トータスナイトが基地に着任しましたっ!   作:林屋まつり

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五話

 

 みんなで集まっての夕食。これが終わったらあとは各々入浴して、自室で自由に過ごす、と。レオナルドはマックスから話を聞く。

 マックスの言葉にレオナルドは頷き、入浴終わったら遊びに来て、と。プリンツは熱心にウィリアムに呼びかける。そして、

「お風呂だけど、レオ、一緒に入ろう」

 爆弾が投下された。

 

「ちょ、ちょっちょ、ちょっとっ! ま、まま、マックスっ!

 な、なな、なな、何を言い出すのっ、ちょっと落ち着こうよっ! ねえっ!」

「い、いや、レーベが、落ち着いて」

 がくがくと肩を揺さぶりながら混乱するレーベにマックスが応じる。ふむ、と。

「そうだな。ともに戦うのなら、裸の付き合いも重要だろう。

 どうだ? 提督も」

「ぶほっ?」

 大変だなー、と、他人事目線になっていたウィリアムはグラーフの言葉に噴出した。

「やったーっ! 兄さまと一緒のお風呂ーっ!」

「ちょ、だ、だめよっ! プリンツっ! そういうのは段階を踏んでからよっ!」

「段階っ?」

 顔を赤くして主張するビスマルクにウィリアムは声を上げる。レオナルドは深く、深く、深呼吸。

「あのさ、マックス。

 何がどうしてそういう発言が出たか、教えてくれないかな?」

 意識せず浮かべた不自然に優しい微笑のレオナルド。

 マックスは頷く。

「いい、レオは《神々の義眼》を持ってる。

 つまり、覗き放題よ」

「覗くかーっ!」

 できなくはないが、やるという発想がそもそもなかった。

「れお、ゆーのお風呂、覗きたい、ですか?」

 ちょん、と服をつまんで問いかけるユーにレオナルド固まる。

「まあ、確かにできなくはないよね。旧友」

「旧いになったっ?」

「て、提督は、私の入浴を覗いてもいいのよっ?」

「だってさ、よかったね。旧友」

 顔を真っ赤にして錯乱するビスマルク。そして、優しい笑顔のレオナルド。

「の、覗かないよっ!」

 それはともかく、

「覗かれるかもしれない。って思いながらお風呂に入るなら、一緒に入ったほうが気が楽」

「いやいやいや、そういう問題じゃないだろっ! 第一、覗かないよっ!」

「ふーん、……そう」

「信じてないよね?」

 こんな事を疑われたのは初めてで非常に心外。

「そうだ。マックス。それはよくない」

 グラーフはしたり顔で頷く。ウィリアムは安堵しレオナルドは不安。

「裸の付き合いなら、レオと提督ですべきだ」

「「しないっ!」」

 がたっ、と音。

「是非、このプリンツに覗かせてくださいっ!」

「ああ、……私の偵察機は、この時のためにあったんだ」

「なわけがあるかっ! ともかくっ! 僕は一人で入るっ!」

「ちっ」

「舌打ちするな空母。

 ともかく、僕はそんなことしない、信じてくれよ」

「……ふーん、そう」

「マックスっ、だめだよっ!

 レオ君が困ってるよっ」

 レーベに窘められてそっぽを向くマックス。そして、レオナルドは彼女の手を取る。

「ありがとう、味方はレーベだけだよ」

 横目で見るのは主に敵の空母。

「う、……うん」

 そして、レオナルドに手を握られ、レーベは顔を真っ赤にする。マックスはそんな彼女を横目にして、

「レーベは、一緒にお風呂入りたくない?」

「ふぁいっ? な、なな、なななななっ?」

「ふーん、そう、そうなんだ」

「何がそうなのっ、もうっ! マックスも変なこと言わないでよっ!」

 ふんっ、とそっぽを向くレーベと、彼女を見て小さな笑みを浮かべるマックス。

 ふと、そんな彼女たちを見てレオナルドは、微笑。

「なんか、……賑やかだな」

「どこもそんな感じなんだろうね。なんだかんだ言ってもさ」

 いま、世界でも指折りに賑やかなところにいた二人は、そういって笑みを交わした。

 

「はーっ」

 当然、彼女たちの期待か不安か、ともかく思っていたことは起こらず、レオナルドはあてがわれた仮眠室にあるベッドに寝転がる。

 と、戸が叩かれる。夜、彼女たちは寮に向かったはず、だから。

「ブラック?」

「うん、いいかい?」

「どうぞー」

 応じる、と。「酒?」

「あ、ひょっとして飲めない?」

 ブラックの手には酒瓶、そして、グラスが二つ。

「ま、多少なら。……っていうか、ブラックは飲めるんだ」

 童顔の彼が酒を飲めるのは少し意外。対して彼は苦笑。

「僕の父親、術師だけど表向きはウイスキー製造工だったんだ。

 実は子供のころからたまに飲んでた」

「それは、……意外だな。え? ホワイトも?」

「あいつは無理。全然弱いの。

 すぐに寝ちゃってさ。父さん、ちょっと残念そうにしてたな」

「そうなんだ」

 ともかく、奥にあるデスクを引き寄せて、ウィリアムとレオナルドは壁際にある二段ベッドに、向かい合うように座る。

 グラスに酒を注いで、ちん、と音。

「まずは来てくれてありがと」

「どういたしまして、っていっても、本番はまだだろ?」

「ま、そうだけどさ」

 ウィリアムはグラスを傾ける。一口。

「あの娘たちのことだけどさ」

「うん」

「彼女たちと、仲良くしてやってくれないか?」

 その言葉、……レオナルドは即答せず、その言葉をかみしめる。

 賑やかな少女たち。よく笑い、自分が無理したときは心配してくれた。そんな彼女たちその後ろにあるものは、おそらく、とても、……とても、重い。

 だから即答せず、与えられた情報を吟味する。咀嚼する。自分なりに考える。…………けど。

 ま、仕方ないか。

「わかってるよ。親友」

 

 実を言えば、ビスマルクには自分が作られた意味を理解できていなかった。

 建造に成功した、と。声。やはり器物にも魂があったのだ、という声。

 なら次は、なら次は、なら次は、なら次は、なら次は、……そんな声を無為に聞いていた。自分は成功例。それ以上の何かはほとんど求めていなかった。

 いくつかの問診。そして、演習。

 砲撃する。砲撃する。砲撃する。砲撃する。砲撃する。砲撃する。

 的に、今では深海凄艦、と呼ばれる失敗作に、ただ、淡々と、文字通り、兵器として砲撃を繰り返す。

 歓声、砲撃の標的を破壊するたびに聞こえる声。

 ただ、見て、撃つ。偽装の駆動は手足を動かすのと同じだ。特別な何かをしたという感覚はない。

 だから、その歓声に対する感傷はない。

 これで帝国を取り戻せる、そんな声が聞こえた。

 再度日本と同盟を結び、さらに量産をしよう、そんな声が聞こえた。

 否、この兵器を使い属国として徹底的に技術を収奪しよう、そんな声を聞いた。

 日本、……か。

 かつての同盟国、そして、ツクモ、と呼ばれる技術。…………技術だか何だかわからないが、ともかく、自分たちを形作った基盤を持つ国。

 レーベが建造された。マックスが建造された。プリンツが建造された。ユーが建造された。グラーフが建造された。

 …………その間合いに、いくつもの失敗作が建造された。歓声と、その数倍の落胆はいい加減聞き飽きた。

 艦の魂と人の魂、その同調に失敗した存在。らしい。依代に不適合だったとか、憑依に失敗したとか、そんな声も聴いたけど、そもそも依代も憑依も言葉の意味が解らない。……もっとも、魂もなんだかわからないが。

 ただ、建造されたとはいえ羊水に揺蕩うような日々。成功例として十分に確認された後は、建造や研究に忙しいのか自分はほとんど放置されていた。

 退屈だった。……もっとも、砲撃を行うだけの日々が刺激に満ちていたか、と問われれば疑問だが。

 だから、自分は何のために作られたのか、よくわかっていなかった。

 本国、ドイツに攻め込み、帝国とやらを取り戻すのか、あるいは、かつての同盟国、日本に侵攻でもするのか。

 そんな漫然とした日々は、……最後の成功例により、終わった。

 

 目を開ける。朝。

「ん、…………ふ、う」

 ビスマルクは一つ、伸びをする。眠っていた体が動き出す。

 窓の向こうには陽光。ウィリアムに助けられて、……そして、見たもの。

 しばらく、その陽光に見惚れていたのを思い出す。あそこではついぞ見る事のなかった美しい光。そして、美しい陽光に映える、金糸のような、繊細な金色の髪。

 穏かな陽光のような、優しい、笑顔。

「おはよう」

 彼のことを思い浮かべ、……そして、朝一番に彼の笑顔を思ったこと、そんな自分に少し、気恥ずかしさを感じながら呟いた。

 

「おはよう、ユー」

「おはよー、です」

 部屋を出ると、まだ少し眠そうなユー、ビスマルクは苦笑して彼女の髪に触れる。

「ユー、髪を整えなさい。

 でないと、提督やレオにだらしない女の子、って思われるわよ?」

「…………や、ゆー、だらしない女の子、って思われたくない、です」

 ふるふると首を横に振る。時計を確認すればまだ時間はある。

「仕方ないわね。

 来なさい、整えてあげるわ」

「うん」

 眠そうなユーの手を引いてビスマルクは自室へ。鏡台に座り、ユーを膝に乗せる。ほかの娘たちだと少し重いけど、小柄なユーは気にするほどではない。

 だから、膝にのせて、丁寧に髪を梳いていく。

「……ん、…………」

 くすぐったそうな声に微笑。もともとユーは饒舌なほうではない。ビスマルクも、特にしゃべることも思い浮かばず、静かに彼女の髪を整えていく。

 穏かな時間。……「ビスマルク姉さん」

「なにかしら?」

 不意に、声。髪を整えてもらっているユーは動かず、ただ、言葉が聞こえる。

「今、楽しい?」

「ええ、楽しいわ」

 即答。そして、

「ユーも、楽しい?」

「うん、みんなと、提督と、れおがいて、楽しい」

「ええ、…………そうね」

 今度は、少し苦いものが口調に混じったことを自覚する。

 レオナルドがいないときも提督、ウィリアムは優しく接してくれた。けど、

 レオナルドが来て、彼は楽しそうだ。そんな彼を見て改めて、自分たちに遠慮があったことを自覚する。

 もちろんわかっている。ウィリアムにとって自分は異性でレオナルドは同性。そして、同性同士のほうが話しやすいことも多いだろうし、逆に、異性の中で一人男性というのはいろいろと気にすることは多いだろう。優しいウィリアムなら、なおさら。

 そう、わかっている。…………けど、面白くない。レオナルドと楽しそうに話すウィリアムを見ると、自分にもそうしてくれないのが面白くない。

 だから、

「みんなと、ずっと一緒にいたい」

「それは無理よ」

 ユーの言葉に、ビスマルクは微笑み応じる。ユーは振り返る。ビスマルクは丁寧に彼女を撫でて、

「レオは、一時の派遣よ。

 終わったら彼の居場所に帰る事になるわ」

 居場所、HL。こことは遠く離れた、異郷の地。あるいは、異形の地。

 あるいは、ウィリアムも、……自分たちはこのままドイツの軍に属するかもしれないが、ウィリアムはLHOSの術師。行く場所はバラバラになる。

 それは、……とても寂しい事。

「や、です」

 それが解っているから、ビスマルクの服を掴み抗議する。苦笑。

「だから、頑張りましょう」

「頑張れば、ずっと一緒にいられる?」

 問いに、首を横に振る。

「私たちの能力が認められれば、意思を通せる場所に行けるでしょう。

 そうなったら、また会いに行けるわ」

 ただの兵器としての成果しか出せなければ、そのように扱われ、自由などないだろう。

 けど、より高い成果を出せれば、…………あるいは、海軍でも高い階級に踏み込めるかもしれない。

 高い階級は相応の権限を約束する。LHOSやHLに踏み込むこともできるだろう。そうなれば、また、会うことができる。

 あるいは、そう、ずっと一緒にいられる事もできるかもしれない。そのためには、

「だから、私たちの意思が貫徹出来るように頑張りましょう。

 そうすれば、いつでも会いに行けるわ」

 そう、私たちは軍艦であり少女。海も陸も踏破できる。なら、あとは、正々堂々会いに行けるようにすればいい。

「ん、……頑張る。

 ゆー、みんなとお別れは、いや、です。さようならしても、また会うの、したいです」

 

「おはよう。……って、どうしたの? レオ、朝からだらしないわね。シャキッとしなさい」

「れお、夜更かし?」

 食堂に到着するとぐったりとしているレオナルド。

「あ、あはは、……ごめん」

 ぐったりしたまま動かないレオナルド、さて、なんといってやろうか、とビスマルクが気合を入れたところで、

「酔っぱらったんだよ。結構酒に弱いんだね。レオナルド」

「うるさいなー

 ブラックが強すぎるんだよ」

 その声を聴いて、ビスマルクはレオナルドを引っ叩いた。

「いたっ?」

「提督とお酒なんて、聞いてないわよっ!

 なんで私を誘わないのよっ! 付き合ってもよかったのにっ!」

「知らないよっ! ブラックが押し掛けてきたんだよっ!」

「提督っ! 私の部屋に押し掛けてよっ!

 提督なら夜這いをしてもいいのよっ?」

「しないよっ!」

 がたっ! と、音。

「…………は、はわ、はわわっ」

 顔を真っ赤にするプリンツと「変なこと言うなよ?」

 グラーフに視線を向けてレオナルド。彼女は重々しく、心得た、と頷く。

「提督がレオに夜這いか、胸が熱いな」

「ちがーうっ!」

 がしゃんっ! と、奥から盛大な音が聞こえた。

 

 朝食時、ユーはおっとりと首をかしげて問う。

「よばい、って、なんですか?」

 問いの先、レーベとマックスは動きを止める。固まった。ビスマルクは助け船を出さなかった。

 

「さて、今日の任務だね」

 執務室、きっちりと整列した彼女たちの前でウィリアムはプリントアウトされた書類に視線を落とす。

「グラーフと、レーベ、マックスの三人は近海の哨戒。レオナルドも手伝うように、ユーはレオナルドについてて、ビスマルクはいつでも出撃できるように待機。

 プリンツ、僕の仕事を手伝って」

「「「「「「了解っ!」」」」」」

 声が、響いた。そして、それぞれの場所へ。

「さて、……と」

 そのうちの一人、レオナルドは執務室の隣へ。集中できるように、と、内線だけ用意された、がらん、とした部屋。

「れお、無理しないで、ね」

 椅子に座るレオナルドに、心配そうにユーが声をかける。冷やしたタオルを横に置く。

「まあ、哨戒だからね。大丈夫だよ」

 心配そうなユーを軽く撫でる。ユーはくすぐったそうに目を細めて、

「うん、……けど、これはゆーたちのお仕事。

 れおたちが助けてくれるの、嬉しいけど、それで怪我したら、……悲しい、です」

「そうだな」

 ビスマルクの言ったことを思い出す。軍属として、決して譲れないことがある、と。

 …………なんとなく、だけど。

 例えばクラウス。ビスマルクの戦いを見たことがないからわからないけど、もしかしたら彼はビスマルクより強いかもしれない。……否、仮に強かったとしても。

 それでも、ビスマルクはクラウスを守るために戦うだろう。強いとか弱いとか関係ない。己の意思を貫徹するために、

「格好いいな」

「誰が?」

 ぽつり、零れた言葉にユーが首をかしげる。レオナルドは苦笑。

「誰かを守る、ってことがさ。

 僕、眼が特殊なだけで普通な人だから、正直言うとそういうの、羨ましいよ」

 苦笑、対して、ユーはふるふると首を横に振る。

「ゆー、あんまり強くないの。装甲とか薄いから、攻撃を受けたら大変。

 けど、そうならないようにビスマルク姉さんとかが、守ってくれる。……けど、ビスマルク姉さん、潜水艦の相手は苦手だから、代わりにゆーが頑張る」

 だから、と。ユーはレオナルドの手を握って、

「みんな、出来ないことたくさんある、です。

 けど、出来ることもあるから、出来ることを頑張って、出来ないところは、出来る人に、お願いするの。提督、それが仲間だって、言ってたの」

「そう、だね」

 思い出すのは、ライブラのメンバー。……そうだね、と。思い描いた人たちの事を思う。

 自分には戦う能力はない。……けど、みんな、自分のことを認めてくれた。頼ってくれた。

 だから、

「うん、そうだね。ありがと、ユー」

「ん」

 レオナルドの浮かべた微笑に、ユーも微笑み返す、さて、と。

「それじゃあ、頑張りますかっ!」

 

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