トータスナイトが基地に着任しましたっ!   作:林屋まつり

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二十二話

 翌朝、朝食の前。

 すでに食堂には彼女たちがそろっている。レーベとプリンツが配膳を始めている。

 あとは、配膳が終わったら食べるだけ、レオナルドたちはシャルンホルストに今日の予定を話していたところで、不意に、

「レオナルドー」

 奥から、ウィリアムの声。

「ん?」

「ごめん、ええと、カルツ中将が来たみたいなんだ。

 出てくれる?」

「わかったー」

「中将、ですか?」

「ん、……ああ、いろいろと面倒見てくれた軍の人」

 そういえば、シャルンホルストは会っていない。……だから、

「シャルン、一緒に来る? 紹介するよ」

「そうですね。……私の「私も行くわ」」

 そういってビスマルクは立ち上がる。敵対した。けど、今は仲間なのだから。

 有無を言わさない口調にレオナルドは頷く。

「そうだね。じゃあ、行こうか」

 

「おーう、レオナルド君かあ。それと、ビスマルク君も」

 片手にスーツケース、空いた方の手をぶんぶんと振るのは軍服を着たカルツ。彼は穏やかに目を細めて、

「君が、シャルンホルスト君かなあ?」

「はい、……ご迷惑をおかけしました」

 ぺこり、頭を下げるシャルンホルストにカルツはゆるゆると首を横に振る。

「君に憑いた悪魔がやった、と聞いているよお。

 他の皆を害したという話も聞かないしねえ。なら、それでいいよ」

「そうですか」

 少し、困ったように応じるシャルンホルスト。カルツは首を傾げる。

 けど、

「ううむ、ウィリアム君から聞いているかなあ? ビスマルク君を長とした部隊を一つ用意して、君たちは皆、そこに所属してもらう事になっているんだよ。

 その時の部隊指揮官はまた後で紹介するけど、シャルンホルスト君もそこの所属になるだろうねえ。上官はビスマルク君だから、これからも仲良くねえ」

「わかりました」

 シャルンホルストは、微かな安堵の吐息とともに頷く。

 シャルンホルストと、ビスマルクもそれは同様。彼女も問題なく受け入れてもらえそうで安心した。

 そして、カルツは笑う。

「ビスマルク君は、いい上官になれそうだねえ」

「え? ……え、ええ、それはもちろんよっ!」

 理由はわからないがとりあえず胸を張る。カルツは楽しそうに笑って、

「シャルンホルスト君の処遇を聞いて安心したみたいだからねえ。

 部下を思いやれる事はいい上官の第一歩だからねえ」

「へ? え、ええ?」

「わかるんですね」

 思っていたことを当てられて言いよどむビスマルクの傍ら、レオナルドは感心して呟く。カルツは笑って、

「中将ともなるとそのくらいの機微は見て取れるんだよねえ。

 はっはっはっ、それで驚くようじゃあ、ビスマルク君も中将には暫く届かないなあ」

「うぐ」

 読み取れる自信のないビスマルクは笑うカルツを軽く睨む。もちろん、カルツは気にしないが。

「さて、それじゃあ要件なんだけど。

 はい、レオナルド君」

 渡されたのはスーツケース。

「え、これなんですか?」

「これには、深い事情があってなあ」

「事情?」

 真面目に告げるカルツにレオナルドは首を傾げる。カルツは重々しく口を開く。

「ウィリアム君には話したけど、今日は私たちで、無人の偵察機を飛ばす予定なんだよ、報告はもらったけど、改めて、深海凄艦の確認のためにねえ。だから、君たちは休暇と思ってゆっくりして欲しいんだよ。

 それでねえ、近くの町まで羽を伸ばしたらどうかなあ?」

「はい」

 もともと一緒に遊ぼうという話はしていた。ちょうどいい、レオナルドは頷く。

「それで、それは軍資金だよ」

「え?」

 一瞬、言われた意味が解らなかった。キョトンとするレオナルドにカルツは満足そうに笑って「開けてみなさい」

「え、はい」

 開ける。ビスマルクとシャルンホルストも覗き込む。

 開けて、レオナルドは動きを止めた。

 スーツケース、中にはこれでもかと詰め込まれた札束。

「…………あのー、中将?」

 硬直する三人に、重々しい、真面目な表情でカルツは口を開く。

「報告を聞いて、今日の私たちの予定が決まったときになあ。

 大提督が君たちに遊ぶ時間を、って提案してなあ。満場一致で決定したのだが、ほら、遊ぶには何かとお金が入用だからなあ。……とはいえ、我々の予算は国のみんなから預かったお金。それを使うわけにはいかないんだよ」

「そうですね」

 それは、国の守護を担う軍人が、その役割を実現するために使うべきお金だ。間違えても、遊びに使っていいわけがない。

「だから、軍人のみんなに募金をしてみたらこうなった」

「募金っ? ……い、……いやー、たぶんこんなにいらねっすよ」

 見たこともない金額にレオナルドは半端に笑う。むぅ、とカルツは困ったような表情で乗ってきた車に視線を向ける。

「あと、五つあるんだがなあ」

「どんだけ派手な遊びを想定してるんだっ?」

「というか、ずいぶんな金額ですね。募金、って、こんなに集まるものですか」

「集まるものなんだよなあ。

 ふむぅ、…………まあ、それじゃあそれ一つだけおいていこうかなあ。では、楽しんできなさい」

 そういってスーツケースを押し付ける。カルツは笑って車の方へ。

「あ、あの、ありが「レオナルド君」」

 感謝の言葉は止められる。

「そのお金はみんながくれたものでなあ。

 なに、明日はパーティーだ。私がわざわざ代表して聞く必要はないなあ」

 感謝の言葉は明日、直接皆に言え、カルツの言葉にレオナルドは苦笑して頷く。

「では、楽しんできなさい」

 

「お金をもらいました」

 律儀に朝食を待っていてくれた皆に向かって、レオナルドは重々しく告げる。

 沈黙。………………何言ってるんだこいつ、という視線を向けられるが、向こう側の立場なら自分も同じようなことを考えただろうから、沈黙。

 とりあえず、ウィリアムは手を上げる。代表として問う。

「……レオナルド。いきなり何を言い出すの?」

「ごめん、僕もよくわからない。

 今日一日ゆっくり遊んだらどうかって、軍の中で提案があったらしくて」

 ウィリアムも頷く。昨日、カルツとそんな話をした。

「で、その遊ぶための軍資金、募金したら集まったんだって」

「……まあ、確かに多少は入用かもね」

 そういう事か、と納得するウィリアム。多少なら自腹を切る覚悟もしていたけど、懐事情が厳しい。

 レオナルドが受け取って持ってきたなら大丈夫だろう、と頷く。

「どのくらい貰って来たんですか?」

 意気揚々と身を乗り出すプリンツ。密かにウィリアムと可愛い服を探そうと思っていた手前、お金があるのは嬉しい。

「うん、これだけ」

 そういってスーツケースを掲げる。

「レオ君、意味わからないです」

「…………これだけ」

「その中身、全部札束です」

 淡々と言葉を繰り返すレオナルドの横、苦笑してシャルンホルスト。そして、思わず皆で顔を見合わせた。

「……え、そんなに?」

「ええと、明日のパーティーでみんなに礼を言え、って、カルツ中将から」

「さ、さすがにこれだけあると、使うのも、悪いっていうか」

 困ったように呟くレーベ。ウィリアムはカルツに連絡。いくつかの言葉を聞いて、肩を落とした。

 集まる視線にウィリアムは苦笑。

「それだけの働きをしたと自覚しろ、だってさ。

 せっかくの好意なんだし、甘えちゃおうか」

 そうと決まれば話は早い。

「やったっ、じゃあ、私、服欲しいっ! 兄さまっ! 一緒に選ぼうねっ!」

「ちょ、ちょっと待ちなさいプリンツっ! 提督に服を選んでもらうのは私よっ!」

 ずずい、と迫る二人にウィリアムは手を軽く上げて制する。すぱんっ、と音。

「いたっ? な、なにするのよグラーフっ!」

「ビスマルクっ、前に決めたことを忘れたかっ!」

 怒鳴るビスマルクをグラーフは一喝。「へ?」と、キョトンとするビスマルク。

「皆も、だ。特にユーやレーベ、マックスは軍属というには幼すぎる。

 女性の軍人はただでさえ少ない。それなのに、軍属であることを示す、提督、という言葉は悪目立ちする」

「そうだね」

 レオナルドは頷く。視線が集まる。

「みんなの事は軍事機密みたいなものだろ?

 どこにどんな人がいるかわからないからね。軍属って感づかれるようなことは、避けた方がいいよ。

 誘拐なんてことになったらカルツ中将たちにも迷惑をかけるよ」

 ウィリアムも頷く。レーベは首を傾げて、

「そこまでは、用心深すぎないかな?」

「そうかもしれないけどね。……ただ、警戒しすぎて越したことはないところで暮らしていると、どうしてもね」

「あ」

 レーベは思い出す。レオナルドはHL、世界で最も剣呑と呼ばれるところで暮らしている。これが当然なのかもしれない。

 あるいは、自分が甘いのか、気を付けないと、と気を引き締める。

「なるほど、それがHLの処世術か。……参考になるな。

 本当に、二人からは学べることが多い」

 うむ、と頷くグラーフ。

「えと、えと、……ゆー、いつか、HLに、れおに会いに、行きたい、です。

 難しい、ですか?」

 おずおずと問いかけるユー。自分も、そこまで考えていなかった。だから、不安になった。

 自分みたいな甘い考えでは、レオナルドに会いに行けないのかもしれない、と。

 レオナルドは反射的に大丈夫、と言いそうになり、違う、と思い直す。

「カルツ中将も言ってただろ? 簡単に行ける場所じゃないって。

 そういう事だよ。……だから、」

 肯定の言葉にユーは泣きそうになる。けど、レオナルドは優しくユーを撫でて、

「軍でたくさん勉強するんだよ。

 そうすれば、ユーも来れるよ。楽しみに待ってるからな」

「う、……うん、が、頑張り、ます」

「そうだな。……ふふ、一筋縄ではいかないな」

「ずいぶんと楽しそうね。グラーフ」

 不思議そうに首を傾げるマックス。グラーフは頷く。

「愛とは、障害が多いほど燃え上がるのだ」

「何を言ってるの?」

「索敵は、私に任せろっ」

「どういう意味だっ!」

「HLのレオの家に、艦上戦闘機を突撃させるっ!」

「なにやる気だぁぁあっ!」

 妙なことを言い募るグラーフに思わず怒鳴る。グラーフは胸を張る。

「そうだよっ!」

 がたっ、と勢いよく立ち上がるのはレーベ。彼女は拳を握る。

「僕っ、絶対にレオ君に会いに行くからねっ!」

「……あ、…………え、ええと、た、楽しみにしてる」

 妙な気合の入ったレーベにレオナルドは気持ち引きながら頷く。

「会いに行って「砲雷撃戦をするのね」そう、……しないよっ!」

「ええと、民間人に艦隊戦をするのはどうかと思いますよ」

 シャルンホルストは曖昧に微笑む。大丈夫かなこの人たち、と微笑みの裏で思う。たぶん大丈夫だとは思うけど。

「あい? グラーフ、愛って、どういうの、ですか?」

「ああ、大切な人という宣言だ」

 グラーフの言葉を聞いて、ユーは頷く。

「ゆー、れおを、愛します」

「グラーフっ!」

 妙なことを吹き込んだグラーフを怒鳴る。グラーフはにやにや笑いながら「間違えたことを私は言ったか?」

「曲解前提っていうのはどうかと思う」

「…………っていうかさ、何話してるの君たち?」

「ぼ、僕は悪くないぞ」

 冷めた視線を向けるウィリアムにレオナルドはふるふると首を横に振る。睨む先はグラーフ、彼女は微笑んだ。

「まあ、話は逸れたがそういう事だ。

 皆、これもHLに遊びに行くための訓練だと思って、割り切ってほしい」

「遊びに行くための訓練、というのも不思議ですね。

 ただ、面白そうなところです」

 シャルンホルストはくすくすと微笑む。レーベとマックス、ユーは真剣に頷く。

「と、言うわけだ。弟くん」

「…………え? それ僕? 本気なの?」

 呼びかけた先にいたウィリアムがキョトンとする。「いやか?」

「ううん、構わないけど。……弟、かあ。

 なんか、新鮮だな」

「てい、……えと、ウィル君には、いなかったんだよね? お姉さん」

「うん」

「ならば、」グラーフは手を広げる「甘えていいぞ、弟くん」

「……いや、さすがにこの歳だとそれはなあ」

「兄さまっ、私に甘えて?」

 きらきらと手を握るプリンツ。ウィリアムは首を横に振る。

「いや、それはちょっと」

「じゃあっ、たくさん甘えていいっ? 兄さまっ」

「あー、……まあ、お手柔らかに」

 それなら構わない、と応じるウィリアム。プリンツは嬉しそうに彼に抱き着く。

「ウィル」

 ぽつり、聞き逃してしまいそうな、小さな声。

 けど、聞き逃さなかった。ウィルは声の主。小さくなっているビスマルクに、

「それでいいよ。ビスマルク」

「え、……ええ、ウィルっ」

 慣れない呼び方に、少し照れた微笑でビスマルク。

「では、今日の予定も決まったようですね。

 それより、そろそろ朝食にしましょう」

 シャルンホルストは微笑みいう。……揃って、困ったように顔を見合わせる。

 朝食。ふと気づけば話に夢中で忘れてた。

「それだけ話が楽しかったのでしょう。

 では、」

 いただきます、と。声が重なった。

 

 朝食を終え、基地内の車庫へ。

「ええと、人数は、…………っていうか、ブラック、運転できる?」

「…………ごめん、僕、そういうのだめなんだ」

「ああ、そっか」

 思い出すのは彼とダイアンズダイナーに行った時の事。ジュース零してた。割とドジな性格なのかもしれない。

 だからレオナルドは運転を了承。で、

「道解る? ナビお願いしたいんだけど」

「解ったよ」

 という事で助手席も決定。そして、

「ええと七人か、……乗るかな」

 もともと、ある程度大人数の移動も考えられていたらしい、バンがある。六人乗りだが。

「ん、……ユー。

 ビスマルクさんの膝の上、大丈夫?」

「ええ、大丈夫よ」

 ビスマルクは頷く。けど、

「ユー?」

「あ、……あの、お外、みたい、です。

 だめ、ですか?」

「そう? ……じゃあ、ブラックの膝の上にする?」

「わかったよ」「あ、ありがとう、です」

 助手席ならフロントガラスから外が見られる。故の提案にウィリアムは頷いて、ユーは嬉しそう微笑む。

「う、……兄さまの膝の上、いいなあ」

 で、プリンツは羨ましそうにユーを見る。けど、ウィリアムは苦笑。

「一応、僕ナビ頼まれてるからね。

 プリンツが膝に座ったら僕、前見えなくなっちゃうよ」

「うー、…………はーい」

 理由は納得いく。けど、残念なのは変わりない。プリンツは少し拗ねたように頷く。

「それじゃあ、適当に乗ってー」

 レオナルドはひらひらと手を振り、みんなで車に乗る。ウィリアムは助手席へ。そして、ユーは彼の太ももの上にちょこんと座る。

 最後にレオナルドは運転席へ。と、同時にひょい、と。

「レオ君、車の運転も出来るんだね」

 後ろからレーベが覗き込む。レオナルドは慣れた手つきでエンジンを始動させながら、

「それなりにはね」

 もともと、新聞記者見習いだった。HLに来る前は機材を運んだりで車の運転はそれなりにこなしてきた。

 だから問題なく、慣れた手つきで、出発。

「さて、それじゃあ、行こうか。

 ブラック、頼むよ」

「うん」

 地図を広げながらブラックは頷く。膝の上のユーは外の光景を興味津々と見ている。

 そして、一同を乗せた車は基地の外へ出た。

 

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