ! ああ、私では対応できん! 副領主様に相談しなければ……、その後直ぐに王都へ危機を伝えねばならん! ……下手をするとパニックになる。情報を規制しなければ!」

 

 其処に居たのは細目の優しそうなギルド長ではなかった。目を限界まで見開き、肩を震わせ、大声を張り上げる。

 キョトンとしているパナとは対照的だ。

 

「あの~、大丈夫ですか? 顔真っ赤ですよ」

 

「う……あぁ、……ふぅ、君は確か、パナさん――だったかな? 少し聞きたいのですが、トブの大森林に現れたという巨大な狼を……君は見たのでしょうか?」

 

「はい、もちろん。すっごく強い魔獣でしたよ。今、私がこの場に居るのが不思議なくらいです。もう二度と遭いたくないですね」

 

 笑顔で答えるパナの様子は、言動と合っていなくて気持ち悪い。まるで自分一人なら何の問題もなかったと言わんばかりだ。

 ギルド長としては、目の前の田舎娘が人間に見えなくて嫌な汗が流れる。

 

「そ、そうですか。……え~、今回の調査は御苦労様でした。報告書に書かれていた通り、全ての報酬をお渡しします。それと……、保護したと言う姉妹についてですが……」

 

 ギルド長は改めて仮面の二人を見つめる。

 一人は不慣れな場所で萎縮しているように見えるが、もう一人は珍しい場所に来れたと言わんばかりにウズウズしているようだ。

 背丈からして十代半ばの少女かと思えるが、黒いローブと仮面の異様さから――とても保護された一般人には見えない。

 

「この子たちは私が面倒見るよ。と言っても読み書き出来ない私の面倒を見てもらうようなものだから、どっちが保護しているのか訳分かんないけどね。あはは」

 

「初めまして、私はアンと言います」

「ども~、アタイはマイ。宜しくで~す」

 

 パナに促されて仮面を外し、挨拶を行う姉妹の様子から、ギルド長は面倒事にはならないだろうと判断していた。と言うより、今は余計な面倒を抱えている余裕はない。

 今すぐに副領主の下へ赴き、今後の対策を立てねばならないのだ。

 

「それとロズメットさん、この二人は冒険者に登録しますけど別に構わないですよね」

 

「えっ、冒険者登録ですか? それは……自己責任の職業ですから問題ありませんが……。そんなに幼いお嬢さんでは、とても務まらないのではありませんか?」

 

 冒険者の門は誰にでも開け放たれてはいるが、当然ながら拒否される場合もある。幼い子供や病人、年配の老人などだ。

 もちろん外見に縛られない強者は何処にでも居るのだから――リグリットが良い例だろう――拒否される事例は滅多に発生しない。

 

「大丈夫だよ、この子たちは結構強いんだから! ホント凄いんだからね!」

 

「あ、はい。そうですか……」

 

 別の案件が気になっていたギルド長としては、姉妹の行く末などどうでもイイ。面倒を見ると言っている(カッパー)級冒険者が問題無いと断言するなら、別に気にするまでもないだろう。

 新米冒険者は毎日のように生まれ、消えていくのだから。

 

「では此方が報酬です。今回は有難うございました。それと……、調査の内容は他言無用でお願いしますよ。――ではっ」

 

 話を切り上げたギルド長は、まるで一陣の風であるかのように部屋を出て行った。余程急ぎの仕事があるのだろう。組織の長というものは何処に於いても大変であるようだ。

 

「あらら、行っちゃった。まぁ、近くに神獣フェンリルが居るなんて聞かされたら、荷物纏めて逃げるよね~普通は。私だってもう二度とトブの大森林へは行きたくないよ、うん」

 

「フェンリル……私も思い出すだけで全身に寒気が走ります。ドラゴンに睨まれた小鬼(ゴブリン)とはあんな感じなのでしょうね」

 

「あ~ぁ、アタイも見たかったな~。神獣なんて、そう滅多に見る機会は無いだろーし」

 

 実際出会ったら軽口なんか叩けないっつーの! ――そんな抗議の視線をマイに放ちつつ、パナはヴァンパイア姉妹を連れて部屋を後にした。

 神獣の存在は確かに気になるものの、あの遭遇から今まで何の気配も無い。だとすると森の外へ出てくるつもりは無いのだろう。少しばかり期待を含んではいるが、現状はそのように判断するしかない。

 それより今は自分達の事を優先させるべきだ。

 初めて貰ったこの世界の金銭。冒険の初報酬。お買い物ができる魔法の硬貨! ――実際に魔法が掛かっている訳では無いのであしからず。

 

(さてさて、なに買おうかなぁ~)

 

 買い物はいつの世でも楽しいものだが、今回はヴァンパイア姉妹への衣料品購入が最優先であろう。いつまでも裸にローブ一枚と言うのは変態染みていて可哀そうだ。何処ぞのペロロンチーノじゃあるまいし、そんな趣味嗜好はドブに捨てるべきである。

 

「まずは下着に服、それに靴だね。その後は長旅に必要なモノを揃えようか? と言っても私って旅に詳しい訳じゃないんだけどね」

 

「でしたら冒険者ギルドの受付で聞いてみたらどうでしょう? ギルドというところは初心者に色々教えてくれるのではありませんか?」

 

「おお~、アンちゃん冴えてるぅ。一緒に居てくれて助かるわ~」

 

「うんうん、姉ちゃんは賢いからな~」

 

 自分の事のように姉を自慢する妹は置いといて、アンの言うように――旅に必要な物品の確保を相談するならギルドの窓口で問題は無いだろう。パナとしても分からない事は聞けばいいのだと目から鱗のような想いである。第一パナは旅なんてした事は無いし、今までの野宿も殆どリグリット任せだった。その前は『蒼の薔薇』におんぶに抱っこ状態。

 先ず何を行うべきなのか? 自分が何を分かっていないのかすらも分からない。そんなパナにとっては一緒に旅をしてくれるだけで有難いものだ。無論、精神的にも……。

 

「んじゃ~、一階の受付嬢さんに聞いて――」

「ひぃ! なんで? なんでソイツが此処に居るんだ!!」

 

 下りようとしていた階段の先、其処に一人の傭兵らしき男がいた。

 顔面は蒼白、なのに酷い汗だ。手足に震えが見え、目線はパナの後ろ――ヴァンパイアの姉アンへと向いている。

 

「その髪とローブ! 間違いねぇテメェはあの時のヴァンパイア! 仮面で顔を隠しても無駄だぞ! 仲間を殺した化け物の姿を忘れる訳がねぇ!」

 

 口から泡を噴き出しそうなほど興奮して叫び狂う男の首には、白金(プラチナ)のプレートが舞っていた。と同時に、男の手が腰の剣へと伸びる。

 

「ぶっ殺してやる!!」

 

 いきなりの出来事に周囲に居た冒険者は目を見開くしかない。すぐ傍に居た受付嬢も叫ぶどころではなく、恐怖でその場にへたり込んでしまう。

 

「仲間の敵だ! くたばりやがれ!!」

「ちょ、ちょっと待っ――」

「ざけんなこのボケ!!」

 

 問答無用で斬りかかるのが冒険者として当然の行為――と聞いてはいたが、街中で、冒険者ギルドの建物の中でいきなり攻撃してくるとは! ――パナの頭の中はそのようなモノであっただろう。とっさに――突き出された剣の先を摘まんでみたが、それ以上は何も考えていなかった。

 しかし身体ごと割り込んできたマイは、姉への殺意に対し、己の拳をどてっ腹にぶち込むことで答える。

 

「――ぶごっ!」

「姉ちゃんに近寄んじゃねー!! 次は穴を開けるぞ!」

 

 一応手加減したのか――本当なら腹に大穴を開けたまま階段から吹っ飛び、一階の床にバウンドした後、壁面へ頭ごと突っ込んで即死していただろうに……。傭兵らしき男はその場で崩れ落ち、そのままズルズルと階段を滑り落ちていった。

 パナの手に、抜き放ったままの剣を残して……。

 

「え~っと、ん~っと、しょうがないなぁ。アン、マイ、仮面を取って皆に顔を見せてあげて」

 

「あ、はい。分かりました」

「はいよ、ほら」

 

 意識が飛んで倒れ込んでいる男を尻目に、パナはヴァンパイア姉妹の偽装顔を周囲に見せた。

 ほらっ、人間でしょう、綺麗な子たちでしょ、ヴァンパイアなんかじゃないでしょう、この人何を言っているんでしょうね、怖いですぅ――と必死にアピールした後、パナは手にしたブロードソードの先端をへし折った。

 

「あの~、今のって私達悪くないですよね。――ですよね!」

「そそ、そうですね」

 

 床に落ちる破片を見て、受付嬢は自分の頭がそうなる前に了承の意思を示した。と言うか了承せざるを得なかったのだ。完全なる脅迫、殺意ある威圧、首を縦に振る以外の選択肢なんて何処にも無い。

 

 パナはにっこり微笑みながら、冒険者ギルドの職員によって運ばれていく襲撃者を見送っていた。街中で剣を抜き、罪無き女性に斬りかかったのだから、エ・レエブルの牢獄へ叩き込まれるのは間違いないだろう。ただ、なぜそのような凶行に走ったのかまでは分からないのだが……。

 

「アンちゃん、なんで襲われたか分かる? 知っている人?」

 

「たぶんですけど、森で襲ってきた冒険者の方ではないかと……。あの時は混乱していて、逃げた人が居るかどうかなんて確認もしていなかったのですけど」

 

「うん? 姉ちゃんに襲い掛かったって言う冒険者(くそやろう)の事? だったら手加減しないでぶっ殺しとくべきだったなぁ」

 

 物騒な返事を耳にしてパナも「そういえば……」と思い出すものの、今の今まですっかり忘れていたのだからそれほど重要な事でもないだろう。

 ヴァンパイア姉妹の素性を誤魔化せたのだから別に気にする事もあるまい。

 

「ああ、受付嬢さん。この子たちの冒険者登録をお願いしますね。こっちのお姉ちゃんがアン、そっちの妹ちゃんがマイだよ」

 

「登録……ですか?」

 

「ギルド長には話を通してあるから大丈夫だよ。さっきの見てたでしょ? この子達強いんだから」

 

 見た目の幼さに難色を示されるのはギルド長同様だが、実際に強さを見せているので話は早い。

 パナは『蒼の薔薇』にしてもらった時のように、ヴァンパイア姉妹を冒険者へと登録する。無論、字が書けなかったので――丸ごと全てお姉ちゃん任せになったが。

 

「あの、チーム名はどうされます?」

 

「んん? チーム名? う~ん、それは考えてなかったな~。どうしよう……」

 

 パナの頭に浮かんだ名称はもちろん『アインズ・ウール・ゴウン』であった。しかし使える訳がない。そんな資格は無いし、実力も、権限も無い。其の名を使うには、四十人の特別な許可が必要なのだ。という事はつまり、現状で使用できる者は一人も居ないのである。

 故にもし、この世界で大切なギルド名を使っている者が居たなら、それは虎の威を借る狐に間違いないだろう。強力で有名なアインズ・ウール・ゴウンの名を借りて、他のプレイヤーを威圧したいに違いない。

 パナとしては面白くない話だ。

 

「そんな奴が居たらこっそり忍び寄って暗殺してやろうか……、ってそんな事より私達のチーム名をどうするかだけど……、うむむ」

 

「あ、あの、チーム名に色を入れる方もいらっしゃいますよ。赤だったり青だったり……」

 

 受付嬢のフォローに、パナは自分の髪と姉妹の髪を見比べる。

 

「黒と栗色って、どうすればいいんだろ? んむむ~」

 

「でしたら、プレートが出来上がる明日まで考えてみては如何でしょう。明日受け取りに来られた時、受付で伝えて頂ければ登録できますよ。……プレートへの追加刻印に多少の時間はかかりますけど」

 

「うん、そうだね。ちょっと考えてみるよ」

 

 特に重要な事でもないし、時間があるときにでも考えればいいだろう――そんな事より買い物だ。『蒼の薔薇』に連れて行ってもらった街見物に於いては無一文であった為、店の前を通り過ぎる事しかできなかったが……今は違う。懐は温かいし金貨まである。

 目星を付けていた商店へ、いざ突撃である。

 

「アン、マイ! 好きなもの買ってあげるからね! もう素足の裸ローブなんて痴女っぽい恰好からはオサラバだよ!」

 

「ち、痴女は酷いです」

「好きでこんな格好してたんじゃねーよ」

 

 仮面の姉妹からは抗議の声が飛んでくるものの、ローブ一枚の恰好から卒業できることに関しては歓迎の姿勢だ。ヴァンパイアになって百年は経っている人外ではあるが、やはり元は村育ちの女の子。今時の街中ファッションを想像してか、仕草や表情に明るさが滲み出ていた――仮面で見えないから一部想像だが。

 

「よーし、買って買って買いまくるぞー!」

「「おぉー!」」

 

 何かに飢えていたようなパナは、仮面の姉妹を引き連れて冒険者ギルドを後にした。そんな姿を見送っていた受付嬢と近くに居た冒険者達は、ただ茫然とお互いの顔を見合わせて――今の娘達はなんなんだ? と答えのない疑問を呟く。

 一人は分かる。

 先日アダマンタイト級の推薦を受けて冒険者になった新米で、(アイアン)級から(ゴールド)級までの冒険者を叩きのめした田舎娘であろう。

 だが一緒に居た二人の仮面娘は何者なんだ? 突然白金(プラチナ)級冒険者に因縁を付けられ――たかと思えば返り討ち。仮面を外せば幼い少女で――しかも美しい。短い髪の方は少年のような喋り方ではあったが、それでも街中では目立つ美麗さであろう。

 だからこそ仮面を被っているのかもしれない。……却って目立っているようにも思うけど。

 

 パナと仮面姉妹は行く先々で疑惑と戸惑いの視線を向けられるが、特に気にする様子も無く買い物を楽しんだようだ。

 だけど――後になって長旅に必要な物品の購入を忘れていた事に気付き、慌てて冒険者ギルドへ戻って問い合わせをしたらしい。もちろん軽くなった革袋に残る銅貨では、まったくもって足りなかったそうだが……。

 こんな調子で大丈夫なのか? ――何処かの大墳墓からは、骸骨魔王様のため息が聞こえてきそうである。

 




おっ買い物♪
おっ買い物♪

異世界でも買い物は楽しいはずですよね!
しかも冒険の初報酬で購入するのですからね!

やっぱり食事とショッピングは異世界だろうと至高なのです!

とは言え、お金は計画的に使いましょう。

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