根本君の家は、少し古びたマンションの一室だった。根本君は家のカギを開けると、僕に入るように促した。
「お、おじゃましまーす……」
「俺は一人暮らしだ、挨拶する相手なんていないぞ」
「あ、そうなんだ、実は僕も一人暮らしなんだ!」
「興味ない」
せっかく話を膨らませようとしたのに……。やっぱりついてくるんじゃなかったかな……。
「座れ」
リビングに案内され、僕は机の前にある椅子に座った。根本君も机を挟んだ向こう側の椅子に座ると、ふうっと息をついた。
「それで、なんでわざわざ僕をこんな所に呼んだのさ」
「そうだな……その前に、一つ質問だ」
何を聞かれるんだろうか。少し身構えてしまう。
「お前、学生恋愛禁止の校則についてどう思う?」
どう思うって……そんなの決まってるじゃないか!
「どう思うも何も、僕はそんなの認めないよ!撤廃すべきだと思う」
「そうだよな。安心したぜ」
「え…」
根本君が口角を吊り上げて笑う。
「単刀直入に言うぞ。吉井、俺と組んでその校則を撤廃させようじゃないか」
「……は?」
どういうことだ。根本君が何を言いたいのかさっぱり分からない。
「まあ落ち着け。バカなお前でも分かるように説明してやる」
僕が黙っていると、根本君が説明を始めた。
「まず、俺もお前と同じように恋愛禁止の校則が鬱陶しい。だからその校則を撤廃させたいと思っている」
「小山さんと付き合えないからってこと?」
根本君は一瞬怯んだが、すぐに言葉を続けた。
「……ああ、そうだ。俺は友香と付き合いたい。その為にはあの校則は邪魔だ」
もしかしてだけど……根本君は一つ勘違いをしてるんじゃないだろうか。
「ねえ、根本君」
「なんだ」
「根本君が小山さんと付き合えないのは、その校則のせいだと思ってる?」
「は?さっきからそうだと説明しているだろう?それくらいも分からないバカなのか?お前は」
「いや……うん、なんでもない、ごめん、話を続けて」
もう既に小山さんは根本君のことを好きではないから、校則を無くしたところでまた付き合えるとは思えないんだけど……。本人は気付いてないようだし。黙っていよう。
「俺はその校則を無くしたいが、俺一人の力では絶対に無理だ。仲間がいる」
「それで、僕を選んだと」
「ああ。お前は普段、治安維持生徒会のメンツと親しくしているようだからな。だがお前は治安維持生徒会側の人間ではない」
「えっと……」
どういうこと?
「校則を無くすためには、治安維持生徒会を敵に回さなくてはいけない。生徒会を倒すためには、生徒会のことを知る必要がある」
「ふむふむ。それで、僕に生徒会内部の情報について調べてもらおうと」
「そういうことだ」
なるほど。根本君は本気だ。本気で生徒会を潰す覚悟のようだ。
「ところで、さっきから気になってたんだけど……どうしてここで話をしたのさ?学校でもよかったんじゃない?」
根本君は呆れた顔をして、僕に質問してきた。
「……生徒会のメンバーをよく思い出せ。誰がいた」
「えっと、雄二、久保君、ムッツリーニ、清水さん、須川君……だっけ?」
「そうだ。そしてこの中には盗聴、盗撮のプロがいる」
「ムッツリーニと清水さんか!」
文化祭の時、ムッツリーニは学校全体にカメラを仕掛けていたし、清水さんは合宿の時に女子風呂にカメラを仕掛けた覗きの真犯人だった。
「この二人の盗聴器が、学校のありとあらゆる場所に仕掛けられているはずだ。この会話を聞かれて坂本に対策を立てられたら、俺たちは終わりだ」
「なるほどね……」
根本君って頭が良いんだな……。去年は雄二にボコボコにされているイメージしか無かったから、意外だ。
「うーん……また質問いいかな」
「なんだ」
「校則って、どうすれば撤廃にできるの?僕たち生徒が撤廃したいって言って、できるものなの?そこら辺がよく分からないんだけど」
根本君は驚いたような顔をして、こっちを見た。
「まさか吉井、お前がそれに気付くとはな……」
皆僕のことをバカにしすぎだ!……たしかにバカなんだけどね!
「校則を追加したり、撤廃したりするのは、生徒総会で行える」
「生徒総会?あの存在意義がよく分からない会?」
「そう、それだ。基本的に生徒はそこまで校則には興味が無いから、毎年校則の追加、撤廃を求める声は上がっていない。お前のように、生徒総会で校則を変えられるという事実すら知らない奴が大多数だろう」
たしかに。僕の周りで生徒総会について話し始める奴なんて、二年間で誰一人としていなかった。それは根本君の言うとおり、誰も生徒総会に興味が無いということなのだろう。
「それで、どうすればその生徒総会で校則を変えられるのさ?」
「……普通の、文月学園ではない学校は、基本的に多数決などの民主的なやり方で決まる。だが、うちの学校はそれだけじゃない」
「それって……つまり……」
他の学校と比べて、文月学園だけが違うもの。それは……
「試召戦争。俺たちは、召喚獣を使って校則を変えることになる」