魔法少女まどか☆ゴースト 〜命を紡ぐ物語〜 作:スターダストライダー
今回で一応おりマギ編は区切りがつきます。
ガシャン! という音が部屋に鳴り響いたのを耳にしたリクオは思わず振り返った。見れば、織莉子が手に持っていた、キリカ愛用のマグカップを床に落ちて砕けていた。織莉子本人は呆然と虚空を見つめていた。
「……織莉子?」
どうも様子がおかしい。そう思ったリクオは彼女の肩に手を置いた。途端に、力を入れてないはずなのに、織莉子は力が抜けたように尻餅をついた。その目からは涙が流れ落ちている。
「織莉子! どうした⁉︎」
慌ててリクオが手に持っていたおぼんを床に置いて、彼女の肩を揺らしながら呼びかけていると、織莉子は呟いた。
「あ、あぁ……! キリカ……! キリカ、が……」
なぜか執拗にキリカの名前を連呼する織莉子。それを見て、リクオはハッとなって窓の外を見た。
「まさか……!」
そう呟いた時には、すでに無意識のうちに、フリードゴーストアイコンが握られていた。
一方、路地裏の一角に張られた結界内では、星斗とキリカの戦いに決着がつこうとしていた。
「は、背後から……? な、なん、で……」
「今だ! はぁっ!」
キリカは状況を理解出来ぬまま、エネルギー弾による一撃を背中から受けて、地面に真正面から叩きつけられて、その隙に星斗が重力を操って、キリカを伸びたカエルのようにへばりつかせた。
こうなってしまっては、キリカは魔法を使うどころか、逃げる事すら出来ない。つまりそれは、星斗の勝利を意味していた。
「ど、どうして……⁉︎ 私の方が、絶対に勝てたはずなのに……!」
キリカがもがき苦しみながらそう呟いたのを聞いて、星斗は種明かしをした。
「お前は俺の仕掛けた挑発にまんまとかかって、鉤爪を増やす事で攻撃を上乗せしてきたな。それこそが俺の狙いだったのさ」
「何……⁉︎」
「確かにお前の魔法は強力だが、限度もある。お前は攻撃に魔力を割く為に、自ら『速度低下』の魔法を削った。そうなれば、周りの動きが多少早くなるのは必然。後はその箇所を見つければよかったのさ。実際、さっきお前が攻撃してる間に、ちゃんと見えたぜ。お前の後ろ側の結界だけが、崩壊が早くなってたのをな」
「……! 弱点を見つける為にわざとかわしていたのか……!」
キリカは舌打ちしながら、自分はまんまと星斗の策略に嵌められた事を悟った。だが同時に、新たな疑問が生まれた。
「……でも! なんで背後から攻撃出来た⁉︎」
「簡単な事さ。このニュートン魂は、引力と斥力を操る力を持っている。俺がオオメダマを使って攻撃した時、速度低下の魔法を使って攻撃を逸らした。けどそれは、お前の前面だけしか速度低下魔法はかかってない。そこを通り過ぎれば、オオメダマは通常のスピードに戻る。俺とオオメダマの間にお前が入り込んだその瞬間、俺は引力でエネルギー弾を引き寄せた。それだけの事だ」
キリカの正面にかけられた引力の魔法は、キリカ自身の魔法によって微弱化してしまっている。が、その背後にあるエネルギー弾にかけられた魔法までは無力化されていない。つまり、
「お前の魔法が、命取りになったんだ」
それを聞いたキリカの反応は、相変わらず不気味な笑みを浮かべている状態だった。
「……ふむ。ふふふふふふ……! あっはっは!」
突然高笑いをし出して星斗は訝しんだ。
「凄いね恩人! まさかここまでやってくれるとは……!」
「これで決まりだ。……で、今度は俺の質問に答えて……」
「嫌だね!」
星斗が逆に質問を投げかけたが、キリカは即答で拒否した。
「質問は一切受け付けない! 私に対する全ての要求を、完全に拒否する! もちろん殺してくれてもいいよ! たかだか死ぬ程度で私の全てが守れるなら、大いに結構!」
「……」
地面にベッタリと伏せながらも態度を一つも変えようとしないキリカ。目的の為なら自らの死も厭わない覚悟。それを見て、星斗は両腕を構えながら黙り込んだ。
「さぁ、どうしたんだい恩人! 私は君を殺そうとしたんだ! 君にも同じ事をする権利がある!」
キリカがにやけながらそう喚いていた。
対する星斗の反応はというと……。
「……はぁ」
一つため息をついて、両腕を下に下げた。それによりキリカを押し付けていた重力も消えて自由の身になったわけだが、本人は星斗の行動にキョトンとしていた。
「な、何で……?」
「何でも何も、俺はお前を殺そうだなんてハナから考えてもねぇよ」
「……そ、そう言って油断した隙に私を攻撃するつもりなんだろう⁉︎ そんな回りくどい事……」
「だーから言ってるだろ? 俺は生き延びる為にキリカ、お前と戦った。それだけだ」
「……それだけ?」
「あぁ。それだけだ」
「本当のホントに?」
「本当のホントだ」
キリカはよろよろと立ち上がりながら、星斗を不思議そうに眺めた。その目からは、先ほどまでの殺意のこもった意志は無かった。
「……不思議な恩人だね。どうして私にそんな情けを……」
「この力は、魔女を倒す為に、それから周りの人々を守る為に使う力だ。俺はその為だけに力を振るう。決して人殺しの力なんかじゃない。……後、恩人なんて呼び方は、なんかしっくりこないからさ。名前で呼んでくれよ」
「……?」
「小川 星斗。星斗で構わないぜ」
「……星斗」
キリカは初めて聞いた、恩人の名前を呟いた。
「……なぁ、キリカ。一つだけ教えてくれ。どうして他の魔法少女や仮面ライダーを殺したりしてるんだ? 何か目的でもあるのか?」
「言ったはずだよ。一切の質問は受け付けないってね」
「……そうか」
どうやらこれ以上情報を引き出す事は難しいようだ。そう思った星斗は話題を変えた。
「なら、もうこれ以上の質問はしない。その代わり、約束してほしい事がある」
「……何だい」
「これ以上、魔法少女や仮面ライダーに手を出すような真似はしないでほしい。これ以上その手を汚し続けたら、本当に後戻り出来なくなっちまうからな」
「そ、それは……」
「お前が探してたキーホルダー」
星斗が目線を、キリカのポケットの中に入っているであろうキーホルダーに向けた。
「そいつをプレゼントした人が、お前にとって大切な、愛する人なんだろ? お前がどんな願い事で魔法少女になったかは俺にも分からない。けど、その人の事がキッカケできっと契約したんだろ? なら、その力は、その人を守る為に使う方が、一番利口じゃねぇか」
「……! そんな知ったような口を……!」
「もちろん、今日だけで全部分かり合ったなんて思ってない。けど、これだけは約束してくれ。もう魔法少女及び仮面ライダー狩りは今日限りでお終い。これ以上、クレープを奢ってくれ恩人のキリカの手を血で汚させない為にもな」
「……!」
星斗の言葉を聞いて、今度はキリカが黙り込んだ。その表情からは苦悩しているようにも感じられた。
「……せ、星斗。わ、私は……」
キリカがなぜか顔を赤くしながら再び口を開き、何かを語ろうとしたその時、2人の間に、いくつもの球体が落下して爆発が起きた。
「うぁ……⁉︎」
「!」
勢いに押されて星斗は軽く吹き飛ばされて、地面に転がった。
「い、一体何が……⁉︎」
星斗が突然の事に困惑する中、煙が晴れてようやく目の前の全貌が明らかになった。キリカがいた場所には、白いドレスのような魔法少女姿の少女……織莉子がキリカを抱いて立っていた。彼女の周りには、先ほど飛んできた球体……オラクルが漂っている。
「! 織莉子……!」
キリカも突然の織莉子の登場に戸惑っていた。さらに、
「はぁっ!」
「ぐぁっ……⁉︎」
星斗の上空から何者かが星斗を武器のようなもので斬りつけてきて、火花が散った。
よく見るとそれは、ガンガンスピナーを構えた仮面ライダーフリードこと、分島 リクオだった。
「……」
リクオは無言のまま星斗に近づいた。その圧倒的な威圧感を体全身に受けて、星斗は思わず後ずさった。
「(な、なんて魔力だ……! これ以上こいつと戦ったら、本当に体がもたねぇ……!)」
星斗が焦っていると、キリカが声を上げた。
「ま、待ってくれリクオ……! 星斗は、彼はもういい……! 手を出さなくたって……!」
キリカの声を聞いて、リクオもようやく足を止めた。そして、星斗を見下ろしながら呟いた。
「……殺しはしない。そんな救済など、与える価値もない」
そして背中を向けると、2人のところに戻っていった。
星斗は立ち上がって、改めて3人の方に顔を向けた。中でも彼の目にとまったのは、織莉子の全身像だった。その姿を見て、星斗はとっさにこう呟いた。
「白い……、魔法少女……」
「私の事を、ご存知のようですね」
織莉子は星斗を睨みつけながら、ポツリと呟いた。それは、キリカを傷つけた事に対する怒りを露わにしているようにも感じられた。
「あなた方とは、またお会いする機会がある事でしょう。きっとその時、あなたはご自分の愚かさに気づくでしょうね」
そう言って踵を返すように背中を向けた。
「御機嫌よう……」
最後にそう呟いた時には、3人の姿はフッと残像一つ残さず、消え去っていた。
3人がいなくなると同時に、速度低下の魔法の効力が切れて、結界は崩れ去っていき、周りの景色は元の路地裏に戻っていた。
『オヤスミー』
変身が解けてからも星斗がしばらく立ちすくんでいると、後方から声が聞こえてきた。
「小川君!」
「星斗!」
声の主はマミと隼人だった。連絡が取れなかった事を心配して探しに来てくれたのだろう。2人は星斗の顔を見て、驚いた表情を見せた。星斗の顔からは、猛暑でないにもかかわらず、汗が大量に吹き出ていたのだ。
「お、おい⁉︎ どうしたその汗……!」
「何かあったの?」
2人が思わずそう尋ねると、星斗がようやくハッとしたように2人の目線に合わせた。
「……あ、はい。実は……」
星斗は息を整えながら事の次第を説明する中、脳裏には先ほど新たに登場した白い魔法少女と、リクオと呼ばれた謎の仮面ライダーから受けたプレッシャーが焼き付いていた。
「(な、なんてプレッシャーなんだ……。あれが白い魔法少女なのか……。それに、あの仮面ライダーも、相当嫌な感じがした。あいつらは一体……?)」
しばらく経った頃、織莉子の家では、キリカがベッドにうつ伏せになって寝転がりながら背中についた傷の手当てを受けていた。
「……あイテテ」
「少し我慢してくれ、キリカ」
「う、うん」
リクオは手際よくキリカの背中に湿布を貼っていた。隣では、織莉子が先ほど星斗と対峙した時と打って変わってオロオロとしていた。
「キリカ、大丈夫なの? もしあれだったらお医者様でも呼びましょうか?」
「いや、要らないよ。致命傷になってるわけじゃないし」
「……本当に大丈夫?」
「あぁ。いざとなったら例の方法を試せばいいし」
「だがあれは、キュゥべえも言ってたようにリスクが高い。とにかくしばらくはこのまま安静にしておいた方が良い。それまでは俺がキリカの代行を……」
リクオがそう言いながら道具を片付け始めた時、キリカは顔を彼に向けて言った。
「そこまでしなくても良いよ。しばらくは手を出さないでおこう」
「? なぜ……?」
「ちょっと疲れちゃってたから、たまには休息もしっかりとった方が良いからね。それに、リクオに負担をかけたくないし。放っておいても、そんなにすぐには織莉子のもとには辿り着かないはずさ」
「……分かった。お前がそう言うなら。織莉子も良いか?」
「えぇ。キリカがそれを望むなら……」
「……ありがとう。私の我が儘に付き合ってくれて」
キリカはそうお礼を言いながら、窓の外に目線を向けた。
「(小川 星斗……。中々の優等生だった。……けどなぜだ? 私は織莉子やリクオの事以外の記憶は抹消したいのに、なぜ簡単に彼の事を忘れられないんだ……? 星斗は、私にとって一体何者なんだ……?)」
普段は気だるさ全開のキリカの心中は、複雑な心境下にあった。
……なぜか、星斗とキリカにある種のフラグが立った気がしますが、そこはそっと見守ってあげてください。
そして次回から久しぶりに本編に戻っていきます。ここからがこのシリーズの醍醐味になっていきます。
次回もお楽しみに。