トータスナイトが基地に着任しましたっ!   作:林屋まつり

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二十六話

 

 基地を出る。

 

 すでに、目の前にはカルツのいる車が停まっている。荷物は全部積み込んだ。あとは、自分たちだけだ。

 だから、

「レオナルド」

「ん、……ああ、ブラック」

 基地を見ていたレオナルド、ウィリアムは傍らに立つ。

「名残惜しい?」

 レオナルドに視線を向けない。真っ直ぐに基地に視線を向けて、ウィリアムは問う。

「そうだなあ。……まあ、楽しかったし」

「そうだよなあ」

 楽しかった。ウィリアムも頷く。

 実はほとんど慣れていない女性との付き合いにいろいろ困ったりもした。けど、

「楽しかったよな」

 ここでの生活は、ただ、その言葉に集約される。

 楽しかった、と。

「この基地、どうなるのかな?」

「そうだね。……一応、しばらく保存はされるみたいだよ。

 ほら、ビスマルクたちの入渠施設とか、そういうのの研究とかで」

「そっか」

 けど、いつかは、…………「記念撮影でも、しておくかい?」

 不意にかけられる言葉。振り返るとカルツがいる。

 カルツと、ビスマルクたちもいる。そして、

「もともと、そのつもりだったんでしょ?」

 てきぱきと撮影準備が進んでいる。レオナルドの苦笑にカルツは「したくはないのだけどなあ」と、笑う。

「いろいろ、機密情報は形として残したくはない。これから撮影する写真が下手に出回ると、困るなあ」

「のわりには乗り気ですよね」

 ウィリアムも苦笑。ビスマルクたちが軍にとって機密情報であることは聞いている。

 けど、

「記念に持っていて欲しいんだよ。君にもね。……どうかなあ?

 もしその写真がHLで厄介な組織に流れたら、我々は非常に困る。……それでもね」

「……ありがとうございます」

 機密情報が映る写真。それがHLで流出すればどうなるか。それはライブラに所属するレオナルドもよくわかる。もちろん、一国の中将であるカルツもわかっているだろう。

 それでも、持っていてほしいと、彼は言う。だから、レオナルドは頷く。

 彼女たちとの思い出が欲しいのは、確かなのだから。

 

 基地の前、レオナルドとウィリアムを中心に、みんなで身を寄せる。

 まず、手始めに世界を救い、そして、自ら救った世界でそれぞれの道を歩いていく。きっと、激動、といえる日々を駆け抜ける事になるだろう。

 それでも、…………決して、今、このとき、この出会いを忘れる事がありませんように、……それぞれの道を進んでも、いつかまた、この写真のように、みんなが集まれますように、

 シャッターを切る音が響いた。

 

「いやあ、改めて感謝するよ。レオナルド君、ウィリアム君。

 内容が内容だから大っぴらにはできないけどねえ。……君たちに爵位を、って話も出てんだけどねえ」

「い、いや、それはさすがに」

 爵位はさすがにいろいろ行きすぎな気がする。けど、

「さすがに爵位となれば公表しなければならないからねえ。

 一通りは納得されたのだけど、さすがに公表はまずいよねえ」

「納得されたんっすかっ?」

 一通り、と気楽に言うが、爵位となれば軍部だけでは無理だろう。驚くレオナルドにカルツは苦笑。

「本当に、君たちは自分の成果に自覚をした方がいいなあ。

 一年」

「へ?」

「深海凄艦排除に私たちが想定していた、最短期間、が。一年だよ。

 ほとんど情報なし、わかっているのは軍船級の砲撃力と耐久性能を持つ、人と同じ大きさ、そして、電波妨害だね。

 ミサイルやらの、電子兵器は制御を狂わされる。並みの銃火器では歯が立たず、軍船の砲撃では、人と同じサイズで動き回る深海凄艦を捉えるのは、ほぼ不可能。……こうなると、一から新しい、深海凄艦を砕くための兵器が必要になる」

 カルツは苦笑。指折り、

「新規兵器の研究、開発、検証、訓練、運用、そして、成果を上げる。

 兵器開発には莫大な費用と時間がかかる。完全な新兵器ならなおさらだよ。その間、民間には被害が出続ける。流通は閉ざされる。経済は疲弊する。そして、深海凄艦は増えるかもしれない、成長するかもしれない。兵器が開発成功した後は交戦だ。それでどれだけの被害が出るかわからない。

 一年、なんていったが、これでも過小評価だよ。数十年の見積もりもざらにあった。もちろん、その間、国は疲弊し続ける。他国からの追及や、混乱した民の暴徒化、も含めてね」

 その試算に顔を真っ青にした者もいる。経済の調整を担う者たちは連日連夜議論を交わし続けた。民間には知らせていないだけで、政府は大混乱に陥っていた。

 それは、決して嘘ではない。レオナルドはドイツがライブラに払った報酬を思い出す。その数字に最初は驚いたが、ドイツとしてはまさしく藁にも縋る思いだったのだろう。

 そして、

「それを、君たちはたったの一週間足らずで収束させてしまった。

 昨日の、偵察の結果を聞いて涙ぐんだものもいたよ。政治家たちはお祭り騒ぎだ。君たちの派遣の報酬に最初は難色を示していた者たちも、さらに上乗せしたらどうかと言い出してねえ。

 LHOSの長老やライブラの、クラウス君かなあ、結構困らせてしまったねえ」

「あ、そうなんですか」

 確かに、あの報酬にはクラウスも驚いたと言っていた。さらに上乗せとなれば混乱したかもしれない。

「私たちは、確かに君たちに救われた。

 ビスマルク君たちがいたおかげで深海凄艦を砕けた。ウィリアム君がいたおかげで彼女たちは戦う事が出来た。レオナルド君がいたおかげで彼女たちは生き残る事が出来た。

 実感はわかないかもしれないが、私たちは、確かに、君たちに救われたのだよ。それは感謝させてほしいなあ」

 その言葉に、レオナルドとウィリアムは顔を見合わせる。けど、

「ええ、そうね」

 ビスマルクは微笑む。カルツの言った言葉に、一切の間違いはない。

 ウィリアムがいたおかげで戦う事が出来た。レオナルドがいたおかげで生き残る事が出来た。

 …………二人がいたから、これから生きていく世界を、救う事が出来た。

 ビスマルクの肯定に皆が頷く。

 それでも、実感はわかない。……ただ、ただ、やろうとした事を、やっただけ。

 けど、皆の言葉を否定するつもりもない。だから、

「「はい」」

 レオナルドとウィリアム、二人は頷いた。

 

「…………うわー、似合ってるとは思えねえ」

 タキシードに袖を通し、鏡に映る自分を見てレオナルドは苦笑。

 自分の容姿が整っているとは思っていない。非常に遺憾なことに、鏡を見て最初に思ったのが背伸びする子供、だった。

 けど、まあいいか、と。

「あ、終わった?」

「うん」

 ウィリアムが顔を出す。レオナルドは頷き。

「似合ってるじゃんっ、親友っ」

「本気で言ってる?」

 笑顔のウィリアムに胡散臭そうな視線。ウィリアムは頷いて、

「僕よりはね。

 なんていうか、鏡見たら背伸びした子供って思ったよ。僕、…………はあ、やっぱり、ちびなんだなあ」

「……それ、僕も思った」

 並んでうなだれる。けど、

「ま、僕たちは大人しくしてよう。ビスマルクさんたちが、ぱーっと楽しんでくれればそれで十分だよ」

「そうだね。あ、レオナルド。会場見た?」

「いや、……どんなんだろうな」

 カルツは気楽に出ればいいと言っていた。けど、場所が場所だ。

「あんまりお堅いのだと、疲れるかもな」

「はは、……覚悟しておく。

 長い演説とかあったらきついなあ」

「その時は起こしてくれよ。親友」

「…………寝る気?」

 笑って肩を叩くレオナルドにウィリアムは苦笑を向ける。もっとも、自分もあり得そうだな、と思ってしまったが。

 ともかく、更衣室を出る。と。

「おおう、来たかあ」

「あ、中将」

「軍服、じゃないんですね」

 彼も着替えたらしい。スーツ姿のカルツは頷いて、

「やっぱりなあ。そういうもんだなあ」

「どういうもんです?」

 からから笑うカルツにレオナルドは問いかける。が、カルツは無視。

「それじゃあ、こっちだよお」

 歩き出すカルツについていく。……レオナルドは改めて辺りを見渡す。

 ここに来た時も思ったけど、

「凄いところ、ですね」

「相応のところ、というべきだなあ。

 それにしても、困ったものだよ」

「困った?」

 ウィリアムが首を傾げる。カルツは笑って頷いて、

「参加したいって人がなあ。多くてなあ」

「あ、あははは」

 事の重大さは聞いている。なるほど、そうかもしれない。

「やっぱり、参加者って軍関係の人?」

「の予定だったんだがなあ。

 政治関係者からも参加希望者が出てなあ」

「…………うわ」

 政治家とか来たらどうするか、難しい話になったら困るなあ、と。レオナルド。……けど、

「まあ、気楽にいくといいよ。……と、ここだ」

 ホールへ向かう通路の入り口らしい場所。そこに足を踏み込む。…………直前、

「そうそう、彼女たちもいるから。

 顔合わせだねえ」

「「へ?」」

 扉を、開けた。

 

 そこに、華があった。

 

「あっ、兄さまっ」

 プリンツの言葉に、そこにいた少女たちが振り返る。

「あ、……え」

 思わず、言葉に迷うウィリアム。

 いつも一緒にいた少女たち。あの基地で、一緒に過ごした彼女たち。

 見慣れているはずだった。朝、おはようと言って、夜、おやすみと言うまで一緒にいた。

 だから、

「兄さまっ、似合う、かな?」

 上目遣いで問いかけるプリンツに、ウィリアムは、こくん、と頷く。

「えへへ、嬉しいな」

 照れたように微笑むプリンツ。彼女の姿は見慣れたものではない。あの時選んだドレス。

 モデルが着ているのを見て、何となく選んだけど。

「うん、……正直驚いたよ。

 すっごく可愛いと思うよ」

「あ、…………う、うん」

 可愛い、と言われて顔を赤くするプリンツ。

「て、提督っ、私はっ! 私はっ!」

 ずずい、と前に出るビスマルク。

「うん、ビスマルクも、綺麗だ」

「え、……ええ、う、……うん、嬉しいわ」

 ビスマルクも頷く。けど、

「提督も、格好いいわ」

「そうかな? なんか、子供が無理して背伸びしているって思ったんだけど。鏡見たとき」

「もう、そんな事ないわよ。格好いいわ、提督」

「あ、ありがと」

 そんな風に言われるとは思ってなかったウィリアムは、ビスマルクの言葉に照れたように頬を掻く。

「えへへ、兄さまと一緒にパーティーっ、嬉しいなっ」

 早速、プリンツがウィリアムの手を取る。ビスマルクも負けじと彼の手を取り、

「それじゃあ、行こうかなあ」

 カルツの言葉に頷く、そして、ホールへの扉を開けた。

 

 ファンファーレの音が鳴り響く。

 

「う、……わ」

 思わず、ウィリアムは眼を見開く。

 広い、広いホール。扉を開ける。鳴り響くファンファーレ。

 奥には楽器を構えた奏者たち。ホールにある円卓には様々な料理や飲み物が並んでいる。侍女服の女性がその間を動き回っている。そして、

「来た来たっ、待ってたぞーっ」

「よーっ」

 スーツの男性、……だけではない。私服のようなカジュアルな服。何の冗談か、コスプレみたいな女性もいる。

 彼ら彼女らは笑顔で手を振る。待っていた、と。

「おうっ、来てくれたか。

 それじゃあ、はじめようぜ」

「こんなきれいな女性と飲めるなんて、来てよかったなっ」

 グラスを掲げる男性と、にやー、と笑う男。彼は傍らの女性に小突かれて「彼女たちはあの二人と一緒にいるのよ」

「ちぇっ」

「あら? あっちの男の子、彼女持ち? 惜しいわー」

「同感、ま、仕方ないわねっ」

 お堅いパーティー、その可能性を考えていたウィリアムは、想像とかけ離れた状況にキョトンとし、

「若造ども。どけ」

 初老、という年齢を感じさせない、がっしりとした禿頭、巨躯の男性。彼は集まる者たちを力尽くで押しのける。

 前に立つ。彼はビスマルクたちに視線を向ける。

 鍛え上げられたことを示す、大きな、がっしりとした体躯。けど、その強面に温厚な笑みを浮かべている。威圧感は、感じない。

「カルツから聞いている。

 海軍に属するのだな? 楽しみにしている」

「え、ええ、えと、貴方は?」

「ん、すまんな。

 私は海軍の大提督をしている。ヴィルヘルムだ」

 大提督、その言葉にビスマルクたちは息をのむ。それは、一国の海軍、その長を勤める事を意味する。

 言葉に詰まる彼女たちにヴィルヘルムは苦笑。

「硬くなることはない。今は十分に楽しめ。いろいろ動いてもらうにはまだ調整が足りん。それまでは遠慮する必要はない。それに、直接話をしたくてな。来たがっていた大将を蹴飛ばして来たのだ。それなのに硬くさせてしまったらあいつに申し訳が立たない。

 それと、」

 視線を向ける。

「ウィリアム、レオナルド、二人にはいくら感謝をしてもし足りない。

 海軍を、……いや、ドイツを代表として礼を言わせて欲しい」

 一息。

「感謝する。ありがとう」

 礼の言葉、そして、この時だけはこの場にいた皆が静かに、敬礼する。それを見てウィリアムは口を開いた。

「こちらこそ、ありがとうございます」

 思い出す。

 彼女たちと一緒にいた日々を。全力で、駆け抜けた時間を、

 楽しかった。と思っている。彼らからすれば非常事態だったのだ。だから、不謹慎かもしれない。

 けど、ちゃんと伝えたい。その思いで言葉を続ける。

「皆さんのおかげで、僕たちは彼女たちと出会えました。たくさん、便宜を図ってもらえて、気にかけてもらえて、……非常事態だったのに、こんなことを言っては不謹慎かもしれないけど、とても楽しい時間を過ごせました。

 おかげで、…………」

 ふと、視線を向ける。その先にはレオナルド。向けられた視線に彼は首を傾げ、ウィリアムは微笑。

「これから、僕たちが生きていく世界を、救う事が出来ました。

 皆さんの助力のおかげです。本当に、ありがとうございましたっ」

 

 敬礼を返すウィリアム、そして、レオナルド。二人のその姿に、場が沈黙する。

 意外、だった。ただの民を戦場に巻き込んだ。出来る限りの事はしたが、それでも、彼らにも危険はあった。危険な目に遭わせた。その、負い目がある。

 けど、ありがとう、そう言ってくれた。……だから、

 

 歓声が爆発した。

 

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