魔法少女まどか☆ゴースト 〜命を紡ぐ物語〜 作:スターダストライダー
前回も述べたように、今回は残酷描写にご注意を。
「えっ……! 仁美ちゃんが……⁉︎ それ、本当なんですか……⁉︎」
告げられた真実を耳にして、驚きの表情を見せながらそう尋ねる晶。対するまどかとタケルは何も言わずに頷くだけだった。
ファーストフード店でのさやかと仁美の会話を聞いた後、どうにかして正気に戻った2人は店を出て、一旦家に帰った後、それぞれの家族に出かける事を伝えて、2人はある場所に真っ直ぐに向かっていった。
その道中で偶然合流した晶から、2人の様子がおかしい事を見破られ、観念した2人が、夕方に見た事を洗いざらい全て話し、今に至る。
「そんな……。それじゃあ、さやかちゃんは……」
「こないだっから妙だとは薄々感づいてはいたけどよ。まさか、恭介が絡んでくるなんてな……」
「あんな表情の仁美ちゃん、初めて見たよ……。だから、きっと本気なんだと思う……」
「よりによってこんなタイミングで……」
タケルは髪を掻き毟りながら苦悶の表情を浮かべていた。仁美の気持ちも分からなくもないが、さやかにとってはショック以外の何物でもない。仁美は、今でも友達である事に変わりはないと言っているが、今回の件は、下手を打てばその関係に亀裂が入りかねない。まどかやタケルが最も危惧しているのは、その事だった。
「だからね。私とタケル君だけでも、なるべくさやかちゃんのそばにいてあげようって思ってるの……。それでね。晶君にも、お願いしたいの。良いかな……?」
「もちろんですよ。だってこのままじゃ、さやかちゃんがかわいそうですから……」
そう呟く晶の表情は曇っていた。
その頃、さやかはいつものように家族にバレないように家を出て、エレベーターを使って下に降りた。その道中に、キュゥべえが足元についてきている事に気付き、さやかは睨みつけた。
「……今度は何の用」
「今夜も行くのかい?」
「当たり前でしょ。どっかの誰かさんが、勝手にこんな体にしてくれたおかげでね」
「中々に酷い事を言うねぇ。でも、僕としては、今日は控えた方がいい気がするよ。今日の君は、どこか様子が変だ。何かを悩みすぎている感じが、顔から出てるよ」
「余計なお世話よ。あんたには関係ない」
さやかはそう冷たくあしらい、キュゥべえはそれ以上何も言わずに黙ってさやかについていった。
マンションの自動ドアが開き、外の世界に一歩踏み出した時、さやかの右手側に3人の人影が見えた。彼女の親友のまどか、タケル、そして晶だった。
「あ、あんた達……」
いつもの待ち合わせ場所ではなく、この場に3人が来ていた事にやや驚いているさやか。
「ついてって、いいかな……?」
「えっ……?」
まどかがなるべく優しく声をかけた事に対し、戸惑いを隠せないさやか。そこへタケルと晶がさらに声をかけた。
「さやかちゃんには、一人ぼっちになってほしく、ないんです。だから……」
「俺達もそばにいるからさ。一緒に行こうぜ。今日も張り切って魔女退治頑張らねぇとな」
「……あんた達、何で……」
そんな悪意が微塵も感じられない言葉をかけられて、さやかの声は次第に震えを含んだ涙声に変わっていった。
「何で、そんなに優しいのかなぁ……。あたしには、そんな価値なんてないのに……」
「価値って、お前なぁ……」
タケルがやや呆れたように呟いていると、さやかがこんな事を話し始めた。
「あたしね、今日、後悔しそうになっちゃった。……あの時、仁美を助けなければって。ほんの一瞬だけ、そう思っちゃった……」
あの時というのは、恐らく仁美に魔女の口づけが刻まれて、集団自殺をはかろうとした所を、さやかの援護で阻止出来た時の事に違いなかった。思えばあの時から、さやかの、そして仁美の運命は大きく変貌を遂げていった。
「正義の味方、失格だよ……。これじゃあ、マミさんや隼人さんに顔向けなんて……」
俯きながらそう呟く、自分を責めている少女の目の辺りから、いくつもの水玉が滴り落ちていた。
「さやかちゃ……」
それに気づいた晶が、手を伸ばしながらさやかに駆け寄ろうとした時、それを追い越して真っ先にさやかを抱き締めた人物がいた。まどかだった。
見ていられなかった。何ら悪くもないはずなのに、ただただ自己嫌悪を抱き続けて、自ら滅びそうになっているさやかを見ているのが、まどかには耐え切れなかった。
さやかも、何も言わずに抱き締めたまどかを見て一瞬驚いたが、次の瞬間、胸の内の感情を抑えきれずに嗚咽しながらその全てを吐露した。
「仁美に、恭介を取られちゃうよぉ……! でもあたし、何も出来ない……! だってあたし、仁美みたいに強くなんて、ないもん……! 仁美だって、あたしと同じで、もう死んでるし、ゾンビだって、分かってるのに、でも、あんな風に恭介を好きだなんて、言えない……! あたしにはあんな勇気、無いよ……!」
まどかの腕の中で、普段は強気な親友が泣き叫んでいる姿を見て、まどかも釣られて涙を流した。
「こんな体で抱き締めてなんて、言えない……! キスしてなんて、言えないよぉ……!」
「……っ」
まどかはかける言葉が見つからず、彼女の気が済むまで抱き締め続けた。
そんな後ろ姿を見て、晶はゆっくりとさやかに伸ばしていた腕を下ろし、さやかに何もしてあげられない自分や、まどかみたいに真っ先にそばにいてあげられるような勇気を持ち合わせていない自分に腹ただしさを感じながら俯いていた。その目には涙が溜まっている。
一方で、タケルは握り拳を固めながら、まどかとさやかから視線を外して、悔しさを滲ませていた。
「(何で、なんでこんな事になっちまったんだよ……!)」
奥歯を噛み締めながら、タケルは自分の心に向かって叫んでいた。
さやかの言う通り、仁美や彼女自身も同じ魔法少女だ。魔法が使える所も、肉体そのものが既に死んでいる所も、相違無い。仮面ライダーも同様だ。
そんな両者の違いを挙げるのであれば、恐らく、目の前に突きつけられた真実をどう受け入れたか、といったところだろう。
仁美はソウルジェムの秘密を知り、愕然とした事だろう。友との絆を再構築するために、その身を人ならざる者へと変えられてしまったのだから……。だが、それ以前に、魔女と戦う事の過酷さ、そして仲間のありがたさを誰よりも実感していた彼女の精神は強固なものへと次第に成長させていた。だからこそ、真実を受け入れてもなお、自我が揺らぐ事なく、正直な気持ちになって、自分の想いを包み隠さず伝えていこうと決心していた。そして今回、上条への告白を決意したのだ。
反対に、さやかは元々の勝ち気な性格が表面に出ていた為、誰も危惧していなかったが、実際には、さやかの心の芯は脆かった。本音を押し殺し、自分1人で負の感情を抱え込む。そうやって今までまどか達と接して来ていた。それがここに来て、ソウルジェムの秘密や、仁美からの決意を聞いて、化けの皮が剥がれ落ちようとしていた。ハンマーで殴られたような衝撃的な言葉を受けて、自分でも制御が出来なくなっていた。
故に、まどか達は仁美を咎める事が出来なかった。大切な親友だからという事もあるが、仁美が行き急いで告白しようと決意したのは、彼女の独断のせいとは言えなかったからだ。
その原因を作り出した元凶であろうキュゥべえは、ただジッと4人の様子を見つめていた。
しばらくして、ようやく落ち着きを取り戻したのか、さやかはまどかから離れて目に溜まっていた涙を拭いた。
「……みんな、ありがと」
「さやか、ちゃん……」
「大丈夫。もう平気。すっきりしたし……」
「……本当に、大丈夫なのか」
「当たり前でしょ。言いたい事、愚痴みたいだけど、全部言えたんだし……」
そうは言うものの、さやかの顔つきは多少良くなってはいるが、やはりまだ辛そうだった。そんな彼女を見て心配な表情を浮かべている3人を見て、さやかはわざとらしく明るそうな声で3人に呼びかけた。
「さ〜てと、今日も行こっか。さっさと魔女をやっつけなきゃね」
「……うん。そうだね」
3人を代表して、まどかが遅れて、そう呟いた。遅れてタケルと晶も頷く。
今は少しでも彼女の寂しさを紛らわせなければ、本当の意味で彼女は壊れていってしまう。そうならないように、3人はさやかの言う事に頷くしかなかった。
それから数十分後、反応があった工場に結界が張られているのを発見した4人は、マミ達に連絡を入れた後、結界内に入っていった。タケル、さやか、晶が変身し、まどかは3人の後をついていった。ちなみにキュゥべえは気がついた時にはもういなかった。
結界の最深部にたどり着くと、すぐさま魔女との戦闘が始まった。だが、今回の魔女は、これまで戦ってきた魔女とは別格の強さを誇っていた。
「はぁっ、はぁっ……!」
あまりの強さに、タケルは肩で息をする程だった。両サイドにいるさやかと晶も同様だった。
空には割れたステンドガラスのようなものが浮かんでいる、黒い一本道だけの結界内。3人の目線の先には、結界の奥に見える太陽を模している塔があり、その手前には、祈りを捧げているようなポーズの女性型の黒ずくめの魔女がいた。
〜影の魔女、エルザマリア〜
〜彼女の祈りを邪魔しよう者は、全身に苦痛が刻まれる事になるだろう〜
「みんな、頑張って……!」
3人の必死に戦う姿を見ながら、両手を握り締めて、祈るように応援していた。それしかまどかにはする事がなかった。
「うぉぉぉぉぉっ!」
タケルがガンガンセイバーを構えながら魔女に突撃し、その後をさやか、晶の順に追っていった。影の魔女は背中を見せる形で、そこから蛇のような形をした黒い使い魔を出現させて、3人に攻撃を仕掛けた。
「くっ……!」
3人は各々の武器を振り回して使い魔の首をはね飛ばして、次々となぎ払っているが、一向に数が減らず、時々反撃をくらっていた。いくら倒しても、影の魔女はそれを上回るように背中から使い魔を出現させており、容易に影の魔女本体に攻撃が出来なかった。
「(つ、強すぎる……!)」
魔女の底知れぬ強さに、タケルは舌を巻いていた。使い魔を出される前に、速攻で魔女を倒さなければならない。そう思っていた時、さやかがいち早く前に前進した。
「はぁっ!」
さやかは両手に持つサーベルを駆使して、使い魔を倒していた。が、使い魔は手を緩める事なくさやかに襲いかかる。さやかはあらゆる方向から仕掛けてくる使い魔の噛みつき攻撃に対処が間に合っていない。
「はぁぁぁぁぁっ!」
そんなさやかの前に立った晶が、ガンガンハンマーを横に振るって、目の前の使い魔を一掃した。
「さやかちゃん!」
「!」
晶の合図を受けて、さやかは晶を通り越して影の魔女に向かった。途中、再び使い魔が出現し、行く手を遮った。
「援護するぜ!」
『アーイ! バッチリミナー! カイガン! ムサシ! 決闘! ズバッと! 超剣豪!』
これを見たタケルはすぐさまムサシ魂にゴーストチェンジし、二刀流で使い魔の首をはねた。
再び使い魔が邪魔をする前に、さやかは足に力を入れて飛び上がった。そして上空に魔方陣を作り出し、一回転してから足をつけて足場にして、弾丸のように一気に影の魔女にサーベルを突き立てながら突撃した。
「はぁぁぁぁぁっ!」
が、後一歩といったところで、影の魔女の背中から、今度は大樹のようなものが刀身を止めた。そして大樹はそのままさやかを押し返しながら呑み込んでいった。
「「さやかちゃん!」」
「さやか!」
まどかがさやかの名を呼び、タケルと晶が慌てて大樹を破壊しようとした時だった。
「「はぁっ!」」
「やぁっ!」
突如、大樹が斬り裂かれ、その間をくぐって3人の人影がタケル達のそばに着地した。それは、現在では一緒の家に住んでいる誠司こと仮面ライダーカエサルと、最近心強い仲間となった魔法少女の杏子、ゆまの3人だった。杏子の腕にはさやかが抱き抱えられている。
「ったく、見てらんねーっつうの」
「! あんた……」
杏子が愚痴りながらもさやかを地面に降ろした。さやかは、杏子が自分を助けてくれた事に驚いていた。
「誠司! 杏子! それに、ゆまも!」
「なんとか間に合ったみたいだな」
誠司がさやかを見てホッとしていると、再び使い魔が押し寄せてきた。一同が身構えていると、後方からいくつもの弾丸が発射されて使い魔を一掃した。
振り返ると、マミや隼人、御成、星斗、そして仁美といった残りのメンバーが駆けつけてきた。先ほどの銃撃はマミと隼人によるものだった。
「みんな、大丈夫⁉︎」
「は、はい!」
「悪い。ちょっと遅れた」
「大丈夫だ。助かったぜ」
そんな中、仁美がさやかの体についている傷を見て声をかけた。
「さ、さやかさん……」
「……」
対するさやかは何も言わずに仁美から目を逸らした。夕方の件を引きずっているに違いない。
そんな様子に気づかず、マミと隼人は全員に声をかけた。
「すぐに倒すぞ。長引けばそれだけ不利になる」
「そうね。みんな揃ったから、ここからは連携を取って攻めるわよ!」
「ま、手本を見せてやるとすっか。ゆま、お前はそいつの怪我を治してやりな」
「うん! さやかねーちゃん、今治してあげ……」
「結構よ」
「ふぇ?」
ゆまが治癒魔法でさやかの怪我を治そうとした時、さやかがゆまを振り払って、影の魔女の方を向いた。
「お、おい」
「さやか……?」
杏子と誠司が、突然前に出たさやかを制止しようとすると、さやかは今までに聞いた事がない程に低い声で呟き、クラウチングスタートを切るように、手を地面につけて、腰をあげた。
「邪魔、しないで。一人でやれるわ」
その直後、さやかは目にも止まらぬ速さで一本道を駆け抜け、使い魔にも目もくれず、軽く飛び上がると、その勢いで影の魔女の首をはね飛ばした。しかし、追尾していた2匹の使い魔が上からさやかに喰らい付き、地面に叩きつけた。血飛沫がさやかを中心に飛び散った。
「「「! さやか!」」」
「さやかちゃん!」
「さやかさん!」
「さやか殿!」
「「「な……⁉︎」」」
皆が悲痛な声をあげていると、影の魔女から生えてきた使い魔が、未だにのたうち回っていた。使い魔がまた増えてきているところから見て、まだ生きているようだ。
「(な、なんつータフな魔女だよ⁉︎)」
タケルが魔女のしぶとさに驚きつつも、さやかを助けようと足を踏み出した、その時だった。
「……ふ、ふふふ、ふはは、あはは……」
不意にタケル達の耳に入ってきた笑い声。それはさやかの口から発せられていた。だが、その笑い声はいつもの明るさなど微塵も感じられない、初めて聞くような、冷たく狂気に満ちた笑い声だった。
「さ、さやか、ちゃん……⁉︎」
「! まさか、あんた……!」
晶が困惑した声で呟き、杏子が何かに気づいたように口を開いた。
「ど、どうしちまったんだ、さやか……⁉︎」
「くははは……! あはははは……!」
依然として狂ったように笑いながら起き上がるさやかに、大量の使い魔の一斉攻撃が襲いかかった。さやかを喰い殺すかのように口を開けて噛みつきながら、さやかを上空に吹き飛ばす。だがさやかは、下降しながらもサーベルをめちゃくちゃに振り回して、使い魔の首をはねていた。
そのまま影の魔女に飛びかかり、押し倒して馬乗りになって、何度もサーベルで叩きつけるように斬り裂いていった。影の魔女を斬りつける度に、血が飛び散り、さやかの体を真っ赤に染めていく。
「あは、あはははははは!」
「あ、あぁ……!」
目の前に広がるあまりにも残酷な光景に、仁美は口元を抑えて目を見開き、タケル達は何も言えずに唖然としていた。さやかはがむしゃらにサーベルを持つ右手を振り回し、これでもかと言わんばかりに影の魔女を斬り裂いていた。
「う、うはははははははは! ぎゃっははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは! 本当だぁ……! キュゥべえの言った、通りだぁ……! あははははははははは! その気になれば、痛みなんてぇ、うふふふふふふふふふふふ、あっははははははははははははは! 完全に、ぜぇんぶ消しちゃえるんだぁ! あっははははははははははははははははははははははははは!」
影の魔女は抵抗するかのように、使い魔にさやかを喰らわせた。だが、さやかは手を休めない。
それもそのはず。彼女は今、キュゥべえの言っていたように、痛覚を遮断して戦っている為、そのような抵抗が全て無駄に終わっているのだ。
だが、それを見ているタケル達の心には強くダメージが入っていた。彼女の身体中、至る所に傷が増え続けており、血はドクドクと流れ落ち、時折白い骨の部分が見えるほどだった。その様子は、以前隼人がお菓子の魔女の攻撃を受けていた時以上の凄惨な光景だった。
「クハハハハハハハハ! あっはっはっはっはっは!」
さやかは笑いながらサーベルを振り下ろし、影の魔女を突き刺した。それにより影の魔女は動きを止めて、使い魔が力が抜けたように地面に伸びた。が、さやかは勝負がついたにもかかわらず、サーベルを引き抜いて何度も斬りつけていた。叩きつけるような動作に連動して、結界内が揺れ動いている。
「ぎゃはははははははははははははははは!」
「やめて……! もう、やめて……!」
まどかは悲痛な声をあげて叫んだ。が、さやかの耳には届かない。まるで泣き叫んでいるかのように狂おしい声が響き渡っていた。
やがて影の魔女が倒された事で結界が崩れていき、奥に見えた太陽の塔が根元からポッキリと折れて、崩れ落ちていった。
影の魔女が、元の面影すら残らないほどに細かな肉塊に変貌しており、ひび割れた結界から外の風景か見え始めた頃に、ようやくさやかの手が止まった。
「……はん。やり方さえ分かっちゃえば、案外簡単なもんね。これなら、誰にも負ける気がしないわ……」
狂い笑いながら、さやかが顔を上げると、彼女の体が淡い水色に光り出し、影の魔女の返り血や、傷ついた自分の体を元の状態に再生していった。彼女の治癒魔法が作動したようだ。
魔女の結界は完全に消滅し、元の工場の風景に戻っていた。さやかの目の前にはグリーフシードが地面に突き刺さっており、さやかがゆっくりと近づき、それを拾い上げた後、まどか達の方に、斜め上に顔を上げた状態で振り返った。その時のさやかの不敵な笑みといったら……。まどか達は、一瞬だけ目の前にいる人物がさやかかどうか疑ってしまう程に、彼女は乾いた笑みを浮かべていたのだ。
その後、さやかは持っていたグリーフシードを杏子に投げ渡した。
「あげるよ。そいつが目当てなんでしょ?」
「おい……」
「タケル達ならともかく、あんたには借りは作らないから。これでチャラって事でいいでしょ?」
杏子が困惑した表情を見せ、ゆまが怯えたように杏子のしがみついている。だが、それを黙って見過ごせずにマミと隼人が詰め寄った。
「ま、待ちなさい! 美樹さん、先ずはあなたのソウルジェムの穢れを取り除かないと……!」
「そうだぞ! さっきの戦闘で、お前の魔力はかなり消耗して……」
「だ、大丈夫ですよ。あたしのソウルジェムなんか、あれくらいでどうにかなるほど……」
直後、隼人の平手打ちがさやかの頬に直撃した。
「いい加減にしろ! あれを見て無事だと思える輩がどこにいる! 今すぐに浄化するんだ! ……グリーフシードならいくつか持っている。これを使え」
「……分かりました」
さやかは仕方なくといった表情を見せながら、隼人からグリーフシードを受け取り、ちゃんと穢れを取り除いたさやかは、グリーフシードを返して、2人から離れるように歩き出した。それから目線の先に見えたまどかと、すでに変身を解除していたタケル、晶の方を向いて声をかけた。
「さ、帰ろう」
「さやか、ちゃん……」
「何震えてんのさ。もう大丈夫だって」
「でも……」
ふらふらした足取りで近寄るさやかに対し、晶は心配そうな声をかける。すると、さやかの全身が光り出し、光が解けると元の制服姿に戻った。が、その直後に憔悴しきっていた為、ふらついて倒れかけた。
「! さやかちゃん!」
「さやかさん……!」
慌ててまどかが肩を掴んで支え、仁美も手伝うように駆け寄る。すると、
「触んないで」
と、仁美に顔を向けて、鋭く睨みつけながら低く呟いて、仁美を威圧した。仁美はその表情に恐怖して、思わず立ち止まった。それからまどかの方を向いて、力なく笑みを浮かべた。
「……ごめんまどか。ちょっと疲れちゃったみたい……」
「無理すんな。俺に掴まれ」
「ぼ、僕も、手伝います……!」
「悪いね、タケル、晶」
タケルと晶が近寄り、晶に手伝ってもらいつつ、タケルの肩を借りながら、さやかを支えた。
「じゃあ、俺達はこのまま……」
「あ、あぁ。気をつけて、な」
星斗がそう言うと、まどか、タケル、晶、さやかは背中を見せながらその場を去っていった。
その様子を、杏子は渡されたグリーフシードを握りながら、小さく「……あのバカ」と呟いていたが、誰の耳にも届かなかった。
隼人が変身を解除すると、近くの手すりにもたれかかりながら、ため息をついた。
「……女に手を出すなんて、俺もヤキが回ったもんだな」
「八谷君……。でも、仕方ないわ。あなたが怒るのも。私も今回の美樹さんのやり方には賛同出来ないもの」
「さやかの奴、一体何があったってんだ……?」
誠司の呟きに答える者はいなかったが、仁美だけは、顔を俯かせている。それを見た杏子が声をかけるのと、仁美が顔をあげて皆の方を向いたのはほぼ同時だった。
「なぁ、仁美……だったな。あんたさ……」
「申し訳ありませんが、私はここでお暇させてもらってもよろしいでしょうか? まだ今日の宿題を終わらせていないものでして」
「え、えぇ……。構わないわ」
「ちょ、おい……!」
「では、ごきげんよう」
杏子の制止を無視して、仁美は一礼した後、魔法少女姿のまま、近くの建物の屋上を転々と移りながらその場を後にした。
「仁美殿が宿題をやり忘れるとは、珍しいものですな……?」
御成が首を傾げていると、杏子の様子が気になった誠司が彼女に声をかけた。
「杏子。仁美がどうかしたのか?」
尋ねられた杏子は、唸りながらこう呟いた。
「いや、さっきあいつがさやかに近寄ろうとした時、さやかの奴、思いっきり睨んでてさ。その顔が、何ていうか、その……。まるで、あいつを妬んで、殺そうとしてるような目つきだったんだよな……」
その場にいた一同に緊張感が漂い、湿った風が彼らの肌に触れた。漆黒の上空に輝いていた月に、黒雲が覆いかぶさろうとしていた。
もう直ぐ、雨が降ってくる前兆だった。
自分でも書いてて怖かった回でした……。
ちなみに、私的には
アニメの声<小説の表現<劇場版の声<漫画版の描写
の順でこの辺りは怖く感じました。特に漫画版を初見で見た時は、その残酷極まりないさやかの狂った表情を見て、思わずチビりそうでした……。
次回もお楽しみに。……って、絶対次回も楽しめる雰囲気では無さそうですよね……。