魔法少女まどか☆ゴースト 〜命を紡ぐ物語〜 作:スターダストライダー
見切り発車ですが、応援よろしくお願いいたします!
1. 命、燃やすぜ!
その少年は、目の前の光景が信じられなかった。
玄関を開けて最初に見えたのは、あちこちに傷を負って血だらけになっている自分の父だった。母も、慌てて父に駆け寄って必死に呼びかけた。かろうじて意識はあるようだが、いつまでもつか分からない。なぜこんな事になったのか、少年は理解出来なかった。
『……父さん……』
まだ幼かった少年は、訳も分からぬまま父に手を伸ばしながら寄った。父は、母に何かを話しているようだが、よく聞こえない。その後少年の姿を確認してから、職場の作業着のポケットの中にあったある物を取り出した。父は震える手でそれを少年の手に握らせた。
『……タケル』
『父さん……!』
タケルと呼ばれた少年は、悲しげな表情でそう呟いた。父は血を流しながら、タケルにこう伝えた。
『英雄の心を、学び、心の眼を、開くんだぞ……』
それが、父の最後の言葉だった。目を閉じた父の体が、二度と動く事は無かった……。
『父さん……!』
「……父さん……」
少年がベッドの上でそう呟いた時、側に置いてあった目覚ましがけたたましく鳴り響いた。
「うぁっ……⁉︎」
少年はビックリしながら起き上がり、慌てて目覚ましを止めた。
「……はぁっ、もう朝かよ……」
少年は首にかけられた物を見ながら呟いた。それは、今は亡き父から授かった、伝説の剣豪、宮本 武蔵が所持していたとされる、刀のつばである。
「もう10年か……。なんか早えな」
あれから10年、少年……
宮本武蔵みたいな、強い男になりたい。それが、タケルの願いだった。そう思いながら時計を見てみると、時刻は午前8時を過ぎていた。
「……っと、そうだった! 今日は大事な予定があるんじゃねぇか! 急がねぇと……!」
不意に用事を思い出したタケルは、大急ぎで着替えて、朝から仕事で出かけている母が作ってくれた朝食を食べて、荷物を持って外に出た。もちろん、例の歴史書をカバンに入れていくのを忘れずに……。
タケルが走りながら向かった先は、『龍重寺』と呼ばれる寺だった。タケルが門をくぐると、既に今日遊ぶ予定のメンバーが揃っていた。
「あっ、おはよう、タケル君」
先に声をかけてきた、優しそうなピンク色のツインテール少女の名は、
「ほら、タツヤもおはようって」
「おはよー!」
まどかに催促されて挨拶をしたのは、まどかの弟のタツヤ。3歳児であり、その笑顔が微笑ましい。
「おっそーい! やっと来たわね、タケル!」
そう愚痴りながらも笑みを浮かべている青色のショートヘアの少女の名は、
「おはようございますぞ! タケル殿!」
「あ、相変わらずデケェよ声が……」
タケルの言うように、やたらと大きな声で挨拶をしている坊主頭は、龍重寺の住職の息子でもある、
「そんじゃあ、今日はタッくんの為に、目一杯遊んじゃいますか!」
さやかが腕を高く背伸びして伸ばしながらそう言った。この日は金曜日でも祝日であり、まどかから、タツヤの遊び相手になってほしいと頼まれており、特にやる事が無かった為、都合の合うメンバーだけでこの場にやって来たのだ。
それから、外でかけっこだったり、砂遊びだったりと動きまくった後は、昼食を兼ねて休憩する為に、御成の家のリビングでテーブルを囲みながら談笑していた。昼食も食べ終わり、ひと段落ついていると、偶々つけていたテレビのニュースで、奇妙な報道をされていた。内容は、1人の男性会社員が、見滝原で行方不明になっているというものだった。
『警察は、聞き込みを続けながら、捜査を進めていく方針です』
「……なーんか、最近こんなニュースばっかりやってるみたいだよね」
そう呟いたのは、せんべいを頬張っているさやかだった。さやかの言う通り、見滝原に限らず、各地で似たような事件が度々起きている。依然として原因が分からず、捜査は難航しているそうだ。
「確かにそうですな。それに、自殺者の数も一向に減る気配もないと耳にしていますから、なんとも摩訶不思議な事が起こっておりますなぁ……」
「うん……。なんか怖いよね……」
御成、まどかが不安な声をあげる中、タケルは黙々と家から持ってきた歴史書を読みふけっていた。
「タケルにーちゃ、それなーに?」
タツヤが、タケルが開いていたページにあった宮本 武蔵の絵を指差して尋ねた。それを聞いたタケルは、目を輝かせて、意気揚々に説明し始めた。
「この人はね、宮本 武蔵っていう、江戸時代初期の剣客でもあり、画家……つまり、絵を描く人でもあったんだ。二天一流剣法の祖でもあって二刀流の使い手だった凄い人で、中でも有名なのは、巌流島での佐々木 小次郎との決闘で、激しい接戦の末、勝利した事なんだ。ちなみに武蔵はその後……」
「あーもう、ストップ!いっぺんに言われてもタッくん分かるわけないでしょ⁉︎」
タケルが熱く語る中、さやかが止めに入った。タツヤがポカーンとしているのを見て、ようやくタケルも落ち着きを取り戻した。
「あっ、ごめん……」
「ったくもう……。あんたの歴史オタクぶりには敵わないけどさ、マニアックすぎるのよね」
「えへへ……。でも、タケル君のそういうところが、良いと私は思うんだけどね……」
まどかは苦笑しながらそう呟いた。タケルも恥ずかしくなって、本を閉じた。
その後、タツヤの提案で、かくれんぼをする事になった。先ずは、御成が鬼になり、タケルは隠れる事になった。
「さーてと、どこに隠れたら良いのやら……」
タケルが辺りを見回していると、家の近くにある森に繋がる一本道が見えてきた。
「おっ、丁度いいな。……けど、さすがにこの中に逃げるのはズルいか?」
タケルがどうすべきか悩んでいた時、不意に、視界の中に白い何かが見えた。そいつは一本道を通って森の中に入っていった。
「……?」
タケルが一本道を見つめるが、既にその姿は見えず。
「ウサギ……? いや、猫か……?」
気になったタケルは、その白い生き物に導かれるように、森の中に入っていった。
森の中は、昼間なのに関わらず、木が生い茂っている為、暗くて不気味な雰囲気を漂わせていた。
「……やっべぇな。変なとこに来ちまった」
タケルは辺りをキョロキョロ見渡したが、白い生き物はどこにも見当たらない。遠くに逃げてしまったのだろうか。
「さすがにヤバイな……。戻るか」
タケルは仕方なく、白い生き物を追いかけるのを止めて、来た道を引き返す事にした。
その様子を、茂みの中から、例の白い生き物がジッとタケルを見ていたのにも気付かずに……。
龍重寺の方に戻る為に、来た道を引き返していたタケルだったが、ここである異変に気がついた。
「……あり? この道ってこんなに長かったっけ?」
どういうわけか、一向に出口ともいうべきところに辿り着かないのだ。あれから随分歩いていたし、一本道だった為、道を間違えたとは考えにくい。更に、周りがやけに暗くなっているような感じもした。
「……なんか、変な感じがするな……。……⁉︎」
不意に背筋に冷たい汗が走った。背後から嫌な気配を感じたので振り返ってみると、さっきまで普通の一本道だったのが、おどろおどろしい道に変わっており、周りに霧が立ち込めていた。
「何だよ……⁉︎ どうなってんだよこれ……⁉︎」
周りの空間が一変して、おぞましい情景になっており、タケルは混乱していた。
更に、背後からいくつもの影が見えた。よく見ると、それは、盾や槍を構えている骸骨の軍勢であり、何かを呟きながらタケルに迫っているのが見えた。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ⁉︎」
恐怖のあまり、叫びながら、骸骨達から逃げるように奥の方に駆け抜けていった。状況がよく分からなかったが、少なくとも、あの怪物達と関わってもろくな事にならない。本能的にそう感じたタケルは必死に逃げていた。
しばらくすると、前方の方に影が見えた。もしかしたら、誰かが迎えに来たのか、もしくは別の誰かが自分と同じように逃げ回っているのだろうか。どちらかは分からなかったが、1人でいるよりはマシだ。そう思ったタケルは全速力でその影の方に向かった。
……が、タケルはその影の全貌を見て思わず立ち止まった。そいつは人の形をしているが、人と呼べる存在では無かった。
そいつは、身長が5メートルもある、ボロボロの鎧武者のような怪物であり、その目はランランと不気味に輝いていた。
タケルは恐怖のあまり、その場に立ち尽くしていたが、怪物がタケルに気づいて歩いてくるのを見て、我に返った。
「ど、どうしよう……! こ、このままじゃ、殺される……!」
タケルは辺りを見回して、地面に転がっていた木の棒を手に取った。それだけでは心許なかった気もしたが、タケルは必死に目の前の恐怖からこらえていた。そうしている間にも、怪物はタケルに近づいている。
「こ、怖くなんかないぞ……! 武蔵だって、こんな状況でも逃げずに立ち向かったんだ! 俺だって……!」
タケルはヤケくそ気味にわめいた。が、怪物は全く臆する事なく手に持った刀を振り上げて、そして……。
タケルが盾代わりにしていた木の棒をいとも簡単にへし折って、そのままタケルの華奢な体を斬りつけた。
「……う、嘘、だろ……?」
自分の体の傷口から出ている血飛沫を呆然と眺めながら、タケルはうつ伏せに倒れこんだ。あまりにも呆気ないやられ方だった。
「こ、こんなのってアリかよ……」
全身に痛みを感じながら、タケルは、父との約束、そして残された母の頑張って仕事をする姿、いつも遊んでくれている大親友達の顔、そして、タケルにとって大切な、ツインテールの幼馴染みの笑顔が走馬灯のように脳裏に浮かんだ。
「……嫌だ……!」
タケルは側に落ちた、父の形見を握り締めながら呟いた。
「俺……! まだ、父さんの約束が、残ってるのに……! みんなを、守りたい、のに……!」
死にたくない……。タケルがそう思っていた……、
その時だった。
「その言葉は本当かい……?」
「⁉︎」
不意に聞こえてきた、謎の声。タケルがゆっくりとその方向を見てみると、そこには、先ほどまで追いかけていた、白い生き物がちょこんと座っていた。赤い瞳とリングのようなものが付けられた長い耳が特徴的だった。だがそれ以上に驚いたのは、目の前の生き物が喋っているという、ファンタジーな出来事だった。
「お前……⁉︎ 今、喋って……」
「……やっぱり、君も素質があるみたいだね。天王寺 タケル」
「俺の名前まで……⁉︎」
タケルは、目の前の生き物が自分の名前を知っている事にまた驚いた。
「お前は、一体……?」
「僕の名前は、キュゥべえ。それよりも、先ずは今の状況をどうにかしないとね」
白い生き物……キュゥべえは淡々とタケルに話しかけた。
「今のままいけば、君は間違いなく死を迎える」
「そ、そんな……!」
「もっとも、それは今のままならの話さ。君には、彼らと戦う素質があるし、契約も出来る。そんな君に問おう」
「君には、叶えたい願いはあるかい?」
「叶えたい……、願い……」
タケルは、訳も分からず困惑するが、ほぼ無我夢中で、キュゥべえに告げた。
「生き、たい……! 生きて、もう一度、まどか達に、会いたい……! そんでもって、みんなを守れる力が、欲しい……!」
「分かった。それが君の願いなんだね」
キュゥべえは静かにそれを聞き入れてくれているようだ。タケルがそう思っていた時、全身に、斬られた時とは違う痛みがタケルを襲った。タケルが仰向けになると、胸元から丸い何かが浮かび上がった。
それは、オレンジ色のラインが入っており、スイッチのようなものが付けられている目玉のような物体だった。その美しさに見惚れていると、タケルの全身から痛みが全て消え去っていた。
「……? これって……?」
「おめでとう、天王寺 タケル。君との契約は成立し、その祈りは、エントロピーを凌駕した」
痛みが消えた事に困惑するタケルに、キュゥべえがそう呟いた。タケルが目玉のような物体を手に持つと、不思議と力が湧いてくる感覚がした。
「さぁ、解き放ってごらん。そのアイコンの力で」
「アイコン……? これの事か……?」
タケルは手に持っている、アイコンと呼ばれる物を眺めてから、目の前の怪物を睨みつけた。
「何だかよく分かんねぇけど、こうなったら、やってやるぜ!」
タケルはそう叫んだが、しばらくの沈黙の後、気まずそうにキュゥべえに尋ねた。
「……で、どうすればいいんだ?」
「やれやれ。後先考えずに魔女に立ち向かうとは、やっぱり相変わらずと言うべきか……」
「……?」
キュゥべえの言い方に訝しんだが、今は目の前の事が最優先と考えて、改めてキュゥべえに尋ねた。
「そんで、どうすればいいんだ?」
「腰の方を見てごらん」
「腰……? って、何だこれ⁉︎」
タケルが自分の腰を見てみると、ベルトのようなものが取り付けられていた。中心には、四角い一つ目の箱のようなものがある。
「アイコンのスイッチを入れてから、それをカバーの中に装填して閉じる。後は、横のトリガーを引けば、その力は開放される。それだけさ」
「……分かった! やってみる!」
タケルは、キュゥべえに言われたようにアイコンのスイッチを押した。そして、カバーを開けて、アイコンをセットしてから閉じると、ベルトから奇怪な音声が流れた。
『アーイ!』
「へっ⁉︎」
すると、今度はベルトから、パーカーのような物体が飛び出てきた。
『バッチリミナー! バッチリミナー! バッチリミナー!』
タケルはその光景に驚きつつも、
「ええっと、こうか……?」
トリガーを1回押し込んだ。すると、
『カイガン! オレ!』
タケルの全身を光が覆い、両手、両足、上半身、頭の順に装甲が付けられて、最後にパーカーが上半身を覆った。すると、仮面が装着されて、一本角が生えてるような形になった。
『レッツゴー! 覚悟! ゴゴゴゴースト!』
タケルは全身を見渡しながら、己の変化に驚いていた。
「こ、これって……!」
「仮面ライダー"ゴースト"、それが今の君の姿さ」
キュゥべえはそう告げると、次の指示を出した。
「さぁ、後はその力で魔女と戦ってみると良い」
「魔女って、あいつの事か」
鎧武者の姿をした、魔女と呼ばれる怪物を見据えながら、タケルはベルトに手をかざした。
『ガンガンセイバー!』
すると、タケルの右手に剣が具現化した。魔女は、タケルの姿が変わった事に警戒したのか、雄叫びを上げて、周りに先ほどの骸骨達を呼び寄せた。どうやら骸骨達は、魔女の手下のようだ。そう理解したタケルは、先ほどと違って自信に満ち溢れたように叫んだ。
「いきなり過ぎてまだ良く分かんないけど、これでみんなを守れるなら……。俺は、俺を信じる!」
そして、タケル……もといゴーストは、声高々に叫んだ。
「命、燃やすぜ!」
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