魔法少女まどか☆ゴースト 〜命を紡ぐ物語〜 作:スターダストライダー
今回は新たな魔法少女が登場!
所変わって、結界の中。
幾つもの長い紙が垂れ下がっている結界内を、ドクロのような上半身に和服を着て、一本足で優雅に歩いている不気味な魔女がいた。周りには使い魔が魔女を讃えるように踊っている。
〜趣の魔女、シズル〜
〜彼女に惑わされたら最後、自ら死を受け入れる事になるだろう〜
が、そんな魔女の進行を止めに入った者がいた。
それは長い槍を構えた赤色の服の魔法少女……佐倉 杏子だった。上に飛び上がった杏子は急降下して槍を趣の魔女めがけて叩きつけたが、瞬時に後方に回避した。思っていたより俊敏なようだ。
「……ったく、ふざけた顔しちゃってよぉ。空気読めっての!」
杏子が突撃して突き刺そうとしたが、これもかわされて、背後をとった趣の魔女は長いベロを出して杏子の背中を舐めまわした。
「ひゃあ⁉︎」
あまりにも変わった攻撃に杏子は思わず変な声が出た。
「このやろっ!」
杏子は振り返りざまに槍を振るって趣の魔女に攻撃を当てたが、後ずさっただけで大ダメージとはいかなかった。その様子に、杏子は妙な違和感を感じていた。
「(なんだこいつ……? 嫌な予感がするな……)」
そう思っている矢先に今度は趣の魔女から攻撃を仕掛けてきた。手のような長い布を使って鞭のように叩きつけようとしていた。
「! おわっと!」
とはいえこの程度の攻撃は、杏子にとってさほど脅威に値しない。俊敏さなら魔法少女や仮面ライダーの中でもトップクラスだからだ。趣の魔女は雄叫びをあげながら攻撃を繰り返していたが、隙を見て杏子が飛び上がり、ドクロめがけて槍を振るった。
「これで終わりだ!」
一直線に槍をドクロの脳天部分に突き刺すと、そこから血のような液体が噴き出て、前のめりに倒れこんだ。グリーフシードが落ちてきたのを杏子がキャッチして、ようやく杏子は安堵した。
「やけにあっさり終わったな。……まぁ、あのやな感じは気のせいか」
杏子は背を向けると、大きなあくびをして歩き始めた。家に戻ってからまた一眠りしよう。そう思っていたその時だった。
パリンという音が聞こえたかと思うと、グリーフシードを持っていた手に違和感を感じた。よく見ると、手の中にあったグリーフシードは砕けており、「ハズレ」と書かれた紙に変わっていた。
「⁉︎」
杏子が困惑していると、変化はそれだけで終わらなかった。
周りの結界は紙が垂れ下がっている情景から摩天楼の中のような世界観に変わり、先ほど倒したはずの趣の魔女は割れたドクロの中からナマコのような形の姿が2体出現したのだ。
「結界が変化してる……⁉︎ じゃあ、割れたのは外っ側だけって事か……!」
杏子が気をとり直して槍を構えていると、今度は別の所から花柄の物体が出現。穴の中から手足の生えた壺のような使い魔が大量に出てきた。
「くっ! ちまちまとウザい奴らだな!」
杏子が使い魔達の対応に気をとられていた隙に、趣の魔女は飛び上がって杏子に襲いかかった。
これに対して杏子は後ろに下がりながらかわしていたが、背中に何かが当たって動きが止まった。よく見ると背後には先ほど使い魔を召喚した物体がそびえ立っていた。
「くそっ! 挟まれたか……!」
杏子が舌打ちする中、チャンスと見た趣の魔女はそのまま杏子めがけて突っ込んだ。杏子の焦る顔が見えて勝利を確信した趣の魔女。
だが……。
「……なんてな!」
不意に勝気な顔に戻ったのを見て趣の魔女は疑問を感じたが、その理由はすぐに判明した。
突然槍の肢の部分が分裂し、連結刃のような形になって背後の物体を斬り裂いた。隙間が出来た所に杏子が入り込み、間合いを取ったところで槍を振り回し、趣の魔女を斬り裂いた。
「あたしの武器に合わせて攻撃を散らしたんだろうが、範囲攻撃が出来る槍もあるって事さ。あんた、あたしを甘く見過ぎだよ」
なおも立ち上がってくる趣の魔女に対し、杏子は余裕綽々に答えた。いかなる相手も寄せ付けない杏子の、中〜近距離攻撃はまさに圧巻だった。
その後も杏子は隙をついて趣の魔女を次々と斬りつけていき、動きを鈍らせた。胴体の部分からは血が流れている。
「あたしの魔力切れでも狙ってたんだろうな。こんなに手こずったのは久しぶりだ。少しは褒めてやるよ」
杏子は槍を突き刺すように構えて趣の魔女を睨みつけた。
「……まぁ、食う食われる連鎖がある以上、何の自慢にもなりゃしないけどね!」
トドメを刺さんとばかりに杏子は突撃した。
が、この時、杏子は気づいてしまった。死を覚悟しているものばかりだと思っていた趣の魔女がギロリと彼女を睨んでいる事に。すると、地面に垂れていた血が突然意思があるようにウネウネと動き始めた。
「⁉︎ 目くらましのつもりか? しゃらくさいな!」
杏子は槍で振り払うように血を吹き飛ばしたが、その血は4つに分裂し、杏子の四肢にまとわりついた。
「なっ⁉︎ (変化しただと⁉︎)」
杏子が驚いていると、
何の音も無く杏子の四肢が切断された。
「ま、マジか……⁉︎」
痛みも無く自分の体が切断されたのを見て、理解が追いつかなかった。趣の魔女は最初からこれを狙っていたのだ。今までの行動は全てフェイク。本命は相手の攻撃手段を封じ、自分に有利な展開に持っていくものだったのだ。
「(参ったな、これ死ぬじゃん……)」
趣の魔女が口を大きく開けて杏子を食おうとする姿を見て、杏子は死を覚悟した。
「(しけた人生だったなぁ……)」
杏子の脳裏には走馬灯のように、魔法少女になるきっかけになった事、魔法少女になってからの日々、その間に味わった絶望、それから出会った、身寄りのない少女の事が流れていた。
「(一度くらい幸せな夢をってやつ。どうせなら見てみたかったけど……。……まぁいいや。もう終わりだし)」
杏子が意識を薄れさせながら目を閉じようとした時だった。
「ダメっ!」
どこからか聞こえてきた声に、杏子は意識をハッとさせた。
すると、趣の魔女は突然上空に吹き飛ばされた。趣の魔女が困惑していると、魔女の体が鎖でがんじがらめにされた。下を見ると、杏子が槍を鎖状にして縛っていたのだ。しかも、切断されたはずの四肢は元に戻っている。
杏子は槍を引き寄せると、趣の魔女は引っ張られるように落下した。趣の魔女が向かってくる間に鎖は槍の形に戻り、魔力を槍の穂先に集中させると、趣の魔女めがけて放り投げた。
趣の魔女は今度こそ砕け散り、2度と杏子に脅威を晒す事は無くなった。
「命拾いはしたみたいだな……」
結界が徐々に崩落し、グリーフシードを掴んだ後、杏子はようやく安堵した。が、どうしても腑に落ちない事があった。
「……けど、何であたしは生きてるんだ? 自力でどうにかなるダメージじゃなかったはずなのに」
杏子は決して回復魔法が得意な方ではない。あそこまで大怪我を負っていたはずなのに、すぐに趣の魔女を倒せるほどに回復出来るとは考えにくかった。誰かが介入したのだろうか。
「……まさか、勝利の女神でもついてるってのか? くだらねぇな」
杏子が呆れながら非常食だったクレープを口に含んでいた時、その声は聞こえた。
「そうだよ」
目の前に現れた少女を見て、杏子は思わず手に持っていたクレープを落としてしまった。
「やったね! キョーコ!」
そこにいたのは安堵の表情を浮かべたゆまだった。だが、その姿は先ほどまで見ていた寝巻き姿とは全く異なっていたのだ。
肩を露出したドレスにドロワーズを履き、ネコ耳型の帽子を被っている。胸の辺りには丸い玉がつけられており、手には猫のぬいぐるみのようなハンマーが握られている。首の後ろには、緑色に輝く宝石……ソウルジェムが付いていた。
そう、そこにいたゆまは、まさしく
「キュゥべえのゆった通りだったよ! ゆまも戦えるよ! 「治癒魔法」ってゆう魔法なんだって!」
ゆまが興奮したようにハンマーを霧散させてから杏子に近づいた。
つまり、先ほど杏子の四肢を治したのはゆまの魔法だったのだ。だが、杏子はゆまに対し、素直に感謝出来なかった。
「これならキョーコが怪我しても、いつでも治してあげれるよ!」
ゆまが得意げに鼻を鳴らしていると、
鈍い音が辺りに響いた。
「……ふぇ?」
ゆまが変身を解除しながら目をパチクリさせた。そしてすぐに、杏子がゆまに平手打ちをしたと理解した。
杏子は冷めた目つきでゆまを睨みつけたまま呟いた。
「……ゆま、お前何で魔法少女になった?」
「え? だって……」
「だってじゃねぇ!」
そう叫んだ杏子はゆまの肩を強く掴んだ。
「あの時言ってただろうが! 魔法少女になんかなるなってあれほど……!」
それは、ゆまが勝手に魔法少女になった事に対する憤りと、自分がゆまを止めてやれなかった事に対する自身への怒りが入り混じっているような言葉だった。
「だって……、だって……!」
ゆまは杏子の剣幕に怯えながらも、杏子の目を見て言った。
「だって! 織莉子がゆった……! ゆった! ゆったよ! あ、あぁ……!」
「ゆま……⁉︎」
突然、錯乱するように身悶え始めたゆまに、杏子は戸惑いを隠せなかった。
「ゆまは、役立たず……ない! 役立たずなんかじゃないもん!」
ゆまの脳裏では、母親に虐待されていた時の事、ただジッと杏子が魔女と戦っている所を見ているだけの頃の事、そして織莉子に笑われながら役立たずと評価されていた時の事が鮮明に浮かんでいた。
「ゆま、これからもキョーコの役に立つ! 言う事何でも聞くよ! 好き嫌いだって言わない! だから! だから……!」
ゆまは一度目線を外した後、慈悲を求めるかのように杏子に涙を流しながら言った。
「ゆまを1人にしないで」
それが、ゆまの本心だった。
いつまた見捨てられるか分からないという不安の中、ゆまは刹那にただそれだけを願って杏子についていった。その、心の拠り所だった杏子に死が迫っていると告げられ、ゆまは恐怖した。あの時救いの手を差し伸べてくれた杏子を助けたい。
『死にかけている杏子を助けられる力が欲しい』
それがキュゥべえに告げた願いだった。結果的にそれは受け入れられて、ゆまは願いを叶えた事と引き換えに、魔法少女となり、命懸けの戦場に足を踏み入れる事になった。それでもゆま本人にとっては構わなかった。それで杏子の役に立つのなら、杏子と一緒にいられる時間が増えるのなら……。
言い切ったゆまは力が抜けたのか、泣き崩れながらへたり込んだ。
対する杏子は、ゆまほ本心を聞いて、俯きながら呟いた。
「……バカだなぁ。他人の為に魔法少女になんかなったって何にもなりゃしないのに……」
かつて、杏子もまた他人の為に魔法少女となった者だった。それこそ、以前彼女が目撃したさやかと似たような境遇だった。だが、結果的に彼女はある出来事をきっかけに絶望し、他人の為に戦う事を止める事にした。
最近はゆまとの出会いでそれも緩和されつつあったが、そうしていくうちにゆまを危険な目に合わせたくないという感情が芽生え、ゆまを魔法少女にさせないように陰ながら努力していた。
だが、結局それも無駄足だった。
魔法少女が使える魔法は、契約した時の願いに比喩する形で決定する。今回は杏子の怪我を治したいという願いから、ゆまは治癒魔法を取得した。油断さえしなければ、もっと早くゆまの所に戻り、織莉子やキュゥべえの勧誘からゆまを守れたかもしれない。
全ては自分の責任だ。そんな表情を浮かべていた杏子に対し、ゆまは気になってオドオドしながら杏子に寄り添った。
「キョーコ……? 泣いてるの……?」
杏子を心配するゆまに対し、杏子は落ちたクレープを手にとってから、ゆまの頭に優しく手を乗せた。そしていつものように勝気な表情を見せた。
「バーカ、泣いてなんかねぇよ」
済んでしまった事は悔やんでも仕方ない。そう思った杏子はゆまに告げた。
「……さっきは怒鳴って悪かったな」
「キョーコ……?」
「ゆまがそう決意したんなら、無理に止めねぇよ。このまま魔法少女として頑張っていけばいいさ」
ただし、と杏子は念を押した。
「魔法少女になった以上、戦いは避けられねぇ。魔女だけじゃなくて、他の魔法少女や仮面ライダーとも争う事もある。常に命懸けだって事だけは覚悟しとけよ? それが守れるんなら、あたしもゆまのそばにいてやる」
「……うん! 約束する! ゆま、頑張る!」
「へいへい」
ゆまが張り切って宣言する姿に、杏子は苦笑しながらその手を掴んだ。2人が仲良く隣に並んで歩いて家に帰る中、杏子は一度だけ空を見上げた。
「(織莉子……! この落とし前は、必ずつけさせてもらうからな……!)」
まだ見ぬ黒幕に怒りを露わにしながら、杏子は決意を新たにした。
その様子を、林の奥から織莉子の仲間でもある分島 リクオが見つめていた。
「(どうにかして、織莉子の立てた予定通り、千歳 ゆまはキュゥべえと契約出来たか。志筑 仁美の件も合わせて、これでしばらくはキュゥべえの注意を奴に惹きつけれそうだな)」
リクオは織莉子の計画が順調に進んでいる事に対し、笑みを浮かべていた。
「……あいつにも連絡を入れておくか。やってもらいたい事もあるし」
そう呟いて、リクオは携帯を取り出し、ある人物に電話をかけた。
とあるビルの屋上で、暗闇の空を眺めていた少女がいた。ポケットで何かが鳴り響き、手にとってみると携帯に誰かがかけてきていた。少女は携帯を開き、電話に出た。相手はリクオだった。
「やぁ、リクオ。どうかしたのかい? ……今夜? ……うん、いいよ。君や織莉子の頼みを断るわけないじゃないか」
それから少女は出口に向かって歩き出そうとしたが、途中である事に気づいて足を止めた。
「……あっ、でもその前に少しだけ時間をくれないか?」
そう呟きながら、少女は水たまりに足をつけた。
否、単なる水たまりではない。それは、おびただしい量の血だった。その近くには、人の形をした何かが転がっている。
「ちょっと汚れちゃったもんでね……」
不敵な笑みを浮かべながらそう呟く少女の右手は、血で真っ赤に染まっていた……。
というわけで、ここからはゆまも魔法少女として参戦します。ここからしばらくはかずマギ編を少し進めた後、まどマギ編に戻っていきます。杏子とゆまも、まどマギ編に戻った頃に登場させる予定です。