魔法少女まどか☆ゴースト 〜命を紡ぐ物語〜 作:スターダストライダー
いよいよあの2人の出番です。
その日の夜、どこにでもいそうな平凡な少女、まどかとその幼馴染み、タケルは不思議な夢を見た。
「はぁっ、はぁっ……!」
気味の悪い空間内を、まどかはひたすら前に向かって走っていた。長い長い一本道をあてもなく走っていくと、階段を登った先にある一つの扉が見えてきた。まどかは階段を登り、扉の前に立って深呼吸した。恐怖に押し潰されそうになったが、意を決してまどかはその扉を開けた。
扉を開けたその先は、まさに地獄絵図だった。空は漆黒に染まっており、建物のほとんどが崩壊し、宙に浮いているものもあった。まどかは恐る恐るその先に進んだ。周りを確認すると、どうやら自分は、崖のように出っ張っている建物の一部に立っているようだ。
ーーー世界の終わりーーー
そんな雰囲気を連想させるような場所に一際目立つように、上空には巨大な怪物のようなものが浮いていた。逆さまのドレスをイメージさせるその怪物は、あちこちにあるものを全て壊していた。
その光景にまどかが怯えていると、不意に2つの人影が視界に入った。1人は長髪で黒髪の、黒と白、グレーを基調とした衣装の少女。もう1人は、角のようなものが2つ付いた、青色の仮面をつけた人物だった。2人は同時に飛び上がり、目の前にそびえ立つ怪物に立ち向かっていた。怪物がビルを少女にぶつけるが、少女は瞬間移動でもしたかのように別の場所から攻撃していた。一方、仮面をつけた人物も、手にマジックハンドのような武器を構えて、銃撃戦をしていた。
まどかは訳も分からず、心の中で応援していたが、次第に押され始めて、やがて2人は吹き飛ばされ、遠くのビルに叩きつけられた。
「ひ、酷い……!」
まどかが思わず叫ぶと、
「仕方ないよ。彼らだけでは荷が重すぎたんだ。でも、彼らも覚悟の上でこの戦いに臨んでいる」
横から声が聞こえてきたので振り返ると、そこには金色のピアスをつけた長い耳と、赤い目が特徴の白い生き物が佇んでいた。
やがて怪物の攻撃は一段と激しさを増し、ビルの残骸が近くにいた仮面の人物に直撃し、更に遠くに吹き飛ばされてしまった。
「そ、そんな……! あんまりだよ! こんなのって無いよ!」
あまりにも酷い惨状に、まどかは涙を浮かべながら叫んだ。すると、黒髪の少女が木の枝の上で倒れながらも、まどかに向かって必死に何かを叫んでいた。まどかもその方向を見たが、距離が離れているため、その声は聞き取れない。
「諦めたらそれまでだ」
不意にまた白い生き物がまどかに話しかけた。
「でも、君なら運命を変えられる」
よく見ると、下の方では何十人もの人が倒れ込んでおり、皆が事切れているようだった。
「避けようの無い滅びも、嘆きも、その子達の悲劇の運命も、全て君が覆せばいい。そのための力が、君には備わっているんだから」
「本当……なの? 私なんかでも、本当に何か出来るの? こんな結末を変えられるの……?」
やがて、少女は木の枝から真っ逆さまに地面に落ちていった。少女は何か叫んでいるが、やはり何も聞こえない。
「もちろんさ。君なら全てを変えられる! だから……」
怪物が魔法陣を展開し、そこから火炎弾のようなものを放つ光景をバックに、その生き物はまどかに告げた。
「僕と契約して、魔法少女になってよ!」
「……はっ!」
不意にまどかは目をパチクリさせた。目線の先には自室の天井が見えた。手にはお気に入りのぬいぐるみが抱かれている。まどかは上半身だけ起こして、寝ぼけ眼のまま、ため息をつきながらポツリと呟いた。
「……はぁ〜、夢オチ……?」
また、同じ頃にタケルは、まどかと似たような夢を見た。
崩壊した街が辺りに広がっており、目の前には、巨大な怪物が佇んでいた。タケルは瞬時にそれが魔女だと判断したが、今まで見てきた魔女とは桁外れなほど巨大だった。
「な、なんだよこのデカさ……⁉︎」
タケルはこの状況をなんとかしようとポケットからオレゴーストアイコンを取り出そうとしたが、どういう訳か、ポケットにはアイコンが1つも入っていなかった。
「な、何で⁉︎」
ゴーストドライバーを展開しようと意識を集中させても、何も出てこなかった。
「何でこんな時に変身出来ないんだよ……!」
タケルが悔しがっていると、前方に、2人の人影が見えた。1人は見た事のない衣装をまとった、同い年ぐらいの少女。もう1人は、2本角の青いライダーだった。
「(なんだあいつ……? 星斗じゃない。もしかして、別の仮面ライダー……⁉︎)」
タケルが呆然としていると、2人は怪物の攻撃によって吹き飛ばされた。タケルが驚いていると、青いライダーは果敢に魔女に挑んでいた。が、さらなる攻撃によって、ライダーは吹き飛ばされた。しかも、今度はタケルがいる近くの地面に叩きつけられたのだ。
「……!」
タケルが慌ててそのライダーの元に駆け寄ろうとした。ようやくその姿が見えてきた時、そのライダーは自分に向かって何かを叫んでいるように見えた。だが、周りに響く轟音がそれをかき消している。すると、魔女は魔法陣を展開し、そこから巨大な火炎弾をライダーめがけて放った。
「! 危ない!」
タケルは変身出来ないのにも関わらず、ダッシュでライダーに駆け寄った。ライダーはその事に抵抗しているようだが、タケルはそれを無視してそのライダーを突き飛ばした。ライダーは何かを叫びながら、そのまま勢いよく崖から落ちていった。が、横を見ると、すぐそばまで火炎弾が迫っていた。もう回避する事は出来ない。
「……うぁ!」
タケルは目をつむって身構えた。
「……はっ!」
タケルが目を覚ますと、目覚まし時計が鳴り響いていた。タケルはそれを止めると、ため息をついた。
「……なんつー夢見ちまったんだ」
タケルは沈んだ声でそう呟きながらも起き上がって朝食を食べるためにリビングに向かった。
まどかは一階に降りて、庭で自家製の野菜を収穫している父、鹿目 知久に朝の挨拶をした。
「おはよー、パパ」
「おはよう、まどか」
「ママは?」
「タツヤが行ってる。手伝ってやって」
「はーい」
まどかはそう返事すると、母の鹿目 詢子の寝ている部屋に向かった。部屋の中からは、布団を叩くような音と共に「ママ〜、起きて〜! あ〜さ、あ〜さ!」と叫んでいるタツヤの声が聞こえてきた。もちろんその程度で起きる訳もない。まどかは扉を開けると、カーテンを開けて、いつものように、
「お〜きろ〜!」
と叫んで布団をめくった。
「ひゃぁぁぁぁぁ〜⁉︎ ……あれ?」
「ママ、起きたね〜」
タツヤが微笑みながらそう言うと、まどかもそうだね、と言うように微笑み返した。
それからまどかは詢子と共に歯を磨いて、化粧を整える為に洗面所に向かった。
詢子は歯ブラシを咥えてまだ寝ぼけ眼のまま、まどかに声をかけた。
「……最近、どんなよ」
「仁美ちゃんにまたラブレターが届いたんだ。今月に入ってもう2通目」
「……ふん。あたしが口出すのもなんだけど、直に告白するだけの根性もねぇ男はダメだな」
まさに一刀両断と言わんばかりに詢子はバッサリと答えた。この事を仁美にどう伝えるべきか悩んでいる間にも、詢子は歯を磨き終え、髪を梳かしていた。そんな中、詢子がある事を尋ねた。
「そういや、和子の方は?」
「先生はまだ続いてるみたい。だからホームルームでもう惚気まくりだよー。今週で3ヶ月目だから、記録更新だね」
だが、詢子は苦笑してメイクをしながらこう呟いた。
「さぁ、どうだか。今が一番危なっかしい頃合いだよ。本物じゃなかったら大体この辺でボロが出るし、乗り切ったら1年はもつだろうね」
「ふーん。そうなんだ」
そこまで恋愛というものをよく知らないまどかは適当に頷いた。そうしている間にも、詢子は手早くメイクを完了させていた。
「リボン、どっちが良いだろう……」
まどかがピンクと赤のリボンを手に持ってどれをつけようか迷っていると、詢子は迷う事なく赤色のリボンの方を指差した。
「えー? 派手すぎない?」
「それぐらいでいいんだよ。女は外見で舐められたら終わりだよ?」
まどかはとりあえず、詢子の言うように赤色のリボンで髪を結んだ。少し派手すぎやしないかとまどかは思った。
「うん、いいじゃん。これならまどかの隠れファンもメロメロだ」
「い、いないよそんなの……」
「いるって思えばいいの。それが美人の秘訣♪」
詢子はそう言って部屋を出ようとするが、ふと思い出したように立ち止まった。
「……いや、そんな事ないか。あんたのファンはもうとっくにいる訳だし」
「えっ⁉︎ それって誰⁉︎」
「まっ、そいつは自分で気づく事だね」
詢子はある人物を思い浮かべて、まどかの鈍感さに若干呆れながらも、まどかと共にリビングに向かって朝食を食べ始めた。まどかは頭に?を浮かべながらも朝食を食べていた。
朝食に限らず、家事全般は知久に任せており、その腕は確かなものだった。詢子も新聞を読みながら、タツヤが落としそうになったミニトマトをキャッチしたりと世話をしている。その姿に、まどかはいつも憧れを持っていた。
「コーヒー、お代わりは?」
知久の質問に、詢子は時計を見ながら、いいや、と軽く答えた。それからタツヤの額、和久にキスをして、その後まどかとハイタッチしてから、
「おっし、じゃあ行ってくる!」
と言って家を出た。
「「「行ってらっしゃ〜い」」」
と3人が返事してから、和久はまどかに声をかけた。
「さぁ、まどかも急がないと」
「えっ? あっ……!」
和久に催促されて、まどかも急いでトースト以外の料理を口に運んだ。そしてトーストを持って、
「行ってきまーす!」
と言って家を出た。トーストを美味しそうに頬張ってからしばらく走っていると、横の道から見慣れた人物が出てきた。
「あっ、おはよう、タケル君」
「おう、おはよう! まどか! あっ、リボン変えたんだな。似合ってるぜ」
「あっ、うん。ありがとう」
その人物は幼馴染みのタケルだった。幼児だった頃からそうだったが、タケルとはいつもこの付近で出会っている。それから2人は並んで親友達が待ち合わせしている場所まで向かった。
通学路の途中まで来ると、いつものように、大親友であるさやか、仁美、誠司、御成、晶が2人を待ってくれていた。
「おっはよ〜!」
「おはよー!」
「おはようございます」
「よう!」
「おはようでございますぞ!」
「お、おはよう……」
「2人とも遅ーい!」
「ご、ごめんね」
2人が息を整えていると、皆が早速まどかのリボンの変わりように気付いた。
「おっ。リボン変えたんだ」
「可愛いリボンじゃん」
「は、派手すぎない……?」
「そんな事ないよ」
「とても素敵ですわ」
それから7人はいつものように仲よさげに並んで歩き始めた。
それから、皆の話題は仁美のラブレターの件に移り変わった。
「でね、直に告白出来るようにならなきゃダメだって」
「やっぱり、そうですよね……」
「相変わらずまどかのママはカッコいいなー! 美人だし、バリキャリだし!」
「うん、うん」
「確かに言えてるな」
さやかの評価に晶は頷き、タケルは賛同の意を示した。
「まどかさんのお母さんみたいに、きっぱり割り切れたらいいんだけど……。返事、どうしましょうか……」
仁美がため息をつく中、さやかは呑気そうに答えた。
「しっかし、羨ましい悩みだねぇ」
「恋文ですか……。確かに、羨ましい限りですな!」
御成もさやかの意見に同意する。
「ぼ、僕も、ラブレター、欲しいです……!」
晶も恥ずかしそうに言うが、そこにさやかが茶々を入れた。
「あんたの場合はまず中身から変えないと意味無いわよ。いつまでもウジウジしてる性格じゃあ、幸せなんて掴めないわよ」
「あぅぅ……」
「あーもう、泣くなよそれぐらいで……!」
誠司はやれやれと言った表情で涙目の晶にティッシュをあげた。
「……でも、私も一通くらい貰いたいな……、ラブレター」
「……ほぅ」
まどかの何気ない一言に、さやかが目つきを変えて、怪しげな表情を浮かべてまどかに近寄った。
「まどかも仁美みたいなモテモテな美少女に変身したいと? そこで先ずはリボンからイメチェンですかな?」
「ち、違うよ! こ、これはママが……」
まどかは慌てて弁解したが、それで止まるさやかでは無かった。
「さては、ママからモテる秘訣を教わったな⁉︎ けしからん! そんな破廉恥な子は、こうだぁ!」
「わぁっ⁉︎」
さやかは素早くまどかに飛びついて、身体中をくすぐった。まどかの近くにいたタケルと誠司は慌ててその場から離れた。
「きゃはははは! や、やめて、さやかちゃん!」
「うはははは! 可愛い奴めぇ! でも男子にモテようなんて許さんぞー! まどかはあたしの嫁になるのだぁー!」
これはさやかの口癖なので、他の5人は特に止めようともしなかった。それをいい事に、さやかのくすぐり攻撃は、仁美がわざと咳払いして2人に周りから見られている事を気づかせるまで続いた……。
3連休も終わり、まだ勉強モードに入っていない生徒が多いような、まどか達のクラスでは朝のホームルームからこんな話題が飛び込んできた。
「今日は皆さんに、大事なお話があります。心して聞くように」
そう低い声で教壇の上に立って話しているのは、今朝方まどかと詢子の間で話題になっていた、今年で34歳になる担任の早乙女 和子だった。ちなみに彼女は詢子とは高校時代からの同級生で、今でも時々食事をしに行ったりしている仲である。
それはさておき、妙な緊張感の漂う中、和子は突然大声をあげた。
「目玉焼きとは、固焼きですか、それとも半熟ですか⁉︎ はい、中沢君!」
突然指名されたクラスメートの中沢は、思わず立って、強張った表情のまま、おずおずと答えた。
「えぇっと……、どっちでも良いんじゃないかと……」
「そう! どっちでもよろしい! たかが卵の焼き加減なんかで女の魅力が決まると思ったら、大間違いです!」
和子はヒステリックに近い声をあげながら指示棒をへし折った。中沢はとりあえず座る事にした。
「女子の皆さんはくれぐれも、半熟じゃなきゃ食べられないとか抜かす男とは交際しないように! そして男子の皆さんは、絶対に卵の焼き加減にケチをつけるような大人にはならない事!」
和子が早口で捲し立てる中、まどか達はひそひそと小声で苦笑しながら話していた。
「……ダメだったんだね」
「ダメだったみたい……」
「今回もやっぱダメだったか……」
「(……つーか卵の焼き加減とかで別れるとか、どんな別れ方だよ?)」
とはいえ、これはいつもの事なので、基本的にクラスメートはスルーしている。
一方、和子は言いたい事が言えてスッキリしたのだろう。落ち着きを取り戻して、いつも通り笑顔で会話を続けた。
「はい、後それから。今日は皆さんに、転校生を紹介しま〜す♪」
「「そっちが後回しぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ⁉︎」」
立ち上がりながらそうシャウトしたのは、タケルと誠司だった。クラスでこうなる時は大抵この2人がツッコミ役として目立つ。もちろんこれもクラスメートは気にしない。
「じゃあ、工藤君、暁美さん。いらっしゃ〜い」
和子にそう言われて入って来たのは、2人の男女だった。周りからは歓声が上がっている。
「うわー、すげー美人!」
「……カッコいい」
さやかと晶が思わずそう呟くほど、その容姿はキチンと整えられていた。
だが、このクラスで2名だけ、全く違うリアクションをとっていた。それは、まどかとタケルの2人だった。
先ず2人の目に飛び込んで来たのは、背が高く、短髪で無表情だが、クールな雰囲気を漂わせる少年だった。なんとなく彼を見て妙な気分になったわけだが、問題はその後ろからついてきた少女の方だった。その少女は黒い長髪で、人形の如く整った顔立ちのその少女は、まさに夢の中に出てきた、怪物……もとい魔女と戦っていた少女にそっくりだったのだ。
「(嘘……、まさか、そんな……⁉︎)」
「(あいつ、確か夢の中に出てきた……!)」
2人は互いの表情に気づく事なく驚いていた。そうこうするうちに、2人は教壇に上がった。
「はーい、それじゃあ自己紹介いってみよー」
和子がわざとらしく明るく振舞って2人に催促すると、先に少女の方が口を開いた。
「暁美 ほむらです。よろしくお願いします」
……それだけだった。皆は次の言葉を待ったが、ほむらは何も語らない。和子もボード板に「暁美 ほ」まで書いたところでペンを持つ手を止めた。気まずくなったので、今度は隣の少年に声をかけた。
「じ、じゃあ次は工藤君が……」
「……工藤 マコトです」
こちらも、自分の名前だけ告げて黙り込んだ。さすがの和子も戸惑って、
「……つ、続けて?」
と話しかけると、ほむらは和子からペンを取り上げて、マコトはもう一つあったペンを手に取って自分のフルネームを書いた。それからクラスメートに向き直って、深々とお辞儀をした。どことなく強すぎる存在感に一同は唖然としていたが、やがてどことなく手を叩く音が聞こえてきて、それから拍手が周りから起きた。
すると、ほむらとマコトは突然まどかの方をジロリと真っ直ぐ見つめた。まどかはなんとなく恥ずかしくなって、顔を赤くして俯いた。
「え、えぇっとじゃあ、暁美さんはそこの前の席に、工藤君は同じ列の最後尾に座ってくださいね……」
和子もたじろぎながらも席を紹介した。マコトが席に向かって歩いている途中、つまりタケルのすぐ横を通る瞬間、席についたほむらと共に、タケルはこれまたジロリと見つめられた。あまりにも冷たい視線を浴びて、タケルは訳も分からぬまま萎縮した。
それから2人は、休み時間になって、転校生の恒例行事とも言うべき質問責めにあった。
「暁美さんって、前はどこの学校だったの?」
「東京の、ミッション系の学校よ」
「前は部活とかやってた? 運動系? 文化系?」
「やってなかったわ」
「凄い綺麗な髪だよねー。シャンプーは何使ってるの?」
「別に。市販の物を使ってるわ」
ほむらの方はこのような感じである。一方、マコトの方は……。
「なぁ、工藤って前はどこの学校だったんだ?」
「東京の私立学校の方だ」
「前は部活何かやってたのか?」
「剣道部に入ってた」
「じゃあ、この学校でも剣道部に入るのか?」
「……多分それは無い。色々と忙しいからな」
こちらも淡々と答えていた。2組の間に挟まれた席にいるまどかを中心に、他の6人が集まって口々に話した。
「すげー集まってんな」
「不思議な雰囲気の人ですよね、あのお二方」
すると、さやかが不意にまどかとタケルに話しかけてきた。
「ねぇまどか、タケル。あの子達、あんた達の知り合い? なんかさっき、2人とも思いきりガン飛ばされて無かった?」
「いや、あの……」
「う〜ん……。確かにそうなんだけど、何でなんだ……?(あの暁美さんもそうだけど、あの工藤君って人も、なんか変な感じなんだよな……。なんとなく初対面とは思えないような……)」
タケルが頭を悩ませていると、ほむらの方に動きがあった。ほむらは頭を軽く抑えて立ち上がった。
「……ごめんなさい。なんだか、緊張しすぎたみたいで、ちょっと、気分が……」
「えっ? あっ、じゃああたしが案内してあげる!」
「私も行く行く」
周りの子はそう言うが、ほむらは首を横に振った。
「いいえ。係の人にお願いしますから」
そしてその場を離れると、真っ直ぐにまどかの方に向かった。7人がたじろいでいると、ほむらが感情の読み取れないような瞳をまどかに向けて、こう言った。
「鹿目 まどかさん。あなたがこのクラスの保健係よね?」
「えっ? あっ、あの……」
「連れて行ってもらえる? 保健室」
ほむらにそう言われて、まどかは言われるがままに、ほむらについていった。
「行っちゃいました……」
「うーむ。なんとも摩訶不思議な方ですな」
「……なぁ、なんか変じゃないか?」
不意にタケルがそう呟いた。さやかが尋ねた。
「どうしたの? タケル?」
「俺達、まだあいつに自己紹介してないよな……。だったら何でまどかの名前を知ってるんだ? しかもフルネームで」
「……あら? そう言われてみれば、変ですね」
皆が訝しむ中、今度はマコトに動きが見られた。ほむらがまどかと共に教室を離れたのを確認してから、周りにいる男子生徒に言った。
「悪いが、そろそろこの学校の中を知りたい。だから質問はここまでにしてくれ」
「あっ、だったら俺が案内しようか?」
「俺もついてくよ」
「いや、もう先客は入れてある」
そう言って立ち上がり、男子生徒から離れると、今度は6人の、主にタケルに声をかけた。
「天王寺 タケルだな」
「あっ、あぁ……」
「この学校の中の設備を知りたい。どこでもいいから案内してくれ」
「わ、分かった……。(あれ? 何で俺の名前を知ってるんだ……?)」
タケルは疑問を抱きながらも、マコトの言うように、学校内を案内した。後の5人は取り残されたが、何もする事なく呆然としていた。
まどかは、ほむらを保健室に案内する為、廊下を歩いていた。が、実際は何故かほむらが先導するような形になっており、まどかは逆の立場になっているように感じられた。周りの生徒も、ほむらに見惚れているようだった。とりあえず、今の雰囲気を変える為に勇気を出してほむらに話しかけた。
「あの……。私が保健係って、どうして……?」
「……」
「えぇっと、あの……」
「早乙女先生から聞いたの」
「あっ、そうなんだ……」
ようやく合点がいった事に安心したまどかだが、その後も会話は弾まなかった。
「えっと、保健室は……」
「こっちよね……」
「えっと、うん。や、あのね、そう、なんだけど……。いやだから、その……、もしかして、場所、知ってるのかなって……」
「……」
「……」
ものすごく気まずい。それがまどかの率直な感想だった。
「あ……、暁美、さん?」
「ほむらで良いわ」
「えっと、その……。ほむら……、ちゃん」
「何かしら?」
「あっ、えっと、その……。か、変わった名前だよね?」
その瞬間。ほむらの手がギュッと握りしめられた。それに気づいたまどかは、言葉を間違えたかと思い、慌てて言った。
「い、いや、だから、あのね。変な意味じゃなくてね、その……。か、カッコいいな〜、なんて……」
すると、ほむらは長い廊下の中間地点で立ち止まり、ゆっくりと振り返ってまどかの目を見つめた。そして口を開いた。
一方、タケルの方は、マコトを自分のお気に入りの場所に案内させていた。
「えっと、屋上へは……」
「この先を左に曲がったところにある階段を上がるんだよな?」
「そ、そうだけど……」
マコトは迷う事なく屋上への道を指差した。
「(な、何でこうなるんだよ……⁉︎ これじゃあまるで案内する意味無ぇじゃんかよ⁉︎)」
2人が屋上にたどり着くと、風が丁度気持ち良く吹いていた。タケルは気分を変える為に、マコトに話しかけた。
「あ、えっと……。工藤……君?」
「マコトで構わない」
「そ、そっか。じゃあマコト」
「……何だ?」
「あ、あのさ……」
タケルは怖く思いながらも、最初に見た時から気になっていた疑問をぶつけた。
「お、俺とマコトってさ……。ひょっとして前にどこかで会った……って事ある?」
すると、マコトの表情に変化が見られた。その唇はきつく引き結ばれて、何となく驚いているようにも、悲しそうにも思えた。
さすがのタケルも、ものすごく焦った。
「(や、やっべぇ〜⁉︎ 余計に変な事言っちまった……!)……ん、んなわけねぇよな、アハハ……」
タケルはとりあえず笑って誤魔化す事にした。すると、マコトは口を開いた。
「鹿目 まどか。あなたはーーー」
「天王寺 タケル。お前はーーー」
「「あなた(お前)は、自分の人生が貴いと思う(か)? 家族や友達を大切にしてる(か)?」」
「……えっ?」
突然、廊下でそう言われて困惑するまどか。なぜそのような質問をするのか、意図が分からなかったが、答えなければならないような気がして、まどかは答えた。
「わ、私は……。大切、だよ。家族も友達のみんなも、大好きでとても大事な人達だよ」
「本当に?」
「ほ、本当だよ! 嘘な訳ないよ!」
「……そう」
まどかが思わずムキになってそう言い返すと、ほむらは小さく頷き、それからこう告げた。
「もし、それが本当なら、今とは違う自分になろうだなんて、絶対に思わない事ね」
「……えっ?」
「さもなければ、全てを失う事になる」
そしてそのまま踵を返し、不吉な事を言われて呆然としているまどかを置いて、ほむらは1人で勝手に歩き始めた。
そして、振り返ってこう言った。
「あなたは、鹿目 まどかのままで良い。今まで通り、これからも」
それだけ告げると、ほむらはその場を後にした。まどかはただ1人、ポツンと取り残された。
一方、タケルも、マコトからほむらが言っていた事と寸分違わぬ事を尋ねられて、戸惑っていた。が、とりあえずマコトにこう告げた。
「……あ、あぁ。大切だぜ。みんな、俺にとってかけがえの無い人達だ」
「……それは、命よりも大切なものなのか?」
「……えっ? そ、それは……」
突然そう返されて、タケルは返事に困った。一方、マコトはタケルを無視して、無表情のままこう言った。
「……まぁいい。とにかくお前は、自分の事を差し置いて他の奴らを助けようだなんて、考えない事だな」
「……?」
タケルは気になって声をかけようとしたが、マコトは既にこの場所に興味を無くしたのか、後ろを向いて、入ってきた扉に向かって歩いていた。それから扉を開けて、再び歩き出す前に、今一度振り返って、タケルに告げた。
「……でなければ、お前は本当の意味で、大事なものを失う事になるからな」
いつの間にか本文が10000字を越えてた事に驚いています。
ここからしばらくは、諸事情(主に試験)により、投稿をお休みします。次回まで、今しばらくお待ちください。