トータスナイトが基地に着任しましたっ!   作:林屋まつり

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二十三話

 木組みと石造りの町。

 HLのごちゃごちゃとして、猥雑で混沌、様々な意味で活気のある街とは全然違う。整然とした街並み。

「へー、こういうところなんだね。閑静、っていうのかな」

 車を止めて、街に繰り出したレオナルドは興味深そうにあたりを見回す。

「やっぱ、HLとは違うなー」

「あそこと比べるなよ」

 傍らにいるウィリアムは苦笑。もっとも、自分もHLを出てから暫く違和感があった。良くも悪くも、あの街の印象は強烈だ。

「ま、どうしてもね」

「そんなに凄いんだ。……ううん、ちょっと怖いかも」

 少し困ったようにレーベ。まあ、確かに怖いかもしれない。けど、

「それなりに楽しいところだよ。

 なんていっても、いろいろいるしね」

「そうか、では、観光の時は頼りにしているぞ。われらがナイト殿」

 にやー、と笑って告げるグラーフ。

「いや、ナイトもやめてくれ」

「僕は格好いいと思うよ」

「といってもなあ」

 正直、過大な言葉だと思ってる。

 けど、

「そうだね。みんなが遊びに来てくれたら、僕の仲間たちも紹介するよ。

 みんな、僕よりずっと強いし頼りになるからさ」

 クラウス、スティーブン、チェイン、……と、ライブラの仲間たちを思い出しながら言う。きっと、仲良くしてくれると思うから。

 …………ザップ、と名前を思い浮かべて動きが止まる。紹介しても大丈夫か、……たぶん、大丈夫、だと、思う。

 ザップさんと会う場合はスティーブンさんとツェッドさんに脇を固めてもらおう、と決意。

「れおのお友達、……楽しみ、です。

 ゆーも、仲良くなれるかな」

「ああ、もちろんだよ。み、……みんな、い、…………」

「あの、レオ君?」

 いい人、という言葉を続けられず動きを止めるレオナルド。不安そうな表情のレーベとユー。

「……こ、個性的な人、だからっ!」

「それ、不安にしかならないわ」

 マックスが呆れた様な表情でぼやいた。

 

「ふっく、お洋服ー、可愛いのあるかなー?」

 閑静な街並み、……というのはレオナルドの感想でしかない。彼からすれば大体の街は閑静に分類される。

 ここも決して小さな街ではない。海軍基地の近く、つまり海が近くにある街はそれを目当てとした観光客向けの店も多くある。もっとも、深海凄艦の発生に伴い海に出る事は禁止され、決して賑わっているとはいえないが。

 そんな街中をスマートフォンを持つウィリアムと、プリンツを先頭に歩く。

 最初に行く店は、

「服? ええと、あるかな」

「か、可愛いのがあるのをお願いっ! 兄さまっ!」

 ぱんっ、と手を叩いてプリンツ。「そういうの解るかな?」と、難しい表情でウィリアム。

「プリンツ、あまりウィル君を困らせてはだめですよ」

 はしゃぐプリンツを微笑して窘めるシャルンホルスト。「えー」と、プリンツは唇を尖らせる。

「兄さまも私が可愛い服着たところ見たいよねっ?」

「え? え、ええと?」

「にー、あたっ?」

「プリンツっ、そこまでにしなさいっ」

「えー」

 ぺしっ、と頭を叩いたビスマルクに抗議の視線。

「プリンツはいいから、て、……う、ウィルは、私が着てほしい服を選んでくれればいいのよっ!」

「ずるーいっ、私も兄さまに選んで欲しいですっ」

「えと、僕、そういうの苦手なんだけど」

「そう見えます」

 くすくすと微笑むシャルンホルスト。ざっと彼女はウィリアムに視線を滑らせる。服装に気を使っているようには見えない。

「レオナルドたちもそっちでいい?」

 振り返る。レオナルドは右手にレーベ、左手にマックスを抑えられておろおろしている。それを面白そうに見ていたグラーフが代わりに頷き、

「レーベ、マックス、そのくらいにしろ。

 でないと、レオが服を選んでくれないぞ」

「えっ? 僕が選ぶのっ?」

 ドレスを選んだ時のことを思い出し、愕然とするレオナルド。グラーフは優しく肩を叩く。

「レオ、難しく考える事はない。

 弟くんもだ。着たところを見たい服を選べばいい」

「それ。結構難易度高いんだけどなあ」

 困ったようなレオナルドにグラーフは微笑み「だから、難しく考える事はない」と応じる。

「レオ、私たちも困らせるつもりはないわ。

 気に入ったの持ってくるから、その中で一番いいって思ってくれたのを、教えてくれればいいの」

「うーん、……それなら。

 まあ、お手柔らかに」

 最初に候補を絞ってくれるならよかった。店内から選べと言われたら逃げ出すかもしれない。

「あ、……あった」

 

「どんなのがいいかなー」

 レーベは店内を歩きながら服を見て歩く。

 気に入った服、いくつか選んでレオナルドに見てもらう。やたらとお金をもらったけど無駄に使うつもりはない。

 一組、だけでいい。

 彼が一番いいと言ってくれた、思い出の服。

 それを思えば表情も緩む。可愛い服、選びたい。

 ふと、

「あ、……これ、可愛い」

 可愛らしいスカートとブラウス。……これを着たところを想像し、…………レオナルドと一緒にいるところまで想像したところで、ふと「僕に、似合うかな」

 可愛い服。けど、……改めて鏡を見る。

 短く切りそろえられた銀色の髪。そして、…………レーベは寂しそうに自分の胸に手を当てる。

 女の子っぽく、ないかな。と、

「うー」

 ボーイッシュな服装も嫌いではない。けど、気になる男の子の隣にいるのなら、ちゃんと女の子として可愛い服を着たい。

 だから、精一杯女の子らしい服を選んだ。けど、

「に、……似合わない、って言われたらどうしよう」

 思わず、弱音が口から零れる。女の子として見られてなかったら、……寂しい。

「うー」

「なに唸ってるの?」

「あ、プリンツ」

 服に視線を投げながら問いかけるプリンツ。彼女を見てレーベは溜息。

「プリンツはいいよね」

「え? いきなり何?」

 困惑するプリンツ。レーベの視線は、密かにビスマルクと大差ない大きさと思っている胸に向けられている。

「可愛い服が似合いそうで」

「そう? レーベも似合うと思うけど?」

「そうかなあ」

 どこか気落ちしたような返事に、ふと、プリンツは口を開く。

「ふーん、じゃあ、ボーイッシュなのにすれば?」

 にやー、と笑うプリンツにレーベは見透かされていることを確信。

「うう、……けどお」

「ホットパンツにシャツとか」

「う」

 いいかな、と思いかけて、反射的に「違うのっ!」

「へー?」

「……わかっていってるよね?」

 恨みがましそうな視線にプリンツはけらけら笑う。

「可愛い女の子として、気になる男の子の隣にいたいよねー?」

 気になる男の子、と。そういわれてレーベは顔を赤くする。

「う、……うん」

「じゃあ別に悩む必要ないんじゃないの?

 可愛い服持っていけば? 似合うとか似合わないかより、着たい服を着るのが一番よ」

「そ、そんなもの、なの?」

「そんなものよ。

 さって、兄さまに服見てもらおーっと」

 プリンツは選んだ服を抱えてぱたぱたと小走りでウィリアムのところへ。

 レオナルドの隣で着たい服。

「う、……うん」

 似合わない、かもしれない。

 けど、

「こ、……これに、しよ」

 可愛い、そう思った服を手に取り、決意。ぱたぱたと店内を急ぎ足で歩き回り、見つけた。

「…………あ、レオ君」

「レーベ。決まった?」

 店内の服を見ていたレオナルドは顔を上げる。

「う、……うん。レオ君も服買うの?」

 それはそれで見てみたいかも、と期待を込めてレーベ。けどレオナルドは首を横に振る。

「いや、服は間に合ってるよ。わざわざ買う必要もないからね」

「えー、それ、もったいないと思うよ。

 レオ君に似合う服、きっとあると思うし」

「いや、もう勘弁してください」

 真面目な表情で頭を下げるレオナルド。……ふと、思い出すのはパーティーで彼が着る服を決めたとき、燃え尽きた姿。

「もったいないなあ」

 と、

「レオ」

「あ、うん」「マックス?」

 呼びかける声に二人は振り返る。試着室から顔を覗かせたマックス。

「マックスが服決めたっていうからね。…………はあ、僕の意見なんて参考になるのかな」

 そんな解ってないレオナルド。レーベは溜息。

 ともかく、マックスがどんな服を選んだのか。……レーベも彼の後ろに付いていく。

 で、

「に、……似合う、かな?」

 簡素な白いシャツにホットパンツ。……は、いいのだけど。

「え、…………お、思ったより、……ええと、その、」

 言いよどむレオナルド。レーベもその気持ちはわかる。

 シャツとホットパンツ。……で、シャツは肩まで見えていて、ホットパンツも、太ももの半ば程度の丈。

 ウェストはベルトで絞られ、少女らしい華奢なラインが強調されている。

「に、似合わない?」

 で、そんなマックスはおずおずと、少し不安そうにレオナルドに問いかける。レオナルドは、はっ、として、

「あ、……い、いや、に、似合うっ、似合ってるよっ!」

「ほんと、に?」

「う、うんっ、……ええと、まあ、ちょっと驚いた。

 もっと、……なんていうか、思ったより、…………ええと、肌が見えて、て」

 言葉に迷うレオナルド。その選択はどうかとレーベは思うけど。

「ん、こういう動いやすいの、結構好きなのよ。

 それで、……へ、変じゃない?」

「うん、似合ってる。いいと思うよ。

 それなら体も動かしやすいしね」

 だから、そうじゃないとレーベは思う。けど、マックスは嬉しそうにレオナルドの手を取って、

「うん、そう、……だから、レオ。

 いつか、たくさん一緒に遊ぼう」

「そうだね」

 それは、いつになるかわからない先の事。それでも、確かに交わした約束にマックスは満足そうに微笑む。

 で、

「むーっ、マックスっ!

 終わったならそこどいてよっ、次は僕の番だよっ!」

 ずずい、とレーベが二人の間に割り込む。いい雰囲気を邪魔されてマックスが眉根を寄せる。

「れ、レーベ?」

「次は僕っ!

 レオ君っ、待っててねっ!」

「あ、うん」

 ちょっと気圧されたように頷くレオナルドを横目にレーベは試着室に入る。そして、

「……ああいうのでも、よかった、かな」

 体のラインには自信がない。……それはマックスも同じだと思ってた。

 けど、さっきのマックスを思い浮かべる。確かに胸は小さい、けど、それも少女らしい繊細さを強調しているように思えて、……「だ、だめだめっ」

 ふるふると頭を横に振る。自分の選んだ服に自信を持たないと、

 可愛らしい、フリルのついたブラウスと、ゆったりしたスカート。基調は蒼で揃えて。

 ふと、

「レオ、《神々の義眼》を使ってレーベの着替えを覗いてはだめ」

「覗くかっ!」

 と、そんな声が聞こえた。ふと見れば鏡の中の自分は少し頬を膨らませている。

「でも、《神々の義眼》を使えばみんなの着替えとか覗き放題よね」

「い、いや、まあ、出来なくはない、と思うけど。

 けど、やらないからそんな事っ!」

「ふーん、そう、……そうなんだ」

「あんまり信じてないよな」

 そんな声が外から聞こえる。早く外から聞こえる話に割って入りたくて、レーベは気持ち急いで服を脱ぐ。

 下着姿になって、さて、と。服を着ようとして、声。

「信じてるよ。一緒にお風呂に入ったときも私に手を出さなかったし。

 レオ、ナイトだから紳士よね」

「なんだそ「それどういう事っ!」」

 しゃっ! と、音。そして、

「………………」「………………」

 時が止まった。きょとん、とした表情で動きを止めるレオナルドと、同じように動きを止めるレーベ。

「レーベの下着は、今日は青」

 難しい表情で呟くマックス。そして、時は動き出す。

「ひにゃぁあああああああああああああああっ!」

 すぱぁんんっ! と、音が響いた。

 

「ご、ごめんねっ、ごめんねっ、レオ君っ」

 大急ぎで服を着て、鏡で確認もそこそこに試着室から出る。そこには頬を抑えるレオナルド。

 反射的に引っ叩いた頬は赤く腫れている。レオナルドに手を合わせて頭を下げる。

「い、いやあ、……まあ、うん、大丈夫。大丈夫だよ。

 ほら、僕もこれで意外と頑丈だからさ」

 気にしてないよ、と笑うレオナルド。レーベは頭を下げながら視線を向ける。その先、マックスは神妙な表情。

「それで、マックス。

 さっきの、どういう事? れ、レオ君と、い、一緒にお風呂、って」

「ん、そのままの意味」

「そ、そのままってっ! ま、まさか、れ、レオ君が、ま、マックスがお風呂に入ってる所に?」

「ちがーうっ!」

 その誤解はやばい。全力で否定するレオナルド。ぷい、とマックスはそっぽを向く。

「だって、レーベ、ずるい」

「へ? 僕が?」

 きょとん、とするレーベ。心当たりがない。

 そしてそれはレオナルドも同様。故に二人の視線はマックスに集まり、

「夕食のとき、レーベ。レオに抱き着いてた。

 ずるい」

「……ああ、まあ、そうだけど」

 そんなことやられたな。とレオナルドは遠い目をする。もっとも、どうしてそれでズルいになるのか解らない。

 どう見てもわかってなさそうなレオナルドに説明をするほど、マックスは酔狂ではない。そして、

「え? ぼ、僕、そんな事してたの?」

 きょとん、とするレーベ。恐る恐る視線を向ける先にはレオナルド。彼は困ったように微笑んで、

「まあ、酔っぱらってたみたいだしね」

「後ろから抱き着いて頬擦りしてた」

 つん、とそっぽを向くマックス。けど、当然レーベに彼女を気にする余裕はなく、

「は、はわ、……れ、レオ君に、え、ぼ、僕、そんな事、してたの?」

 その時の事を想像し、顔が真っ赤になる。レオナルドはどうしたものか、と思いながらとりあえず頷く。

「覚えてない、……んだよね?」

 レオナルドの問いにレーベは赤い顔のまま、こくん、と小さく頷く。

「お酒、飲んでたら、ぽやーっとして、……気づいたら、寝てて、朝で、……ほんと、ごめんね。レオ君」

「あ、いや、いいよ」

 悪い、という事はない。首を横に振るレオナルドにレーベは安堵の一息。

「さて、……それじゃあ、服も決まったことだし。

 行こうか、ブラックたちを待たせるのも悪いしね」

「ん」

 マックスは頷いて歩きだす。と、

「ちょ、ちょっと待ってっ! レオ君っ」

「ん?」

「僕の服、まだ、……」

 ふと、視線を落とす。そう、変なことを聞いて大慌てで出てきちゃったけど。

「それ、レーベが選んだやつじゃないの?

 似合ってるよ。僕は可愛いと思う」

「あ、…………う、」

 卑怯、なんて言葉を思う。……不意打ち、それで微笑んで可愛い、なんて言われたら。

「う、……うん、あ、ありがと、レオ君」

 自分で可愛いと、思って選んだ服。彼に可愛いって、言ってもらえた服。

 レーベは胸に手を当てて微笑んだ。

 

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