魔法少女まどか☆ゴースト 〜命を紡ぐ物語〜 作:スターダストライダー
41. 黒い、魔法少女……?
「杏子の事を知りたい?」
「はい」
次の日の放課後。
昨日杏子と対決した、新たな仮面ライダー"カエサル"こと、秋永 誠司はタケル達と別れて、3年生の教室がある校舎に向かい、マミと隼人から話を聞きに来たのだ。内容はもちろん、杏子と2人の関係についてだ。
「どうしてその事を?」
マミにそう尋ねられて、誠司は2人の目を見ながら、昨日の事を思い出していた。
「2人は前から知ってたんですよね? 杏子の事。それで気になったんです。どうして杏子が2人と一緒に戦ってたのか、それから、どうして別れたのか……」
「「……」」
尋ねられた質問に、2人はしばらくの間黙っていたが、やがて意を決して顔を見合わせると、誠司の方を向いて呟いた。
「分かった。話そう。だがここでは話しづらいから、屋上に行こう」
隼人がそう言うと、一同は誰もいない屋上に向かい、適当な場所に座ってから、2人は杏子の事を話し始めた。
「私達が佐倉さんと出会ったのは、ちょうど1年くらい前になるわ。私達もチームとしてようやく慣れ始めた頃に、ある結界の中に入ったの。そこでは、まだ新米だった佐倉さんが1人で魔女と戦っていたわ」
「1人で、ですか?」
「あぁ。まだ周りにそういった人達がいなかったんだろうな。それで俺達が加勢して、その魔女を倒したんだ」
「それから彼女を私の家に招待して、紅茶を飲んだりケーキを食べたりして、色々と話し合ったの。女の子と話す機会が少なかった事もあったんだけど、あんなに楽しく話せれたのも、本当に久しぶりだったわ……」
マミは当時を懐かしむように目を閉じて微笑みながらそう呟いた。よほど良い思い出だったのだろう。
「それから、杏子は突然俺達の弟子になりたいと言い出したんだ。よほど俺達を気に入ってたのかもしれない」
「それで、杏子は2人の弟子になったんですね」
「そうよ。それからは毎日が楽しかったわ。一緒に特訓したり、協力して魔女と戦えたり……。時々、佐倉さんの家に遊びに行く事もあったわ」
「信じられないかもしれないが、杏子だって最初は誰かを助ける事に喜びを感じていた。魔法少女として希望を振りまく事を生きがいにしてたぐらいにな」
「へぇ……」
誠司は少し意外そうに呟いた。出会った当初とのイメージが食い違っているからだ。
と、ここで2人は表情を曇らせた。どうやらここからが本題のようだ。誠司は気を引き締めた。
「……でも、ある時、佐倉さんは突然こう言い出したの。『2度と他人の為に魔法なんて使わない。これからは自分の為に使う。だから、もうあんた達とは一緒にいられない』ってね……」
「俺達も反対した。けど、それで止まるやつではなかった。それで俺達は戦った。けど……」
「止められなかったんですね」
誠司の推測に対し、隼人は頷いて肯定した。
「迷ってた……というのも事実だ。相手は魔女ではなく人間、しかも俺達の弟子だ。とてもじゃないが傷つけるなんて選択肢はなかった。……まぁ、この辺がマコトから、甘いと言われるところなのかもしれないがな」
隼人は苦笑いしていたが、誠司は、仕方ない事だろうと思った。
何せ杏子は2人にとって家族のように面倒を見ていた仲だった。マミも隼人も家族を事故で亡くしている。そんな中で杏子も離れていってしまったのだ。その辛さは、耐え難いものだったに違いない。
「それからは、佐倉さんは隣町の風見野で活動してると聞いてたわ。誰とも手を組まずに……」
「? って事は、昨日見たゆまって子とは一緒じゃなかったって事ですか?」
「そうね。私も八谷君も初めて見る魔法少女だったわ。だからちょっとびっくりしたわ。あの子が弟子を取るなんて考えてもなかったから……」
どうやらマミと隼人も、ゆまの事は知らなかったらしい。そう思った誠司はもう一つ質問をした。
「あの、もう一つ質問があるんですけど、杏子も前は他人の為に頑張ってたわけですよね。それがどうして昨日みたいな事に……」
それを聞いた2人はしばらく黙っていたが、やがて隼人が口を開いた。
「……悪いが、それに関しては俺達の口からは話せない。もし知りたかったら、本人から直接聞いた方が良い」
「そう、ですか……。分かりました。機会があったら聞いてみます」
誠司がそう言うと、今度はマミが口を開いた。
「秋永君。今の彼女は心を閉ざしているかもしれないけど、昨日の感じを見る限り、きっと彼女はあなたに心を開きかけているかもしれないわ。だから、私達に代わってお願い、佐倉さんを救ってあげて。私達も出来る限り援助するわ」
「はい、分かりました!」
誠司は声高々にそう宣言した。見滝原で活動するグループの中でマミや隼人の次に関わっているのは誠司本人だ。どうにかして彼女の心を知るしかない。そして彼女を救う。誠司は改めてそう決心した。
「それじゃあ、俺はこれから店の方を手伝ってきますんで……」
「分かったわ。それじゃあ、気をつけてね」
「はい!」
誠司はそう言うと、家に向かって駆け出した。
ちなみに、誠司の実家の茶屋は契約の対価により、今朝から活気を取り戻していた。両親や祖父は突然の事に困惑していたが、笑顔で接客していたのを見て、誠司は自然と笑みがこぼれた。
やっぱり契約の機会を取っておいて、本当に良かった。誠司はそう思いながら、店自慢の饅頭を運ぶ手を忙しく動かしていた。
「ゲーム、スタート!」
その頃、3人の会話の中心となっていた杏子は、ゆまと共に見滝原のゲームセンターに足を運び、ダンスゲームをやっていた。
「キョーコ、頑張れ!」
後方ではゆまが杏子を応援していた。ゆまの声援を受けながら、杏子は流れてくる曲に合わせて踊り始めた。
ちなみに目の前にはゲーム中の飲食禁止を促す張り紙が貼られていたが、杏子はそれを無視してポッキーをかじりながら足を動かしていた。
ゆまはしばらくの間、杏子の華麗に踊る姿に夢中になっていたが、不意に人の気配がしたので横を向いてみると、いつの間にかそこにはほむらとマコトが制服姿で佇んでいた。
「……あ!」
ゆまが2人の突然の登場に驚いていると、2人の気配を察知した杏子が振り返る事なくゲームを続けながら口を開いた。
「……よぉ、今度は何の用さ?」
「この街を、あなた達2人に預けたい」
ほむらの提案に、杏子はポッキーをかじりながら訝しんだ。
「……どういう風の吹き回しだ?」
「魔法少女には、あなた達のような子が相応しいわ。彼らには到底務まらない」
彼らというのは、おそらくタケル達の事だろう。対する杏子は勝気な笑みを浮かべながら口を開いた。
「ふん! 元よりそのつもりさ。けど、あいつらはどうする? 放っておきゃ、また突っかかってくるぜ?」
「その辺は俺達の方でなるべく穏便に済ませる。だからお前達は手を出すな。俺達で対処する」
「そーかい。それと、まだ肝心な所を聞いてない」
そこで一旦曲が止まった所を見計らって、杏子が振り向いてほむらとマコトの方を見た。
「あんたら、一体何者なんだ?」
「「……」」
杏子の質問に、2人は一切表情を崩さず無言を貫いている。
曲が再び流れ始めたので杏子はゲーム画面の方を向いて踊り始めた。
「一体何が目的なんだ? さすがに目的も知らずに手を組めなんて、理にかなってないぜ?」
杏子がそう呟くと、ようやくマコトが口を開いた。そして、その目的を語った。
「1ヶ月近く経てば、この街に"ワルプルギスの夜"がやって来る」
ワルプルギスの夜。
その一言を聞いて、杏子の表情は一変した。足は相変わらず器用に動いているが、顔色は悪くなっている。
「わるぷるぎす……?」
一方、何の事かさっぱり分かっていないゆまは首を傾げるばかりだった。
「……なぜ、そんな事が分かる?」
「それは言えないが、とにかくそいつさえ倒せれば、俺達はこの街に用はないから去っていく。後はお前達の自由にすれば良い」
「……ふーん。ワルプルギスの夜ね……。確かにあたしとゆまだけじゃ手強いし倒せねぇかもしれねぇが、4人がかりなら何とか勝てるかもね」
杏子がいつものような勝気な表情に戻りながらそう呟き、両手を横に伸ばしてフィニッシュを決めた。結果は満点。
満足そうに笑いながら、杏子はポケットからポッキーの入った箱を取り出し、2人に向けて言った。
「食うかい?」
2人は無言で一本ずつ受け取り、そのままゲームセンターから立ち去っていった。
ゆまがポッキーをかじりながら2人の後ろ姿を見つめていると、杏子がゆまの頭に手を乗せた。杏子もまた2人の後ろ姿を見ていたが、その表情はどこか険しい。
「ワルプルギスの夜が、この街に……か」
「……キョーコ。ワルプルギスの夜って?」
3人の会話の内容がさっぱり分からないゆまは、不思議そうに杏子の方を振り向いて尋ねた。対する杏子は、ゆまの方を見る事なく説明した。
「ゆまはまだ魔法少女になったばかりだから知らないかもしれねぇけど、あたしも名前ぐらいなら聞いた事あるんだ」
「……そいつも魔女なの?」
「……あぁ。それもとびっきりの規格外だ。2人がかりじゃまず絶対勝てないぐらい、
次の日の夜の事。
この日もいつものようにタケル達は魔女退治を行っていた。その中で、マミ、隼人、そして御成のグループは少し離れた所で戦闘を行っており、ようやく決着がつこうとしていた。
「ティロ・フィナーレ!」
『ダイカイガン! ハウンド! オメガドライブ!』
『ダイカイガン! シーザー! オメガドライブ!』
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」
マミのティロ・フィナーレと、隼人、御成の飛び蹴りを受けて、魔女は爆散した。
「ふぅ……。さすがに今回はちょっと危なかったわね。油断してたらやられてたかも」
「そうだな」
「何がともあれ、魔女は退治出来たのですから、良いではありませんか」
「そうね」
「……(そういえば、途中で誰かの気配を感じたが、気のせいだったか……?)」
隼人が周りを見渡しながらそう思っていると、結界が消えて、元の夜景に戻った。が、なぜかソウルジェムとアイコンには別の反応が見られた。
「! これは……」
「魔力の反応……? でも、少し薄すぎるわね……」
3人が気になって近くにあった反応を追いかけると、ものの数秒もしないうちにそれは見つかった。
前方に何かが転がっているのを確認した3人は近寄って、思わず息を呑んだ。
そこには、無惨に斬り裂かれた痕のある少女がいた。服装からして魔法少女と見て間違いないようだ。だが、すでに事切れている。
「魔法少女……?」
「あぁ……! なんと酷い事に……!」
寺の住職の息子でもある御成は、魔法少女の死体に顔をしかめていた。
3人は恐る恐る近寄って魔法少女の遺体の様子を確認した。全身のあらゆる所が斬り裂かれており、彼女の胸につけられていた、魔法少女の証でもあるソウルジェムも砕かれている。
「あの魔女にやられたのかしら……」
「……いや、この傷跡から見ても、違うみたいだな。さっきの魔女はここまで鋭利な攻撃はしてこなかった」
「と、という事は、近くに別の魔女が潜んでいるという事では⁉︎」
「それも違うよ」
御成の疑問に答えたのは、マミでも隼人でもなく、彼らの後方から静かにやって来たキュゥべえだった。
「キュゥべえか」
「やれやれ。また被害者が出たみたいだね」
「被害者?」
キュゥべえが魔法少女の死体を見て、呆れたように呟いた。
「まったく……。まさか魔女を倒す力を魔法少女や仮面ライダー殺しに使う輩がいるとはね」
「何ですと⁉︎」
「どういう、事なの……?」
キュゥべえから告げられた事実に耳を疑う一同。
「僕にも正体は分からない。この魔法少女及びライダー狩りの犯人像が未だに見えてこないんだ」
「魔法少女にライダー狩り……」
「ここ最近、君達と同年代の少年少女が殺されてるって事件を聞いた事があるだろう?」
「あぁ。確かに、その話は聞いている。もしかしてその事とこの件が関係あるのか?」
隼人が質問すると、キュゥべえは経緯を話し始めた。
「初めは魔女の仕業だと思ってたんだけど、この数は異常すぎる。そこで僕は独自に調査を進めてたのさ。それでつい最近、被害者の1人が死に際にこう証言したんだ。『黒い魔法少女』ってね」
「黒い、魔法少女……?」
初めて聞くそのフレーズに、一同は首を傾げた。そんな中、隼人がふと思い出したかのように顔を上げた。
「そういえば、一年くらい前に似たような事件が隣町のホオヅキ市で頻発してたよな? あれとは関係あるのか?」
「多分この手口は違うと思うね。あの時も立ち会った事もあったけど、ここまで大胆な殺し方はしてなかったからね」
「そうか……」
「黒い魔法少女……。なら、みんなにも注意を呼びかけましょう。その上で、無理しない範囲で調べてみる必要がありそうね」
マミが今後の方針を示し、隼人と御成は無言で頷いた。
彼らのもとに、新たな難事件が降り掛かろうとしていたのだった。
最後の方で出てきた、ホオヅキ市の事ですが、あれはまどマギのもう一つのスピンオフ作品に出てくる街の名前です。もちろんその作品の内容も、この作品に関わってきます。(多分中盤辺りから……)
それにしても、ディープスペクターのデザイン、めちゃくちゃカッコいいですね!
ここからしばらくはスピンオフ作品の内容の路線に入っていきます。
次回もお楽しみに。