トータスナイトが基地に着任しましたっ!   作:林屋まつり

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十九話

 

『あははははっ、おもしれーっ!

 今度オレも飛ぶかなっ! わざわざ形作って宿主抱えて空飛んで運ぶとかっ! 真面目だなあの悪魔っ!

 おい、ウィリアム、ちょっとあれ写真撮れよ。あとでフェムトに送ってやろうぜっ!』

 何が面白いのか腹を抱えて爆笑する彼。当然、そんなものは無視する。

 霧は晴れている。だから、その姿が見える。

 顔のない天使に抱えられて、展開した艤装、砲を向ける少女。

 シャルンホルスト、そして、彼女の武装は、

「戦艦級の、砲撃力」

『なんだよ、そんなこと気にしてんのか?

 安心しろよ。オレが全部守ってやるよ。あいつみたいに天使サマの翼でも生やしてやろうか?』

「いらない、黙っててくれ」

『へいへい、精々がんばれ。

 あ、……そーだ。お前の体がなくなったらオレも困るから、その時は問答無用だぜ? 自殺なんて考えんなよ?』

「そんなこと考えたら君が出てくるんだろ?

 僕は、」

 彼女が守った世界を、彼と彼女たちがいる世界を、

「絶対に、失わせたりしない」

 砲撃の音。

「くっ」

 サイコキネシスを広域に展開。砲弾を、止める。

『お、すげ、やるな相棒。

 ってか、ずいぶん頑張ったなー』

「お前の相棒になった覚えなんてない。

 中にはレオナルドもいるんだ。当たり前だ」

『ほれほれ、次弾が来るぜ。

 頑張れ相棒』

「だから、相棒っていうなっ!」

 再度の砲撃、それを叩き落とす。……けど、

「くっ」

 サイコキネシス、制御を誤れば自分の体が弾け飛ぶ。それを戦艦級の砲撃力に突破させられないだけの強度で展開しなければならない。

 ウィリアムに自覚はないが、並みの術師には不可能だ。最上位の術師である彼だからこそできる芸当。……けど、そんなことを繰り返しているのだ。

 代償は確実にウィリアムの体を蝕む。頭痛がひどい。体を激痛が駆け回る。

 けど、

「僕は、……守るって、決めたんだ。

 だから、」

 砲が向けられる。強く、強く、彼女を睨み。

「信じてるっ!」

 砲弾が放たれる。……直前、

 シャルンホルストの両目に、光。

 《神々の義眼》による視界の制御。視界が掻き乱され、砲弾は逸れる。

「は、……あ、間に合った」

「レオナルド」

 《神々の義眼》を輝かせる彼は息を切らせて一息。

「大丈夫、そうだね」

「まあ、ね」

 シャルンホルストは再度砲を向ける。レオナルドは《神々の義眼》を彼女に向け、ウィリアムは手を向ける。……直前に、爆発。

「グラーフっ」

 艦爆による爆撃。そして、扉が蹴り開けられる。

「提督っ! レオ君っ! 離れてっ!」

「レーベっ? 早っ?」

「グラーフの囮艦に曳航してもらったのっ!

 あれ、……妖精さんって改造好きなんだねっ!」

「…………ああ、どうなんだろうな」

 レーベは単装砲を強く握る。

 相手は、自分よりはるか格上の戦艦。グラーフの艦載機による支援があるとはいえ、勝てるとは、思えない。

 けど、

「絶対に、守るよ」

 レーベは告げて駆けだす。単装砲から砲撃。

 けど、ばさっ、と音。シャルンホルストは空を舞い、砲弾を回避。「逃がさないっ!」

 単装砲を置いて機銃を構える。シャルンホルストを銃撃。けど、

 効いてない、と。レーベは歯噛み。当たり前だ。相手は戦艦。駆逐艦である自分の機銃銃撃に揺らぐとは思えない。

 関係、ない。

「僕の役割は、時間稼ぎだから」

 シャルンホルストは砲を向ける。攻撃を察知。そして、

「レーベっ!」

 砲口の向きから判断される射線。それが見えた。

「ありがとっ!」

 礼を言って、転がるように射線からそれる。砲撃の音。基地の屋上が砲弾に穿たれる。けど、レーベは回避成功。

 転がりながら単装砲を向ける。砲撃直後のシャルンホルストに砲弾を叩き込む。

 それでも効かない。シャルンホルストは回避軌道から一転、突撃へ。

 レーベを脅威ではないと判断、それなら、みんなまとめて基地ごと吹き飛ばす、と砲を向ける。

「つっ」

 戦艦の、全砲門が向けられる。レーベは、せめて砲門を弾き飛ばせれば、と、砲に単装砲を向け、

「レーベっ、本体を狙ってっ!」

 ウィリアムの声。レーベは反射的に本体に向かって引き金を引く。

 砲弾が放たれる。それは、途中からはじかれたように加速した。

「え?」

 自分とシャルンホルストの間に展開された薄い歪み。それに触れた途端、砲弾が加速してシャルンホルストに叩き込まれる。

 高速の砲弾はシャルンホルストに直撃。空から叩き落とす。

 そして、レオナルドは《神々の義眼》を起動。

「つっ」

 熱い、……《神々の義眼》はすでにかなりの熱を持っている。けど、

「頼む、よ」

 

「頼まれた、です」

 ユーは潜航しながら、前を見据える。その先にはレーベの砲撃で撃ち落とされたシャルンホルスト。

 シャルンホルストの翼が閃く。けど、基地の屋上からレーベが単装砲で砲撃。さらにグラーフの艦載機が爆撃して飛翔を許さない。文字通り、空から叩き落とされる。

 その位置は、わかる。タイミングもわかる。《神々の義眼》の力、レオナルドに助けてもらってる。

 それが暖かくて心地いい。……だから、

「撃ちます」

 魚雷を放つ。五つ、一点集中。まだ、遠当てといえる場所。けど、魚雷の軌跡はユーの想定通り。タイミングも、合致。

 同時に、着水の音。空から叩き落とされたシャルンホルストは一度海中に沈み、魚雷が直撃。爆発した。

 悲鳴のような声。視れば片方の翼が粉砕されている。

「やった、です」

 けど、まだ、ユーは潜航を続ける。……苦笑。視界が元に戻って、少し思ったこと。

「れお、頑張って、です」

 少し寂しいと思ってしまった。悪い子です、と。そんなことを思った。それを隠したくて、小さく声に出して呟いた。

 

 片翼が圧し折れた悪魔。そちらに向かってマックスは全力で疾走。

 一刻も早く撃破する。ここは基地近海。レオナルドやウィリアムがいる。

 絶対に害させない、絶対に守る。そのためにも、シャルンホルストの気をこちらにひかせなければならない。

 勝てる、とは思わないけど。ビスマルクとプリンツが来るまで、足止めできればそれでいい。…………のに、

「霧っ」

 ふわり、霧が舞う。視界が、白の闇に閉ざされる。

「うそ、……見つけられ、ない」

 単装砲を持つ手に、自然、力がこもる。霧の中右往左往している間に基地が破壊された。……そんな事、絶対に、

 

 砲撃の音。

 

「つっ?」

 砲弾が叩きつけられた。

「か、…………くっ」

 砲撃主は、間違いなく、シャルンホルスト。戦艦による砲撃。

 それは、駆逐艦であるマックスにとって大破にも近い一撃。膝をつく。

「……敵、は?」

 どこ、……と、けど、白い闇の中。なにも、視えない。

 ……………………なにも、…………視え、

 

 視界が、晴れた。

 

「ん、ぁぁああああああああっ」

 震える足を叱咤して立ち上がる。らしくない、自分でもそう思う大声を上げる。

 立ち上がる。クリアになった視界の中。砲を向けるシャルンホルストがいる。

 その射線が、赤く見える。そこにいれば、自分は轟沈する。……そんな事、絶対に嫌だ。

 疾走、開始。

 霧の中、マックスは砲を構えて突撃する。砲撃の音。射線から外れる。無理な姿勢にバランスを崩しそうになる。けど、

「まけ、ないっ」

 無理矢理持ち直す。単装砲と、機銃を構える。

 《神々の義眼》が投影されている。それは、熱を持っている。

 眼が熱い。脳が炙られる感覚。……そう、投影された自分でさえ、これなら、

「レオ」

 彼は、もっと辛いだろう。けど、やめて、とは言わない。彼の負担は、戦果で応じる。

 砲撃の音。回避、回避、回避。そして、回避しながら機銃を振りぬく。斬撃のような銃撃。当然、駆逐艦の火力で戦艦であるシャルンホルストを撃ち砕けるわけがない。

 けど、それでも、

「まだ、まだっ!」

 《神々の義眼》が伝える射線を読み取りながら、踊るように回避。前進は止まらず、機銃を振り回す。シャルンホルストの体に無数の銃弾を叩き込む。

 牽制だ。それでどうなるわけでもない。けど、

「こ、のっ!」

 さらに砲撃する。戦艦であるシャルンホルストは揺るがず、砲を向ける。

 そう、それこそ戦艦の戦い方だ。絶対的な装甲で敵の砲撃をはじき返し、圧倒的な砲撃で敵を粉砕する。

 最も基本に忠実で、戦艦らしい戦い方。……けど、

「ふーん、……そう、そうよね。

 それこそが、戦艦よねっ!」

 シャルンホルストの顔、両目を切り裂くように機銃を振りぬく。

 銃弾の斬撃がシャルンホルストの両目に迫り、反射的に視線を背ける。

「そう、……そこね」

 《護りたまえ》、その祈りが刻まれた胸を、砲撃が穿った。

 

 霧が晴れていく。グラーフはそれを見て笑う。

「凄いな。駆逐艦が戦艦に一矢報いたか」

 つまり、そういう事だろう。並走するビスマルクは胸を張り「当たり前よ。マックスもレーベも、ユーも、私の僚艦なのよっ」

 だから当然だ、と。ビスマルク。

 そして、グラーフは頷く。

「先制する。ビスマルク、プリンツ、遅れるな」

「「了解」」

 グラーフの言葉に二人は頷く、そして、艦載機、そのすべてに指示を飛ばす。

 狙いは、

「全機っ! 翼を狙うっ!」

 防御をこじ開ける。本命はビスマルクの砲撃だ。それを、確実に叩き込む。

 片翼の天使。そこに向かって、艦爆、艦攻、全機発艦。

 飛翔する。その先、シャルンホルスト。

「第一次爆撃、開始っ!」

 艦爆、そのうち半分から魚雷が放たれる。シャルンホルストは翼を広げ、打ち払う。

 爆発、防御された。グラーフは笑う。狙いは「全機、爆撃っ!」

 狙いは、悪魔の、翼の付け根。もっともか細い場所。

 けど、翼が打ち上げられる。直上から叩き込まれる爆撃を、翼で打ち払う。そのために、

「まだ、だっ」

 さらに艦載機を制御、隙を見て爆撃を続けようと、艦載機を旋回させ「提督?」

 基地の、海に面した窓が開かれる。そこにいるのは、ウィリアム。

 荒い息をつく彼は、手を向ける。爆撃、それを打ち払おうとする翼を睨んで、……翼の動きが、鈍る。

 押さえつけられる。「すまないな」と、ビスマルクは呟く。

「あとで、酒でも奢ろう」

 一息。

「全機、爆撃開始っ! 提督の助力を得たんだ、絶対に戦果を出せっ!」

 吼えるような声。そして、それをかき消すように、狙い通りに叩き込まれた爆撃が悪魔の翼を吹き飛ばした。

 

『ったく、なーにが無理するな、だ。ばーか。

 なんて様だ、親友の事言えねぇな』

「うるさい、な」

 呆れた、と告げる彼にウィリアムは荒い息で応じる。

 あの翼、その動き、想像以上の出力だった。……解らなくもない、彼と同じ悪魔なのだ。そもそもただの人間であるウィリアムが太刀打ちできるような相手ではない。

 けど、抑え込んだ。結果としてグラーフの攻撃は見事に悪魔の翼を粉砕した。…………もっとも、その代償に全身がバラバラになるような痛みがあるが。

「よか、……った」

 グラーフなら当てられると思った。だからこそ、抑え込むことに全力を尽くした。

 結果は見事に成功。ウィリアムは安堵の吐息をついて、……………………がくがくと、情けなく震える膝に、力を籠める。

『おいおい、無理すんじゃねーよ。

 その体はお前のだけじゃねーんだぞ』

「黙れ、君に使われるくらいなら、死んだほうがましだ」

『やらせねーよ』

 だろうね、と。応じる。窓枠に手をかける。

『なんだよまだやるのか?』

「当たり前だ。……僕は、もう、誰も喪いたくは、」

 

 お兄ちゃん、と。声を聴いた。

 

「ないっ!」

 立ち上がる。そして、前を見据える。その視線の先、疾走するプリンツがいた。

 

「防御、喪失」

「姉さまっ、先行しますっ!

 シャルンホルストの、足止めしますっ!」

「任せたわっ」

 応じ、プリンツは疾走しながら砲を構える。そして、シャルンホルストもそれに応じる。

 砲撃の音、プリンツは右に重心を傾け回避。砲撃。

 砲弾をシャルンホルストは右に駆ける。回避。砲撃。

 砲弾はしゃがんだプリンツの髪を一筋吹き飛ばす。砲撃。

 右に回避したシャルンホルストを追撃する砲弾。けど、シャルンホルストは急停止。右腕をかする。砲撃。

 プリンツは疾走を止めない。バランスを崩すように体を傾け回避。砲撃。

 回避、砲撃、回避、砲撃、回避、砲撃。

 シャルンホルストとプリンツ・オイゲン。幸運艦と称される二艦は精密な回避と砲撃を重ね、踊るように海を駆け回る。

 もとより、幸運など存在しない。幸運艦とはかつての乗組員の実力が成しえた称号。そして、その実力は確かに二人に引き継がれている。

 故に、

「撃ちますっ!」「っ!」

 砲弾は当たらない。プリンツとシャルンホルストは高速の戦闘を続ける。……けど、

「う、……つっ」

 プリンツは息をつく。

 回避を重ねる。けど、戦艦の砲撃力はその衝撃波だけでプリンツを打撃する。

 そう、いくら回避能力は同格でも、戦艦と重巡洋艦ではそもそもの砲撃力が違う。

 衝撃波に翻弄される。……けど、

「決めたんだもん」

 だから、回避をし、急停止。

「負けないってっ!」

 そして、前に飛び出した。

 シャルンホルストはここぞとばかりに砲弾を叩き込む。

 プリンツっ! と、呼ぶ声が聞こえた。……気がした。

 大丈夫。

「負けないからね、シャルンホルスト」

 砲撃が重なる。回避、紙一重でよける。回避、髪の一部が千切れ飛ぶ。

 かすめる、姿勢を崩す。けど、立ち上がる。頭上を砲弾が薙ぎ払う。疾走。右に、左に、回避。砲弾が一秒前にいた場所を通過。停止、一秒後にいる場所を駆け抜ける。

「つっ」

 右肩を砲弾が穿つ。倒れそうになる。けど、

「まだ、……私は、沈まないからね」

 倒れない。踏みとどまる。そして、疾走。

「撃てっ!」

 砲撃。シャルンホルストは回避。そして、プリンツは砲弾を抜けた。

「これで、……終われば格好いいんだけど、ね」

 シャルンホルストはさらに砲を向ける。そして、砲撃。

 そして、プリンツは回避。……を選択しない。

「撃てーっ!」

 近接距離から、砲撃を叩き込む。砲撃直後だったシャルンホルストは直撃。そして、

「い、…………つっ」

 同様に砲撃が直撃したプリンツは崩れ落ちる。大破。……けど、その口元に笑み。

「あーあー、やっぱり、格好つかない、です」

 姉さまみたいにはいかない、と。苦笑。……だから、

「お願いね」

 ビスマルクが、砲撃距離に踏み込んだ。

 

「レオ、……君、それ」

 その光景を見たレーベは絶句した。

 力なく椅子に腰かけるレオナルド。その瞳から、煙が吹き上がる。

「……あ、…………ああ、レーベ?」

「大丈夫、……じゃない、よね」

 《神々の義眼》は酷使すれば発熱すると聞いていた。けど、まさかここまでとは思わなかった。

 おろおろするレーベ。けど、……その煙に、赤いものが混じっているのを見て、青ざめた。

「レオ君っ! 使うのやめてっ!」

 その色が血と解ったと同時、レーベは声を上げる。けど、

「そういう、……わけには、いかないよ」

 だって、

「……レオ…………君。

 どう、して?」

 そんなに、辛そうなのに、苦しそうなのに、

 …………それなのに、……どうして?

 どうして、か。

「……さあ、ね。僕もよくわからないよ。

 けど、」

 レオナルドは、辛そうな表情で、瞳から、血の混じった煙を漏らしながら、……困ったように、微笑む。

「みんなで、世界を救うんだろ?

 だから、僕は、やれるだけの事をやる。……みんなを、おかえりって言って出迎えるんだ。誰一人欠けることなく、ね」

 だから、今、辛くても耐える。その先にある、光のために、……決して、後退は、ない。

「……レオ、君」

「あはは、……ごめん、頭がぼうっとして、何言ってるかよくわからないや」

 《神々の義眼》の発熱で朦朧とする意識。だから、

「ごめん、レーベ。

 ちょっと、こっち来て」

「え? う、うん」

 ちょいちょいと手招き。そして、

「ふ、……え?」

 抱きしめられた。

「あ、…………あ、あの、れ、レオ、君?」

「ん、……ごめん。正直、意識吹き飛びそうでさ。

 誰かがいるって思うと、安心する」

 朦朧としていた頭が自分以外の存在を感じる事で覚醒していく。薄れる現実感を人の感触が引き摺り戻す。

 ここにいる。そのことを強く意識する。…………大丈夫。

 後で、死ぬほど恥ずかしい思いするだろうなあ、と。思い苦笑。

「もう一回行く。

 最後だから、へましないでよ」

 《神々の義眼》が起動。その輝きが、強くなる。

 

「…………ええ、行くわよ」

 《神々の義眼》は、彼女にそれを見せる。

 己の力と戦艦の力、その二つを振るい、契約した少女の祈りを叶える事のみを実行する、壊れた悪魔。

 そして、抑え込められた、シャルンホルストの心。

「ビスマルクっ!」

 とん、と。肩に、感触。その感触に感じたのは愛おしさで、嬉しさで、……だから。

 砲を向ける。その先に展開するのは薄い、歪み。

「狙いは任せるね。加速させるから」

「ええ、お願い」

 大丈夫、仲間たちが悪魔の翼も、霧も、打ち払った。シャルンホルストも砲撃直後に砲弾を撃ち込まれ、姿勢の制御中。回避は、ない。

 大丈夫、レオナルドが教えてくれた。砲にて撃ち抜く場所。

 大丈夫、自分を支えてくれるウィリアムがいる。その力を借りられるのなら、戦艦として撃ち抜けないものは、なにもない。

 だから、ビスマルクは告げる。

 

「終わらせるわよ。シャルンホルスト」

 

 砲撃。

 

 意識を取り戻したレオナルド。……けど、顔中が冷たい。《神々の義眼》の余熱が残る瞼は熱がとれる心地よさを感じるが。なぜか、頬や鼻まで冷たい。

「…………えー、と?」

「なによ?」

 ぶすっ、とした声で応じるビスマルク。……で、

「なにがどうなってるか、全然見えない」

「それはそうだよ。

 冷却シートが顔じゅうに貼ってあるし」

「…………どうりで、いやな冷たさがあるわけだ」

 レオナルドはげんなりと応じる。眼、だけではない。顔中に冷却シートが貼ってある。

 けらけら笑っているのはプリンツか。「似合うぞ」と、真面目な声はグラーフ。当然冷却シートのせいで視えないが、おそらく笑っている。

「似合うってなんだよ?」

「れお、無理いっぱいした、凄く、心配です。

 心配かけた、おしおき、です」

「ユーも、かあ」

 よくわからないことを言われたが、まあ、心配かけたのだから仕方ない。

「で、ウィリアムは?」

「隣で伸びてる」

「…………ああ、そうか」

 もともとここは仮眠室、ベッドは複数ある。

 視えないけど、グラーフの言葉からおそらく隣のベッドで寝ているのだろう、と判断。

「それで、……っていうか、みんな、入渠しなくて大丈夫?」

「かなりだめね」

「さっさと入渠して来いよっ!」

 あっけらかんと応じるビスマルクに怒鳴るレオナルド。そして、べし、と叩かれた。

「無理して倒れた提督とレオを放っておけないわよ」

「…………ああ、うん、ごめん」

 不機嫌そうなマックスの声にレオナルドは沈む。……ため息。

「けど、それは僕たちもだよ。

 こっちは大丈夫だから、みんなも入渠してきてね」

 

 で、ビスマルク、プリンツ、グラーフ、レーベ、マックス、ユー、と。全員で入渠。

 全員、……と。

「何膨れてるのよ。シャルン」

「…………別に、膨れていません」

 入渠のための浴場。その隅に新しく加わった、白い髪の少女。

 シャルンホルスト。……彼女は溜息。

「まあ、……感謝しています。ちょっと恨んでいます。けど、」

「感謝はともかく恨まれるのか?」

 悪魔に抑え込まれた彼女の心を、悪魔を払ったことで解放した。それで感謝されるならともかく、だが。

 グラーフの問いにシャルンホルストは複雑な表情。

「…………結果はいきすぎだけど、それでも、私の事を好いてくれて、守ってほしい、っていう祈りの形を壊されたのです。

 八つ当たりくらいはさせてください」

「……こっちも生き残るために必死だったの。

 恨まれる道理はないわよ」

 その祈りの言葉、それを穿ったマックスは視線を背ける。「わかっています」と、シャルンホルスト。

「もう、みんなを、攻撃したりしない、ですか?」

 警戒する猫みたいな表情のユー、シャルンホルストは困ったように「しませんよ」

 応じる。元より戦うつもりはない。……ただ、自分を守ってほしいという少女の祈りが心地よく、そこに身を委ねていただけ。

「それで、あの、深海凄艦は?」

 レーベはおずおずと手を上げる。「深海凄艦?」と首を傾げるシャルンに、グラーフは「洋上基地で作られた、あの、理性のない者たちだ」

「ああ、……あのかわいそうな子たち。

 ええ、みんな、あの青い炎に焼かれました」

 シャルンホルストは俯く。……目に焼き付いて、離れない。あの光景。

 青い、青い、神々しいほど恐ろしい、青の炎。

「あれ、なんなのです?」

 問われ、ビスマルクたちは沈黙。何と答えるべきか、…………「悪魔よ。あなたに憑いていたのと、同じね」

「どこに、いますか?」

 警戒の言葉。……悪魔、と、その存在はシャルンホルストも無視できない。

 対して、

「そうね。……もう、どこにもいないわ」

 ビスマルクは、祈るように告げた。

 

 入渠を終えたビスマルクたちはウィリアムとレオナルドのところへ。

「えーと、……あはは、なんていうか、ごめん」

 目が覚めたらしい。ベッドでぐったりしているウィリアム。連続行使した超能力はウィリアムに相応の負担を与え、結果、要安静。

 プリンツは頬を膨らませて、

「謝るくらいなら養生しててくださいっ!」

「…………はい」

 ぐうの音も出ない。……けど、

「みんなが無事でよかったよ」

「そうだね」

 レオナルドも微笑み応じる。……それを見て、皆は深く一息。そして、

 大切な人の言葉。

「「おかえり」」

 その言葉を聞けて、

 

 レーベは安堵で崩れ落ちそうになる。

 マックスは何か言いかけ、……口を開かず、ただ、微笑む。

 ユーは、つと、零れそうになる涙を精一杯こらえる。

 プリンツは満面の、見たい事もないほど華やかな笑顔。

 グラーフは頷く、戻ってきたと、そう実感したから。

 そして、ビスマルクは口を開く。……それは、みんなで重ねる言葉。

 

「「「「「「ただいま」」」」」」

 

 艦隊が帰投しました。

 




 シャルンホルストの口調は完全に捏造です。
 もし、あとで艦娘として実装されたとき、全然違うと怒らないでください。
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