トータスナイトが基地に着任しましたっ!   作:林屋まつり

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十三話

 

 近海への哨戒も終わり、索敵範囲にいる敵艦はすべて払った。戦果を報告して帰投。

「おかえり、みんな」

 ウィリアムの笑顔に、帰って来たんだ、と。安堵。みんなでただいま、と返す。

「準備はできてるから、まずは入渠してきて。

 終わったら昼食ね。そのあと、改めて午後どうするか話をしよう」

「ええ、そうね」

 ビスマルクは頷く。何度か交戦した。全員が小破している。一時間程度入渠すれば皆回復するだろうが。

 ふと、レーベは首を傾げる。

「提督、レオ君は?」

「レオナルドは、……ちょっと、軍から届いたカタログを受け取ってる。

 ほら、えーと、囮がどうこう言ってたろ? それ、昼食終わったらその話もするから、余裕があればちょっと考えてみて」

「わかったわ」

「それじゃ、僕は昼食の「まて、提督」」

 そそくさと立ち去るウィリアムにかけられる厳しい声。ぎぎぎぎ、とウィリアムは声の主。グラーフに視線を向ける。

「ど、どうしたの?」

「何か隠しているな? 言え、言うんだ。

 言わないと、小型カメラを搭載した艦載機が提督の入浴中に飛び交うぞ」

「い、いやな脅しを」

 慄くウィリアム。ビスマルクとプリンツはグラーフと固い握手をしている。

「…………まあ、いいか。

 カルツ中将が、作戦が無事に終わったらパーティーを、って話してたんだけど、みんなに着てもらうドレスのカタログが届いたんだ」

「ドレスっ!」「パーティーっ!」

「ドレスかあ、……僕に似合うのあるかな」

 満面の笑顔できらきらするプリンツとビスマルク。少し不安そうに呟くレーベ。

「ぱーてぃー?」

 ユーは首を傾げ、ウィリアムは少し言葉に迷う。

「えーと。……………………まあ、集まっておめかししておいしいご飯とか食べたり、お話したりする事だよ」

 軍の大将まで参加するらしい。だから、ただそれだけとは思えない。

 けど、まあいいか、とウィリアムはユーに答える。「おめかし」と、そこが気に入ったらしい、ユーは嬉しそうに頷く。

「可愛い服、着たい、です」

「そうだね、ユー。カルツ中将からカタログもらったから、可愛い服を選ぼうね」

「うん」

 嬉しそうに応じるユー、「では」と、そそくさとウィリアムは立ち去ろうとして、

「ふーん、……そのカタログ、提督の服のもあるの?」

 固まった。

 

「どれも大差ないように見える。……って、やっぱ僕、そういうセンスないんかなあ。

 あるわけないか」

 食堂にて、ぱらぱらとカタログを眺めるレオナルド。

 男性物のカタログ。タキシードやら燕尾服やらが並んでいる。

 何せ、軍の中将が御用達と紹介した仕立て屋のカタログだ。ドイツでも最高級だろう。……けど、

「よくわからん。…………ってか、似合うとは思えねぇ。

 スティーブンさんなら格好いいんだろうな、こういうの」

 カタログに掲載されている服はモデルらしい男性が着て紹介されている。……自分と置き換えて想像してみる。げらげら爆笑する先輩や、笑いをこらえながら、とりあえず、似合ってると言ってくれそうな番頭を思い描いたところでため息。

「ま、何でもいいや」

 そもそも、自分はいいところ脇役だろう。こういうのは華やかな女性が主役だ。

 さっさと思考を切り替えて、昼食の事を考え始めた。

 

 そして、入渠場。

 話題の中心はドイツ軍が用意する囮。………………ではなく、

「どれす、……どんなのか、ゆー、わからないです。

 選ぶの、難しそう、です」

 ぷくぷくと沈みそうなユーの表情には不安。

 可愛いドレスを着たい。可愛いドレスを着て、ウィリアムやレオナルドに褒めてもらいたい。

 けど、自分がどんなドレスが似合うか、……そもそも、ドレスとはどんな服か、見当もつかない。

 可愛いドレスを選べる自信がない。似合わない、変なドレスを選んだら、…………そう思うと不安になる。

「どうした?」

 なぜか姉妹喧嘩を始めたレーベとマックスを煽っていたグラーフがぷくぷく沈むユーに視線を向ける。

「あの、……ゆー、可愛いドレスを着て、提督とれおに褒めてもらいたい、です。

 けど、ちゃんと可愛いドレスを選べるか、不安、です」

「ああ、そうだな。ユーが可愛いドレスを着れば二人は喜ぶだろう」

 ユーの容姿は同性であるグラーフから見ても十分に可愛らしい。そんな彼女が可愛いドレスを着れば男性である二人は喜ぶだろう。喜ばなかったら、…………「ふむ」

「ん?」

「いや、それはそれでありかもしれない。…………いや、」不思議そうな表情で首を傾げるユーに「何でもない。…………ふむ」

 入渠場の隅っこで何やら言葉を交わすビスマルクとプリンツ。グラーフは意識して声を上げる。

「ユー、どうだろうか?

 いっそのこと、二人に選んでもらう、というのは?」

「れおと提督に?」

「そうだ」

 ビスマルクとプリンツ、レーベとマックスの視線を感じながら、グラーフは重々しく頷く。

「きっと二人はユーに着て欲しいと思うドレスを選んでくれる」

 グラーフの言葉を吟味する。自分が着たら喜んでくれるドレス。

「う、……うん、ゆー、選んでもらったの、着ます。

 褒めて、くれるかな?」

「ああ、もちろんだ」

 グラーフは、必要以上に力強く頷いた。

 

「あ、終わった? 昼食の用意で「提督っ!」て、…………え?」

 血走った眼をしたビスマルクに睨みつけられて、おろおろし始めるウィリアム。

「ど、どうしたの?」

「私は何を着ればいいのっ?」

「…………え?」

 服を着ているビスマルクに着る服を聞かれてキョトンとする。まったく意味が解らない。……もしかしたら、着替えたいのかもしれない。

「今着てるのでいいんじゃない? 着替える必要ないと思うけど」

「だ、だめ、あだっ?」

 すぱんっ、と音。

「あ、グラーフ。……えと、どうしたの?」

「提督、レオはいるか?」

「レオナルド? 奥にいるけど」

 ウィリアムの言葉にグラーフは昼食が並べられたテーブルを見る。

「ああ、配膳中か」

「うん、もうすぐ終わるよ」

「そうか、では手伝おう。……それで、提督」

 にたり、笑うグラーフにウィリアムは背筋が寒くなるのを感じた。

「な、……なん、でしょうか?」

「例の、カタログはどこにあるのだ?」

 

「ふーん、男性用のもあるんだ。ふーん」

「レオ君も着る、んだよね?」

「まあ、そりゃあ、そうだろうけど」

 ユー、プリンツ、ビスマルクに包囲され、ドレスのカタログを前におろおろするウィリアム。

 それはともかく、

「僕が着てもなあ」

 似合うとは思えない。そうぼやくレオナルド。けど、

「ぼ、僕は似合うと、思う、よ」

 ぽつぽつと、レーベは呟く。

「そう? ありがとな、レーベ」

 嬉しそうに応じるレオナルドにレーベは顔を赤くして、消え入りそうな声で「うん」と応じる。

「…………ねえ、レオ」

「ん?」

「レオはどの服を着るの?」

 マックスに問われ、レオナルドは苦笑。

「いや、正直どれでもいいって思ってる。

 ほら、やっぱりこういうのはマックスたち、女性が主役だろ? 華やかだし、そりゃあ、格好いい男なら話は別だけど、僕じゃあせいぜい端役だよ」

 だから何でもいい、と、気楽に笑うレオナルド。そして、きょとん、とするマックス。

「私、華やか?」

「うん?」

「私、華やか? おっぱいないけど」

「…………えっと、マックスってそこにこだわりあるのか?」

 それはともかく、

「十分、僕は可愛いと思うよ」

「……そ、そう、…………………………ん、嬉し」

 俯いて、小さな声で応じるマックス。

「もちろんレーベもね。けど、僕が着飾っても仕方ないだろ?」

「仕方なくないよ。……僕、レオ君がこういう服着たところ、見てみたいなあ」

「そんなものかな?」

 よくわからん。と、レオナルド。マックスはこくこくと頷く。そして、

「では、どんな服がレオに似合うか、皆で語り合おう」

 腰を下ろしたグラーフ。彼女はカタログを開く。

「いや、語り合うって? なんか違うくないか?」

「レオ君、これ着たいってあるの?」

 それでいいのか? と、首を傾げるレオナルドにレーベが問いかける。レオナルドは首を横に振る。

 ぱらぱらと見た限り素っ頓狂なものはなかった。その手に疎いと自覚するレオナルドには非常に残念ながら、どれも似たり寄ったりに見えた。

 だから、正直どれでもいい。

「ドレスのカタログは、」グラーフは目を白黒させて混乱しているウィリアムを見て「あっちで使われているな。では、レーベ、マックス、レオに着せたい服を選ぶか」

「うんっ」「……ん、楽しみ」

 喜々として男性物のカタログを覗き込む二人。グラーフは意地の悪い笑みを浮かべている、レオナルド警戒。

「…………いや、まずは飯を食おうよ」

 

「て、提督が褒めてくれるなら、こ、これを着てもいいのよっ!」

「きゃーっ! 姉さま大胆ですーっ!」

 胸をやたらと強調させたドレスを示し、顔を赤くして覚悟を決めるビスマルク。

 もちろん、恥ずかしい。…………けど、それでウィリアムが喜んでくれるなら。

「ゆー、似合わなさそうです」

 ぺたぺたと自分の胸に触れて呟くユー。

「え、……え、こ、これ?」

 そのドレスを見て、顔を上げる。ビスマルクを見る。ドレスを見る。…………「に、兄さま、顔、真っ赤」

「え、ええっ? って、あ、あのっ、ビスマルクっ?」

 カタログの向こうのモデルなら、きれいだなー、と受け流せる。

 けど、モデルではなく普段から傍にいる女性。……それも、モデルに決して劣らぬ美貌を持つビスマルク。カタログに載っている大胆なドレスと、目の前にいる彼女を重ねて、

「だ、だだ、だ、だめっ! だめだよっ、も、もっとおとなしそうなの、……お、大人っぽいのにしようよっ! ねっ! ねっ!

 そっちの方がビスマルクは似合うよっ!」

「そうかしら?」

 ほう、と安堵の吐息を漏らすビスマルク。ウィリアムが褒めてくれるなら頑張る。……けど、正直言えば恥ずかしいから遠慮したかった。

「あ、……これ、可愛いです。

 提督、似合う、かな?」

「ど、どれどれ?」

 さすがにユーはそんな刺激的な選択はしないだろう。ユーはまだ幼い。だから大丈夫、と見てみると。

「…………これ、ドレスなの?」

 スカートが太ももの半ばくらいだが。……非常に残念ながら、服飾の知識に関してはレオナルドとどっこいどっこいのウィリアムには、これが正常なのか判断ができない。

 ただ、

「に、似合わない、かな?」

 ユーは気に入ったらしい。おずおずと問いかける。

「に、……似合うと、思う、よ?」

 ユーなら、たぶん大丈夫。……ちなみに、ビスマルクが同じドレスを着ると言い出したら絶対にやめてもらう。たぶん、土下座も辞さない。

「え、えへへ、嬉しい、です」

 微笑むユー。自分が気に入ったのが認められて嬉しいらしい。

 となれば当然。

「に、兄さまっ! 私もっ!」

「ユーばっかりズルいわっ! て、提督っ、私に着てほしいのがあったら、それを着てあげていいわよっ!」

 ずずい、と迫るビスマルクとプリンツ。

「い、いや、……僕、そういうの詳しくないし、ふ、二人で選んだのがいいんじゃないのかな?」

「えー、私、兄さまに可愛いって言ってもらえるようなドレスがいいですー」

 ぷう、と頬を膨らませるプリンツ。

「ぷ、プリンツは元が可愛いから、どんなドレスだって似合うよ」

 不自然に優しく笑うウィリアム。可愛い、と言われて嬉しい。……けど、「それじゃあ、だめです」

 どんなものでもいい、じゃだめ。好きな人が一番気に入ってくれたドレスを着たい。

 ずずい、と迫るプリンツにウィリアムは仰け反る。

「ち、近い、近いよっ!」

 メアリも距離感が近いタイプの女性だったがそこは兄妹。あまり気にならなかった。

 けど、プリンツは違う。

 可愛らしく整った顔の少女がキスできそうなほど近くにいる。その現実にウィリアムは引く、が。

「もうっ、逃げちゃだめです」

 プリンツはさらに迫る。彼の胸に手を置いて、ま「かっ?」

「…………プリンツ?」

「は、……ひ、姉さま?」

 プリンツが尊敬する大好きなビスマルクは笑顔。とても、とても好戦的だが、一応、笑顔。

 そして、

 

「…………騒がしいね」

「ふむ」

 真っ白に燃え尽きたレオナルドを愉快に思いながら眺めていたグラーフは、叫び声の方向に視線を向ける。

 じりじりと、砲雷撃戦でも始めんばかりの気迫をもってプリンツを追い詰めるビスマルク。そして、ウサギのようにふるふるしているプリンツ。何があったか。大したことじゃないだろう。

 ぐったりとへたり込むウィリアム。彼はこちらに視線を向ける。燃え尽きたレオナルドを見て肩を落とした。

 どうしようか、とグラーフは悩む。旗艦、こういう時に一番頼りになるべきビスマルクは獲物を追い詰めるライオンと化している。ならばここは自分が何とかすべきだろう。

 だからグラーフは立ち上がる。

「レーベ、マックス。このカタログはもっていく」

「うん」「ん」

 とりあえず、レオナルドが着る服は決まった。

「ユー、その、ドレスのカタログ、マックスとレーベにも見せてやってくれ」

「あ、……うん。えと、れおにも、ゆーが選んだドレス、見て欲しい、です」

「ああ、きっと喜んでくれる」

 笑顔で頷く。ユーは嬉しそうな表情。「グラーフも、見る?」

「私は後でいい」

 つかつかと、足早に前へ。じりじりと前進するビスマルクはまだ彼女に気づかず、

 適当なところで小走り。そのまま、

「落ち着けっ! ビスマルクっ!」

 ショルダーチャージ、いい塩梅の音が響いてビスマルクは壁に激突。

「ぐ、……グラーフ、ありがと、ありがとう」

 半泣きのプリンツを宥める。で、

「な、なにするのよっ!」

「落ち着けと言っている。

 これを見ろビスマルク」

「…………何よ?」

 胡散臭そうなビスマルクに、グラーフはタキシードのカタログを突きつけた。

「時間は限られている。

 一刻も早くウィリアムに着せる服を決めなければならない。そんなところで遊んでいる暇はないっ!」

「はっ、……そ、そうねっ! 危ないところだったわっ!」

「……兄さまが、着る、服。…………ふ、ふふふ」

 ビスマルクとプリンツの視線がウィリアムに向けられる。グラーフはその光景を見てのんびりと思った。

 オオカミがウサギに目を付けた、と。

 

 半ば魂が脱落した男性二人。で、女性陣は午後の哨戒に繰り出す。

 海をかける。その最中、マックスは軽く膨れてぼやいた。

「レオ、ちゃんと意見言ってくれなかった」

「そうだね。……もうっ、何を聞いても、ウンソウダネだけって、ちゃんとしてくれないと困るのに」

 レーベも頷く。大切な事なのに、まじめに意見を出してくれなかったことが面白くない。

 せっかく、可愛いドレスを着れるいい機会なのに、……ため息。

「僕のドレス姿、どうでもいいのかな」

「…………というか、もう少し手加減してやれお前ら」

 少女らしい不満をぽつぽつ漏らす二人にグラーフは苦笑。もともと、レオナルドが服飾にこだわるとは思っていない。正直この手の話には疎いだろう。女っ気のない生活を送っていたことは聞いている。

 そんな彼が、いきなり女性からドレスを選べと迫られたらどうなるか。……燃え尽きた彼の姿がそれを雄弁に語る。

 まあ、それを二人に言っても仕方ない。だから苦笑するしかない。

「けど、楽しみだねー」

 パーティーなんて初めてで、それに、気になる人と一緒だから。

 楽しみ、と。レーベの言葉に触発されるように、皆が、それを思う。

 楽しみ、と。

 

「静かだな」

 グラーフは索敵の結果を聞いて呟く。

 哨戒もほぼ終わり、日も暮れていく。

「そろそろ哨戒も切り上げる? 敵艦も見かけなかったし」

 プリンツの問いに、ビスマルクは空を見上げて「そう、ね」

 頷く。午後の哨戒は静かだった。敵艦と会う事もなくここまで来た。

 そろそろ夜になる。だから、頷く。

「グラーフ、艦載機を飛ばして、最後の確認よ」

「了解」

 気になる。……妙に、午後は静かだった。

 午前中、敵艦隊と遭遇したときにマックスから援軍の可能性を指摘された。ありえると思ったから、午後の哨戒での静かさが気になる。

 だから、もう一手。

「提督、レオに、艦載機との視界同調をお願い。

 これから帰投するわ。最後に念のため索敵をするから」

『了解』

 グラーフが艦載機を飛ばす。そして、グラーフはその視界を見る。

 艦載機の視界。そちらに意識を集中して、……だから、最初に気付いたのは同様に辺りを警戒していたレーベだった。

「霧?」

 

 白い闇が来る。

 

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