魔法少女まどか☆ゴースト 〜命を紡ぐ物語〜 作:スターダストライダー
そして、マコトの方が大変な事になってますね……!
「……はぅ?」
不意に鳴り響いた目覚ましの音にびっくりして、まどかは目を開けた。目覚ましを止めて辺りを見渡すと、そこは自分の部屋だった。
「はぅぅ……。……また、変な夢?」
まどかの脳裏には、幼なじみのタケルが目の前で変身して、他の3人と協力して、迫り来る怪物達と戦って、その後に先輩から魔法少女や魔女の事を聞くといった内容が焼き付いていた。
枕を抱きしめながらうなだれていると、背後から視線を感じた。振り返ると、いくつものぬいぐるみに混じって、白い生き物……キュゥべえがチョコンと座っていた。
「おはよう、まどか!」
「……あはは。お、おはよう」
キュゥべえの挨拶に、まどかは苦笑しながら挨拶した。どうやら夢ではないと感じたようだ。
それからまどかは歯を磨くために、一階に降りた。途中で、キュゥべえがまどかについてきて、肩に乗っかった。
「ママ達に見つかると困るよ……?」
「それは大丈夫だよ。僕の姿はまどか達にしか見えない。正確に言えば、僕が姿を見せようと思ってる相手にしか顔を出さないからね」
「それって、魔法少女だったり、仮面ライダーになれる可能性のある人の事?」
「そうだよ」
そう会話しているうちに、洗面所の扉の前で、詢子と出くわした。挨拶こそしたものの、肩に乗っているキュゥべえには何の反応も示さなかった事から、彼女には本当に見えていないようだ。
歯を磨いていると、詢子が寝ぼけ眼のまま話しかけてきた。
「……そういやさ。まどかって昨夜は遅かったよな」
「あ、うん。先輩の家にお呼ばれしちゃって。ごめんね、急にそうなったから」
「……ま、連絡してくれてたから別にいいけどさ。でも、珍しくないかい? 今までそんな機会なかったはずなのに……」
「う〜ん……。その場の流れ、みたいな感じかな……」
まどかが曖昧に答えている間、キュゥべえはお湯の張った洗面器に浸かって、気持ち良さそうに寛いでいた。
やがて、まどかはある事を詢子に尋ねた。
「ねぇ、ママ」
「ん?」
「もしも、もしもだよ。魔法でどんな願い事でも叶えてもらえる、って言われたら、どうする……?」
「役員を2人ばかりよそに飛ばしてもらう」
自分でも変な質問をしてしまっているなと思って、少し緊張していたが、詢子は迷う事なくそう言った。まどかが少し呆れていると、詢子のトークはさらにヒートアップした。
「後はそーね……。社長もさー、もう無理が利く歳じゃないんだからさ。そろそろ隠居考えて欲しいんだけど、代わりがいないってのが難儀なんだよなぁ……」
「いっその事、ママが社長さんになっちゃったら?」
まどかが冗談半分でそういうと、詢子は真剣な顔になって、
「その手があったか」
と呟いた。そのまま腕組みをして、脳細胞がトップギアと言わんばかりに今後の展開を考えていた。
「営業部にさえしっかり根回ししとけば、企画部と総務部はいいなりだし、そうなると問題は経理部のハゲか……。あれか。毟るか」
「ママ、目が怖いよ……」
まどかは苦笑する他なかった。
『ね? 人間は誰でも普通はそういう風に一つは願いがあるはずなんだよ』
不意にキュゥべえの声が頭の中に聞こえてきて、まどかは驚いた。昨日もそうだが、どうやらテレパシーを使って話しかけてきたようだ。
『……でも、さすがに社長さんっていうのは、言い出しっぺの私が言うのもアレだけど、どうなんだろう……』
まどかは否定気味だった。
が、数年後、本当に詢子が社長となって、会社を運営していく事になっていくとは、まどかは予想だにしなかったが、それについては今はどうでもいい事である。
さて、朝食も食べ終わり、まどかはキュゥべえを肩に乗せて、タケル達と合流しに行った。この日は、タケルもさやか達と一緒に待っていた。
「おっはよ〜」
まどかが声をかけたので、皆も振り返って挨拶しようとしたが、タケルと仁美以外のメンバーが、肩に乗っかっているキュゥべえを見て、表情が固まっていた。
「よう、まどか、キュゥべえ」
「おはようございます、まどかさん、キュゥべえさん」
2人は普通に挨拶したが、さやかと晶は未だに目の前の光景が信じられないようだ。誠司が周りで登校している生徒達を警戒しながら、まどかに話しかけた。
「やっぱそいつ、俺達にしか見えてないのか?」
「そうみたいだよ」
それからまどかは、早速キュゥべえから習った方法を実践してみた。
『それからね。頭で考えるだけで、会話とかも出来るみたいだよ』
「「「「「「⁉︎」」」」」」」
突然の事に、タケルを含む全員が驚きの表情を浮かべた。タケルは驚きつつも、同じようにテレパシーで返した。
『こういう事か……?』
『そうそう』
『あ、あたし達、もうすでにそんなリリカル・マジカルな力が⁉︎』
『おぉ……! スッゲェー!』
『いやいや、今はまだ僕が間で中継してるだけ。魔法少女や仮面ライダーになれば、自分からテレパシーを送れるよ。でも、内緒話には便利でしょ?』
さやかと誠司がオーバーに驚きながら自身の体を見つめていると、キュゥべえがそう言った。
『で、でも変な感じですよね。何だか、目と目で話し合ってるみたいですよ……』
晶が困惑しつつもそう返事した時、仁美がなぜか体を震わせていた。
『? 仁美殿? どうからなされましたか?』
御成がテレパシーでそう尋ねると、その時には仁美は顔を赤く染めていて、手で顔を押さえ、足をくねらせていた。
「そ、それは一大事ですわ⁉︎ 言葉を交わさずとも目と目で分かり合う間柄になる……。それはまさに、特別な関係として急接近してしまうという事!」
「……あ、また始まった」
「……いや、さすがにそれはねぇわな」
キュゥべえが訳も分からず首を傾げている中、まどか達はため息をついていた。
仁美は成績優秀で完璧なスタイルの持ち主ではあるのだが、時々突発的に妙な妄想に入り込んでしまう癖があるのだ。こうなってしまうと、正気に戻すのに、まどか達はそれなりに苦労する。そんな事もつゆ知らず、完全に向こうの世界に行ってしまっている仁美の妄想はさらにデッドヒートした。
「でも、それだけはいけませんわ! 特にまどかさんとさやかさんにとっては、女の子同士での……。そう! それは禁断の恋の形ですのよぉぉ!」
テレパシーを使う事も忘れて、仁美がそう叫ぶと、そのまま赤らむ頬を押さえながら学校の方に走り去って行った。カバンを置き忘れているとも知らずに。
「ひ、仁美殿⁉︎」
「おーい! 戻ってこーい! バッグ忘れてるぞー!」
誠司が仁美のバッグを取り上げて声をかけたが、すでに本人は豆粒のように見えるくらいに遠くに行っていた。
キュゥべえはますます訳が分からないと言ったように首を傾げて、まどか達に声をかけた。
「仁美は一体どうしたんだい?」
「仁美ちゃん、普段は冷静なんだけど、時々ああなっちゃう事があるの……」
「要するに自分だけの世界に入り込むって事だ」
「僕には理解出来ない感情だね」
まどかとタケルがそう言うと、キュゥべえがそう結論付けた。
そんな中、仁美を遠目で見ていた晶がポツリと一言。
「今日の仁美ちゃん。何だかさやかちゃんに似てましたね……」
「どーいう意味だよそれは⁉︎」
校門の前で、ようやく仁美の暴走(?)を抑えたまどか達は、揃ってクラスメイトが様々な話をしている教室に入った。ようやく一安心して皆が席に着くと、早速さやかがテレパシーを使った。
『……つーかさ。あんた、のこのこ学校までついて来ちゃって良かったの?』
『どうして?』
どうやらキュゥべえに向かってかけた言葉らしい。尋ねられたキュゥべえは不思議そうに返事した。
『言ったでしょ? 昨日のあいつら、このクラスの転校生だって』
『た、確かにそうですな……』
『そうだぜ。お前命狙われてんだろ? こんなところにいて良いのかよ?』
誠司が呆れたように呟くがキュゥべえは相変わらず呑気な声で返してきた。
『大丈夫だよ。むしろ学校の方が安全だと思うな。ここにはタケルがいるし、マミや隼人、星斗もいるからね』
『けどさ。星斗はともかくとして、隼人さんとマミさんは3年生だから、ちょっと遠くないか?』
タケルがそう呟くと同時に、別の声が聞こえてきた。
『ご心配なく。話はちゃんと聞こえてるわ』
『俺もだぜ』
それは紛れもなくマミと星斗の声だった。皆が驚いていると、キュゥべえが得意げに説明した。
『この程度なら、テレパシーの許容範囲だよ』
『へぇ……』
『え、えっとその……、おはようございます』
マミに聞こえるという事は、当然隼人にも聞こえているだろう。そう思ったまどかはとりあえず3人に挨拶をした。
『ちゃんと私達で見守ってるから安心して』
『それにあいつらだって、人前で襲うような、リスクの高い行動は控えるはずだ』
隼人がそう説明すると、まどかは安心感を覚えた。
『ならよろしいのですが……』
御成がそう呟くと、教室にあの2人が現れた。さやかが嫌味を含めた声で呟いた。
『げ……。噂をすれば影……』
『あいつらが来たのか?』
『は、はい』
星斗の言葉に、仁美がそう返した。
言わずもがな、昨日転校してきた、魔法少女のほむらと、仮面ライダースペクターのマコトである。2人は席に着く前に、まどかとタケル、そしてキュゥべえをジッと見つめていた。
どうして仲良く出来ないのだろうか。昨日の話を思い出しながら、不安や疑問が入り混じった表情を見せるまどかに、さやかがテレパシーで庇うように声をかけた。
『気にすんなって、まどか。あいつらが何かちょっかいをかけてきたらあたしがぶっ飛ばしてやるからさ。マミさん達もついてるんだし』
『そうだぜ、まどか。さやかはともかくとして、俺が守ってやるから、安心しろよ』
『ちょっとタケル! ともかくっていうな!』
タケルとさやかのやり取りに、まどかは苦笑しながら再び安心した。
それから、授業は何の問題もなく過ぎていき、昼休憩になるといつものように屋上で食事をした。この日はまどか達7人に加えて、同級生で仮面ライダーでもある星斗とキュゥべえも皆の輪に入っていた。本当はマミと隼人も誘おうとしたが、用事があってこれないそうだ。
実質、星斗との交流会として、楽しく話し合いながら仲を深めていった。ちなみにキュゥべえのご飯は、まどかと仁美、晶が分け合って与えていた。
しばらくすると、さやかがポツリと呟いた。
「……ねぇ、みんな。願い事、何か考えた?」
その問いに、まどか達は首を横に振った。
「……ううん」
「私もですわ……。一応、夕べは一生懸命考えたのですが……」
「拙者も同じく」
「俺もだな……」
「僕も、全然……。そういうさやかちゃんは?」
「あたしも全然。何だかなぁ……。いくらでも思いつくと思ったんだけどなぁ〜」
さやかが呑気そうにそう呟くと、誠司も少し真剣な表情になりながら、テーブル代わりの石段に仰向けに寝転がって、晴天を見つめながら呟いた。
「確かにそうだよな。そりゃあ欲しいものとかやりたい事とかいっぱいあるけどさ。命懸け、ってところでどうしても引っかかっちゃうんだよなぁ。そこまでするほどの願いって訳でもないし……」
すると今度はキュゥべえが口を挟んできた。
「意外だなぁ。大抵の子は二つ返事なんだけど」
「……そうなんですか?」
「そうだよ。君達くらいの年頃の少年少女なんて、それこそ自分だけの夢で押しつぶされそうなものだと思うけど。星斗がそうだったようにね」
「……まぁ、確かに俺は割とすぐに返事をしたからな」
それに対し、さやかは立ち上がって腕を伸ばすと、そのまま転落防止用の金網フェンスに歩み寄って手をかけた。
「まーきっと、あたし達がバカなんだよ」
「……そうなのかな?」
「……そう、幸せバカ」
頷きながらそう呟くさやかの表情は、いつもと違って苦しげに悩んでいる感じだった。
「別に珍しくなんかないはずだよ。命と引き換えにしてでも叶えたい望みって。そういうのを抱えてる人は、世の中に大勢いるんじゃないのかな。……だから、それが見つからないあたし達って、その程度の不幸しか知らないって事じゃん。きっと恵まれすぎて、バカになっちゃってるんだよ……」
さやかは、脳裏にある人物が今でも怪我と闘って、いつの日かまた夢を追いかける事を目標にしている様子が思い浮かんだ。星斗とキュゥべえは知る由もないが、まどか達には、さやかが思い浮かべている人物がすぐに分かった。
それは、さやかの幼なじみでもある、上条 恭介。
「何で、あたし達なのかな……?」
さやかはフェンスをギュッと握りしめながらそう呟き、まどか達に向き直った。
「不公平だって思わない? こういうチャンス、本当に欲しいと思ってる人は、他にも大勢いるはずなのにね……」
「さやかさん……」
すると、今まで黙って聞いていたタケルがポツリと呟いた。
「……でもさ」
誠司が体を起こしてタケルを見るのと同時に、他のメンバーもタケルに注目した。
「世の中ってそういうもんじゃないかなって俺は思うんだ。そりゃあ、さやかが言ってたみたいにチャンスが来る来ないでバラバラだから、公平さなんて微塵もないとは思う。……けど、だからってそのチャンスをみすみす逃すのはもっと悪いと思うんだ。ちゃんとどんな事にも諦めずに、命を燃やして、精一杯生きていこうとしてる人には絶対チャンスが訪れる。俺はそう信じてる。……まぁ、俺の場合は、そのチャンスが魔女に殺されるって形で奪われたようなもんだけどな」
タケルの言葉に、星斗も同意した。
「そうだな。俺も、周りから話しかけられなくても、とにかく頑張ってその時が来るのを必死に耐えてたから、こうして願いが叶って、この場にいられるんだと思う」
「タケル君……、星斗君……」
まどかがジッとタケルと星斗の真剣に話す様子を見つめていると、キュゥべえが扉の方に目を向けた。皆がキュゥべえの目線の先を見ると、そこにはほむらとマコトが立っていた。
さやかがその姿を捉えると、急いでまどか達の元に戻って、まどか、仁美、晶を守るようにさやかと誠司が前に出て、さらにその前にタケルと星斗がゴーストドライバーを腰に出現させ、アイコンを手に持って出た。
8人が警戒していると、
『大丈夫よ』
という声が頭の中に聞こえてきた。声のした方を見てみると、隣の校舎の屋上に、マミと隼人の姿が見えた。彼らの手にはソウルジェムとアイコンが握られている。これなら何かあってもすぐに駆けつけてくれるだろう。
向こうもそれに気づいているらしく、一度マミ達をチラリと見てから、まどか達に向き直って、手前で足を止めた。
「……昨日の続きか?」
星斗が若干喧嘩腰になりながら、いつでも変身出来るようにアイコンを握って声をかけた。
対するほむらはしばらく黙った後に否定した。
「いいえ、そのつもりは無いわ。そいつが鹿目 まどかと接触する前にケリをつけたかったけど、今更それも手遅れだし……」
そう言いながらほむらだけでなく、マコトはまどかの腕に抱かれているキュゥべえを冷たい眼差しで睨みつけていた。向こうに戦う意思は無いと感じ取ったタケルと星斗はアイコンを持つ手を下ろした。
「……それで、どうするつもりだ? まどか、お前は魔法少女になるつもりか?」
マコトがそう尋ねたが、まどかは返事に困った。
「わ、私は……」
そう言いかけると、キュゥべえが口を開いた。
「僕は強制してないよ。今はまだ、まどか達も迷っているところだからね」
「どっちにしたって、あんた達にとやかく言われる筋合いは無いわよ!」
さやかがそう叫ぶが、ほむらはさやかとキュゥべえの言葉を無視してまどかに尋ねてきた。
「昨日の話、覚えてる?」
その問いに、まどかは無言で頷いた。
それは、保健室へ向かう途中の長い廊下で、ほむらに言われた時の事。あの時は何の事か見当もつかなかったが、今なら分かる。ほむらはこうなる事を知っていて、まどかに警告の意味を込めてあのような事を言ったのだ。だがその一方で、なぜほむらにはこうなる事があらかじめ分かっていたのか。
疑問に思う中、ほむらとマコトは用が済んだとばかりに背を向けた。
「ならいいわ。忠告が無駄にならないように、祈ってる」
そして扉に向かって歩き出した時、
「ほ、ほむらちゃん! マコト君!」
まどかは思わず呼びかけた。
「あ、あなた達は、どんな願い事をして、魔法少女や、仮面ライダーになったの⁉︎」
どうしてこんな質問をしたのか。まどか自身もよく分からなかった。開けてはならない扉を開けてしまうような気がしたが、なぜか聞いておいた方がいいような気にもなったのだ。
すると、2人は振り返って、まどかの方を向いた。その時の2人の目は今まで以上に冷たかった。特にほむらの方は、それに混じって深い悲しみを感じさせているように、まどかだけでなく、タケルは感じ取った。
そして2人はそのまま何も言わずに扉を開けて階段を降りていった。
「何だってんだ? あいつら……」
2人が出て行った扉を睨みつけながら、誠司はそう呟いた。
一方、階段を降り続けている2人は黙っていたが、ほむらの手が強く握り拳を作っているのを見て、マコトがそっとほむらの手に触れた。
「……ほむら」
「……分かってるわ。……でも、言いたくても言えないのが、とても悔しくて……!」
そう呟くほむらは歯を食いしばっており、目からは涙が溢れそうだった。そんなほむらを、マコトは無表情ながらも慰めつつ、こう言った。
「誰も俺達の事を信じてはくれない。それは、これまでもそうだった。今回は少し様子が違ってはいるが、結果は同じだ。だからこそ、俺達がやらなければならない。……タケルとまどかの幸せの為にもな」
「……そうね」
ほむらは涙を拭って頷いた。
まどか達はまだ知らない。彼らがどのような願いをもって、この命懸けの戦いに挑んでいるのかを……。
以前、「仮面ライダーゴースト」でロビンフットが言っていた、「正義は一つとは限らない」という言葉は、この「まどか☆マギカ」のみならず、いろんなアニメ作品でも、通じる事だと思っています。
次回もお楽しみに。