「では、レオナルド君。
健闘を祈る」
クラウスの差し出した拳に、レオナルドも拳を当てて応じる。
空港にある小型の旅客機。最後まで見送ってくれたクラウスに軽く手を振り、搭乗。
カルツは操縦席のほうに向かった。そして、
「それじゃあ、僕、着替えてくる」
「そのままでもいいと思うよ」
搭乗して、早速そそくさと席を立つウィリアムにレオナルドは応じる。振り返り、少し渋い表情で「いい、着替える」
「えー、似合ってるのに、そういう格好も、凛々しくて素敵よ。提督」
艶やかな笑顔で素敵と言われ動きを止め、
「うっ、…………い、いい、着替えてくるっ!」
吹っ切るように奥へ。「残念ね」と、ビスマルク。
「さて、改めて私はビスマルクよ。よろしく。……ええと、レオナルド、ね?」
「うん、レオナルド・ウォッチ。レオでいいよ。まあ、ライブラの端くれ、それと、ブラックの友達」
レオナルドの言葉にビスマルクは不思議そうに首を傾げた。
「ブラック? それ、提督のことよね?」
「…………ブラック、提督なのか。…………あ、っと、そうだよ」
なぜか、頬を膨らませるビスマルク。
「愛称、よね。
もう、ひどいわ。なんで提督は教えてくれないの?」
それはたぶん、……頭によぎる彼女。
たぶん、ブラックの片割れは、いないから。
「それにしても、レオね。……ふうん」
「え? なに? ブラック、何か僕のこと言ってた?」
興味津々と、値踏みするような視線。変なこと言ってたら後で問い詰めよう、と。その視線を受けて決意。
「僕たちのヒーロー、だって」
「…………なんでだよ」
決意して、予想の斜め上を行く言葉に、条件反射の言葉。ビスマルクは立ち上がる。
「そうよっ、提督のヒーローは私よっ!」
まあ、確かに格好いい女性だし、ヒーローとか似合うなあ、と。現実逃避気味に考えたレオナルドは、びしっ、と指さされ、
「だから、負けないわっ!」
「はああっ?」
「どっちが提督のヒーローにふさわしいか、勝負よっ!」
「あ、僕。全面降伏します」
速攻で白旗を上げた。
「一秒で全面降伏っ? 潔すぎるわよっ!」
「いや、僕、戦えないし」
「じゃあなんでヒーローなのよっ!」
「僕も知らないよっ!」
「…………何言ってるの?」
不思議そうな顔でウィリアムが戻ってきた。レオナルドはため息。「なに、ヒーローって?」
「ああ、」ビスマルクたちに話していたこと「いいじゃないか、第二次大崩落を止めたヒーロー、ってことで、格好いいと思うよ。トータスナイト」
「亀って言うなよ」
ケラケラ笑いながら言われてレオナルドは肩を落とす。「英雄で騎士、……強敵ねっ!」と、意味不明な闘志を燃やすビスマルクはとりあえず無視。
ウィリアムはレオナルドの正面に腰を下ろし、一息。
「それにしても、提督か。
ブラックこそすごいじゃないか」
「凄くないよ。術師だからってだけだし、便宜的な呼び名でしかないし。…………女の子を戦わせて、後ろで偉そうにして待ってるだけだし、……正直、情けないし」
「それ、僕もだよね」
ずーんとへんこむウィリアムと、あまりにも慣れた感覚の再来を予見して肩を落とすレオナルド。
そして、そんな二人の仲のいい姿にむくれるビスマルク。
「いいのよっ。提督は私たちのことを待っていて出迎えて褒めてくれれば、それでいいの。それで十分よっ!
大丈夫っ、いつだって私たちは頑張って戻ってくるわっ」
「うん、ありがと。ビスマルク」
彼女の言葉に柔らかく微笑んで応じるウィリアム。ビスマルクは少し顔を赤くして、胸を張る。
「はは、……まあ、そういうこと。
僕もできるだけのことはするから、お互い、頑張ろうな」
「うんっ」
笑顔で言葉を交わす二人。そして、ビスマルクは相変わらずむくれた。
「これは、……強敵登場ね」
「え? なんの?」
レオナルドはビスマルクから謎の敵意を受け少し離れる。ウィリアムは首をかしげて、
「なんていうのかな。……妖精さんと話ができるのは交霊ができる術師だけなんだ。
それで、……あとは、まあ、…………た、たまたま?」
「うそつけ」
レオナルドは即座に応じる。ドイツの海軍はこの事態を重く見ていた。その最前線に立つ提督を、たまたま、で選ぶとは思えない。
ついでに言えばビスマルクと何かあったのかな、と予想も出来る。彼女はウィリアムに好意を向けている。なにか、あったのだろうから。
「もう、提督。たまたま、なわけがないじゃない。
レオ、提督は私たちのことを救ってくれたのよ。だから私は彼に命を預けることに決めた。私たちは彼を信頼するって決めたの。だから、提督なのよ」
少し膨れてビスマルク。胸にある大切な思い出を、たまたま、程度の言葉で語られたくない。
その時の事、言葉を尽くして話そうとビスマルクは口を開こうとして、
「ま、けどそういう事ならいいや。
よろしくね、提督」
「いいんだ」
あっけらかんと告げるレオナルドにウィリアムは苦笑。口を開きかけたビスマルクは固まる。
「少なくとも、ビスマルクさんには信頼されてるみたいだし、それが分かれば十分だよ。
僕も下っ端だからなんとなくわかるんだ。提督だろうと何だろうと、この人の力になりたいって、そう思ってもらうことが大切なんじゃないかな?」
そんなものかな、と首をかしげるウィリアム。そしてビスマルクは頷く。
「そうよっ、私は身も心も、提督に捧げたのよっ!」
「うわっぁあああっ! な、いきなり何を言い出すのっ?」
あんまりな言葉にウィリアムは悲鳴を上げ、ビスマルクは胸を張る。
「…………あ、……ああ、うん。
そういうの、僕は、……まあ、凄いと思う、よ?」
「引いてるよねっ、レオナルド、いますっごい引いたよね?」
「ええと、ビスマルクさん。
その、……何かあったときは僕、隅っこにいるからっ!」
「気が利くわね」
「何かって、なに?」
「頑張ってね。提督」
「…………そうだね。頑張るよ。英雄」
しばし、視線を交わして、
「頑張ろうな。ブラック」「そうだね。レオナルド」
「ねえ、提督。さっきから気になってたんだけど、ブラック、って、提督のことよね? 愛称?
どうして私たちに教えてくれなかったのよ?」
「えと、……それは、」
どうしてか、ウィリアムは言葉に詰まる。あまり、意識していなかったけど。
まだ、やっぱりホワイトの事、引きずっているな、と。
十字架のネックレスに触れる。ブラック・アンド・ホワイト、……半身のいなくなった自分。
それを意識してしまうからだろうか、無意識に避けていた。ビスマルク以外のみんなにも、妹の事はほとんど触れていない。ただ、第二次大崩落で命を落とした。と告げただけ。
彼女については、何も話していない。
言葉に詰まるウィリアムを視界に収め、レオナルドは微笑。
「提督ってのも十分愛称みたいなものだし、それでいいんじゃないかな?
僕が持ってない、君だけの愛称ってね」
彼が持っていない自分だけの、……と。
「そ、そうねっ! いいこと言うわねっ!
ふふんっ、提督を提督って呼ぶのは私たちだけよっ! レオっ!」
なんとなくフォローしてみたら思った以上に食いついた。上機嫌に矛を収めたビスマルク。
「あ、うん、……たち?」
勢いに押されるように頷き、ふと、引っかかった言葉。ああ、とウィリアムは頷いて、
「基地に到着したら紹介するよ。
ビスマルクのほかにも何人かいるんだ」
海岸にある海軍基地。頑強な鉄扉と塀に囲まれた広い建物。
「へー、ここか」
「責任者はウィリアム君になっている。連絡先については彼に教えてあるよ。
ええと、レオナルド君、車の運転はできるかい?」
カルツの問いにレオナルドは頷く。「まあ、普通程度には」
さすがに、ライブラのコンバットバトラーと比較すれば雲泥だが。普通に道路を運転する分には問題ない。
「そうかい、それならよかったよ。ここに車もあるから、……そうそう、それを含めて、基地にある物は好きに使っていいよ。
私たちとの連絡先はウィリアム君に教えてある。LHOSのもね、ここの長はウィリアム君だから彼から話を聞くといいよ」
「あ、ありがとうございます」
ふぅ、とカルツは一息。そして、あたりを見る。
「さて、レオナルド君。
君への報酬だが、何を望むかい? 我々で、出来ることは叶えよう」
「じゃあ、LHOSに、この、義眼についての検査をお願いしてください」
ふむ、とカルツは頷く。LHOSはライブラ同様に国家になびく機関ではないが。
とはいえ、意思を通すことはできる。術師、というのは普通の人から見れば十分に異端で、迫害の対象になる可能性は高い。
さらに言えば慢性的に人材不足だ。特に、HLに多くの人員を割かなければいけないため、人材不足は深刻で、故に、常に優秀な術師の捜索には気を配ってきた。
術師の保護、および捜索に国家ぐるみで協力をする。その見返りなら大抵は通る。伝え聞く《神々の義眼》の検査情報は喉から手が出るほど欲しい。悪い事は、一つもない。
《神々の義眼》、その言葉を意識し、カルツは頷く。
「詳しくは聞かない。どんな検査が必要かは、君が直接話してほしいなあ。
それでいいなら、わかったよ」
「ありがとうございます」
謹直に頭を下げるレオナルド。
「じゃあ、私は海軍本部に戻るよお。吉報を早く伝えたいからね。
補佐程度で申し訳ないが、何かあったら遠慮なく連絡しなさい」
「はい。全力を尽くします」
謹直に応じるレオナルドに、カルツは好ましそうに目を細めた。
「……では、健闘を祈るよ」
カルツと別れ、レオナルドは改めて基地へ。
「ビスマルクさんは?」
「先に戻ってもらったよ。ほかの娘たちを執務室に呼んでもらったんだ」
「そっか」
頷き、レオナルドはあたりを見回す。
「さすが、広いな」
「あはは、そうだね。最初見たとき僕も驚いたよ」
建物は二つ。大きな建物が目の前に一つ。そして、それより小ぶりな建物が一つ。
そして、小さな建物の正面には車庫か、あるいは倉庫か。
「正面が本部。僕たちから見て左にあるのが寮だよ。まあ、僕たちが入ることはないと思うけどね」
「そうなの?」
寮、生活の場。そこで暮らすのかと思ったが。
レオナルドの疑問にウィリアムは苦笑。
「まあ、生活したいならそれでもいいけど。
けど、ビスマルクと、あと、ほかの子たちがそこで暮らしてるから、ちょっと居づらいと思うよ」
「…………その、子たちって、女の子?」
問いに、ウィリアムはレオナルドの手を取る。彼は笑顔。
「君が来てくれて、本当によかったよ。
女の子六人で僕一人が男なんだ。正直、すっごく居た堪れないときあってさ」
「……え、その男女比率は僕もきつい」
「だよなー、まあ、そういうわけで女の子が寮を使ってるんだ。
本部にも仮眠室、みたいな部屋がいくつかあるから、僕はそっちを使ってる。レオナルドが寮がいいっていうなら、……僕が説得するよっ!」
いい笑顔でレオナルドの肩を叩く。レオナルドは全力で首を横に振る。
「軒先でいいから勘弁してください」
「わかったよ。案内はみんなと会ってからでいいよね?」
「ああ、お願い」
「それじゃあ、まずは執務室に向かおうか」
「……は、華やか、…………だね」
「あ、あははは」
同感なウィリアムは苦笑。執務室。デスクへの通路を挟んで六人の女性がいる。
その中で、デスクに一番近いところに立つビスマルクが前へ。
「提督、言われた通りみんなを集めたわ。さあ、感謝しなさいっ」
「あ、うん、ありがと、ビスマルク」
感謝の言葉を聞いてビスマルクは笑顔。
「おかえりなさいっ、兄さまっ」
「ただいま、プリンツ」
「提督、この人が新しい仲間?」
一番手前にいた少女がおっとりと首をかしげる。
「ふぅん、まだ若いのね。
提督と同じ年くらい? ふーん」
「あ、……えーと」
集まる視線にレオナルドはどうしたものか、と思って、苦笑。
「そうだよ。みんなには話したよね。レオナルド、僕の友達だ」
「ほう、彼がか。……意外だな。
提督の言からもっと頑強な男を想像していたのだが」
「……ブラック、君は僕をどう紹介してたんだ?」
「いや、ありのままに言っただけだよ」
「すっごい誇張を感じるんだけど?」
「えっと、……HLの危機を救った英雄って、提督は言ってたよね」
「いや、そんな大仰なことしてませんけどっ?」
なんてこと言ったんだ、と。そんな視線を傍らの親友に向ける。彼は曖昧な笑み。
「そのまんまなんだけどなあ」
けど、
「えっと、ぐーる? だっけ? なんかそんな怖い化け物をちぎっては投げちぎっては投げ、古今無双の活躍をした、って」
「ブラックーっ!」
傍らにいる親友の襟首をつかんでがくがく揺さぶる。ウィリアムはがくがく揺さぶられながら「いや、……ごめん、ちょっと冗談言ったり」
「そういう変な期待をかけるような冗談はやめろよなっ!」
「あはは、ごめんごめん」
「まったく、ブラックがなんていったか知らないけど、僕はほかの人より目がちょっといいだけの、普通の人だから」
「普通の人がこんなところに来るわけがない。
中将や提督が君の能力を高く評価していた。ともに戦うのなら正確な情報を教えてほしい」
「……はい」
正論にレオナルドは苦笑を返すしかない。ウィリアムも同様。けど、
口には出さない。それでも、
たとえ、万人が否定しても、君自身が否定しても、僕は君のことをヒーローと思っているよ。と、内心だけで呟いた。
執務室奥のデスク、その前で、
「それじゃあ、改めて紹介しようか。
レオナルド、彼女たちがビスマルクと同様、深海凄艦と戦う娘たちだよ。みんな、彼はレオナルド・ウォッチ。例の洋上基地を探すのを伝ってくれる、HLから来た協力者だ。……ええと、その能力については演習の時、見てもらえばいいかな? それが一番確実だと思う」
ウィリアムの言葉に少女たちは頷く。レオナルドも「レオナルド・ウォッチ。レオでいいよ。よろしく」と、応じ、
「グラーフ・ツェッペリン級航空母艦一番艦、グラーフ・ツェッペリンだ。
君の能力には興味がある。よろしく頼む」
「はいっ、プリンツ・オイゲン。アドミラル・ヒッパー級三番艦です。
幸運艦、なんて呼ばれてる重巡洋艦ですっ、よろしくお願いしますっ」
「私は駆逐艦、マックス・シュルツよ。
マックス、でいいけれど、よろしく」
「僕の名前はレーベレヒト・マース。レーベでいいよ。よろしくね」
「潜水艦U-511です。ゆーとお呼びください。よろしくお願い致します」
「そして、私がこの艦隊の旗艦。ビスマルク級超弩級戦艦のネームシップ、ビスマルクよ。
レオ、貴方には負けないわっ!」
「あ、……うん。僕はたぶん勝てないと思う」
びしっ、と指を突きつけるビスマルクに両手を上げて応じるレオナルド。プリンツは首をかしげて「姉さま、レオ君がどうかした?」
「提督とずいぶん親しいようだな。
それが面白くないのだろう」
そっけなく、けど、意地悪い横目でグラーフが告げる。ビスマルクは胸を張って「提督のヒーローは、この私よっ!」
「うん、提督。すっごく楽しそうにレオのこと話してた」
マックスが追従して頷く。プリンツは、はっ、として、
「ライバルねっ! 兄さまは渡さないわっ!」
「いや、渡すって、なんの話をしてるの?」
びしっ、と指を突きつけるプリンツ、ビスマルクは感慨深そうに頷く。グラーフは懐から一冊の薄い本を取り出した。
「こういうものだろう」
「それ、どこから出したの?」
ともかく、レオナルドとウィリアムはグラーフの取り出した本を見る。…………「レオナルド」
半裸の美青年がきらきらとした輝きの中抱き合うその表紙を見て、ウィリアムは厳かに告げた。
ちなみに、興味津々と身を乗り出すプリンツの傍ら、ビスマルクは顔を赤くしてちらちら視線を送っている。レーベとマックスは気まずそうに視線をそらし、ユーは首をかしげる。
ともかく、レオナルドはウィリアムの言葉に頷く。心の中で、妹に土下座した。
ミシェーラ、君の光を奪って得たこの目を、自分の都合のために使わないようにしてきた。けど、ごめん。兄ちゃん。これは我慢できないよ。
厳かに、《神々の義眼》を起動。探すものはグラーフの持っている本と同じような本。見る先は寮。
「二階、一番南の部屋。床下に十冊、ベットの枕元に一冊。押入れに、一束」
「なっ、……馬鹿なっ?」
「グラーフ、……いえ、グラーフ姉さまっ!
プリンツに、一冊、……一冊でいいから、くださいっ!」
「何を言うかっ! これは日本から仕入れた貴重な物資だぞっ!
これを受け取るのに、どれだけの犠牲を払ったと思っているんだっ!」
「そんなもの仕入れるなーっ!
ってか、大丈夫か日本」
「ね、……ねえ、グラーフ。
その、…………お、置き場に困ってるなら、何冊か、私の部屋においても、いいのよ?」
「兄さまとレオ君、…………あ、ちょっと、いいかも」
「だ、だめよっ! 提督は渡さないわっ!」
うっとりとしたプリンツの言葉にビスマルクは反射的に怒鳴る。レオナルドとウィリアムは視線を交わし、頷きあい。
「「没収っ!」」
「なん、……だと?」
愕然と呟くグラーフ。その傍ら、
「…………いま、とんでもないことをやった気がしたんだけど、気にしなくていいのかな?」
「だめ、だと思う」
ボケるキャラが欲しかったのでグラーフ氏に犠牲になってもらいました。
これからもたまに淡々と変なことを言ったりしますが、よろしくお願いします。