仮面ライダー/ダークサイド   作:黒羆屋

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すいません、完結しませんでした。
完結編で終了させます。
バトルシーンまで行けなかったよ…。

今回はいろいろねつ造が入ってます。
お気を付けください。


後篇

「電・キック!」

 仮面ライダーストロンガーの必殺の蹴り、電キックが叩き込まれ、奇っ怪人カメレオーンが天高く吹き飛ばされる。

 そして爆発!

 ストロンガーは今日も日本の平和を守った。

「…お見事。

 羨ましいねえ、あの力は…」

 そう愚痴の様に呟くのは近くに居た中年の女性だ。

 ちょっと派手目のファッションが特徴のこれと言って特徴のないおばちゃんである。

 彼女はその場を離れると木々の間を通り抜けていく。

 そして、現れたのは。

「さて、こっちはこっちで動こうかな…」

 復讐者スパークを名乗る少年、薫であった。

 

 薫がこうもこそこそと動くのには理由がある。

 単純な話、弱いのだ。

 奇っ怪人の何体かと戦った事もある。

 サソリ奇っ怪人には危うく腕のハサミで首を切り落とされそうになったし、奇っ怪人ゴロンガメには攻撃自体が通用しなかった。

 その為、薫は自分の戦い方を模索するとともに、出来るだけ戦いを避け、ブラック・サタンに嫌がらせの様な経済的ダメージを与えることを前提に動いていた。

 とは言え、ブラックサタンの支部を幾つも崩壊させ、城茂に接触する度にブラック・サタンの拠点のヒントを告げてストロンガーを誘導している薫は、ブラック・サタンから見れば途轍もなく厄介な相手だろう。

 ストロンガーと違い、己の弱さを知っている薫は逃げることに躊躇がない。

 だからこそ、この数ヶ月を何とか生き延びてきたのだが。

「待ちなよ、そこの坊や」

 呼び止められた薫は振り向いた。

「おねーさん、なんの用?」

 純真無垢を装ってそう尋ねる薫。

 少々けばけばしい化粧をした女性、意外な事にそれが良く似合っていた、は薫の顔を覗き込み、

「ふぅん、シャドウ様はこんなのに興味があるんだねえ…」

 そう呟いた。

 しゃどうさま?

 薫は一瞬誰の事かと考えて、その人物に思い当った。

 ゼネラルシャドウ。

 ブラック・サタンの雇われ大幹部である存在だ。

 薫は表情に動揺が出るのを必死にこらえて女に言った。

「で、そのシャドウ様がどうかしたの、おねーさん」

「なに、ちょいとそこにいらしてるんでね、アンタとお話がしたいんだと、さ」

 女はいとも簡単に恐ろしい事を言い放った。

 ブラック・サタンの大幹部。

 これは通常の組織ならば、指揮能力の高い通常の人間が来る所だが、暗黒組織に関しては、上層部になればなるほど強いのが困りものだ。

 とは言え、薫はこの女性に並々ならぬものを感じていた。

 この女は確実に自分より強い。

 …ならば、付いていくしかあるまい。

 薫は肩を竦め、了承の意を伝えた。

 

 この当時、繁華街から一本入ると、意外なほど人の気配がない所が存在する。

 ビルとビルの谷間にある空き地、そこに、異様な人物が立っていた。

 全身を白い、まるでフェンシングでもするかのようなボディスーツ。

 その下にあるのは明らかに鍛えられた武人の肉体だ。

 肩からマントを掛け、腰にはレイピアだろうか、細身の長剣が吊られていた。

 そしてその頭部。

 何らかの拷問にあったのか、それとも体内からの力に耐えきれなかったのか。

 どうやら筋肉がむき出しになった顔、それを透明なフードで保護しているのか。

 フードの下から薫を見ている目。

 まるで獲物を値踏みする猛禽のそれである。

 その怪人が、薫に対して名乗った。

「ワタシの名はゼネラルシャドウ。

 お初にお目に掛かる、奇っ怪人スパーク」

 シャドウは慇懃無礼に一礼した。

 

「奇っ怪人スパークです。

 ブラック・サタンの大幹部に先に名乗りを受けるとは光栄ですよ、ミスタ・ゼネラルシャドウ」

 薫も出来るだけ隙を見せないように名乗りを返したつもりだ。

 現在の状況は薫にとって詰んでいると言って良い。

 シャドウの実力なら薫を逃がすことはあり得ないし、その傍らに立つ女も薫以上の実力者だ。

 とは言え、彼らがただ呼び出して世間話、ないしは薫の抹殺と言うのであればわざわざこんな手の込んだ、しかも行き当たりばったりの呼び出しは掛けないだろう。

 そもそも、スパークはストロンガーに劣る。

 それは向こうも分かっている事だろうから。

 …ここで薫は1つ思い違いをしていた。

 ゼネラルシャドウはともかく、ブラック・サタンという組織はスパークを把握していないのである。

 歴代の暗黒組織を吸収し、急速に肥大化した組織は命令系統がしっかりしておらず、その為大首領から大幹部であるタイタンへの情報の流れがスムーズにいっていなかった。

 それを正すためにシャドウは雇われたはずなのだが、大首領はタイタンを優遇し、シャドウに権限を回してくれない。

 トップダウン方式の中小企業が急激に大企業に発展したようなもので、未だトップのワンマン方式が是正されていないが故の弊害であった。

 

「で、僕になんの用でしょうか?

 僕は大したことをしている訳ではないはずですけどね」

 薫は謙遜抜きでそう言った。

 スパークが倒した奇っ怪人はたった2体。

 ストロンガーは10体に及ぶ。

 奇っ怪人の改造適合者はかなり少なく、また個体個体によって調整を変えなければならない為に工業製品的量産が出来ない。

 正にハンドメイドなのだ。

 ただし、それだけあって戦闘能力は抜群だ。

 試作型で戦闘能力の低いスパークですら、現代のアメリカ軍の大隊と戦って無傷とは言えないにしても勝利することが可能だ。

 完成体の奇っ怪人なら大隊どころか軍団と戦えるだろう。

 戦車にすれば100台どころではない戦力と互角の個体を既に10体破壊している仮面ライダーストロンガー。

 その脅威がどれだけのものか、推して知るべしだ。

 自分にかまけている場合じゃないだろう、そう薫は思うのだが。

「いや、ただ純粋に君に会ってみたかっただけだ。

 スパーク君」

 シャドウはその本心をなかなか見せない。

「そんなに暇じゃないでしょうに。

 ブラック・サタンの内情はある程度知ってますからね、肥大化しすぎてがたがたじゃないですか。

 それの立て直しをするためにアナタが入ったんでしょうに」

 そう、薫の戦いは急速に肥大し、あちこちに出来た組織の穴を付く事でブラック・サタンを崩壊させようとしている。

 そしてその行為はゼネラルシャドウにとっても邪魔なものなはずなのだが。

「ふっ、そうだな、君のおかげで組織に大きな亀裂が入っている。

 とはいえ、な。

 その工作員としての能力、それをワタシは買っているのだよ。

 その情報を扱いきる分析能力、そしてその擬態能力」

 シャドウは薫に鋭い目を向けた。

 そう、試作型奇っ怪人スパークに与えられていた特殊能力、それは擬態能力。

 最も、これは奇っ怪人の姿から人間の姿に変身する能力の実験用として組み込まれたもので、スパークは沼田五郎の姿の他に男女4パターンに変身できるのだ。

 これを使って今までブラック・サタンや官憲の目をすり抜けてきたのである。

 それもお見通し、と言うより、性能諸元を見たのだろう。

「つまり、僕を部下として引き入れたい、と?」

「その通り」

「断る」

 そう言った瞬間だ。

 薫の首に蛇が巻きついた。

 シャドウの傍らにいた女、彼女の左腕が蛇となり、長く伸びて薫の首に絡みついたのだ。

「貴様ぁ! ゼネラルシャドウ様に対して…」「よせ、蛇女」

 怒りを見せる女、蛇女をシャドウは抑えた。

 そして動揺する振りすらしない薫に対して「何故?」聞いた。

 彼の答えは簡潔。

「アナタがブラック・サタンの一員だから、ですよ」

 何を当然のことを、と言う顔をする薫。

 今の薫にとって、ブラック・サタンは殲滅すべき怨敵。

 それに関わるものも全て殲滅する対象である。

 ブラック・サタンに便宜を図る政治家、そこから金を受け取る企業、知らずに奇っ怪人のパーツを造る場末の工場まで、薫は敵であると認識していた。

 その彼が何故故にブラック・サタンの大幹部に使えなければならないのか。

 これがもう少し扱いやすい、力だけの脳みそお花畑の様な脳筋ならば、取り入って利用しようとも思う。

 しかしこいつは無理だ、薫はそう判断していた。

 明らかにこいつは英傑だ。

 己の信念に従って愚かな行動をとる事はあっても、こちらの良い様に使える手駒には絶対にならない。

 むしろこちらが取り込まれる危険性がある、そう考えた。

 故に、薫としては断る1択しか残っていないのだ。

 ゼネラルシャドウは肩を竦めると、

「ならば仕方ないな、諦めよう」

 そう言った。

 意外なほどにあっけなく。

 薫は拍子抜けした顔をした。

 それはそうだろう。

 これだけの男が出てきて、これで終わりとはだれも思うまい。

 とは言え、これは様子見と考えるべきか、さもなければ、己の野心のために薫を利用する気なのか。

 …それでも構うまい。

 今の薫にとっての至上は「ブラック・サタンの殲滅」であり、その目的に利用できるものは何でも使うつもりであった。

 故に、ゼネラルシャドウが内部で陰謀をたくらむのなら、それは好都合である。

 問題はどうやってこちらの動きを呼んでいるか、だが。

「…1つ聞いて良いですか?」

「何かね?」

「僕の居場所をどうやって知ったんですか?」

 シャドウは肩を竦め、胸元からトランプを出した。

「これだが」

「え?」

 占い?

 本気?

 そう思った瞬間、凄まじい殺気が蛇女から放たれ、薫は慌てて視線を逸らした。

 とは言え、何とも厄介な。

 理論も情報も全てすっ飛ばして結論に至るという事か。

 どんな偽造も無駄と言う事。

 薫は溜息をついた。

 占いという手段で自分を捕捉出来るなら、本来ブラック・サタンに忠誠を誓うべきゼネラルシャドウならば薫を排除に動くはず。

 それをしないというのであれば、シャドウには別目的があるのだろう。

 …そう言う事か。

 薫はシャドウの目的に気がついた。

 シャドウは薫を潜在的な味方として見ているのだと。

 シャドウはブラック・サタンの内部で何らかの工作をしており、ゼネラルシャドウの陣営にダメージを与えず、タイタンの側にダメージを与えることを薫に期待しているのだと。

 ならばこちらもそれに乗り、少しでもブラック・サタンにダメージを入れさせてもらうとしよう。

 薫は肩を竦め、立ち去ろうとした。

 その時。

 ひゅっ!

 薫は咄嗟に手でそれを受け止めた。

 人差し指と中指で受け止めたそれ。

 トランプ、その。

「スペードの6、ですか…」

 それを投げ捨て、薫は去っていった。

 

 ゼネラルシャドウは満足気であった。

「よろしいのですか、シャドウ様?

 あ奴は後々シャドウ様の覇道の邪魔となりませんでしょうか…」

 心配げにシャドウに話しかける蛇女。

 シャドウは彼女を安心させるように声を掛けた。

「問題ない。

 先のトランプ。

 その占いの意味は『苦難の末目的が達せられる』だ。

 ならば、ブラック・サタンの破滅は決まったようなもの。

 …蛇女、魔界にて行動の準備を。

 この地上はブラックサタンごときにくれてやるのは惜しい。

 我ら『デルザー』こそが、覇者となるにふさわしい事を教えてやらねばな」

 彼の言葉を聞き、感動に打ち震える蛇女。

「おお、おお! やっと、やっと立つのですね、ゼネラルシャドウ!

 ブラック・サタンを取り込み、あの愚かな血統主義者どもをその支配下におく時が!

 シャドウ様、ワタシはアナタ様に生涯の忠誠を誓います!

 ぜひとも、アナタ様の覇道にご一緒させてくださいませ!!」

 蛇女の言葉を聞きつつ、ゼネラルシャドウはこれより「デルザー軍団」の一員として、ブラック・サタンの力をじわじわと掌握していく事になるのである。

 

「しかし、何とも哀れな存在よ。

 己が最も憎むものが、己自身と知った時、あれはどうなってしまうのだろうなあ」

「シャドウ様、どうかなされましたか?」

「なんでもない、行くぞ、蛇女」

 

 

 

 あれから更に数ヶ月。

 薫の戦いはまだ終わってはいなかった。

 ブラック・サタンのコンピューターからの情報で百目となったタイタンがストロンガーに倒された事は知っていた。

 薫はブラック・サタンの息の掛かった企業やブラック・サタンの資材を乗せたタンカー、資材を溜めこんでいる秘密基地への破壊工作、ブラック・サタンに便宜を図る官僚・政治家の暗殺にその護衛についていた旧暗黒組織の生き残りの怪人達との戦いに明け暮れていた。

 ブラック・サタンは今や張り子の虎となっていた。

 一見組織としては十分な体勢を持っている。

 しかし、良く良く調査してみれば、今まで主流派であった旧タイタン派閥は薫のテロ工作でガタガタになっていた。

 残りは外様であるはずのゼネラルシャドウの息の掛かった所ばかり。

 わざわざ狙ってやっている訳ではないものの、タイタンの派閥は組織拡大に有効な企業や人脈が揃っていた為、標的としては優先順位が高かったのだ。

 まあ、組織の中核に居るタイタンがそういった所を独占し、外様であるシャドウに割を食わせていた、と言うのも事実だ。

 その結果、薫の標的になり、その派閥の資産をぼろぼろに食い破られてしまったのは仕方のない事だろう。

 今頃は次代の大幹部である「デッドライオン」が就任している頃だろうが、何時までふんぞり返っていられるだろうか。

 薫は秋の雨に打たれながら黒い笑みを浮かべていた。

 …しかし、自分はいったい何者なのか。

 スパークとしての自分には自己修復能力を司る装置が取り付けられている。

 これは自己の保守点検機能と同時に自己検査機能も付いているのだが。

 問題は。

「大脳の一部が損傷したまま戻らない事なんだよね」

 人格を司る前頭葉の部分が死滅している。

 これは元々の体の持ち主である「沼田五郎」と言う人格の死でもあった。

 いくら機能を働かせてもこの部分の再生は出来なかった。

 ならば。

「僕と言う人格はどこにあるのか」

 という疑問が湧き上がってくるのである。

 人の人格は脳にある、はずだ。

 しかし、この世界には「オカルト」が存在する。

 ブラック・サタンの使うサタン虫などはその典型だろう。

 人間に寄生し、乗り移って自在に操るなど。

 そう考えると自分もオカルトの産物なのだろうか。

 そう考えて、薫は肩をすくめた。

「幽霊なんて、オカルトそのものじゃん。

 考えても無駄かなあ」

 毎回同じ結論に達する薫であった。

 …あえて考えないようにしている節もあるのだが。

 

「ちょっと君、ずぶ濡れじゃないの!?」

「…え?」

 考えに没頭していた薫はその声に反応しきれなかった。

 目の前には涼やかな瞳、ふわりとした髪型の女性が薫を覗き込んでいた。

 薫はここ数カ月で鍛えられたポーカーフェースで驚きを抑えながら、無邪気を装い答えた。

「おねーさんどうかしたの?

 僕はねえ、いま、雨に打たれてみたかったんだ。

 ほら、『雨に打たれて 消えるなら~』って歌あるじゃない?」

 丁度その頃、そういった歌がはやっていたのは事実。

 それをネタに何とかごまかそうと思ったものの。

「それ、子どもの聞く歌じゃないわよ…」

 呆れられてしまった。

 そして、

「ほら、そのまんまじゃ風邪をひくわ。

 近くにワタシの知り合いが居るから、タオルを貸してもらいましょう?

 ついて来て」

 と、ほぼ無理やりに引っ張っていかれる。

 何と答えたものだか。

 薫は彼女、岬ユリ子の顔を見ながら思案するのであった。

 

 引っ張っていかれたのは近くの空き地。

 そこにジープが止まっていた。

 ジープの傍にはタ―プと呼ばれるテントの一種で屋根を作り、その下ではテーブルの上で湯が湧かされていた。

 このジープの持ち主は野外活動などが得意なのだろう。

 薫も野外で暮らすことが多く、と言うかこの数カ月は野外で暮らしていたのだが、それは改造人間としての丈夫さを活かしてのものであり、とても人がましい生活とは言えなかった。。

 中古であろうジープの中はそれなり清潔に整えられており、この中で生活しても何とかなりそうな感じを受けた。

 背後に入っているのは工具箱だろうか。

 普通の工具に混じって、バイクをいじる時に使うものが見える。

 …そうか、この持ち主が。

「どうかしたかい、ユリ子ちゃん」

「ちょっとね、濡れ猫を拾っちゃったのよ、籐兵衛のおじさん」

 立花籐兵衛。

 仮面ライダー達の精神的主柱の1人、か。

 確かにこの人の笑みはどこか孤独な人間の心を溶かす。

 …それが時に、その者の苦痛となる事があるとしても、だ。

 

 薫は汗をかく事がない。

 正確には、汗をかく事は可能だが、かく必要がないのだ。

 彼の人としての代謝は全て体内の自己修復装置が管理している。

 必要な栄養素を装置が提示し、それを薫が食べる事で必要なものを取り込むことが出来ている。

 ついでに言うなれば、薫の、と言うか奇っ怪人スパークの人間部分はとても少ない。

 実験体として造られた彼は、段階的に生体部分を削られ、更には一度死亡した事によりその大半を合成タンパクに交換されていた。

 元から持っている生体部分は脳と神経の一部、脳幹の一部のみなのである。

 後は人工的に合成されたタンパクや金属パーツであり、それらは時々クズ鉄として捨てられているものを食する事で十二分に維持出来ている。

 どうしても足りない希少物質とて、ブラック・サタンの提携企業を襲撃した際などに補給してしまう為、困った事はない。

 困るのは衣食住のうち、衣、つまりは着る物である。

 この時代、まだまだ飽食の時代とは言えず、使える物は使い切る時代である。

 それなりに着る事の出来る服が捨てられているのは都市部である。

 ところがそういったものを回収する為には余りみっともない服装をしていると周囲から警察を呼ばれてしまう。

 きれいな服を拾う為には小奇麗な格好をしなければならない。

 そういった二律背反に薫は常に悩まされていた。

 そうであるが故、薫にとって、入浴や水浴びなどは不要、せいぜいが体表の汚れを拭うくらいで十分なのであるが。

「ほら、さっさと着替える!

 風邪引いちゃうでしょ!!」

 何故、自分はユリ子にかいがいしく世話をされているのであろうか。

 濡れた服を引っぺがされ、がしがしとタオルで体を拭かれた。

 今、薫の格好は男物のシャツ(何故かSのマークの入ったものばかりがあった)を羽織ってその上から籐兵衛のものらしいジャンパーを肩から掛け、籐兵衛の淹れた珈琲をちびちびと飲んでいる。

「…美味しい」

 苦みと酸味のバランスが丁度良く、素直においしいと言える味だ。

「そうかそうか! これでも暫く前は珈琲店をやってたんだ!

 君にも分かるかあ…」

 籐兵衛は素直にうれしそうな顔をする。

 そうすると、年月を重ねてきた皺のある男の顔の中に、嘗ての少年がふっと登って来る。

 そうか、この人の魅力はこう言う所なんだな、と、薫は素直に感心した。

 このあけっぴろげな魅力が孤独な戦士達の心を癒すのだろう。

 しかし。

(そこに安寧する訳には、いかないんだよ…)

 薫にとってはそれは害毒に等しい。

 本来、薫は善良な、そして無知な少年だ。

 それが憎しみを抱えたままひたすら生きるのは辛いものだ。

 その為、薫は復讐に生きると決めた、いや決められた日から人がましい生活を止めていた。

 この暖かさが今の薫を壊す。

 彼は礼を言ってここを去るべきだと判断した。

 雨が上がり、濡れた服も乾いた。

「どうもすいません、お世話になっちゃって。

 それじゃあ僕はこれにて失礼させて…」

「待てよ、おい」

 彼らの前から消えようと思っていた薫。

 それを呼びとめたのは。

「茂…」

 城茂、仮面ライダーストロンガーだった。

 

「…これで会うのは2度目ですか…」

 内心の動揺を隠して、薫は目の前の男にそう言った。

 仮面ライダーストロンガー。

 それは最強の仮面ライダー。

 戦闘能力は言うまでもない。

 後発であるはずの奇っ怪人達を捻り潰していくその強さは、改造人間と言うだけでなく、明らかに素体である城茂の強さが基礎になっていた。

 そして調査能力も頭抜けている。

 直感の凄まじさ、と言おうか。

 超能力じみた直観力でブラック・サタンを追い詰めていた。

 行く先々でブラック・サタンの奇っ怪人と遭遇、そして撃破。

 おかげで薫は奇っ怪人ではなく、大体はその旧式である怪人達を相手取るだけで何とかなっていた。

 最も、奇っ怪人ほどではなくとも怪人達は十分に強く、自己修復装置がなければ薫はとうの昔にスクラップだったであろう。

 ついでに言えば、暗黒組織間での技術提携などはなく、怪人達のメンテナンスが出来るのは各組織を吸収合併していたブラック・サタンのみであった。

 しかし、ブラック・サタンは怪人達のメンテナンスを十分にする事無く、使い潰していった。

 ゼネラルシャドウへの風当たりと言い、このあたり、組織の長であるブラックサタン大首領の狭量さがにじみ出ていると言えよう。

 そのような整備不十分な状態であったが故に、薫、奇っ怪人スパークは生き延びることが出来たのである。

 ここでストロンガーと戦う事になれば、まず勝てまい。

 正直に言えば、スパークは不完全な改造人間であるタックルよりも一段弱いのだ。

 戦えば勝つことが出来ようが、それは「沼田五郎」の身体能力と経験ががあってこそだ。

 元々、薫は戦いに向いていない。

 ここ数カ月で途轍もない戦闘の経験を積んだとはいえ、それはタックルも同じ。

 薫はストロンガー、そしてタックルを同時に敵に回す可能性を考え、内心怖気を振るった。

 だからと言って顔に出す事はない。

 腹芸だけが上手になっていく自分に嫌悪を感じつつ、薫は茂、そしてユリ子と籐兵衛に向かい合った。

 

「1つ聞きたい事がある。

 お前は『五郎』なのか?」

 茂は先の戦いで沼田五郎が試作品改造人間として散々実験された上に殺された事を知っていた。

 その時のコードネームが「スパーク」であった。

 それと同じ名前を持つ存在。

 もしかして、と思っても仕方がないだろう。

 それに対して、薫は、

「ああ、初代の事ですか」

 嘘をつく事にした。

「初代、だと?」

「この体はリサイクル品なんですよ。

 アナタの言う『沼田五郎』は初代スパークですよ。

 彼が死んでしまったので、彼からパーツを引っぺがしてそれを埋め込まれたのが僕って事です。

 元々その沼田さん、でしたっけ、彼に最適化されていた部品だったんでね、僕の性能は間違いなく奇っ怪人最低でしょう。

 まあ、その不具合のおかげで洗脳操作が上手く行かなくて逃げ出すことが出来たんですけどね」

 そう言って、平然とした顔で薫は肩をすくめた。

 沼田五郎。 

 その名前を聞くだけで、未だにその心の傷は激痛を発するほどなのに。

「…てめぇ」

 茂が睨みつけて来る。

 まあそうだろう、親友の死を冒涜されているように感じているのだろうから。

「おっと、僕にあたっても仕方ないでしょう?

 僕だって好きでこんな体になった訳じゃないんですから」

 そう、薫はあの時のまま、五郎と一緒に、アメリカンフットボールをしたり、幼い兄弟達と遊んだり、気になる女の子の攻略法を考えている方が良かった。

 ライスボウル、行きたかったなあ、そう考えてしまうのだ。

「それに、良いんですかね、僕をどうにかするって事は、相対的にブラック・サタンの力が増す、って事でもあるんですがねえ」

 皮肉気にそう(わら)ってみせる。

 ここは(わら)うシーンだろう。

 僕はあくまで復讐者、(ストロンガー)の様な本当の正義の味方とは違う。

 力の差は歴然としている。

 そして、何と言っても。

 彼は自分の様に薄汚れてはいない。

 薫は感じていたのであろうか。

 自分、と言う存在を。

 

 茂、そしてユリ子と籐兵衛は薫に対して、自分達と一緒に戦おう、と誘ってくれていた。

 それに対し、薫は。

「お断りします。

 僕にはメリットがない」

 すげなくあしらっていた。

「なぜだ!

 お前は『自分が強くない』と言ってただろうが!

 戦うならば数が多い方がいいんじゃねえのか?」

 そう言い募る茂に対し、

「理由はいくつかありますがね。

 一番大きいのは『敵』の認識の違いですよ」

 そう、薫にとってはブラック・サタンに友好的に関わる全てが敵であった。

 そうと知らずにブラック・サタンに加担している者も彼にとっては憎悪の対象である。

 それを殲滅するのが薫の戦い方。

 そして、今ブラック・サタンの中に居るゼネラルシャドウなどは内部でクーデターを画策している関係上、薫にとっては敵対する必要を感じていない。

 このあたりストロンガーの戦い方とは全く方向性が違う。

 ストロンガーに味方するのであれば確実にゼネラルシャドウを敵に回すだろう。

 それは御免蒙りたいのである。

 このままブラックサタン大首領の寝首を掻いてくれるならよし、出来ないのであればストロンガーを送り込むか、さもなくば。

(僕自身で殺したい…)

 それが本音。

 薫はひたすらに己の憎しみを掻き立て、ブラック・サタンへの憎悪を醸造していた。

 そのためにも、彼らの様な傷を癒す存在とは一緒に戦えない。

 でなければ戦えなくなってしまう。

 それは、今の薫にとっては死も同然だからだ。

「僕とあなた方では道が違うんですよ。

 …失礼します。

 必要とあればお手伝いはしますけどね、多分いらないでしょ」

 皮肉げに嗤って、薫はその場を後にした。

 

「あの野郎…!」

 忌々しげに薫の去った後を睨みつける茂。

 彼にとっては五郎の残したものを使い、ひたすらに周囲を巻き添えにしているようにしか見えなかった。

 実際、それは正しいのであるが。

 犯罪を犯した企業にそれと知らず所属している事は悪か。

 政治の世界では事を成すためには綺麗事だけでは何もできないであろう。

 それらを己の判断のみで断罪、私刑する事は正しいのか。

 少なくとも、籐兵衛の様な「まともな大人」と生きていく事の出来ている茂やユリ子には正しいとは思えなかった。

 そして、死んでしまった五郎もそう言うだろう。

 しかし。

「あの目…」

 籐兵衛がぽつりと呟いた。

「? どうかしたのかい、おやっさん」

 茂が尋ねる。

「あの瞳、あれに映った光にさ、見覚えがあったんだよ…」

 独り言のように呟く籐兵衛に、疑問の瞳を向ける茂とユリ子。

 籐兵衛はふっと思考の海から帰り、

「ああ、さっきの少年な、あんな風に言ってはいたが、もしかしたら違うかも知れん、と思ってなあ」

「え? どう言う事、おじさん?」

「…前に、あんな目をした奴に会った事があったんだよ」

 それは籐兵衛にとって大事な出会い。

 丁度知り合いに頼まれて1年だけスポーツ用品店を経営していた時のことだ。

 その時代にはレーシングクラブと掛け持ちで珈琲店を経営していた籐兵衛だが、使っていた珈琲豆は当時珍しいニカラグア産であった。

 ところがそのニカラグアで大規模な地震が起き、仕入れていた豆が手に入らなくなりつつあった。

 困った籐兵衛はいったん店を畳む事とし、改めて珈琲店を経営する為に親戚が休んでいる間の1年間だけという契約で雇われ店長をしていた。

 その時に会った青年の事だ。

 飢えた猫科の獣のような目をした青年。

 復讐のために生きていた男だ。

 彼の名を「風見志郎」と言う。

 仮面ライダーV3である。

 彼は両親と妹を暗黒組織「デストロン」に殺され、瀕死の重傷を負った彼の命を改造手術で救った仮面ライダー1号、2号をデストロンの怪人カメバズーカによって失っていた。

 仮面ライダー1号、2号は後に死んでいなかったことが判明したものの、当時の志郎は復讐のために全てを犠牲にするつもりで生きていた。

 その時の志郎の目、それが先の少年の目に重なるのだ。

「彼はまだワシらに話していない事があるんだろう。

 あの子は多分、とても大事なものをブラック・サタンに奪われた。

 茂、多分だけどな、ユリ子が居なかったら、ああなっていたのはお前かもしれん…」

 籐兵衛はそう言うと、また己の考えに沈んでいった。




立花さんが使っていた豆がニカラグア産というのはねつ造です。
当時はニカラグア産の豆はヨーロッパメインで輸出されており、日本に入ってきていたかどうかは不明です。
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