トータスナイトが基地に着任しましたっ!   作:林屋まつり

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十一話

 

 配膳をするレオナルドは、ばたばたと慌ただしい足音を聞いた。

「お、来た来た」

 理由はわかる。少し前に放送で夕食を告げるウィリアムの声を聞いた。それで慌てて来たのだろう。

 ほどなく、ばたんっ、と乱暴に扉が押し開かれる。

「ごめんなさいっ」

「ああ、大丈夫。気にしてないよ」

「あ、来たー?」

 奥からウィリアムの声。しゅんとするビスマルクの傍ら、

「すまない提督、レオ。

 話に熱が入りすぎたようだ」

「放送が聞こえるまで誰も夕食の事言い出さなかったよね」

 マックスは苦笑。だから、

「うー、兄さまあ、レオ君も、ごめんね」

「ごめんなさい」「ごめんね。お手伝いできなくて」

 ぺこり、プリンツとユーとレーベが並んで頭を下げる。レオナルドは微笑。

「いいって、遊んでたわけじゃないんだろ?

 みんなはそっちが本分なんだから、こういう事は僕たちがやるよ」

「うん、ありがと」

 微笑むレオナルドにつられるように、レーベも微笑。マックスは首を傾げて「これ、レオと提督が作ったの?」

「ああ、……ていっても、ほとんどブラックがやっちゃったけどな」

「レオ君の作った料理かあ、楽しみだなあ」

「期待するなよー、僕、その辺結構適当だったし」

「そうなの?」

 ほわほわするレーベが首を傾げる。レオナルドは在りし日を思い出し、苦笑。

「いやあ、お金なくてさ。

 やっぱ、珈琲じゃあ腹膨らまないよな」

「それは雑すぎ。

 レオは男の子なんだから、ちゃんと食べないとだめ」

 呆れた様に応じるマックスに「金がなくて」と、苦い言い訳。

「そうか、……レオと提督が一緒に作った食事か」

「…………いや、そうだけど。

 グラーフさん? なんか、変な想像してません?」

「ふっ」

「なんだよそれっ!」

 意味深に笑うグラーフに突っ込むレオナルド、そして、ぽん、と。

「……………レオ」

 ぎぎぎぎ、と。レオナルドは振り返る。

「レオ、……私は、……私はぁあっ!」

「半泣きっ? いや、ほんと何もないからっ?」

「だってぇえ、…………れ、レオには負けないわっ」

 めそめそしていたビスマルクは気合を入れなおす。で、

「うんしょ、と」「兄さまっ、配膳終わったー」

「ああ、ありがと。プリンツ、ユー」

 配膳を手伝っていた二人をウィリアムは笑顔で撫でる。ユーは心地よさそうにし、プリンツは満面の笑顔。

「ぬ、……抜け駆けっ? プリンツっ! どういう事よっ!」

「へえっ? ど、どういう事って、遅れてきちゃったし、兄さまのお手伝いを、って」

「ぷーりーんーつー」

「ひゃぁあああっ?」

 ビスマルクの矛先がプリンツに向いて、レオナルドは安堵のため息。ユーはくすくす笑う。

 そして、グラーフは笑った。

「そうだぞ、プリンツ。少しは自重した方がいい。

 今夜、提督と、二人きりで、……するのだろ?」

「は、話だよっ! 話するだけだよっ!」

 レオナルド、レーベ、マックスから冷めた視線を受けたウィリアムは大慌てで応じる。そして、

「ふ、……ふふ、ふふふふふ」

「ね、姉さまぁ、……あ、あの、……ひにゃっぁあああああっ?」

 

「さて、」

 賑やかな夕食が終わり、入浴が終わる。グラーフはワインを手に取る。

 行くか、と自室を出た。「グラーフ?」

「マックスか」

「ん」

 部屋に入ろうとしていたらしいマックス。ちょうどいい、と。

「付き合うか?」

 ワインを掲げる。マックスは少し考え「少し、明日もあるから」

「その程度の分別はある。

 では、行くぞ」

「ん、どこ?」

 自分かグラーフの部屋、と思っていたマックスは首を傾げ、グラーフは笑った。

「レオのところだ」

 

「入るぞ」「お邪魔するね」

「…………いや、いきなり開けるなよ。ノックぐらいしろよ」

 ベッドに潜り込もうとしていたらしいレオナルドはため息。

「固い事を言うな」グラーフは酒瓶を掲げ「どうだ?」

「いいけど、どうしたの? マックスまで」

「ん、グラーフと同じ」

 応じる。ここに来た理由は聞いた。同感だから、ここに来た。

「なに、」グラーフはレオナルドが潜り込もうとしていたベッドの対面にあるベッドに腰を下ろして「話をしたくなってな」

「話ねえ?」

 奥のデスクを引っ張り出す。グラーフは一緒に持ってきたグラスにワインを注ぐ。

「私たちは明日も出撃をする。……いや、哨戒かもしれない。

 ただ、敵艦と交戦する可能性はあるだろう。だから、明日死ぬかもしれない」

 さらり、と告げる彼女にレオナルドは言葉に詰まる。

 明日死ぬかもしれない。HLに暮らしているレオナルドにとって、それは冗談で受け流せる言葉ではない。

「覚悟はあるってわけか」

「ない、のなら戦場に立つべきではないと思うよ。私は」

 苦笑。

「殺しに行くのだ。死ぬ覚悟がないというのは無礼だろう。

 私はあなたを殺しに来ました。けど、死ぬ覚悟はないので殺さないでください。とは言えないな」

「そうだな」

 頷く、けど、

「死ぬなよ」

 真っ直ぐに告げる。グラーフは口ごもり、…………苦笑。

「ああ、死なないさ」

 応じた。「…………まあ、死ぬ死なないはともかくだけど」

 そんな二人のやり取りを、どこか面白くなさそうに見ていたマックスはため息。

「どっちにせよ。作戦が終わったらレオや提督とは離れるからね。

 その前に、少しでも話をしておきたい」

「ああ、僕もだ」

 頷く。マックスは小さく微笑む。……不意に、苦笑。

「まあ、提督はプリンツと二人きりで話をするとか言ってたから」

「あれ、どの程度本気なんだろうな。……まあ、ブラックが変なことするとは思えないけど」

「提督、なんとなくヘタレっぽい」

「ああ、そうだな。肝心なところでヘタレるな」

 確信する。プリンツが迫ってきたらブラックは逃げる。と、

「はは、そうだな。

 と、いうわけだ。付き合う気になったか?」

「うん、もらうよ」

 レオナルドはグラスを取る。グラーフとマックスも同じようにグラスを取り、

「「「乾杯」」」

 ちん、とグラスを重ねた。

 

 さて、とは言ったものの。……グラーフは軽くグラスを傾ける。喉を湿らせる。

 何を話そうか。

 洋上基地の中の話は面白くないだろう。この基地に来てからは楽しくやっているが。その大半は彼と一緒にいる。

 だから、言葉に詰まる。意地の悪い笑み。

「グラーフ?」

「む、……ぐ」

「え? どうしたの?」

「話をしてみたい、そう思ってきたけど改めて、何を話したらいいかわからない。

 っていう事よ」

「…………ぷっ」

「わ、笑うなっ」

 マックスに図星を指され、レオナルドに笑われて怒鳴るグラーフ。けど、

「あ、ううん。……グラーフってしっかりしてるからさ。

 可愛いところもあるんだなって」

「か、……かわいい、か?」

 きょとん、とするグラーフ。……そして、その言葉の意味を飲み込み、じわじわと顔が赤くなる。

「ふーん、……そう、レオ、そういうのが好みなんだ」

「え?」

 じとー、とした視線のマックス。グラーフは軽く首を振る。かわいい、なんて言った事、後悔させてやる、と、気持ち彼を睨みつけて告げる。

「では、代わりにお前がしろ」

 気持ちは宣戦布告、つまらない話をしたら笑ってやる、と。決意。

「しろってか、……話ねえ」

 何かあったかな、と。レオナルドは口を開いた。

 

 ………………………………そして、グラーフは完全敗北を認めて突っ伏した。全力で白旗を振った。

 その隣でマックスも目を見開いている。

「凄い、ね」

「まー、……めちゃくちゃな街だよ。ほんと」

 話、と言われてレオナルドが語ったのはHLの日常。彼が生きてきた時間。ライブラの一員として過ごしてきた日々の話。

 目だけが特別な普通の人? 冗談じゃない、それだけの日々を生き抜いてきたのだ。改めて、グラーフは自分の経験のなさを自覚する。

「いや、私もすごいと思う。

 HLもそうだが、レオ、お前自身もだ」

「そう?」

「そんな街で生き抜いてるって、私は凄い事だと思う」

 こくこく、と頷くマックス。

「まあ、……いろいろ、助けてくれる人もいるしね」

 ライブラのメンバーとか。……マックスは口を開く。

「そうした人たちに助けてもらえる。……助けようと思ってもらえている。

 それは、誇っていいことだと思う」

「そうか?」

「私も、……軍船。軍人としての魂を持つから、わかるわ。

 本当に価値がないなら、そうやって助けたりはしないし、一緒にいたりもしない」

 義理、あるいは情で助ける事もあるだろう。けど、そのあとは間違いなく、遠ざけられる。

 そこにいる、と。それは認められている証。そんな超常の街でその意思を認められている。それは、まだ、ほとんど経験というものを積んでいないグラーフやマックスからすれば、とても、羨ましい事。

「そか」

 嬉しそうに応じるレオナルド。グラーフは一瞬、その微笑に見入りかけ、らしくない、と首を横に振る。

「ほかにも話はあるか?

 ぜひ、聞かせてほしい。レオ、君の話を」

 マックスも身を乗り出して興味津々と頷く。話か、と。小さく呟き、

「それじゃあ、……そうだな。

 車を食って巨大化する車があったんだ。それを作ったのが、」

 また、レオナルドは異界の日常を語るため口を開く。グラーフは軽くグラスを傾け、その言葉に聞き入る。

 話を聞きながら、どうしても、頭の片隅で思ってしまう。

 惜しいな、と。

 軍船の力、強大な攻撃能力を持つ自分たち。……けど、圧倒的に経験が足りない。

 だから、超常の街で生き抜き、様々な経験を積んだ彼やウィリアムが羨ましい。妬みさえ感じてしまうほどに、

 だから、

「お前たちと出会えてよかったよ」

 ぽつり、グラーフは呟いた。「へ?」

 話している途中、唐突に聞こえた小さな声。聞き逃したレオナルドは反射的に応じ、聞こえたらしい、マックスは同感だ、と頷く。

 だから、グラーフは笑った。

「なに、女っ気のない日常を送っているようでよかったといったんだ」

「なんでそれでよかったんだよっ! 悪かったな、どーせ僕に彼女なんていないよ」

 一転、不貞腐れたようにそっぽを向く。グラーフは頷く。

「よし、ならば私が恋人になろう。

 どんと来い」

「なんでそんな男らしいんだよ」

 大仰に胸をはるグラーフにレオナルドは呆れてぼやいて、マックスは頷く。

「じゃあ、私が恋人になる。

 レオ、大丈夫、もれなくレーベもついてくる。これでレオも寂しくない」

「そうだな。これで少しは女っ気も出るな」

「余計なお世話だっ!」

「私とレーベはおっぱい小さいけど、グラーフは大きいから」

「ふむ、……では、揉むか?」

「揉むか、じゃねーっ!」

 レオナルドは怒鳴る。不意に、マックスはグラーフと視線を交わす、残念だ、と彼女は肩をすくめた。

 

 どきどきする。……プリンツは深呼吸、室内を一通り見渡す。

 散らかってない、恥ずかしいものとかは、ない。

 視線を落とす。ぱじゃま、…………ウィリアムからもらったシャツと下着の方がいいかな、と思ったけど。

 それで、ウィリアムが逃げたら水の泡。あとでやろ、と。決意する。

 確認を終え、念のため鏡で自分の姿を映す。お気に入りの可愛いぱじゃま、変なところは、ない。

 と、戸を叩く音。小さくて、かすかに震えている。

「え、えーと、プリンツー」

 来てくれた。にへら、と笑みが浮かぶ。立ち上がる。

「ようこそっ、兄さまっ」

 扉を開ける。やや挙動不審なウィリアム。

「ささ、入って入ってっ」

「い、いや、……ええと、ほ、ほんとにいいの?

 僕、男だよっ? 女の子って男が私室に入るの、嫌がるんじゃないの?」

「嫌なのは兄さま以外の男性っ」

「えー」

 ここまできておきながら渋るウィリアム。彼の手を掴み、腕を抱えて部屋に連れていく。

 もちろん、ウィリアム以外は断固拒否。レオナルドだって許さない。

「……はあ、ほんと、お話しするだけだからな」

 観念したらしい、抵抗がなくなった。ウィリアムはおとなしく部屋に入り、近くの椅子へ向かう。「って、そっちじゃないですっ」

 ぐい、と手を引っ張る。バランスを崩したウィリアムは、ぽすん、とベッドに腰を落とす。

「えへへー」

 目論見通り、プリンツは颯爽と彼のすぐ隣、肩が触れ合う近くに座る。

「えーと、……プリンツ?」

「どうしたの? 兄さま」

「あ、……え、ええと、ち、近いかなあ、って」

「えー、全然近くないですよー」

 肩が触れ合うほど近く。けど、

「私的に、近いっていうのは提督にぎゅーって抱き着くことですっ」

「それは近いを超えてるってっ」

「だから、これでも遠いくらいですよ」

「そ、そうなんだ」

 女の子の距離感って難しいなあ、と、ウィリアムは苦笑。

 それはともかく、……ここに彼を呼んだ理由。二人きりで話したかった事。

「兄さま、……その、聞きたい事があるんです」

「うん」

「……ひょっとして、私から兄さま、って呼ばれるの、嫌ですか?」

 問いに、ウィリアムは沈黙。

「私は、あの時に、兄さまに助けていただきました。

 とても、……とても、嬉しかった、です。少女趣味、かもしれませんけど、御伽噺の英雄、みたいでした」

 ピンチに颯爽と駆けつけてくれる御伽噺の英雄。あの時、轟沈を覚悟したその瞬間、そこにいて自分を守ってくれた彼は、プリンツにとってまさしくヒーローだった。

「だから、私にとって兄さまは、ビスマルク姉さまと同じくらい、尊敬する大切な男の人です。

 ……その、…………だから、兄さま、ってしか呼び方がわからなくて」

 この思いを伝えたい特別な人。だから、兄さま、と呼んでいた。そして、呼ばれるたびに、不思議な表情を浮かべていた。

 その表情がよくわからない。……わからな、かった。

 たぶん、わかったのはレオナルドが来てからで、

「けど、提督、兄さまって呼ばれると、少し寂しそうな顔している、気がしました」

 会った時からウィリアムはいつも穏やかな表情をしていた。優しく微笑んでくれた。

 悩んで頭を抱えているときもあったし、書類と格闘してぐったりしているときもあった。けど、いつも穏やかな表情をしている印象だった。

 けど、レオナルドが来てから、不貞腐れた表情、困ったような声を上げて、楽しそうに笑って、……いろいろな表情が見れた。

 だから、気付いてしまった。少し、寂しそうな表情をしていることに。

 気のせいかもしれない。という程度のだけど。…………苦笑。

「そっか、気を遣わせたね」

 ウィリアムはそういって、丁寧にプリンツを撫でる。

「そうだね。ちゃんと話したことなかったなあ。

 僕には妹がいる、ってのは話したよね?」

「う、うん」

 第二次大崩落の時に死んだ。ウィリアムの妹。

「えと、……ホワイト、さん」

「メアリ、メアリ・マクベスだよ。

 姉妹、って言っても僕の双子なんだ。……なんていうかな、しっかり者で明るくて、お転婆で、……僕にはもったいない妹だったよ」

 そう、

「生まれた時からずっと一緒にいた。大切な僕の半身だ」

 そう語るウィリアムの表情を見て、ちくり、プリンツは痛みを感じる。

 本当に、大切な人のことを語る表情。その人が存在した。それだけで嬉しいのだと、彼は微笑む。

 それが自分でない。そのことが、ちくり、痛む。

 けど、……ウィリアムは微笑む。

 どこか、泣きそうな微笑みで、

「僕は、……彼女を救えなかった」

 

 もう少し、僕に力があれば、君を喪う事はなかった。

 

「え? ……あ、あの、事故、とかじゃなくて?」

 漠然と、そう考えていた。第二次大崩落、HLが滅茶苦茶になった。と聞いている。死傷者もたくさん出ただろう。そのうちの一人、と。

 プリンツの問いに、ウィリアムは苦笑。首を横に振る。

「HLは、結界で守られている。

 その結界がなければ、大崩落は続いて、世界を飲み込んでしまう。って言われているんだ」

「結界? ……えと、兄さまが作った、っていう?」

 そう、聞いている。

 第二次大崩落の最後、破壊された結界をLHOSで修復し、……最後の一つを、ウィリアムが修復した、と。

「違うよ。ホワイト、僕の妹は、もともと結界だったんだ」

「へ?」

 妹は、結界。……ウィリアムの言葉、その二つがプリンツには結び付かない。きょとん、とするプリンツにウィリアムは苦笑。

「第一次大崩落の時、ホワイトは死にかけてね。

 壊れかかった心臓の代わりを、結界で埋めたんだ。……本来なら、やってはいけない類のやり方だけどね」

 生命そのものを媒体にする結界。それで、メアリは生き延びる事が出来た。……けど、

「第二次大崩落の時、ホワイトの、心臓代わりの結界も壊れかかったんだ。

 けど、僕には、……もう、結界を修復するだけの力がなかった。ホワイトの命を使って紡ぎ直すしかできなかったんだ」

 それは、消える事のない、後悔。大切な半身を、この手で喪わせた。過去。

「……じゃあ、……あ、……あの、」

 兄さま、と。呼びかけた言葉が止まる。ウィリアムの胸の内にある後悔。それが、思っていた以上に重く、辛い事だったから。

 苦笑。ウィリアムはプリンツを撫でる。……撫でられて、自分が俯いていたことに気づいた。

「ごめんね、プリンツ。

 そんな事があったから、妹、っていうとどうしてもメアリのことを思い出しちゃってね」

「…………う、うん。あの、……私も、ごめんなさい。

 その、何も知らないのに、…………ご、ごめん、なさい」

 知らず知らずのうちに、彼の、傷に触れていた。……自分の無思慮が悔しくて、辛くて、

 俯く。……「いいよ、兄さまで」

「へ?」

 顔を上げると、微笑むウィリアム。大好きな、優しい微笑。

「プリンツの気持ちは嬉しいよ。

 妹も守れないだめな兄貴だけど、そんな僕でよければね」

「う、うん、…………に、兄さ、ま」

「うん」

「兄さま」

「ん」

 頷くウィリアム。プリンツは彼に頭を預けて、

「えへへ、……兄さまあ」

「え、……えーとお」

 まさか、ここまで甘えてくるとは思わなかった。嬉しいのは事実だけど。

 硬直するウィリアム。そして、プリンツは満足できるまで身を寄せて、………………「決めましたっ!」

「へ?」

「えと、メアリ、さん、ですよね。兄さまの妹さん」

「うん」

「私、メアリさんに負けない妹になりますっ!」

「は?」

 きょとん、とするウィリアム。プリンツも、もちろん、変なことを言っている自覚はある。

 けど、

「えーと、……まあ、…………なんていうか、」

 そんなことを言われて、なんていえばいいのか、わからないけど。

 

 たぶん、いま、ウィリアムが一番強く思っている女性は、妹、メアリ。自分は、一番じゃない。

 けど、いつかきっと、自分が一番になる。

 

「が、がんばって?」

「はいっ」

 よくわかってないウィリアムの、中途半端な笑顔にプリンツは満面の笑顔で頷いた。

 

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