トータスナイトが基地に着任しましたっ!   作:林屋まつり

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 過去の回想になります。
 《神々の義眼》は音まで対応してるのか? という突っ込みは、回想と割り切りご遠慮ください、でお願いします。


十話

 

 賑やかな時間が終わり、カルツを伴って執務室に戻る。

 レーベの手には冷却シート。彼女は心配そうに、レオナルドの隣に腰を下ろす。

「それじゃあ、……ええと、ブラックとカルツ中将を相手に、でいい?」

 ビスマルクの記憶を見せるのは、と。問いに応じるのはマックス。「それでいいよ、大人数にやると負担も大きいでしょ?」

「僕たちも洋上基地の中にいたし、それなりに見てきたから大丈夫だよ。

 レオ君、無理、しないでね」

「ああ、大丈夫だって」

 心配そうに問うレーベにレオナルドは頷く。そして、グラーフはバケツを持ってきた。

「………………あの、グラーフさん、それ、なんすか?」

「ああ、レオの目は使いすぎると発熱するのだろう?

 なら、冷却のために必要だろう」

「冷却シートあるだろっ?」

 レーベの持っている冷却シートを指さしながら怒鳴る。グラーフは真顔で頷く。

「そうか? それなら、危ないなと思っても続けていたら殴って止めるか。

 私はどちらでもいいぞ? 頭からずぶ濡れになって止まるのでも、殴られて止まるのでも、な」

「…………あ、うん、……えと、気を付ける」

 気遣われていたのか、と。気まずそうに応じるレオナルドにグラーフは「わかった」と頷く。

「では、ユー、レオの顔に水をかけろ。

 私は、殴るっ!」

 拳を握って気合を入れるグラーフ。レオナルド慄く。

「なんで両方なんだよっ! 水だけでいいよっ!」

「…………いや、書類もあるから、水はやめてほしいんだけど」

 ウィリアムの言葉を聞いてシャドーボクシングを始めるグラーフ。レオナルドは肩を落として「気を付けます」

「それじゃあ、始めましょうか」

 椅子に座り、足を組むビスマルク。彼女は真っ直ぐに視線を向ける。レオナルドも頷く。

「それじゃあ、……ええと、」

 一度、目を閉じる。そして、目を開ける。

 《神々の義眼》が起動する。…………そして、レオナルドはビスマルクの眼球から、過去を見る。

 

 白い、白い、闇の中。

 逃げ惑う人たち、響く烈震。……そして、沈黙の中、消し飛ぶ人。

 砲撃の音、おそらく、ビスマルクが砲撃をしたのだろう。けど、その砲弾は白い闇に消える。

 苛立つ声。そして、彼女らしくない。不安そうな、声。……けど、

「レーベっ! マックスっ!」

「姉さまっ! これ、何っ? 何なのっ?」

 マックスとレーベ、そして、プリンツが合流する。「グラーフとユーはっ?」

「わ、わからないっ、けど、」

「探さないと」

 危機感の強い声。不安の混じった、プリンツの声。

 白い、白い闇。探し出せるのか、……けど、

 探さないと、と。

 大切な仲間だ。見捨てるなんて選択肢は、ない。

 故の言葉に皆は頷く。……砲撃。

「なっ?」

 外からの砲撃が壁を粉砕する。さらに、砲撃が重なる。

「これ、あの失敗作のっ?」

 洋上基地そのものを揺るがす砲撃の音。そして、洋上基地の中でも声が響く。

 白い闇に消えていく人。……どうするか、と。ビスマルクは思う、離脱するべきか、あるいは、…………「ビスマルクっ!」

「グラーフっ?」

 声、そして、艦載機が飛んできた。外、なら。

「出るわよっ!」

 駆け出して、そして、飛び出した。

 

「つっ、……外も霧がひどいね」

 レーベは辺りを見て呟く。白い闇は洋上基地の外も覆っている。視界は悪い。けど、

「グラーフ、ユーっ」

 マックスの視線の先、艦載機を格納するグラーフと、あたりを警戒するユー。これで、

「みんな、合流できたね」

 プリンツの言葉に頷く。まずは、一安心。……けど、ユーは首を横に振る。

「失敗作の、全部、動いています。

 こっちに、向かってきています」

 水音が聞こえる。ビスマルクは辺りに視線を向け、一度、洋上基地を見る。……一息。

「ここから離れるわ」

「それがいいだろうな」

「どこに、行くの?」

 不安そうなレーベの問い、この洋上基地から出たことないから、あてずっぽうだが。

「まあ、どこかに出られるでしょう。

 期待しているわよ。グラーフ」

「せいぜい努力しよう」

 自分の緊張と不安を押し殺し、強いて、何でもないように告げるビスマルクにグラーフは苦笑して頷く。

 旗艦が弱音を見せてはいけない、と気を張っているのだろう。だから、

 やれるだけのことは、やる。……その意思で一息。

「失敗作、集まってる。はやく、行かないと」

 ユーがビスマルクの手を引く。彼女は頷いて、

「プリンツ、殿は任せたわ。グラーフ、マックス、左右展開、中にグラーフが入って、ユーは対潜警戒。

 前は、私がやるわ」

 頷き、そして、白い闇の中。駆け出した。

 

 視界の悪い白い闇の中。失敗作の襲撃。

 砲撃を繰り返す。辿り着けるかわからない不安。どこからともなく現れる敵。それは疲弊をもたらし、……けど、

「大丈夫、……蹴散らすわっ!」

 白い闇、そこにある失敗作に砲弾を叩き込む。撃破、そして、前へ。

「……魚雷、来ましたっ、正面、ですっ」

 ユーの言葉に散開。魚雷をやり過ごし、ユーは潜航、そして、水柱が上がる。

 爆発の音。「ふはっ」とユーが顔を出す。

「左からも来たっ!」「後からも、追撃、来てますっ!」

 レーベ、プリンツの声。そして、砲撃の音。

「包囲されているか」

 前方から潜水艦、そして、左、後ろからも敵艦が迫るという事は、つまりそういう事。

「なら、前方に集中、突破するわ」

 強く、告げる。周りの皆が頷く。

 そう、ビスマルクは旗艦だ。こんな状況だからこそ、弱いところを見せるわけにはいかない。

「霧の中だから、あまり期待するな。

 レーベ、マックス、ビスマルクを援護、プリンツは追撃してきた敵艦だけを払え。ユーは対潜警戒っ」

 了解、の声が聞こえる。そして、苦笑。

「グラーフ、旗艦は私よ?」

「では、旗艦殿。

 せめて号令はしてもらおう」

 ため息。一息。眼前には無数の敵艦。周囲の、闇のような霧は晴れない。この先に何があるかわからない。

 不安、恐怖、……そのすべてを吹き飛ばす、戦艦の声。

「突撃、敵を蹴散らすわっ!」

 声とともに、前に突撃。近くにいる敵艦を砲撃し、轟沈し、真っ直ぐに突き進む。

 魚雷の水柱が上がる。そこを突き破り砲撃。迫る敵艦の頭らしい場所を消し飛ばす。けど、

「つっ?」

 マックスが声を上げる。砲撃が当たったのだろう。後ろからも砲撃の音が響く。

 敵の数は不明、白い闇は視界を奪い、レーダーさえ曖昧にする。

 けど、止まるわけにはいかない。ビスマルクは歯を食いしばる。

 …………けど、

 レーベが被弾、中破、プリンツが被弾、小破、ビスマルクが被弾、小破。

 倒しても倒しても現れる敵。そして、確実に削られていく自分たち。

 マックスが被雷、大破、ユーが被弾、中破、グラーフが被弾、中破。

 進めど進めど晴れぬ闇。燃料も、弾薬も尽きていく。何より、全員の疲弊が濃い。

 グラーフが被弾、大破、プリンツが被弾、中破、ビスマルクが被雷、中破。

 歯を食いしばる。肩に大破し意識を失ったマックスを背負い、仲間を、自分を励ますために声を上げ、けど、

 レーベが被弾、大破、ユーが被弾、大破、プリンツが被弾、大破。

 状況は絶望的。奇蹟的にも、まだ誰も沈んでいない。けど、当たり前のように、誰もがぼろぼろ、そして、当然のように、もう、皆、沈むだろう。

 …………実を言えば、ビスマルクには自分が作られた意味を理解出来ていなかった。まだ、出来ていない。

 けど、

「私、は、……戦艦、ビスマルク」

 体を叩き抉る砲弾に、歯をくいしばって耐える。息も絶え絶えなレーベが自分の曳航をやめるように懇願するが、無視。

 だって、

「絶対に、…………僚艦を、」

 守る、と。自分の作られた意味は理解できない。けど、その意思だけは絶対に貫く。

 もし、自分の意味があるとすれば、それなのだろう。

 だから、レーベの懇願は無視、マックスも手放さない。誰一人、自分の目の前で沈ませたりはしない。それこそが、旗艦の役割なのだから。

 前方からの砲撃がやむ。ぼろぼろの砲を構え、自壊覚悟で砲撃、さらにきしむ音がする。が、眼前、最後の敵艦を撃ち抜く。

 抜けた、……と、守り抜けた。と、そんなことを思い。

 けど、

「姉さまぁぁあっ!」

 後ろから、声。ユーを背負うプリンツが、悲鳴を上げる。

 振り返る。そこには、莫大量、弾幕、とさえいえる砲弾。

 感じるのは強い意志、沈め、と、死ね、と、逃がさない、と。白い闇の向こう側から強い意志を感じる。

 全員を沈めるに値する砲撃。ビスマルクは必死に駆ける。青ざめたプリンツ。彼女を守るために走り出して、

 

 とん、と。誰かに肩を叩かれた。

 

「あっぁああああああああああああああああああああああああっ!」

 裂帛の声。ありえない、まだ幼さの残る男性の、声。

 ふわり、とビスマルクの肩に手をついてさらに前へ、プリンツの前に躍り出る。そして、

 莫大量の砲弾、それが、止まった。

「え?」

「こ、のおっ!」

 海面に着水。手をふるう。放たれた砲弾が、一斉に逆方向に弾き飛ばされる。

 砲弾はすべて白い闇の向こうに突き刺さる。爆発の音が響く。そして、

「霧、……が、」

 晴れた。手品のように鮮やかに、……白い闇は蒼の空に代わり、そして、

 

「よかった。無事だね」

 

 陽光のような微笑を見た。

 

「…………凄いなブラック。っていうか、海面に立ってなかったか?」

 過去の映像を切ったレオナルドは開口一番に呟く。ウィリアムは苦笑。

「ものをその位置に固定するっていうのはサイコキネシスの基本だよ。僕じゃあ、あんまり長い時間は、無理だけど」

 そういえば、前もそんなことやってコーヒーを止めてくれたな、と思い出す。レオナルドはレーベの差し出した冷却シートを瞼の上に貼る。

「レオ君、大丈夫?」

「ん、…………ああ、水かけられるほどじゃないよ」

 熱は感じる。けど、それが引いていく心地よさを感じる。ほう、と一息。

「疲れたかな? レオナルド君」

「あ、はい、けど、これで楽になりました。ありがとうございます」

 カルツの心配そうな言葉にレオナルドは頷く。熱がとれ、楽になった。ぺりぺりとはがす。

 ふむう、とカルツはウィリアムの肩を叩く。

「格好良かったなあ。

 まさに、お姫様のピンチにさっそうと現れる騎士、っていう感じだったねっ!」

 ぐっ、と親指を立てる。レオナルドは重々しく頷いて親指を立てる。

「お、お姫様、……提督の、お姫様、…………素敵ねっ!」

「落ち着けビスマルクっ!」

 うっとりとした表情のビスマルクを一喝するグラーフ。妙な空気になりかけていた事に歯止めがかかり、ウィリアムは安堵。

「な、なによグラーフっ! 何か問題があるというの?」

 睨みつけるビスマルクに、グラーフは頷く。

「ビスマルク、戦艦としての誇りはどこに行った?

 ウィリアムは優れた術師だ。だが、守るべき民でもある。その彼に守ってもらうなど、間違えている」

「そ、……そう、ね」

 肩を落とす。そんな彼女の肩をグラーフは優しく叩く。ビスマルクは顔を上げる。

「だから、こう考えればいい。

 お姫様である提督を守る騎士、ビスマルク」

「僕がお姫様っ?」

「きゃーっ、騎士姿の姉さまも、お姫様姿の兄さまも素敵ですっ!」

 くねくねするプリンツ、レーベは半端に笑って「ま、……まあ、ビスマルクは、姫っていうよりは騎士だよね」

「ふーん、……うん、私も似合ってると思う」

 女性を相手にそれはいいのか、レオナルドには判断できない。もっとも、ビスマルクは嬉しそうなのでいいのかもしれない。

「そう、そうね。……提督を守る騎士、…………ええ、レオ、貴方には負けないわっ!」

「あ、はい。僕、負けます」

 即、両手を上げる。なんとかしてくれ、というウィリアムの視線は無視。

「ちょっとレオっ、あなた、潔すぎるわよっ!」

 負けを認めたら怒られた。

「そういえば、提督。あまり気にしてなかったけど、どうしてあの場所にいたの? たまたま?」

 不意に、マックスが問う。偶然、でもいいけど。

 問いに「ああ、」と、ウィリアムは頷いて、

「ほら、あそこ、霧が凄かったろ? それが凄く不自然な形でさ。

 それに、レーダーは妨害されて中の様子は探れない。……っていう事で、最悪の場合を考えてドイツの軍が待機していたんだけど、LHOSからの派遣で僕もいたんだ。

 レーダーが届かない濃霧、もしかしたら異界の技術かもしれないっていう事で、HLにいた僕にお鉢が回ってきたって事」

「ふーん、……そう、…………異界、そういえば、HLも霧に閉ざされているのよ、ね」

 頷くマックス。確かに、あの、白い闇のような霧は気象現象にしては不自然だ。もしかしたら、異界の技術がかかわっている、…………かもしれない。

 そんなのが敵艦なんて考えたくもないけど。

「といっても、霧の中まではよく見えなかったからね。

 千里眼で視力強化してなんとか中の様子を探ってみたら危なさそうで、テレポートで飛び出したんだ。何とか間に合ってよかったよ」

 あの時のことを思い出したのか、微笑むウィリアム。で、

「あの、中将。

 ブラック、千里眼とかテレポートとか、サイコキネシスとか、ぽんぽん使ってますけど、術師ってみんなそうなんですか? あいつ、自分は才能ないとか言ってますけど、あれで才能ないんっすか? 術師すげー」

「はっはっはっ、あれで才能がないなんて言ったら才能ある術師なんて想像もできないなあ。

 LHOSは少数、なんていっても百人近いの術師がいるからねえ。ウィリアム君が才能ない、となると。…………はっはっはっ、ドイツ軍はやばいなあ」

「ですよねー、もう、HLもLHOSがいればいいんじゃないかな?」

「な、なんだよ? 言いたい事があるならはっきり言えよ」

 こそこそと言葉を交わす二人に不機嫌そうなウィリアムの視線。マックスはため息。

「提督、少しは自分のことを自覚した方がいいわよ。

 あれだけのことをやってのけた術師が才能ない、なんて、それじゃあ私たちの出る幕がなくなるわ」

「ゆーも、提督の事、凄い、と思います」

「あはは、ありがと」

 照れくさそうに笑うウィリアム。あいつ、話半分だろ、と。レオナルドはいつかの会話を思い出す。

 しっかり者のメアリがそばにいたからか、自分のことを下に見る癖がついているらしい。

 それはともかく、

「洋上基地を襲撃したのは、ビスマルク君。君と同じ?」

 問いに、ビスマルクは頷く。

「おそらくは、そうね」

「あの、ゆー、直前に建造する、みたいなことを聞きました。

 たぶん、それでできたのが、やったのだと、思います」

「ふぅむ、……なるほどなあ。

 その、……建造というのは君たちでも出来るのかなあ?」

「設備と材料があれば」

「…………ふぅむ」

「その最後の成功例が、建造を続けているかもしれない、か」

 ウィリアムの言葉にカルツは頷く。

「建造は何時間も時間がかかるけど、資材はたくさんあったから。……少しずつだけど、敵艦は増えていく、と思う」

「そっかあ、……うん、じゃあ、仕方ないなあ」

 レーベの言葉にカルツは頷く。

「その、最後の建造成功例の撃破を最終目標。方針は、ウィリアム君、君の方針で構わないよ。

 レオナルド君も、彼女たちは私の部下になるかもしれない娘でねえ、よろしく頼むよ」

「はい」「わかりました」

 

「霧か、……けど、異界のとは違いそうだな」

 カルツを見送って、ぽつり、レオナルドは呟く。

「そうだね」

 HLにいた者として頷く。具体的に何が違うか、とまではわからない。けど、……なんとなく、あれは、存在を隠すためのような。

「っていうか、千里眼とか使えるなら、僕、いらないんじゃないか?」

「僕のはただの視力強化だよ。ちゃんとできなくてさ。

 第一、《神々の義眼》と比べるなよ」

 ともかく、空を見上げる。「もう、夕方かあ」

「そうだね。……結構遊んじゃったか」

 ウィリアムも苦笑。あっという間だったな、と。そして、執務室に入る。……入ろうとして、止めた。

「ウィリアム?」「邪魔しちゃ悪そうだから」

 少し、戸を開けて中を見る。苦笑、「そうだな」とレオナルドも小さく頷く。

 執務室内ではビスマルクがホワイトボードにいろいろ書き込み、話し合いをしている。あの時のことを意識したからだろう。あるいは、改めて、打破すべき敵艦を意識したから。

 どちらにしても、

「ま、じゃあ、こっちはこっちでやる事やっておこうか」

「ああ、手伝うよ」

 彼女たちが万全に、後悔なく戦えるようにするのが自分たちの役割。二人はそう思い、歩き始めた。

「……それで、僕は何を手伝うの?」

「夕食の準備」

 

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