仮面ライダー/ダークサイド   作:黒羆屋

2 / 4
今回は怪人の製造についてのねつ造の記述があります。
ご注意を。


中篇

 深夜。

 団地の一角では未だに明かりが付いていた。

「あなた、そろそろ寝ませんと、明日があるのでしょう?」

「ああ、分かっている。

 これが片付いたらすぐに寝るさ。

 明後日にはお前と君子とでデパートに行く予定だしな。

 君子は屋上の遊園地に行きたがっていただろ?

 たまには家族サービスをしないとなあ」

 そんな事を言う30代の男性。

 とある製薬会社の研究室に勤めている…、と言う事になっている彼は、手元の書類に様々な数式、化学式を書き込みながら数年前に結婚した美しい妻にそう言った。

 仕事は順風満帆、と見える。

 実の所、ほぼ1年ごとに部署が入れ替わり、その為、男の仕事はうまくいっているとは言い難かった。

 薬と言うものは完成するのに非常に時間が掛かる。

 新しい薬効を持つ成分を見つけるのはそれこそ運と言っても良い。

 さらには試行錯誤を繰り返し、効果的な成分の配合を見つける。

 それを国家が承認する為の実験に数年。

 承認を得るのに数年。

 10年程度であれば普通に掛かりかねないのだ。

 こと、男の扱っている代物は今まで発見されて居なかった成分のものも多く含まれている事が多い。

 いくら時間があっても足りなかった。

 故に、社則で禁止されていても、このように家に持ち帰り、そして片付けなければならないのだ。

 

 妻が就寝し、そろそろ午前1時を回る頃。

 既にテレビの放送も終了し、男の目の前の付けっぱなしにしているテレビからは「砂の嵐」しか流れてこない。

 仕事に集中していた男。

 ふと、夜の冷たい風が入り込んでくるのに気付いた。

 目を上げると、全開になったサッシ、そして。

「!」

 全身ライダースーツに身を包んだ様な怪しい人物が立っていた。

 悲鳴を上げようとする男の頭を()()はむんずと掴み。

 ばちっ!

 男は衝撃を受け、声もなく意識を失った。

 

 翌日、男が居ない事に気が付いた妻は、行方不明届を出すと共に、警察へ通報をした。

 リビングのサッシの錠前の部分が壊されており、何者かが部屋に侵入したのがはっきりとしていたからだ。

 …にも関らず、警察は数日で捜査を打ち切る事になる。

 妻は抗議をしたものの、受け入れられる事はなかった。

 奇怪な出来事にも関らず新聞にすら載る事はなかった。

 

 更にその数日後、匿名の通報により、男の他殺死体が見つかるまでは。

 

 彼の死体は首を折られ、ゴミ捨て場に捨てられていた。

 ここまでの異様な状態ですら、マスコミが動く事はなかったのである。

 一説によるとかなり上位の所から圧力が掛かった、という噂であったが、それは定かではない。

 本来ならば、それで終わりの事件。

 しかし。

 その近辺、同じ会社に勤めていた、という30代から40代の男性が同じような死に様を見せるにつけ、マスコミも黙っている事が出来ないようになってきた。

 最初はゴシップ新聞の出どころの怪しい情報として。

 当時はまだワイドショーなどは盛んではなかったものの、新聞、雑誌を中心として特集が組まれ、閑静だった住宅街はゴシップ屋であふれる事となった。

 これに対し、警官隊が出動。

 これが騒ぎに火を付けた。

 日本の民衆は権力者の横暴に非常に敏感だ。

 そしてそれを飯のタネにする記者達も。

 行政の上部から様々な圧力が掛かっている事を嗅ぎつけ、どこからそれが掛かっているのか、誰が掛けているのかを調べ上げ、面白おかしく書き出した。

 そして。

 

 東京のとある高級住宅地。

 庶民ではとても不可能であろうと思われる敷地を持った日本家屋、その中で保守党に所属する50代の政治家、政治家としては新進気鋭と言って良い年齢だろう、は苛立ちを隠せないでいた。

「くそっ! どいつもこいつもワシを馬鹿にしおって…」

 彼は圧力団体から殺人事件の揉み消しを依頼されていた。

 相手はかなりの力を持っている。

 彼としてはいいなりになっていた方が都合が良かった。

 そしてその夜。

 政治家は自宅で就寝していた。

 周囲には腕利きの護衛官、また就寝している和室の脇にはやはり腕の立つ秘書を配置しており、何かあったとしてもすぐに対応できるはずだった。

 …音もなくふすまが開いた。

 枕元に立つ人影が1つ。

 その気配にふっと眼を覚ました政治家の目に映ったのは白い手袋をはめた手だった。

 ばちっ!

 衝撃を感じ、政治家は気を失った。

 

 彼が他殺死体で発見された事で、日本は騒然とした。

 連合赤軍が起こした数々の事件がまだその影響を残していた時代、日本国内においてもテロリズムによる事件の発生はまだまだ危惧されていた。

 そこに起きたのが新進気鋭の敏腕政治家の死。

 余りにもセンセーショナルな出来事に、その裏を取ろうとする記者達が殺到。

 更に、その事件を追っていた記者のうち何人かが緑色に染まった服毒死やバラバラ死体など、異常な死体として発見され、更に一連の事件に対する民衆の過熱ぶりはひどくなっていった。

 

 

 

「…で、研究は滞っている、と」

 目の前の、一段高くなった所の椅子に座る奇怪な人物に、科学班研究所の所長は首を竦めながら釈明した。

「は、はい。

 例の事件により、研究員が致命的に足りなくなっております。

 この手の研究は、どうしても人手が必要になります。

 最低でもあと10人はそれなりに優秀な研究員を回して頂きませんととても研究を続けることが出来ません」

 所長はそうしどろもどろに言った。

 下手な事を言えば物理的に殺される。

 相手はそう言う存在だった。

 その相手、名を「タイタン」と言う。

 首から下は黒の三つ揃いのスーツに白いスカーフと言った伊達男の服装だ。

 しかし、その頭部はのっぺりとした黒い卵型の頭に、巨大な1つ目が付いている、と言う代物。

 その体に高熱のマグマを封じ込めた魔人、それがタイタン、または1つ目タイタンである。

 彼は現状を考慮し、目の前の開発就任を処分するかどうかを冷徹に考えていた。

 本来であれば、とっとと抹殺してしまう所だ。

 しかし、現場の者達はともかく、こと科学班に関しては先の研究員殺害によって人員が枯渇していた。

 そう、最初に殺された男は、ブラック・サタンの研究員だったのである。

 さてどうするか。

 そう考えた時である。

「ミュー!(タイタン様、ゼネラルシャドウ様より通信が入っております!)」

 戦闘員の1人が聞きたくもない連絡を持って来た。

 タイタンはブラック・サタンの大幹部、実質のナンバー2だ。

 しかし、ここ数年でブラック・サタンは肥大化しすぎた。

 タイタンだけでは大幹部が足りなくなってきたのだ。

 その為、首領たるブラックサタンはタイタンの国のある魔界、この世界とは薄壁一枚隔てた、異常能力を持つ「魔人」と呼ばれる者達の住まう世界よりもう1人魔人を召喚し、大幹部の位置に付けたのだ。

 その名を「ゼネラルシャドウ」。

 元々は人間で、魔道に魅せられ堕落した魔術師である。

 にも関らず、戦いの美学がどうの、と言うのが元々魔の国の王であるタイタンには鼻もちならなかった。

 負けてしまっては何も残せない。

 それが魔界にて王を名乗る事の出来たタイタンの美学であったのだろう。

 それはともかく。

「…なんの用だシャドウ。

 こちらは今忙しいのだがな…」

 一言目から非常に尖った態度を示すタイタン。

『ふむ。

 そちらの人員が足りなくなっている、と聞いたのでな。

 こちらから回そうか、そう提案しようと思っていたのだよ。

 ワタシとしてもブラック・サタン全体の事を考えればそれが良いと思うのだがねえ…』

 などと言いつつも、タイタンに恩を売る気が満載のシャドウの台詞。

 無論、それも事実であろう、しかし。

「…今の所必要ない。

 とは言え、提言感謝する。

 いずれ必要になった時は、頼らせてもらおう」

『…そうか。

 まあ無理をしない事だ。

 貴公が下手を打てば組織が傾く。

 ワタシとて巻き込まれかねないのだ、気にしないでくれ』

 そう言うと、通信は切れた。

 タイタンはわなわなと体を震わせた。

 屈辱に、だ。

 あのような外様の雇われ幹部に嫌みを言われる筋合いはない!

 怒りのままに、タイタンは戦闘員の頭に手を掛けた。

「ミュー!(タイタンさま、何を…、ぎゃぁぁぁっ!)」

 戦闘員がジタバタとあがくも、タイタンの腕はその頭部よりは慣れない。

 タイタンは改造火の玉人間、と呼ばれる。

 魔界の王たる魔人の1人にして更にそこからブラック・サタンの科学力で強化されたその体は人間を素体にした奇っ械人など物の数ではないほどの強度を持つ。

 その強化された体内に、強烈な高温をタイタンは抱えている。

 その熱を戦闘員の中に流し込んでいるのだ。

 内臓から炎に焼かれる戦闘員。

 そしてその熱が体表まで出て来た時。

 ぼっ!

 一瞬にして戦闘員は松明の如く燃え上がった。

 その内部は既に燃え尽きている。

 戦闘員はまるで何も入っていない着ぐるみの如く床に潰れ、跡形もなく燃え尽きた。

 タイタンはその後継を呆然と見ていた研究所長を見た。

 ひどくおびえる所長を尻目にタイタンはこう言った。

「励め。

 人員は何とかしてやる。

 代わりに何としてでも成果を出すのだ」

 それは最後通達。

 正確にそれを理解した研究所長は、

「は、ははぁっ!」

 と平伏すると、その場を逃げるように去っていったのである。

 

 

 

 城茂は改造人間である。

 電気改造人間たる「仮面ライダーストロンガー」として、悪の秘密結社「ブラック・サタン」と日夜戦っていた。

 しかし、彼にはバックアップしてくれる組織はない。

 その正体を知るのも、同じく脱走改造人間である岬ユリ子と、「仮面ライダー」を影から支えてくれる立花籐兵衛位のものだ。

 ならば何故故にブラック・サタンの活動を発見できるのか。

 それは…、直感。

 恐ろしい事に、彼は「ブラック・サタンの陰謀の匂いがする」という理由だけで物事に首を突っ込み、更に恐ろしい事に本当にブラック・サタンの陰謀を突き止めてしまうのである。

 そして今、茂はブラック・サタンの陰謀を嗅ぎつけていた。

 

 茂が居るのは郊外にある製薬会社の工場だ。

 彼の感が囁いたのか、茂は工場の裏手にバイクを止めた。

「む、これは!」

 彼が目を付けたのはその道路わきに止めてある1台のバイク。

 通常の人が見ればただのネイキッドタイプのバイクにしか見えないだろう。

 しかし、バイクの扱いにも慣れ、更にはかなり細かい所まで整備できるよう籐兵衛に仕込まれていた茂には、このバイクが普通のものでないことが理解できた。

 このバイクのエンジンならば300km/hは出るだろう。

 乗る事の出来る人間ならば、だが。

「こんなものをのりこなすことが出来るのはオレ達(かいぞうにんげん)だけだ、な」

 茂は、己の直感が間違っていないのを確信した。

 

 茂が工場の内部に侵入した時、確信は深まった。

 工場の警備システムが偽装されていたのだ。

 茂は改造電気人間である。

 その気になればこれと同じトリックを弄するのは難しくない。

 問題は、

「オレと同じ改造電気人間が敵だ、って事だろうよ」

 そう言う事だ。

 ストロンガーと同タイプの奇っ械人が製造されたかもしれない、と言う事。

 己と同じスペックの敵と戦うのは、気分のいいものではないだろう。

 しかし、

「来るなら来い! 叩き潰してやる!

 性能が同じなら、後は技術とその想いだ!」

 茂は拳を固めた。

 

 工場の、最も奥まった所にある研究施設。

 そこで茂はガサガサと書類を漁る怪人と遭遇した。

 ライダースーツの様なものを纏い、ヘルメットをかぶったその姿はバイクのライダーであろうか。

 しかし、その気配、これは間違いなく。

「キサマ、ブラック・サタンの奇っ械人だな!」

 そう茂は相手に言い。

 相手が振り向いたとき、茂は、

「なっ!」

 驚いた。

 なぜなら、細部は違うものの、その造作は間違いなく、

「ストロンガー、か…」

 仮面ライダーストロンガー、城茂の変身した姿に似通っていたからである。

 その怪人は、茂を見つめると、

「仮面ライダーストロンガーか」

 そう言うなり、彼に背を向けて書類漁りを継続し始めた。

 茂はあっけにとられた。

 てっきりお互いの命を掛けたやり取りが始まるものと思っていたのだが。

「おい!」

 茂が声を掛ける。

「…少しは静かにしてくれないか。

 騒ぎで人が来るとまずいのは、アナタも一緒だろう?」

 そう言い返された。

 こいつは何を言っているのだろう。

 警戒をしながら茂がそう考えていると。

「…ああ、そう言えば。

 すっかり忘れていたな、城茂。

 自己紹介をしていなかった。

 僕の名前は奇っ械人スパーク。

 アンタのプロトタイプにしてブラック・サタンへの復讐者だよ」

 彼はそう名乗った。

 

 茂は驚いた。

 どう言う事だ?

 彼は何者だ?

 オレの勘は外れたのか?

「僕はブラックサタンに改造されて、様々な実験のモルモットにされたんだ。

 その結果として僕は死んだ、はずだった。

 多分何がしかの実験の結果だったんだろうけど、何かの拍子に僕は生き返った。

 だから、僕はブラックサタンに復讐する。

 でも、僕は君達の様に完成体じゃない。

 ただの試作機で、今使われている奇っ怪人とまともに戦えるほど強くはないんだ。

 だから、こうやって末端から攻めているのさ」

 そう言うと、彼、スパークは茂に書類の束を投げて寄こした。

 茂は改造人間だ。

 星明かりさえあれば、十分に書類程度のものを読むことが可能だ。

 読み進めていく内ちに、茂の表情が変わる。

「これは!」

「そ、ゲルパー薬の製法に関する論文だね。

 これの効果向上を、ここでは行っているって事だ」

 ゲルパー薬。

 それは嘗て暗黒組織ゲルショッカーにおいて使われていた身体強化薬である。

 通常の人間を徹底的に鍛えこんだアスリートや自衛隊員並みの身体能力にし、優秀な人間であれば確実に人間の限界を超える魔法の薬。

 そう、「魔の法」の薬である。

 元々はゲルダム団と言うアフリカの奥地で活動していた秘密結社が全世界規模であるショッカーを取り込んだ時に持って来たもので、未だ公式には発見されていない植物の成分が使われている。

 また、ゲルダム団はオカルト結社でもあり、邪神崇拝を旨としていた。

 そんな所が持って来た薬がまともな訳がなかった。

 この薬に適合すると、3時間ごとに投薬をしなければ「体が溶けて死ぬ」のである。

「ここの製薬会社はブラック・サタンにとっては比較的末端の所なんだよ。

 でもね、確かに組織にとって有用な研究はされていないものの、ブラックサタンからの技術供与で莫大な金を稼いでいる、組織にとっての稼ぎ頭の1つなんだ。

 そんな所がつぶれたらば、どうなると思う?」

 スパークの顔は仮面に隠され見えない。

 が、茂には途轍もなく意地の悪い顔をしているだろう、と想像できた。

「しかし、ここには一般の人間も働いているのだろう?

 彼らに被害が出るんじゃないのか?」

 茂はそれが気がかりだった。

「ああ、それね。

 確かに、まあそれも気になったから夜にしたんだけどね。

 それに、さ」

 茂は嫌な予感がした。

 スパークから感じる嫌な気配。

 茂の持つ超感性、とでも言うべき一種のテレパシーがスパークから強烈な悪意を感じていた。

「ブラック・サタンに加担した人は。

 全て死んじゃえばいいと思うんだよ」

 そうスパークが行った瞬間だ。

 

 轟!!

 

 工場のあちこちから爆発が起こった。

「てめえぇ!」

 茂の声に耳をかさず、スパークは彼に背を向けると研究施設のガラスを蹴破り、外へと脱出した。

 茂は後を追おうとするものの、その耳に逃げ遅れた人達の苦悶の声を聞きつけ、追うのを断念した。

 彼は逃げ遅れた人達の救出に全力を注ぐのであった。

 

 この日、1つの工場から火災が発生した。

 日はそれほど火を置く事もなく鎮火、幸いな事に化学薬品の保管棟などに火が回る事もなく、有害煙の発生なども最小限に抑えられた。

 しかし、後日警察の調査が入った所、火災の原因は軍などで使われる特殊火薬によるテロ行為と判明。

 更に、工場内に未認可の劇物などが大量に持ち込まれていたことが発覚、1ヵ月後、この工場を有する製薬会社が倒産の憂き目をみる事になる。

 これには当時この製薬会社が大きくなる為にかなりの無理をしていた事、その際の後援者であった政治家がテロ行為により暗殺されていたことが大きな原因であった。

 

 

 

 ここは東京湾洋上。

 一隻のタンカーが海上に留まっていた。

 本来ならばとうの昔に港に入り、そして荷物を置いて次の出向を待つはずだった。

 しかし、このタンカーに積まれた荷物を引き取るべき会社が、入港数日前に倒産。

 身動きが取れなくなってしまっていたのである。

「まずいな…」

 そう言ったのは船長。

 タンカーは高度に無人化され、実質船長一人でも扱える代物だ。

 無論この時代にそんな高度なオートメーションシステムがあるはずもない。

 この船の所有は様々な経路をたどらないと分からない様にはなっていたものの、最終的には海外の小さな海運会社になっていた。

 ブラック・サタンの隠れ蓑の1つである。

 そう、このタンカーはブラック・サタンの海外資材の搬入に使われていたのだ。

 しかし、荷物の搬入先であった製薬会社が倒産、と言うよりは工場で行われていた事の露見を恐れた上層部が取るものも取らず逃げ出したため、操業停止状態になった為、にこのようにただ海に浮いているしかなくなってしまったのだ。

 このまま時が過ぎると、タンカーの中身を拝見しようとする輩が出て来るやもしれない。

 それはブラック・サタンにとっては甚だ都合が悪かった。

 仕方ない、そろそろ夜陰に紛れて危険な代物だけでも運び出しておこうか。

 船長はそう考えた。

 その時だ。

「…鼠、か」

 船長はそう呟いた。

 

 海の中から、タンカーの壁をよじ登る人影があった。

「ふう、さっすがに疲れたなあ…」

 そう言うのは、薫。

 彼は東京湾の埠頭から海に飛び込み、泳いでタンカーまでやって来たのだ。

 タンカーの床にしゃがみ込み、一息つく薫。

 そこに。

「ほう、ずいぶんとかわいらしい侵入者だ。

 良かったら名前を教えてくれないかい、坊や」

 そう声が掛かる。

 薫がそちらを振り向くと、船の船長の服装をした人物が立っていた。

 ふ、と薫は息を吐いた。

 こんな所に1人で出てくるのだ。

 少なく見積もってまともじゃない。

 多分彼は…。

「名乗る必要がありますか? 『奇っ怪人』さん」

 そう告げると、彼の顔が顰められた。

「おいおい、あんな下品なものと比べないでくれたまえ。

 ワタシの名は…」

 

 ネプチューン。

 

「海の神だ」

 そう言うと男は帽子を宙に放り投げた。

 それが落ちた時。

「ネプゥ-ッ!!」

 奇っ怪人とは全く違う、光沢のある、まるでギリシャの彫刻の様な体躯がそこに現れていた。

(ネプチューン?

 なんだろう、なんか見たことがあるような…)

 薫が五郎に憑依して5年以上。

 前世の記憶は薄らいでいた。

 しかし、若干なりとも残っていた記憶が違和感を感じさせた。

 

 ネプチューンと言う怪人がブラック・サタンの下で働いているのにはカラクリがあった。

 嘗て存在していたGODと言う組織。

 これは日本と言う国を邪魔なものとして排除しようとした国々が共同出資し、(のろい)という名前の科学者に造らせた暗黒組織であった。

 GODには「神話怪人」という怪人を造りだすシステムがあった。

 今となってははっきりしないのだが、どうやら世界の各地に存在した呪術師の悪魔召喚を機械的に行う事のできるシステムであったようだ。

 呼び出した悪魔を素体となる改造人間に封じる事で普通の人間を超えた超改造人間とでも言うべきものを使役していたようなのだ。

 それがはっきりしたのが召喚元である魔界に、「ネプチューン」を名乗る魔人が存在した事。

 ネプチューンはタイタンと顔見知りであり、タイタンの用意した素体に召喚され現世に降臨した。

 素体が奇っ怪人として調整されていたのは言うまでもない。

 GODの怪人作成能力は高く、いわゆる「再生怪人」が出てくるのもこれを流用したせいである。

 とは言え素体との相性というものがあり、一般的に「再生怪人」が弱いのはこの相性の調整が難しい為であるとブラック・サタンでは結論付けている。

 とは言え、タイタンの用意した素体はネプチューンのために調整されたもの。

 ネプチューンは十全に近い形で薫と対面していた。

 

 薫は腕を十字に胸の前で組んだ。

 その両腕は、変身起動用のコイルが巻きついている。

 そして。

「変・身」

 彼は強く腕をこすりつけるように両腕を左右に振り抜いた。

 強烈なスパークが周囲を明るく照らし出し、そして。

 黒を基調としたボディスーツに赤いプロテクター。

 昆虫の様なフルフェイスヘルメットの、

復讐者(アヴェンジャー)スパーク!」

 がそこには居た。

 

 戦いが始まった。

「そらそら! どうしたスパークとやら!」

 ネプチューンはその手に持った三叉の槍(トライデント)で突いてくる。

 GODで神話怪人として戦った経験のみならず、魔界で幾多の強豪と戦ってきた経験はここでも有利に働いていた。

 しかし、何とか両手の甲でその槍を弾くスパーク。

 槍が当たる度、そこからバチバチと火花が散る。

「ネプゥーッ、ほほう、何やら細工をしているか!

 なかなか面白い事をするものだ!」

「そりゃどうも!」

 余裕を見せるネプチューンに比べ、スパークには余裕がない。

 スパークの防御能力は腕に蓄えた電気。

 これを操作する事によって高い防御力を生み出しているのだ。

 とは言え、これは丁度グローブ部分にのみ何とか張れるものである。

 故に、体に攻撃が当たると当然のことながらダメージを受ける。

「せいっ!」

 ネプチューンの振り回した槍の切っ先を回避するものの、直後に繰り出された石突きを喰らい、吹っ飛ばされるスパーク。

「ネプゥー。

 ふむ、この程度、かね?

 少々期待外れだ…、 !!」

 ネプチューンがそう言った時だ。

 ぐらりと船が傾いた。

「なんだ!?

 何が起こった!?」

 その言葉に合わせ、ふらりと立ち上がったのはスパーク。

 ネプチューンは悟った。

 こいつが何かしたのだと。

「キサマ! 一体何をした!?」

 スパークはその言葉に肩を竦めた。

「そんなややこしい事はしてませんよ?

 ただね、僕はブラック・サタンを逃げ出す時にバイクを1つかっぱらってきたんですよ」

「それが何を…、キサマ、まさか!」

 その通り。

 スパークは仮面の下でにやりと(わら)った。

 暗黒組織の作る乗り物、そしてその敵対者たる仮面ライダーの乗り物は、様々な特殊能力が付加されている事も多い。

 そう、かつてネプチューンが戦ったXライダー、奴の愛機であるクルーザーXには、水陸両用の移動能力とジャンプ能力、そして。

「自動操縦モードって奴ですねえ。

 いま、僕の『ビートラー』がこの船の船底に体当たりかましてんですよ。

 いつまで持つと思います? この船」

 この船を沈められては任務が果たせず、タイタンにも面目が立たない。

 そう考えたネプチューンは慌てて海に飛び込もうと船のへりを飛び越え、そして。

 

 ごっ!

 

 水中より飛び出してきたバイク、「ビートラー」に弾き飛ばされた。

「ぐはあっ!」

 ビートラーに圧し掛かられ、空中で身動きが取れなくなったままネプチューンは落ちてくる。

 それを見逃すスパークではなかった。

「ぬああああぁぁぁあっ!!」

 ぎりぎりと体に力を溜め、そして。

「せやあっ!!」

 ネプチューンの胴めがけて必殺のドロップキックを放った。

 ビートラーと右の足に挟まれたネプチューンの胴体。

 それはめりめりと音を立て一瞬拮抗した後、

 

 ずばん!

 

 丁度腹部のあたりで、ずっぱりと切断された。

 これで勝った!

 そう思ったスパークだが。

(なんだろう、何か忘れている…)

 思い出せない。

 その時だ。

 仕留めたはずのネプチューンと目があった。

(まだ生きて!?

 そうか! こいつ確か!!)

 スパークが両腕を振り上げたのと、ネプチューンの首が取れ、スパークへと迫って来るのは同時だった。

「死ねい! スパークとやら!! 我と共に!!」

「やかましいわ!」

 振り下ろした腕がネプチューンの頭部を掴み、

「タッチ、ダウンだ!!」

 全身のばねを活かしてタンカーの甲板に叩きつけた!

 甲板を簡単に突きぬけ、頭部は船の中に転げ落ちていく。

 ネプチューンの頭部には仮面ライダーすら爆殺出来るだけの合成火薬が仕込まれていた。

 船の中に転がり込んだ頭部が、

 どおん!

 と吹き飛ぶと共に、周囲に警報が鳴り響く。

「まずいな…、とにかく情報を手に入れておかないと」

 スパークはそう言い、操舵室を調査する為に立ち去って行った。

 

 

 

 東京湾にて未明に起きたタンカー事故。

 マスコミはこれを「第二の第十雄洋丸事件」として騒ぎたてた。

 昨年に起きたタンカー事故、その教訓として羽田基地にて教育・研修を受けていた特殊救難隊が急きょ出動する事になり、間一髪、見事事故の拡大を防いで見せた。

 海上保安庁は面目を保ったのだが、ここからは裏の話。

 タンカーに使われていた技術は到底当時の水準からはかけ離れていた。

 この技術の吸収が国家、そして企業の最優先事項となったのだが、この技術を取り込もうとする度にその者達は何者かの襲撃を受ける事になる。

 そして、同時に奇妙な風体の人物に助けられる事になるのだが、助けられた者達は口々にこう言っていた。

「仮面ライダーに助けられた」と。

 仮面ライダーストロンガーの伝説は、都市伝説からまことしやかに格上げされていったのである。

 

 

 

「ふざけるなあっ!」

 タイタンは拳を振り下ろした。

 大幹部の証である椅子、その肘掛け部分が破壊された。

 研究員の不足から資金源の倒産、物資の紛失、どれもこれも単体では致命傷には程遠い。

 しかし、全てが重なると、確実に世界征服の足取りは重くなっていた。

 タイタンすら首領であるブラックサタンからお叱りを受ける始末。

「おのれぇ、おのれぇ! 許さんぞ仮面ライダーストロンガー!!」

 タイタンには参謀が居ない。

 彼は優秀であるが故に、全てを自分で管理していた。

 そして彼は無能な部下には途轍もなく冷徹な対応、つまりは死を以って当たった。

 故に。

 タイタンに入る情報は、よほどのことがない限り、耳触りの良いものばかりになっていたのである。

 その為に今タイタンの手駒を減らしているのがストロンガーとスパークという2人であることが情報として入ってきていなかったのである。

 現場においてもストロンガーとスパークはそのパーツが似ている為に混同されやすいというのも混乱に拍車を掛けていた。

 そしてそのタイタンの狂乱を冷めた目で見ているものが1人。

 タイタンとは真逆の白いフェンシングスーツのような戦闘服に身を包み、皮膚が失われて筋肉がむき出しになったような顔を透明なクリスタルで出来たフェンシングのマスクの様なヘルメットで覆っている。

 ゼネラル・シャドウだ。

「ふむ、満ち足りているが故の苦悩、と言ったところか。

 無様な」

 シャドウはブラックサタンから大幹部として招聘されたとはいえ、肥大しすぎた組織の穴を埋めるために雇われた外様である。

 そうであるが故に、部下を使い潰す余裕はなく、その結果部下から正確な情報が上がって来ていた。

 今の所、ストロンガー達と直接戦わなくてすんでいるから、と言うのもあるだろう。

 シャドウは敵となっている改造人間がストロンガーとタックル、そしてスパークと言う2組居ることを把握していた。

 その戦い方も対照的だ。

 恐ろしくピンポイントにやって来てはブラック・サタンの計画を潰していくストロンガー。

 予知能力でも持っているのではと思ってしまうほどだ。

 そして、何処から仕入れているのかブラック・サタンの情報を入手し、それを元にして計画的に末端を砕いていくスパーク。

 なかなかに興味深い存在だ。

「ふむ、一度接触してみるか、ね」

 シャドウは不敵に微笑んだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。