仮面ライダー/ダークサイド   作:黒羆屋

4 / 4
これで完結です。


完結篇

 その日、復讐者を名乗る奇っ怪人スパークこと薫は途轍もない強敵と対峙する羽目になっていた。

 彼は、ブラック・サタンの秘密基地の1つを襲撃していた。

 中には科学者達と戦闘員達。

 コンピューターより引き出した情報より、そこに奇っ怪人はいないと分かっていた為、薫は迷わず襲撃ポイントに選んだ。

 戦闘員と科学者はブラック・サタンの持つ資源の中でもなかなか増やす事に出来ないものだ。

 故に、それを狙えばブラック・サタンの弱体化を促進できるというものだ。

 さらに言えば、その基地は旧タイタン派閥の所有であり、ゼネラルシャドウに睨まれる心配をせずに破壊できるという点も襲撃を選んだポイントであった。

 襲撃そのものは成功した。

 基地の中に居た戦闘員、科学者を皆殺しにし、そして奇っ怪人の素体となっていた者達を殺した。

 この行為は薫にとって既に流れ作業となっている、つもりだった、彼にとっては。

 本質的に薫と言う少年はおとなしい、優しい少年だった。

 それが殺人に手を染めているのは、復讐の為。

 そして復讐の為と言うお題目で行われる殺人行為は、少年にとって途轍もないストレスであった。

 それを気付かぬふりをして彼は淡々と復讐を続けていく。

 その時であった。

 ()()に出会ってしまったのは。

 

 その相手とは。

「くたばりな! 出来損ないぃッ!

 電っ・パンチぃっ!!」

 仮面ライダーストロンガー。

 その()()()が薫の傍を掠める。

 奇っ怪人スパークは改造電気人間、そのプロトタイプでもある。

 その為、拳から漏れる電気によってダメージを受ける事はない。

 しかし、物理的威力は軽減なぞ出来ない。

 喰らえば致命的な損傷を受けることは間違いない。

「動くんじゃねえよクズがぁッ!」

 その声に、スパークの動きが鈍る。

 怯えているのか、自分は?

 そう思う間もなく、黒いストロンガーのサイドキックがスパークの腹に突き刺さる。

「げほっ!」

 既にスパークの腹部に消化器官は存在しない。

 その為、胃液などを吐き出す事はなかったものの、そのダメージに変わりなく、スパークは大きく弾き飛ばされて地面に激突、二転三転してようやく止まった。

(なんだ? 何でこんなに体が動かない!?)

 スパークはここしばらくないほどに動揺していた。

 あの偽ストロンガー、漆黒のストロンガー、ダークストロンガーとでも言うべき存在は、スパークに奇妙なプレッシャーを掛けてくる。

 その言葉はまるでスパークを支配するように動きを鈍らせていた。

「なんだよ、避けるんじゃねえよクズぅ、お前はオレの攻撃でとっととくたばってりゃいいんだよおォっ!

 そうだろうがよォ、『沼田五郎』よぉっ!」

 …こいつは今、何と呼んだ!?

 スパークは動揺した。

 こいつはどうやら「沼田五郎」を知っている。

「城茂と一緒に地獄に叩き落としてやるぜぇ、消し飛べやぁ! 電・キック!」

 ストロンガーのパワーでの必殺の飛び蹴り。

 何とか直撃は避けたものの、スパークは大きく吹き飛び、何度も地面を転がりながら崖に激突、そのまま瓦礫に埋もれていった。

 

「ははっ、圧倒的じゃねえのよ俺ぁよお!」

 ダークストロンガーはそう(うそぶ)いた。

 つい先日、ブラックサタン大首領とタイタンに見出され、改造手術を受けた彼は、己の力に酔っていた。

 彼は子どもの頃から天才であるともてはやされてきた。

 生家はそれなりに余裕のある家庭。

 学業は特に勉強を強いられる事もなく常に成績は1番。

 運動に関しても大概のものは負けた事がない。

 質の良い筋肉と高い動体視力、そして素早い判断能力があいまって、特に鍛錬する事無くどんなスポーツでも活躍が出来た。

 高校、大学と様々な部活の助っ人をしてはそこから金を巻き上げ、歓楽街で豪遊する生活。

 そんな時、アメリカンフットボール部の助っ人を頼まれた。

 それはそれなりに歯ごたえのある試合だった。

 アメリカンフットボールは1人で活躍と言う訳にもいかない。

 危うく自分のミスで得点を許す所であった。

 何とかカバーして、ボールを持った相手を潰す事に成功したものの、あれは彼にとって屈辱でもあった。

 その時の屈辱で、彼は体育部活の助っ人を止めた。

 その時の相手が投手であるクォーターバックを兼任していた沼田五郎、そしてその投げた球を受けて走るランニングバックであった城茂であった。

 次に同じシチュエーションになった時、勝てるのかどうか分からない。

 それ故に、彼はスポーツに関わることを止めてしまった。

 そのまま茂達に勝つために、アメリカンフットボールを続けるという発想が彼にはなかったのだ。

 しかし、それが彼のトラウマになった。

 次第に彼は荒れ、傷害事件を起こして収監される事になる。

 その時に声を掛けてきたのがブラック・サタンのエージェントだ。

 最初は鼻にも掛けけなかった彼であるが、大幹部であるタイタンが出てきた時点で考えを変える事になる。

 タイタンの持つ力、それに魅了された彼は、奇っ怪人の上位バージョンである改造人間になることを了承するのだった。

 その改造手術の最中、タイタンはストロンガーに倒されてしまうが、彼には気にならなかった。

 タイタンよりも更に強い力を自分が手に入れたのだから。

 この力を以ってもっと上にのし上がってやろう。

 驚いた事に、彼に寄生したサタン虫の上位変異虫を彼は逆に支配し、取り込んでいた。

 サタン虫の悪意が彼の悪意と融合し、最悪の人格を造り上げたのである。

 彼、ダークストロンガーは、げらげらと笑いながら、その場を去っていった。

 

 

 

 叩きのめされたスパークは、大量の土石の中に埋もれていた。

 先のダークストロンガーの一撃、それはスパークに致命傷を与えるには十分なものだった。

 そして、致命傷ではあるが完全に機能停止をしている訳ではないこの状態。

 スパークの中に埋め込まれた自己修復装置が過剰機能し、その体を修復し始めた。

 

 

 

 待遇の不満から、新大幹部であるデッドライオンと衝突、ブラック・サタンを飛び出した、と言う事になっているゼネラルシャドウは、部下、と言うか上司部下どころの関係ではない相手、蛇女と会っていた。

「うむ、それでは魔界の勢力の取りまとめはうまくいっているのだな」

 シャドウの問いに、蛇女は微笑みながら、

「ええ、魔人達はとっても乗り気よ、愚かな事にね。

 アナタ様に出来る事なら自分達はもっと容易く出来る、そう思っているみたい。

 こちらでは何と言ったかしら、確か…」

「それは『脳筋』というのか」

「ええ、それですわ。

 力ばかり余った駄々っ子共ですもの」

 蛇女は嫌悪を声に滲ませながらそう言う。

「しかし、彼らの力は絶大だ。

 同時に契約を絶対のものとする生粋の魔人共だ。

 ()()条件ならば奴らを労せずして配下に加えることが出来よう」

 シャドウは、「魔の国」に住まう魔人達を己の陣営に取り込むためにブラック・サタンを利用する事にした。

 まず、ブラックサタン大首領の招へいに応じてブラック・サタン内部に入り込む。

 そして組織を自分の陣営に少しづつ取り込んでいったのである。

 本来、魔人は契約を絶対とし、その契約に反しない限りで契約者を破たんさせようとするものだ。

 しかし、ゼネラルシャドウは魔道に堕ちた元人間。

 生粋の魔人よりも契約の束縛が緩かった。

 その為、ブラック・サタンを裏切るのも難しくはなかったのである。

 その際、奇っ怪人スパークの行動は結果的にシャドウの利益となった。

 主流派であったタイタンの派閥は外見のみが立派な張り子の虎になり果て、それを引きついだデッドライオンが後々どんな顔をするのか、楽しみなような気もしていたのだが。

 ゼネラルシャドウはブラック・サタンに見切りを付けた。

 もう良いだろう。

「地上は我らが貰いうける。

 各軍団長に連絡を。

『デルザー』軍団の始動だ!」

「はっ!」

 いかにもうれしそうに、蛇女は返答を返し、そして消えうせた。

 

 自らも動こうとし、ゼネラルシャドウはふとスパークの事が気になった。

 手元にトランプを取り出し、1枚引く。

「これは…、スペードの8。

 孤立、孤独。

 いや…、ゼロからの再出発、か?」

 シャドウはトランプを消すと、その場から立ち去った。

 

 

 

 スパークは思い出した。

 思い出してしまった。

 自己修復装置の過剰機能、それは沼田五郎の損傷した脳、損傷し、不可逆の変性をした脳のタンパクを再生可能な合成タンパクに作り替え、そしてそこに書き込まれた情報を一応なりとはいえ復元した。

 故に、薫は思い出してしまった。

 己と言う存在がなんなのか。

 そして五郎の中に何故自分が居たのかを。

 そして絶望し、発狂した。

 

 

 

 タイタンを倒し、デッドライオンから奇妙なペンダントを強奪した城茂達。

 その秘密を探る彼らに「そのペンダントはな、ブラック・サタンのなぞを解くカギだ…」とゼネラルシャドウは告げた。

 半信半疑のまま、ブラック・サタンの本拠地と思しきデッドライオンのアジトに侵入した。

 侵入してみると、

「なんだこりゃ?」

「ひどい…」

「なんだ、めちゃくちゃじゃないか…」

 アジトは暴風雨の通り過ぎた後の様に滅茶苦茶になっていた。

 通路の壁は大きく抉られ、破壊された戦闘員がそこかしこに転がっていた。

「おい、誰もいないな…」

 籐兵衛がそう茂に言う。

「全滅しちゃたのかしら?」

 小首を傾げながらユリ子が呟いた。

「奥に行ってみよう」

 茂はそう言った。

 茂の勘、既に超能力の域に達している彼の勘が、この奥に何かあると告げていた。

 

 デッドライオンのアジト、それは奇っ怪人の改造プラントでもあった。

 ここでは日夜、奇っ怪人の創造、改修、修復が行われていた。

 かつては。

 今、茂達が居るのはその試作型奇っ怪人や、ストロンガーに破れて破壊され、回収された後にパーツをはぎ取られて廃棄された奇っ怪人の廃棄場所、奇っ怪人の墓場とでも言うべき場所だった。

「かつては、みんな強い奴らだったのに…」

 そう言いながらポンと足元にあったパーツを蹴飛ばす籐兵衛。

「んん? な!? こいつは…」

 その時、籐兵衛の目に奇妙な奇っ怪人のパーツが映った。

 白い手袋に黒いライダースーツ。

 二の腕からその手袋に賭けて赤いラインが入っている。

「これは…、ストロンガー!?」

 籐兵衛が驚いていると、茂が戻って来た。

「どうしたんだよおやじさん。

 何か見つけ…、なに!?」

 茂が驚いた。 

 彼らが見つけたもの。

 それは、奇っ怪人スパーク。

 ぼろぼろになったスパークがそこに捨てられていた。

「…まさか、あんなに用心深い奴がこんなに」

 そう茂が言った時だ。

「!? おやじさん、ユリ子!」

「分かってる!!」

 茂は籐兵衛を庇い、地面に伏せた。

 その瞬間。

 

 ごっ!

 

 衝撃と共に周囲が吹き飛んだ。

 洞窟状だった基地が、その上部が綺麗に吹き飛び、陽の光に晒されている。

「馬鹿者どもォォォッ!

 誰がそこまでやれと命令したかあっ!!

 貴重な実験基地があっ!」

 そう崖の上で喚いているのは、ブラック・サタンの今唯一の大幹部であるデッドライオンである。

 茂がデッドライオンに気を取られた瞬間だ。

 ひゅん!

 何かが茂に向かって突進してきた。

 咄嗟に回避した茂。

 今、茂はライダー形態になっていない。

 直撃していれば大きなダメージを負っただろう。

 しかし。

 ぶちっ!

 茂の胸元にぶら下がっていたペンダントが引きちぎられた。

「ああっ! 貴様ぁっ! なんてことをォォォッ!?」

 デッドライオンがヒステリックに喚く。

「うるせえなあ、ボス。

 アンタの失策を今取り返してやったんだろうが。

 これっくらいじゃ大首領は怒りゃしねえよお。

 むしろ取られっぱなしの方が怒ると思うけどよお、どうなのよその辺り」

 どう聞いても上司に対する部下の態度ではない、その舐めた口調のそれ。

 その姿は。

「ストロンガー…」

 そう、黒いストロンガー、ダークストロンガーであった。

「そうか、やっぱりな、そうなると思ったんだ…」

 茂はそう言う。

 当然と言えば当然だろう。

 設計図さえあれば微調整は必要としても似通った改造人間は作れる筈。

 ならば、茂と同スペックの改造人間、奇っ怪人を造ろうとするのもおかしくはなかろう。

 元々デッドライオンは奇っ怪人の製造責任者でもあった。

 それ故にブラックサタン大首領からも特別に信頼されていたのである。

 盟友であったタイタンから強敵仮面ライダーストロンガーを倒す事の出来る奇っ怪人を、と頼まれ、ならば同性能の同タイプをぶつけよう、と生み出したのは良かったのだが、その頃にはタイタンは破壊されてしまっていた。

 外様であるゼネラルシャドウは役に立たない。

 ならば、とストロンガー抹殺のために用意したのがこのダークストロンガー、そして。

「がっがっがっ、こいつだけだはないぞぅ!

 貴様を倒すために、最高の奴らを用意したからなあ!」

 デッドライオンのその言葉と同時に。

「なんだと!」

「そんな…」

「ライダー、だと…」

 そこには漆黒のボディを持った黒い仮面ライダーが、更に6体。

 これがデッドライオンが旧暗黒組織のデータを吸収して作り上げた、「ダークライダー軍団」であった。

 

 仮面ライダーストロンガー&タックルとダークライダー達との戦いが始まっていた。

「ぬうん!」

 ダークライダー1号の神速の蹴りからソニックブームが巻き起こり、

「おおぉ!」

 2号の手からエネルギー弾が打ち出される。

「ごおぉ!」

 V3が飛び蹴りを放ち、

「じゃあっ!」

 ライダーマンの右腕が蛇に変化し襲いかかる。

「せいっせいっ!!」

 Xライダーのライドルが唸りを上げ、

「けけけけぇっ!」

 アマゾンが噛み砕こうとその(あぎと)を開ける。

 ダークストロンガーは高みの見物だ。

 弱った所を一気に押し潰そうというのだろう。

 さすがに各暗黒組織が収集したデータを使っただけあり、ダークライダー達は手強かった。

 1体1体の強さは論じる必要もないだろうが、特に1号2号の連携が厄介だ。

「このぉっ! くっ、タックル!?」

「きゃあっ!」

 戦闘能力に1段劣るタックルをうまく誘導し、ストロンガーにタックルをガードさせる形でその戦闘能力を削いでいく。

「くっそう、このままじゃ…」

 籐兵衛の目から見れば、ダークライダー達の戦闘能力は嘗ての仮面ライダー達の実力からすると1段落ちる。

 製造されてから日がないのだろう、動きが若干ぎくしゃくしているようにも見える。

 とは言え、その強さは折り紙つきだ。

 割って入れるほど籐兵衛は強くはない。

 籐兵衛とて格闘技の経験があり、常人よりも1段強い戦闘員クラスのものであれば、五分とはいかないものの戦う事は可能だ。

 しかし、この戦いに割って入ったとしたら、一撃で死ぬのは目に見えていた。

 どうしたものだろうか、そう思案した籐兵衛の視界に、白い手袋が見えた。

 

「おい、おい! 死んでるのか!?」

 籐兵衛はその手の持ち主、スパークに向けて話しかけた。

 スパークは腹部から下がズタズタに破壊され、上半身も左手が完全にもげていた。

 頭部はフルフェイスタイプのヘルメットが破壊され、薫少年の顔がむき出しになっていた。

 この時籐兵衛が少し落ち着いていたら、顔と体のバランスがおかしい事に気がついたであろう。

 今のスパークは修復装置が働いておらず、体が大きく損傷して変身機能にも異常をきたしていたのである。

 と、スパーク、いや、薫が薄く眼を開けた。

「なん、で、しょ、うかね?

 僕、はすで、に、スクラップ、なんで、す、が、ね」

 籐兵衛は声は掛けたものの、本当に生きているとは思わず、ギョッとした目で薫を見ていた。

「なんで、す、か?

 そっち、か、ら声、を、かけて、おい、て」

「あ、ああ済まん。

 本当に返事があるとは思わなくてな。

 しかし、生きているなら良かった。

 お前さん、何とか動けんか?」

 籐兵衛は自分でも無茶を言っていると思いながらも、聞かざるを得なかった。

「む、り」

 即答された。

「…だろうなあ。

 くうっ、ワシに戦う力があれば…」

 心底無念そうにそう言う籐兵衛。

「無駄、な事は、考え、る、だけ無駄です。

 やめておけ、ば、良いのに」

 そうまるであざ笑うかのように言う薫。

 籐兵衛はその言葉にカチンとくる。

「…お前さんだって復讐に血道を注いどったんだろうが。

 人が必死に考えとるのに」

「…それ自体、が、無駄、だったん、です、よ」

 薫はそう言う。

 籐兵衛は気付いた。

 彼が(わら)っているのは籐兵衛ではなく、薫自身である事を。

「…何があった?」

 籐兵衛はストロンガー達の戦いを気にしながらも、薫に尋ねた。

 

 薫は気が付いてしまった。

 いや、もしかしたら既に気付いていたのかもしれない。

 その事実に目を背けたままで。

 沼田五郎の修復された記憶。

 それを薫は見てしまった。

 五郎自身が忘れていた、いや、薫が()()()()()()()記憶。

 五郎が高校生の時分、彼は既に一度ブラックサタンの工作員に襲撃を受けていた。

 当時はまだショッカーが存在し、ブラックサタンは一介のオカルト結社として、ショッカーの戦闘員確保に協力していた。

 その際使われていたのがサタン虫。

 当時、まだサタン虫は繁殖方法や能力の強化が行われておらず、ブラックサタン大首領の持つアルファ型から派生したベータ型、特に繁殖能力も能力も優れたものでないそれを憑り付かせる事で人間を操り、ショッカーに引き渡していた。

 なお、現在ブラック・サタンで多く飼育されているサタン虫はデルタ型、型番にして4番目である。

 サタン虫のオリジナルであるアルファ、その2世代目で能力の低いベータ、繁殖力に優れるが制御が難しく廃棄されたガンマ(通称ガンマー虫)、性能の安定しているデルタ、そしてオリジナルのアルファ以外のサタン虫に対して上位種として支配能力のあるイプシロン型である。

 そして薫は思い出してしまった。

 未だに沼田五郎の中にはサタン虫が寄生している、と言う事を。

 五郎の脳幹及び神経に繊維状にほどけてて寄生しているサタン虫。

 それが。

「僕自身、なんですよ」

 そう、かつて別世界で生きていた少年、薫。

 彼の存在情報、魂と言い換えても良い、は不幸にもこの世界に存在する超存在「JUDO」の空間を歪めるほどの身じろぎに巻き込まれ、この世界へと引きずり込まれた。

 その際、JUDOに近しい存在の中へと彼の情報は刷り込まれてしまった。

 それがJUDOの持つ傀儡の1つ、ブラックサタン大首領たる巨大サタン虫・サタン虫アルファ型の生み出したサタン虫ベータ型の中だったのである。

 それを知った時、薫は愕然とした。

 五郎が目を付けられたのは自分の所為であったと言う事だ。

 そして、鏖殺しようとしていたブラック・サタンによりにもよって自分が所属していたという事に絶望した。

 復讐すべき存在の一部であった事に、薫は嫌悪、そして発狂した。

 ただひたすらにブラック・サタンの基地へと突進し、その中に居たのもへ暴力をぶつけ、そして、圧倒的な強さを持つダークライダー達に粉砕された。

 薫はひたすら空しかった。

 同時に安堵もしていたのだ。

 このまま死んでしまえば全て終わる、と。

 そう、気がつけば籐兵衛に語っていた。

 

 籐兵衛は怒っていた。

 誰に?

 目の前に居る、薫と名乗る少年に、だ。

 何に?

 その境遇を嘆く姿に、だ。

「馬鹿野郎!

 だからってなあ…」

 死んで終わりにされては、浮かばれない奴もいるんだ。

 本郷猛はどうか、一文字隼人はどうか。

 彼ら、仮面ライダー1号と2号の体はショッカーという暗黒組織の造りだしたものだ。

 薫と同じく、望まない体にその意識を入れられた哀れな改造人間。

 だからと言って、あいつらがその境遇を嘆いているだけかと言えば違うと言い切れる。

 彼らは彼らで望んだ訳ではない、しかし、同時に彼らは戦う事を選択したのだ。

 そして、今ここに居る者ならば岬ユリ子、改造電波人間タックルもそうだ。

 状茂、仮面ライダーストロンガーはそれこそ望んでその体を得た。

 目的のために手段として改造人間となった。

 ユリ子は違う。

 戦うのならばストロンガーに任せ、自分は日本のどこかでひっそりと暮らしたとしても、籐兵衛も茂もむしろ諸手を挙げて賛成するだろう。

 ユリ子は完成する前にブラック・サタンを脱走したが故に、その戦闘能力はストロンガーや他の奇っ怪人に比べて低い。

 それでもユリ子は茂の隣で戦う事を選んだのだ。

 今、薫が使用としている事は選択の放棄だ。

 全てが面倒になって投げだしただけだ。

 …投げ出したくなるのは分かる。

 しかし、それでは。

「君自身が、浮かばれないじゃないか…」

 籐兵衛は叱責を薫にぶつけながら泣いていた。

 彼が悪い訳じゃない。

 悪いのはブラック・サタンの方であろうに。

 なぜ「戦いを放棄する」という選択をしてくれないのか。

 ここでただ投げだすのであれば、誰も救われない。

「君は、救われて、良いんだっ!」

 籐兵衛はそう言って、泣いた。

 

 薫は不思議に思っていた。

 なぜこの人は泣くのか。

 薫は己の始めた事、それは周囲が不幸になる様な事、を投げ出した。

 それなのに何故、この人は僕の為に泣くのか。

 …そうか、この人は「立花籐兵衛」だった。

 仮面ライダーに寄り添い、その心を救う人だった。

 孤独な戦いをするヒーロー、仮面ライダー。

 その強さは皆の知る通り。

 しかし、その孤独な心はいつも傷付き、膿を持ってじくじくと痛みを持っていた筈。

 それを癒し、また立ち上がることが出来たのは、この人が居たからだったのか。

 薫は、その狂い、壊れた心がほんの少しだけ癒されるのを感じた。

 それならば。

「…ありがとう」

「ん?」

 ならば、その感謝をほんの少し、ここで返しておいても良いだろう。

 薫、いや、スパークは、ここで動く事にした。

 

 仮面ライダーストロンガーは限界に達しつつあった。

 タックルを庇いつつ、6人のダークライダー達の攻撃を凌いでいたのだ。

 未だに有効打を受けてはいない。

 しかし、戦いの疲労、エネルギーの消耗は如何ともしがたい。

 さらに。

「よぉーし、そろそろオレも参加すっかあ!」

 ダークストロンガーがそう言い、

「止めはオレが刺す! 喰らえやぁ! 電・キックゥッ!」

 ストロンガーに向けて必殺の飛び蹴りを打ち出した。

 避ける事は可能だ。

 しかし、そうするとタックルへの被害を避ける事は出来ない。

 受け止めるしかない。

 ストロンガーはその胸の胸部装甲・カブテクターを張り、ダークストロンガーの必殺の飛び蹴りを受け止めようとしたその時。

 ヴォン!!

 横から突進してくるものがあった。

 ネイキッドタイプのオートバイ。

「あれは!」

 ストロンガーには見覚えがあった。

 あれは確か、スパークの使うオートバイ。

 そのオートバイ・ビートラーはダークライダー達の不意を突き、ダークライダー1号を跳ね飛ばす。

 丁度ストロンガーとダークストロンガーとの間に。

 ごっ!

 ストロンガーのものよりも強烈な電光を発するその足の直撃をダークライダー1号は受けてしまった。

 その一瞬、一瞬で十分だった。

 ストロンガーはタックルを抱え、ダークライダー達の包囲網を抜けだす事が出来た。

 そしてダークストロンガーの電キックが直撃した1号は。

 どぉん!

 その威力に耐えきれず、爆散した。

「くっそ、馬鹿野郎! 出てくんじゃねえよ!」

 ダークストロンガーは罵声を飛ばしながらストロンガーを追った。

 

「よし、何とか、なったか」

 薫は息も絶え絶えにそう言った。

「今のは君が?」

 そう言う籐兵衛に、

「次は、僕が動けるようになんないとな…。

 すいませんが、立花さん、そこいらの奇っ怪人の胴体、集めてくれません?」

 彼はそう籐兵衛に頼んだ。

 籐兵衛は眉を顰めたが、何か意味があるのだろうと、その指示に従う事にしたのである。

 

 

 

 戦いは互角に戻っていた。

 本来ならばエネルギーが十分のダークストロンガーと、そろそろエネルギーを使い果たすストロンガーでは勝負にならない筈であった。

 しかし、ダークストロンガーは強すぎた。

 周囲へのダメージを無視してストロンガーを攻撃する為、巻き添えを食わないように他のダークライダーが手を出し辛くなってしまっていたのだ。

 それに加え、ダークストロンガーの攻撃は電気を伴うものを多用していた。

 つまりは、それがストロンガーにとっては少量であるとは言えエネルギーの消費を押さえてくれていたのだ。

 加えて、最近ロールアウトしたダークストロンガーと、10体以上の奇っ怪人、そしてタイタンと言う強敵を屠って来た経験のあるストロンガー。

 どちらが強いかは明白だろう。

 とは言え、さすがにストロンガーも限界が迫っていた。

 だからと言って負ける気はない。

 城茂は仮面ライダーストロンガーなのだから。

 

 ヴォン!

 

 また、バイクの排気音がした。

「はっ、同じ手を食うかよおっ!」

 さすがに同じ手をダークストロンガーは喰わなかった。

 突進してくるビートラーを拳で殴りつけ、ストロンガーにぶつける。

「なに!」

 ビートラーはは激しく漏電し、周囲にバチバチと火花を散らしていた。

 …ダークストロンガーは同じ手は喰わなかった。

「ありがとうよ黒いの!

 てめえがバイクをぶつけてくれたお陰で、コイツからエネルギーを補充できたぜ!!」

 そう、ビートラーはダークライダーを攻撃するのが目的ではなかった。

 ビートラーに搭載されている大容量の蓄電池、そこからストロンガーに電気を供給するのが目的だったのだ。

「だあっ、何をしているダークストロンガー!!

 それでもブラック・サタンの精鋭かあっ!」

 そう怒りをぶつけるデッドライオン。

 その背後にすっと立つ人影があった。

「はいはい、ちょっと失礼」

 そうふざけたものの言い方をする人物。

「な!?」

 薫、いや復讐者スパークは、デッドライオンの持っていたペンダント、組織の最高機密が隠されている「サタンのペンダント」をひょいと取り上げた。

 彼は散在する奇っ怪人の胴体の、動力部から残っているエネルギーを吸い出し、そのパーツを喰らい、自己修復装置の過剰機能よってその体を再生していた。

「貴様!? それを返せ!!」

 逃げ回るのは一級品を自任するスパークだ、動揺しているデッドライオンからも辛うじて逃げ出している。

「ええい、貴様ら! ストロンガーなどどうでも良い!!

 ペンダントを、ペンダントを取り戻せ!!」

 そう言うデッドライオン。

 一方ダークストロンガーは、

「ざっけんな!? 城茂を殺す方が先だっての!!」

 そう言う。

 命令系統上位の2人から事なる命令を受け、ダークライダー達は混乱し、動きが止まってしまった。

 これにはカラクリがある。

 デッドライオンは当然のことながら大幹部としてブラックサタン大首領に次ぐ指揮系統の2番目になる。

 なればなぜ、現場指揮官とは言え指揮系統が下位のダークストロンガーの命令が大幹部と等しいのか。

 それはダークストロンガーに寄生したサタン虫にある。

 彼に憑り付いているのはサタン虫のイプシロン型になるのである。

 イプシロン型はサタン虫の上位個体としてアルファであるブラックサタン大首領より下位のサタン虫への命令権を獲得している。

 しかし同時に、寄生先への支配能力はデルタ型に劣る。

 そしてダークストロンガーはイプシロン型の支配をその欲望で跳ねのけ、逆に支配してのけたのである。

 これがベータ型サタン虫を寄生させているスパークが彼を苦手としている由縁であった。

 

 ダークライダーの動きが止まった一瞬。

 ストロンガーはスパークの手が細かく動くのを見た。

 仮面ライダーストロンガーの視界は270度。

 他の者の視界に映らず、ストロンガーのみに見える角度で送られている。

 あれはアメリカンフットボールをやっていた頃、親友の沼田五郎と決めていたハンドシグナル。

 崖の先、基地の中、2回、そして、「STRONGER」。

 なぜあいつがそれを知っている!?

 しかし、それを考えている暇はなかった。

「ストロンガー!

 基地の奥に大首領が居る!

 ヤツを倒せばサタン虫に憑り付かれている奇っ怪人は唯の抜け殻になる!

 アンタならヤツを仕留められるはずだ!」

 スパークがそう言い放った。

 ギョッとするデッドライオン。

 彼ですら大首領の居場所は知らなかった。

 何故そんな事がスパークに分かるのか。

 答えは「薫がベータ型サタン虫である」からだ。

 全てにおいて現行のサタン虫に劣るとされる最初期型のベータ型。

 しかし、「アルファ型から生まれた」と言う意味では最もアルファ型に近いサタン虫でもあるのだ。

 それがどう言う事か。

 薫は秘密基地に近付くに従って、ブラックサタン大首領の支配力を感じている。

 つまりは近くに敵の首領が居ることを体感できる、と言う訳だ。

 そして今スパークの手の中には「サタンのペンダント」がある。

 これをストロンガーに渡せば大首領を殺すことが可能かもしれない。

 暗黒組織の常として、ブラックサタン大首領は大概の奇っ怪人より強力だろう。

 ならば、自分より強いはずの仮面ライダーストロンガーをぶつけるほうが確実に大首領を殺せるはずだ。

 スパークはそう考えた。

 そして。

「レディー セット! ハット! ハット!」

 2回目にハットと言った時、ストロンガーは全力で走り始めた。

 脱兎の如く、基地に向かって走るストロンガー。

 それを追いかけるダークストロンガー。

 そして、

「うーりゃあぁぁぁっ!」

 スパークが投擲した「サタンのペンダント」がレーザー光線の様な一直線の軌道でダークストロンガーの頭上を掠めて飛んでいく。

「なに!?」

 いくら270度の視角を持っていたとしても、背後からの投擲にダークストロンガーは対応できなかった。

 しかし、

「うおおおぉぉっ、『STRONGER』ぁぁぁっ!」

 後方から飛んでくるペンダントを全く振り向く事無く後ろ手でダイビングキャッチ、そしてそのままスピードを落とすことなくトップスピードのまま秘密基地の中に走り込んでいった。

「この馬鹿ものがあっ!

 貴様はそこの出来そこないを破壊しろ!!

 今度こそ完膚なきまでにだ!!」

 デッドライオンは焦りを感じさせる顔を見せダークストロンガーを叱責すると、仮面ライダーストロンガーを追って基地の中に入っていった。

 

 ダークストロンガーは怒りに身を震わせていた。

 完全に叩き壊し、すり潰してやらねば気が済まない。

「てめえらは手を出すな。

 オレが完全に消しさってやる…」

 ダークストロンガーはスパークに襲いかかった。

 

「うぉらあっ!」

 ダークストロンガーの繰りだす拳をその腕のグローブで丁寧にはじいていく。

 ついでにストロンガー型の改造人間にある腕のコイルを摩擦させ、エネルギーをじわじわと回復しておく。

 ダークストロンガーから感じる圧力は相変わらずだ。

 しかし、

「くっそ、なんで倒れねえんだ!!」

 先に戦った時には、スパークは言ってしまえばサタン虫の本能で戦っていたと良い。

 そしてその本能はイプシロン型の寄生したダークストロンガーからの命令を実行しようとする。

 今のスパークは「人の意志」で戦っている。

 意志は本能を凌駕していた。

 故に、ダークストロンガーからのプレッシャーはあるとしても、それがスパークの意志を捻じ伏せるほどではなかった。

 それに、スパークはストロンガーほどではないにしても。過酷な戦いを経験していた。

 その経験が、元々喧嘩すらした事がなかった薫を戦士・復讐者スパークに仕立て上げていた。

 そして、ダークストロンガーは元々が経験なぞ必要としない天才。

 しかし、そもそも改造手術で身体能力が大きく向上している、つまりはまだまだ体に慣れていない。

 さらに言えば、これが3度目の戦いで、スパークはダークストロンガーの能力を大体見切っていた。

 それがこの戦いの均衡を創り出していた。

 苛立ったダークストロンガーが大振りをしたその瞬間、スパークの拳がダークストロンガーの顔面を捉えた。

 3度目の戦いで初めての事である。

「!! っざけやがって、この屑があっ!

 もう良い! てめえら! こいつをぶっ壊せ!!」

 とうとうダークストロンガーの堪忍袋の緒が切れたようだ。

 プライドも何もなく、残りのダークライダーに命令を出す。

 その命令に従い、

 ダークライダー2号がその拳を振り上げ、

 V3が蹴りを放ち、

 ライダーマンが右手の蛇を伸ばし、

 Xライダーがライドルを突き込み、

 アマゾンが腕についた鰭状のアームカッターで切りこんでいく。

 それを、

「させる訳には、いかない!!」

 喰い止めたのは、タックルだった。

 彼女は「電波投げ」の要領で衝撃波を放ち、それを衝撃の壁としてダークライダー達の攻撃を抑え込んだのである。

 無論、完全体でない彼女にとって、この衝撃の壁は張り続けることが難しい、しかし。

「タックル!? 何故!?」

「何故、ですって!?

 ワタシはタックル、ストロンガーの相棒なの。

 だから、ね」

 タックルは笑みすら浮かべて、

「そんな事、ワタシが知るかあっ!」

 衝撃波を拡大、ダークライダー達を弾き飛ばした。

 しかし、

「んなら死にやがれ! 電・キックぅっ!」

 その一瞬のタイミングを突き、ダークストロンガーが必殺の電キックを放った。

 このままではタックルが死ぬ。

 そう考えた時、スパークは彼女の前に出た。

 無論、このままではタックルごとスパークはダークストロンガーに蹴り殺されるだろう。

 ならば。

 蹴り足から突っ込んでくるダークストロンガー。

 その足からは、ストロンガーを上回る電気が周囲に飛び散っている。

 …それはダークストロンガーの電キックがストロンガーのそれを上回っている証、ではない。

 力が集中できず、本来威力にのるべき力が拡散しているのだ。

 そして、

「それは僕の力になるんですよ、ねっ!」

 その電気を取り込み、スパークは力を溜める。

 そして蹴りが体に当たる衝撃(インパクト)の直前。

 一歩踏み出したスパークは体全体で肩から肘を跳ねあげた。

 相撲で言う所のかち上げ、アメリカンフットボールで言う所のリップテクニックだ。

 スパークが一歩前に出た事で打点をずらされ、そして蹴り足をかち上げられたダークストロンガー。

 彼はスパークの腕から肩をすべるように跳ねあげられ、そして空中で完全にひっくり返った。

 今スパークの目の前にあるのはダークストロンガーの後頭部。

 スパークはオフェンス時に行う体当たり、サックプレイの要領で思いきり肩口からダークストロンガーへぶちかました。

 高さ的にはタックル、と言うよりは首タックル、アメリカンフットボールにおいては近年反則となったクローズライン、もしくは有名プロレスラーのつかうウエスタンラリアットの様な形で、ダークストロンガーの後頭部をぶち抜いた。

 ダークストロンガーは空中で更に弾き飛ばされ、宙を高々と待った後に地面に落ちてきた。

「ふううぅぅぅっ!!」

 ぎりり、ぎりりと全身の筋肉を収縮させるスパーク、そして。

 頭から落ちて来たダークストロンガー、その頭部を。

「ぅおおおおっ!!」

 スパークにとって唯一とも言える必殺技。

 それがアメリカンフットボールの蹴り、ドロップキック。

 それをダークストロンガーの頭めがけ、全力で叩き込んだ。

 

 ダークストロンガーは混乱していた。

 何が起きているのか?

 目の前に居たのは唯の屑だったはずだ。

 それが、視界から消えたと思ったら、後頭部にとてつもない衝撃。

 宙を飛ぶ感覚。

 そして。

(オレはどうなっちまったんだ?

 確か、屑どもと戦って…。

 ああ、そうだ、オレはアイツら、城茂と沼田五郎を倒さなきゃいけねえんだった。

 そうだ、あの攻撃、『STRONGER』っつったっけ?

 あれをやっつけないといけねえんじゃねえか!?

 そうだ、オレは…)

 その瞬間、ダークストロンガーの頭に途轍もない衝撃が走った。

 頭部を覆うヘルメットがひしゃげ、頭が砕け、首が捻じ曲がる。

(そういや、オレはなんで強くなりたかったんだっけ?

 そうだ、あの時、アイツらの魅せたプレイが…)

 そして、それがダークストロンガーの最後の記憶だった。

 

 空中で爆散したダークストロンガー。

 しかし、他のダークライダー達に動揺はない。

「しょせんあの程度の奴よ」

「生きる資格もない」

「せめて1人は道連れにすれば組織の役に立ったモノを」

「後はこの蹴りの錆にしてくれよう」

「ケケケェッ、蹴り砕く!」

 一斉にスパークとタックルめがけ襲いかかって来る。

 既にスパークもタックルもエネルギーは底をついている。

 だからと言ってここで引く訳にもいかない。

 タックルは身構えようとして。

「え!?」

 スパークに突き飛ばされた。

 

 

 

 ねえ、さすがに限界だねえ。

 ま、しょうがねえんじゃねえの。

 せめてタックルさんは助けないとね。

 くっそ、茂め、マブい姉ちゃんひっかけやがって、許せん。

 マブいって…、まあ良いんだけどね。

 …悪いなあ、薫、巻き添えにしちまって。

 何言ってんのさ、それは僕の台詞でしょ。

 別に気にしてねえよ、…まあ彼女が出来なかったのは残念だけどな。

 男同士の死出の道連れじゃねえ…。

 華がねえなあ、まあ、女の子連れじゃ気の毒だしな。

 んじゃいきましょうか。

 おう。

 

 

 

 奇っ怪人スパークはストロンガーのプロトタイプであり、同時期の奇っ怪人のテストベッドでもあった。

 故に、だ。

「自己修復回路、逆回転!!」

 本来は己の体を修復する機能を持つ装置を逆に使うとどうなるか。

 スパークの体が光り始めた。

 彼の体を構成しているパーツが、エネルギーに変換されているのだ。

「な!? やめるんだ!

 そんなことしたら死ぬぞ!」

「やめて!

 無茶よ!?」

 しかしその光はさらに強くなる。

 そして、ダークライダー達の必殺の「オールダークライダーキック」がスパークに直撃した瞬間。

「喰らえ!『ウルトラサイクロン』っ!!」

 ウルトラサイクロン。

 体内の電気エネルギーを振動波に変えて敵を超振動で内部から破壊しつくす必殺の攻撃法だ。

 相手に接触していれば良く、今の様に防御を捨てて一撃必殺の攻撃をしてくる相手には回避の方法がない、文字通りの必殺技。

 しかしそれは同時に自分自身の体を超振動させているのに等しい。

 よほどボディが丈夫でなければ耐える事は出来ない、そんな攻撃だ。

 無論、試作品のボディであるスパークに耐えられるはずもない。

 ああ、体が砕けていく。

 やっとこれで、

 …眠れる。

 腕が砕け、胸部の「カブテクター」が粉々になり、フルフェイスのヘルメットが粉砕された。

 スパーク、いや薫はふっと後ろを振り向いた。

 タックルと立花籐兵衛が悲壮な顔でこちらを見ていた。

 薫は微笑むと、

 さ・よ・な・ら。

 そう唇を動かした。

 薫は光に包まれ、そして、その光の中に消えていった。

 ダークライダー全員を道連れにして。

 

 

 

 ストロンガー、城茂が巨大なサタン虫であるブラックサタン大首領を倒し、戻って来た時には全てが終わっていた。

 奇っ怪人スパークがそこにいたという証は、頭部の鍬形状のパーツの一部と、スーツの断片、そしていくつかの内部装置のみだった。

「…結局、あいつが五郎だったかどうかは分からずじまい、か」

 茂はそう言った。

 籐兵衛は茂達に薫の事は話していなかった。

 これは己の心の中に秘すべき事だ、籐兵衛はそう思っていた。

 今、茂達は海の見える丘でスパークの遺品を地面に埋め、そこに杭で十字架を作り、即席の墓を作っていた。

 そこに刻まれた文字は「名もなき戦士ここに眠る」。

 数奇な運命に翻弄された戦士になりたくなかった少年と、その友人の青年の物語が、ここで終わった。

 茂達は暫し手を合わせていたが、その場を立ち去った。

 生きている者達はこの先にも人生がある。

 それを生きねばならないのだから。

 

 そして戦いは終わっていない。

「クーデターは見事に成功した。

 ブラック・サタンの乗っ取りは終わった。

 これからいよいよ、我らがこの地球を支配するのだ。

 ふっふっふっふ…、はぁっはっはっはっはぁぁぁぁっ!!」

 闇の中で高笑いをする男。

 名をゼネラルシャドウと言う。

 彼の背後から足音が聞こえる。

 強敵たちの足音が。

 

 仮面ライダーストロンガーの戦いは、続く。

 

 仮面ライダー/ダークサイド 完




 ちなみにここからはIfネタです。
 書きません。









Ifルート


 もしかしたら。その1

 デルザー軍団のドクターケイトの毒液を浴び、その毒が体に回ってしまった岬ユリ子。
 その事を城茂に黙っていてほしい、そう懇願された立花籐兵衛。
 彼は苦悩し、そして。
「…そうだ。
 ユリちゃん! もしかしたら何とかなるかもしれないぞ!!」
「おじさん、それどういう意味?」
 籐兵衛は茂、そしてユリ子を連れてジープで走りだした。

 不審に思う2人を連れてきたのは海の見える丘の上。
 そこには木製の十字架が未だきれいなまま残っていた。
「おやじさん、どうしてこんな所に?」
 その茂の声に答える事無く、籐兵衛はその墓を持って来たスコップで掘り返し始めた。
「おじさん!?」
 籐兵衛はすぐに掘るのを止めた。
 目当てのものがすぐに出てきたからだ。
「…これさ」
 掘り出したのは、奇っ怪人スパークの内部装置。
「これはあいつの自己修復装置だ。
 こいつはほとんどスクラップだったあいつの体を再生しちまうくらいの力がある。
 これを使えば…」
 目を輝かせて言う籐兵衛に、ユリ子も希望を取り戻す。
「…なあ、一体何の話なんだ?」
 状況が読めずに目を白黒させる茂を尻目に。



 もしかしたら。その2

 仮面ライダーストロンガーが立ち去った後、クーデターを成功させ、ゼネラルシャドウが本拠地を占領した。
 そして。
「シャドウ様、どうかなされましたか?」
 蛇女がそう尋ねる。
「…これだ」
 シャドウが足元を示す。
「これは…、サタン虫の死骸ですわね。
 これが何か?」
「これか。
 これはな、奇っ怪人スパークの、本体よ」
 シャドウの言葉に、蛇女の表情が変わる。
「これが、あの子供の正体ですか。
 …なんとも哀れですね」
「お前がそう言うとはな。
 …それも面白い、か」
 そう言うと、ゼネラルシャドウはそのサタン虫の死骸を丁寧にハンカチに包み、持ち上げた。
「それをどうなさるおつもりで?」
「さてな。
 加工して使い魔にするもよし、何かの召喚に使えるかもしれんし、な」
 そう言って、シャドウはその死骸を持ちかえった。

 彼は結局、仮面ライダーストロンガーに破れるまでそれを使う事はなかった。
 しかし。
 時は流れ、真の神たるJUDOの目覚めの直前。
 ゼネラルシャドウは冥府より呼び戻されていた。
 JUDOの圧倒的な力によって。
 静岡は富士の樹海に設置されたピラミッド内。
 その中では再生怪人のプラントが雷の電気エネルギーを吸収する事で起動していた。
 その最下層。
 ドロドロとした腐臭を放つものが詰まった区画。
 本来実験体であったり、失敗作として廃棄された奇っ怪人達がその中で呻いていた。
 そのような者達までJUDOは再生していた。
 その中で蠢く1体。
 それにゼネラルシャドウは何かを投げつけた。
 蜘蛛の様なそれは、カサカサと動くとその奇っ怪人もどきに取り付き、その体の中に潜り込んでいった。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。