堕天使のちょこっとした冒険   作:コトリュウ

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堕天使のその後でございます。

はてさて……、なにやってんでしょうねぇ、コイツは。
アインズ様に胃薬を献上したくなる今日この頃です。



エピローグ

 

 パナップのナザリック生活は比較的平和なモノであった。

 念には念を入れてアルベドと二人っきりにならないよう――積極的に外へ出ることとしていたので、以前のような引き籠り堕天使にならずに済んだのだ。

 アンとマイのヴァンパイア姉妹を連れてカルネ村へ農業体験に行ったり、カッツェ平野でレベリングをしてみたり、バハルス皇帝の寝所へ忍び込んで金目のモノをあさったり……。

 まぁ、健康的な堕天使であったようなそうでないような日々だった、のだが――。

 

 

 

 

 ●ある日のこと――

 

「あれ? ラキュースさんとイビルアイ? 久しぶり~、元気してた?」

「えっ?! パ、パナさん?」

「お前! 何呑気に歩いてんだっ! 賞金首になっていることを知らないのか?!」

「大丈夫だよ~。私は今、モモンガさんと合流してナザリックで暮らしているの。一人を除けば安全な場所だし、今も護衛がいっぱいいるんだよ~」

「以前言っておられた仲間の方と合流できたのですね。それは良かったのですが……」

「ちょっと待て、モモンガとは――確か探している仲間の名前だったよな。ん? モモン……ガ、だと?」

「ああ、今はアインズって名乗っているけど――いや、魔導王って言った方が分かり易いのかな?」

「パナさん……。貴方は、何を……言っているのですか?」

「モモンガがアインズで魔導王だと? いやそれより、モモンガという人物は『漆黒の英雄』モモン様と何か関係があるのか?」

「そういえば冒険者として英雄になったらしいね~。でもモモンって、もうちょっと捻った名前にしてもイイと思うんだけどなぁ」

「……そ、そんなっ」

「モモン様が……魔導王? しかもパナの仲間だとすると『ぷれいやー』なのかっ?!」

「あ、あれ? 私――なにかマズイこと言ったかな?」

 

 

「もしもーし、アインズさーん」

『はいはーい、大声出さなくても〈伝言(メッセージ)〉はちゃんと届きますよ。で、何かありましたか? また王都で大虐殺なんて止めて下さいよ』

「何万人も殺した魔王様がそれ言う? ってそれより『蒼の薔薇』と再会しちゃってさ。思わずアインズさんがモモンガさんで、魔導王でモモンだってバラしちゃったんだけど……大丈夫かな?」

『…………ちょっとそのままで待っていて下さいね』

 

 

「シャルティア! 今すぐパナップさんのところへ行き、傍にいる『蒼の薔薇』を生きたまま捕縛、ナザリック第一階層へ回収監禁せよ!」

『は、はい! アインズ様! かしこまりんした!』

 

「アルベド! 急いで〈記憶操作(コントロール・アムネジア)〉を使用できる(しもべ)を第一階層へ集めろ! 私も直ぐに行く!」

『はっ、直ちに!』

 

 

『こほん、……パナップさん、聞こえますか?』

「は~い、此方パナップ、今変身ポーズをキメているところです」

『何やってんだこの堕天使……。え~、パナップさん』

「はい?」

『謹慎五日間!』

「……は、えっ?!」

 

 

 氷結牢獄は寒かったです。完全耐性は備えているのに……何故だろう。

 ちなみに何か言いたそうなエントマがウロウロしていたけど、欲しいモノでもあったのかな?

 

 

 

 

 ●また、ある日のこと――

 

「アウラ~、トブの大森林に行こ~。あそこに凄いフェンリルがいるんだよ。めっちゃ強いの! アウラの使役魔獣より凄いと思う」

「えぇっ! 私のフェンよりもですか? 大森林は何度も足を運んでいますけど、強そうなのと言えば魔樹ぐらいだったと……」

「ホントホント。私一度会ったことあるし、もう少しで食べられるところだったんだよ~」

「至高の御方を! そいつ殺しちゃいましょうね!」

「いやそんな、もったいないって」

「フェーン! クアドラシルー! おいでー!!」

「お~、アウラの使役魔獣に会うのも久しぶ……あれ?」

「パナップ様、準備できました! 行きましょう!」

「え~っと、あれれ? アウラのフェンリルってこんなに強かったっけ?」

「はい? フェンは……そうですね。私の能力で強化されていますから、普通のフェンリルよりはだいぶ強いと思いますが……」

「ん~、この子だ」

「え?」

「森で出会ったのはこの子だね、間違いない。しかし、そっかぁ。魔獣使い(ビーストテイマー)の能力だったのかぁ。完全に忘れてたな~」

「あ、あ、あの、パナップ様。フェンは、その、悪気があったわけでは……」

「ん? ああ、大丈夫大丈夫。私が隠れていた時、喰われそうだって勝手に思っただけだから。フェンは私の存在にすら気付いていなかったし、ね」

「そ、そうですか。ありがとうございます」

「でもさぁ、フェンだったのなら見つかったほうが良かったよね~。早くナザリックへ帰れたかもしれないし」

「あのぉパナップ様」

「なぁ~に?」

「その時も、例の気配を消す指輪をはめていたのですよね」

「うん、そだよ~」

「でしたら見つからない方が良かったと思います」

「えっ、なんで?」

「ナザリックに所属する者としての気配が無かった場合、フェンだと即座に噛み殺しちゃう可能性があったかと……」

「それマジ?」

「マジです」

「……」

「……」

 

 

 ナザリック第六階層は今日もポカポカ陽気でした。何故か冷や汗をかいたけど……。

 

 

 

 

 ●またまた、ある日のこと――

 

「しかし殺人鬼って、何があったんですか?」

「いや~、ユグドラシルだとムカつくNPCがいても手を出せなかったでしょ?」

「まぁそうですね。聖者殺しの槍(ロンギヌス)でもなければ、どうしようもありませんでしたね~」

「だけどですよ! この世界だとサクッと殺せちゃうわけですよ。ほんのちょっと『ぶっ殺してやる』って軽く特殊技術(スキル)を発動させただけなのに、次の瞬間にはバラバラになっているんですもん。私もビックリですよ」

「『ちょっと』なのに『ぶっ殺す』とはこれ如何に? しかも軽くって言うわりには二百人以上虐殺したんでしょ? アカウント停止処分ですね。間違いなく」

「や~め~て~。私悪くない。私正義、ワタシサイキョウ」

「なんでカタコト?」

「つーか私より先にアインズさんが処分されるべきでしょ? でなければ運営に抗議しますよ。数万人殺したチート魔王様が此処にいますよーって」

「残念、合法です」

「嘘だ! ヘロヘロさんに違法改造してもらったんでしょ?! 私もしてほしい!」

「おいこら、ナザリックは健康的で健全なギルドです。改造堕天使なんて返品しますよ」

「ひ~ど~い~。愛人を返品するなんて、マジ外道。たっちさ~ん」

「やめい! それにパナップさんは愛人というより妹でしょ。色気が足りません」

「ぐぬぬ、痛いところを」

「まっ、私は今骨なんで、どうにもならないですけどね」

「ん~、そっかそっか。アインズさんは骨ですもんね~。ふむふむ」

「なんだか含みのある言い方ですけど……」

「アインズさんは――、確か〈完全憑依〉を使えますよね」

「え? ええ、憑依は死霊系にとって必須の魔法ですからね。ドリームビルダーとしては、たとえ使い道が無かったとしても外せない魔法の一つです」

「ふふ、この世界で使ったことはありますか?」

「う~む、そういえば一度も無いですね~。でも攻撃魔法の方が速いし有効ですよ。それに憑依した後は本体が無防備になりますから、この世界では怖くて使えませんって」

「いやいや、戦闘に使うばかりが憑依の本質じゃないでしょ? 私のウロタス――はまだ資金が溜まってないので無理ですけど、復活したら憑依してみません? 身体を完全に乗っ取るのですから、たぶん……食事とか睡眠とか味わえますよ」

「おおっ! それは、うん、いける気がする! ん? でもウロタスの復活を待つ必要はないのでは? 誰か他の(しもべ)で……ってあれ? 今思い出しましたけど、ウロタスって確かリアルの私ソックリに作っていましたよね」

「ひゅ~ふひゅ~、な、なんのことやら……」

「吹けてませんよ、口笛。はぁ~、もしかして――リアルの私ソックリのウロタスに私を憑依させて、何かよからぬことをさせよう、とか?」

「べ、別に、ウロタスに憑依してもらえばアルベドもうるさく言わないだろうし、誰からみても私とウロタスがデートしているようにしか見えないから完璧、なんて思っていないんだからね!」

「うわっ、隠す気なしかコイツ!」

「ついでに無防備になった本体をアルベドに預ければ一石二鳥、――ってこれは言っちゃ駄目だった!」

「残念、この堕天使は残念なヤツだった……」

「ひどい! 結構イイ考えだと思ったのにぃー!」

「考え自体は悪くないですよ。ただ、憑依された側――ウロタスの心境が気になりますね。自分の身体を乗っ取られるわけですから、あまり気分の良いモノではないでしょう」

「えー、守護者の一人に聞いてみたけど、『ご褒美でありんす! 想像するだけで下着がっ!』って喜んでいたけどなぁ~」

「パナップさん……」

「なんです?」

「人選ミス……」

「あ、はい」

 

 

 他の守護者にも聞いてみたけど、みんな感涙ものだった。私、ミスってないよね!

 

 

 

 

 ●またまたまた、ある日のこと――

 

「いや~、もこもこでふかふかだね~。これが一瞬でアインズさんの剣を弾くほど硬質化するなんて、不思議なこともあるもんだね~」

「普段は硬いままでござるよ。今は気を抜いて柔らかくしているでござる」

「え~、いつもふかふかにしていればいいのに~」

「ダメでござるよ。不意打ちされた場合に痛手を負ってしまうでござる」

「そっかぁ、ハムスケはトブの大森林にいたんだもんね~。警戒は大事ってことか~」

「……あ、あのパナップ様」

「なぁ~に~、ナーベラル?」

「わ、私は此処にいても宜しいのでしょうか?」

「今日はハムスケと一緒に休暇なんでしょ? だったら六階層の森の中でもこもこに包まれていても問題無し! あっ、他に用事があるなら行ってもらって大丈夫だよ。休暇の過ごし方が分からない、って言ってたから誘ったわけだしね」

「それは、はい、そうなのですが……。私ごときが至高の御方の御傍に――」

「はいはい、アインズさんと二人っきりで冒険者しているのに説得力無いですよ~。んじゃ、二人でハムスケをマッサージしよう!」

「や、優しくしてほしいでござるよ」

「獣ごときが……至高の御方にマッサージをっ」

「も~、二人っきりだと結構仲良くしているくせに」

「ふぇっ? いえ、それはそのっ」

「最近はよく撫でてくれるでござる」

「ハムスケッ! 黙りなさい!」

「こらこら、魔力を集めないのっ。――さてと、何処まで話したかな?」

「はい。パナップ様がエ・ランテルへ辿り着く直前、森の中で集団戦闘を目撃した、というところです」

「あ~そうそう、死体を取り合って戦っていたんだよ。まぁ、後で仲間の遺体を回収しようとしている、って分かったんだけど……。その死体が酷くってさ。身体を二つ折りにされたような、胸やお腹を潰された女性でね。結構綺麗な若い女性だったのにホント可哀想。私でもバラバラに切り刻むぐらいしかしないのにね~」

「確かに(両方とも)酷いでござる……」

「いったい何者なのでしょう? エ・ランテルの近くで無作法を働くモノであるなら、御方々の邪魔になる可能性が――」

「確か、ズーラーノーンって変な邪教集団だったはず……。あっ、そういえば死体はもう一体あったね。真っ黒焦げでボロボロのヤツが」

「――ナーベラル殿、殿から頂いた口の中の石ころが騒いでいるでござるが……」

「――待ちなさい、私も今思い出しているところよ」

「ん? どったの?」

「はい、もしかすると……。パナップ様の遭遇したその死体は、アインズ様が探しておられるモノかもしれません」

「あらら、そうなの? んじゃ、アインズさんに知らせてあげないとね。死体はまとめて森の中へ埋葬しちゃったけど、まだ土に還るような時間は経ってないから大丈夫……のはず」

「はい、では直ぐにっ」

 

『ナーベラルか? 今日は休暇をとっていると聞いていたが、――何用だ?』

「はい、アインズ様。今パナップ様と一緒にいるのですが……、パナップ様はエ・ランテルから盗み出された例の死体について、所在を御存知とのことです」

『は? んん? それはもしかしてクレマンティーヌのことか?』

「はい。ズーラーノーンが何者かと死体を取り合っていた、とのことなので間違いないかと」

『……パナップさんと私の執務室、――エ・ランテルではなく()()()()()の執務室へ来い。その後、死体の回収へ向かうぞ』

「はっ、直ちに!」

 

「――で、何処にあるんですか? パナップさん」

「おっかしいなぁ~。全部掘り返されてる……。いや、ここに埋葬したのは間違いないよ! ホントだってアインズさん!」

「まぁ、実際掘り返した跡がありますからね~、信じますけど……。問題は誰が掘り返して死体を持っていったかですが……」

「可能性としてはズーラーノーンと戦っていた傭兵集団かな? この場所を知っているのはソイツらぐらいだろうし」

「傭兵集団ですか……。何者ですかねぇ?」

「……と、殿ぉ、お話中宜しいでござろうか?」

「ハムスケッ! 至高の御方々の会話へ立ち入るとはっ!」

「止めよ、ナーベラル。――それでどうした? ハムスケ」

「殿ぉ、石ころのヤツが傭兵集団の正体に心当たりがあると言っているでござるよ」

「石ころ? ああ、死の宝珠か。すっかり忘れていたな。それで? 正体とは何だ? いや、ばっちいから口から出すな! ハムスケが代弁しろ!」

「ひどいでござるよぉ~。……え~っとでござるな、そのなんとかティーヌは元々スレイン法国の漆黒聖典とやらで、国を裏切った所為で追われていたそうでござる。なのでその傭兵集団は――」

「スレイン法国の追手というわけだな。ふむ、それなら話は早い。ミマモリに処分させておくとしよう」

「ミマモリって、あのアインズさん2号ですね。結局殺さなかったんですか?」

「役に立つなら殺しませんよ、って誰が2号ですか? 全然似てませんし、死の支配者(オーバーロード)ならナザリックにも複数いますからね」

「似てないかな~? うむ~」

「はぁ~、そんなことより、先程ハムスケから聞いたのですけど……」

「はい? なんです?」

「女性が悲惨な殺され方をしていて可哀想だったとか……」

「ええ、そうですそうです! 若い女性をペッチャンコですよ! 背骨やら肋骨やら腰骨やらボッキボキ! 流石の私でもあそこまでやりませんね。私の場合は、綺麗に三枚下ろしで苦痛なく殺しますから! むふん!」

「私なんですけど」

「はい?」

「ペチャンコにしたの私です」

「……」

「……」

「アインズさんにそんな趣味がっ?!」

「なんでやねん!」

 

 

 凄い勢いでチョップされました。でも口はバッテン(×)になりませんでした~。ナーベラルはなるのに何故?!

 

 

 ◆

 

 

 ナザリックへ帰還したパナップは、実に平和な――自由気ままな生活を送りました。

 途中、ドワーフの王国へ盗みに入ったり、聖王国でヤルダバオトの側へ付いたり、アルベドが企てていた盛大な結婚式の邪魔をしたり、アインズ様のストーカーをしたり、空中都市へ忍び込んでみたり――などと色々ありましたが、概ね問題はありませんでした。

 ただ、ウロタスの復活資金集めは相当苦労したそうです。複数の鉱山でアダマンタイトを採掘し続ける堕天使って、結構シュールな姿でした。

 それなのに……空中都市の盗品を数個エクスチェンジ・ボックスへ放り込んだら、あっという間に同額以上を入手できたというのだから、この世は無情なモノであります。

 最初からそうしておけば良かったー! と何処かの堕天使が叫んでいそうですね。

 

 まぁ、なにはともあれ、「堕天使のちょこっとした冒険」は此れにて終了と相成ります。

 もちろん、当人の冒険はまだまだ続きますけどね。

 




「堕天使のちょこっとした冒険」如何だったでしょうか?
あらゆる状況を書いて自分の文章力をアップさせよう、と始めた本作ですが、思った以上に楽しみながら続ける事が出来ました。
これも読んで頂いた皆様のお蔭です。

それに誤字・脱字・誤用・勘違い・思い込みなどを修正して頂いた皆様、本当にありがとうございました。
特に、全文章を添削してくれた物凄い精神力をお持ちの方には「デミえもん?」という言葉を送らせて頂きます。
正しいと思い込んでいた多くの間違いを教えてくださって、本当に助かりました。

それでは皆様、また別の作品で会えることを祈っております。
さようなら~。

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