その日、龍が蠢いた。
名をスサノヲ、又はJUDOと呼ばれる存在、それがほんの少し身じろぎをした。
彼はその身を封じられ、しかし、その封印はあと数年を経ずして緩み始めるであろう事は間違いないほどの状態であった。
その為か、彼の存在がほんの少し、しかし、確実に身じろぎをした。
それは存在にとっては身じろぎ、しかし、その世界にとっては激震ともいえるものであった。
考えてほしい。
例えば、日本列島がむすがって数センチ動いたとしよう。
それがどれだけの災害をもたらすのか。
地殻のプレートは1年を掛けて数センチ動く。
それが一瞬で行われたとしたら、その上に住んでいる者には強烈な地震として感じられるだろう。
日本の全てで倒壊、崩落が起きる、そんな光景。
幸いな事に、JUDOの身じろぎはその世界に影響を与えなかった。
与えたのはその近隣に存在した並行世界。
その並行世界のごくごく一部に、であった。
少年は幼いころより進行性の不治の病に冒されていた。
学校に通う事も出来ず、病院のボランティアによる教育を受けて。
友達を造る事も出来ず、親とて常時一緒に居る事も出来ない。
必然、彼の友達はテレビにパソコン、漫画や小説など、1人で楽しむことのできるものが多くなっていた。
その中で彼が好んでいたのは勧善懲悪のヒーローものだった。
父親の影響だろうか、彼の好みは古めかしいもの。
こと、正義を体現し、孤独に1人戦うヒーロー達を好んだ。
昭和の時代に人気を得た、「仮面ライダー」のシリーズを彼は愛した。
DVDの様な映像はもちろん、漫画やソフトビニールの玩具まで、病室の壁面には彼専用の棚が据え付けられ、そこには歴代の仮面ライダー、怪人のフィギュアが飾られている状態だった。
その日、彼は何時もの如く仮面ライダーの映像を見、そして就寝した。
その深夜、極近隣の並行世界においてJUDOが身じろぎしたのである。
その身じろぎはわずかとはいえ、世界の壁に穴を開けるほどのものであった。
その穴は、周囲の情報を吸い出し、閉じていった。
その時に、少年の存在情報、魂と言い換えても良いかもしれない、も同時にJUDOの世界へと吸い出されていった。
ナースセンターに緊急コールが鳴り響く。
看護師たちが駆け付けた時には、既に少年の体は生物としての温度を失っていた。
少年が意識を取り戻した時、既に彼の体は彼の言う事を聞く状態ではなかった。
(え? なに? どうなってるの!?)
彼は自分の体が勝手に動いて、枕元に合った目覚まし時計を止めるのを感じていた。
「ほわぁぁぁ…、もう朝かよ、ってやべえやべえ、バイトに遅れちまう!」
そうして体は小汚いせんべい布団を剥がし、畳を踏みながらふすまを開け、階下に繋がる廊下を歩いて階段を降り、そのまま洗面所へと向かう。
途中にトイレ、というか便所に寄り、和式の便座で事を済ませて洗面所で手を洗う。
ざばざばと冷たい水を顔に手で掛け、そしてタオルで顔をぬぐった。
(…え? 誰これ!?)
少年の目に飛び込んできたのはかなり体格のしっかりした少年と青年の中間くらいの年齢、少年にとっては若干年上であろう人物の顔だった。
真面目な顔をすれば10人中8人は怖いというであろういわゆる
神は短く刈り込まれ、細身の長身にはみっしりと筋肉が寄り合わさった麻縄の如く付いていた。
「ごろー! 早いとこ行かないと、しげる君が迎えに来ちまうよおー」
「わーてるってのお袋!
…ちょっと夢見が悪かったかな、何か調子が出ねえ」
ごろーと呼ばれたその青年は、食卓に並んでいた白飯、大根と豆腐の味噌汁、沢庵にアジの開きを平らげ、
「お袋ぉ、たまにゃ目玉焼きにパンの朝飯にしてくれっての!!」
「何言ってんだい、そんなんじゃ足んないって言ったのはあんただろ!!」
「あ? そうだっけ?
まあいいや、行ってきます!!」
青年はそう言うと家を飛び出していった。
いえの表札には「沼田」の文字。
青年の名を「沼田五郎」と言った。
他者の体に憑依した、と思われる少年は、思いのほか簡単に沼田五郎と馴染んだ。
これは宿主である五郎の性格が大きかった。
少年、生前の名を薫という、は元々年齢に比して社会経験がなく、若干幼く正直な性格をしていた。
それが五郎にとって新しい弟ができたように思えたのだろうか。
五郎は開けっぴろげの能天気、と称していい性格をしていた。
若干斜に構える親友、城茂に対しても他の人達の様に隔意を持つでなく、全く普通に接する事が出来ており、茂にとっても五郎は他の人達との間に入って茂をフォローしてくれる得難い人物であった。
五郎は最初こそ驚いたものの、薫を平然と受け入れた。
他の者であれば、頭の中に他人が居るのだ、それこそ発狂してもおかしくないだろうに、五郎は平然と薫を同居人として認めていた。
それは5人兄弟の長男であり、年下の面倒をみるのが当たり前、という五郎の家庭状況にもあったのかもしれない。
五郎は早朝に新聞配達、昼は高校生、放課後は部活、夜はまたバイトと忙しく働いていた。
さすがに5人兄弟なだけに家庭に金銭的余裕がなく、アルバイトによって彼は部活の必要経費を稼いでいた。
彼は茂に誘われて高校のアメリカンフットボール部に所属していた。
当時、関東においてはまだ珍しい部類であったアメリカンフットボールは五郎を虜にした。
正直にいえば五郎はそれほど頭の良い方ではなかった。
しかし、五郎はアメフトの戦略性にほれ込み、アメフトのルールや戦術を綿が水を吸うが如く吸収していった。
好きこそ物の上手なれという格言の通りであろう。
いつの間にか「目指せクリスマスボウル!」が五郎達の合言葉になるほどだった。
アメリカンフットボールはその戦略性により一芸特化でも万能型でも活躍の場がある稀有なゲームであるが、五郎はどちらかというと万能型であった。
特にキッカー、パンターといったボールを蹴るポジションが得意で、チームからはキッカーを中心に防御はラインバッカー、攻撃はクォーターバックまで任される事すらあった。
これにはカラクリがあり、五郎には薫という参謀が常時おり、彼のサポートがあったから、というのもある。
歴史はあるものの、アメリカンフットボールは当時まだまだマイナースポーツと言っていい状態だった。
これは当時野球全盛である上に、野球に比べて装備に掛かる金額が半端でなく高かったせいもある。
野球は競技人口も多く、バットやグローブなどもピンからキリまで。
安いものを揃えれば良い、という事もあったろう。
しかしマイナースポーツであるアメリカンフットボールの装備はそれ相応の店に行かないとない。
そして安物がない。
故に、競技人口が少なく、したがってチームの人数も少ない。
様々なポジションを兼任できる五郎はチームにとっても有難かったのである。
残念な事に五郎達の所属する「城南大学付属高校」は努力の甲斐なく、クリスマスボウルへの出場は叶わなかった。
しかし、五郎、そしてそれにとりついていた形の薫は高校を卒業するまでの1年間を有意義に過ごせたと言えるだろう。
とは言え、薫には漠然とした不安があった。
この頃、五郎の周囲にときおり不審な人物達が居る事があった。
まるで五郎達を見張るかのように物陰から見ている者達。
五郎に伝えた時には、
「関彩学院の回しモンだろう。
オレ達をスパイしてんだ」
などと能天気な事を言っていた。
薫には分からなかったが彼らはとある秘密組織の諜報員だった。
その名を。
「ブラック・サタン」
と言う。
ブラック・サタンはとある目的のために心身頭脳共に優秀な人材を誘拐していた。
そしてとある教育機関をその拠点としていたのである。
城南大学。
五郎達の居る城南大学付属高校も城南大学のグループの一部だった。
ブラック・サタンは優秀であり、しかし特定分野においてはより優れたものが居る、そういった目立たない人材を誘拐し、己の組織に活用していた。
この10年ほどで城南大学の学生、卒業生に年間10人ほどの行方不明者が出ているが、社会において目立つ活躍をした者たちではなかった為に今だ気付かれて居ない状態であった。
警視庁公安部、極一部の刑事などは不信を持っているようであるが、警察、官僚機構にもブラック・サタンのシンパは居り、彼らの動きによってその情報は警察機構に漏えいしていない状態であった。
元々ブラック・サタンとは「黄金の夜明け」などと同時期に結成されたオカルト結社であった。
本来オカルト結社とは貴族、豪商のサロン的な意味合い程度の、いわば金持ちの道楽であった。
しかし、ブラック・サタンは実際に魔人と呼ばれる異常能力者、魔界と呼ばれるい世界との接触に成功していた。
そしていつの頃からか「世界を征服する」という荒唐無稽な野望に憑り付かれ、20世紀に誕生したショッカーと手を結ぶ。
利用し、利用される関係であったようであるが、ショッカーの人員供給に協力する為に2次大戦終了後にショッカーと共同で政府、教育機関にその食指を伸ばしたようだ。
そしてショッカー及びその光景組織であるゲルショッカー、デストロンが壊滅すると、その基盤をすべて引き継いだ。
ブラック・サタンはそう大きな規模の組織ではない。
にもかかわらず情報統制が行きとどいていたのはショッカーと言う暗黒組織の基盤を乗っ取ったからであると言える。
その後もGOD、ゲドン、ガランダー帝国の日本国内での活動をサポートする形で勢力を伸ばし、彼らが仮面ライダーに倒される度にその基盤、資源を接収して肥大化していった。
不思議な事にその基盤移譲に混乱はなく、速やかに行われていった。
これは彼らの持つオカルト的な資源である「サタン虫」が関わっていた。
サタン虫は人の体に寄生する事の出来る生物で、上位個体よりの命令によって人間を催眠状態にし、意のままに操ることが可能であった。
その力により、ブラック・サタンは他の組織を自組織に組み込んでいったのである。
そして彼らが狙っていたのが沼田五郎、そして城茂であったのである。
彼らが大学生となって三年目のある日、五郎は誘拐された。
たまたま茂が頼まれていたアルバイト、その時急用が入った為に五郎が代理として代わって入っていた。
…それはブラック・サタンの罠であった。
工事現場で働き、その帰りがけに五郎は睡眠薬をかがされて昏倒した。
「…おい、城茂ではないぞ…」
「…大丈夫だ、これは第二ターゲットの沼田五郎。
こいつなら問題ないだろう…」
そんな声を聞きながら。
「がああああぁぁぁぁぁあぁぁああぁっっ!!!」
五郎の体に激痛が走る。
「電圧、これ以上上げると被研者が持ちませんが…」
「ええい! ショッカーではなぜ成功したんだ!!
一旦実験は中止だ!」
五郎は身体を改造され、「
奇っ械人とは人間を改造し、機械を埋め込んで造られる一種のサイボーグである。
更には動物、植物の特性を盛り込み、到底人間では不可能な身体能力、特殊能力を付加する。
が、人体に動植物の特性を盛り込むというのではなく、人体の作りを基本に動植物の特性を武器化して、まるで機械人形のようなものへと人間を変貌させるのが、ブラック・サタンにおける改造人間・奇っ械人であった。
五郎はその最終実験体として選ばれてしまったのである。
ブラック・サタンでは多くの暗黒組織の人員を取り込んだ結果、改造人間、いわゆる怪人を造りだすノウハウを手に入れることができた。
ところが、だ。
改造人間を造る事は出来ても、その改造人間に忠誠を誓わせるノウハウを手に入れる事が出来なかった。
いわゆる洗脳技術である。
これはショッカーの専売特許でもあった。
ショッカー及びその後継組織であったゲルショッカーは人員も多かったのだが、ショッカーはその洗脳技術で優秀な人材を確保し、ゲルショッカーは「ゲルパー薬」という身体強化薬役を常時飲用させることで中毒状態にし、定期的にゲルパー薬を飲まないと死ぬという身体的拘束を掛けていた。
デストロン同じく薬品による擬似的な洗脳及び機械体にな改造による洗脳によって組織を束ねていた。
しかし、ブラック・サタンの入手した洗脳技術はデストロンのもので、残念な事に改造手術に耐えうるレベルの者には効果が薄いことが判明している。
故に、「洗脳を簡単に行え、且つ他組織に再洗脳されない強度の洗脳技術」がブラック・サタンの課題となっていた。
その犠牲に五郎は選ばれてしまったのだ。
「うがああぁぁぁっ!」
(五郎さん! しっかりして!!)
薫は焦りのまま五郎へ呼び掛けていた。
洗脳の為の薬品、脳幹に埋め込まれた洗脳装置、並みの人間ならばとうの昔に精神が崩壊しているような状況で、恐るべきことに五郎はまだ自我を保っていた。
「こんな、ところ、で、くた、ばって、たまるかよおおぉっ!!」
…そして実験が開始されて1週間の後。
遂に限界が来た。
(五郎さん、しっかり、駄目だって!)
「か、がが、が、が、…があっ!」
(五郎さん!)
「が、わ、悪りい、な、おい。
どう、やら、付き会わせちまう、事に、成り、そう、だ、があっ!
おめえには、わるい、こと、しちまった、なあ…」
(そんな事無い!
僕は、五郎さんと一緒に居られて、楽しかった!
だから、終わりにしないでよ、ねえ!?)
「さ、すがに、限界、みてえ、だ…。
くっそ、悔しい、なあ、おい。
茂とよお、お前と、一緒に、ライスボウル、いきた、かった、なあぁぁ…」
(五郎さん!?
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
嫌だああぁぁっぁっ!!)
ピー…
「駄目です、被験者スパーク、死亡しました…」
「実験は失敗か。
やはり、ショッカーの技術を手に入れそびれたのが居たいな…。
仕方ない、今後洗脳に関してはオカルト班の育成するサタン虫による洗脳がブラック・サタンの洗脳方法となるだろう」
「無念です。
あんなオカルト野郎どもに我々化学班が敗北する事になろうとは…」
その後、ブラック・サタンの改造人間、奇っ械人に関しては、サタン虫を寄生させ、その洗脳能力によって組織を束ねていくことが決定されたのであった。
「五郎! なんでこんな事にぃぃッ!」
五郎の遺体は一旦廃棄され、ブラック・サタンの息のかかった警察に寄り発見同じく息のかかった検察医によって司法解剖がされたものとされ、事故死として片づけられた。
無論の事家族は不服を申し立てたものの、その判断が覆される事はなかった。
その日、五郎の死体に取りすがって泣いていたのは城茂。
本来ならば誘拐され、改造されていたのは茂であった。
そうとは知らない茂は、
「事故なんかな訳ねえ!
オレが真実を突きとめてやる!!」
そう言い残すと葬式にも出ずに独自の調査を始めた。
恐るべきはその執念。
彼は程なくブラックサタンの正体を知り、その組織に潜り込む事に成功した。
そして甘言を弄してオカルトの力が優勢になっていたブラックサタンの中で科学者たちに近付き、そして改造手術を受けた。
その後、洗脳手段であるサタン虫を寄生させられる前に科学班とオカルト班との反目を利用して同じく改造手術を受けた岬ユリ子と共にブラックサタンを脱出、「仮面ライダーストロンガー」としてブラック・サタンと戦い始めた。
沼田五郎の火葬の日。
火葬場の後方から黒服の人間達の乗った、黒塗りのセダンが発進した。
「ギュルル。
これで仕事は完了だな。
ブラック・サタンの栄えある奇っ械人であるこの俺に『死体漁り』等をさせるとは、科学班も偉くなったものだな…」
「ヤモリ奇っ怪人様、これも任務でございます、ご容赦を」
車の中に居るのは目立たぬ風体の青年、そして黒服の男たちであった。
今、車のトランクには沼田五郎の死体が積んである。
ヤモリ奇っ械人は隠密行動に長けた改造人間だ。
彼はブラック・サタンの科学班の依頼を受け、沼田五郎の死体を回収して来たのである。
ご丁寧に、似通った体格の死体を持ちあらかじめ火葬炉の中に潜伏し、五郎の死体が入ると同時に棺桶を破壊し、五郎と持って来た死体を入れ替え、担当の監視員には催眠術で対応した。
その後は炉が旧式のものであったのも都合が良かったのか、あらかじめ壊しておいた壁から脱出。
口から出す粘液で壁を修復して応急処置。
後はブラック・サタンの後方処理班が事故に見せかけて火葬場を破壊、修理する手筈となっていた。
「こんな旧式になんの価値があるというのか…」
「そうは言われましても、ブラック・サタンの技術を流出される訳にもいきませんし…」
五郎の体の中には火葬炉の千度の炎程度では燃え尽きないパーツも多々使われていた。
これらは当時の科学技術では再現不可能なもので、万一にも世に出てしまうと厄介な事になるだろう。
それを忌避してブラック・サタンの科学班は奇っ械人であるヤモリ奇っ械人に回収を依頼したのだ。
それこそが、失策であるとも知らずに。
何で、こんな。
五郎さんはこんな死に方をする人じゃない。
去年惜しくもリーグ三位でライスボールには出られなかった。
茂さんと一緒に、今年こそはって、コンビネーション「ストロンガー」に磨きを掛けるって、頑張ってたんだ。
それなのになんで…。
薫は何日も呆然としていた。
既に五郎は冷たい死体となって久しい。
外からの情報も入って来る事はない。
視覚、聴覚、味覚、触覚、嗅覚、全ての感覚器が死に絶えているからだ。
その彼の問いに答える者はいなかった。
筈だった。
薫の感覚に触れるものがあった。
「これは、何?
インターネット!?」
当時、インターネットは本当に初歩の初歩が存在したのみであった。
その概念は一般の人間は知るはずもなく、ブラック・サタンと言う異常なほど科学の発達した集団の中でも理解しているのは科学班の者達だけ、と言う状態だ。
とは言え、概念があるのであれば造ってしまうのがブラックサタンの様な暗黒組織だ。
奇っ械人とブラック・サタンの支部を結ぶ一種のインターネット回線はその技術が完成していた。
電波の代わりにオカルト技術を使用した奇怪な代物であったのだが。
その末端が五郎には取り付けられていた。
それを薫が操作したのであった。
インターネットを使用した経験のある薫はまたたく間にシステムを理解していた。
そして。
「なんだよこれ、ふざけんなよ!
世界征服、だって!?
そんな、そんなもんのために五郎さんは死ななきゃなんなかったっての!?
そんなのない…。
…許さない」
許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない…
「許さない、ブラック・サタン。
全て、残さず」
滅ぼしつくしてやる…。
死体置き場に置かれた沼田五郎の死体がピクリと反応した。
その内部で何かが変化している。
五郎の内部に埋め込まれた奇っ械人としてのシステム、それが現在の状況が「損傷状態」にあるものとして、修復を行いつつあるのだ。
しかしそれも命令を出す脳が生きていてこそ。
なぜこのような事が起きているのか。
理由は奇っ械人というシステムに会った。
奇っ械人は一度改造手術をした人間の人格を破壊し、サタン虫を寄生させた上に新しい人格を上書きする。
大体において凶暴で短絡的な人格が書き込まれ、それをサタン虫が制御する、という形をとる。
そして薫と言う命令系統が存在している五郎の体、その命令に従って奇っ械人としてのパーツが体を治そうとしているのだ。
洗脳によって破壊された五郎の体。
憑依している薫とブラックサタンのネット網からの情報とアップデート。
それらが重なって、五郎の
闇の中、何かが立ち上がった。
ブラック・サタンの支部の1つ、沼田五郎の肉体が保管されている
定期巡回の戦闘員が2名、中をのぞいていく。
「ミュー(いつも通り、問題なし…)」
「ッミュー!(待て! 死体が1つ足りない!?)」
彼らが前回確認した時より、死体が足りなかった。
しかもそれは試作型とは言え奇っ械人のものである。
それが無くなったのだ。
万一にも世の中に出るような事があればとても恐ろしい事になるだろう。
誰が持ちだしたのかを調べる必要がある。
戦闘員の1人は壁に掛かっていたインターフォンに手を伸ばし。
ごきん。
奇妙な音を耳にした彼は振り向いた。
その時。
彼は首を掴まれた。
何が起きた、それを把握する間もなく。
ぼきり。
戦闘員の首はへし折られた。
暫くすると、戦闘員の中から白い蜘蛛の様な生き物が這い出してきた。
これがサタン虫。
人に取り付き、それを支配する悪魔の虫。
それを
「
少々高音の声は、沼田五郎とは似ても似つかず。
明らかの五郎より低い背の13歳くらいであろう少年は、そこだけあまりにも年不相応の殺気を込めた目を、壁に掛かった「ブラックサタンのエンブレム」に向けていた。
少年、薫は渋内部の監視カメラの位置を確認し、その死角を付いて戦闘員たちを殺していった。
1人殺す度に薫の心に罪悪感が湧き上がる。
何となれば、この戦闘員たちはサタン虫に憑り付かれ、人格を破壊されてこき使われているいわば五郎の同類。
しかし、
「これは生きているように見えるだけの死体に過ぎない。
こいつらを処分しないと、ブラック・サタンはますます図に乗るんだから…」
そう言いながら、薫は戦闘員たちを殺していった。
目指すのは武器庫。
1人でこの基地を壊滅されるにはちと手が足りないだろう。
いま、薫が居るのは研究棟。
中にはブラック・サタンの研究員たちが、外道な研究と、奇っ械人の作成に余念がないのだろう。
そこに、
がらがらがらっ!
「ミュー!(なんだ、何が起きた)」
「ミュー!?(ぐわっ!)」
手押し車に乗せた大型の鉄塊が、正面にて警備をしていた戦闘員たちを押し潰した。
いくら小柄な少年の姿をしているとはいえ、薫も既に奇っ械人だ。
その馬力は下手な小型車よりもよほど強い。
その鉄塊は戦闘員を巻き込み、研究棟の扉を粉砕した。
その中には、予想通り10人ほどの科学者が何やら資料を見ながら、透明なガラス状の保護タンクに入った改造人間達を見ていた。
扉が壊れる音で科学者たちは扉の方を振り向いた。
「な、何者だ!?
ここをどこだと思っている!?」
その中でも、責任者であろう人物がそう言った。
薫はそんな事を聞く気がなかった。
無言で台車から下ろされたもの。
通常の者よりよほど巨大な、重機関銃。
たっぷりと弾装の詰まった弾帯を機関銃にセットすると、
「死ね」
薫はその殺意を機関銃の弾にのせ、研究棟の中に叩き込んだ。
「な、何故…」
辛うじて息の有った研究室主任の前に、少年が立った。
無表情の顔の中で、そこだけが感情を示している目を彼は主任に向けていた。
「や、やめろ。
分かった、分かったから。
何が欲しい?
金か? 情報か? 何が望みなんだ!?」
最後のあたりでは既に絶叫となっていた主任の言葉に、彼は。
「お前達ブラック・サタンの命」
そう言って拳を振り上げた。
「ひいっ! …?」
思わず首をすくめた主任、しかし、それはドガンという音に遮られた。
主任がおそるおそる目を開けてみると、
「ギュルル。
ブラック・サタンも甘く見られたものだ。
この『ヤモリ奇っ械人』がその借りは返させてもらおうか」
そこには「機械で覆われたヤモリ」としか言いようのない代物が居た。
ブラック・サタンの造り上げた改造人間、「ヤモリ奇っ械人」である。
歴代の仮面ライダー達が戦ってきたものよりも、より機械部分が多く、そして攻撃も多様である。
この力なら。
「ヤ、ヤモリ奇っ械人、コイツを殺せえッ!」
主任は必死になって叫んだ。
「分かっている。
この程度の輩なら簡単に捻りつぶ…」
ヤモリ奇っ械人の言葉は止められた。
少年、薫の奇妙なポーズに。
彼は腕を十字に胸の前で組んでいた。
その両腕は、ぐるぐるとコイルの様なものが巻きついている。
先ほどまでは普通の両腕であったのに。
彼は強く腕をこすりつけるように両腕を左右に振り抜いた。
強烈なスパークが周囲を明るく照らし出し、そして。
「な、スパーク、だと…」
ヤモリ奇っ械人の前に居たのは小柄な少年ではなく、
「さあ、始めようかブラック・サタン。
殺し合いの時間だ…」
黒を基調としたボディスーツ。
胸部から肩にかけては赤いプロテクターに覆われている。
頭部はまるで昆虫の様なフルフェイスヘルメット。
カブトムシの様なY字の鍬形が特徴的だ。
エメラルドグリーンの大きく無機質な、昆虫の様な眼がヤモリ奇っ械人を見つめていた。
目の前に居るのは、沼田五郎が改造されていた筈の奇っ械人スパークであった。
ヤモリ奇っ械人にとって、目の前のスパークとか言う奇っ械人は旧式である。
それが、だ。
「くっそお、何で、なんで壊れないんだあッ!!」
ヤモリ奇っ械人のナパーム唾液がスパークに命中し、彼を燃え上がらせる。
そのまま倒れ込むスパーク。
「はあ、はあ、やっとこれで、…!!」
炎に包まれたまま、スパークが立ち上がって来た。
スパークはその身体能力に比して戦い方がお粗末だ。
それはそうだろう。
スポーツマンであった五郎ならばともかく、薫はこうなる前は寝たきり少年。
身体を動かす事にかけてはど素人と言っていい。
その状態でなぜスパークが戦えているのか。
それは、復活時に起動していた過剰なまでの回復能力、それがまだ起動しているからであった。
とは言え、それもいつまでも続くものではない。
凄まじい勢いでエネルギーが消耗していく。
このままではエネルギーを使い潰してスパークは敗北するだろう。
それを察知したのか、
「まともにやってはやれんな。
ならば…」
ヤモリ奇っ械人は壁に近付くと、
「なに!?」
その姿を隠した。
ヤモリ奇っ械人に装備された光学迷彩装備。
それが彼の姿を光学的に見えなくさせていたのだ。
「どこに…、 ぐえっ!」
スパークが周囲を探る間に、ヤモリ奇っ械人の一撃が彼を襲う。
「ぐはっ! ゲホッ!」
下手に溜めを作り、行動を読まれる訳にもいかない。
ナパーム唾液を使わず、ヤモリ奇っ械人はひたすらにスパークを殴りつけた。
何度か殴りつけるとスパークの動きが目に見えて悪くなった。
「これで、止めえぇっ!」
ヤモリ奇っ械人の強烈な尾による攻撃で、スパークは大きく弾き飛ばされ、破壊された怪人保護タンクに叩きつけられた。
「ゲホッ!」
よろよろと立ち上がろうとするスパーク。
「ちっ、まだ死なないのか!?
ならばこれでえッ!」
またもや姿を消し、スパークに迫るヤモリ奇っ械人。
スパークはそれを見ていた。
(これは勝てないかな…、しょうがないよね、喧嘩すらした事無いんだしさ)
戦おうと思っても、実力が伴わなかった。
それなら仕方がないだろう?
そう思い、目を閉じようとした時だ。
殺せ。
殺せ。
ブラックサタンを殺せ。
決して許すな。
慈悲はない。
滅ぼしつくせ。
タンクの中に保護され、先ほど重機関銃で殺した奇っ械人の素体達と、眼が、あった。
そうだ、ここで負ける訳にはいかない。
僕は、僕は。
「僕はブラック・サタンを滅ぼさなきゃならないんだ!!」
スパークは立ち上がった。
沼田五郎の無念。
ここで奇っ械人の素体にされ、人格を破壊された人々の恨み。
それをブラック・サタンに叩きつけなければ、
死ねない。
スパークは周囲を見回した。
使えそうなものはない。
周囲には漏電でもしているのか、タンクへと電力を供給していた電線がバチバチと火花を散らし…。
「! これだ!!」
スパークはその電線を引きちぎった。
高圧の電流がスパークの中に流れてくる。
「はっ! 今更自殺か? させねえよおっ!!」
ヤモリ奇っ械人が最後の一撃を加えようと、光学迷彩を纏って襲い来る。
しかし、ヤモリ奇っ械人は知らなかった。
スパークは「電気改造人間」、仮面ライダーストロンガーのプロトタイプであった。
つまり、
「電気は、僕の力になる!!」
電気を吸収し、急速にそのエネルギーを回復するスパーク。
そして。
「エレクトロ・ファイヤー!!」
周囲の床に、その電気のエネルギーをぶちまけた。
「がああっ!?」
広範囲に広がる電流に、回避する事も出来ずにその力を浴びてしまうヤモリ奇っ械人。
その後ろでは研究室主任が声もなく感電死していた。
よろよろとふらつくヤモリ奇っ械人。
そこに、
「ぅゎああああああぁっ!」
スパークの攻撃が直撃した。
振り下ろすかのように相手に飛びつき、ヤモリ奇っ械人の頭を右手で掴むや、まるでワンハンドタッチダウンの様に地面に叩きつけた。
「うぎゃっ!」
地面に叩きつけられ、ゴムボールの様にバウンドするヤモリ奇っ械人。
その時には既にスパークは次の攻撃、止めの攻撃の準備を終わらせていた。
ぎりり、ぎりりと体中の合成筋肉が軋みをあげ、そして繰り出された。
ヤモリ奇っ械人がバウンドし、落ちてくるその頭。
それを、
「…喰らえ!」
まるでボールのように、スパークは思い切り蹴り上げた。
ドロップキック。
ラグビーやアメリカンフットボールで行われる、一度グラウンドに跳ねたボールを蹴り上げる技術。
アメリカンフットボールではあまり行われない、高技術が必要な割には得点が低いそれを、キッカーを兼用する五郎は器用に行っていた。
その五郎の器用さ、そして改造人間としてのパワーが加わったそれ。
その威力は、地下にあった支部の天井をぶち抜き、ヤモリ奇っ械人を天高く舞い上がらせ、そして。
大爆発。
その威力に耐えられなかったヤモリ奇っ械人は、空中で爆散した。
それと同時に。
どおぉん!
先ほど武器庫から回収し、支部の中に仕掛けておいた時限爆弾が爆発、支部を破壊し始めた。
スパークは何か思うようにヤモリ奇っ械人が吹き飛んだ空を眺め、そして。
「覚えておけ、ブラック・サタンは必ず壊滅される。
手段は、選ばない」
残っていた監視カメラに指を突きつけながらそう言うと、姿をくらました。
薫はバイクに乗って崩壊していく支部を背後に脱出していた。
彼はこれより「復讐者スパーク」として手段を選ばずブラック・サタンを追い詰めていく。
その時に、仮面ライダーストロンガーこと城茂、岬ユリ子、立花藤兵衛などと邂逅するのだが、それはまた別の機会に。
なんか書いてみたくなりました。
多分最終的にメリーバッドエンドかなあと。