トータスナイトが基地に着任しましたっ!   作:林屋まつり

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十五話

 

「………………なんなんだろうな、こいつら」

 彼は、目を覚ます。

 横に眠るのはビスマルク。羞恥、恋慕、……その他もろもろの葛藤の末、同じベッドで、軽く手をつないで眠るビスマルク。

 そして、そんな彼女を微笑み受け入れ、そのまま眠ったウィリアム。

 ま、どーでもいいか。

 あいにくと、宿主の恋愛事情なぞ興味はない。彼は起き上がる。

「ん、…………う、ん」

 手が握られる。彼は深紅の瞳でそれを見て、…………消えた。

 

「っと」

 テレポート、一瞬のブラックアウト、そして、別の場所。食堂。

「えーと、と」

 当然、ウィリアムと記憶は共有している。だから、冷蔵庫の方へ。そして、「めーっけ」

 酒瓶を手に取る。もう片手でグラスを取り、氷を放り込む。

 海でも眺めるか、と思ったが。どうでもいいか、と笑う。適当な椅子に座る。椅子に背を預け、後ろに視線を向ける。

「で、……覗き見は趣味わりぃぜ? 小娘」

 ひっ、と声。そして、彼は視線を前に戻す。そこには尻餅をついてきょろきょろしているユー。

「あ、……あれ? ゆー、なんでここに?」

「こそこそしてんなよ小娘。

 オレが飛ばしたんだよ」

 酒をグラスに注ぎ、軽く傾け飲む。

「んっ、……酒の味は進化してんな」

 くつくつ笑う。そして「なに突っ立ってんだよ。座れ」

 ユーはおずおずと、彼の前に座る。

「んで、何してんだこんな夜更けに。

 ガキはさっさと寝ろよ」

「あかり、見えたから」

 たまたま、だった。

 不安で、眠れなくて、……それで、喉が渇いて、少し歩こうと思って、そして、灯が見えた。

 レオナルドか、ウィリアムかと思った。だから、お話をしたくて、覗いてみた。

 けど、そこにいたのは彼。後姿だったけど、間違えるわけがない。

「へえ、警備員の真似事、ってわけじゃねぇんだな」

 くつくつと笑って酒を一口。

「あ、……あの、え、えと、」

「オレか? ああ、絶望王とでも呼べよ。

 それが一番通りいいだろ」

 ひらひらと手を振る。フェムトはいろいろな名があると言っていたが、レオナルドやウィリアムは絶望王の名しか知らないだろう。

 ならそれでいい、今更、名前にこだわるつもりはない。

「絶望、王。……あ、あの、」

 深紅の瞳に射竦められて、ユーは言葉を途切れさせる。言いたい事はある。けど、「別に、取って食ったりはしねぇよ」

 不安で口ごもるユーに、彼はグラスを傾けて目を細める。

「久しぶりの酒で気分がいいんだ。

 言ってみろよ」

「じゃ、……じゃあ、あの、」

 言いたい事。ユーは、怖くて震えそうな手を強く握る。意識して真っ直ぐ、彼を見る。

「提督に、ひどいことしないで、ください」

 ウィリアムに、消えて欲しくない。

 けど、

 彼はからからとグラスをもてあそんで、

「聞けねーな」

「どう、……して?」

「さて、どーしてだろうな」

 彼は笑う。……けど、

 ユーには、それが今までとは違う笑みに見えた。それがどういう事か、わからないけど。

「そーいうものなんだよ。

 悪魔に力を乞うたら、魂を取られるのは決まってんだよ。ま、そういうわけだ。オレの力を使うなら、代わりに魂奪われる覚悟しな。ってことだ」

「そう、……なの?」

「てめぇらが戦うのと同じだよ。

 なあ、てめぇはどうなんだ? ウィリアムやレオナルドのために戦うな、あいつらがあぶねぇ時、それを払うための戦いをしない。……それが出来るのか?」

「出来ない、です」

 即答する。そんな事、絶対に、……己の魂にかけて、できない。

「だろー」

 我が意を得た。と、彼は笑う。

「そういう事だ。出来ねぇことは出来ねぇんだよ。

 まあ、なんつーか、…………あー」

 彼は天井を見上げる。言葉を探す。いろいろあるだろうが、結局は、

「ま、オレに魅入られちまったんだ。不幸だったって事だよ。こいつもな」

 とん、と。彼はウィリアムを示す。そして、そのまま笑う。

「どうだ? こんな面倒なやつの下に組み込まれて不幸だよなー?」

 にやにや笑って告げる彼に、ユーは首を横に振る。

「ゆー、提督の事、大好き、です。

 だから、不幸じゃない、です」

「…………………………あっそ」

 砂糖の塊をかじったような表情の彼、酒を煽る。

「んで、言いたい事はそれだけか? それなら子供はさっさと寝ろ。もう夜だ。

 あんま夜更かししてっと、こわーい悪魔に食われちまうぞ」

 くつくつ、と彼は笑う。ユーは頷く。立ち上がる。

「あ、……あの、お、おやすみ、なさい」

「おう、いい夢見とけよ。………………今のうちに、な」

 

 さて、どうなるかな。

 グラーフは、一抹の不安を抱えて朝食に向かう。あまり、暗い雰囲気は好きではないが。

「おはよ、グラーフ」「おはよ」

「ああ、おはよう。レーベ、マックス」

 配膳を手伝っているらしい二人。…………「提督が作ったのではない、か?」

「あ、これレオ君が作ったの。

 提督、寝過ごしちゃったみたいなんだ」

 苦笑するレーベ。珍しいな、と思いながら、

「では、ビスマルクは怒るだろうな。宥めるのは面倒だ」

 まあ、不機嫌になるビスマルクの前でおろおろするウィリアム。というのも面白いか。

 けど、

「ビスマルクもまだ来てないよ。

 こんなに遅いなんて珍しいよね」

「そうだな」

 ビスマルクは責任感が強い。いつも寝坊やらには厳しくしている彼女が、自分から寝坊するとは思えない。

「ま、配膳が終わったらブラックは僕が起こしに行くよ。

 ビスマルクさんはお願いしていい?」

 レオの問いにレーベとマックスは頷く。ふむ、とグラーフは呟いて、

「レオ、私も協力しよう」

「いや、起こすだけだしそんな大変なことはしないよ」

 

 そして、配膳が終わっても来なかったユーとプリンツも含め、朝起きれた面々でそれぞれの部屋へ。

「っていうか、なんでグラーフさんまでこっち来るの?」

「いや、面白そうだな、と」

「朝起こすのになに期待してるの?」

 何が面白そうか解らないが。

 まあいいか、と。レオナルドはウィリアムが私室として使っている部屋の戸を叩く。

「おーい、ブラックー、朝飯出来たぞー」

「遅刻するとビスマルクが烈火のごとく憤怒するぞ」

「え? マジ? ビスマルクさん、そんな怒るの?」

 慄くレオナルドにグラーフは意味もなく重々しく頷く。

 それはともかく、返事はない。レオナルドは溜息。

「入るぞー」

「ふむ、眠る提督を起こしに行くレオ、か」

「何が、ふむだよ?」

 適当なやり取りをしながら室内へ、そこには、ウィリアムを軽く抱きしめて眠るビスマルク。

「「……………………」」

 思わず、硬直するレオナルドとグラーフ。

「ん、……あ、あれ?」

「ふ、…………あ」

 ウィリアムが目を開ける。……開けて、すぐ目の前にあるビスマルクの顔を見て、固まった。

 硬直するウィリアム、ぼんやりと目を開くビスマルク。

 レオナルドとグラーフは顔を見合わせる。ウィリアムに視線を向ける。二人は親指を立てる。

「じゃ、じゃあ、僕たちは出るから、え、ええと、ご、ごめんなさいっ!」

「朝食の準備はできている。

 まあ、……すぐには終わらないだろうが、その、…………さ、冷める前には終わらせてほしい」

「そ、そうだよな。ブラックに冷たい食事出すのもなんだしねっ!

 ええと、……が、頑張ってっ? ……じゃないか、…………あの、……は、早くなっ!」

「ばかっ、それではビスマルクが満足しないだろうっ!

 まあ、……その、なんだ。冷めたら作り直せばいいっ! わ、私も協力する、レオナルドっ!」

「そ、そうだよなっ! そうしようっ! 助かるよグラーフさんっ!

 えと、僕頑張るからっ!」

「ああ、私も頑張るぞっ! だから、て、提督も頑張ってくれっ!」

「が、がんばれーっ?」

 わけのわからないことを言いながら部屋を出るレオナルドとグラーフ。そして、

「ちがーーうっ!」

 ウィリアムの叫び声が響き渡った。

 

 うつらうつらと眠そうなユー、顔を真っ赤にしてぽそぽそと朝食を食べるビスマルク。そんなビスマルクを見て笑うグラーフ。

 レオナルドが作った料理、と。興味津々と料理を切り分けるマックスと、レオナルドから作り方とかを聞くレーベ。

「まあ、あんまり上手じゃないけどね」

 ご飯作れたんだ、というレーベにレオナルドは苦笑。

「下手じゃないし、私は嫌いじゃないわ」

「ありがと、マックス。そういってくれると安心するよ。ほんと。

 どーもそのあたり一人暮らしだと雑になるから、人に料理作るなんて初めてだし」

「そうなんだー」

「…………これでレオも嫁としてやっていけるな」

「いけねーよ」

 したり顔のグラーフにがっくりと肩を落とすレオナルド。

「れお、まま? 「じゃないからね。ユー」」

 眠そうなまま、おっとりと呟くユーにレオナルドは引きつった微笑。ママ、などと真面目に言われたらいろいろな人に合わす顔がない。

「まあ、レオ、女装似合わなさそう。提督と違って」

「僕、似合うの?」

 真面目に頷くマックスに愕然とした表情のウィリアム。

「レオ君がお嫁さんかあ」

「ならないってっ!」

 ほわほわした声のレーベに怒鳴るレオナルド、グラーフは頷いて「その時は、旦那様はレーベだな」

「そうだね、夫はレーベだね」

「僕っ?」

「レーベが、夫? ……自分の事、僕、って言ってるから?」

「そう、これは僕っ娘の宿命だ」

「宿命なのっ? ……じゃなくて、いやだよっ! 僕だってウェディングドレス着たいよっ!」

「問題そこなのかっ?」

 そんな一同を見て、ため息。

「なんか、……安心した」

「ん?」

 ぽつり、プリンツから零れた言葉にトーストをかじっていたウィリアムが視線を向ける。

「あ、……ええと、ほら。昨日いろいろあったし」

 だから、不安だった。……特に、絶望王の再臨は自分の不手際が直接の原因だ。

 責められる、かもしれない。と昨日の夜は不安で、なかなか寝付けなかった。けど、

 みんな、いつも通り。……それが、とても嬉しい。

「ま、かもしれないけどね。

 引き摺っても仕方ないだろ? プリンツも、だめだった所はあるかもしれないけど、またみんなで取り返せばいいよ。だから、気にしすぎないでいいよ」

 それが仲間だから、と。微笑むウィリアムにプリンツも微笑を浮かべる。「けど、」

 けど、強いて厳しい表情で、

「午前中の反省会でちゃんと追及するからね? もう、あんなことがないようにしないといけないからね。

 ちゃんと反省すること」

「はーい」

 やっぱりかあ、と突っ伏すプリンツ。

「って、そういえば、姉さま。どうしたの?」

 ママ呼ばわりして錯乱するレオナルドが面白くて、つい、聞き忘れてた。

 顔を赤くしてぽわーんとしているビスマルク。思い詰めているとは違っているような感じなので問題ないと思うが。

「ああ、昨夜。提督を、…………婉曲的表現をすれば、抱いていたようでな」

 固まった。

「……………………」

「ちょ、ちょっとグラーフっ、そ、そういう事を言ったらだめよっ!」

 顔を真っ赤にするビスマルク。プリンツは驚愕の表情を浮かべ、そして、能面のような表情。

「あ、あの、ぷ、プリンツ? ……ええと、その、怖い、わよ?」

 慄くビスマルク。程なく、プリンツはほろほろと泣き出した。

「ちょ、プリンツっ? どうしたのよっ?」

「わ、……わ、私、……私、…………う、うう、ね、姉さまと、兄さまの事、……祝福、しますぅ」

「え、ええっ? あ、ちょ、あの、プリンツっ!

 そ、そういう事じゃないわよっ! そうじゃないわよっ!」

「お、……おめ、おめでとう、…………ご、ざいます」

 ほろほろと涙を零して祝福するプリンツ。おろおろするビスマルク。

「プリンツ、悲しいの?」

 つい、とユーはプリンツの手を引く。プリンツは涙の混じった微笑で首を横に振る。

「いいの、……いいのよ。ユー。

 悲しくないの、…………大切な人が幸せになれたのだから、祝福しないと。これは、……なんていうか、……ええと、未練、っていうのかな」

 だから、と。プリンツはそっとユーを抱き寄せる。

「一緒に、祝福をしましょう」

「…………すまん、プリンツ。その、……大まかに誤解だ」

 まさかそこまで真に受けるとは思わなかった。グラーフはばつが悪そうに頭を掻く。

「へ? そ、そうなの?」

「いや、まあ、事実だが」

「……グラーフ?」

 どっちだ? と、じと、とした目を向けるプリンツ。

「ああ、事実は事実だが。まあ、プリンツが思っているような事はなかっただろう」

「じじ、つ?」

「夜に話をしていたらそのまま寝たという程度だろう」

 こくこくと頷くビスマルク。

 ちなみに、

「僕は信じてたよ。親友」「よし、ちょっと表に出ようか」

 そこそこ友情に亀裂が入りそうな二人。女性の誰もが男同士の友情は放置する。

「そ、……そう、なんだあ」

 崩れ落ちるプリンツ。

「あ、当たり前じゃないっ!

 いい、プリンツ、そういうのはちゃんと段階を踏まないとだめなのよ。ま、まずは、で、デート、をしないといけないのよっ!」

「…………同じベッドで眠るって、明らかに何段か飛び越えているような」

 ぽつり、呟いたマックスはビスマルクに睨まれて視線を逸らす。その傍ら、

「やっぱり、そういうのは大人の女性じゃなくちゃだめなのかなあ?」

 ぺたぺたと自分の胸に触れるレーベ。

「レーベは、一緒のベッドで寝たい人、いるの?」

 がんっ! と、音。

「な、……な、…………ななななっ?」

「ふーん、……そう、ふーん」

 顔を真っ赤にするレーベを横目に笑うマックス。

「なに?」

「別に、……うん、じゃあ、レオ、今夜は私と同じベッドで寝よう」

「ゆーも、一緒」

 がんっ! と、音。

「いきなり何を言い出すんだーっ!」

「そ、そうだよっ! マックスっ! ユーっ!

 そ、そういうのはだめだよっ! え、……えと、段階を踏まないとだめなのっ! ねっ! レオ君っ!」

「そ、そうだなっ」

「では、レオ。どんな段階を踏めばマックスはレオを抱けるのだ?」

 真面目な表情で言うグラーフ。……その言葉の意味を思い起こし、レオナルドはマックスを見て、その、整った顔立ちを意識し、……顔が真っ赤になった。

「おー」「れお、まっか」

「…………レオ君。ふーん」

 で、そんなレオナルドを、じと、とした目で見るレーベ。

「な、……なんだよ」

「べっつにー」

 ふん、とそっぽを向くレーベ。

 ちなみに、横でマックスも顔を赤くしているが、いろいろと余裕をなくしているレーベとレオナルドは気付かない。

「ゆー、みんなと一緒におやすみ、したいです」

「そうだな。……そういうのも、楽しいかもしれない」

 いつか、平穏な時間が来たら。

 夜、みんなでのんびりと語り合うのも楽しいだろう。存分に騒いで、気ままに笑って、眠くなったら眠りにつく。

 そんな時間を過ごすのもいいだろう。そう思って、頷く。きっと、みんなそう思ってくれる。だから、

「なあ、みんな?」

 それぞれの理由で騒いでた仲間たちは誰も聞かず、とりあえずグラーフは近くにいたビスマルクを一発殴った。

 

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