「……吉井」
「……なんでしょうか、西村先生」
「進級早々問題行動か……お前はいつになったら学習するんだ」
「すみません……」
僕は始業式の後鉄人に呼び出され、進路指導室で説教されることになった。
「坂本も少しやり過ぎだとは思うが……お前もお前だ。もっとTPOをわきまえて行動しろ」
な、なんて?
「えっ……と……PKO?」
「それは平和維持活動だ……。TPOは、
英語
「時、場所、場合のことだ。その行動は今していいのか、ここでしていいのか、この状況でいいのかをよく考えろということだ」
「はい……分かりました」
「全く……お前、そんなんでどうするんだ?進路は真剣に考えているか?」
「進路ですか?」
鉄人が先生らしいことを言う。うーん、進路か。あんまり考えたことないなあ。
「そうだ。大学に進学するのか、就職するのか、将来の夢は何か、とかそういったことだ。もうお前も三年生だ。そろそろ真剣に考えろ」
そう言われてもなあ。特にやりたいこととかはないし……。正直どうしたらいいか分からない。
「……はい。分かりました。考えておきます」
僕が適当に返事をすると、鉄人はゆっくりと語り始めた。
「……吉井。俺にとっては、お前も大切な生徒の一人だ。今回のお前の行動は褒められたものじゃないが、お前に悪意があったとは思わん。吉井、お前が問題を起こす時は、大抵誰かを助けようとした結果、問題が起きているように思える」
「な、なんですか急に。らしくないですよ……?」
「お前は人の為に行動することのできる奴だ。これはお前の誇るべき長所だ。胸を張れ」
なんだなんだ、鉄人が僕を褒めるなんて、天変地異の前触れだろうか。
「だが、もう二年生の頃のような問題行動はやめろ。これは学校の世間体とかそういうもののために言ってるんじゃない。お前の将来の可能性を無くしてしまうかもしれないから言っているんだ」
どういうこと?
「そもそもお前の学力で大学に行けるかどうかは別としてだ。二年生ならともかく、三年生で起こした問題行動は調査書に響く。お前が行きたい大学に行けなくなるかもしれん」
「西村先生……」
「自分のために、自分の将来のために、もうこれ以上問題を起こすな。それでもどうしようもなくなった時は、俺や他の先生に相談しろ。解決策を一緒に考えてやる」
……去年の体育祭での野球大会で、鉄人はこう言っていた。
『教師は生徒を正面から受け止める』と。
鉄人は、普段は怖くて鉄拳ばかり叩き込んでくるけれど、心の中では僕ら生徒のことを真剣に考えてくれているんだ。
「……ありがとうございます。僕、色々考えてみます」
僕がまっすぐ鉄人の目を見て答えると、鉄人は満足したように頷いた。
「よし。説教はここまでだ」
ふう。じゃあ帰ろう……っと、根本君の家にまた呼ばれてるんだったっけ。今後の作戦会議をしなければ。
「じゃあ先生、失礼します」
僕が席を立とうとすると鉄人に引き止められた。
「ん?誰が帰っていいと言った?」
「え?だってもう説教終わりだって言って……」
「まだ反省文を書いてないだろう」
「ええーっ!?」
今のは帰っていい流れだったじゃないか!上げて落とすなんて卑怯だぞ!
「なんだ?口答えするようなら鉄拳制裁だぞ?」
「そんな脅迫には屈しないぞ!せっかく良い感じになってたのに……鉄人のバカ!」
ゴンッ!
「ぎゃあ!!」
鉄人の拳骨が僕の頭に振り下ろされた。
「よし。もう三枚反省文追加だ」
「そんなぁぁーっ!!」
必死の抵抗も虚しく、僕は鉄人の監視の中、日が沈むまで反省文を書かされた。
★★★
鉄人から解放された後、ダッシュで根本君の家へ向かった。インターホンを鳴らすと、根本君がドアを開けてくれた。
「遅い!何時だと思ってる!」
大変お怒りのようだ。
「鉄人に捕まっちゃって……ごめんごめん」
「はあ〜……とりあえず上がれ」
根本君は大きなため息をつきながらも、僕を中にいれてくれた。
「……それで、今日のことなんだけど……雄二に負けちゃった。ごめん」
根本君が席に着くのを確認して、僕は切り出した。きっと怒られるだろうなあ……。
「いや。あそこで勝つ必要など全くない。そもそもお前のようなバカが坂本に勝てるなんて思っちゃいない」
「え!」
ということは、根本君は僕が負ける前提で作戦を立てていたということか。よかった。昨日あんなに偉そうなことを言っておいて最初の作戦から失敗なんて恥ずかしいと思っていたから、安心した。
「今日の事件を一年生の視点から見てみる。奴らは始業式で、治安維持生徒会なるものを知り、この学校に恋愛禁止の校則があることを知る」
ふむふむ。
「すると突然、一人の三年生がその校則に対して抗議をした。この学校において、全生徒がこの校則を快く思っているわけではないと一年生は思う」
「それでそれで?」
「そして生徒会会長とその抗議をした生徒が試験召喚獣を用いて争い始める。で、色々あって抗議をした生徒は会長にボコボコにされた」
良光君に対して盛大な勘違いをしてしまったからなあ……。よく話も聞かずに無関係の彼を巻き込んでしまったことは反省しよう。
「誰がどう見てもお前の方が惨めに見える。が、生徒会は行き過ぎた鎮圧をしているように感じるだろう」
たしかに。鉄人に『坂本もやり過ぎだ』と言わせるほどの、見事なまでの
「一年生の心は間違いなくお前に同情的だ。とりあえず坂本による洗脳を防ぐことができたという点で、大収穫だ」
そっか。当初の目的は果たせているというわけだ。よかったよかった。
「だが、坂本は何度も『逆らわなければ何もしない』と言って一年生の抵抗する気力を奪おうとしていた。みせしめにボコボコにされたお前の惨めさも相まって、生徒会に立ち向かえる一年生は、昨日俺たちが考えていた人数より減ったと思われる」
生徒会に抵抗したら潰される。それを僕が身をもって証明してしまったから、生徒会に恐怖する一年生が増えてしまったということか……。
「……じゃあ、やっぱり僕は負けちゃいけなかったんじゃ……」
「そんなことはない。生徒会は恐怖政治を敷く暴君のようなものだ、というイメージを全校生徒に植え付けることができた。恐怖政治はいつか必ず瓦解する。革命の意志によってな」
「革命の意志……」
「そうだ。俺たちがその風を巻き起こすんだ」
凄い……!なんか燃えてきたぞ!
「それで、明日からは僕たちは何をすればいいの?」
僕がそう尋ねると、根本君は難しい顔をした。
「とりあえず明日、木下秀吉を説得して文書を作成する。説得は吉井、お前に任せた」
「分かった」
「そして、その後問題なのが……」
根本君は急に言葉を詰まらせた。
「どうしたの?何か解決できない問題があるの?」
「ああ。この問題さえ解決できれば俺たちの勝利の確率がぐっと上がるんだが……」
「その問題ってなんなのさ?」
根本君は呻くように言った。
「須川に彼女を作らせる」