魔法少女まどか☆ゴースト 〜命を紡ぐ物語〜   作:スターダストライダー

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お待たせしました。

今回で第3章のクライマックスとなります。


64. 僕がそばにいてあげる

水色の髪の少女は、どこまでも暗い闇の中で、膝を抱えていた。負の感情だけが、外からも中からも少女を蝕んでいる。

これが、あたしの絶望なんだ。少女は本能的にそう感じていた。大切な人を傷つけてしまった報いを受けているに違いない。そう思った少女は、考える事を止めて、その身を流れのままに任せた。

すると、少女の後方から光が接近してきた。少女がゆっくりと振り返ると、それは人の形をしていた。少女の身長と同じほどの光は少女の目の前で止まり、手を差し伸べてきた。その光は優しく、包み込むように少女を照らしていた。

少女はその光を見つめるうちに、心の中のモヤモヤが消えていくのを感じた。そして次の瞬間、少女は迷う事なくその手を握った。そこで初めて、その手が男の手である事に気付いて、顔を上げると、周りが光に包まれた。薄れる意識の中、気弱そうな少年の微笑みが、少女の視界にわずかだけ入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……! ここか……!」

 

息を荒げながら駅のホームに入ってきたのは、先ほどまでマコトと対峙していた誠司だった。晶を先に行かせて、マコトを足止めしていたのだが、ある程度時間を稼げたと思った誠司は隙をついて離脱し、さやかがいると思われる駅にたった今到着したのである。

しかし、誠司の目線の先には、ベンチにグッタリと横たわっているさやかと、彼女の黒く濁ったソウルジェムしかおらず、タケル達はもちろん、キュゥべえもその場にいなかった。

 

「あ、あれ? タケル、みんな……?」

 

誠司が辺りをキョロキョロしていると、不意にさやかのソウルジェムに異変が生じた。突然光り輝いたかと思うと、穢れは浄化されて、元の水色に戻っていった。

 

「! ソウルジェムが……!」

 

さらに、ソウルジェムからいくつもの光の球が出てきて、地面につくと、人型になり、タケル達の姿となった。

 

「タケル! みんな!」

 

誠司が声をかけると、一同は辺りを見渡して、安堵の表情を浮かべた。

 

「あっ! 誠司!」

「一体どこ行ってたんだよ⁉︎」

「え、えぇっと……。まぁ、後でちゃんと話すよ」

「どうにか戻ってこれたようだな」

「! そうだ! さやかちゃんのソウルジェムは……!」

 

戻ってきた一同はさやかのソウルジェムを確認した。ソウルジェムは元の輝きを取り戻し、それがさやかの無事を示していた。

 

「やったぞ!」

「心配かけさせやがってさ……」

「一時はどうなるかと思いましたが、とにかく良かったですぞ!」

「うん……!」

 

まどかが嬉し涙を目に浮かべていると、さやかが唸りながらその瞳を開けた。

 

「……ん、あ、あれ? あたし……」

「さやか!」

「さやかさん!」

「さやかちゃん!」

 

起き上がったさやかのもとに、一同は駆けつけた。さやかは周りを囲んでいる一同の顔を眺めた。

 

「生きて、るの? あたし……」

「そうよ美樹さん。天王寺君の、あなたを救いたいという心が、あなたの心の中の魔女をやっつけたのよ」

「俺だけじゃないですよ。みんなの心と繋がれたから、誰も諦めなかったから、俺も戦えたんです」

 

タケルが笑みを浮かべていると、

 

「……ごめん」

 

さやかが俯きながら、目に涙を溜めながらポツリと呟いた。

 

「?」

「……あたし、みんなを守る為に魔法少女になったのに、そんなあたしが、いつの間にかまどかやタケル、晶を恨んで、酷い事を言って……。仁美に至っては、あの時助けなきゃ良かったなんて思っちゃって……、いなくなっちゃえばいいって思って……。今も迷惑かけちゃって……。最低だよね……」

 

今の彼女は、親友を傷つけてしまった事に激しく後悔している。こうなってしまっては、再び絶望という呪いが彼女を支配する前に、彼女を本当の意味で救い出さなければならない。まどかは一歩前に出た。

 

「さやかちゃ」

「さやかちゃん。顔を上げて」

 

だが、まどかが近寄るよりも先に、前に出て声をかけたのは、晶だった。意外な人物からの呼びかけに、さやかも呆然としていた。晶はさやかの瞳をしっかりと見つめて、その口を開いた。

 

「さやかちゃん。もうそんなに自分を責めないで。確かにさやかちゃんは酷い事を言っちゃったかもしれないけど、僕は知ってるよ。あれがさやかちゃんの本音じゃないって。きっと辛かったよね?」

「どうして……? どうしてそう言い切れるのよ……?」

「僕やみんなが知ってるさやかちゃんは、いつも強気で喧嘩っ早いけど、誰よりも優しくて、勇気を持って頑張ってくれる女の子だからだよ。みんなと会う前から一人ぼっちでいつも落ち込んでた僕を真っ先に助けてくれたのは、さやかちゃんだよ。そんなさやかちゃんが、僕の憧れだったんだ」

 

晶の話を、タケル達は黙って聞いていた。今は2人だけの時間だ。そう考えていたからである。

 

「だから、僕は契約した時、祈ったんだ。さやかちゃんやみんなみたいに強くなりたい。そんな仮面ライダーになりたいってね。けど、結局僕はさやかちゃんが言ってたみたいに弱いままだったけどね」

 

晶は苦笑しながら、2日前にさやかに言われた事を思い返していた。さやかもその事を思い出したのか、唇を噛み締めていたが、次の瞬間、晶が両手で彼女の手を優しく包み込んだ事で、さやかはハッとした表情になった。

 

「僕は今でも弱いよ。さやかちゃんの体を元に戻す事なんて出来ないし、さやかちゃんの期待に応えれるような戦いは出来ないかもしれない。でもね。そばにいてあげる事は出来るよ」

「……!」

「一人で抱え込む辛さは、僕も良く分かるよ。一人ぼっちは寂しいもんね。だから……」

 

すると、晶は大胆にもさやかの体を抱きしめた。さやかの体から心臓の鼓動が聞こえるのを確かめて、そして耳元で、こう呟いた。

 

「だから、もう1人だけで背負わないでいいんだよ。辛かったら、頼っていいんだよ。僕がそばにいてあげる。ずっとね」

 

それを聞いて、さやかの瞳から、水滴が頬を伝った。全ての負の感情を受け入れてくれる事を意味するそれは、彼女の心につけられていた枷が外れて、苦しみから解放された事を実感させていた。そして同時に、目の前にいる少年の成長に驚いていた。

 

「……あんたって奴はさ」

 

さやかが空いた右手で涙を拭きながら呟いた。

 

「いつの間にそう言えるまでになれたのよ……? いつからそんなに強くなったのよ……?」

「……へ? ぼ、僕は別に……」

「きっとさやかを見てきたからじゃないのか?」

 

そう呟いたのはタケルだった。

 

「晶にとって、さやかは憧れだったからな。そいつの背中を見つめて、大切な事や、本当の強さを学んでいく。英雄だって、誰しもが最初から独学で偉業を成し遂げて来たわけじゃない。目標にしていた人や、支えてくれる人がいたから、歴史に名を残せるほどになれたんだ」

「うん。私もそう思う。私もさやかちゃんに何度も助けられて、凄く感謝してる。だからね。今度は私もさやかちゃんを守っていきたいんだ。辛かったら、私も背負えるように、強くなりたいんだ」

 

まどかがタケルに続いてさやかにそう言った。

と、今度は仁美が前に出て、さやかのそばに座り込んだ。

 

「さやかさん……」

「仁美……」

「さやかさんは、きっとまだ私を恨んでますよね。やはりまだ上条君の事を……」

「あぁ、その事ね……」

 

さやかは一旦晶から離れて、仁美に向き直って口を開いた。

 

「晶の言葉を聞いて、やっと思い出せたんだ。あたしはさ。ただもう一度、あいつの演奏が聴きたかっただけなんだ。あのバイオリンをもっともっと、大勢の人に聴いて欲しくて……。だから、契約してすぐの頃に病院で恭介が弾いてた時、それがとっても嬉しくてね。あいつが夢への第一歩を踏み出せた姿を見れただけでも、充分だった」

 

さやかはそう呟きながら、目には再び涙を溜め込んでいた。

 

「まぁ、そりゃあちょっぴり悔しいけどさ。仁美じゃ仕方ないよね。あんたは恭介には勿体無いくらい優しいし、良い奴だしさ。だから……」

「さやかさん!」

 

不意に仁美はさやかを強く抱きしめた。その目からは涙が零れ落ちている。

 

「さやかさん、さぞお辛かったでしょう……! 確かに今回の件は、私が生き急ぎすぎてしまったが故の事態かもしれませんわ……! でも、やはり私は……!」

「分かってるって。恭介の事が、どうしようもないくらい大好きなんでしょ? なら、もう止めないよ。過ぎちゃったもんは仕方ないし、その事実は受け入れるからさ。だから……」

 

さやかは涙を流しながら、仁美にこう告げた。

 

「だから、あたしに代わって、ちゃんと恭介と幸せになってよね。……それからさ。こないだは突っぱねちゃってごめん。嫌いになったかもしれないけど、もし約束してくれるなら、また友達に……」

「もちろんですわ!」

 

仁美は笑みを浮かべ、強く宣言した。

 

「さやかさんは、私の大切な親友ですわ。昔も今も、これからも! 皆さんと同じ、かけがえのない方達ですわ! 痛みも喜びも、一緒に分かち合っていきましょう! これからも、私達は親友ですわ……!」

「……ありがとう、ありがとう! 仁美、ごめんね……! あんたはやっぱ最高の友達だよ……!」

 

さやかも仁美を強く抱き返して、友情の繋がりが残っていた事を確かめた。それからしばらく抱き合った後、仁美はポケットからハンカチを取り出して、優しげな笑みを浮かべてさやかに差し出した。

 

「さやかさん。これで顔をお拭きになって。さやかさんに、泣いてる顔は似合いませんわ」

 

それは以前、さやかが契約してからのデビュー戦で、自分のせいだと言って泣き崩れた仁美に対し、さやかが語った事の意趣返しだった。

 

「……あはは。今度は仁美にそれを言われちゃうなんてね」

 

さやかはようやく笑みを浮かべて、ハンカチを受け取り、涙を拭いた。そして今度はタケル達に向き直った。

 

「ありがとね、みんな。おかげで助かったよ」

「気にすんなって。またヤバくなったら助けてやるさ。俺達がついてるからな」

 

タケルが自信を持ってそう呟くと、他のメンバーも次々と口を開いた。

 

「さやかちゃん。さっきも言ったけど、私も頑張るから、これからも一緒に並んで頑張ろうね」

「仲直り出来て良かったですな、さやか殿」

「何かあったら、すぐに相談しろよ」

「そうね。八谷君の言う通りよ。それが先輩の役割だもの」

「とりあえず、一件落着だな」

「そーだね、誠司おにーちゃん!」

「まったくだ。何か奢ってほしいもんだぜ」

「あんたねぇ……。ま、パンの耳ぐらいならあげても良いよ」

「っておい! せめてラーメン一杯ぐらい奢れよ!」

「何であんたに奢らなきゃなんないのよ! こないだの件も含めて、これでチャラになるべきところをこの優しいさやか様が……!」

「んなろぉ! そこを引き合いにするなよ!」

「はいはい、喧嘩しないの!」

「キョーコ、怒っちゃダメ!」

 

ゆまが困り顔で、マミが苦笑しながらさやかと杏子の口喧嘩を止めようとした。2人の様子を見て、周りにいた一同は笑いの渦に包まれた。

しばらくして、さやかの様子を見続けていた晶は、微笑みながらポツリと呟いた。

 

「うん。やっぱり笑顔のさやかちゃんが一番良くて、好きですよ」

「……⁉︎ んなっ⁉︎」

 

不意に晶の言葉を聞いたさやかが杏子から目を背けて、晶の方に顔を向けた。その顔は誰の目から見ても紅く熟れている。

 

「な、何言ってんのよ⁉︎ あ、あたしは別にあんたが、その……!」

「えっ? 僕、何か変な事言っちゃいました⁉︎」

 

唐突に怒られたと思い込んだ晶が理由も分からずに、同じく顔を紅くして焦り始めた。顔を最高潮に赤らめたさやかの様子を見ていたまどかは、何かを察した。

 

「(……あ、もしかしてさやかちゃん……)」

 

どうやら他の何人かも、さやかや晶の顔を見て、何かを感じ取ったらしく、ニヤニヤする者が多数登場してきた。まどかもその1人である。

 

「って何よ⁉︎ 何でみんなニヤニヤしてんのよ⁉︎ まどかまで⁉︎」

「えぇ〜。そんな事ないよ〜」

「ま、後は自分らで気づくこった」

「頑張れ〜!」

「杏子ちゃんもゆまちゃんも何言ってるんですか⁉︎」

 

さやかと晶が今まで以上に困惑した表情を浮かべている様子を、タケル達はしばらくの間、面白げに堪能しており、再び聞こえてきたその笑い声は、明るく灯っている駅のホーム内に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生きる事を諦めなければ、人は決して絶望に屈しない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてそれは、1人の少年の決意から繋がった、仲間達からの、そばに居続けて共に支え合おうという約束によって、確かに証明された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絶望から救われた少女と、彼女を守ると誓った少年の青春は、まだ始まったばかりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




というわけで、さやかの死亡フラグは無事にへし折られました。本編でのさやかの悲運さは、いつ観てても辛かったです……。だからこそ、「叛逆の物語」でのさやかの成長ぶりにはとても感心してました。本当に一番成長したキャラだなぁ、と今でも脳裏にその時の光景が浮かんできます。

最後の方でさやかに進展が見られそうな感じがしてきましたが、これからも温かく見守ってあげてください。どうにかしてこのシリーズではさやかにも幸せを迎えてほしいと考えている作者でございます。

そして次回からは、新章に突入していきます。「まどマギ」編の方は大分消化出来ましたので、ここからしばらくは、オリジナルな回や展開を入れつつ、「かずマギ」編をベースにして話を進めていきます。

絶望を乗り越えたタケル達。だが、物語はまだ終わりへと向かわない。様々な事態が彼らを容赦なく襲いかかり、彼らは戦い続ける事になる。やがて物語は、かつてないほどに泥沼化したものへと変貌を遂げていく事になる……。

次回から始まる、第4章「偽装の物語」も含め、これからも応援よろしくお願いいたします。
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