また、同作品をヒロインのシスティーナの視点から見ていくのが本小説です。
なるべく原作に近づけるように努力します。
「あ、あ、あああ貴方は―ッ!?」
ずぶ濡れで擦り切れた服を着て、擦り傷や、痣、切り傷を持っていて、さらには汚れている男が教室に入ってきた。
抹消したはずの記憶がよみがえる。朝、最悪の出会いをした男がそのままの姿でそこにいた。
「...違います。人違いです。」
男はぬけぬけとそんなことを言っていた。
この学院に非常勤講師として来た今でも、男の調子は依然として変わっていなかった。
「そんな訳あるもんですか!あんたみたいな人そうそういないわよッ!」
「ははは、人違いだって言ってるじゃないか。それよりお嬢さん、人を指さすなって習わなかったのかい?」
笑顔だけは紳士のそれのまま、男はシスティーナの言葉を受け流す。
「それにあんだけ時間に余裕があったのに遅刻すんのよ!」
「それは...時間に余裕があると知ったから公園でちょっと休もうと思ったら本格的に寝てしまったからに決まってるだろう?」
男は堂々とそんなことを言っていた。
この最低な物言いにクラスはただ呆れていた。
男はそんなクラスの雰囲気を華麗にスルーして、黒板に名前を書いていく。
「えー、本日から約一か月間君たち生徒諸君の勉学をお手伝いさせていただきます、グレン=レーダスです。えー、これから、一生懸命頑張ってい...」
「それはいいから、遅れた分早く授業始めてくれませんか?」
システィーナは怒りを隠そうともせず、グレンに対してそんなことを冷たく言い放った。
もっとも、これはクラスの誰もが思っていることだったが。
「んー、まあ、そうだな...じゃあ、始めるか...めんどくせぇけど。」
グレンは最早言葉を取り繕うことも面倒くさくなったのか、素のしゃべり方で話し出した。
「よーし、じゃあ、始めるぞー...一限目は魔術基礎理論Ⅱだったな...あふ」
あくびを噛み殺しながら、グレンはチョークをとり、黒板に向かって立つ。
途端、生徒たちは気を引き締め、グレンの一挙手一投足に注視し始める。
遅刻する、服はボロボロ、態度も悪いなどと、第一印象こそ最悪だったが、前評判では一から七まである魔術師の位階のうち
そのため、さっきまでは冷たく当たっていたが、グレンの授業に期待していないと言えば嘘になる。
そして、グレンは授業開始を大幅に遅れ、ついに書いた文字は―
自習
自習だった。圧倒的な沈黙が教室を支配していた。
その沈黙は緊張によるものではない。ましてや集中によるものでもない。呆れによる沈黙だった。
「え...自習...?じしゅ...え?...え...?」
システィーナはそのたった二文字について自分が真っ先に考えた意味とは別の意味を考えた。しかし、そのことごとくに失敗した。
ならばと思ってスペルの分解再構築を試みるも、これにも失敗した。
当然だ。なにせこの二文字に他の意味も何もないからだ。
「えー、今日の一限目は自習にしまーす...眠いから」
さりげなく最低な理由をつぶやいて、それを聞いたシスティーナはついにこの二文字の意味を理解した。
そして、クラスをさらなる沈黙が支配する。
そんなクラスをよそに、グレンは机に突っ伏した。
そして、十秒もしないうちに教卓からいびきが聞こえてくる。
数秒の間、時が止まっているかのようにクラスの全員が硬直した。
そして、
「ちょおっと待てぇぇえええーッ!?」
システィーナは分厚い教科書を振りかぶってグレンに向かって突進した。
「ちょ、おま!?やめろって!ただでさえ朝お前に吹き飛ばされるやら蹴られるやらされて全身痛いんだよ!?」
「うっさい!?だったらちゃんと授業してください!」
システィーナは突進したまま、教科書をグレンに投げつけた。
「俺だって働きたくてこんなところに来てるんじゃないんだよ!?セリカに無理矢理働かされてんだよ!?」
「だとしても生徒に迷惑のかかるようなことはしないでください!」
と、一悶着あった末に―――
「うわー、見ろよロッド、あの講師を...」
「ああ、死んだ魚のような目をしてる...」
「あんなに生き生きとしてない人を見るのは初めてだ...」
教室のあちこちからひそひそと囁く声が聞こえる。
「でー多分こうだからーーー、きっとーーこんな感じになってーーでー、大体、こうでーーー」
教室中の生徒の蔑んだ視線の先には、頭に大きなタンコブを乗せ、物凄く緩慢な動作で授業をしていた。
確かに授業はしているものの、これなら自習をしていた方がマシというぐらい最悪なものだった。
それは、聞いていて理解できない。そもそも説明と呼んでいいのかすら分からない。だらだらとやる気のないこえで要領を得ない魔術理論の講釈を読み上げ、時々思い出したかのように、黒板に判読不能な汚い文字を書いていく。
生徒たちはこの授業を何一つとして理解できなかったが、この男が恐ろしくやる気のないことだけは理解できた。
そして、そのうち生徒たちは各々自習をはじめた。
しかし、それでも何か得るものがあるだろうと思って健気にグレンに質問をしに来る生徒もいた。
「あの...先生...質問があるんですが...」
小柄な少女が恐る恐る手をあげる。
名前はリン。すこし気弱そうな、小動物のような雰囲気を持つ少女だ。
リンはこの最低な授業でもなにかを得ようとする数少ない生徒だった。
「なんだ、言ってみな?」
「ええと...先生がさっき説明していた五十六ページ三行目に載っているルーン語の呪文の一例なんですが...これの共通語訳がわからないんですけど...」
リンは、授業をしていれば通常出るであろう質問をしたのだが、
「ふっ...俺にもわからん」
「えっ?」
グレンは、通常ではしない返答をした。
「すまんな、自分で調べてくれ」
こんなグレンの対応に、システィーナはますます腹を立て、席を立ち、猛然と抗議した。
「待ってください先生。講師なら生徒の疑問に対してちゃんと答えてください。」
そんなシスティーナにグレンはため息をつきながら、
「あのなぁ、俺だってわからんって言っただろ?そんなのでどうやって教えろと?」
そう抗議した。
「生徒の質問に答えられないのなら、調べてきて次回の授業で答えてください。」
「うーん?...だったら、自分で調べた方が早いだろ?」
グレンはやはりやる気のない様子で、自分からは教えようとも調べようともしなかった。
「違います!私が言いたいのは...」
「...あ、お前らもしかしてルーン語の辞書の引き方知らねぇの?じゃあ仕方ねぇな...俺が調べてきてやるよ。...めんどくせぇなぁ...」
「ぐ...辞書の引き方ぐらい知ってます!もう結構ですッ!」
システィーナはそんなグレンにしびれを切らして肩を怒らせて荒々しく席に戻っていった。
ルミアはそれをはらはらした様子で見守っており、
クラスの雰囲気は最悪だった。
結局、その授業は何も得るものの無い授業となってしまった。
その後、学院の女子更衣室にて。
システィーナたちは次の授業の錬金術実験のために着替えるため、この女子更衣室に来ていた。
身に着けている制服やケープ・ローブを脱ぎ捨て、上下の下着姿となったシスティーナは木製のロッカーにそれらを叩き込み、苛立ちを隠そうともせず吐き捨てた。
「全くもう!何なのアイツ!?」
「ま、まあ...システィ、落ち着いて...」
ルミアがなだめようとするが、システィーナの怒りは依然として収まらない。
「やるきなさすぎでしょ!いくら非常勤とはいえ、あの態度はこの学院にいる者として許せないわ!」
「確かに...グレン先生にはもう少しやる気出してほしいな...」
「はぁ...錬金術実験の監督もアイツでしょ?」
「うん、そうだよ。グレン先生はヒューイ先生の後任だから。」
「あぁ...頭が痛くなってきたわ...」
その時、それまで怒りを全く隠していなかったシスティーナが、何かを閃いたように口元をゆがめ、隣にいる上下下着姿のルミアを流し見る。
「これは癒しが必要ね...」
「うん?システィ、どうしたの?」
システィーナは戸惑うルミアをよそに、素早く背後からルミアに...抱き着いた。
「えい!」
「ひゃぁ!?システィ、何するの!?」
システィーナはルミアの背中に自分の胸を当て、下着越しにルミアの胸の二つのふくらみに手を当てた。
「あーやっぱり、ルミアの体はいいなー、肌は白いし、肌はきめ細かいし」
「ちょ、シ、システィ、ダメだよ!」
子猫のようにすりつくシスティーナから逃れようとルミアは抵抗するが、システィーナの腕が絡みつき、ルミアは逃げようにも逃げられない。
「きゃん、システィ、あ、ダメ!」
「むぅ...ルミア、なんか、順調に育ってるわね...」
掌から伝わってくる芯のある感触が微妙に変化していることに、システィーナは眉根をひそめる。
「やっぱりいいなぁ、これ...なぜか私は全然胸に栄養行かないからなぁ...癒すつもりが...」
「システィ!いい加減やめてよっ!」
「あー羨ましいなぁ...ほれ、ここか?ん?」
年頃の男子には辛い光景がそこには広がっていた。
「ず、ずるいですわっ!テレサ、いつの間に!...」
「うふふ、成長期ですから」
「リン...身長低めなのに結構胸あるのね...」
「あ、やめてよ...」
どうやら、この年頃の少女がすることは同じらしい。更衣室のあちこちで、悩ましい光景が繰り広げられていた。
そんなところに、
「あーもうめんどくせぇな!なんで実験するだけなのに着替える必要があるんだよ」
ガシャンという乱暴な音とともに、ドアが開け放たれた。
「あー...俺が学院にいたころと更衣室の場所変わってるみたいだな...」
どうやら、グレンがこの
その瞬間、更衣室内の温度は氷点下よりもずっと低くまで下がった。冷気を発生させる魔術は存在するが、これはそれをはるかに上回る威力だった。
それと同時に、殺気も渦巻き始めていた。その殺気は徐々に大きさを増し、グレンへと向けられた。
「ちょっと待てお前ら、俺の話を聞け。」
一瞬、生徒の動きが止まった。死刑執行前の死刑囚でも、遺言を言うことは許されるのだ。
「今帝都で流行りの青年向け小説にあるラッキースケベ的な展開を自分の身をもって体験するとは思わなかったが...そん時の主人公ってアホだよな?目を伏せたり、反らしたりしてもその後ヒロインたちに殴られのは確定してるのにな。たかが下着姿をチラッと見ただけでボコボコにされるなんて釣り合わん。だから俺は、この光景を目に焼き付けるッ!」
そう言ってグレンはカッと目を見開き、仁王立ちし、修羅の形相でその光景を凝視し始めた。
「「「「「この変態ーッーーー!」」」」」
ちなみに、この日の二年次生二組の錬金術実験は担当する講師が人事不省に陥ったために中止になった。
―――その日の昼にて
「おかしいと思うのよ、あれは。」
「うん、何が?...もしかして、グレン先生のこと?」
「確かにアイツもおかしいけど...去年発表されたメルガリウスの天空城の論文についてなんだけど」
「えっと...去年のっていうと...フォーゼル先生の論文のこと?」
「それよ!だからおかしいのよ、フォーゼル先生の魔導考古学論文の説は。ルミアもそう思わない?」
仲の良い二人は、いつものように一緒に食事をとっていた。
「あの人の説だと、『メルガリウスの天空城』が建造されたのは、聖歴前4500年くらいになっちゃうの。確かに次元位相に関する術式が古代文明において本格的に確立したとされているのが古代中期なんだけど、フェジテ周辺で多々発見された古代遺跡の壁画や、発掘された遺物からすると、聖歴前5000年にはもうすでに『メルガリウスの天空城』らしきものが空に浮かんでいたってされてるの。この事実を無視して、魔導技術的に不可能だからってだけで、4500年説をごり押しするのはどうかと思うわけ。あの人が新しく考案した年代測定魔術は、どうもこの500年を誤魔化すために作られたこじつけのような気がしてならないわ!机の上の思考や文献調査を過剰に重視するあまり、フィールドワークをおろそかにしがちな現代の魔術師らしい説ね。そもそも、古代中期の次元位相術式で、本当に天空城が空に隠されているのだとしたら、もうとっくに時間切れになってるはずじゃない?だって、当時のマナ密度からして、エクステンション限界が―――」
しかし、今は(やや一方的だが)魔導考古学についての議論中らしい。
魔導考古学とは、超魔法文明を築いたとされる聖歴前古代史を研究し、当時の魔導技術を現代に蘇らせることを目的とする魔術学問である。その中でも、特に『メルガリウスの天空城』に執心する魔術師たちをメルガリアン、などと呼んだりする。
どうやら、システィーナは典型的なメルガリアンらしかった。
もっとも、システィーナの祖父は、魔導考古学の権威であった。システィーナのメルガリアンっぷりはそこから受け継がれているようであった。
そこに、
「失礼」
一応、一言断ってから、グレンはルミアの正面、システィーナの対角線に座った。
今まで、魔導考古学の議論に夢中だったシスティーナはグレンがやってきたことによって、やっと我に帰ったようで、
「ーッ!?貴方はーッ!?」
「違います。人違いです。」
いつものようにシスティーナをスルーし、グレンは食事を始めた。
地鶏の香草焼きを適当な大きさに切り分け、ライ麦パンに細切りの揚げ芋とチーズサラダを挟んでかぶりついた...
「美味いな...やっぱり、この感じが帝国って感じするよなぁ...」
先ほどの事件からさほど時間は経っていないはずなのに、グレンはそれを一切気にせず食事を続ける。そのふてぶてしい態度に、システィーナは口をパクパクさせるしかなかった。
その後、しばらくの間、かちゃかちゃと食器の鳴る音だけが響いた。
「あの、先生って結構食べるんですね?お食事が好きなんですか?」
「ああ、そうだ。食事は俺にとって数少ない娯楽の一つだからな。」
意外にも、グレンと接しているのは、ルミアだった。
ルミアの言う通り、グレンはよく食べる。グレンはいわゆるやせの大食いというやつだった。
「ふふ、その炒め物、すごくいい匂いがします。」
「お、分かるか?この時期、学園にキルア豆の新豆が入ってくるんだ。だから、このキルア豆のトマトソース炒めは、今の時期おすすめのメニューだな。」
グレンは、自分から話しかけることは少ないが、相手から話しかけられれば、しっかり応じるタイプなので、ルミアとは話し相手として、相性が良かった。
「そうなんですか?じゃあ、私も明日にでも食べてみますね。」
「おう、おすすめだ。なんなら、今、一口食ってみるか?」
「え、いいんですか?でも、それだと私と間接キスになっちゃいますよ?」
ルミアは、唇に指を当て、子供っぽく笑みを作った。
「いや...ガキじゃあるまいし。」
呆れたように、ルミアの前に炒め物の乗った皿をだす。
ルミアは、嬉しそうに自分のスプーンで豆をすくい、口に運んだ。
ルミアに影響されたのか、グレンも口元に笑みを作る。
嬉しそうな二人だったが、システィーナだけはそれをつまらなさそうにグレンを凝視していた。
さすがにグレンもここまでくると無視できないのか、ため息交じりにシスティーナに話しかけた
「で、そっちのお前、そんな量で足りるのか?」
いきなり話しかけられたので、一瞬動揺したが、すぐに平静を取り戻し、返答した。
「食事のことまで先生に指摘される筋合いはないんですが?」
確かに、グレンの言う通りシスティーナの食事は少なかった。
ルミアは、麦粥に鳩のシチュー、サラダと、比較的しっかり食べているが、システィーナはレッドベリージャムを薄く塗ったスコーン二つだけと、成長期の少女にしては、食べている量が少なかった。
「んなこと言われてもな...」
「余計なお世話です。私は午後の授業に眠くならないように、あまり食べていないだけです。先生には関係ないでしょうけどね。」
システィーナは、グレンの食べようとしている料理を一瞥し、そんなことを言った。
「回りくどいな...」
それに対して、グレンは、声を半オクターブ下げて応じた。
それにシスティーナは敏感に反応し、表情に緊張が走った。
「言いたいことがあるなら、はっきり言ったらどうだ。」
「ええ、そうですね。いい機会ですし、はっきり言わせてもらいます。私は―」
システィーナがキッとグレンを睨みつけ、何かを言いかけたところで、
「ああ、分かったよ、分かった。そこまで思い詰めてたとは思わなんだ。」
「...え?」
そんなグレンの切り返しにシスティーナは戸惑っていたが、
「この炒め物、お前さんも食いたいんだろ?人のものを食いたがるなんて...いやしんぼめ。」
グレンが勘違いをしていると知ると、
「ち、違いますッ!私はそんなことを言いたいんじゃなくて―」
屈辱に肩を震わせ、机を叩いて立ち上がった。
だが、グレンはそんなシスティーナをよそに、システィーナのスコーンの一つにフォークを突き刺し、それをあっという間に食べてしまった。
「うーん、こういうのもたまに食ってみると美味いなぁ」
「あーッ!?何勝手に食べてんのよ!」
「いや...えっと...等価交換?等価交換って基本だろ?だから俺の豆もやるよ。」
悪びれもせずそんなことを言うグレンに
「どこが等価交換なのよーッ!だいたいあなたという人は!ちょっとそこに直りなさい!今度こそはガツンと言ってあげるわ!」
「うおッ!?危ねッ!?食事くらい静かにとらせてくれよ、俺の数少ない楽しみなんだよーッ!」
システィーナはついに我慢の限界が来たのか、グレンとテーブル越しにナイフとフォークでチャンバラを始めていた。
「知らないわよッ!勝手に人の食べ物奪っといて何言ってるの!」
「いや、だから等価交換だって言ってんだろ!?ちゃんと俺の豆もあげるから!」
「そういうことじゃなくて、私は勝手に人のものをとったことに怒っているんです!」
「あー、もううるせぇな!お前は俺の母親かよ!?」
何事かと周囲から集まる痛い視線の数々。
「違います!たとえ貴方のの母親じゃなくても同じこと言ってます!」
「そんなことねぇよ!そんなこと言うのは、お前かセリカぐらいだ!」
ルミアは二人を苦笑いしながら見守るしかできなかった。
しかし、これはまだグレンがこの学院に来てからわずか一日目の話である。
グレンが非常勤講師として雇われているのは約一か月の間である。
この話は、まだその幕開けに過ぎなかった。
途中の百合百合しいやつとか、システィーナさんがメルガリアンっぷりを遺憾なく発揮してるところとか、ガチで原作にありますからね?
気なったのならぜひ、原作ライトノベルを買って、読んでみてください!(宣伝)