堕天使のちょこっとした冒険   作:コトリュウ

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ちょこっと顔を見せただけで有名になるフェン。
強くて賢くてカッコイイのに、原作では出番が少なくて可哀そう。
森から出て来て暴れたら国の一つや二つ潰せるのにね~。

まぁ、そんな事したら竜王が黙っていないだろうけど……。
もし竜王とやり合ったらフェンは勝てるのだろうか?
ツアーは無理かも?
でも他の竜王なら勝てそうな気が……。

う~ん、どっちにしろフェンがピンチになったら凄いのがやって来るから、気にするだけ無駄かもね。



殺戮-4

 エ・レエブルで発生した問題は一つの都市で解決できるものではない。人類を滅ぼせる神獣の出現に対して、王国の一都市に過ぎないエ・レエブルに何ができると言うのだろうか? いち早く情報を掴んだ冒険者ギルド長と、不在の領主に代わって責任者の立場にある副領主が不吉な顔を突き合わせても、解決策が浮かぶ訳は無いのだ。

 

「まず王都の冒険者ギルド長へ繋ぎを取り、其処から領主レエブン侯、そして国王様へ伝えて頂くしかありませんな」

 

「直接レエブン侯へ使いを出した方が早いのでは?」

 

「いえ、今の王都は情報戦争の只中と聞いております。レエブン侯からも重要な情報ほど、周囲に知られるような直接の接触は避けるよう厳命されているのです。それに王都のギルド長はレエブン侯の護衛である元オリハルコン級冒険者と逐次連絡を取り合っていますので、今回のような件では都合が良いかと……」

 

 領主であるレエブン侯より年配の副領主は、深い皺を更に深く刻み、冒険者ギルド長の疑問に答える。王都の内情に関しては副領主としても面倒な事この上ないと思っているのだが、レエブン侯の立場は日によって変化する為、足を引っ張るような行為をする訳にはいかないのだ。

 

「では直ぐに早馬を出すとしましょう。それと、トブの大森林は立入禁止と言うことで宜しいですな」

 

「それはそうですが……、信じられないほどの大魔獣が現れたという件は伏せておいたほうがよろしいでしょう。公表すればパニックが起きて街の機能が停止しかねない。森に近い農村民には悪いと思うのですが……」

 

「それは万が一の時、撒き餌となってエ・レエブルの住人が逃げ切れるだけの時間を稼いでもらいたい――と、そういう事ですか?」

 

 ギルド長は副領主を責めている訳では無い。ただの確認に過ぎないのだが、どことなく決断したのは貴方であり私ではない――と言っているようにも感じる。

 その行為は無意識の内に有る防衛本能のようなものであろうか? 誰だって見殺しの汚名は被りたくない。

 

「もちろんトブの大森林を監視し、狼煙や早馬の手配も整えます。避難計画に関してもすぐさま整えるつもりです。私だって王国民を見捨てるつもりはありませんからな」

 

 余人を排し、ギルド長との密談を行っていた副領主は、突然持ち込まれた危険すぎる案件に混乱しながらも――自分に出来る事は成し遂げようと心に誓う。

 ギルド長が集めた情報を羊皮紙にしたため、元アダマンタイト級冒険者の報告書と一緒に筒へしまう。その上でしっかりと蝋で封印し、領地の重要案件にしか用いない印を押す。

 これを王都の冒険者ギルド長へ直接渡せば、どれ程深刻な事態が巻き起こっているか理解してもらえるだろう。そしてすぐさまアダマンタイト級を呼び集め、エ・レエブルへやって来てくれることだろう。国王や貴族にも情報が回れば、多くの兵士が派遣されるかもしれない。戦士長だって駆けつけてくれるだろう。

 まだまだ希望はある。

 元アダマンタイト級で調査に赴いてくれた人物も、別の対策を模索してくれるとの事だ。期待し過ぎるのは良くないかもしれないが、少なくとも悪い話じゃない。

 

「よし、まずはこの情報を送り届けんといかんな」

 

「その通りです。……で、早馬の手配は?」

 

「私の甥が居る。腕も立つから問題は無かろう。さて――」

 

 副領主の指示により十代後半の青年が呼ばれ、最高機密で満たされた通信筒が渡された。

――王都の冒険者ギルド長に直接手渡すべしという命令と共に。

 

 

 エ・レエブルの商店で人外三人娘が買い物に精を出していた頃、北門から二頭の馬と一人の兵士が王都へ向かって飛び出していた。

 王都までの街道は比較的安全で、野党やモンスターが出たという話は此処最近聞いた事が無い。よって予備の馬に乗り換えながら休憩も睡眠も無しに突き進めば、驚くべき速さで王都の門まで辿り着けるだろう。

 エ・レエブルの紋章を見せれば検査の列に並ぶ必要も無い。

 冒険者ギルドの本部は直ぐ其処だ。

 問題は何もない――はずだった……。

 

 

 

「――ヒルマ様、少し宜しいでしょうか?」

 

 王都に存在する豪華な屋敷のとある一室で、執事風の恰好をした厳つい中年男性が、自らの主に声を掛けていた。

 

「どうかしたの? 会合まではまだ時間があると思ったけど……」

 

 手にしていた羊皮紙から視線を外し、部下からの声に答えたその者は、胸元と蛇の刺青を露わにした色気のある白い女性であった。年齢からすると肌を見せる衣装が似合わなくなりそうな頃合いかと思われるかもしれないが、その女性――王都の犯罪者集団八本指麻薬取引部門長ヒルマ・シュグネウス――の全身からは男を惑わすオーラが放たれ、まだまだ現役であることを仄めかしている。

 

「はっ、先程一人の男が訪ねてまいりまして……、なんでも王国上層部に伝えるべき重要情報を持ってきたとの事です。念の為確認しましたが、本物のエ・レエブル印章で封がされた通信筒を所持しておりました。――如何致しましょう?」

 

「ふ~ん、何だか面白そうじゃない。いいわ、連れて来てちょうだい」

 

 ヒルマは暇つぶしの余興とでも思ったのだろう。王都の裏を仕切る自分達に取り入ろうと、新参者が土産を持ってくるのはよくある話だ。そしてほとんどの土産がクズである事もよくある話なのである。

 

「あ、あのっ、この度は拝謁賜りまして誠に有難う御座います! 私はエ・レエブルの――」

「あぁイイわ、貴方の事より情報が先よ。何を持ってきたって言うの?」

 

 ヒルマは面倒臭そうに青年の挨拶を遮ると、本題へ入るよう促した。

 

「は、はい! エ・レエブルの副領主様と冒険者ギルド長が連名で書き記した緊急通信で御座います。王都の冒険者ギルド長へ直接手渡すよう厳命されたモノであります!」

 

 緊張の言葉と共に差し出された筒は無駄に豪華であり、蝋により封印が成されたものであった。印章の格からすると、一般人が勝手に開けた場合処刑されるレベルであろう。

 とは言え、ヒルマは部下が手元まで運んできた通信筒を無造作に引き開ける。

 

「何が書いてあるのかしらねぇ。……んん、……はぁ? トブの大森林に化け物? 人類の危機? なによこれ? 吟遊詩人にネタでも提供するつもり? 手が込んでいる冗談ね~」

 

「い、いえ、そんなっ。トブの大森林で問題が発生したのは事実かと思われます。森で白金(プラチナ)級冒険者チームが壊滅したのは確かで御座います。う、噂では元アダマンタイト級の老人が調査に赴いたとか――」

 

「あ~はいはい、分かったわよ。それで……、貴方はこの情報と引き換えに何を求めるの? お金? それとも……」

 

 暇つぶしは終わり、とでも言うかのようにヒルマは話を切り上げようとする。期待していたほどの――いや、期待などしていなかったが思った以上につまらない内容だったという事なのだろう。

 

「はい、あの、出来れば少し『黒粉』を分けてもらえないかと……思いまして……その」

 

「ふ~ん、そっちなのねぇ。まぁいいわ、下で受け取りなさい。――っとその前に一つイイかしら?」

 

「は、はい、何でもお聞き下さい」

 

 報酬を貰えると聞いて青年はホッとしたのだろう、口調が少しだけ軽い。王都に急ぎの使者として送り出され、其の途中で「この情報は売れる」と思いつき、心震わせながらも此の場へと赴いたのだ。前から手を出していた麻薬が何故かエ・レエブルで入手し辛くなった為、この機会を逃すまいと奮起した結果である。

 

「えっとぉ、この通信筒以外に何か連絡事項の手紙でも有ったのかしら? そんな記載があったけど……そっちは?」

 

「えっ、はい、手紙の方はエ・レエブルから王都へ移籍する冒険者の情報が書いてあっただけです。低級ばかりの名簿でしたし、通常の連絡事項だったので王都の冒険者ギルド長へ渡してしまいましたが……」

 

 少し不安そうな声を出す青年であったが、ヒルマは特に興味があった訳でもなさそうだ。「あっそう」と素っ気ない態度で手を振り、青年に下がるよう促す。

 

「し、失礼します」

 

 急いで帰って行く若い男の後ろ姿を見つめ、ヒルマはため息を漏らす。無駄な時間を過ごしたとでも言いたいのであろうか。

 

「宜しいのですか?」

 

 部下の一人から不穏な言葉が漏れる。もちろん、あの男を殺さなくても宜しいのでしょうか? という意味だ。

 

「構わないわ。あの子は手紙だけをギルド長に手渡したことで、通信筒も渡したかのように装ったのよ。王都のギルド長が通信筒を受け取っていないと言っても、エ・レエブル側は情報をもみ消されたと捉えるでしょう。中々小賢しい坊やだわ。まぁ、次は面白いモノを持ってきて欲しいけどね」

 

「では、今回の情報に関してはどのように動きましょうか?」

 

「別に気にする必要はないわ。どうせエ・レエブル側が予算を寄こせと言っているのでしょう。トブの大森林で脅威が発生したと騒いで、王国の金と兵をエ・レエブルへ流したいのよ。あそこの冒険者ギルドは結構厳しいらしいからね~。王国から森の調査依頼を出してもらって稼ぎたい、って腹でしょ」

 

 くだらない――そんな呟きを漏らし、ヒルマは手にした羊皮紙を投げ捨てた。そして代わりに先程まで目を通していた羊皮紙へと視線を戻す。

 其処に書かれていたのは『黒粉』を扱っていた売人達の失踪に関する情報だ。中にはエ・レエブルで動いていた者の名もある。

 

「少しは関係のある話かと思ったのに……」

 

 売人が数名逃げ出した――もしくは何者かに殺されたという件は、確かに眉をひそめる内容ではあるが、問題と言うほどでもない。

 売人がトラブルに巻き込まれるのは日常茶飯事であろう。

 手にした麻薬の価値に気付いて、自分のモノにしようと裏切る手合いも珍しくは無い。

 

「ふん、今は帝国への密輸も順調なんだから裏切る必要もないのに……先が見えないなんて馬鹿な奴らだわ」

 

 ヒルマは敵対勢力の仕業だとは考えていなかった。今の王国内に於いて、八本指と敵対しようなんて輩が居るとは思い付きもしなかったのだ。

 そう――何処かの正義の味方が、手を回していた冒険者ギルドを通しもしないで動いていようとは……。

 

 

 ◆

 

 

「おおーー! めっちゃデッカいんですけどーー!! 王都すごーーい!」

 

「あ、あのパナさん、恥ずかしいんですけど……」

 

「姉ちゃん姉ちゃん! すっごい人だよ! 祭りでもあんのかってぐらい人いっぱい! こんなに人が多いと飯とかどうすんだろーね!」

 

「えっと、マ、マイ? 周りの人が見てるから大声出さないで……」

 

 王都リ・エスティーゼの巨大な南門に居たのは、何処からどう見ても田舎者三人組であった。比較的小奇麗な格好はしているものの、奇妙な仮面や黒いローブを着込んでいることからして、かなりの辺境からやって来たのではないだろうか。

 キョロキョロ辺りを見回す先頭の娘からして、王都のような大きな街へやって来たのは初めてなのだろう。ただ首元に(カッパー)のプレートが舞っている事からすると、別の街で冒険者として働いていたようにも見えるが……。

 

「アンは真面目だなぁ、そんな頭硬い子ちゃんだと美人が台無しだよ」

 

「仮面被っているので関係ないと思います――ってさっき衛兵の人達にも騒ぎを起こさないよう言われていたでしょ? それに恥ずかしいから大人しくして下さい」

 

「姉ちゃんは気にし過ぎだと思うよ。アタイ達の事なんて誰も気にしてないって、こんなに人が多いんだからさ」

 

 困った観光客二人に説教する観光ガイドのような光景であったが、確かにマイが言うように周囲の住人が興味の視線を向けてきたのは一瞬だ。その後は、田舎からやって来た冒険者なんぞ珍しくもない――と言うかのように無関心である。

 

 パナ達三名はエ・レエブルで買い物を済ませた翌日、冒険者ギルドでプレートを受け取り、自分たちのチーム名『堕天』を追加登録し、プレートへも刻んでもらった。

 お蔭で出発が昼過ぎになってしまったが、堕天使とヴァンパイアの身体能力の前には何の問題もない。馬車や馬の手配などする事無く――お金が無いので出来なかっただけだが――そのまま走って王都へと向かったのだ。

 途中、ふらふらしながら馬に乗る青年とすれ違ったが、特にトラブルもなく王都へと辿り着くことが出来た。そして衛兵達に顔を見せ、プレートを見せ、巨大な門を潜ったという訳である。

 

「さぁ~てっと、冒険者ギルドで移籍登録をしないといけないんだっけ?」

 

「はい、一応本拠を変更する場合は、その地のギルドへ顔を出す必要があるらしいですね」

 

「あっちで登録、こっちで登録……って面倒臭いね~。んで例の凄い人達には其処で会えるのかな?」

 

 マイが気にしている相手は『蒼の薔薇』であろう。

 パナにとっては既知の相手だが、ヴァンパイア姉妹にとっては見知らぬ強力な冒険者だ。知らぬ内に警戒してしまうのも仕方がないと言えるだろう。

 

「大丈夫だよ、マイちゃん。あの人達なら正体がバレても問題無し。その理由は後で分かるから今聞かないでよ~。本人に聞いてからでないと教える訳にはいかないからね~」

 

「あの~」

 

「ん? なにアンちゃん?」

 

 いえ、何でもないです――そのように呟いたアンは、パナの言動で『蒼の薔薇』が何を抱えているのか想像がついてしまった。

 恐らく居るのだろう、秘密を持った何者かが……。ヴァンパイアの姉妹を見ても驚かない、そんな特殊な人物が……。

 

「――えっ? 何だろ? 何か聞こえる、これって悲鳴?」

 

 パナの笑顔が一瞬で消え、遠くに視線が向けられる。

 特に意味もなく、と言うかいつもの癖で周囲を一通り探ってみたところ不穏な声を拾ったようだ。それは女性の悲鳴であり、命の危機を叫ぶ懇願であった。

 

「アン、マイ! ちょっと寄り道するよ。付いてきて!」

 

「えっ、はい!」

「なになに? 何かあったの?」

 

 周囲の人間達から不審に思われないよう、パナは常識的な速さで目的の場所へと走る。ヴァンパイア姉妹には何が起こっているのかさっぱり分からなかったが、とにかくパナの後に続いて人気の少ない、建物が乱雑に建てられたが故に薄暗くなっている街中へと足を進めていた。

 その間にも、パナの耳には現場での物音が逐次聞こえているようだ――あまり聞きたくはない腐敗臭のする男達の声が……。

 

『ちっ、面倒くせー事になっちまったな。どうすんだコレ?』

『俺の所為じゃねーぞ。お前らが力入れ過ぎなんだよ!』

『今夜はスタッファンの野郎が来るんじゃねーの? 相手どうすんだよ?』

『死んでしまったものは仕方がないだろ。今回で二度目の脱走なんだから、コッコドール様も文句は言ってこないだろうよ』

『代わりならツアレの奴を使えばいーじゃねーか。まだ大丈夫だろ? アイツなら』

『ははっ、酒場で妹を見かけたって言えば後一年は頑張るんじゃねーか? 無理だろうけどよ』

『言えてる~、んじゃ代わりはアイツで決ま――ん? なんだテメェは?」

 

 石畳ではない地肌むき出しの裏道、崩れそうなボロ家屋が並ぶスラム街、道端には嫌な匂いを発するゴミの山が築かれ、物乞い達が道行く奇妙な三人娘に力の無い視線を向ける。

 パナ達が辿り着いた路地裏には、チンピラらしき四人の男と、地べたに顔を突っ込んだままピクリとも動かない半裸の女性が居た。

 

「聞こえねーのか、其処の女! 何しに……あん? プレート? ちっ、冒険者かよ。面倒な奴が来たな」

「ああ、たまにいるんだよな~。田舎から出てきて自分を正義の味方だと思う奴がよ。相手にするのも疲れるぜ」

「おい、冒険者。此処はお前等が来るような場所じゃねーだろ? さっさと帰んな」

 

 男達の言い分にアンとマイは気分を害するも、全身を殴打された女性がうつ伏せで倒れている――恐らく殺されたであろう此の場に於いては、とっとと立ち去るのが賢明と思われた。

 君子危うきに近寄らず、だ。

 しかしパナは黙ったまま、薄暗い路地裏で命を落とした一人の若い女性を見つめている。

 この時、パナの脳裏に浮かんだのは女性に対する哀れみではない。人間の女性が何処で死んでいようがパナにとってはどうでも良い事だ。殺したであろう男達についても、特に思うところは無い。

 ただ……パナは思い出していたのだ。己の人生を左右したあの時の事を。

 

 ――雇用契約は結ばない――

 

 

 




色んな人が登場してきました王都編。
セバスの奥方様も名前だけ登場です。
この女性は、これから更に酷い目に遭うのでしょうね~。
スタッファン許すまじ!

つーかセバス様は何処ー?!
早く来てー!
ついでに堕天使も捕縛しちゃってよー!

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