魔法少女まどか☆ゴースト 〜命を紡ぐ物語〜 作:スターダストライダー
かつては他人の事など眼中に無く、ただ己の存在感を知らしめる為だけに力を振るった少年と、家族を想い、命がけの戦いと引き換えに誰よりも家族の幸せを願って力を振るった少女。
その両者が今、真逆の信念を持って、廃墟と化した教会の中で対峙していた。
「はっ!」
先に先制を仕掛けたのは杏子だった。槍を構え、一直線に向かって来るのに対し、誠司はガンガンジッテを突き出して動きを止めた。が、杏子もそれはお見通しらしく、ガンガンジッテを押さえつける形で飛び上がり、一回転した後に槍を振り下ろした。誠司も横に飛んで回避した。槍は誠司に命中する事なく、彼がいた木の板で出来た地面を削り取った。その威力から見て、杏子は本気で攻撃してきているに違いないと、誠司は肌で感じ取った。
「(さすがにここじゃやりにくすぎる……。とにかく外に出なきゃな……!)」
誠司は杏子の攻撃をかわしながら周りを見てそう思った。
教会の中は外ほど広い訳ではない。スピード勝負に持ち込もうと思っても、障害物がありすぎて不利が生じる。
そして何よりも、この教会が杏子の家である以上、派手に壊すように動く訳にはいかない。どんな理由があれど、家族がいた事の唯一の証にもなっている思い出の場所を消す事は出来ない。
誠司は隙をついてすぐにステンドガラスの窓から外に飛び出した。杏子も舌打ちしながらその後を追いかけた。
「あんだけ意気込んでて逃げの一手か? なら、そいつも無駄だって分からせてやる!」
そう叫んだ杏子は飛び上がって槍の穂先を、下方に見える誠司めがけて突き出した。
「うぉっ!」
誠司はギリギリ横に回避して地面に転がった。槍はすぐそばの木の根っこ辺りに命中し、根元からぽっきりと折れて誠司の方に向かってきた。慌てて誠司が転がりながら下敷きになるのを避けた。が今度は杏子が槍を振り上げてきた。
「ガハッ……!」
無抵抗のまま誠司は斬り裂かれ、火花が散った。上空に吹き飛ばされた所に、杏子がさらに追い討ちをかけてくるかのように槍を多節棍に変形させて、振り回して誠司に襲いかかった。誠司はどうにかして空中で態勢を整えて、ガンガンジッテを振り下ろして衝撃を和らげた。地面に降り立ち、息を整えてから杏子に突撃した。杏子は相変わらず余裕の表情で不敵な笑みを浮かべ、誠司の攻撃をひらりとかわしていた。
「ふっ! はっ!」
「その程度!」
杏子が後ろへ下がるように飛び上がって着地し、地面を蹴って槍を突き出しながら突進してきた。誠司はこの距離で回避するのは難しいと判断して、ガンガンジッテを前にクロスさせて勢いを殺した。が、杏子は隙をついて誠司の腹に蹴りを入れた。
勢いに押されて地面に横たわっている誠司を見据えながら、杏子は槍を構えて呟いた。
「もう分かったろ? あんたみたいなトーシロがあたしに勝てる訳ないに決まってんだ。他人を助けようと思う力なんて所詮こんなもんさ。自分の為に使う力の方が圧倒的に強い。この状況が物語っているじゃんかよ?」
「……確かに、それが絶対間違いとまでは言わねぇよ」
「あん?」
杏子が訝しむ中、誠司は震えながら、足に力を込めて立ち上がった。
「けど世の中にはな、何物にも勝る力があるのも事実なんだ……!」
そう叫ぶ誠司の右手には、いつの間にか黄緑と黒の英雄アイコンが。
「それが、『守る為の力』だ! それこそが、俺の振るう力だ! それこそが、タケルから教わったものなんだ!」
『アーイ!』
誠司がアイコンのスイッチを押して、ドライバーにはめ込もうとする。
「んな事させるか!」
すかさず杏子がゴーストチェンジを阻止しようと槍を突き出してきた。すると、誠司は空いた右手で槍の柄の部分を掴んで、握り締めて動きを止めた。
「な……⁉︎」
「ダァッ!」
そして誠司は槍の穂先を踏み台にして飛び上がった。バックルを閉じると、中から黄緑と黒のパーカーが飛び出してきた。
『バッチリミナー! バッチリミナー!』
「これが、俺の想いが生んだ英雄の力だ!」
そう叫びながらレバーを1回引いて押し、空中でパーカーが羽織られてゴーストチェンジして、教会に設置されてある十字架の上に乗っかった。
『カイガン! ゴエモン! 歌舞伎ウキウキ! 乱れ咲き!』
誠司が纏ったのは、安土桃山時代に活躍した盗賊の首長であり、庶民からは義賊として崇められていた伊賀出身の忍者という説もある、石川五右衛門の魂が宿った『ゴエモン魂』だった。時として貧乏人に盗んだ金などを分け与え、豊かな暮らしを与えていった彼のアイコンが、店の繁盛と家族の裕福の為に契約した誠司によって生み出されるのも、納得が行くところもある。
ゴエモンも力を借りた誠司は、歌舞伎役者さながら、ゆったりとした動きでガンガンジッテを構え直した。
「さぁ、こっからが本番だ!」
「はん! 英雄の力を使ったところで、使いこなせなきゃな!」
誠司が十字架から飛び降りて、杏子に向かっていった。対する杏子は槍を振り回して返り討ちにしようとしていた。が、今度は先ほどまでのようにはいかず、誠司は軽い身のこなしで杏子の攻撃を避けきっていた。攻撃をかわす度に見得を切る動作をする誠司を見て、杏子は苛立ちを隠せなかった。
「っ! 余裕かましやがって!」
誠司に攻撃しつつも、時折仕掛けてくるガンガンジッテの突きもかわしているが、その表情からは余裕が無くなっている。
「(な、何だってんだ……⁉︎ さっきまであんなにトロい動きしかしてなかったのに、急にスピードが上がってやがる!)」
英雄の力を借りている所もあるかもしれないが、それにしたってここまで俊敏な動きを引き出せるとは思えない。まるで彼の中で何かが変わったかのように、誠司の動きはいつの間にか杏子を凌駕していた。
「このぉ!」
杏子は思い切って槍を横に振り回した。誠司は一回転しながら回避して、杏子の懐に入り突きを入れた。ギリギリの所で槍を盾にして攻撃を防いだが、衝撃で振動が杏子の腕まで伝わり、震えが止まらなかった。
「う……!」
たまらず杏子は後ろに下がった。
予想以上な誠司の強さに、杏子は次第に恐怖を感じていた。このままでは力押しで負けてしまうのでは無いか。そんな不安が全身によぎった。
「……嫌だ……!」
杏子は歯ぎしりしながら、体の震えを気持ちで無理やり抑えて思いっきり叫んだ。
「お前なんかに、負ける訳にはいかねぇんだぁぁぁぁっ!」
ひと吠えした杏子は槍にありったけの魔力を注いで、必殺の一撃を与えようとした。
対する誠司も、右手に持つガンガンジッテをドライバーにかざして、両方のガンガンジッテの先端にエネルギーを溜めた。
『ガンガンミナー! ガンガンミナー!』
「俺の全力、ぶつけてやるぜ!」
両者同時に地面を蹴って、各々の武器を突き出した。
「くらえぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
『オメガクロス!』
杏子が槍を一直線に向け、誠司がガンガンジッテを文字通りクロス状に斬るように、槍にぶつけた。両方のエネルギーがぶつかり合い、衝撃波が周りの木々についていた葉をなぎ払っている。
「ぐうぅぅぅぅぅぅぅ!」
「むぅぅぅぅぅぅぅぅぅ! うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
共に踏ん張りながら自分の技を前に押し出している。火花が辺りに飛び散っている。
そして遂に、その均衡が崩れた。
「うぉらぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「なっ⁉︎」
誠司が力を込めて押し出した一撃は、杏子の持つ槍を思いっきり吹き飛ばした。
バランスを崩した杏子が体制を整えている間に、誠司が詰め寄って、片方のガンガンジッテを杏子の首元に突き出し、ギリギリのところで寸止めした。
「!」
杏子が目を見開きながら唖然としていると、宙を舞っていた槍はカランカランという音と共に地面に落ちてきた。
少し離れた所に落ちた為、拾う事すら出来ない。何よりも動きが封じられている以上、結果は明確だった。
「
誠司の確信めいた言葉を聞き、杏子はようやく頭の中で理解した。
自分が敗北した事に。他人の為に振るっていた力に。
「……やられたよ」
杏子は諦めた素振りを見せるように、両手をだらりと下げて、戦意がない事を示した。対する誠司もガンガンジッテを突き出す手を下ろした。誠司の行動に、杏子は疑問を抱いた。
「……殺さないのか?」
「そんな事しないって。まぁ、代わりと言っちゃあ何だが、これからは協力して、俺達と一緒に戦ってほしい。こっちからのお願いはそれだけだ」
「……それで人助けでもしろってか?」
「まぁ、そんなとこ」
誠司の言葉を聞いた杏子は、乾いた笑みを浮かべながら、誠司から目線を逸らした。
「……さっきも言ったろ? あたしの勝手な祈りが、家族を壊しちまった。それにさ、あたしはこれまで使い魔を魔女に育ててグリーフシードを稼ぐ為に、多くの命を犠牲にしてきた。……そんなあたしが、今更人助けなんて、無理な話なんだよ。もうあたしの手は血で汚れまくってんだ」
「……」
誠司は口を挟む事なくその言葉を聞いていた。杏子はなおも自分の手のひらを見つめながら呟いている。
「希望を祈れば、それと同じ分だけの絶望が撒き散らされる。だから、あたしが人を守った所で、結局迷惑かけちまうだけだし……」
「じゃあ、俺がその分お前をサポートしてやればいいだけの話だ」
「へ?」
『オヤスミー』
杏子が不意に顔を上げると、誠司が変身を解除して、アイコンを見つめていた。
「確かに、お前がしてきた事が正しいとは思えないし、きっと他人を見殺しにした罪は消えない。俺がこれまで他人に暴力を振るって傷つけてきた事もな」
だけど、とここで誠司が杏子の目を真っ直ぐ見つめながら語った。
「それを理由に手を止めるなんて事はしなくても良いと思う。それよりも、今度はその分だけ誰かを助ける事に繋げていけば良い。そこに手を差し伸べていけば良いんだ。それで罪滅ぼしになる訳じゃないけど、それが今の俺達に出来る事なんだしさ」
「今のあたし達に……」
誠司は深く頷き、更にこう言った。
「もしそれでも困ってるなら、俺は絶対にお前を助ける」
「お前が、か……?」
「あぁ。お前1人じゃ背負いきれないものも、俺が一緒に背負ってやるさ。それが、今の俺に出来る事だからな」
誠司がいつになく笑顔でそう言ったのを聞いて、杏子は自然と視界がボヤけていくのを感じた。気づいてないが、彼女の目には涙がたまっていたのだ。
「……なぁ、誠司」
ポツリとそう呟く杏子。
「あたしにも、出来るのか……? 他人を守っていく事が……? 迷惑かけてくかもしれないのに、そんな事が……?」
「おうよ」
杏子の質問に、誠司は即答で、自信ありげに答えた。
「お互い迷惑かけあって、助け合っていく。それが友達ってもんだ」
「友、達……?」
「そうだ。杏子、お前はもう俺達の仲間だ。だからさ、これからは俺達を頼っていけよ」
「……あ」
「真っ先に俺が駆けつけてやる」
そう言いながら杏子の両肩に正面から手を置く誠司。その行為が、杏子の心に生じていた氷の壁を溶かした。
「……あ、あぁ……!」
一筋の涙がこぼれ落ち、そして。
「あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
今までに家族にすら見せた事のない大粒の涙を流し、大声で泣き叫びながら、目の前に立つ理解者の胸元に顔を埋めた。誠司はその行動に一瞬驚いたが、すぐに苦笑しながら優しく、これまでずっと心を閉ざしていた少女の背中に手をやって抱き締めた。シャツの胸元部分が濡れていくのも気にせず、誠司は全てを受け入れるように、何も言わずにただただ彼女の気が済むまで、そばにい続けた。
それから10分ほどの時が流れた。
思いっきり感情を露わにして泣き叫んでいた杏子だが、さすがに恥ずかしくなったのか、顔を赤くしながら、しばらく誠司から目線を外していた。
「……あたしさ」
ようやく杏子の口が開いたのは、彼女の顔が少しずつ元の肌色に戻ってきた頃だった。
「本当は、あんたと初めて会った時とか、さやかやあんたの話を聞いた時、負けた、って思ってたんだ」
「?」
「こいつらはあたしなんかよりも心が数倍強い。なれなかったあたしが、なるべきだった理想のあたしが、こんなにもここにいるんだって知って、それが羨ましくて、そこに手を伸ばしたくて……」
そう呟く杏子の顔は、柔らかい印象があった。
「でも、心のどこかで妬んでたんだろうな……。何も知らずに輝いてる奴らをさ。それに、そんな道を進んでも、絶望しか待ってない。それしか頭になかったから、ああいう風にしか言えなかったんだ……」
これ以上自分の歩いてきた辛い道を同じように歩んでほしくない。その想いで杏子はタケル達と対峙していたのだ。それが不器用なやり方だとしても、同じ人間になってほしくない、と。
やはり杏子は誰よりも優しい少女だ、と誠司は改めて実感した。
「なぁ。さっきも聞いたけどさ」
杏子が誠司の方に顔を向けて言った。
「あたし、もう一度なれるのか? あんたらみたいな、他人の為に頑張れる自分に……?」
「もちろんだぜ。今からでも遅くないし」
「……そっか。ありがとな」
杏子は普段言った事もないような言葉を口にした。
その様子を見た誠司が、杏子にある提案をした。
「なぁ、杏子」
「ん? どうした?」
「もし良かったらさ、その……。俺の家に来ないか? ゆまって子と一緒に」
「へ⁉︎」
唐突な提案に、杏子は間抜けな声を出した。
「いや、もしあれだったらちゃんとした家で暮らしてる方が何かと便利かもしれないだろ? 何かあった時とかにすぐに駆けつけれるようにするのも良いし、それに、家に来れば和菓子とか色々と食べれたり出来るだろうし」
「な⁉︎ あたしを食べ物で釣る気かよ⁉︎ 舐めてるのか⁉︎」
杏子がそうツッコンだ後、しばらく沈黙が続き、やがて2人の口から自然と笑い声が聞こえてきて、辺りにこだました。やがて、杏子がこう尋ねた。
「ま、まぁ、あたしは別にどこに行こうが構やしねぇし、ゆまもその身だ。けど、あんたの所の家族はどうなんだ?」
「何とかなるだろ、多分」
「多分って……」
呆れ口調になる杏子。
「まぁ、母さんだったら割とOKしてもらえるかもしれないし。自分で言うのもアレだけど、基本的に温厚だからな、ウチの家族は」
「へぇ……」
杏子がそう呟いた時、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「キョーコ!」
「お、ゆま」
教会の方からゆまが駆けつけてきて、杏子に抱きついた。
「キョーコ、どこ行ってたの⁉︎ 起きても誰もいなかったから心配したんだよ!」
「はは、悪かったな。ちょっと野暮用があってね」
そう言って杏子が誠司に顔を向けると、ゆまも同じ方を向いて、途端に警戒の色を示した。敵だと認識している誠司を見て、杏子を守るように前に出た。
「キョーコをいじめちゃダメ!」
「い、いや。別にそんな事してないって……」
「そうだぞゆま。それにこいつはもう、あたしの仲間だ」
「仲間……」
杏子が優しくそう教えると、ゆまはキョトンとしていた。一方で誠司は杏子が自分を仲間と認めてくれた事に内心喜んでいた。
「じゃあ行くか。もう暗くなってくるし、こっから家に帰るとなると、そこそこ時間がかかるからな」
「そうだな。んじゃ、行こうか」
「? どこへ?」
ゆまが首を傾げていると、誠司が言った。
「新しいお家だ。杏子も一緒だよ」
「これからその人達に色々と世話になるからな。ちゃんとこれから向かう家の人の迷惑にならないようにするんだぞ」
「……うん! ゆま、約束する!」
おそらくまだ何の事か分かっていないかもしれないが、杏子と一緒にいれるだけで、問題無いのだろう。
上機嫌なゆまの左右に、誠司と杏子が並んで、それぞれ片方ずつ手を繋いだ。そして誠司の家に向かって、仲よさげに歩いていった。余談だが、その後ろ姿は本当の家族にも見えていた。
数歩歩いたところで、杏子はかつて自分が暮らしていた教会に顔だけを向けた。
「(……親父、お袋、モモ。本当にゴメンな。あたしがみんなを不幸にした。今更許されるなんて思ってないけど、どうしても謝りたいんだ。そして、もう一度やり直したい。誠司やゆま、他のあいつらと一緒に、みんなの希望を守れる魔法少女に、今度こそなってみせる。だから、今は安心して眠っててくれ……。あたし、頑張るからさ)」
今は亡き家族に心の中でそう語りかけて、新しい自分の歴史に向かって漕ぎ出す為に、心優しき魔法少女、佐倉 杏子は前へと進んでいった。
自分を真っ先に守ってくれると約束してくれた、2人と共に。
というわけで、今回から杏子とゆまが新しくタケル達の仲間入りとなりました! 今後の彼女達の活躍に乞うご期待!
次回は久々にあの人物が登場します。そして2人の少女に試練の時が……。
次回もお楽しみに。