トータスナイトが基地に着任しましたっ!   作:林屋まつり

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十七話

 

『にしても、ほんと、おもしれー小娘だよなー』

「…………うるさいよ」

 演習に出た彼女たちを見送って、ウィリアムは鏡と向き合う。

 鏡に映るのは自分ではない、彼。

『なんだよ。大人しくしてやってんだろ。

 んなに邪険すんなよ。さっきだってちゃんと協力してやったじゃねーか』

「…………まあ、そうだけど」

 実際、彼は嘘をついていない。さっきも、あの敵艦の心当たりがあるから話をさせろ、と。律儀に許可を取っていた。

 そして、言いたい事を言ったらちゃんと主導権を自分に戻した。悪魔は嘘をつかない。そういう事かもしれない。

『なー、これ終わったらあいつらとお別れかよ? もったいねぇ』

「知らないよ。そんな事」

 別れたくはない。彼女たちが向けてくれる好意は嬉しい。仲良くできているのだからなおさら。

 けど、

『LHOSの事情なんて放っておけよ。

 あ、そうだ。うだうだ言ったらオレが黙らせてやろうか? 大サービスでタダでしてやるぞ? 有り難いだろ』

「冗談じゃないっ!」

 確かに、彼女たちと一緒にいたい。けど、

 そんな、自分の我が侭で他者を害するなんて、絶対に認めない。

 怒鳴るウィリアムに鏡の中の彼は仕方なさそうに肩をすくめる。

『へいへい、ま、精々うまくやる事だな。ウィリアム。

 てめぇが消えたら世界がぶっ壊れるんだし、あいつが守ったくれた世界だ。壊されたくねぇだろ?』

「当たり前だ。

 僕は消えない、彼女たちは沈まない、……世界は、壊させない」

『ったく、あのヒーローといい、トータスナイトといい、お前らといい、あの小娘どもといい、本当に人は、……………………』

 鏡像から彼が消える。鏡には真っ直ぐ鏡を睨むウィリアムが映る。

「……は、あ」

 彼の能力は自分が一番把握している。そう、今でも彼が望めば自分は消える。

 言葉通り、ナンセンスなゲームだ。そんなことをしなくても世界を壊すだけの力が彼にはある。

 けど、悪魔はルールを破らない。だから、ウィリアムは拳を握る。

「大丈夫だ」

 悪魔はルールを破らない。だから、もし、自分が絶望したら、その瞬間に、終わる。自分は消え、悪魔は一切の躊躇なく、口笛交じりに世界を壊す。

 そう、壊れてしまう。……彼女が、命を懸けて守った世界が。…………けど、

「信じてる、よ」

 視線の先、海を駆け回る彼女たちがいる。

 

 プリンツは模擬弾で砲撃を続ける。

 狙う相手はレーベ。自分より速力のある相手。彼女を真っ直ぐ見て、砲を向ける。

「主砲……よく狙って……」

 砲撃。高速で移動するレーベの至近に着弾。けど、

「当たってない」

 再度、砲を向ける。……そう、今度こそ、敵旗艦は自分が動きを封じる。そのためには確実に砲撃を叩き込める命中精度が必要になる。

 絶対に、負けない。

 世界のためにも、仲間のためにも、……なにより、大好きな、彼のためにも、

「撃てーっ!」

 砲撃する。もう、絶対に負けない、と。

『……えーと、プリンツ』

「あ、兄さまっ」

『レオナルドが、視界が悪い状況を再現して砲撃訓練してみるか、って聞いてるけど』

「えー?」

 確かに、それは必要かもしれない。白い闇のような霧の中。探照灯の光を導に砲撃をしないといけないのだから。

 そんな事も出来るんだ。と、プリンツ。あまりにも突き抜けた《神々の義眼》の性能にいろいろ言いたくなる。

 けど、そんなことも言ってられない。絶対に、負けられないのだから。……申し訳ないけど、使えるものは何でも使わないと。

 …………いつか、また、いつか会えた時。

 ドイツ軍で活躍して、ちゃんと一人の軍人として認められたら。絶対に、恩返しに行こうと。

「うん、レオ君にお願いして、……ごめんね。

 演習にまで付き合わせちゃって」

『いいよ。何せ世界の存亡がかかわっているんだからね。

 使えるものは何でも使っていこうよ。君たちだけの問題じゃないんだから』

「……うん」

 そして、《神々の義眼》が投影される。

「うわ」

「どうしたの? プリンツ」

 一緒に訓練をしていたレーベが首を傾げる。その姿は薄い白に包まれている。

「ええと、《神々の義眼》?」

「うん、……レオ君が視界の悪い状況を再現して、とか」

「……ええ、そんな事も出来るんだ」

「…………なんかもう、《神々の義眼》があれば砲だけでいいよね。私たちの装備」

「同感」

 応じるレーベの表情は白く霞んで見えない。……けど、

「うん、こんな感じ」

 作戦ではこの闇の中、探照灯の輝きを導として交戦するが、もし、探照灯が機能しなかったら。……その場合の想定は必要。

『プリンツ、他のみんなも同じ状況にするから。

 それで訓練をしてみよう』

「はーい、伝えるね」

 

 難しいな、と。プリンツは気持ち目を細くする。

 白い闇の向こう、ぼんやりと見えるレーベの姿。闇の向こうにいる彼女。

 …………シャルンホルスト。

「勝たないと、ね」

 負けるわけにはいかない。絶対に、…………だって、

「亡くしたくないんだもん」

 大好きだから。……勝って、戻って、デートしてパーティーして、一時のお別れ。

 そして次に会った時は、ビスマルク姉さまみたいな素敵な女性になって、今度こそ、彼にとって一番の女性になる。

 笑ってしまうくらい少女趣味。呆れてしまうようなロマンチスト。……けど、

 女の子だもんね、と。プリンツは結論。だから、

「負けないからね」

 その宣戦布告が誰に対してかはわからない。けど、だからこそ、

 砲撃する。負けない、そのためにも、こんなところで躓くことなんてできないのだから。

 

 やはり、霧の中というのは難しいな、と。グラーフは艦載機を繰りながら思う。

 なにせ、どこに何があるかわからない。これでは爆撃もままならない。……と、

『グラーフ、いま抜けられる?』

「提督か? ああ、大丈夫だ。

 了解した、一時戻ろう」

 応じると視界がクリアになる。軽く、頭を振る。

「なれなければいけない、か」

 ともかく基地に向かって進む。もともと演習のつもりだった。場所は近海で、すぐに戻れる。

「提督」

 戻ってすぐ、ドックにウィリアムがいる。それと、

「それか、海軍が用意した囮は?」

「うん」

 一メートル四方の、箱のような船が十ある。

「何もない状態でこれ、あと、爆薬とか、砲とかも積めるし、そういうのもあるけど」

 そういって傍らにある木箱を示す。どうするか、と思ったところで、「妖精か?」

 その船に乗る妖精。……「ん? これは、妖精が動かすのか?」

「うん、出来るみたい」

 グラーフの視線の先、敬礼する妖精。……そんな事も出来るのか、と。驚くグラーフ。

「それで、この囮の船の指揮をお願いしたいんだ。

 いいかな?」

「……そうだな。いいだろう」

 頷く。あの霧の中では艦載機は巧く使えない。この囮の船も難しいだろうが。艦載機を飛ばせず手隙になりがちな自分が適任だろう。

「制御方法は、艦載機と同じか?」

 基本、艦載機はグラーフの意思に同調した妖精が操縦を行う。それと同じか? 問いにウィリアムは頷く。

「そうだって、妖精さんは言ってるよ」

 腕を組み、大きく頷く。そんなものか、と。グラーフ。…………ならば、

「砲の搭載を頼む」

 ビスマルクは誤射を警戒していたが。自分の制御で砲撃が可能ならその心配もない。

「うん、……ええと、みんなお願いね」

 ウィリアムの言葉に、いつの間にか彼の足元に整列していた妖精たちが木箱から砲を取り出して取り付け始めた。その一糸乱れぬ挙動と、にこにことしながらそんな妖精たちを見るウィリアムを見て、ぽつり、と。

「…………仲良いのだな」

「そんなものじゃないの?」

「妖精たちは、私たちのもととなった軍船の整備や操作をしていた、れっきとした人だ。

 まあ、……いろいろデフォルメされたが、それぞれの嗜好も持っている」

「そうなんだ」

「…………というか、今更だが。

 提督もレオナルドも、よく私たちのような存在と分け隔てなく接することができるな」

 HL出身だから、と言ってしまえばそれまでだろうが。

「そんなものかな?」

「HLの住人だからか?」

 首を傾げるウィリアムにグラーフは心当たりを問いかける。けど、

「どうだろうね? HLにも、ゲットーなんて、異界の空気もいれない、みたいな場所はあったよ。

 それに、カルツ中将もあんまり変な目で見てなかったと思うけど」

「…………そういえば、それもそうだな」

 というか、バーベキューをやったときにいた軍人は皆、か。

「人によりけりじゃないかな?」

「そんなものか、……まあ、そうかもしれないな」

 あるいは、当たり前か。……だから、

「ああ、二人が来てくれて、本当によかった」

 あるいは、自分たちのような、人でない存在を受け入れられない者が来たら。

 自分たちを、文字通りただの軍船と、……兵器として扱う者が来たら、自分たちは戦う事を選んだか? 選ぶ、と断言できない。

 仮に選んだとしても、今のような気持ちで戦いに挑むことは、ないだろう。

 そんな人に対して彼らのように、この人を喪いたくない、と思えるか、わからない。

「ま、僕たち術師も、HLの住人も簡単に受け入れてくれると思うよ。

 君た、あだっ?」

 すぱんっ、とわかってない少年の頭を引っ叩く。抗議の視線にグラーフは肩をすくめる。

 まったく、本当にわかっていない。術師や、HLの住人なんて関係ない。

「二人が、来てくれて、本当によかった」

 意地になって強調するグラーフ。ウィリアムは少し困ったように、とても、嬉しそうに頷いた。

「…………どういたしまして」

 

 妖精たちと最後の確認を行い、グラーフは再度、海に飛び出す。

 動く、大丈夫だ。

 各船に積んだのは単装砲。視線を向ける。親指を立てる妖精。

「こんな取り扱いも出来るのだな」

『頼んでみるものだねー』

 のんびりとしたウィリアムの声、「提督か」と、応じる。妖精と仲がいい事だし、動かせるように頼んだのだろう。

 僚艦たちにあるのは模擬弾。なら、

 グラーフは無線を口元へ。声を届ける先は僚艦皆で、

「ドイツ軍より、囮の船が届いた。

 これを使って艦隊戦の演習を行う」

 グラーフの声に、了解、と声が届いた。

 

 調理の音。まな板を叩く包丁の音。皿を洗う水の音。

 レオナルドとウィリアムは並んで料理を作る。

「まさか、料理作ることになるとは思わなかったよ」

「あはは、まあ、そうかもね」

 海戦の手伝いと言われてきたのだ。最初から予想していたらそれはそれで凄い。

「不服?」

「まさか、……けど、他の人に食べてもらうって緊張するなー」

「同感」

 頷く。そして、

「来てくれてありがと、レオナルド」

「どういたしまして、親友」

 ぽつり、呟いたウィリアムにレオナルドは笑って応じる。

「終わったら、」

「ん?」

「なあ、ブラック。……その、また、HLに来れる?」

「っていうか、レオナルドこそ遊びに来なよ。もっとHLの外に出てみれば? 観光とか」

「…………うーん」

 魅力的、だけど。

「ま、無理は言わないよ。ライブラ期待の新人君」

「……うるさいなー」

「僕の故郷、アイルランドなんだ。

 遊びに来れなそうなら言ってよ。故郷を案内するよ」

「それは楽しみだな。……アイルランドか」

「イギリスは敵だよ」

「…………ドイツと日本は味方?」

 真面目な表情で言い放つウィリアムにレオナルドは曖昧に応じる。ウィリアムは頷く。

「実は、日本は一度行ってみたかったりするんだよね。僕」

「……ビスマルクさんたちの、あの、技術の基盤になったところ、だっけ?」

 ツクモ、だったか。曖昧に呟くレオナルドにウィリアムは頷く。

「術師としても、あそこは不明なところが多いんだ。いろいろ解ってないことが多くて、僕たちも手を出しかねてる。

 あの、血闘神と何か関わりがあるんじゃないかって、噂はあるけど。……けど、そんな図抜けた人が関わってるって、それはそれで凄いことだよね」

「そうだな。……………………聖地秋葉原」

「あ、うん、そこは絶対に行きたくないかな」

 ふるふると首を横に振る。それはともかく、

「もしかしたら、ビスマルクたちみたいな子も、いるかもしれないね」

「……そか」

 ありえなくは、ない。LHOSさえ手を出しかねているのだ。どんな存在がいても、おかしくない。

 興味はある。………………レオナルドは苦笑。話がそれた。

 調理に戻りながら肩をすくめる。

「ま、遊びに行けそうなら連絡するよ。

 その、日本観光とかも出来れば面白そうだね」

「そうだね。……ま、お互い自由には動きにくいけど、気長に計画立てていこうか」

 と、とたとたと賑やかな音。

「来たな」「来たね」

「艦隊が帰投したわっ! 夕食の時間ねっ!」

「兄さまっ! お手伝いしますっ!」

「ゆーも、がんばるっ」

「ただいまー」

「ん、夕食。いい匂い」

「演習は無事に成功した」

「ああ、僕とブラックで持っていくから、みんなは休憩してて」

 レオナルドの声。応じるのはグラーフ。

「そうか、レオは提督と二人きりの時間を大切にしたいのか」

「レオ君、……わ、私はレオ君にも負けないですっ!

 それもいいけどっ! 悪くないけどっ!」

「私は、絶対に負けないわっ! 提督の騎士は私よっ!」

「ふーん、……そう、レオ、そういうのが好きなんだ」

「ぼ、……僕は、…………僕、だって」

「…………なあ、ブラック、僕、何か間違えたこと言った?」

 戻ってきたと思ったらいきなり大騒ぎな女性たち、レオナルドは肩を落とす。で、その先、

「いいじゃないか、この賑やかなのもここの日常として受け入れれば」

 ウィリアムは笑って応じた。……「日常、か」

「ん?」

「いや、それもそうだな。

 じゃあ、ユー、手伝ってくれる?」

「ん、ゆー、がんばる。れおと提督のお役に、立ちます」

「レオーっ!」

 重なる悲鳴のような声と、呼んでくれて嬉しいらしい、笑顔のユー。

 日常か、と。レオナルドはその言葉を噛みしめて、ユーと配膳を始めた。

 

「日常、か」

 自分用に使っている仮眠室で、ウィリアムはその言葉を噛みしめる。

 そう、

『その日常とやらも、もう少しで終わり、ってか?』

 鏡に映る彼はにやにや笑う。

「…………うるさいなー」

 ウィリアムはうんざりと応じる。けらけら笑う声。

「そういうの、君は嫌いなの?」

 ふと、気になって聞いてみた。この上なく非日常的な存在である彼。そんな彼は、この日常をどう思っているのか、と。

『なわけあるかよ』

 返って来たのは、意外にも、否定。

『大好きだぜ、平穏な日常はな』

「そうなの?」

『……………………客だ。その、日常とやらを精々楽しめよ。ウィリアム』

 問いには応じず、鏡像がウィリアムの姿に戻る。客? と、レオナルドと見当をつけて戸を開ける。

「きゃっ」

「……あ、グラーフ?」

「お、驚いたな」

「ああ、ごめんね」

 戸を開けようとして、いきなり開いたから驚いたらしい。謝るウィリアムにグラーフは「大丈夫だ」と、応じ、

「一緒に酒でもどうだ?」

「僕と? いいけど」

「なに、提督とレオとは一度酒を酌み交わしてみたいと思っていたんだ。

 で、一昨日の夜はレオのところに行った」

 にや、とグラーフは笑う。

「提督も一緒に、と思ったのだが、いろいろ別件が重なっていたのだろう?」

「…………あははは」

 女の子の部屋に行ってたり、女の子が部屋に来たり。……さすがに、それを口に出す勇気はない。

「それで、いいか?」

「もちろん」

 ウィリアムは頷いてグラーフを招き入れる。彼女はベッドに腰を下ろす。ウィリアムは奥のデスクを引っ張り出し、グラスを置く。

「「乾杯」」

 ちん、と音。

「それで、レオナルドとはどんな話してたの?」

 興味津々と問い。……グラーフは、ため息。

「HLの話を延々と聞いていた」

「あー、まあ、あそこは面白いからね」

 話題などいくらでもあるだろう。ましてやレオナルドはライブラの一員。一晩語り明かしても、話題の種が尽きるとは思えない。

「正直言えば、悔しかった。

 改めて、自分は何もしてないと痛感したよ」

「洋上基地の生活とここ、だけじゃあね。仕方ないんじゃないかな」

 生い立ちそのものが相当特殊な少女だ。だから、

「…………けど、これからいろいろ経験していけばいい、と僕は思うよ」

 軽く、アルコールを傾ける。喉を潤す。

「これから、……か」

「死ぬかもしれない場所に向かうのに、何楽観してるのか、って怒られるかもしれないけどね。

 けど、」

 胸に、手を当てる。

「これからの事を思うのは、必要なことだと思う。

 死地に向かう、としてもね」

「そうだな。……ふふ、そう、明日への希望、というべきか?」

「…………そうだね」

 希望、と。その言葉を聞いてウィリアムの声が沈む。……グラーフも、わかっている。

 その身に絶望を宿すウィリアムには、それが絶対に必要なのだから。

「ああ、そうだな。

 敵艦を打倒し、皆で遊び歩いて、パーティーだ。……そうだな、それが終わったら、…………ふふ」

「ん?」

 くすくすと笑うグラーフ。問いかけるウィリアムに軽く笑いかけて、

「なに、HLを見てきた提督やレオが驚くような、面白い話を携えて驚かせてやろうと思ってな。

 ああ、本当に、今から楽しみだ」

「そうだね。僕も楽しみにしてるよ」

 だから、そのためにも、

「死ぬなよ」

「…………ああ、もちろん、死なないさ。

 楽しみなことが多すぎて、死ぬなんて、到底できないな」

 くつくつとグラーフは笑う。「そうだね」とウィリアム。……けど、

「それは提督にも言える。

 あまり無理はするな。絶望王のことはなくても、術師の超能力は負担がかかるのだろう? あまり、レオのことは言えないのではないか?」

「あはは」

 そういわれれば苦笑するしかない。グラーフはため息一つ。

「まったく、好き好んで無理をする。

 いいか? どのような形であれ、二人が害されれば私たちも傷つく。私たちに傷ついた時の辛さを、押し付けるのはやめてくれ」

「…………気を付けるよ」

 それを言われれば反論はできない。両手を上げて降参するウィリアムに、グラーフは微笑。

「といっても、私はそんな優しい二人の事が好きだ。

 だから、これが終わっても、よろしく頼む」

 静かに微笑むグラーフ。……そんな彼女を直視するのが照れくさくて、ウィリアムはかすかに視線をそらし、小さな声で「うん」と、応じた。

 

 さて、寝るかな。

 レオナルドはあくびを一つ。なぜか毎夜誰か来ていた気がするが。今夜はそれもない。

 まあ、たまにはいいか、と。ベッドに潜り込む。

「ん、……ん、ふぅ」

「…………ほわ?」

 潜り込んだ先に、ユーがいた。

「って、どおぉおおおおおっ?」

 悲鳴を上げて飛び退くレオナルド。けど、寝間着を掴まれて中途半端な所で転がる。

「ぅうん、……れお、大きな声、だめ、です」

「あ、ごめんなさい」

 眠そうに眼をこするユーに謝るレオナルド。「じゃなくて」

 そう、問題はそこではない。問題は、

「えと、ユー、どうしてこんなところにいるの?

 ユーの部屋は、寮だよね?」

「や、です」

「いや、……えと、や、って?」

 もそもそと、ユーはベッドに潜り込む。顔の半ばまで潜り込んで徹底抗戦の構え。

「れおと一緒がいい、です」

「い、いや、一緒って」

 一緒って、……つまり、

「あのー、い、一緒に寝る、……っていう、こと?」

 こくん、とユーは頷く。

「な、……なんで?」

「作戦が終わったら、れお、HLに帰ってしまいます。

 お別れ、です」

「あ、……そう、だね」

「けど、ゆー、いつか、また会いに行きます。

 ……けど、すぐには無理、だから。」

 ふと、見れば、布団から僅かに覗いたユーの顔は赤い。

「だから、……いま、たくさん、たくさん、一緒にいたい、です。

 あの、……だめ、ですか?」

 そこまで言われたら、仕方ない。

 レオナルドは溜息。

「えーと、みんなには内緒に出来る?」

 特にウィリアム。レオナルドの問いにユーは唇に指を当て、

「内緒に、します。

 えへへ、ゆーとれおの、秘密、です」

 嬉しそうなその仕草にレオナルドは首を傾げる。そういうの好きなのかな、と。

「じゃあ、入るね」

「うん」

 レオナルドはベッドに潜り込む。少し離れて、と思ったけど、無理。ユーはすぐにレオナルドのところへ。

「……暖かい、です」

「そうだね」

 子猫がじゃれつくみたいに身を寄せるユー。レオナルドは微笑。ぽん、と彼女を撫でた。

「それじゃあ、お休み。ユー」

「はい、お休み、です」

 




 念のため、ウィリアムの出身がアイルランド、というのはオリジナル設定です。
 故郷で羊を飼っていた(=牧畜業が盛ん)のと、父親の職業がウィスキー製造工(=アイリッシュ・ウイスキー)というあたりから引っ張ってきました。
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