恋と進路と召喚獣   作:秀継

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第七話

 

 

「一年生?」

 

予想していなかった言葉に、思わず尋ね返してしまう。

 

「どうして一年生を狙うの?」

 

根本君はニヤッと笑って説明をしだした。

 

「まず、一年生は明日学校に入学してくる。一年生は今日までの文月学園のことを知らない。ということは、異端審問会のことも知らないだろう」

 

「異端審問会を知らない……から僕らに協力してくれるってこと?」

 

よく分からない。

 

「まあ聞け。一から説明する。うちの学校で、異端審問会は、生徒の中ではカップルを粛清する凶悪な集団として名が知れ渡っている。だがこいつらは今まで学校に目をつけられないように裏でこっそり活動してきた。となると、学校外の人達は異端審問会なんて存在が文月学園の中にあるなんてことは知らない。ここまではいいな」

 

「うん。続けて大丈夫」

 

「異端審問会を知らないということは、異端審問会の恐ろしさを一年生は知らないということだ。学生恋愛の自由なんてものを掲げたら一瞬で異端審問会に粛清されることを、俺たち二、三年生は知っているが、一年生は知らない。ということは、一年生は怖がったりせずに俺たち、学生恋愛の自由を掲げる者に賛同することができる」

 

なるほど!さっきもクラスで平賀君が異端審問会にビビっていたように、二、三年生は皆異端審問会にビビっている。けど、一年生ならそもそも異端審問会自体を知らないからビビることはないって事か。けど、一つ気になることがある。

 

「でも、生徒総会までには、異端審問会の恐ろしさはある程度の人には知れ渡っちゃうんじゃないの?生徒総会って確か5月の終わりだよね?」

 

根本君は僕の質問を鼻で笑った。

 

「問題ない。一年生から見たら異端審問会は悪の巣窟だ。希望を胸に文月学園に入ってきたばかりの一年生が、二、三年生と同じように異端審問会に対する抵抗力を失っているとは思えん」

 

そうか。僕らは異端審問会が手のつけられない強大な組織であることを知っているから、わざわざ立ち向かったりはできないけれど、一年生なら異端審問会のことを詳しく知る時間はないから、彼らをどうにかできるかもしれないって思えるってことだ。

 

「一年生を説得する理由はよく分かったよ。でも、どうやって説得すればいいんだろう?」

 

「それに関してはもう考えてある」

 

この根本君は本当に雄二に策略でボコボコにされていた根本君だろうか。朝からの違和感も相まって疑わざるをえない。

 

「明日が始業式なのは知っているな?そこで坂本はきっと、一年生の洗脳をする」

 

「せ、洗脳!?」

 

「高校生同士で恋愛するのは禁止だ、ということを当たり前だと思わせようとするってことだ。奴の巧みな話術を使ってな」

 

び、びっくりした。そうだよね。流石に雄二でもマンガに出てくるような機械で洗脳とかはできないよね……。

「奴は多分始業式の途中、治安維持生徒会の紹介とかなんとか理由をつけて、一年生の前に現れて話を始めるだろう」

 

「話をされちゃったら、もうダメじゃないか……。一年生の説得は厳しくなるよね?」

 

「そこでだ、吉井。その途中、お前が坂本に抗議しろ」

 

「抗議って……どういうこと?始業式中だよね……?」

 

また問題になるようなことしなくちゃなの?

 

「まあ落ち着け。お前が坂本に抗議することで一年生は、学生恋愛の禁止が当たり前だ、という前提をひっくり返されることになる。そもそも普通に考えて、学生同士の恋愛はOKのはずだ。だが、生徒会という偉い身分の奴に、あの校則は普通だと教えこまれたら、納得してしまうかもしれない。この学校の伝統のようなものなのかな、とな」

 

ふむふむ。

 

「誰かが声をあげて、その校則に反対している者がいるという事実を一年生に伝える。そうすれば、坂本の洗脳から一年生は解放されるはずだ。そしてその抗議をするタイミングは、一年生から三年生まで全学年が揃う場、始業式以外にない」

 

まるで雄二から作戦を聞かされてるみたいだ。今回は雄二は敵だけれど。とにかく、この作戦の意図は理解できた。

「なるほど……分かった、やるしかないんだね?」

 

「ああ。抗議の仕方は何でもいい。とにかく、坂本の言ってることは間違いだと主張するんだ」

 

やる事は分かったけど……僕がやらないで済むなら、できるだけ回避したい。それとも、僕がやらなきゃならない理由があるのだろうか?

 

「……ねえ、これって僕がどうしてもやらなきゃいけない?根本君がやってもいいんだよ?」

 

そう言うと、根本君は苦虫を噛み潰したような顔になった。

 

「俺は……今回のカンニング騒動で、教師たちに目をつけられた。次に何か問題を起こしたら、退学らしい」

 

「た……退学……」

 

そうか、だからあんなに素直に謝ったりして角が立たないようにしていたのか。違和感の正体が分かってよかった。根本君は丸くなったわけじゃなくて、丸くなったように見せているんだ。そうしなければ退学になってしまうから。

 

「だから、もう俺は派手に動いたりすることはできない。だからそういうのは吉井、お前に頼むことになる」

 

根本君の目は真剣だった。その目を見て、なぜだろう、僕はこの質問をしなければならない気がした。

 

「根本君……なんでカンニング……しちゃったの?」

 

根本君がカンニングした理由。そうだ。これを聞かずして、根本君に協力する訳にはいかない。

 

「…………」

 

根本君は黙っている。下を向いて、唇を噛み締めて。でも、僕もこの答えを聞かなければならない。

僕も黙って根本君を見つめていると、根本君は大きく息を吐いた。

 

「友香と……同じクラスになりたかった」

 

「小山さんと?」

 

「ああ……。友香は今回、かなり勉強していた。絶対にAクラスに入るんだ、と。俺は焦った。後期、俺はそれほど本気で勉強をしてなかったから、今のままではAクラスには到底入れない、と思った。それで……」

 

「それでカンニングをしたのか……小山さんと二人で、Aクラスに入るために……」

 

根本君は自嘲気味に笑った。

 

「今は反省している。もうあんなことはしないよ……。友香に迷惑をかけてしまったから」

教室でも言っていた言葉だ。根本君は今、嘘をついているようには思えない。本心から反省しているように見える。根本君にとって、小山さんはそれほど大事な人だったのか……。

僕にも大事な人がいる。僕は姫路さんと違うクラスになることをそんなに苦には思わなかったけれど、姫路さんは辛そうにしていた。僕が励ましたら元気になってくれたが、それがなかったら、姫路さんはもしかしたらテストを白紙で出したかもしれない。僕と同じFクラスになるために。そんな失礼なことを考えてしまうほど、彼女は皆と別れるのを怖がっていた。

 

「そっか……」

 

根本君も怖かったんだろう。小山さんと距離が開いて、疎遠になるのが嫌だったんだろう。僕が姫路さんを好きなように、根本君は、小山さんのことが好きだから。

そう考えると、今まで根本君に抱いてきた嫌悪感が、少し薄れたような気がした。

 

「根本君」

 

呼びかけると、根本君は顔をゆっくりと上げた。

 

「カンニングのことはもう水に流すよ。どんな理由があろうと、絶対にやっちゃいけないことだけど、もう過ぎたことだし。反省もしてるみたいだし、もう僕は気にしない」

 

「…………」

 

僕は言葉を続ける。

 

「僕は、根本君に協力するよ。一緒にこの邪魔な校則をぶっ壊して、堂々と彼女とイチャイチャできるようにしよう!!」

 

僕が喋り終えてからしばらくして、根本君はまた自嘲するように笑った。

 

「本当にいいんだな?ここから先は一蓮托生だぞ?」

 

「覚悟の上さ」

もう迷いはない。僕は根本君と協力して恋愛禁止の校則を撤廃させる!

 

「よろしくね、根本君」

 

「ああ、頼んだぞ、吉井」

 

……ここに、新しい、二年の頃は想像もできなかった新コンビが……誕生した。




次話から原作12・5巻の最後へと突入します。
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