堕天使のちょこっとした冒険   作:コトリュウ

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アインズ・ウール・ゴウンとの決戦!
はたしてその結末は?



スパイ-3

 ギルドメンバー数が二百五十名を超える、とは言ってもアクティブなメンバーはその内の百人程度でしかない。しかしその百人は全て、レベルカンストのプレイヤー達だ。

 ガチビルドかドリームビルドかの違いはあるものの、伝説級(レジェンド)装備以上で身を固めたその集団は無視できない巨大な戦力である。

 パナップが情報――今までの集大成ともなる一世一代の大仕事――を持ち込んだのは、そんな中堅上位ギルドの一つであった。

 

「やるのかやらないのか、ハッキリして下さい。期限が迫っているのです……どうします?」

 

「ち、ちょっと待てって、人数なら大丈夫だよ。ただ……マジでアインズ・ウール・ゴウンをぶっ潰せるのかよ、冗談じゃねーよな」

 

 声も武者震いというものを起こすのであろうか。

 パナップの前で興奮と動揺を絡ませたような声を上げるギルド長は、手にした情報の価値に何を言うべきか、自分でも分からない様子である。

 

 此処はプレイヤーがあまり訪れない低レベル帯の町。そんな建物の薄暗い一室。

 まるで他からの干渉を避けるかのように、二人のプレイヤーは声を潜ませつつ巨大な陰謀を膨らませていた。

 

「考えた事はあるんだよ、俺達の動員出来る全メンバーで攻め込めば勝てるんじゃないかって……。だけど百人程度の攻略組が壊滅するのを何度も見てきたし、やっぱり無理なのかな~って思ってたんだ」

 

「壊滅したのは情報不足が原因ですよ。三階層までのデストラップで人数を減らされ、迷路に手間取っている間に挟撃され、気が付けば回復アイテムを含む持ち込み品をごっそり消費している。そんな状況で、最下層の七階まで行けるなんて考える訳がない。でも貴方達は違う、そうでしょう?」

 

 バンっと各種データを置いたテーブルを叩き――ダメージゼロの表示がポップするのを尻目に――パナップは一気に勝負をかける。

 

「もはやアインズ・ウール・ゴウンのハッタリは通用しない。四階層まで抜ければ勝利は確実。しかも三階層までの情報はここにあり、ギルドメンバーの多くは私用でインしてこない。負ける要素は皆無です!」

 

 持ち込んだ情報を一つ一つ解説し、勧誘というか説得が一時間にも及んだ頃、パナップはついに辿り着いた。

 目の前に座るギルド長の英断に……。

 アインズ・ウール・ゴウンの破滅に……。

 

「よっしゃ! さっそくメンバーを集めて作戦会議だ! ユグドラシルに伝説を残してやる」

 

「言っておきますけど、相手に気付かれぬよう準備には注意を払って下さいね。情報が洩れて警戒されるなんて――笑えませんよ」

 

 何事も最後が肝心だ。

 相手方にはぷにっと萌えとかいう頭の切れる奴――私自身は逃げ回って一度も会っていない――が居るそうだから注意には注意を重ねなくてはいけない。

 そう、あと三日の辛抱だ。

 骸骨も鳥野郎も、ワールドチャンピオンもピンクの肉棒も、何が起こったのか知り得た時にはもう遅い。

 私の勝ちだ。

 

 

 ◆

 

 

 日曜日の午前零時。

 ナザリック地下大墳墓の入り口付近は、いつもとは違う緊張と喧噪に包まれていた。

 総数九十八名。全てがレベル百のプレイヤーである。

 

「うっわー、緊急集合って此処を攻める為かよ。本気なのか、リーダー」

「沼地に入ってカエル野郎をぶっ潰していた時から薄々感付いてはいたけどなぁ~、帰っていいかな?」

「前回壊滅したギルドの話聞いてないのかよ! 今の俺達と同じ程度の戦力だったんだぜ!」

「おいおい、リーダー。遊べるかと思って来たけど、デスペナ喰らうのは洒落になんねーんだけど」

 

「待てって、皆ちょっと聞けって! 今から配布するマップデータをよく見ろ。これでも勝ち目ねーと思うのか? なぁ、どうだ!」

 

 情報漏えいを防ぐ為とは言え、ほとんどのギルドメンバーは目的を知らされていなかったようだ。一部で始まった動揺の波が広がりを見せている。

 ギルド長としては彼方此方から上がる不満の声を制しつつ、自身のゲームプレイ始まって以来の強大な手札を切るしかない。

 迷路の抜け道とトラップ配置――ナザリック地下大墳墓の秘匿データだ。

 

「なんだコレ、マジもん?」

「アインズ・ウール・ゴウンのギルメンから情報を買ったって事か?」

「いや、売るか? 普通」

「でも、これってスゲー詳細に書き込まれているよ。迷路も本物っぽい」

「セーフティーゾーンってなんだよ、マジうける」

 

 少しずつ空気が変わり始める。

 不満や緊張、そして動揺が蔓延っていた後ろ向きの姿勢から、余裕と笑いが飛び交う前向きの攻勢へと……。

 ギルド長は先頭に立ち、これからの行動が嘘でも冗談でもない本気の拠点攻略であることを宣言する。

 

「いいかお前ら、重要なのは三階層までだ。其処から先は何の障害もねぇ、突き進んでギルド武器を破壊するだけだ。ナザリック地下大墳墓は今日、俺達の手によって崩壊する。……よし、行くぞ!」

 

 戸惑いの波は完全に収まっていないものの、ギルドの幹部まで拠点内へ入っていくとなると立ち止まっている訳にもいかない。

 魔法とスキルのショートカット、装備や回復アイテムの確認をすると互いに頷き合う。大変な日曜になりそうだと……。

 

 攻略は拍子抜けという言葉が一番合っている様相となった。

 進むべき道が分かっている迷路ほど退屈なものはない。設置場所が分かっているトラップも同様である。

 ただ進み、所定の行動を行い――また進む。

 途中、自動ポップするアンデッドが纏わりついて邪魔だったが、低レベルの為作業のように刈り取るだけだ。

 

「おお~、ここが地底湖か、思ったより早く着いたな。……しかしなぁ、三階層に居るっていう防衛用NPCは何処だ? おい、お前ら見掛けたか?」

 

「んにゃリーダー、見てねーな。例のヴァンパイアだろ? 出来れば戦ってみたかったなぁ」

「言えてる、スゲー可愛いらしいぜ。外装がオリジナルで一見の価値アリってサイトに載ってたな」

「でもなんで居ねーんだ? いくらなんでも擦れ違ったって事はねーだろ。勝ち目が薄いから引き揚げさせたのか?」

「おいおい、引き揚げてどーすんだよ。拠点が壊滅したらどっちにしろ終わりだろーが」

「どーでもいいよ、んな事よりヴァンパイアのスクショ持っている奴いねーのかぁ。見せてくれ~」

 

 百人近くのプレイヤーがたむろしていると、ちょっとした事で五月蠅くなる。

 リーダーとしては順調過ぎる道のりと姿を見せないNPC、そしてアインズ・ウール・ゴウンのメンバー達の静寂ぶりに不安ばかりが募ってしまうのだが……。

 初侵入を果たした第四階層で喜ぶべきにも拘らず、目の前に広がる地底湖の深さ以上に嫌な予感しかしない。

 

「本当なら此処で休憩する予定だったが、まぁいいだろ。――良し、先に進むぞ!」

 

「「「おおー!」」」

 

 もはやピクニック気分と言えるのかもしれない。

 リーダーの不安を余所に、ギルドメンバー達はかなりのリラックス状態だ。侵入を始めた頃の緊張感が嘘みたいである。

 

「ん? なんか聞こえないか? 地震?」

 

 盗賊か狩人の職業スキルでも持っていたのか、メンバーの誰かが呟いた。無論、それが開始の合図という訳ではなかったのかもしれないが、後から考えればこの瞬間こそが始まりであったのだろう。

 湖面から巨大な手が――鉱石で形成されたと一目で分かるような硬質の物体が――飛び出てきたのだ。

 

「は? あぶっ!!」

 

 誰かは一目見て、他の誰かは自分に何が起こったのか理解する事もなく――巨大な鉱石の手によって押し潰された。

 激しい爆音と振動、悲鳴とダメージエフェクトが飛び交い、死亡を示す光の粒子が舞い散る。

 幾人かは即時蘇生のアイテムを所持していたのだろう、ゴーレムの太い指の間から頭を突き出し、事態の把握に努めようとしていた。

 

「うおおお!! なんじゃこりゃ! ゴーレむぎゃ――」

 

 最初の手が右手なら、次に叫び声をあげたプレイヤー達十数名を潰したのは左手なのだろう。

 あまりに無造作な鉱物の押し潰しに対し、百レベルプレーヤーが成す術無く光の粒子へと変えられていく。

 これはトラップ? それともNPCなのか?

 考えるよりも先に答えは湖面から姿を現した。巨大過ぎる右足で侵入者を叩き砕き、勢い余って湖面に大波を作り出す。

 

「みんな下がれ!! 三階へ退け! 回復班、蘇生急げ!」

 

「体力が七割ぶっ飛んだぞ! なんだよこれ、レイドボスかよ! ふざけんな!」

「やべえぞ、魔法詠唱者(マジック・キャスター)が半分脱落だ。まともに喰らったら前衛でも危ねぇ!」

「そこどけよ! 三階へ行けねーだろ!!」

「治癒魔法まだか?! 早くしろよ!」

「うっせーよ! アイテム使え!」

 

 混乱に這い回る侵入者達が目にしたその巨体は、地底湖から這い出てきたゴーレムであった。

 全長は三十メートルもあろうか――全身が鉱石のような物質で構築され、体内からは赤い光を心臓の鼓動のように発している。

 ただ……その巨体は湖底から這い上がってきただけで、不安定な前かがみの体勢を維持したままピクリとも動かない。まぁ、後ろに下がろうと必死な侵入者達には分からないようだが……。

 

「お~っとっと、こっちは行き止まりだよ~。んじゃシャルティア、『排除』よろしく」

 

 侵入者達が殺到しようとしていた第三階層へ続く転移門には、何時の間にやら大弓を引き絞った鳥人間と真っ赤な鎧のヴァンパイア、そして真っ白な鎧のヴァンパイアがいた。

 ヴァンパイア二体の姿はまるで双子のようで、手にしたドでかいスポイトのような槍もソックリである。

 

「出やがった、ペロロンチーノだ! 属性攻撃が来るぞ! タンク何処だ? 早く射線を遮れ!」

「やばいぞ! 此処には障害物が何もねえ! イイ的だ!」

「誰だよヴァンパイアが一体だって言ったのは! 二体いるじゃねーか」

「ちょっと待て! 水の中に何かいるぞ!」

 

 ペロロンチーノの属性爆撃、シャルティア及び分身の突進、そして水の中からはヘドロのような漆黒の粘体が現れ、傍にいた全身鎧の戦士がスッポリと包まれた。

 まるで美味しく食べるかのように――

 

神器級(ゴッズ)全身鎧うまーです。しっかり溶かしますよー。暴れないで下さいね~」

 

 ただひたすら装備を破壊する為だけに特化した嫌がらせの塊。

 飛び出てきたヘロヘロは、ありったけのスキルと課金アイテムまで使用して、プレイヤーの入手できる最高峰とも言うべき神器級(ゴッズ)を喰い荒らす。

 相手プレイヤーが全くダメージを受けていないのにも拘わらず必死にもがくその有様は、まるで日頃の鬱憤を晴らす為の生贄にでもされたかのようだ。

 

「えげつないですね~、ヘロヘロさんは。……見てるこっちがゾッとしますよ」

 

「モモンガさんの装備だと、目も当てられない有様になるでしょうね~。おっと茶釜さんも参戦したようですよ」

 

「相変わらず鉄壁ですねぇ。……それにしてもぷにっとさんの言う通り、ガルガンチュアの起動に侵入者を巻き込むとしっかりダメージが入るんですね」

 

「事故扱いなのかもしれません。ですけどガルガンチュアの一撃はレイドボス並みですから、今回のように完全起動一歩手前でぶつければ百レベルだろうと粉砕できます」

 

「動きが遅い上に手足をつく場所が決まっているから、初見限定ですけどね~」

 

 巨大なゴーレムの後頭部からひょこっと姿を見せるのは、ギルド長のモモンガと今回の作戦を立てたぷにっと萌えだ。

 眼下でピンクの肉棒が鳥人間の盾となるよう立ち回っている――を覗き見ながら、のんびりと雑談を交わしていた。

 

「二人とも緊張感が有りませんね。さっさと次の段階へ移行したいのですけど、いいですか?」

 

「あ、はい。茶釜さん達が注意を引いてくれている間にやってしまいましょう、ウルベルトさん」

 

 ゴーレムの背後にはまだまだアインズ・ウール・ゴウンのメンバーが控えていたようだ。

 ウルベルトにタブラ、朱雀にホワイトブリム等々……十名以上が姿を見せる。

 

「では――アインズ・ウール・ゴウン必殺奥義『十属十連撃』開始!!」

 

 ウルベルトの掛け声を合図に――その恥ずかしい名前止めてくれ、と思っているメンバーらを含め――総勢十名が第十位階魔法を最強化で起動させた。

 狙いは茶釜やヘロヘロ、シャルティア達と戯れている侵入者一行。

 様々な属性を持つ第十位階の広範囲魔法を、同時ではなく連撃で放つ。これは即時蘇生アイテムを連撃の合間に使用させる為だ。

 同時の攻撃ではどんなに強力であっても、蘇生アイテムで復活されてしまう。

 しかし、少し間の空いた連撃であるならば途中で蘇生した後も連撃の餌食と出来、アイテムの再使用時間(リキャストタイム)が終了する前に二度目の殺害が可能となる。

 ウルベルトが考案した拠点防衛用の皆殺し魔法コンボだ。

 

「シャレんなんねーぞ! こっちも撃ち返せ!!」

 

 課金で入手するような回復用レアアイテムをその身に使用し、リーダーは必死の立て直しを図る。

 まだ五十人以上いるのだから何とかなる――そう自分に言い聞かせているのかもしれない。

 だが……仲間達から放たれた魔法や弓による強烈な反撃は、ゴーレムの背後に隠れてしまったアインズ・ウール・ゴウンのメンバーには一発も届かなかった。

 

「ふ~、ガルガンチュアは盾としても優秀ですねぇ。使用できるのが攻城戦だけっていうのは勿体ないですよ」

 

「強欲なギルド長ですね。ガルガンチュアを使って世界征服でも始める気ですか?」

 

「やめて下さいよ、るし★ふぁーさんじゃあるまいし……」

 

 ぷにっと萌えのからかいに思わず反応してしまったが、モモンガは「やばい! フラグを立ててしまったか?」と嫌な思いに囚われ言葉に詰まる。

 そう――るし★ふぁーはログインしているにも拘らず、何処かをほっつき歩いているのだ。となると間違いなく、乱入の準備を整えているに違いない。

 侵入者達との拠点防衛戦。

 あの問題児が、こんなイベントに顔を出さないはずがないのだ。

 

「ああ、嫌な予感が――」

 

「――うひゃっはー! モモちゃん呼んだ?! そうですワタスが変なるし★ふぁーです、ってなわけで助っ人連れてきたぜ! 黒光りの最強昆虫、恐怖公だー!!」

 

 ガルガンチュアの頭に立つモモンガの正面、侵入者の頭上にあたる上空――そこに黒い物体を抱えたるし★ふぁーは現れた。

 そして奴はコマンドを唱える……『眷属召喚』と。

 

「ぎゃややあああああ!! なんじゃこりゃー!!」

「な、なんだよこれ?! リアル過ぎだろ!」

「ちょっと待てって! 俺、虫駄目なんだよ! 吐くから、吐いちゃうから!」

「皆、慌てんな! ただの虫だ、一発で殺せる!」

「なら早く殺ってくれよ! 気色わりーんだよ!!」

 

 頭の上から大量に落とされた黒い虫に、響き渡る叫び声。

 数千匹は居るであろうその黒虫は、落とされた後も動き難い水中から逃れようと、必死になって近くにある物体によじ登る。

 もちろんその物体は地底湖に腰まで浸かった侵入者達なのだが……。

 

「まったく誰なんですか、そのリアル過ぎる外装と行動AIを組み込んだのは? るし★ふぁーさん、貴方ですか?」

 

「モモガーちゃん、濡れ衣マジ勘弁。ヘロっちかウルっちがやったに決まってる、うん、そうに違いない、絶対そうだ」

 

「ウルっち言うな。……え~そんな事より、さっさと終わらせないと建さんと弐式さんが皆殺しにしてしまいますよ。俺達の出番が無くなります」

 

 気が付けば黒虫乱れ飛ぶ戦場において、一人の巨人と一人の忍者が一方的虐殺を始めていた。ちなみにぶくぶく茶釜は避難している。

 

「そうですね、っとその前に。……ヘロヘロさん、そろそろお時間ですよ~」

 

「おおー、神器級(ゴッズ)装備を破壊するのは久しぶりだから夢中になってしまいましたよ。どもーです、モモンガさん。今日はこの辺で失礼します」

 

【ヘロヘロはログアウトしました】

 

 左腕に表示される時間を確認しながら、メンバーのスケジュールを管理するギルド長。

 誰が何時からログイン出来、誰が何時ログアウトしなければならないのか――モモンガは全てのメンバーが全力で楽しめるよう配慮に配慮を重ねていた。

 

「それでは真打も登場する頃ですし、殲滅と行きましょうか」

 

 モモンガが一歩を踏み出すのと同時に、とあるメッセージが流れる。

 視界の端でウルベルトが首を振ったように見えたが、いつもの事なのでギルド長としては見ない振りをするしかない。

 

【たっち・みーがログインしました】

 

「――遅れて申し訳ない。十五分だけだが参加させてもらいます」

 

「問題ないですよ。睡眠も家族サービスも大事ですからね、たっちさん」

 

「そうそう、別に来なくても問題ないです。残りは二十人程度、五分もかかりませんよ」

 

 言うが早いか、ウルベルトは飛行(フライ)の魔法をかけてもらっているたっち・みーを余所に飛び出していった。

 後方に控えていたぷにっと萌えは蔦の両手を大げさに広げ、やれやれと言わんばかりに後を追いかける。アインズ・ウール・ゴウンの見慣れた光景ではあるものの、ギルド長としては微笑ましいやら頭が痛いやら……。

 

「ま、まぁ、確かに、たっちさんが参戦すると五分で全滅させてしまうでしょうね」

 

「では期待に応えなくてはなりませんね」

 

 何やらスイッチが入ったようで怖い。

 先に突撃したウルベルトが好き勝手に爆発を起こしているので、触発されてしまったのであろうか?

 ちなみに黒虫は恐怖公の眷属なので、同士討ち(フレンドリィ・ファイア)禁止のシステムによりダメージを受けることなく元気に蠢いている。

 るし★ふぁーは何時の間にか居なくなっていたが。

 

「ごほん……さあ、アインズ・ウール・ゴウンの仲間達よ! ナザリックに侵入した愚か者達を皆殺しにするぞ!」

 

 全てが予定通りに進んだ事で、モモンガは最後の締めとばかりに魔王ロールで号令をかけた。

 彼方此方から気勢が上がり、魔法詠唱者(マジック・キャスター)の護衛も兼ねて様子見をしていた、やまいこ達最終メンバーが動き出す。

 もはや後始末でもするかのような足取りだ。

 いや――やまいことしては黒虫飛び交う戦場に踏み込みたくない、という思いもあるのだろう。醜悪な見た目の巨人でありながらも、流石に黒虫はどうしようもないようだ。

 

「くっそ、どうにかして鳥野郎を退かせろ! 三階に逃げるんだ!」

 

「うるせーよ! 俺の神器級(ゴッズ)がボロボロだ! どーしてくれんだよ!」

「先に茶釜を何とかしろよ! 行くにいけねーだろが!」

「絶対勝てるんじゃなかったのか?! フル装備で来たのにこのままじゃ――」

「こんな事になるならいつも通り予備の武装を持ってきたのに!」

 

 侵入組は既に統率を無くしていた。

 リーダーの指示に耳を傾ける者は皆無で、ただ努力と課金の結晶である装備品を守ろうと必死に足掻くばかり……。

 愚かな行為である。

 全ては無駄なのに。

 

次元断切(ワールドブレイク)!」

 

 気合一閃、侵入組のリーダーは空間ごと真っ二つにされ、そのまま倒れ込む。即時蘇生のアイテムは使用済みであったのだろう――リーダーに復活の気配はなく、無言で佇むボロボロの仲間達からも蘇生魔法が飛ぶ事は無い。

 MPが足らないのか、信仰系魔法詠唱者(マジック・キャスター)が居ないのか、再詠唱時間(リキャストタイム)の問題か。

 

「止めは貰ったー!!」

 

 ウルベルトの嬉しそうな掛け声と共に第四階層は光で包まれた。最強である魔法詠唱者(マジック・キャスター)の一撃を受け止めきれる者はもう居ない。

 この瞬間――侵入者九十八名の全滅が確定した。加えて多くのドロップアイテムと経験値がその場に残される事となる。

 

 喧噪が去った地底湖において、巨大ゴーレムの頭に乗っかったままのモモンガは、棘や鉤爪が生えた悪魔のようなガントレットを戦場に翳していた。

 その姿は死した侵入者達の残滓を集めている光景であり、死よりも恐ろしい苦痛を与えんとしているかのように見える。

 

 骸骨の顔と豪華なローブ、天使と悪魔のガントレット、さらに武器を振るう異形種軍団の頭上で魂でも集めんとしているモモンガの行為は、誰の仕業か分からないもののしっかりと動画に収められ、外部に出回る事となった。

 ちなみに――るし★ふぁーがその時何をしていたのかは誰も知らない。

 




結果は予想通り?
まぁ、この後も一騒動ありますけどね。


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