魔法少女まどか☆ゴースト 〜命を紡ぐ物語〜   作:スターダストライダー

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お待たせしました。

今回はユウリや雅彦をベースに、過去に遡って話を進めていきます。


72. 仇はとってやるからな

特別目立つような物が置かれていない、とある病室に何かが割れる音が響いた。

水の入っていた花瓶の破片が床に散らばっており、その近くに置かれたベッドの上で、少女は寝転んでいた。その右腕には点滴が付けられている。その顔からは、全てを諦めているような感情が伺える。いや、完全に諦めていると言う方が正しいのかもしれない。

そんな彼女は、扉の近くに立っている2人の男女に背を向けるようにして、横になっていた。1人は、金髪のツインテールと、首に巻かれたマフラー、そして首から下げられている銀色のスプーンのネックレスが特徴的な少女。もう1人は短髪で誠実そうな顔立ち、いかにも賢そうな少年だった。

床下に広がる水たまりに一度目を向けた後、少年は気まずそうに声をかけた。

 

「あ、あの……、あいり、ちゃん……」

「ほっといて」

 

だが、ベッドの少女……あいりは素っ気なく呟いた。

 

「ユウリも、雅彦も、聞いたでしょ。もって後3ヶ月。終わったのよ、私の人生……」

 

それは、医者からあいりに告げられた、余命3ヶ月と言う残酷な真実(絶望)。全てを知ったあいりは憔悴仕切っていた。見舞いに来た2人も、あいりの家族から話を聞き、居ても立っても居られずにこの場にやってきたのだが、どうやら逆効果だったらしい。

少年……雅彦が普段は見せないような悲しげな表情を浮かべる中、彼の隣にいた少女……ユウリは、雅彦やあいりとは対照的に、強い視線をあいりに向けていた。

 

「……終わりじゃない。まだ、終わってなんかない」

「……ねぇ、お願いだから、『残された人生を精一杯生きろ』なんて、言わないでね……」

「あいりちゃん……!」

 

慰めの言葉すら聞きたくないのか、あいりは静かに目を瞑ろうとした。雅彦も、どうすれば良いのか分からず、ただ彼女の名前を呟く事しかできない。

が、ユウリの口からは彼らの予想を上回る返事が返ってきた。

 

「あいり。それはあんたの心持ち次第だ」

「……?」

「ユウリちゃん?」

 

2人がユウリに目線を向けると、ユウリは強い口調で言った。

 

「あんたがこの先も生きたいと思うなら、あたしはどんな手を使ってでも、あんたを助ける。でも、あんたが生きる事を捨てるっていうなら、あたしはもう……」

「……た」

 

ユウリの言葉が届いたのか、あいりは起き上がって2人に顔を向けた。その瞳からは涙がこぼれ落ちている。

 

「助けて、ユウリ。私、死にたくない。もっと生きていたいよ……。ユウリや雅彦と一緒に、美味しいもの、もっとたくさん食べたい……」

「……!」

 

それはあいりの切実な願い。彼女の願いを知った雅彦はもらい泣きしそうだった。その一方で、あいりの本音を聞けて安心したのか、初めて笑みを浮かべて、スプーンのネックレスを外して、あいりに渡した。

 

「……それは」

「夢色のお守り。あたしが戻ってくるまで持ってて」

 

そう告げると、ユウリは部屋を出ようとした。

 

「ユウリ、どこへ?」

「そいつはナイショ」

 

振り返って微笑むと、ユウリはどこかへ行ってしまった。2人はその後ろ姿を呆然と見つめるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その次の日、あいりは奇跡の体験者となった。

彼女の血圧や心拍数などが、常人の数値に戻っているほどに回復していたのだ。それはつまり、彼女が患っていた病が完治した事を意味していたのだ。医者達もこの診断結果に信じられないといった表情を浮かべており、まさに奇跡としか言いようがなかった。

病室に戻り、早速待機していたユウリや雅彦に飛びついた。

 

「ユウリ! 雅彦!」

「良かった……! 本当に良かった……!」

 

雅彦も感極まって涙を流していた。ユウリもあいりの頭を撫でながら心底喜んでいた。

 

「お守り、効いたでしょ?」

「うん! これ、魔法のスプーンだね!」

「凄いなぁ……」

 

あいりと雅彦は、ユウリがお守り代わりにしていたスプーンのネックレスをまじまじと見つめていた。そんな2人を、ユウリは微笑ましく見つめていた。否、彼女だけではない。窓の外の手すりには、猫のようなシルエットが映っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だがこの時、あいりや雅彦は知る由もなかった。あいりの病が治ったその奇跡は、あくまで造られた奇跡であった事に……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから何日かして、あいりがようやく学校に通い始めた頃。

 

「ねぇユウリ、雅彦!」

「何ですか?」

 

あいりが2人に見せてきたのは、週刊誌の1ページだった。そこには特集として、あすなろ市の有名なスイーツ店が掲載されており、あいりはその中の一つを指差していた。

 

「立花氏の『バケツパフェ』……ですか?」

「そう! とっても美味しいんですって」

「どれどれぇ?」

「ほら、ここに……。『マスターはクールだけど、味はとってもファンタジー』だって」

「デカっ! 美味そう! いつ行く、いつ行くの⁉︎」

 

途端に目の色を変えたのは、甘い物が大好物のユウリだった。加えて彼女はコンクールに出場する程の腕前を持つ実力者であり、彼女としては、是非その味を確かめて見習いたいのである。

 

「じゃあ、今度のコンクールでユウリが優勝したら、ご馳走してあげる」

「ラッキー! 約束だよ、あいり」

「僕も良いんですか?」

「もちろん。……あ、そうだ」

 

あいりは思い出したように、首にかけていたスプーンのネックレスを外した。

 

「このお守り、返しておくね。今度はユウリを守ってくれますように」

 

あいりはそう念じて、ユウリに返した。そのスプーンは、まさに3人の仲を固く結ぶ象徴の如く輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからさらに数日が経ち、いよいよ決勝を明日に控えた日の夕方。雅彦はユウリと肩を並べて、川沿いのベンチに腰掛けていた。

 

「いよいよ、明日ですね……」

「う、うん……」

 

元気そうに微笑む雅彦とは対照的に、ユウリはどこか無理をしているように頷いた。雅彦は気になって彼女の顔を覗き込んだ。

 

「ユウリちゃん? どうかしたの?」

「! い、いや。何でもないよ。ちょっと、緊張してるだけ。だってほら、明日の相手は……」

「あぁ、確か、スライス秋山さんでしたっけ?」

 

雅彦は、明日ユウリと対峙する天才料理人の顔を思い浮かべていた。

 

「確かにあの人はとっても有名な人ですけど、きっとユウリちゃんなら大丈夫だよ。気持ちで負けなきゃ良いだけだよ。ユウリちゃんなら強いから、きっと大丈夫」

 

雅彦はユウリを安心させるように彼女の手を握った。ユウリは突然の事に驚きつつも、頬を紅く染めて肩の力を抜いた。

 

「あんたの手はいつも温かいな。いつだって悩んでる時には触れてるのに、今日は一段と、温かい」

「ユウリちゃん……」

 

雅彦も微笑みながら、ユウリと額を合わせた。

幼なじみであり、あいりと出会う以前から行動を共にしていた彼らは、いつしか互いを愛し合う関係にあった。もっとも、互いに口下手なところもあって、未だに気持ちを伝えれていない事に、あいりは陰でいつも呆れていた。

それから額を離したユウリは、首に巻いていたマフラーを解いて雅彦にかけた。

 

「……?」

「これ。雅彦に持ってて欲しいんだ。何かあってなくしちゃったらヤダし」

「えっ、でもこれはユウリちゃんの……」

「いいのいいの。あたしが持ってるより、あんたにあげた方が良いと思うし。ほら、似合ってる」

「そ、それは……」

 

雅彦は恥ずかしくなって視線を下に向けた。その時、雅彦は初めてユウリの左指に緑色の宝石がついた指輪がついているのに気付いた。気になった雅彦は指輪を指差した。

 

「あれ、ユウリちゃん? その指輪」

「ん? これの事?」

「ちょっと黒ずんでるみたいだけど、綺麗だよね。それっていつからつけてたの? どこのブランド品?」

「えっと、これはね……」

 

どういうわけか、ユウリはいつもと違って口を濁している。雅彦は訝しんだ。

 

「ユウリちゃん?」

「……うん。これは、貰ったんだ。こないだ知り合った奴にね。それじゃあ、あたしはもう帰るよ。明日に備えないと」

「う、うん。じゃあね、ユウリちゃん。楽しみにしてるよ! それから、バケツパフェ、絶対に食べようね!」

 

雅彦が手を振ると、ユウリは背を向けながら手を振り返した。が、足取りの重そうなその後ろ姿を見て、雅彦は言いようのない不安を感じながら思わず彼女がくれたマフラーをギュッと握った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして迎えた翌日。夕日が見え始めた頃に、決勝戦は始まった。

が、ここで問題が発生した。いつになっても、舞台にユウリが姿を見せないのである。司会者や対戦相手のスライス秋山、そして観客達も困惑した表情を浮かべていた。

彼女の応援に駆けつけたあいりと雅彦も同様である。

 

「ユウリ……?どこに行ったのかな?」

「変だなぁ……。電話も繋がらないよ」

 

雅彦が携帯を開いて、首を傾げている。

 

「考えてみたら、今日一度も姿を見せてないよね……」

「手分けして探そう!」

 

2人は頷くと、会場を出て、二手に分かれて周辺を探し回った。

そうこうしているうちに、路地裏で捜索していたあいりは妙な気配が包み込んでいる空間が続いている事に気付いた。

 

「な、何なのここ……。まさかユウリ、ここで迷ってるんじゃ……」

 

あいりは意を決して奥へと進んだ。

奥への一本道には壁伝いに四角いものが貼られており、不気味な雰囲気を醸し出している。やがてあいりの目の前に現れたのは、巨大なケーキのようなオブジェだった。ここであいりは一旦立ち止まってユウリの名を呼んだ。

 

「ユウリー! 返事をしてー!」

 

すると、後方からプスプスプスという奇怪な音が聞こえてきた。ユウリかと思ったあいりは振り返り、その全貌を目撃した。

 

「ひっ……⁉︎」

 

そこにいたのはユウリではなく、注射器のような姿をした、巨大な魔女だった。

 

 

 

〜献身の魔女、アルツト・コッヒェン〜

 

〜耐え切れるはずもない手術を成功させて救い続けるまで、彼女は人間を捕らえていくだろう〜

 

 

 

 

 

「な、何なのこの化け物⁉︎ 助けて、ユウリ、雅彦……!」

 

あいりが怯えて腰を抜かしていたその時、謎の人影があいりを守るように立ちはだかった。一瞬ユウリか雅彦かと思ったが、そうではない。それはフードを被ったような姿をした、緑色の仮面をつけた者だった。左腕には見たことのない機械が付けられていた。

 

「だ、誰⁉︎」

 

あいりが質問したが、その人物は答えない。代わりにあいりの耳に聞こえてきたのは、目の前で献身の魔女が異様な格好をした10人もの人影から一斉に攻撃を受けた時の悲鳴だった。血のようなものが吹き出て、あいりは顔を青ざめた。が、献身の魔女も抵抗するように10人を振りほどいた。

 

「……思ってたよりしぶといね」

「このままではマズい……! アラタ!」

「おう!」

 

気だるそうな少女が呟き、軍服のような格好の少女が、あいりの目の前にいる人物に向かって叫んだ。アラタと呼ばれた少年はそれに応えるように、左腕につけられた機械のボタンを押した。

 

『ダイテンガン! ネクロム! オメガウルオウド!』

「くっ……! 許せ! うぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

アラタが飛び上がって蹴りを入れると、献身の魔女は悲鳴と共に爆散した。

あいりが呆然としていると、周りの景色が元の路地裏に戻った。

 

『オヤスミー』

 

その音声を聞いてゆっくり振り返ると、あいりの前に現れた11人の素顔が明らかになった。ほぼ同世代の少年少女だった。

 

「もう大丈夫だ」

 

そう呟いたのはボーイッシュな少女だった。その声を聞いてようやくあいりもハッと我に返った。

 

「い、今の化け物は……⁉︎」

 

あいりが質問しようとするが、メンバーの中で年上らしき少年が片手で制した。

 

「これ以上深入りしない方が身のためだ。死にたくなければな」

「えっ……?」

「撤収しよう」

 

そう呟いたのは、先ほどまで軍服の格好をしていた少女だった。皆が歩き始めた時、あいりは叫んだ。

 

「ま、待ってください……! あの……、助けてくれて、ありがとうございました!」

「……」

 

が、礼を言われたにもかかわらず、アラタ達の表情は重かった。

 

「……気をつけよう、暗い夜道と魔女の(キス)

「じゃあ、な」

 

そして彼らは路地裏を出て、どこかへと去っていった。目の前から脅威が消え去った事で、あいりはホッと一息ついた。夢でも見た気分だったが、彼らのおかげで無事に済んだ。そう思ったあいりは立ち上がって再びユウリの捜索を開始するために、一旦雅彦と合流しようとして歩き出した時、足元に何かが落ちているのが見つかった。

光り輝くそれを見て、あいりは目を見開いた。見間違えるはずがない。銀色に輝くそのスプーンは、間違いなくユウリが身につけていたものだった。

 

「(何故、あの化け物が死んだ場所にこれが⁉︎)」

 

ユウリがペンダントを拾い上げながら疑問に思っていると、彼女に声をかける者がいた。

 

「簡単な事さ」

 

ハッと振り返ると、そこにいたのは白い生き物だった。口こそ動いてなかったが、あいりにはその生き物が喋っているように思えた。何が起きているのか見当がつかないあいりに、白い生き物は一つの真実を告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それはあの化け物が、君の親友。飛鳥 ユウリだったからさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

刹那、路地裏に少女の絶叫が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、白い生き物の提案で場所をすぐそばの公園のベンチに移し替えた。あいりはベンチに座って顔を埋めながら気持ちを整理しようとした。が、親友の死は想像以上に堪えて、動揺が収まらない。

そんな彼女に、白い生き物は何のためらいもなく事の真相を伝えた。

 

「僕が彼女に素質があると見抜いたのは3ヶ月前ぐらいだった。出会った当初は彼女自身、特に叶えたい願いがなかったらしくて、保留状態だった。けど、ひと月前ぐらいだったかな。彼女は僕の前に現れた。そして彼女は大きな願いを叶えるために、僕と契約して、魔法少女になった。きっかけは君が一番良く知ってるだろう?」

「……!」

 

大きな願いと引き換えに、魔法少女になった。それを聞いたあいりは目を見開いた。

 

「そうさ。ユウリの願いはね。『親友である君の病気を治す』事だった。そして彼女は魔法少女として、魔女と戦う傍ら、君同様、難病の子達を治療し続けていた。それが彼女の魔法だったからね」

 

でも……、とここで白い生き物は言葉を一旦詰まらせてから、再び語り始めた。

 

「無理がたかってあんな姿になってしまった」

「……待って」

 

と、ここであいりが口を開いて、質問した。

 

「さっきの人達は、その事を知ってたの?」

「ユウリは彼女達の目の前で魔女化した。彼らも途中で気がついたみたいだけど、後一歩といったところで、間に合わなかったみたいだ」

「知ってて、どうして助けてくれなかったの⁉︎ どうして、ユウリが殺されなきゃならなかったの⁉︎ だってユウリは何も悪く……!」

 

あいりが癇癪を起こして泣き叫び始めたその時、枝が割れる音が聞こえた。あいりと白い生き物がその方向を見ると、そこには……。

 

「ま、雅彦……」

「……今の、どういう事」

 

汗だくになりながら、魂が抜けたような表情を浮かべている雅彦がいた。依然としてユウリを探していた最中、偶然にも立ち寄った公園であいりと白い生き物の会話を耳にしたようだ。彼の体は次第にガクガクと震え始めて、遂にはあいりの肩を強く掴んで大きく揺らして問い詰めた。

 

「間に合わなかったって、何なの……⁉︎ ユウリちゃんが殺されたって、どういう事なの⁉︎ ねぇ、何で⁉︎ 何でユウリちゃんが死んだ事になってるの⁉︎」

「……あ、あぁ! あぁぁぁぁぁぁっ!」

 

あいりはパニックになって雅彦に抱きついた。そして落ち着き始めたあいりは嗚咽交じりに、先ほどあいりの目の前で起きた現象や、白い生き物から教えられた事を途切れ途切れに説明した。

全てを知った雅彦は理性を失っていた。

 

「……う、嘘、だ……! ウゾダゾンナゴド!」

「僕は嘘をつく感性は持ち合わせていない。だからさっきあいりが見たもの事が真実なんだよ」

 

発狂する雅彦に、白い生き物は淡々と告げた。

 

「それ、じゃあ、もうユウリ、は……!」

 

突然告げられた幼なじみの死は、涙を流す雅彦を絶望に染め上げるのに充分だった。そんな中、あいりは後悔交じりに呟いた。

 

「わ、私、ユウリを殺した奴らに、ありがとうって……!」

 

しばらく泣き叫んでいた2人だったが、やがて最初に口を開いたのは雅彦だった。が、その口調からは今までにあいりも聞いた事がないほど、殺気に満ち溢れていた。

 

「殺して、やる……! 殺してやる殺してやる……!僕達から、ユウリちゃんの何もかもを奪った奴らなんて、全部駆逐してやる……! 僕は、絶対に許さない……! 絶対にそいつらは、僕の手で殺したい……!」

「それが君の叶えたいなのかい?」

 

白い生き物が呟いたのを聞いて、2人は振り返った。赤い瞳が怪しく光る中、白い生き物は言った。

 

「僕の姿が見える以上、君達にもユウリや彼らと同じ素質を秘めているのは間違いない。君達が魔女と戦う重い使命を受け止めるというのなら、君達に手を差し伸べてあげよう」

「それって、もしかして……!」

「そうさ。僕は君達の願いを叶えて、魔法少女、そして仮面ライダーにしてあげる。さぁ、どうする? このまま何もしないのも一つの手だよ」

「冗談じゃないわよ!」

 

突然、あいりが顔を上げて、憎悪を漲らせた表情で叫んだ。

 

「私は、あいつらを、許さない!」

 

そしてあいりは告げた。彼女自身が今すべき事を。

 

「私はユウリの命を引き継ぐ! ……だから私を、あたし(・・・)を……! ユウリにして!」

「了承した、杏里 あいり。それじゃあ次は君の番だ、天宮 雅彦」

「俺は……、もう決めている!」

 

雅彦は即決した。彼が愛していた少女に手をかけた者達に、復讐するために。それも、単なる復讐だけに留まらない。彼女を死なせた世界そのものに憎しみをぶつけるかのように、その願い事を告げた。

 

「ユウリを殺した奴らだけを殺すだけじゃダメだ! 全てを支配して、絶望させる力が欲しい! それが、僕の……、俺の願いだ!」

 

その口調からはあいり以上に復讐心に身を委ねているように感じられる。が、白い生き物は無感情のまま、その力を発揮した。あいりと雅彦の胸からは光が溢れ出て、やがてそれは形となって2人の手のひらに収まった。

あいりには金色のソウルジェムが。雅彦には紫色のディスピアゴーストアイコンと、茶色の英雄アイコンが握られた。

 

「これで契約は成立だ。君達の祈りは、エントロピーを凌駕した。さぁ、解き放ってみるといい。その新しい力を」

 

刹那、2人は光り輝き、雅彦の姿は、紫のパーカーが羽織られた仮面ライダー『ディスピア』の姿に。そしてあいりは願い通り、その全てが『飛鳥 ユウリ』に変貌した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして仮面ライダーとなった雅彦。そして魔法少女となったあいり……もといユウリは魔女と戦う日々を送る傍ら、元のユウリを殺した犯人を探し続ける日々が始まった。

だが、変貌したのは日常だけではない。彼ら自身も、その性格を大きく変貌させてしまっていたのだ。

 

「ククク……! アッハッハ! いいよ、最高だよこの力! 雅彦もそう思わない⁉︎」

 

使い魔を引きちぎり、その全身を血まみれにしながらユウリが雅彦の方を振り向いた。

 

「ヒャァァァァァァッハッハッハ! これが楽しくないわけネェダロォ! こいつが、仮面ライダーの力かと思うと、ゾクゾクするねぇ〜!」

 

雅彦に至っては、昔の面影は何処へやら、すっかり口調まで変わってしまい、ユウリ以上に狂っていた。事実、彼の足元には血の沼地が出来ていた。彼の全身もまた、ユウリと同様、使い魔の血で染められている。

 

「どうやら予想以上な当たりを引いたみたいだね」

 

と、そこへ白い生き物が様子を見に現れた。ユウリは鼻で笑いながら、白い生き物に尋ねた。

 

「ねぇ、教えてよ。あいつらの名前をさ」

「彼らはプレイアデス。プレイアデス集団という組織さ」

「プレイアデスゥ? 何だそのお偉いさんみたいなネーミングはよぉ。クッヒッヒッヒ!」

「全くだ。人殺しが聖者気取りとは笑わせる」

「んな偽善ごと、消してやらぁ。俺達の手でな」

「あぁ。1人残らず殺してやるさ」

 

そしてユウリは帽子を被り直し、雅彦と共に夜空を見上げて、同時に呟いた。2人から大切なものを奪っていった全てを怨むかのように。

 

「「待ってろよユウリ。仇はとってやるからな」」

 

 




正直な話、初めてこの話を目にした時、ユウリがかわいそうに思えたのと同時に、改めてキュゥべえ……もといインキュベーターに対する憤りが増しました。

そして次回は、2人の心の中の魔女と、タケル達が対決!

次回もお楽しみに。
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