魔法少女まどか☆ゴースト 〜命を紡ぐ物語〜 作:スターダストライダー
……それから、今更かもしれませんが、「まどマギ」が始まってもう5年が経ちましたね。思えばあの時は、東日本大震災という悲劇があり、大勢の方が亡くなられると共に、まどマギの最終回も延期するという事態が起きました。東北に住まわれている多くのファンだった方々が、その結末を知る事無く亡くなられているという、思い出深いアニメでもあると私は思っています。震災で亡くなられた方々のご冥福をお祈りすると共に、これからも頑張って投稿していこうと決意する所存でございます。
「仁美〜。帰るよ〜」
さやかののんびりとした声を聞いて、仁美はハッとした。
月曜日になり、再び学校生活が始まった日の放課後、仁美はずっと思い悩んでいた。隼人が大怪我をして、その悍ましい姿を見た彼女は恐怖のあまり逃げ出した。いっそこのまま逃げ出したい。そう思っていた矢先に、今度は魔女の口づけをつけられて、自殺しようとしていた。そんな彼女を助けたのが、まどかやタケル達に加えて、親友のさやかだった。自分のせいで戦いに巻き込んでしまった。そう思って落ち込んでいたところに、新たに仮面ライダーとして御成が契約した事を、今朝告げられて、ますます落ち込んでしまっていた。
「仁美ちゃん。今日はショッピングモールに行きませんか? 美味しいクレープ屋さんが出来たんですよ」
晶も説得しているが、仁美の表情は変わらない。晶が困惑していると、まどか達も仁美に寄ってきた。
「なぁ、仁美。そろそろ機嫌取り戻したらどうだよ? 落ち込んでたって何も変わらないぜ」
「そうですぞ! それに拙者は、自らの意思でなろうと思った所存。仁美殿が引け目を感じる事など、これっぽっちも……」
「そ、そうじゃ無いんです……!」
突然仁美が立ち上がり、大きな声をあげた。その大きさにまどか達だけでは無く、周りにいた数人も視線を仁美に向けた。
「私は、その……。どうして皆さんがそんなに平気なのか、知りたいのです……! あんな事があって、それでもどうしてまだ関われるのかを……」
「平気、って言うほど平気じゃないと思うけど……」
さやかが曖昧そうに答えるが、仁美には聞こえていなかったようだ。
「……減滅したでしょう? 私は結局、こういう人間なのです。目の前の事から逃げ出すしか、私には取り柄が無いのですわ……」
「そ、そんな事無いよ仁美ちゃん! 仁美ちゃんだって、私なんかよりもずっと良いところはあって……」
「お世辞は結構です、まどかさん」
そう呟く仁美の目は涙目になっていた。
「もう私、あなた方の友達としていられませんわ……!」
「お、おい! 仁美!」
みんなの間をすり抜けて仁美は教室をさっさと出て行ってしまった。タケル達も追いかけようとしたが、廊下に出た時はすでに姿は見えなかった。
「仁美ちゃん……」
まどかは不安な顔つきになりながら、仁美の安否を心配した。
学校を出た仁美はそのまま街中を、足取りが重そうな感じで歩いていた。
「(はぁ……。結局今日も、私はまどかさん達から逃げてるだけ……)」
ため息混じりにそう思っていた仁美は、街中を走っている選挙カーに目がいった。もう直ぐ選挙も近い。未来を担う議員達が一生懸命アピールをしているその姿を見て、仁美はある事を思い出した。
『美国 久臣が、この政治腐敗に一石を投じます! 美国 久臣に、皆様の清き一票を!』
数年前にちょうど今の頃、仁美は家族と共にショッピングを堪能していた。その最中、歩いていたところでその声が響き渡った。選挙の事をあまりよく知らなかった仁美は呆然としながらその男の演説する様子を眺めていたが、不意に彼女の近くに、同い年くらいの少女が紙を持ってやって来た。
『宜しくお願いいたしまーす!』
元気そうにハキハキと大声を出して、演説している人の顔が載っているポスターを配っているようだ。もしかしたら、選挙カーに乗っている男の人の子供なのかもしれない。そう思っていると、少女が仁美に寄ってきて、
『はい! どうぞ!』
と言ってポスターを仁美に渡した。
『あ、ありがとうございます……!』
仁美は戸惑いながらそう言うと、少女は笑顔で頷いて、再び別の場所に向かっていった。その姿を見て、仁美は自然と、その少女の頑張る姿に感嘆していた。
「(……そういえば、そんな事もありましたわね)」
仁美が選挙カーを眺めながらそう思っていた。確かその男性は現在は失脚して政界から離れていると聞く。やがて再び歩き出し、仁美は途中でコンビニを見つけ、何か買おうと思い、店内に入っていった。
店内はそれほど混んではおらず、割とすんなりと商品をカゴに入れれた。最後の一つである茶菓子の詰まった袋を取ろうとした時、手が滑って床に落ちてしまった。仁美がそれを拾おうとした時、前方から別の手が袋に触れた。
「えっ?」
仁美が視線をあげると、そこには綺麗な髪や顔が特徴的な、マミと引けを取らないほどグラマラスな同世代の少女がいた。その表情を見て、仁美は不思議な感覚がした。
「(この人、どこかで見た事あるような……)」
仁美の表情に気づいたのか、少女も微笑みながら仁美の方を見た。
「うふふ。やはりあなたもこれを探されておりましたのね」
「えっ?」
「分かってましたの。あなたがこれを取ろうとして、うっかり手を滑らせて落としてしまう事も」
まるで予言者みたいな言い方をする少女に、不思議と不気味さを感じでいた。すると、少女がこんな事を言ってきた。
「せっかくですし、この茶菓子を私の家でご馳走になりませんか? ここから近いし、美味しいお茶も手に入ったばかりですので、これも何かの縁ですし、よろしければ、いかがでしょうか……?」
どうやら向こうは招待してくれているようだ。突然の事に、仁美はどうするか悩んでいた。
「で、でも、本当によろしいのですか? わざわざ茶菓子を召し上がる為だけにお邪魔するなんて……」
「そんな事ありませんよ。むしろ大歓迎です。普段は一緒にいてくれる子達もいるんですけど、今日はあいにく用事があるみたいで……」
それならば問題無いと思い、仁美は承諾した。買い物を済ませ、コンビニを出てしばらく歩くと、目の前に豪邸が見えてきた。あれが彼女の家らしく、その規模の大きさに仁美は驚いていた。
門のところには『美国』と書かれたネームプレートがあり、その名字に見覚えがあると思っていた仁美は咄嗟に先ほどまで思い出していた事を思い返した。そして理解した。あの時ポスターをくれた少女が、今目の前にいる彼女なんだ、と。
「今、お茶を用意するから、もう少しだけ待っててね」
少女はそう言って、豪邸の中に入っていった。仁美はしばらくの間、辺りの景色を眺めていた。庭のあちこちに花が植えられており、庭園の雰囲気をより強く感じさせるような手入れがされていた。
しばらく眺めていると、少女はお茶の入ったカップに、茶菓子を乗せた皿、そして花の入った花瓶をおぼんに乗せて戻ってきた。
「うふふ。周りの花が気になったかしら?」
「え? えぇ。とても上手に手入れなさっておられると思って……」
「そう。それはあの子も喜ぶわ。ここの庭は、さっき言ってた子が私の為に手入れしてくれてるの」
そう言いながら、少女はテーブルに座り、2人ききりのお茶会が始まった。
しばらく茶菓子と淹れたてのお茶を飲んだりと堪能していると、不意に少女がカップをテーブルに置いて、仁美に微笑みかけながら口を開いた。
「……さてと。それじゃあ聞かせてもらおうかしら」
「……えっ? 何をですか?」
「もちろん、あなたの事よ。あなた今、とても悩んでる事があるのでしょう?」
それを聞いて、仁美のカップを持つ手は止まった。驚いた表情の仁美を見つめながら、少女は再び微笑んだ。
「うふふ。どうして知ってるのか気になるかしら? それはそうなると分かっていたからよ。さっき茶菓子を拾おうとした時と同じ。全部分かってたから、この家に招待したの」
「知ってた……という事は、占いか何かをなさっているのですか?」
仁美が少し怯えながら尋ねると、少女はまた微笑みながら、
「さぁ、どうでしょうかね……?」
と、はぐらかしていた。
「さぁ、遠慮する事無いわよ。私ならどんな相談にでも乗ってあげる。何でも怖がらずに話して」
その優しそうな尋ね方に仁美も観念したのか、その悩み事を口にした。
「……あなたの仰る通りですわ。私は今、とても悩んでおりますの」
仁美は少し俯きながら、まどか達との関係性に乱れが生じている事を話した。もちろん、魔法少女や仮面ライダーの事は伏せた上で話している。ある程度話したところで、再び仁美は顔を上げて、少女の目を見つめた。
「家柄の都合上、友達と一緒にお出かけする機会が少なく、ずっと孤独に苛まれていた私に手を差し伸べてくれたのは、他でも無い、その友人なのです。……でも、最近はその方々とも滅多に顔を合わせないようにしていたのですわ。……こんな事聞いても、答えようが無いかもしれませんが、私は、友達として、あそこにいて良いのでしょうか?」
仁美の質問に、少女は耳を傾けながら静かに目を閉じていたが、やがてゆっくりと目を開けて、仁美を見つめた。
「……よほど、その方々が大切なのですね。よく分かります」
少女の脳裏には、今の仁美とよく似た境遇にあった少女の姿があった。
「……でしたら、その想いを強く心に念じれば良いと思いますわ。この花のように」
そう言って少女が差し出したのは、先ほど持って来た花瓶だった。そこには紫色の花……シランが差し込まれている。
「シランの花言葉はご存知で? 『互いを忘れないで』。その想いは、奇跡となって、きっと叶うはずよ」
「奇跡……?」
「いずれあなたには大きな試練が待っているわ。それも、仲間に助けを呼ばなきゃいけない程のね。その時に、きっとあなたに救いの手を差し伸べてくれる存在がいるわ。その存在が、あなたの願いを受け入れ、もう一度その友人達と繋がるきっかけになるの」
少女が予言するかのように喋っている姿を仁美はジッと見つめていた。
やがて時間が来て、仁美は家に帰る事にした。
「それじゃあ、私はこの辺でおいとまさせてもらいます。今日はありがとうございます」
「こちらこそ、お茶会が出来て嬉しいわ。またどこかで会えると良いわね」
それから門をくぐり、家のある方を向いていると、ふと思い出したように振り返って少女の方を見た。
「あの……。そういえば自己紹介がまだでしたわね。私、志筑 仁美と申します。あなたは……?」
そう言われて、少女はしばらく黙っていたが、やがて微笑みながら仁美に言った。
「私の名前を、今後誰にも話さないと約束してくださるなら、お教えしてあげましょう。よろしくて?」
「……? は、はい……」
仁美は戸惑いながらも頷いた。少女は安心したかのようにその名を口にした。
「美国 織莉子。それが私の名前よ」
それじゃあ、と言って織莉子は門から離れた。仁美も織莉子の言っていた事を気にしつつも、その場を後にした。
仁美がいなくなったのを確認した織莉子は、仁美が去っていった方角を見ながら、クスクスと笑い始めた。
「そう、もう直ぐあなたの願いは叶うわ。そして、また一つ犠牲によって、この世界の破滅が遠のいていくのよ……」
それはまるで仁美に感謝するような顔つきだった。織莉子は左手の指につけられた、指輪型のソウルジェムを愛おしそうに見つめた。
「……もうすぐですよ、お父様。もうすぐ、この世界は救済されるのです。私達の手によってね……」
魔法少女……織莉子は、その野望を叶える為なら、例え同じ運命を課せられた少年少女をも利用する。それが彼女にとって大切な人であっても……。
「……はぁ」
仁美はため息をつきながら夕暮れ時の道をひたすら歩いていた。その手には、織莉子からプレゼントされたシランの花が握られている。
「……強く心に念じる、ですか……」
「やぁ、こんなところで何してるんだい?」
不意に聞こえて来た声に顔を上げると、目の前にいたのはキュゥべえだった。
「キュゥべえさん……」
「ここ最近はずっとマミ達と距離を置いているようだね。よほどあの時の戦いが怖かったように見える」
キュゥべえはそう言って仁美に近づき、彼女の肩に乗った。それから仁美はキュゥべえと共に歩き始めた。
「……キュゥべえさんは」
再び口を開いたのは、路地裏に入ってからの事だった。
「キュゥべえさんは怖くないのですか? 目の前であのような事になるのを見たのはキュゥべえさんが一番多いと思われますが……」
「人間で言うところの恐怖というやつだね。あいにく僕は恐怖はもちろん、あらゆる感情を持たない。だから、人間の複雑な心の持ちようにはいつも驚かされる」
「そう……でしたか」
どうやら聞く相手を間違えたらしい。そう思った仁美は再び顔を俯かせた。
「(こんな私に、本当に出来るのでしょうか……? 友達とやり直せる事、もう一度、みんなと一緒に過ごす日々を取り戻す事が……)」
「……仁美、仁美!」
不意にキュゥべえの声が耳に入って来て、ハッと顔を上げると、目の前には暗闇が広がっていた。その異様な光景に、仁美は見覚えがあった。
「魔女の、結界……!」
「まずい! もう孵化してしまっている! 間に合わない!」
キュゥべえが叫ぶと同時に、仁美とキュゥべえの周りを暗黒が包み込み、現実世界から姿を消した。後に残っていたのは、通学カバンと織莉子からもらったシランの花だけがポツンと地面に転がっているだけだった。
「結界に閉じ込められてしまったようだね」
「そ、そんな……⁉︎」
冷静に辺りを見渡すキュゥべえと対称的に、目の前の悪夢に怯える仁美。
すると、仁美の立っていた地面が突然崩れ出して、宙に浮き始めた。
「! キャァァァァァァァァ!」
仁美が悲鳴をあげながら地面に座り込むと、上空から手の生えたカゴのような怪物が現れて地面と合体すると、一つの巨大な鳥カゴとなり、仁美とキュゥべえは閉じ込められてしまった。
「これは……!」
仁美は檻を掴んで脱出しようとするが、それほど力の無い仁美ではビクともしなかった。そんな仁美をあざ笑うかのように、目の前には一際巨大な、手の生えた鳥カゴが下りてきた。そして獲物である仁美を手に入れた事に歓喜するかのように鳴き声が響き渡った。
〜鳥カゴの魔女、ロベルタ〜
〜彼女の造る鳥カゴに閉じ込めたら最後、その獲物が自らのたれ死ぬまでその姿を眺め続ける〜
というわけで、今回はこの辺で。
鳥カゴの魔女の名前も結局分からず、仁美や織莉子のキャラがこれで合っているのか心配です……。
次回はさらなる急展開が……!
※鳥カゴの魔女の名前に修正が入りました。指摘してくれた方、ありがとうございました。