魔法少女まどか☆ゴースト 〜命を紡ぐ物語〜 作:スターダストライダー
まどかとタケルがほむらと会話していた頃、晶はトボトボと1人、家へと歩いて帰っていた。本当ならばさやかと一緒に上条のお見舞いに行っても良かったのだが、この日は、昼間の事もあって行く気が失せてしまった。
「(さやかちゃん、辛そうなのにいつも恭介君のお見舞いに行ってて、偉いなぁ……。それに比べ、僕なんて、いつも意気地なしで……)」
ますますネガティブ思考に陥り、ため息ばかりついていた晶は、やがて広い公園に差し掛かった。そこで、見覚えのある人物を目撃した。
「……? あれって……」
晶の視線の先には、小学校の頃は行きつけだった屋台のたこ焼き屋で買い物をしているマコトの姿があった。晶は気になってマコトに近寄った。
「あ、あの……、マコト、君……」
「……お前か」
マコトは振り返りもせずに呟いた。
「おや? 晶君じゃないか。あんた達、知り合いかい?」
屋台のおばちゃんが不思議そうに2人を交互に見あった。
「え? ま、まぁ……」
「そうかい。じゃあ晶君も食べていくかい? 今なら出来立てを食べれるよ」
それを聞いて、晶は小腹がすいている事に気付いた。昼休みの昼食はそれほど食べていなかったので、丁度良いと思い、晶もマコトと同じく、たこ焼きを注文した。
それから2人は、自然と近くのベンチに座り、熱々のたこ焼きを食べていた。
「ここのたこ焼きって、小学校の頃はよく、タケル君達と食べに行ってたんです。タケル君とまどかちゃんが最初に教えてくれて、とても美味しくて……」
「……そうか」
マコトは短く返事をしてから、一つ、また一つとたこ焼きを食べていた。そして、不意に呟いた。
「……変わらないな、ここの味は」
「? マコト君、前にこの店に来た事あるんですか……?」
「……! あ、いや……。この街に来てすぐの頃にな……」
マコトが曖昧そうに答えたが、晶は特に気にしなかった。
「……で、俺に何か用があるのか?」
そうマコトが呟いたのは、たこ焼きを全て食べ終えた頃だった。
「あ、いや……。用ってほどでは無いんですが……」
晶は少し恥ずかしそうに身を縮ませてから、マコトに尋ねた。
「マ、マコト君は、怖くないんですか? 魔女と戦う事……。あんなに恐ろしい奴と毎日戦うなんて……」
「もう慣れたからな。魔女と戦う事も、誰かが死ぬ所も」
そう呟くマコトの目は、とても冷たく感じた。
晶は、マコトの横顔を見つめながら、こう言った。
「僕は、タケル君やマミさん、みんなが羨ましいです……。誰かの為に一生懸命戦ったり、気遣ったり、励ましあったり……。僕には、とても出来そうにないような事を当たり前のようにやってのけて……。そういう意味では、マコト君も、そういう力を持ってますから……。僕は、マコト君に何となく、憧れてるんですよね……」
「そんな大それたものじゃない」
晶が顔を赤くして呟いた事を、マコトは冷たくあしらった。
「魔法少女や仮面ライダーになっても、その先に待ち受けるのは絶望だ」
「えっ……? でもそれじゃあ、マコト君は……」
「俺はそれを受け入れた上で、こうして戦ってる。お前が思ってるほど、仮面ライダーとして存在する事は、この世界では生易しくない」
そして、マコトは立ち上がり、ゴミ箱にゴミを捨てると、顔だけ振り返って、冷徹に呟いた。
「今のお前には、仮面ライダーは向いてない。これはアドバイスであり、警告だと捉えるんだな」
マコトはそう言いながら公園を立ち去った。残された晶は、悔しさで俯くばかりだった。
「(僕なんかじゃ、さやかちゃんやみんなの役には、立てないって事なの……? それじゃあ、僕はどうすれば……)」
一方、晶と同じく仮面ライダー候補生の誠司は見滝原ではなく、隣町を歩いていた。母親からの頼みで、買い出しに出かけているのだが、目的の品が隣町にしかないと言われて、仕方なく自転車で買い物に来ていたのだ。
「う〜んと……。これで全部かな……?」
必要な材料をそろえた誠司は、買い物袋に入っていた品物を確認して、商店街の中を通行人に気をつけながら漕いでいた。
しばらくすると、横手から誰かが飛び出してきた。
「!あぶね……⁉︎」
誠司は慌てて急ブレーキをかけた。驚いて立ち止まった人物は、赤髪の少女で、手には茶色の袋が握られていた。急に止まった事で、そこからミカンが転がり落ちてきた。
「「あっ……」」
誠司と少女が慌ててミカンを拾おうとした時だった。
「待ちやがれ〜!」
少女が来た道から、男性の怒号が聞こえて来た。それに気付いた少女は舌打ちしながら、ミカンを拾うのを諦めて、その場を猛ダッシュで去っていった。
誠司が呆然としていると、エプロンを着た男性が汗だくになって現れた。
「くそっ……! 逃げ足の速い野郎だな……」
「あの……。どうかしたんですか?」
誠司が気になって尋ねると、男性は困ったような表情をして説明した。
「万引きだよ。あのガキ、俺がちょっと目を離した隙に目の前にあったミカンをほとんどかっさらっていきやがった。全く……。万引きなんていつの時代もいろんな奴がやるもんだねぇ……」
「……」
誠司は少女が走り去って行った方向を見つめながら、しばらくして男性の方を見て言った。
「あの……。盗まれた分のお金、俺が払っときますから。後は俺に任せてくれますか? 俺がそいつに話しときますから」
「おっ、良いのかい? 助かるぜ。んじゃあ……」
そう言って男性は盗まれたミカンの合計金額を言って、誠司がその分を支払うと、男性は上機嫌になった。
「すまねぇな。迷惑かけさせちまって……。じゃあ、あの子にキツく言っといてくれよ。親を悲しませるような事はするなよ、って」
「は〜い」
誠司はそう言うと、早速全力でペダルを漕いで、少女の行方を追った。
しばらく進んでいくと、近くの広場のベンチに座っている、赤髪の少女を発見して、彼女の前で自転車を止めた。
「やっと見つけたぜ」
「……ん? あんた、さっきの……」
「ったく……。何でまた万引きなんてバカな事したんだよ」
それを聞いて、少女は舌打ちした。
「……ちっ。んで、どうすんだ? あたしをサツに連れ込むってか?」
「……別にそんな事しねぇよ。面倒だからな。ま、金は払っておいたし、あんま気にすんな」
「金払ったのかよ⁉︎ どんだけお人好しなんだお前は⁉︎」
少女が若干呆れながらツッコんでいると、誠司は自転車から降りて、少女の隣に座って休憩した。
「何だって良いだろ?あのままあの人を放っておけなかったし……。お前もな」
「何であたしなんかを……」
少女が不思議そうに呟く中、誠司はカバンから、おやつ代わりに持ってきた自家製の和菓子を取り出した。2つ持っていたが、その内の一つを少女に渡した。
「食うか?」
少女は無言で和菓子をひったくって、食してみた。途端に表情が和らいだ。
「うめぇ……!」
「だろ? 父ちゃん手作りの特製和菓子だからな」
よほどお腹が空いていたのか、少女は一瞬で和菓子をたいらげていた。
それからしばらくして、話題を先ほどまでの件に戻した。
「……んでさ。お前どうして万引きなんかしたんだ? 親とかあんま心配させるなよって、あの店員も言ってたし……」
「……」
それを聞いて、少女は表情を暗くした。誠司もそれに気づく。
「(もしかしてこいつ、そういう人とかが近くにいないんじゃ……)」
そう察した誠司は謝る事にした。
「……や、ごめん。気に触る事言っちまったかな……?」
「べ、別に気にすんなよ……。もう、大分前の話だし……」
そう呟く少女の目線の先には、楽しそうに歩く親と子ども達の姿があった。
それから少女は立ち上がって誠司の方を振り向いた。
「ま、金の事はありがとな。……けど、あんた本当にお人好しなんだな」
「昔はそうでもなかったんだけどな。多分あいつの影響だろうな……」
「あいつ……?」
「いや、何でもない。こっちの話。あっ、俺は秋永 誠司。お前は?」
「あたしは、佐倉 杏子。んじゃあ、帰り道は気をつけるんだな」
「おう。お前もな」
そう言って、少女……杏子はミカンの入った袋を持って、広場を去っていった。誠司もその後ろ姿を見つめながら、自転車に乗って広場を後にした。
「(……にしても、あんな風に誰かと話したの、久しぶりだったよな……。何であたしなんかにあんだけ突っかかってきたのかね……)」
広場を出た後、杏子は誠司の事を思い出しながら、路地裏を歩いていると、不意に立ち止まった。そしてある方向の一点だけを見つめながら、ニヤリと笑みを浮かべた。
「……早速お出ましってわけかい」
そして杏子はポケットに入れていた左手を突き出した。その指には、赤色の宝石がつけられた指輪があり、それは卵形の宝石……ソウルジェムに姿を変えた。
「……変身!」
少女がそう叫ぶと、杏子は光に包まれて、赤色のノースリーブにスカートを履いた姿になり、その手には槍が握られていた。襟元には赤色の宝石がつけられている。
「……さぁてと、そんじゃあ別の腹ごしらえでもするかねぇ!」
そう言って杏子は走り出した。
誠司は、杏子の左手までは見ていなかったので気づかなかったが、佐倉 杏子もまた、
そしてこの2人の出会いが、さらなる運命へと繋がっていったのである……。
同時刻、夕日が沈みかけている頃に、さやかはいつものように上条のいる病室にいた。ベッドでは上条が寝転がりながら、さやかからもらったCDをレコーダーで聴いている。
椅子に座っているさやかは気まずそうに声をかけた。
「……ねぇ、何聴いてるの?」
「……亜麻色の髪の乙女」
「あぁ、ドビュッシーの! それ素敵だよね」
さやかがわざとらしく明るい声を出すが、この日の上条はいつもと違って、対称的に暗い。それに気付いたさやかも無理やり笑顔を作って話しかけた。
「あ、あたしってほら! こんなだからさ、クラシックなんて聴くガラじゃないだろってみんなが思うみたいでさ。偶に曲名とか言い当てると、すっごく驚かれるんだよね〜。意外すぎて尊敬されたりしてさ〜」
……が、上条は何の反応も示さない。さやかも少し表情を暗くしながら、ソッと呟いた。
「……恭介が教えてくれたから。でなきゃ、あたしも仁美もこういう音楽をちゃんと聴こうと思う機会、多分一生無かったと思うし……」
「……さやかはさぁ」
「ん?」
やがて、上条は口を開いたが、何故か様子がおかしい。まるで希望に満ち溢れてるような気がしない。
さやかがそう思っていると、上条は冷たい口調でさやかに言い放った。
「さやかは、僕を虐めてるのかい?」
「……へっ?」
「何で今でもまだ、僕に音楽なんか聴かせるんだ? 嫌がらせのつもりかい?」
「そ、そんな事ないよ……! だって恭介、音楽好きだから……」
イヤホンを外しながらさやかを睨みつける上条に対し、さやかはそれを否定するが、次の瞬間、上条は大声で叫んだ。
「もう聴きたくないんだ! 自分で弾けもしない曲をただ聴くなんて……! 僕は……、僕は……!」
そして上条はなんと、苦しそうに怪我をしている左手をCDプレーヤーに叩きつけたのだ。CDは砕け、破片は飛び散り、それが上条の左手に突き刺さった。傷口からは血が流れ、白いベッドを赤く染め始めた。
さやかは慌てて椅子から飛び上がって、上条の左腕を抑え付けた。
「や、やめてよ……! そんな事したら、また恭介の手が……!」
「もう動かないんだ……! こうしている今でも、もう痛みさえ感じられない……! こんな腕なんて、もう……!」
上条が、左手の痛覚がなくなってしまっているほど壊れている事に悔しがりながら叫んでいたが、さやかは必死に説得した。今ここで彼を絶望から救えるのは、自分しかいないからだ。
「そんな簡単に言わないでよ……! きっと大丈夫だよ! 何とかなるよ!諦めなければ、きっと……!」
「……諦めろって言われたのさ」
「……⁉︎」
次の瞬間、さやかの思考は一時的に停止した。
「(そ、それって、もう恭介はバイオリンを弾けないって事……? もう、恭介にとって楽しい事が2度と出来ないって事……? そんな、そんな事って……! じゃああたし、どうしたら……⁉︎)」
さやかが困惑する中、上条は涙を流しながら、乾いた笑いを浮かべてこう呟いた。
「さやかがここに来る前に、先生から直々に言われたのさ。……もう演奏は諦めろって。現代の医学では、無理なんだって……」
そう呟く上条の声は、今のさやかには届かない。
「(あたしは……、あたしは……!)」
その時、脳裏にある方向がよぎった。
「(……あった。今のあたしに出来る、恭介を助ける、一番の方法が……!)」
それは、理不尽にも巡ってきたチャンス。それを使う事で、今の彼を絶望から救える。絶望との戦いという対価を支払う事によって……。
そうともつゆ知らず、上条は言った。
「僕の手は2度と治らない……! 奇跡か、魔法でもない限り……!」
「あるよ」
「えっ……?」
さやかは即答した。奇跡や魔法、それらを可能にする事の出来る唯一の方法。そして彼女は見た。病室の外にある、転落防止用の手すりの上にチョコンと座っている、猫のようなシルエットを。その目にはもう迷いはない。
そしてさやかは強く言い放った。
「奇跡も、魔法も、あるんだよ」
というわけで、今回は早くも、私のお気に入りの魔法少女、佐倉 杏子を登場させました!
ちなみに、今回の話においては、次回もそうなのですが、次の次の回にも繋がりますので、お楽しみに。