魔法少女まどか☆ゴースト 〜命を紡ぐ物語〜 作:スターダストライダー
今回は少し短めですが、かなり重要……というか、この物語の本質が明らかになる回です。
不気味なほどに人が1人としていない駅のホーム。その一角に設置された長椅子に、さやかは腰掛けていた。
彼女の表情は今までに見せた事がないほどに暗く沈んでおり、俯いているその顔には、感情の欠片もなかった。
と、そこへ。
「キョーコ! いたよ!」
階段を登る足音が聞こえてきて、先にホームに姿を現したのは、ゆまだった。ゆまが指を差して後ろを振り返ると、その後を杏子がついてきた。杏子はようやくさやかを見つけて、ホッとした。
「やっと見つけた……」
「……」
さやかは何も答えない。2人は目を合わせると、それぞれ、さやかを挟み込むように隣に座った。
「さやかおねーちゃん、どこか痛いの? 痛かったら、ゆまが治してあげる」
ゆまは心配そうにさやかの顔を覗き込むが、俯いていたのでよく分からない。やがて、ゆっくりと顔を上げて、
「……うん。大丈夫……」
さほど大丈夫そうには見えないような顔つきのまま、ゆまの頭を優しく撫でた。それを見ていた杏子はポケットから、前もって持参していたポテトチップスの袋を開けて食べ始めた。
「……あんたさ。いつまで強情張ってるわけ? 誠司も心配してたぞ?」
「……悪いね。手間、かけさせちゃって……」
「……? らしくねぇじゃんかよ」
意外にも素直に言葉をかけたさやかに、杏子はやや不満げに鼻白んだ。杏子からポテチを分けてもらって口に入れているゆまも同様だった。
「……うん。別にもう、どうでも良くなっちゃったんだよね」
虚ろげな目つきのさやかを見て、杏子は次第に不安な感情が芽生えてきた。
「……結局さ。あたしは、一体何が大切で、何を守ろうとしてたのか……。もう何もかも、訳わかんなくなっちゃった……」
「お、おい」
訝しんだ杏子がさやかに顔を近づけた時、初めてさやかの左手の中が視界に入った。
彼女の手のひらには、黒い球体が握られていた。それは、いつも穢れを取り除く為に使うグリーフシード……否、グリーフシードではない。それは、グリーフシードに酷似しているほどに真っ黒に染まった、さやかのソウルジェムだった。それまで水色に染まっていた部分はほとんどなく、穢れに染まった黒という絶望の闇がソウルジェムを支配している。
「……!」
「! キョーコ!」
目を見開く杏子に続き、ゆまも途中で気づいて、さやかのソウルジェムを指差して叫んだ。
「希望と絶望のバランスは差し引きゼロだって、いつだったか、あんた、言ってたよね……。今ならそれ、よく分かるよ……」
さやかのソウルジェムが禍々しく脈動しており、今なお黒く染められている。
「確かに、あたしはさ。何人も救いはしたけどさ。だけどその分、心には恨みや妬みが溜まりこんで、終いには、一番大切な友達さえ傷つけて……」
「さやか、あんたまさか……!」
「誰かの幸せを祈った分、他の誰かを呪わずにはいられない。……あたし達魔法少女とか、仮面ライダーは、そういう仕組みで成り立ってたんだね……。そうとも知らず、あたしは……」
虚ろげに濁りきったようなさやかの両方の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
「(……ごめんね、まどか、晶、みんな……)」
やがてそれが水滴となりかけた時、さやかは呟いた。
後先考えずに魔法少女として契約してしまった自分や、救いの手を振り払って、そばにいてくれた親友を傷つけてしまった自分に。
「あたしって、ほんと……」
「さやかちゃん!」
「「「さやか!」」」
「さやかさん!」
「さやか殿!」
「美樹さん!」
不意に、さやかの名を呼ぶ声を聞いて、さやかはゆっくりとその方を見た。それにより、滴り落ちた涙はソウルジェムに当たる事なく制服のスカートに染み込んだ。
杏子とゆまも振り返ると、階段を駆け上がってくる、いくつもの足音が。やがて姿を現したのは、途中で合流したまどか、タケル、仁美、御成、星斗、隼人、マミの7人だった。
「……み、みん、な……」
さやかがぐったりとしながら、虚ろな目で現れた一同に目を向けた。
まどか達はさやかに駆け寄り、さやかの手を握ったり、声をかけたりして無事を確かめた。
「さやかちゃん、大丈夫⁉︎」
「良かった……!」
「……! いや、安心するのは早いかもしれないぞ……!」
隼人が表情を曇らせて、さやかの黒く濁ったソウルジェムを見つめた。他の6人もそれに気付き、驚きの表情を浮かべている。
「さやかさん……! こんなにも穢れを……!」
「と、とにかくグリーフシードだ! 早く穢れを取り除かないと……!」
「落ち着いて、天王寺君! 八谷君、グリーフシードはまだあったはずよね?」
「あぁ。すぐに……」
隼人がポケットからグリーフシードを取り出そうとした時だった。
「それは無駄な事だね」
不意に聞こえてきた声に固まる一同。特にまどかとタケルは、表情を引きつらせている。その声は、つい先ほどまで耳に入ってきていた、本来ならもう聞く事もないはずだと思っていた声だった。
それでも、さやかを除く一同が振り返ると、そこには、赤い瞳を爛々と輝かせた、白い生き物が、階段の近くにチョコンと座っていた。
「真実……だと?」
その少し前、誠司と晶は、突然マコトに足止めされて、先に進めなくなっていた。
マコトの口からは、魔法少女及び仮面ライダーに関するシステムの全貌が明かされようとしていた。
「そもそもお前達は、魔女がどうやって生み出されているか、理解しているか?」
「え……? そ、それは、魔女ってキュゥべえが言ってたみたいに、怒りや憎しみみたいな負の感情が溜まった場所に誕生して、それで……」
「それはある意味正解ではあるが、実際にはお前達は大部分を勘違いしてるだけだ」
「勘違い⁉︎」
誠司が困惑していると、マコトは話を続けた。
「確かに負の感情が魔女を生み出す原因なのは間違いないが、それは場所を選ぶ事はない。もっと言えば、魔女を生み出す為に必要な負の感情は、ただの人間程度が抱くものでは到底あそこまで強い力には成り得ない」
「そ、それじゃあ、何が魔女の力の根源に……」
晶のその疑問に、マコトは冷ややかな目つきで2人を見据えながら、アイコンを突き出して答えた。
「俺達みたいな仮面ライダーや、魔法少女が自ら生み出した、絶望そのものだ」
「な、何言ってんだよお前……⁉︎ 俺達の、絶望……⁉︎」
理解に苦しみ、動揺を隠せない誠司。晶も、未だにマコトが言っている事の真意が分かっていないようだ。
どうやら全てを話さないと、理解してもらえないようだ。そう思ったマコトは、結論を先に言った。
「魔女っていうのはな……」
そして、マコトの口から放たれた言葉は、誠司と晶の想像を遥かに超えた、恐るべき真実だった……。
「お、お前、何で……⁉︎」
タケルの抱く疑問は、まどかも同様だった。先ほどほむらに撃ち殺されたはずのキュゥべえが、ケロリとした表情で、目の前に姿を現したのだから、驚かない方がおかしい。
「僕の肉体は、この世界にいくつも存在する。だから、何度壊されても、僕達には何ら支障をきたさないのさ。だからと言って、無闇に潰されてもらっても困るんだけどね。勿体ないし」
「な、何ですと⁉︎」
「まるでゴキブリみたいな奴だな……! それよりも、さっきお前が言ってた、無駄な事って、どういう意味だよ……!」
杏子が歯ぎしりしながらキュゥべえに問いかけると、キュゥべえは前足で耳の裏をかくような仕草を見せてから、さやかの手に握られているソウルジェムを見つめながら呟いた。
「彼女はすでに穢れを溜め込み過ぎたんだよ。ここまで溜め込んでしまっては、どうしようもないね」
「な、何言って……!」
「その様子だと、まだ理解していないようだね。なら、僕から簡略的に教えてあげるよ」
そして、白い悪魔は、告げた。
その場の雰囲気に似合わないような呑気な声で、残酷過ぎる、一つの
「美樹 さやかの魂は、間も無く、
この回における、魔法少女の真実を初めて知った時は、本当に心の底から驚きを隠せず、愕然としていました。当時はネットでも大騒ぎになってたそうですから、社会現象を生み出すのも当然かもしれませんね……。
そして似たような事が起きたのが、それから3年後の「selector infected WIXOSS」における、まさに同じ第8話のラストシーン。この偶然は、必然だったのか、それとも……。
……少し前に前話を見返したのですが、最後の方はこっちの話にそのまま入れておけば良かったと後悔してます。わざわざ区切ってしまって、ややこしい感じから始まった気がします……。
私って、ほんとバカ……(笑)