東方永命伝   作:璃蘭

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遅くなってすいません。


第十話 永久の命、去る

 空一面が、暗闇と点ほどの小さな星たちの輝きによって支配された時間帯。しかし、それでも都市は、街灯などによって、光が灯され、その存在を主張している。

 

 今の時間帯は、大体全人口の七、八割の人が寝静まっている時間帯。そのような時間帯に、永琳は椅子に座り、うとうとと頭で船を漕いでいた。

 

 今の状態の永琳を攻めることのできる者はいないだろう。三日三晩睡眠もろくに取らない状態でひたすら夢叶を探し続けたのだ。このような状態になってもおかしくは無いだろう。むしろ三日間も睡眠もろくにとっていない状態で探し続けれたな、と称賛し、拍手を送られても良いだろう。

 

 そんな状態の永琳を見つめる一つの金色に光る瞳が、暗闇の中に浮かんでいた。

 

 

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「永琳・・・」

 

 背後からその言葉を聴いた瞬間、永琳は、顔を上げ、目を見開き、今まさに感じていた眠気が吹き飛んでいくのを感じた。その声を聞くために探し続けた。その声の主に許しを請うために探し続けた。その、許されざる命を通ってしまったことに対し、声の主の友を薬の材料として使用してしまったことに対して・・・。

 

「夢t「振り向かないほうがいいよ・・・永琳。」っつ!」

 

 出かけていた言葉は夢叶のことばによってさえぎられる。その顔を見ようと振り返ろうとしたその顔も、その言葉によってさえぎられる。

 なぜ、なぜ振り返ってはいけないのか。そのことばかりがぐるぐると頭を回る。

 

「な、なんでなの・・・夢叶・・・」

 

 永琳が聞いたのは、その理由。その言葉に、夢叶は

 

「今の俺の状態を見れば、永琳は悲しむだろう。これからさよならするのに、こんな終わりじゃ、これからの旅の道中に、何か不幸なことが置きそうだからかな」

 

「・・・え?・・・」

 

 永琳は、今の夢叶の発言に、間抜けな答え方をしてしまった。やめてほしい。もう、それ以上は言わないでほしい。永琳の心の声はそう訴える。しかし、それは、声として、音として、空気の振動となっていない。

 

「もう、この町にはいられないから・・・」

 

「なん・・・で・・・」

 

「ありがとう・・・俺を育ててくれて・・・。短い時間だったけど・・・、まぁ、うん、・・・」

 

                さよなら                                                                      

 

 背後からは、徐々に小さくなって行く足音が聞こえる。

 

 音が無くなって、数分。永琳は、ようやく、ゆっくりと背後を振り返った。背後の床には、真っ赤に染まった、子供のように、小さな足跡が、夢叶に起きた出来事を知らせていた・・・。

 

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 一年後・・・

 

「お前は行かねぇのか?」

 

 比較的小さめの山の中。少し乱暴な口調の声を放つその主は、大きな木にもたれかかった状態で、その木の下に座っている。大きな一対の角がその存在を主張していた。その者を一言で表すならば、やはり『鬼』と呼ぶのが正解だろう。その大柄の体格は、鬼にふさわしい。実際に、その者は鬼である。

 

「あぁ、俺は行かないよ」

 

 上から声が聞こえてきた。鬼は、その声が聞こえた、木の上へと顔を向ける。鬼がもたれかかっている大きな木の上。その木の太い枝から、一本のふさふさとした細長い毛玉が垂れ下がっている。その木の枝に座っているのは、まだまだ幼さ前回の顔と体格の、夢叶がいた。

 

 鬼は言う。

 

「なんで行かねぇんだ?このままだったら人間は月に行っちまうぞ」

 

「俺はお前見たいに戦闘狂じゃ、無いからな。それに、別に人間が月に行こうが知ったこっちゃ無いからね。俺の生活には別に支障が出るわけでもないし」

 

 夢叶は、心底詰まらなさそうに言っている。

 

「分かってねぇなぁ。戦うことは人生と言っても過言じゃねぇ。正々堂々と真剣勝負するのは、すっげぇワクワクするし、すっげぇ燃えるし、すっげぇ楽しいものなんだぜ」

 

「よく分からないね。なんで鬼は、みんな勝負勝負って五月蝿いのかね」

 

 そういうお前も鬼だろうがと突っ込むのは、心の中だけにしておいてもらいたい。

 

「それはとある夏のことだった・・・」

 

「あぁ、はいはい。もうお前の武勇伝は聞き飽きたから」

 

「えぇ、いいじゃねぇか。減るもんじゃねぇのに・・・」

 

 語りだそうとしたところで急に遮られたため、鬼は子供のように拗ねる。

 

「おい、剛。・・・本当に、行くんだな?」

 

 剛、と呼ばれた鬼は、夢叶の声が、少し低くなり、真剣みを帯びていることに気ずく。そして、ニヤリと笑い、

 

「あったりめぇだろ?何のためにこの数日戦わなかったと思ってんだ」

 

「数日とは言うが、まだ三日目だがな」

 

「うっせ。二日戦わなかったらイライラして来るんだよ。俺わな!」

 

 その答えを聞いた夢叶は、フッと笑い、

 

「そうか、なら、楽しんでこいよ。お前が我慢していたその二日分も含めてな・・・」

 

---アオォォォォォォォォオオオオオン---

 

 遠くから遠吠えが聞こえてくる。これは、戦争開始の合図だ。

 

「そろそろだな・・・」

 

「おう、ウズウズしてきたぜ」

 

「お前は、もっと前からそわそわしていただろうが・・・。行くのか・・・」

 

 その答えに、鬼はめんどくさそうな顔をする。

 

「なんだよ、また聞くのか?なんども言ってるだろ。俺は行くって」

 

「一様恩人だからな」

 

「一様って何だ、一様って」

 

 夢叶は微笑む。

 

「そうか、じゃあ・・・言って来い!」

 

 夢叶の言葉に、鬼は

 

「おう!行ってくるぜ!」

 

 鬼は、夢叶に背を向け、颯爽と森の中を走っていった。向かう方向は、かつて夢叶が住んでいた都市。これからからそこは、人と妖怪との大戦争の戦場となる。

 

---ゴゴゴゴゴォォォォォォォォォォォォォォォ!---

 

「じゃぁな、永琳・・・」

 

 夢叶は、その都市から打ち上げられたロケットを、空の彼方に消えるまで、ずっと見つめていた。

 

 

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---ザクッ、ザクッ、ザクッ---

 

 辺り一面、瓦礫の山。それだけで今回の戦争の激しさが分かってくる。血溜まりや肉の破片。ちぎれとんだ人や妖怪の首や手足。少し前までは、高々とその存在を主張していた大きなビルや、人の生活の拠点となっていた家々は、今ではすっかり瓦礫の一部となり、夜を明るく照らしていた照明も、今ではただのごみである。

 

 夢叶は、そんな瓦礫の山の前で、足を止める。彼の見つめる先にあるものは、彼が剛と呼んだ鬼の死体だ。

 腕は片方なくなっており、身体には無数の小さな穴がいくつも開いている。顔は半分ほどなくなっており、数時間前まで話し合っていた者とは思えない状態だ。しかし、その半分になった顔は、『行ってくるぜ!』と言った彼の顔に間違い無い。

 

「よう、馬鹿鬼・・・。楽しめたか?」

 

 夢叶は、もう動かぬ死体と成り果てた彼に言う。数十秒そのままの状態が続いた。

 

「じゃぁな」

 

 夢叶は、それだけを言うと、振り返り、

 

---ザクッ、ザクッ、ザクッ---

 

 と、何も言わずに去って行った・・・。

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