そして、ユーは目を覚ます。眠い。
「ん、…………ふむ、……ん」
眠い。けど、
「髪、ちゃんとしないと」
だらしない女の子。って思われるのは、いや。
だから、頑張って髪を梳く。整える。…………大丈夫。
眠い、……理由、ベッドの脇に積まれた本。
グラーフから借りた本。日本、というところで仕入れたらしい。
それで、夜にお勉強をした。だから、大丈夫。
「お、おはようございます。パパ」
「……へ? あ、…………お、おはよ、ユー」
何か、重大な違和感を感じながらレオナルドはユーに挨拶を返す。ユーは顔を真っ赤にして俯く。
沈黙。固まるレオナルドと、彼の前で真っ赤になって俯いているユー。
沈黙。……………………………………………………「いや、レオナルド、そろそろ何か言ってあげなよ」
「Hello、ミシェーラ。
遠い地で、君は叔母さんになったよ」
「ごめんっ! レオナルドっ!」
わけのわからないことを言い出した親友を一発殴る。
「お、落ち着こうよレオ君っ!
え、……だ、誰を孕ませたのっ?」
「落ち着けレーベっ!」
「……ふぅん、…………ね、ユー」
マックスは、ぽん、とユーの肩を叩く。
「私のことをママって呼んでみて?」
「ま、……マックス、…………だめ?」
妹の奇行に愕然とするレーベ。「まま?」と、ユーは呟き、マックスは頷く。
「これで、レオと私は夫婦」
「なんでだよっ?」
「マックスの、ばかーっ!」「敵艦を捕捉、攻撃開始」
喧嘩を始める姉妹。グラーフは一つ頷いて重々しく口を開く。
「よし、ではレオ。私と夫婦の営みをするぞ」
「お前は少し考えて発言しろ」
「ええと、ユー。
ママは誰? その、……真剣に答えて、僕、友達は大切にしたいんだ」
ユーと視線を合わせて真剣な口調で問うウィリアム。
「え? ……ママは、いない、です」
「ちょっとどけ」
レオナルドは邪険に親友を追い払う。で、
「その、ユー。
どうしていきなり、僕がパパになったのかな?」
「そうだ、レオは誰を孕ませた?」「ちょっと中将に連絡してくる」
そそくさと立ち去ろうとする親友を蹴飛ばす。で、
「あの、れお、無理しそうで、昨日、軍人さんに、どうすればいいか聞いた、です。
そしたら、大切な人がいると無理しなくなる、って言われて、……それで、…………あの、……グラーフが持ってた資料に、ぱぱって呼ばれると、いいって、あって、……その、」
注目に、だんだんと声が小さくなる。ウィリアムは満面の笑顔。
「信じてたよ。親友」「ちょっと表出ろ」
は、いいとして、
「大丈夫だよ。ユー。
そんな風に呼ばなくても、無理なことはしないよ」
レオナルドは腰を落とす。言葉に詰まって俯くユーを撫でて、
「やる事があるからね」
「やる事?」
「そ、みんなの帰りをちゃんと待って、おかえり、って言ってあげないとね。
そこまでして作戦成功だろ? 大丈夫、みんなを放っておいて壊れるようなことはしないよ」
「う、……うん」
ユーは微笑。けど、
「あ、あの、れお」
「ん?」
「ゆーは、れおの大切な人に、なれますか?
れおと提督に、大切に思ってもらえるって、ゆー、そう思うだけで、すごくうれしい、です」
「ああ、もちろんだ」「もちろんだよ、ユー」
まだ、一緒にいた時間は短い。……けど、幼くても、頑張っている彼女だ。大切にしたい。
たとえ、それが遠からず、それぞれ別の道を歩むとしてもだ。
レオナルドとウィリアムの即答に、ユーははにかみ微笑み。
「嬉しい、です。えへへ、ゆーも、れおと提督の事、大好き、です」
三人で微笑を交わし、
「皆、これは何か、対策が必要だ」
「はうう、に、兄さまぁ。……私だって、私だってぇえ」
「ぼ、僕だって、レオ君の事、大切、なのに」
「ふーん、……そう、……大切ね、ふーん」
「ぐぐ、……ユー、意外な伏兵ね。敵はレオだけだと思っていたのに」
隅っこの方でぼそぼそと語り合う少女たち。不穏な空気を察したレオナルドとウィリアムは顔を見合わせて、
「よし、親友。朝食の準備だっ」「そうだねっ、親友っ」
そそくさと奥へ。ユーは首を傾げてとことこと、二人の後についていった。
で、
「…………提督」
「はい、なんでしょうか?」
据わった視線を向けるビスマルク、ウィリアム慄く。
「ここ、来なさい」
「はい」
示す場所はビスマルクとプリンツの間。レオナルドは十字を切った。ウィリアムはいやそうな視線を彼に向ける。
で、
「レオ君」
「はい、なんですか?」
据わった視線を向けるレーベ、HLで鍛えられた危機回避本能が警告を告げる。遅い。
いつぞや偏執王から受けた拷問を思い出す。せめて、と。ユーに視線を向ける。ユーはいない。
一緒にいてくれれば、と思った彼女はグラーフの膝の上。だから、
「ふーん、逃げられるなんて思ってたんだ。残念ね」
「はい」
「それで、今日の予定だけど」
ぐったりしているウィリアム。ビスマルクとプリンツにやや慄きながら口を開く。
「ええと、方針と、改めて必要な資材は来たから、今日から本格的な出撃になるよ。
午前中は近海の哨戒。全員でね、哨戒と、改めて連動の確認を取って、動きの指示はビスマルクに任せるね」
「ええ、私に任せなさい」
胸を張るビスマルク。だれも異論はない。彼女は、自分たちの旗艦なのだから。
「レオナルドは《神々の義眼》で状況を見てて、とりあえず見ているだけでいいよ。
ただ、長期になるから、切断のタイミングは任せる。何もなさそうなら切っていいけど、何かあったらサポートをお願い」
「了解」
頷く、心配そうな視線は「大丈夫だよ」と笑って応じる。
「みんなから頼まれたら出来る限りのことはやる。
信じてるよ」
レオナルドの言葉に、レーベは口を開こうとして、……ため息。
「お願いね」
「いざという時はどんどん頼るから、レオ。覚悟してて」
マックスはきっぱりと告げる。ユーが何か言いたそうに口を開く。けど、「ああ、任せろ」
ぐ、と拳を握るレオナルド。マックスは表に出さず、安堵。
わかってる。能力を酷使すれば彼は体を壊す。……けど、自分たちが死ねば、心が壊れてしまうかもしれない。……どちらも、絶対に、いやだ。
いざという時は、……マックスはウィリアムに視線を向ける。ウィリアムは頷く。いざという時は、「大丈夫、僕が殴るよ」
「…………あ、あのー、ブラック?
僕、何かした?」
「さて、それじゃあ解散。
入渠と補給の準備は僕がしておく。お昼までには準備を終わらせるけど、念のため戻る、……そうだね。三十分くらい前には連絡を入れて、最優先で準備をするから」
「わかったわ」
「おいブラック。無視するなよ」
海上に出る。まずは近海の哨戒。グラーフは艦載機を飛ばす。
視界の共有は、まだ行わない。レオナルドに艦載機の視点から海上を見てもらうように依頼をし、目視で周辺の警戒。
その傍ら、
「マックス、れおに無理させるの、だめ、です」
ぽつり、ユーが呟く。
「別にそういうつもりじゃないでしょ?」
プリンツはいつかの会話を思い出す。ビスマルクと、マックスと話したこと。
「そうね、……ねえ。ユー。
兄さまやレオ君が危ないとき、自分が見てるだけだったら? 怪我しそうなとき、見ていることしかできなかったら、辛いでしょ?」
「うん」
「レオ君の無理を気にして、何も言わないまま私たちが傷ついたら、レオ君たちに、そのつらい思いをさせるわ」
「あ、……そ、…………そう、です」
ユーは、少し恥ずかしくなった。それは、レオナルドと話したこと。
自分にできないことはたくさんある。だから、助けてもらう。代わりに、自分ができる事は、精一杯やる。それが、仲間。
もちろん、レオナルドも、ウィリアムも、ユーの、大切な仲間。だから、
「うん。……けど、ゆーも、がんばります」
「もちろんっ、私たちも頑張るわ」
交わされる言葉を聞きながらビスマルクは辺りを見て、
「まだ、敵艦はいないわね。
今のうちに陣形を整えておくわ」
陣形を整え、哨戒優先で動く。まずは近場の脅威を払う。
何より、ここは基地の近海。目視で基地を確認できる場所。レオナルドやウィリアムのいる基地の近くを戦場にしたくない。
と、
『敵艦を捕捉したみたいだよ。
まだ距離は離れているみたいだけど』
無線からウィリアムの声。グラーフは頷く。
「距離があるのなら、まずは私に見せてくれればいい。
敵艦が近くなったら合図を送る。その時は僚艦皆の視力強化を頼む」
グラーフの言葉に、同調するように彼女の視界が変わる。ビスマルクは僚艦に停止の指示。
「多いな。駆逐艦が、四。空母が一、重巡が二、戦艦が一。…………潜水艦が、二。
哨戒の速度だが、こちらに向かっている。艦載機は、偵察機が発艦済み、数は、十」
「大規模ね。……旗艦、意見具申するわ。
昨日一日は静かだったし、何度かここで迎撃をしたし、もしかしたら向こうも本格的に攻め込んでるかもしれない。援軍の可能性あり」
「……そう、ね」
ビスマルクは振り返る。そこには、基地がある。
「打って出る?」
レーベもそちらに視線を向けて問う。ここを戦場にすれば、……最悪、基地まで砲弾が届く。
けど、
「援軍の可能性は認めるわ。
遠距離まで出たら袋叩きに遭うわね。……提督、レオに、現在の状況を維持をお願いして、総員。微速前進。私の砲撃可能距離まで近づくわ。
提督、レオに、グラーフから、合図を出したら視力強化をお願い。飛距離ぎりぎりから砲撃を叩き込んで先制。その位置で迎撃をするわ」
レオナルドの視力強化。砲撃の有効射程距離は格段に上がる。ほぼ確実に先制が得られる。
長い射程距離を活かして、敵艦が射程距離に踏み込む前に落とす。
だから、
「視力強化、優先は、私、レーベ、プリンツの順。
レーベは艦載機の対空射撃をお願い。マックスとユーは近づいてきた敵艦の迎撃を頼むわ。グラーフは航空戦。レオのサポートなしで行けるわね?」
「無論だ」
『了解、…………ん? うん、ユー、レオナルドが試してみたことがあるって。
ちょっと、潜航してみて』
「う、うん、了解、です」
とぷん、とユーは潜航。ユーは海中を見て、「…………え?」
目を、見張った。
ずっと先まで、海流が、見える。
『ユー、魚雷の精度あげられる?』
「大丈夫、です。……これなら、遠くまで、狙えます」
頷く。魚雷は海流に流される。有効射程は、実際の射程距離よりずっと短くなる。
けど、今はその海流を知覚できる。どの程度流されるか、それで、どう動くか、それが見える。魚雷の有効射程は、ずっと伸びる。
海上に出る。無線のやり取りはビスマルクも聞いている。それなら、
「優先順位再設定。プリンツよりユーを優先してお願い。
ユー、魚雷の遠当てで潜水艦を沈めなさい。潜水艦を片付けたらプリンツに切り替えて、プリンツ、敵駆逐艦を優先して撃破。駆逐艦を片付けたら、ユーは残った敵艦に魚雷をお願い。対潜能力はないはずだから、レオのサポートなしで行けるわね?」
「大丈夫、です」
「マックス、護衛を一任するわ。プリンツ、無駄弾は避けたいから、敵艦が有効射程距離に入るまでは待機」
「ん、了解」「わかりました。姉さまっ」
一通りの指示を飛ばし、ビスマルクは前を見据える。
「総艦、前進」
前進する。グラーフは《神々の義眼》が見せる視界に意識を集中させる。
先制、交戦の開始は自分が判断する。ビスマルクの砲撃の射程距離は知っている。ぎりぎりまで、そこに近づける。
前進する。………………………………「射程距離確認、提督。レオに指示を、ユー、潜航開始」
「はい」『了解』
グラーフの視界が戻り、ビスマルクに《神々の義眼》が投影される。…………笑う。
「砲撃、開始っ!」
砲撃。砲弾は狙い違わず駆逐艦に直撃。けど、「轟沈しなかったわね」
距離が離れれば威力も落ちる。当てられたが、轟沈には届かない。そして、
「艦載機確認っ! レオ君っ!」
レーベの言葉。そして、《神々の義眼》が投影。艦載機を見据えて機銃を構える。
集中して、……大丈夫、潜水艦はユーが警戒してる。だから、……全部、撃ち落とす。上空からの危機を、すべて、払い落とす。
「グラーフっ! 艦載機は僕が払うっ!」
「任せる。艦爆、発艦っ!」
意識して声を上げる。敵艦載機はレーベが落とす。だから、艦戦は飛ばさない。
グラーフの意思を受けた艦載機は高速で飛翔。敵艦載機は銃撃。直前に、海上からの機銃掃射に撃ち落とされる。被弾、爆発。艦載機の残骸を蹴散らして、グラーフの艦爆が敵艦上空まで迫る。
それを認識し、グラーフは声を上げる。
「爆撃開始っ! 戦艦を落とせっ!」
駆逐艦はビスマルクが砲撃している。撃破している。なら、自分は敵艦最大射程距離を誇る戦艦を落とす。
爆撃の音。そして、それが届かぬ海の中、ユーは遠くを見る。
《神々の義眼》が見せる海流、そして、それを乱す敵潜水艦。それを見据えて、ユーは魚雷を構える。
「撃ちます」
魚雷発射。遠距離からの魚雷。敵潜水艦からすれば的外れな場所に向かって放った、と見えるだろう。
的外れな方向に放たれた魚雷は、海流に流され、「直撃、です」
爆発。海流に流された魚雷は敵潜水艦に直撃、爆発。さらに前へ、近づきながら魚雷を放つ。
敵潜水艦も魚雷を放つ。けど、海流が見えるユーにとって、敵潜水艦の魚雷が向かう先は視認できる。このまま前進しても、当たらない。
そして、ユーの放った魚雷は海流に流され、弧を描いて敵潜水艦に迫る。けど、直撃コースなのは敵潜水艦も想定したらしい。海流に逆らうように移動、魚雷を回避。……そして、それを見越していた魚雷に直撃、爆破。
ユーも潜水艦だ。魚雷に対してどう動くか、予想できる。海流に逆らうように進み、海流に流される魚雷をすり抜ける。
だから、どう回避するか見当がつく。あとはそこに魚雷を差し込めばいい。
爆発。……そして、ユーは心強さを感じる。レオナルドが助けてくれる。戦う術のないレオナルドと、近づかないと魚雷を当てられないユー。……けど、協力すれば魚雷の遠当てを可能とし、ビスマルクたち、大切な仲間を守る事が出来る。
だから、
「次、行きます」
絶対に、潜水艦に仲間を雷撃させない。その意思をこめてユーは魚雷を構えた。
魚雷の水柱が上がる。レーベはその中、艦載機を機銃で薙ぎ払う。
全部、漏れなく落とす。前回は有頂天になって潜水艦の警戒を疎かにした。そして、グラーフを危険にさらした。
けど、今は大丈夫。ユーが潜水艦を落としてくれる。だから、
慢心せず、助力に頼り切らず、自分にできる事、全力で実行する。
《神々の義眼》が届ける情報をもとに銃撃。情報を届けるのはレオナルドで、それを活かすのが自分だ。
レオナルドの助けを無駄にしない。僚艦の誰かが傷ついたら、レオナルドは悲しむ。助力してもらっているのだ、だから、恩を仇で返すなんて、死んでもごめんだ。
だから、全力を尽くす。助力には戦果で報いる。自分の役割は対空迎撃。全力で、その役割を果たす。
そして、レーベの戦果をグラーフは笑って受け入れる。さらに艦爆を飛ばす。
大丈夫、自分の艦載機はレーベが守ってくれる。だから、気兼ねなく戦艦を爆撃する。戦艦の有効射程前に轟沈できれば、敵艦の最大射程距離が縮まる。それは砲撃戦での優位を示す。
誰も傷つけさせない。僚艦も、ウィリアムとレオナルドの心も、すべて無傷で終わらせる。
爆撃の音が響く。艦爆から敵戦艦への爆撃成功を聞く。だから、
「まだ、まだだ」
落とすまで、徹底的に爆撃する。
響く音の中、マックスは油断なくあたりを警戒する。
それが自分の役割、海上も、海中も、空中も、すべて警戒する。いつ、どの瞬間でも砲撃できるよう、砲を油断なく構える。
…………本音を言えば、攻撃に加わりたい。レーベに協力して対空射撃を、あるいは、敵艦隊に肉薄して雷撃を叩き込みたい。
けど、それは違う。自分の役割ではない。自分は仲間を守る最後の壁だ。手に持つ砲は攻撃ではない、守護のためにある。
だから、油断なく砲を構える。危機があったら、即座に払う。……そして、水柱が上がった。無線の声を聴く。
『ゆー、です。潜水艦、撃破しました』
「思ったより早かったわね。…………ユー、浮上して、駆逐艦撃破と同時に行ってもらうわ」
ざばっ、と音。ユーが海上に姿を見せる。そして、
「レオ君っ! 私にも視力強化っ!」
プリンツの声。そして、《神々の義眼》が投影される。……実際に体験してみると、凄い、と思う。
けど、意識を振り払う。自分の役割は敵駆逐艦を一刻も早く沈める事。それで、対潜能力の低い艦のみとなる、ユーは安全に雷撃できる。
だから、
「てぇえっ!」
ビスマルクの砲撃に重なるように、プリンツの砲弾が敵駆逐艦を撃ち砕く。
「敵戦艦、射程距離に入った。
総員、警戒」
グラーフの言葉に皆は頷く。そして、砲撃の音。
「駆逐艦、全滅っ!」
「潜航、開始します。狙いは、重巡、です」
「それでいい。戦艦は私が爆撃を続ける」
「ユー、重巡からの魚雷は私が落とす。
ユーは敵艦への雷撃に集中して」
「了解、です」潜航。とぷん、とユーは海中へ。マックスは主砲を構え「プリンツ、空母を落とすわっ!」
「はいっ! 姉さまっ!」
マックスは全域警戒から、海中にのみ、意識を向ける。響く砲撃の中。海中の異常を見据えて、「そこ」
砲撃する。砲弾は魚雷に直撃、爆発。
「誰にも、手出しはさせない」
まだ距離は離れている、重巡からの雷撃は精度を欠く。ならば手数、魚雷がばらまかれる。マックスは当たりそうな魚雷を砲撃。
そして、重巡の下で水柱が上がる。ユーの魚雷が直撃したらしい。「てっ!」
ビスマルクは中破した重巡に砲弾を叩き込む。砲撃の直撃で重巡は轟沈。そして、プリンツと空母に砲撃を叩き込む。
戦艦と重巡。二艦の集中砲撃を受けて、空母は轟沈。返す刀で残った重巡に砲撃を叩き込む。砲弾に穿たれ、直後に雷撃による水柱。重巡は轟沈。「あとは、戦艦だけねっ!」
それも、グラーフの艦爆で中破。殴り合いの必要は、ない。
「レーベ、マックス。散開、左右からけん制で逃げ道をふさいで、グラーフとプリンツは回避最優先。攻撃はいいわ。
ユー、雷撃をお願い。提督、レオに、ユー以外に動体視力の強化をお願い。損害を最小限に抑えるわ」
そして、ビスマルクは主砲を構えた。戦艦のところで水柱が上がり、レーベとマックスは左右から砲撃。敵艦も応戦するが、《神々の義眼》により強化された動体視力を持つ二人をとらえられないでいる。
ビスマルクは砲を構える。当てる、ではなく、撃ち砕く。なら、距離は近い方がいい。
爆撃と雷撃、そして、駆逐艦による砲撃で戦艦は大破に追い込まれて、「これで、終わりよっ!」
ビスマルクの砲撃が、戦艦を撃破した。
「……ふう、みんな、大丈夫ね?」
「まだ、やれるよ」
レーベの返答に皆が頷く。ビスマルクは頷き返し、
「この近辺まで、前線を押し上げましょう。
グラーフ、近くの岩礁で休憩するわ。探してくれる?」
「了解。では、発見したら移動か?」
「そうね」
手近な岩礁を見つけ、ビスマルクたちは腰を下ろす。
休憩、ほう、と。一息。
「ビスマルク、まずはこのあたりを最前線とするか?」
「そうするわ。グラーフ、偵察を頼める?」
「了解」
「ビスマルク、僕とマックスとユーで周辺警戒しておこうか?」
レーベの問いにビスマルクは「お願いね」と応じる。
と、
『休憩中だね。ビスマルク、プリンツ。
現在地の海図を見せるね』
どうやって? と、問おうと思ったけど、レオナルドの《神々の義眼》は自分たちの常識をはるかに超えている。おそらくは、可能なのだろう。
「ええ、お願い」
応じる、と。ビスマルクとプリンツの眼前に《神々の義眼》が投影。そして、その視界に海図が見える。
『赤いマークが、みんなのいる場所ね』
「ええ」
とんとん、と。海図に示されたマークが叩かれる。袖から、レオナルドと判断。
「これ、レオ君の視界?」
プリンツの問いに『そうだよ』と、ウィリアム。
「想定される洋上基地の場所から、おおよそ四分の一ね」
「そうね」ビスマルクは無線を口元に寄せ「提督、午前中はここまでの海域の安全確保を優先するわ」
『うん、お願い。お昼には一度戻ってね』
「了解、美味しい食事を期待しているわ」
『はは、期待にこたえられるように頑張るよ』
応じる声を聞いて、無線を切る。
「プリンツ、レーベたちを呼んできて。
グラーフ、偵察はここと基地の間を密に頼むわ」
「「了解」」
さて、……ビスマルクは辺りを見渡して一息。
また、あれと対決するのね、と。
白い闇。結局、その向こうにいるのが何か、わからなかった。…………けど、
予想は、出来る。
おそらくは、自分たちと同じ、軍艦の魂を宿した誰か。そして、霧、といえば、
「………………不吉な名ね」
小さく、ため息をついた。……自分はビスマルク、ドイツでも最強の戦艦という自負がある。
けど、その名の不吉さは、性能差を持っていても楽観をさせてくれない。
楽にはいけない、と。その確信を抱えて、ビスマルクは溜息をついた。