トータスナイトが基地に着任しましたっ!   作:林屋まつり

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二十話

 

「…………そう、それじゃあ、作戦は完了だね」

 シャルンホルストの言葉を聞いて、ウィリアムは頷く。

「ええ、……そう、なるわね」

 ビスマルクは応じる。その声音には、どこか、寂しそうな響き。

 そう、これで、終わり。……ウィリアムはその意味を理解し、けど、

「中将には僕が連絡しておくよ。みんなは、入渠は済んだみたいだね。……ええと、シャルンホルストの部屋、見繕ってあげて。

 中将から話があったら夕食の時に伝えるから、あとは自由にしてていいよ」

「ええ、わかったわ」

「二人も、ゆっくり休むと、…………」

 不意に、言葉を止めるグラーフ。ウィリアムは首を傾げて「どうしたの?」

「ああ、……そうだ。二人とも、ゆっくり休むといい。

 夕食は、私たちで準備をしよう」

 その言葉に、場が固まった。

「え? ど、どうしたのです?」

 シャルンホルストが首を傾げる。むんっ、と拳を握るユー。

「ゆー、お料理、初めてだけど、頑張ります。

 提督と、れおに、美味しいの、作ります」

「ああ、期待してるよ。ユー」

 微笑むレオナルドにユーは頷く。「頑張りますっ」

 そんな微笑ましい光景の傍ら。

「…………提督に、手料理、……ふ、ふふふふ」

「……えーと、ビスマルク?

 ちょっと怖いですよ?」

 慄くシャルンホルスト、その視線の先、ビスマルクは微笑んでいた。

 

「……と、いう事です」

 ウィリアムはカルツを相手に、一通りの報告を終える。

 いくつかの相談と言葉を交わし、最後に、

『そう、…………かい。

 そうか、……うん、わかったよお』

「えと、中将?」

 言葉に詰まりながらの返事にウィリアムは首を傾げる。苦笑。

『なに、思っていたよりずっと早く終わってねえ。

 うん、本当にありがとう。こちらでまた無人の偵察機を飛ばして確認をしてみるよ。念入りにやりたいから、明日は一日、ゆっくりしていてほしいなあ』

「あ、ありがとうございます。

 基地にいたほうがいいですか?」

 みんなと一緒に遊ぶ約束をしていた。そう思っての言葉。対して、

『近海にはいなかったのだろうし、大丈夫だよお。

 まあ、近くの町に行くくらいならねえ。……さすがに、観光は、……ううん、勘弁してほしいなあ』

「あ、いや、そこまではいいですけど」

『そうかい? 君たちなら、……おーうい、ウィリアム君たちがドイツ一周旅行したいって言ってるけど、ガイドしたい人はいるかー? ……おおう』

「いや、中将。さすがにそこまで暇じゃないでしょ」

 ドイツ一周旅行って、と。突っ込むウィリアム。対して、

『いやあ、みんな我先にと手を上げて、計画立て始めたよお』

「…………いや、いいです」

『念のため、っていうだけだからねえ。

 一応、いろいろ話を通してみるけど、まあ、明日は休暇だと思って羽を伸ばすといいよ。……ただ、ふぅむ』

「中将?」

『いやあ、パーティーの準備がなあ。

 ほら、会場確保で、政治家のお偉いさんたちをきょ、……説得していてなあ』

「きょ? ……あの、中将、きょ、なんですか?」

『いいかい、ウィリアム君。私たちは、軍人なんだよ』

「何やろうとしてるんですかっ?」

『はっはっはっ、まあ、楽しみにしていて欲しいなあ。

 偵察で何もなければ、明後日、正午くらいに迎えに行こう。まあ、安心していいよお。ウィリアム君、私たちは軍部だからねえ』

「パーティー会場の確保で軍部だから安心しろって、かえって安心できないんですけど」

 なにやる気だこの人は、と慄くウィリアム。カルツはけらけらと笑って、

『レオナルド君にも、彼女たちにも、言いたい事はたくさんある。

 けど、それはパーティーの時に、だから、それまではゆっくりとしていなさい』

「はい、わかりました」

 頷き、通話を切る。……で、

「終わった?」

「ああ、終わった」

 ぽてん、と。寝転がる。視線を向ける。そして、

「やったな」「ああ、頑張ったね」

 拳を重なる。そして、声。重なる。

「「戦友」」

 なんて言ってみて、…………笑う声。

「くく、……な、なんだよ戦友って、戦ってねーし」

「そうだよなあ。ここで待ってただけなのになー」

「ブラックはいいじゃないか、超能力で大活躍。

 僕なんて見てるだけだったし」

「そんなもんでしょ、今更戦ってほしいなんて誰も思ってないって、トータスナイト」

「うわ、ひでー

 っていうか、戦うこと期待されてないナイトってなんだよ」

「新しいね」

「うるさいなー」

 と、言葉を交わして、…………不意に、

「くっ、……ふふっ」「ぷっ、……ははっ」

「「はははははっ」」

 示し合わせたように、二人、笑った。笑って、……ウィリアムは、笑いながら、

「ああ、これでまた、世界を救えたのかな」

「救世主は女の子だけどな。

 僕たち見てるだけだし」

「格好つかないなー」

 笑いながら二人は言葉を交わす。不意にこみ上げる衝動。それに任せて、二人は暫く笑い転げていた。

 

 笑いながら、ウィリアムは小さく呟く。思い描くのは、最後に自分の背中を押してくれた、大切な彼女。

 君が守ってくれた世界を、僕も守る事が出来たよ。と。

 

「体は大丈夫ですか?」

「あ、……ええと、シャルンホルスト?」

 ひょい、と顔を出したのは白い少女。シャルンホルスト。

「シャルン、でいいですよ。

 ええ、改めて、こんにちわ。レオナルドさんと、ウィリアムさん、でいいですか?」

「レオでいいよ」「ウィルでいいよ」

 重なった言葉に、レオナルドとウィリアムは顔を見合わせ、……気まずそうに逸らした。

 くすくすと、微笑。

「二人の事はビスマルクたちから聞いています。

 とても素敵な人、と」

「……私見がかなり混じってると思うよ」

 素敵、と言われて困ったように応じるレオナルド。シャルンホルストは肩をすくめて「ええ、そうでしょうね」

 彼女たちからの意見で二人について判断をするつもりはない。

「海軍にはなんと説明しましたか? 私について」

 あの霧の発生。そして、深海凄艦が暴れていた理由は自分にある。解体も、ありえる。

 問いにウィリアムは肩をすくめて「悪魔に憑かれてた。ってね」

「そうですか。……そう、ですね」

「不満?」

 ウィリアムの問いに、シャルンホルストは苦笑。どこか寂しそうな笑みで、

「形はどうあれ、私を守ってほしいと、その祈りの結晶ですから」

「そう」

 ともかく、シャルンホルストは軽く首を横に振り、

「それで、海軍は?」

「ビスマルクたち同様の軍属、っていう事になるみたい。

 まあ、おそらくはビスマルクの部下だね」

 カルツから、当面はビスマルクを長として一つの部署を作ると聞いている。シャルンホルストもそこの所属になるのだろう。

「そうなりますね」

 ほう、と一息。

「まあ、今日明日はここでゆっくりしてて、明後日、……海軍の人に紹介することになると思うから。それ以降は、海軍の指示に従ってもらう事になるよ」

 それ以降、……それは、ウィリアムもわからない。

 それ以降は皆、海軍の所属となる。自分は任務完了としてLHOSに戻る。

 カルツは出来る限り自分を引き続き派遣するようにLHOSに掛け合うと言っているが、LHOSは人手不足だ。そうそう都合よくいくかはわからない。

「そうですか」

 少し表情が明るくなるシャルンホルスト。いきなり一人で放り出されることにならず安堵。

 シャルンホルストはそのまま室内を見回す。奥にあるデスクから椅子を引っ張り出して座る。

「今のうちに、いろいろ教えてもらえませんか?

 ビスマルクたちは、なぜか料理に集中して話をしてくれないのです」

「あー」

 そういえば、そんなこと言ってたな、とレオナルド。仕方ない。

 自分たちもやる事はない。起きて、料理の手伝いに顔を出せば追い返されるのは確実で、だから。

「いいよ。それじゃあ、ゆっくり話をしようか」

 知っておいた方がいい事、話しておいた方がいい事はいくらでもある。

 だから、レオナルドは口を開いた。

 

 館内放送が響く。

「あ、……と、もう夕食時だね」

「ビスマルクさんたちが作った料理か」

 楽しみだね、と微笑むレオナルドに頷くウィリアム。

「ずいぶん気合が入っていましたからね。……ふふ、女の子ですからね」

「シャルン?」

 意味深に微笑むシャルンホルストに、不思議そうに声をかけるウィリアム。シャルンホルストは首を横に振る。

「では、行きましょう」

 そういって歩き出した。ウィリアムとレオナルドは一度顔を見合わせる。

 三人はそのまま食堂へ。そこで、

「「おお」」

 思わず上がる驚嘆の声。

「どうっ! みんなで腕によりをかけて作ったわっ!

 たくさん食べていいのよっ!」

 むんっ、と胸を張るビスマルク。彼女の示すテーブルにはずらり、並べられた料理。

 それぞれの席にはスープとパンがあり、あとは、国柄か、肉料理が中心。

 ソーセージや鶏肉の揚げ物、豚肉を使った煮込み料理。ジャガイモなど、野菜を使った料理もある。

「うわ、ボリュームありそう」

 ずらり、並んだ料理に思わず呟くレオナルド。基本、貧乏な彼はこれだけの料理を見る事はほとんどない。

 マックスは頷く。

「珈琲でお腹を満たすようなレオには、これくらいがちょうどいいわ」

「……れお、かわいそう、です。

 あの、ゆーもがんばりました。だから、たくさん食べて欲しい、です」

 意地悪く笑うマックスと真剣に同情するユー。レオナルドは俯く。

「…………僕、貧乏なんだ」

「そんな、切実そうに言わなくても、……っていうか、ライブラってそんなお金もらえないの?」

「ああ、……いや、それは、」

 お金がもらえない。のではない。

 ギルベルトやクラウスからも活動資金の増額を提案されたし、スティーブンからも勧められた。

 …………けど、

「まあ、僕はまだ半人前だからね」

「そんなもの?」

 首を傾げるウィリアム。そして、レオナルドは自分の眼に触れる。

 ライブラに所属している理由は、悪く言えば彼らを利用するためだ。

 妹の視力を取り戻す。その方法を知るためにライブラにいる。そのことは皆知っている。知って、その願いを尊重してくれている。

 けど、それでも、そんな自分の都合で押し掛けて、それなのに特別扱いでお金をもらうなんて、誰に許されても、自分が許せない。

 だから、

「そんなものだよ」

 ふぅん、とウィリアムは首を傾げた。

「れ、レオ君っ」

「ん?」

「あ、あの、このトルテ、ぼ、僕が作ったのっ!

 た、食べてくれる、よね?」

 レーベが両手で持つお皿にはザッハトルテ。

「へえ、美味しそうだね。

 うん、もちろん食べるよ。ありがとね、レーベ」

 にっこりと笑うレオナルドに顔を赤くするレーベ。……は、押しのけられた。

「レオ、私も作ったわ。

 もちろん、食べてくれる?」

「あ、ああ、うん」

 ずずい、と前に出たマックスが持っているのはキルシュトルテ。それを持つマックスから妙な迫力を感じてレオナルドは頷く。

 そして、

「では、私が焼いたこれも完食しろ」

「んなに食えるかぁぁあっ!」

 一抱えのケーゼトルテを示し命じるグラーフに怒鳴るレオナルド。無理だ。

 怒鳴るレオナルドの横を抜けてウィリアムは適当な席へ、そして、待ってましたとばかりにビスマルクはグラスをもって隣へ。

「提督は、麦酒? それとも、ワイン?」

「ウィスキー」

「……………………」

 というわけで、それぞれの席に酒が並ぶ。……もっとも、ユーは酒は飲めないとジュース。

 用意されたジョッキにウィスキーを注いだだけで準備完了のウィリアムに戦慄するビスマルク。

「に、……兄さま、その飲み方は、男らしすぎます」

「そうかな?」

「ブラックって酔っぱらったことある?」

「いや、ないよ」ウィリアムは軽く頬を掻いて「情けない話さ。ほら、酔っぱらうと何するかわからないって言うよね? それで超能力が暴走とか、そういうのが怖くて控えてたんだ」

「……………………ああ、まあ、そうだね。飲みすぎはよくないね」

「だよなー」

 頷くウィリアムの眼前には大ジョッキに注がれたウィスキー、大丈夫かこいつ、と。レオナルドは本気で思ったがとりあえず口を噤む。

「そうか、……酔っぱらった提督か。どうなるのだろうな。

 脱ぐか、キスでもするのか」

「ああ、有名な酒癖だよねそれ」

 悪い方で、と、同意するレオナルド。

「提督」

 据わった眼差しでウィリアムを見るビスマルク。

「な、……なに?」

「もっとお酒を飲みましょうっ!

 私、最後まで付き合ってあげてもいいわよっ!」

「だ、……だめですっ!」

「むぎゅっ」

 ずずい、と迫るビスマルク。対して、プリンツはウィリアムを抱き寄せる。抱きしめる。

「私、決めましたっ!

 兄さまにとって一番になるってっ! 姉さまもにもレオ君にも負けませんっ!」

「ちょ、どういう意味で僕とビスマルクさんが同列に比較されてるんだっ?」

 友人、というカテゴリならいい。ウィリアムは大切な親友と思っているのだから。

 けど、それ以外の可能性を考えれば口を挟まずにはいられない。…………無視されて肩を落とした。

「むー」

 で、妹分からの予期せぬ宣戦布告にむくれるビスマルク。相変わらず窒息しそうになりぺちぺちと力なくプリンツを叩くウィリアム。

「賑やかですねえ」

 そんな光景を見ていたシャルンホルストは苦笑して呟いた。応じるのはグラーフ。彼女はワインを軽く揺らして、

「大体こんな感じだ。

 楽しくて、私は好きだぞ」

「この場所が?」

 シャルンホルストの問いに、グラーフは頷く。

「そうだな。得難い僚艦たち、それに、」

 ふと、彼女は言葉を止める。小さく笑う。

「ああ、私は、レオも、提督も、大好きだっ!」

「ぶはっ?」「ふぇっ?」

 プリンツの胸から解放されたウィリアムと麦酒を注いでいたレオナルドが噴き出す。集まる視線にグラーフは不敵に笑う。

「ゆーも、提督とれおの事、大好きです。

 グラーフと一緒、です」

「ああ、そうだな」

 穏かに笑顔を交わす二人。……そして、得難いと称したほかの僚艦たちから集まる穏かなならざる視線。

「楽しいというか、…………まあ、楽しいのでしょうね」

 シャルンホルストは微笑。確かに、これは楽しそうだ、と。

 ともかく、威嚇と牽制を交わす彼女たちをレオナルドとウィリアムは必死に宥め、では、改めて、

 乾杯っ! と、声が重なった。

 

「うむ、……ん、美味しいよ」

「そ、……そう、……ん、嬉し」

 マックスは自分で作った鳥の揚げ物を食べてもらって、その感想に微笑む。

 美味しい、そういってくれるのは、すごく嬉しい。

「これ、マックス作ったんだ。

 料理、上手なんだね」

「……初めて、なんだけど。

 あんまり自信なかったけど、レオに喜んでもらえたなら、よかったわ」

「へー、初めてなんだ。

 凄いな」

「レオになら、毎日でもいい、けど」

「ん?」

 小さく呟かれた言葉。揚げ物をナイフで切り分けていたレオナルドは聞き逃して顔を上げる。

「……何でもないわ。

 ね、レオ、HLってどんな料理があるの?」

「ああ、…………クラムチャウダー? に、客が食われてたよ」

「…………え?」

 きょとん、とするマックスにレオナルドは真面目な表情。

「クラムチャウダー? から何か、口みたいなのが出てきて、それが客を食べてた」

「それ、料理じゃないと思うわ」

「ごもっとも、……ま、そういう一部のゲ、……キワモノ料理を除けば、ハンバーガーとかが多いかな、あんまり郷土料理とかはなかったと思うよ」

「ふーん、……そう、じゃあ、レオの好きな「レオ君っ」」

「っと、わっ?」

 のし、と、レオナルドは背中に圧し掛かられる。

「れ、レーベ?」

 振り返る。そこには顔を赤くしたレーベ。

 ちなみに、マックスは不機嫌そうな表情。いい機会だから彼の好きな食べ物を聞いておこうと思ったのに、思わぬ邪魔が入った。

 けど、

「レーベ、酔っぱらってる?」

「むー、僕酔っぱらってないよお」

 一度むくれて、すぐに猫のように目を細めて頬を摺り寄せるレーベ。

「れ、レーベ? え、あ。あの?」

 少女の柔らかい頬の感触に顔を赤くするレオナルド。険しくなるマックスの視線。

「んー」

 で、レオナルドに頬擦りを始めて上機嫌のレーベ。どうしたものか、と。レオナルドは周りを見る。むぅ、と頬を膨らませるマックス。

「あ、いいな。

 れお、ゆーもっ」

「もっ?」

 ぱたぱたと駆け寄ってきたユーは、少し迷ってレオナルドの膝の上に。

「え、えーと」

 後ろをレーベ、前をユーに抑えられて固まるレオナルド、彼は視線を巡らせる。微笑。

「好かれているのですね」

 楚々と微笑むシャルンホルスト。レオナルドは困ったような微笑で、

「ま、まあ、……ありがたいよ」

「えへへー」「ぎゅー」

 上機嫌に笑うレーベとユー。動けないし、……なんかいろいろ大変なことになってるけど、好意を向けられるのは嬉しい。

 けど、例外が一人。

「む」

 そんなレオナルドを面白くなさそうに睨むマックス。ユーはともかく、姉は一発殴ってやろうと思ったが。

 ……ふと、思い付いた事がある。そのことを想像し、いいこと思い付いた、と。小さく笑った。

 

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