トータスナイトが基地に着任しましたっ!   作:林屋まつり

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十八話

 

「それじゃあ、これから出撃だね」

 朝食を終え、彼女たちはドックに立つ。

 航路は決まっている。狙いはわかっている。……あとは、出撃するだけ。

 そして、皆、想定している。今日、終わる、と。

 洋上基地の場所は絞り込まれている。敵艦は、そのほとんどを失った。

 ならば、今日中に攻め落とす。時間をかければ、また、建造により敵艦が増えかねない。今が、最大の好機。

 そして、それは向こうもわかっている。攻め込んでくる可能性さえ、ある。敵艦、シャルンホルストからすれば、ここには自分たちをはるかに超える脅威がいるのだから。

 だから、おそらく、今日、終わる。

 彼女たちを見送るのは二人、レオナルドとウィリアム。

 ウィリアムは、不意に呟く。

「入渠の準備はしておく、だから、絶対に帰ってきてね。……もう、僕は大切な人を、誰も喪いたくないんだ」

「ええ、もちろん」

 ビスマルクは頷く。

 誰も喪わない、自分も、だ。

 大切な人のところに戻ってくる、と。

「わっ」

 呟くウィリアムは、不意に、レオナルドに抑え込まれる。きょとん、とするみんなにレオナルドは気楽に笑いかけて、

「作戦が終わったらさ、みんなで遊びに行くだろ? で、その次の日はパーティーだ。

 そのあとはしばらくお別れかもしれないけど、また、みんなで一緒に遊ぼうな、その時になったら聞かせてよ。HLに負けない、面白い話をさ」

 彼が語るのはこの後の話。この後の、楽しい、話。

 そのためにも、

「だから、……手始めに、世界を救いに征こうか」

 この後の、楽しみな未来のために、

 まずは、この世界を救おうと、レオナルドは告げる。

 あまりにも軽く告げられたスケールの大きな言葉。彼女たちはきょとんとして、ウィリアムは微笑む。

 本当に、……彼は、

「うんっ、僕、頑張るよっ!

 レオ君と提督と、みんなで一緒にいたいから、征ってくるねっ」

「そう、……そう、ね。……楽しい事あるんだし、そのために世界を救うって、……うん、わくわくする」

 拳を握るレーベと、頷くマックス。

「はは、……いいな、ああ。それは楽しそうだ。

 困ったな、俄然、やる気が出てきた」

「世界とか、ゆー、難しくてよくわからない、です。

 けど、楽しい事、一杯やりたいから、がんばり、ます」

 楽しそうに笑うグラーフと、真剣な表情のユー。

「ふふ、……ええ、いいこと言うわね。レオ。

 さすが、私のライバルよっ!」

「うー、やっぱりレオ君強敵です。……けど、そうですねっ!

 兄さまと、みんなと一緒にいる先を守るため、世界を救ってきますっ!」

 不敵に笑うビスマルクと、敬礼をするプリンツ。

 そして、

「ほんと、……君にはかなわないよ。親友」

 ぽつり、声。そして、彼は前を見る。提督として、一息。

「さあ、出撃だっ!

 世界を救うために、皆の、先を守るために、絶対に勝って戻ってくるんだっ」

「「「「「「はいっ!」」」」」」

 そして、抜錨した。

 

 当然、可能性の一つとしては考えていた。

「前に、交戦した辺りね」

 まだ、基地の近海といえる場所。そこにふわり、漂う霧。けど、

「固めています」

 プリンツが呟く。そう、霧の範囲は狭い、代わりに、密度が、高い。

 突撃すれば雲の中にいるような形になるだろう。ビスマルクは僚艦に停止を指示。

「提督、レーベとマックスに、《神々の義眼》を展開してもらって、霧の範囲外で敵艦を捜索するわ」

『うん』

 頷く声、そして、レーベとマックス、二人に《神々の義眼》が投影される。霧を見通す。……けど、

 それでも、白く、霞んでいる。

「隠蔽ね」

 ぽつり、呟いたマックス。首を傾げるビスマルクたちに軽く手を振って、

「今、レオの《神々の義眼》越しに見てるけど、それでも白く霞んで見えるわ。

 たぶん、密度を上げて隠蔽性を増しているんだと思う」

「わかったわ。

 グラーフ、念のため霧周辺の状況を探ってみて」

「了解」

 と、レーベとマックス、二人の視界が変わる。白い霞が、少しずつ、晴れて奥が見える。

 クリアになる視界。けど、

「レオ君」

 呟くレーベの言葉には心配の色。

 無理しないで、と。出かかった言葉を飲み込む。マックスと視線を交わす。

「見えた」

 霧の向こう、茫洋とたたずむ少女が一人、いる。

「レーベ、見つけた?」

「うん」レーベはその方向を示し「この先、マックス、確認お願い。僕はもう少し周りを探してみる」

「ん、…………うん、見えた」

 マックスも、茫洋とした表情でたたずむ少女を見る。レーベは眉根を寄せる。

「敵艦、他、確認できない、ね」

「私も」

 頷きあい、グラーフに視線を向ける。グラーフも首を横に振る。

「敵艦、確認できず。……どうする?」

「まだ、遠いわね」

 この位置では《神々の義眼》のサポートがあっても当てられない。そもそも、砲弾が届かない。

 とはいえ、霧の中に踏み込むか。…………踏み込むしかない。

 怖いのは僚艦とはぐれての各個撃破。特に相手は戦艦だ。一対一でまともに戦えるのは自分くらいか。

「…………プリンツ、殿は任せるわ。マックス、探照灯をプリンツに渡して、殿から探照灯で全員を照らして、はぐれそうになったら声をあげなさい。

 レーベは先頭で、探照灯を照射しながらシャルンホルストに向かうわ。マックスはレーベの護衛をお願い。周辺の警戒は私がやるわ。ユーは潜水艦の警戒をしなさい。

 グラーフ、囮艦をばらまいて、この霧じゃあ砲撃はしない方が無難ね。囮だから、霧の中を適当に動き回っていればいいわ」

 了解、と重なった声を聞き、ユーは潜水、グラーフは囮艦に指示を飛ばし、レーベとプリンツは探照灯を構える。

 一息。

「霧の中に侵入するわっ!」

 

 真っ白ね、と。ビスマルクは辺りを警戒して呟く。

 警戒役として《神々の義眼》によるサポートは受けている。とはいえ、目指す先を照らさなければいけないレーベやはぐれる事を警戒するプリンツほどではない。

 自分とマックスは単純に視力の向上。敵影を見逃さない、という程度でしかない。

 それに、

「グラーフ、気をつけなさいよ」

 囮艦や艦載機をばらまいて周囲の警戒をするグラーフは《神々の義眼》のサポートはない。はぐれるとしたら彼女だ。

「なに、問題はない。……が、確かにこれはきついな。

 今の私にはひとつ前のビスマルクの背中がぼんやり見えるくらいだ。……まずは、この霧を何とかすべきだろう。視野の確保程度の事でレオのサポートはあまり受けたくない」

 《神々の義眼》使用はレオナルドに負担を与える。だから、使用は必要最低限にしたい。

 負担を強いたくないのはもちろんだが、動体視力の強化など、交戦で有利に持っていくサポートを受けるためにも、霧を晴らして視野の確保は必須。

「この霧を払う事が優先ね」

 ビスマルクの言葉に頷く。

『そうだね。…………ん。……うん。

 プリンツ、ビスマルク、レオナルドのサポートを一時中断。レーベに集中して、シャルンホルストを見るって、侵攻は一時停止、みんな、注意してね。

 レーベ、お願いね』

「「「了解」」」

 声を重ね、ビスマルクは手で合図。動きを止める。

「みんな、レーベを中心に円陣で警戒。

 レオのサポートは受けられないわ。集中しなさい」

 了解の声を聴き、一時停止。レーベを中心に警戒を始める。そして、

「あっち、だね」

 シャルンホルストのいるほうに視線を向ける。

 白い霧の中、裸眼では一メートル先は白い闇に閉ざされてみないような霧の中で、その先、先、先、シャルンホルストまで驚くほどクリアに見える。

 そして、映像が、変わる。

「……これ? …………悪魔、……いや、天使、様?」

「レーベ?」

 零れた言葉にマックスは警戒しながら問いを投げる。けど、レーベは軽く手を振って返事を保留。今はこちらに集中したい。

 霧の向こうには純白の、美しい戦艦。そして、それを覆うように翼を広げる。天使がいる。

 天使、……だ。純白の衣を纏い、自身の背丈ほどもある巨大な純白の翼を広げる女性。その姿を見れば誰もが天使、と思う。……けど、

 その顔に表情はない、正確には顔を構成するパーツが何もない。そぎ落とされたような平面。その一点で、天使の姿は神秘的というよりは、魔的。不気味にさえ見える。

『レーベ、何が見える?』

「あ、……ええと、戦艦が見えるよ。たぶん、元のシャルンホルスト、だと思う。

 それと、それを覆うみたいに、天使、みたいなのが見える。天使の方は、顔がなくて、ちょっと不気味な感じ」

『それが、その戦艦に憑いた悪魔、だと思う。

 それと、霧の発生原因だろうね』

「うん。……けど、」

 それでどうしよう、とレーベは口ごもる。確かに悪魔は見える。けど、これは《神々の義眼》を通じた映像。砲撃が当たるかは、不明。

『なにか、悪魔を引き留める触媒があるかもしれない。

 レーベ、もう少し見てみて』

「了解。……けど、レオ君は大丈夫?」

『…………まだ、大丈夫だって言ってる』

 微かに口ごもるウィリアム。大丈夫、けど。

「……うん、お願いね」

 シャルンホルストを宿す少女に視線を向ける。集中する。

 ほっそりとした小柄な少女。色は白。抜け落ちるような白い肌。そして、純白の長い髪。

 服は後ろの天使と同じ、白い衣。……だけ、艤装、砲の類は見えない。

 視る。視る。視る。……眼球の熱を感じる。視る。視る。視る。視る。視る。脳の疲労を感じる。視る。視る。視る。視る。視る。……「胸元」

「レーベ?」

「ちょうど、心臓のところだと思う。

 ほかのところははっきり見える。けど、…………ん、……と、」

 不意に視界が元に戻る。

『ちょっとレオナルドを休憩させる。

 皆、警戒を続けて』

「ん、……」

「っと、レーベ、大丈夫?」

 ふらり、とよろめくレーベを慌ててマックスが支える。

「う、……ん。大丈夫」

「レーベ、何か見えたか?」

「胸元、ちょうど、心臓がある辺りに文字が見えた。

 ほかのところはクリアに見えたけど、そこだけ白く霞んで見えた。たぶん、霧の発生源だと思う」

「文字?」

「見たことない文字だった。

 けど、意味は見えたよ。《護りたまえ》、って書いてあった」

「それが、シャルンホルストに憑いた悪魔との接点?」

「だと、思う」

 ふぅ、と一息。

「レーベは少し休んでて、警戒は私たちでやる」

 マックスは手を放す。レーベは一つ頷いて、ふぅ、と。海面に腰を下ろした。

 

 レオナルドに応急処置、休憩してもらう間、基地のテラスに出てウィリアムは千里眼で近海にある白い塊を見る。…………そんな彼を横目に、彼は自力で再現した《神々の義眼》越しに見たその光景を思い出していた。

 悪魔、……といったが、実のところシャルンホルストに憑いている悪魔には彼のような自我はない。正確に言えば、その悪魔さえ、自我崩壊している。

 

 きっかけは一人の少女。

 あまりにも美しい戦艦、シャルンホルスト。それに魅せられた彼女が、シャルンホルストが害されることがないよう護ってほしい、と。素朴な祈りを込めて呼び出した悪魔。

 …………問題は、その少女が、あまりにも無垢で一途だったこと。

 

 人間ってほんと、面倒だよなあ、と。ぼんやり思う。

 もし、その少女が愚かなら、あるいは、彼女が呼び出した悪魔は崩壊せず、悪魔らしく振舞ったかもしれない。

 けど、あまりにも一途で真摯なその祈りは、悪魔さえ壊した。

 そして残ったのは戦艦と、それを守る事だけを実行する悪魔。

 幽霊戦艦と壊れた悪魔。……爆笑ものだな、と。淡々と彼は呟く。

『ま、普通にやっても勝てるわけねーし、精々うまくやれよ。小娘ども』

 

「結局、シャルンホルスト撃破しかなさそうね」

 レーベの見たものを聞いたビスマルクは淡々と呟く。

 何か、発生装置のようなものがあれば、レーベとマックス、プリンツにシャルンホルストの気を引かせて、自分が遠距離からの狙撃で破壊。という事ができたかもしれない。

 けど、それも出来ない。真っ向勝負しか、ない。

 なら、

「提督、レオは大丈夫?」

『うん、いけるって』

「なら、交戦を開始するわ。

 引き続き、レーベの探照灯を導にするから、レーベのサポートを頼むわ」

 方向だけを定めた当てずっぽうに近い砲撃になるが、全員に《神々の義眼》を投影したら、レオナルドの身が持たなくなる。

『……補給が必要になったら早期撤退すること。

 それと、僕がレオナルドを監視してる。こっちも危なさそうなら、戻ってね』

「もちろんよ」ふと、ビスマルクは意地悪く微笑む。「ええ、トータスナイトの事。頼むわ」

『はは、任せてよ。……今のところ、霧の外には異常はない。

 僕も千里眼で監視してる。何かあったらすぐに知らせるから』

「…………提督も、無理しないでよ」

 どうも、危なっかしい二人ね、と。苦笑。……本当に困ったことに、そんなところも、嫌いになれない。

 だから、自分たちが巧くやらなければならない。大切な人たちへの負担は、自分たちの実力で払う。

 視界が悪い場合の砲撃も訓練はした。だから、

「レーベ」

「ん、……見えたっ」

 クリアになった視界の向こう。少女が見える。それは、もう一人。

「ん?」「マックス?」

 マックスは変わった視界に小さく声を上げる。その意味は、

『マックス、シャルンホルストからの砲撃を警戒して、何かあったら回避。みんなに合図をお願い』

「ん、……うん、ありがと」

「マックス、回避後はすぐに探照灯を点灯しなさい。

 皆、上に向けられた探照灯のところに集まるわ」

 了解、と。声を聴いて、レーベは探照灯を前に構える。一息。

「照射」

 告げる、と同時に探照灯の光が白い闇を貫く。シャルンホルストに向けられる。そして、

「撃ちますっ!」

 プリンツの砲が、火を噴いた。

 

「囮艦を集める。

 包囲して砲撃、……が、気を引くことが主になる。威力はあまり期待するな」

 グラーフの言葉にビスマルクは頷き許可。もとより囮艦には小口径の単装砲しか積むことができない。けど、威力が低くても全方向から砲撃される。という事は大きな重圧を与えるし、囮としての本分を果たすに十分。

「ゆー、潜航、しますか?」

「……いえ、待機をお願い。

 まだ、シャルンホルストに動きはないわ。近づいたら潜航、交戦ね」

「了解、です」

 ユーの返事を聞いて、ビスマルクは自身も砲を構えて「微速前進。レーベ、私の主砲で撃ち抜ける距離になったら合図をお願い。提督、その時はレオナルドに私のサポートをお願いして」

「了解」『わかったよ』

 前に進む。プリンツの砲撃を撃ち込み、近づいたら自身の主砲で撃ち落とす。

 目指すは一撃必殺。

「敵艦に動きはない。……けど、」

 レーベは眉根を寄せる。砲撃は届いている。そのほとんどが直撃コース。……けど、「叩き落とされて、る?」

「叩き?」

 なにそれ? と、プリンツ。

「そう、見えたんだ。…………プリンツ、もう一回砲撃してみて」

 じ、とレーベは目を凝らす。プリンツは頷き、砲撃。そして、その砲弾の行く先をレーベは集中して視る。

 

 眼が、熱い気がする。

 

「視え、……た」

「レーベ?」

「白い、翼みたいなのが砲弾の壁になってた。

 …………さっき、レオ君に集中して見せてもらった時に見えた、悪魔のイメージが形になった。……と思う」

「盾付きか厄介だな」

 グラーフが舌打ち。重巡洋艦の砲撃さえ防ぎきるのなら、彼女の操る囮艦の砲撃では手も足も出ないだろう。

 それでも砲撃の指示は出す。探照灯の光を導するグラーフからの指示故、あまり命中は期待できないが、それでも、……盾となる翼を使わせれば、隙ができるかもしれない。

「雷撃戦を視野に入れるわ。

 ユー、潜航開始。霧の状況を見て、霧がなさそうなら、レオのサポート付きで遠距離から雷撃」

「了解、です」

 そして、ユーは潜航した。

 水の中。霧はない。いつもと変わらない視界。シャルンホルストの、場所もわかる。

 一度顔を出す。「行けそう、です」

「そう、……なら、潜航して。

 魚雷が届く距離まで近づくわ」

「はい」

 とぷん、と潜航。そのまま真っ直ぐ近づく。…………無線を口元に寄せる。

「提督、あの、魚雷、届くところまで来ました。

 れおに、お手伝い、お願い、です」

『ん』

 《神々の義眼》が投影され、海流が視認できる。

 けど、

 レオナルドの負担になっている。だから、魚雷を構える。慎重に狙いを定める。

 外せば彼の助力も無駄になる。負担も、無意味になる。

 それは、いや。だから、慎重に狙いを定めて、

「魚雷、撃ちます」

 雷撃する。魚雷は想定通りに海流を流され、………………海を切り裂くように振り下ろされた翼に両断された。

「え?」

 叩き切られ、誤爆。感じるのは危機感。ユーは慌てて無線に声を飛ばす。

「魚雷、翼に、切られましたっ!

 えと、……翼を叩きつけられたら、痛い、ですっ」

 当たり前だが、駆逐艦であるレーベとマックスも魚雷よりは装甲は厚い。魚雷が叩き切られたとはいえ皆がそれに準じて一刀両断とは思えない。

 けど、水中にある魚雷に対してそんな芸当をやってのけたのだ。油断はできない。

「護りたまえって、……まったく、もうちょっと穏かな護りを叶えなさいよっ」

 引きつった笑みを浮かべたビスマルクも、その光景を辛うじて見えていた。

 大音量の、水を叩く音。そして、巻き上がる莫大量の水。

 その水に押されるように、一時霧が晴れた。だから、視えた。

 巨大な、優美な、天使の翼。……けど、どうしても、それがギロチンの刃のようにしか思えない。

 眼前には少女。そして、彼女を守るように、後ろから抱きしめる、顔のない天使。あるいは、悪魔。

 翼の射程は、五メートル程度か。砲撃は翼の射程外からでも届くが。そもそも物理的な存在かどうかさえ疑問だ。油断していたら翼が伸長、両断となったら笑い話にもならない。

 そして、もう一つ見えたことがある。つまり、

 シャルンホルスト、あの、意思があるかどうかさえ解らない彼女。その、茫洋とした眼は、確かに、光を宿した。

 つまり、…………敵を殺すという、もっともわかりやすく単純な、殺意。

「砲撃、来たっ!」

 マックスの言葉に合わせるように散開。霧の中だ。まともな回避は難しい。

 けど、ビスマルクは無傷、回避成功。探照灯を光に向かって進み合流。「ダメージレポートっ!」

 声に、応じる報告。プリンツが小破。なら、「提督っ、私が砲撃するわっ」

「撃ちますっ!」

 プリンツが砲撃、そして、ユーも海中で魚雷を放つ。

 二枚の翼が翻る。一枚は海中に叩きつけられ、もう一枚は敵艦眼前に展開、魚雷を叩き切り、砲弾を弾き飛ばし、

「てっ!」

 戦艦主砲が、翼の間に飛び込む。覆い隠せていなかった脇腹に叩きつけられる。

「着弾確認、……よかったわ。

 砲撃は効くようね」

 幽霊戦艦の異名通り、実体がない、などという事になれば目も当てられない。

 だから、

「グラーフ、艦載機も囮艦も全部使って敵旗艦を攻撃っ! 防御にあの翼を使わせるわっ!

 ユーも魚雷をお願い。プリンツ、翼の隙間を狙うわ。レーベ、マックスは避難誘導をお願いっ!」

 そして、じ、……と。見据える先。ばさ、と音。

 まさか、と。呟いて、

「飛んだっ?」

「軍船でしょっ? シャルンホルストってっ!

 悪魔、過保護すぎよっ!」

 叫ぶビスマルク。グラーフは辺りを見て、

「霧が晴れていくな。おそらく、狙いは、」

 その狙い、想定できたがゆえに、彼女たちは顔を見合わせる。急げ、と意識を合わせてビスマルクは叫んだ。

「追撃するわっ!」

 

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