平賀君は僕らが座ったのを確認すると、静かに語り始めた。
「僕と美子はあの夏休みの肝試しをきっかけに付き合い始めたんだが、それ以来異端審問会から度を超えた嫌がらせをされるようになった」
「その度を超えた嫌がらせっていうのは具体的にいうと?」
「教科書やノートを破られていたり、筆箱を盗まれたりしたそうだ」
「そ、それってただのいじめじゃないか!!」
「確かに嫌がらせどころの話ではないのう……」
本当に酷い。異端審問会はそこまで腐り切っていたのか。これは犯罪になってしまってもおかしくはないレベルだ。と、ここまで考えたところで違和感に気付いた。
「ていうか平賀君、『されたりしたそうだ』って……。平賀君自身がされたんじゃないの?」
人づてに聞いたかのような言い方だ。
「いや。それが、俺は机の中を弄られるとかそんな嫌がらせだけで、この酷い嫌がらせをされたのは美子だけなんだ」
「「え!?」」
ど、どういうこと?異端審問会は男子だけしか粛清しないはず。女子を粛清して、更に男子より酷いことをするなんて……。
「妙じゃな。平賀がそれをされるならまだ分からなくはないが、三上がそこまでの嫌がらせをされるのは理解できぬ。平賀がされていたとしても許すわけにはゆかぬが」
秀吉も怒っている。当然だ。僕も絶対に許すつもりはない。
「それで美子は勉強ができずに成績が落ちて、学年末テストの時点でFクラス確実の成績になってしまった。俺は美子一人をFクラスに行かせるのは絶対に危険だと思ったから、振り分け試験でテストを白紙で出してFクラスに来たんだ」
「それで二人はFクラスになったのか……」
そんな事情があったなんて。異端審問会をあんなに警戒していたのも、これが理由だったのだろう。
「そういう訳だから、すまない。俺たちはこれ以上異端審問会と敵対したくないんだ。応援はするけど、協力はできない。許してくれ」
悔しそうな表情を浮かべて僕らに謝る平賀君。こんなに深刻な問題を抱えた彼らに、この期に及んで協力を求める気はない。
「大丈夫だよ。いつでも僕らは相談に乗るから、困ったことがあったら言ってね」
「三上にも、軽はずみな発言をしてすまなかったと伝えておいてくれんかのう」
「分かった。じゃあ俺は美子を追うから」
そう言うと平賀君は教室を出て行った。
「僕らも帰ろう。根本君も僕らが来るのを待ってるだろうし」
「そうじゃな」
平賀君を見送った後、僕らも重い足取りで帰路についた。
★★★
「そうか……結局協力してくれるカップルはいなかったか」
僕らが今日までの成果の報告をすると、根本君は憎々しげな表情を浮かべた。
「ごめん……やっぱり異端審問会が怖いみたいなんだ」
「最近の異端審問会は変わってしまったようじゃ。平賀から聞いたのじゃが、度を超えた嫌がらせをしているらしいのじゃ」
「度を超えた嫌がらせ?」
「実は……」
今日の放課後教室であった事を話すと、根本君は眉をひそめた。
「それは変だな」
「そうじゃろう?以前の異端審問会とは違う……」
「いや、そうじゃない」
根本君が秀吉の言葉を遮る。
「俺は福村から情報を得ているという話をしたな。その福村と話している時に、平賀についての話をしたことがあるが、その時福村は『三上に何か嫌がらせをすることはない』と断言していた」
「……え?」
「あいつが嘘をつくメリットが思い付かない。ということは福村の言葉は真実だ。となると、三上や平賀が嘘をついている可能性が……」
「平賀君たちだって嘘をついても何の得も無いじゃないか!それにあの様子は本気で悩んでいるように見えたよ?」
少し熱くなって反論した僕を、根本君は手で制した。
「分かった分かった。とりあえず落ち着け。そうなると……考えられるのは……」
「考えられるのは?」
「異端審問会内部に、個人的に三上に恨みがある奴がいる可能性が高い。そいつが異端審問会の名前を借りて三上に嫌がらせをしているのだろう」
「なるほど……。それなら福村と平賀や三上の発言に矛盾は無くなるのう」
「それにだ。須川や福村みたいな小心者が、そんな犯罪じみたこと、学校で問題になりそうなことを指示すると思うか?」
「思いません」
「思わないのう」
たしかに。根本君の言う通りだ。ということは、異端審問会自体が度を超えた嫌がらせをしている訳ではないということになる。でも。
「異端審問会は、これからそういう過激なことが起きた時の言い訳として使われるようになるかもしれないよね……」
僕がそう呟くと、二人は頷いた。
「異端審問会は大きな組織じゃ。学校の力だけで実行犯を特定するのは難しいかもしれんのう」
「警察に届け出るしかないだろうが、そうしたら文月学園の評判は下がるだろうな。そうすると俺たちの受験に影響は必ず出るだろう」
「僕たちの受験……」
鉄人に言われた、進路や将来についての話を思い出す。
「……元々異端審問会を解散させるつもりだったけど、試召戦争の為以外にも理由ができた。僕たちは、僕たちのために、僕たちの将来のために、異端審問会を潰さなくちゃいけないんだ」
僕は散々文月学園の評判を下げることをしてきた。それが皆にとってどれだけ迷惑だったのかがやっと分かった。だからこれからは、その贖罪をしなければならない。異端審問会を解散させることは、僕の果たさなければならない使命だ。
「改めて、二人とも。異端審問会を解散させるのを手伝って欲しい。お願いします」
僕が頭を下げると、二人は顔を見合わせて、笑った。
「最初からそのつもりだ。お前が頼むことじゃない」
「ワシも同じじゃ。友達じゃからな」
頼もしい仲間たちだ。僕は本当に仲間に恵まれている。決意を新たに、僕らは打倒異端審問会を誓った。