マックスの援護を受け、グラーフの私室に突撃するウィリアム。レオナルドは彼の健闘を祈り、
「それじゃあ、お願いね。レーベ、ユー」
「う、うん、僕、頑張るねっ」
「ん、ゆー、頑張る」
むんっ、と拳を握るユー。そして、彼女を柔らかく見るレオナルド。
やっぱり、印象と違うね。とレーベはその横顔を見て思う。
彼のことはよく聞いていた。ウィリアムは本当に楽しそうに、友として、自分たちを救ってくれたヒーローとして、レオナルドのことを話していたのだから。
だから、強い人を想像してた。ウィリアムは非常に優秀な術師。その彼を救ったのだから、どんな人なのだろう、と。
強くて格好いい、御伽噺の英雄。そんな姿を想像していた。けど、
「えと、れお、こっち、……えと、食堂から行く」
「うん、お願い」
ユーに手を引かれるレオナルドはウィリアム同様、優しい青年という印象。だから、印象がかみ合わない、不思議だな、と思った。
「へー、ここが食堂か。広いんだね。
いつも食事はここでとってるの?」
「うん、提督が作ってくれる。提督の作ってくれるご飯、おいしい」
「ブラックって料理できたんだ」
「れおはできない?」
問いに、レオナルドは苦笑。「あんまりね」と、応じる。
「ぶらっく?」
ふと、レーベは呟く。
「ああ、ウィリアムのことだよ。
まあ、愛称みたいなものかな」
「れお、提督と仲良し?」
「そうだよ。HLで知り合ってね」
ふと、言葉を噤む。
口にしようか悩んだのは出会うきっかけ。彼の妹、メアリの事。
「ブラックの、妹のことは、知ってる?」
「…………うん」
ユーは困ったように視線をさまよわせ、レーベは頷く。
第二次大崩落で命を落としたと聞いている、彼の妹。
いる、ということは聞いている。けど、それ以上は、わからない。どんな娘なのかは聞いていない。ウィリアムは話そうとしない。
「ちょっとした、……まあ、仕事で怪我をして、それで病院に運ばれたんだけど、そこでブラックの妹、ホワイトと会ったんだ。
お互い入院中でね。やる事もなかったし、いろいろと話をして仲良くなって、退院してからも何度か遊びに行ってた時、ちょうどお見舞いに来ていたブラックに会って、それから、いろいろ話すようになったんだ」
「怪我? れおの仕事って、危ないことなの?」
「…………あー」
危ないか、普通に考えれば危ない。命の危険さえある。……もっとも、HLで暮らすこと自体命の危険は十分あるが。
とはいえ、怪我をした直接の原因は、十字型殲滅槍。ライブラのリーダーによるものだったりする。大技を使い一撃で殲滅するのはいいが、まずは救助を優先すべきではないだろうか。とは思いついても口に出さなかった。
とにかく、
「何かとトラブルが多いんだ。HLは。
それで、そのトラブルを何とかするのがライブラ、僕が所属してる組織だよ」
「れお、凄いんだね」
HLの危険性は聞いている。そこで起きるトラブルを解決する。それは並大抵のことじゃない。そんなことを考えてユーはレオナルドを見上げ、レオナルドは困ったように「といっても、僕はまだ末端だよ」と、微笑む。
けど、
「ブラックはヒーローなんて言ってたけど、いろいろ、不足しているところがあるからさ。
いろいろ経験して、力不足を少しでも補って、ライブラの、……僕の恩人たちに恩返しをしたい。もっと力になりたいんだ。この依頼を引き受けたきっかけは、そんな感じ」
少し困ったように微笑む彼。ふと、レーベはそんな彼を見入っていたことに気づき、慌てて視線をそらした。
一通り、本部内を案内してもらい、レオナルドは十分、と。執務室に戻る。
そこには満足げなウィリアムと、肩を落とすグラーフ、プリンツを見てレオナルドは力強く頷く。ウィリアムも拳を握って頷く。
「さて、遅くなっちゃったけどお昼にしようか」
ウィリアムはプリンツとユーを連れて奥へ。残った面々は食堂の適当な椅子に腰を下ろす。
当然、話題の中心はレオナルド。もちろん、誰も忘れていたわけではない。
「それで、レオ。
どうやって私のコレクションを探り当てた?」
「……いや、そんな本気で怒らなくても」
自己紹介より一段低い声で問うグラーフに苦笑。マックスも頷いて「私も気になる。寮の中、入ったことなかったよね?」
「うん、これ」
告げて、レオナルドは指先で軽く瞼を押し広げる。
「……え?」
まず、正面に座るレーベがそれを見た。
人の眼球にはありえない。精緻な青い光の宿る瞳。
「《神々の義眼》っていうんだ。
いろいろ特殊な義眼でね。僕が、……ここに呼ばれたのも、これが理由だと思う」
「ほう? それで私のコレクションを見つけたのか」
「ぐ、グラーフ、あんまり睨むのやめようよお」
おろおろするレーベ。「むぅ」と唇を尖らせるグラーフ。
「そ、そうよ、あれも何かの勉強に使えるかもしれないわっ!
思想の弾圧は圧政の第一歩よっ」
「あれを勉強に使われるくらいなら圧政上等だ」
拳を振って主張するビスマルクにレオナルドは重々しく応じる。さすがに、男としてきつい、かなり。
「だが、聖地秋葉原には、まだまだ様々なえ、……資料がある」
「いま、何を言おうとした。
というか、大丈夫か日本」
「日本って、NINJAとか、SAMURAIがいるんだよね。
確か、……えーと、…………血闘神、って言われている人の流派の、……かぐつち、だったと思うんだけど、それって日本の名前をとったとか。かぐつち、ってNINJAの名前なのかな」
「あ、あの人が」
血闘神、ザップやツェッドの師匠。その人が流派に日本に所縁のある名を当てたというのなら、あるいは自身が日本に縁のある人かもしれない。凄いな日本、と。思い。
「レーベも、詳しいんだね」
「う、……うん、えへへ」
詳しい、と言われて照れくさそうに微笑むレーベ。
「日本の情報がほしければ私のところに来るといい。
ジャパニメーション、という日本の情報はいくつか仕入れている。研究にはいいだろう」
「いや、それ、地雷な気がするから遠慮する」
「そう、か」
心持残念そうに呟くグラーフ。「同志ができると思ったのだが」と追加されたのでレオナルドは自分の選択が正しかったことを確信。
「グラーフ、その、じゃぱにめーしょん? にはあなたが持っていた教材のようなのもあるの?
も、もし一人が嫌なら、私が付き合ってあげても、いいわよ?」
「いや、残念ながら、その情報はなかった」
「………………まあ、いろいろ特殊な目だよ」
隣で交わされる不穏当な会話を打ち切りたくて告げる、と。
「ふーん、……けど、綺麗な瞳。不思議な感じはするけど、そういうの、嫌いじゃないわ」
「いっ?」
ずずい、と。キスできそうなほど顔を寄せるマックス。思わず、レオナルドは後ろに飛びのき、
「ちょ、ちょっと、なにやってるのっ!」
レーベは慌てて彼女を引きはがす。
「なにって、その瞳を見たの。
すごく綺麗よ。レーベも見てみたら?」
「へえっ?」
さっきの、マックスとレオナルドの距離を思い出し、自分をそれに重ねて、……顔を真っ赤にするレーベ。
レオナルドはのろのろと復帰する。ぽん、と肩を叩かれた。
「なんすか?」
そちらに視線を向ける。グラーフは淡々とした表情で親指を立てた。
「……う、うまい」
「そうよっ、兄さまお料理も上手なのよっ」
むんっ、と我が事のように胸を張るプリンツ。ウィリアムは苦笑して「まあ、いろいろね。一人で暮らしてると、何かと入用だし」
ウィリアムはLHOSに所属している。給料は決して安くない。寮で生活をしていたので生活費は浮く。
けど、妹の入院費がある。自然、倹約のためにも自炊が多くなる。
「れお、あんまりお料理できない」
「あ、あははは」
ぱくぱくと食べるユーの言葉に苦笑。男一人暮らしの自炊はできるが、ザップたちと食べに行くことが多かったレオナルドにウィリアムほど料理ができる自信はない。
「それさあ、ホワイトがたまにお弁当ねだってね。病院食だけじゃあ飽きたー、とか。
下手なもの作っていくと怒られるし、……はあ、僕、主夫じゃないのに」
遠くを見るウィリアム。なんとなく、その光景が想像できてレオナルドは納得。
「ああ、それか」
自分一人のためならあまり味や見た目にはこだわらないだろう。けど、ウィリアムがメアリのために作る料理に手を抜くとは思えない。
悪戦苦闘しながらメアリの好きそうな料理を作るウィリアム。そんな姿を想像し微笑。と、
「ホワイト?」
「ああ、「女、だな」まあ、そうだけど」
レオナルドが応じる途中に、どや顔で割り込むグラーフ。間違えてはいない。ウィリアムの妹なのだから。
けど、
「な、なによそれはっ! 提督っ! その女は何者っ? レオに続いてっ?」
「うー、兄さまにお料理ねだるなんて、うらやましいっ!」
「いや、続いてって、なに?」
妹と友じゃあだいぶ違うよ、と。続ける前に、ぽつり、と声。
「主夫? ふーん、提督、結婚してたんだ」
「「な、なんですってーっ!」」
がたっ、と立ち上がるビスマルクとプリンツ。
「け、けけ、結婚なんて、ぼ、僕にそんな相手いないよっ!」
結婚という言葉に顔を真っ赤にするウィリアム。
「提督、結婚したい女性、いないの?」
「え、ええ、……ええっ?」
そして、おっとりと追撃するユー。ビスマルクとプリンツがぎらぎらした目でウィリアムを見つめ、ウィリアム慄く。
女っ気なさそうな生活していそうだなー、と。レオナルドは他人事のように思う。……かくいう自分も仕事仲間を除けばメアリくらいだったが、棚に上げる。
「そ、そりゃあ、……僕、ちびだし、メガネだし、いいとこなしだし。…………僕なんかと結婚したいって思ってくれる人、いないよ」
「え?」
レオナルド、本気でウィリアムの頭を疑う。大絶賛好意を解き放ってる眼前二人が目に入っていないのだろうか?
ユーはふるふると首を横に振る。
「提督、ゆー、提督の事好き。
それに、LHOSの人も、提督の事、欲しいって言ってる女のひと、いた」
「えと、……あ、あはは、ありがと、ユー」
好きと言われて照れくさそうに微笑むウィリアム。「そうだな」とグラーフも頷く。
「提督、あまり卑下をするものではない。
ユーも言っているが、LHOSの女性職員も提督のことを欲しがっていた者はいる。女装させて、首輪をつけて監禁したいと」
「……さ、最後のはいわないでいいよ。怖いから、僕、LHOSの一員なんだから、本気で怖いから」
頬を引きつらせるウィリアム。
「ふーん、……けど、提督、女装似合いそう。
童顔だし、華奢だし、今度プリンツの服着てみれば?」
「やったーっ! 兄さまっ! 今夜お洋服交換しよっ! あと、お買い物っ! 兄さまに似合いそうな服見繕ってあげるっ!」
万歳のプリンツ。「やだよっ!」と、ウィリアムは首を横に振る。
「じょ、……女装をした、提督を、ひ、独り占め。……ふ、ふふ、うふふふふ」
頬を上気させた色っぽい表情でうっとりと語るビスマルク。触れてはいけなさそうなのでレオナルドは手元の食事に戻る。
「なんか、大変なことになってるね」
困ったような声が聞こえた。レオナルドは顔を上げる。
困ったように微笑むレーベ。
「前からこんな賑やかだったの?」
「ううん、レオ君が来てから、提督も嬉しそうだし、いつもより賑やかだよ。
僕も、……楽しい、し」
「そっか」
「提督も男の子だから、女の子に囲まれて生活してると、気を遣うと思うよ。
だから、レオ君が来てくれて安心したんだと思う」
「あー、その気持ちはわかるなあ。
女の子の中で男一人だと居た堪れないこともあるし」
「やっぱり」
レーベと言葉を交わす。……ぽん、とそんなレオナルドの肩が叩かれる。嫌な予感を感じながら視線を向ける。
「助けて、親友」
犬耳メイド服と猫耳ゴスロリで真剣な議論を交わすプリンツとビスマルクを示して、ウィリアムは泣きそうな表情でつぶやいた。
「提督、……いつか平穏になったら、一緒に秋葉原に行こう」
「絶対に嫌だ」
賑やかな昼食が終わり、改めて、レーベとグラーフは近海に出る。
哨戒ではない。出撃ではない。演習、それも、
「《神々の義眼》か」
グラーフは艦載機を構えて小さく呟く。どのようなものか、と。
「相当便利なものらしいけど、どんなものなんだろうね。
資料もよく解らなかったし」
一応、LHOSから資料はもらったが、具体的な記述はほとんどなかった。ただ、隠した名前を見抜く。ような事が書いてあった。
戦場で未知の機能に頼るというのは危険だ。その性能ははっきりと把握したい。
だから、
「レオには申し訳ないことをしたな。
朝から移動やらで疲れていただろうが」
なにせ、まだ彼の部屋の準備さえ終わっていない。せめて来たばかりの今日くらいはゆっくりして欲しかった。
とはいえ、深海凄艦はいつ来るかわからない。先日、念入りに警戒したが、それでも来ないとは限らない。
能力の把握は一刻も早く必要だ。その事情を説明し、彼は快諾してくれたが、それでも申し訳なくはある。
レーベも頷く。「終わったらゆっくりしてもらおうね」
「そうだな。いつ忙しくなるかもわからない。
休めるときに休むのは大切だ」
頷きあい、一息。グラーフは無線に口を寄せて、
「艦載機、一機、発艦する」
訓練内容は離れた場所にいるビスマルクの捕捉。通常の索敵訓練に《神々の義眼》を介入することで早期発見、対応を目指す、というもの。
『了解、ビスマルクに見つからないような、高高度でお願いね』
ウィリアムの声を聴いて、グラーフは艦載機を発艦。そして、
『《神々の義眼》を起動する。
グラーフ、レーベも、片目の視界が変わるから、注意して』
そして、二人の眼前に、《神々の義眼》が投影される。
「なに、……これ」
レーベが目を見開く。片目は今まで通り、海上にいる光景。
そして、もう片方の目、空を行く遠景が映し出される。
「これは、空。……艦載機の視界かっ?
レーベも同じものが見えているか?」
「う、……うん。……凄い」
そして、艦載機の視界という広範な遠景の中。小さな影、ビスマルクを見つける。
『グラーフ、艦載機は高度維持。
レーベ、視界が変わるから、注意して』
変わる? と。疑問を得た矢先、遠景から、徐々にビスマルクに焦点が近づく。小さな影から、顔が確認できるほど近くに、そして、
「凄い、これ」
とんでもないもの、とレーベは実感する。《神々の義眼》が投影された視界には、ビスマルクの位置、距離、障害物、そのすべてが映像として流れ込んでくる。あとは砲弾の飛距離を合わせて引き金を引けば、当てられる。
『グラーフ、ビスマルクと視界を共有する。
レーベが砲撃距離に入るまで、彼女に指示を出して』
「あ、ああ」
途端、グラーフのもう片方の目にも《神々の義眼》が投影される。その映像は、「ビスマルクの視界、……いや、知覚範囲の映像、か」
前だけではない。ビスマルクがレーダーで探る範囲。そのすべてを映像として視認。
「レーベ、直進だ。……レーダーの捕捉域外だから速度は上げていい」
「う、うん」
グラーフの言葉にレーベは駆け出す。その後ろをグラーフもついていく。………………「捕捉域に入った。速度低下」
「了解っ」
速度を落とし、静かに、進む。
「ビスマルクの砲撃範囲内、捕捉範囲内に入らないといけないんだね」
「目視は、視界をそらした隙に近寄ればいいが、さすがに音は無理か」
ビスマルクがどこを見ているか、グラーフはそれを把握している。
「魚雷で、気を引いた隙に突撃、かな」
「それがいいだろう。魚雷発射のタイミングは任せてくれ」
ビスマルクの視界がそれる。グラーフはそれを待ち、…………「撃て」
模擬魚雷発射。ビスマルクを挟んで向こう側に模擬魚雷が爆発を模した音を立てる。ビスマルクは反射的にそちらに視線、そして、砲を向け。………………その背中に、着弾。
「いたっ? 後ろっ?」
振り返る。そこには砲を構えたレーベがいた。
チートな眼。《神々の義眼》は眼球、視界、視力などに関しておおよそ万能な義眼という事で、思いつきでいろいろと活用します。
戦わないチート能力は書いてて面白いです。戦うチートは難しくて書けませんが。