「・・・・さて、まずはお名前からお聞かせ願えないでしょうか!?」
左手に手帳、右手にペンを握り締め、ズイッと顔を寄せてくる。その瞳はまるで何か面白いものを見つけた子供のように、キラキラと輝いている。
黒のショートヘアーに、赤い瞳と小さな山状風の帽子を被っている。赤い天狗下駄を履き、フリルのついた黒のスカートと白の半袖シャツを着ている。シャツの襟をリボンで軽く閉めている。美がつくほどの少女である。
現在彼らは、神社の縁側で正座の状態で向かい合って話している。彼女がインタビューをさせてくれとしつこく言ってきたため、現在博麗神社の縁側を借りさせてもらっている。巫女はここを使用することを渋ったが、彼女による説得という名の脅し(内容:「あなたのあ~んなことや、こ~んなことの写真をばら撒きますけどいいんですか?」)により巫女に了承を得ることができた。
「俺の名前か?繋と言う。繋がると書いて繋だ。特に苗字はつけていない。めんどくさかったからな」
繋は軽く顔をかきながら苦笑いをする。
「ほうほう、繋さんと言うのですか。あ、私、名を射命丸 文と言います。種は鴉天狗です。以後お見知りおきを」
「まぁ、予想はできていたが、やはり鴉天狗か」
「ええ、そうです。ついでに言うと、新聞記者をやらせてもらっています。『文々。新聞』という題名の新聞です。もし興味がありましたら、昨日の新聞がありますので呼んでもらってもよろしいですよ」
と、どこからとも無く新聞を取り出し、さりげなく宣伝をしてきた。
「へぇ?・・・確かに興味があるが、その話はまた今度にしよう」
少し考えるそぶりをするが、その口から出た言葉は肯定を意味することは無かった。
「そうですか。ではまたの機会にということにしておきましょう」
特に顔の表情を変えることなく射命丸は言う。いつの間にか新聞はどこかにしまわれていた。
「では、質問をしていきますね?繋さんがこの幻想郷に来た理由をお聞かせ願えないでしょうか?」
「俺たちがここに来た理由か・・・」
「外の世界が住みづらくなってきたから」
にゅっと繋の肩の後ろから、心は顔を出してきた。
「それに、外は人が多くて煩い」
と、不機嫌丸出しの表情で言った。急に登場してきた心に、少し驚きの表情を作った射命丸だったが、すぐに気を取り直し、
「そちらに居られる方は、繋さんと一緒にいた方ではないですか。お名前をうk「別にいいよ」ても?」
と、心のいつもの癖が出てしまったが、屈することなく繋にしたようにズイッと顔を近づける。
「心。苗字は無い」
無表情をまったく変えずに言った。さすがである。
「ほうほう。『名が体を表す』とはこのことですねぇ~」
ピクッと心が小さく反応する。
「ほぅ?さすがは頭脳明細と呼ばれるだけある鴉天狗の一族だ。心の能力を一度で見破るとはな」
繋は薄く笑う。その顔は相手を小馬鹿にしているようにも、観察しているようにも見える。
「いえいえ、そんな頭脳明細だなんて呼ばれるほど頭が良いわけではないですよ。少し観察眼とかに優れているだけです。それに、心さんと同種と思われる方が知り合いでいますから」
「へぇ~。まぁ、そういうことにしておこうか。しかし、今でも考えてるんだろう?『俺の強さや能力』とか」
「そうですね、だって急に目の前に繋さんが現れたんですよ。そのようなことになれば、誰だって知りたくもなりますよ。だってまるで、大きな屋敷に勤めているメイド長さんみたいに、『パッと一瞬で派手に移動したようなことも無く現れた』んですから」
少しの間、彼らは見つめあう。聞こえる音は風の音と葉のこすれる音だけである。暫らくの静寂が周りを包んだ。
「んっ」
少し経ってから、心が繋の後ろで身じろぎをする。その行動の意味を理解した繋は、
「心、やらなくていい」
と、つぶやく。
「んっ」
と、心は彼の言葉に対し、肯定の意味を込めてうなずく。そして、再度繰り返される静寂。
約数十秒後、
---ザクッザクッ---
と、だんだん歩く音が聞こえてきた。その音は徐々に大きくなっていく。こちらに向かって来ているようだ。
「さて、では気を取り直して再開としましょうか」
と、射命丸は話の方向を強引に引き戻す。繋はそのことについて特に何も言わなかったし、感じることは無かった。
「そうだな。続きをしよう。心も飽きてきた頃だろうしな」
と言い、繋は自分の肩に顎を乗せる心に視線を向ける。視線の先にいる心は、目に涙をためてあくびをしている。
「あやや、これは失敬。では、心さんのためにも速く終わらせるとしましょうか」
と、射命丸が言った。そして、射命まるが質問を開始しようとしたとき、
「あぁ、そうそう。あまり盗撮紛いのことをするのはいけないと思うぞ。時々それを不愉快に感じる者がいるかもしれないからな」
と繋は言い、薄く微笑んだ。その言葉に射命丸は目を見開く。暫らく静かな時間が流れた後、
「仕方ありませんよ。それがスクープを追い求める記者ならばとくにですね」
汗を一滴、ツーっと流し、少し震えるような声で言った。
その後質問は開始され、巫女と鬼が一緒にここに来るまで続いた・・・。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
---ザクッザクッ---
繋と心が階段を降りていく。博麗と伊吹と射命丸の三人は、その後姿を見送っていた。階段があるほう(西側)へと太陽が沈んでいくため、夕暮れの日差しが彼女達に降り注ぎ、影を大きく見せている。
「行ったわね」
博麗がそうつぶやく。彼女達と繋達は、軽い自己紹介をしていた。
「そうだね~。しかし、放浪の現代妖怪か・・・、見た感じ感じた感じ、妖力がその辺の雑魚妖怪と同じだったんだが、なんか隠してそうだよなぁ~・・・ヒック」
と、神社の屋根の上に寝そべっている伊吹はそう言って、今日会った繋について思考をめぐらせる。が、酒が回っているためかあまり頭が回らないようだ。
すると、伊吹の横に立っている射命丸が少し不機嫌そうな顔をする。
「『隠していそう』ではなくて、『隠している』んですよ。能力とか自分の力とか、取材しても言ってくれませんでした」
博麗は、射命丸の言葉に「ふぅ~ん」と、あまり興味が無いのか適当に言葉を返した。
すると、うとうとと船を漕いでいた伊吹が、ついに屋根から転がり落ちた。しかし、彼女は鬼である。博麗の横に綺麗に着地した。そのまま地面の上に座る。
「でも、気ぃをつけたほうがいいかもしれないねぇ~」
と、伊吹は言う。彼女の視線は、繋達が降りていった階段にある。酒によって陽気な表情を先ほどまで作っていたが、今は真剣そのものの表情をし、にらむように眺めている。しかし、顔の頬の部分が赤くなっているので、あまりカリスマなどは感じられない。
「そうですね。気をつけるに越したことはないと思いますよ」
と、射命丸も屋根から降り、博麗の隣に立つ。
「私、今でも腕が震えていますから。彼らに取材させてもらってからずっと」
射命丸は自分の手を見つめる。その手は痙攣を起こしているのではないかと思われるほど震えていた。
「そう、文でもそんなことあるんだ」
「そりゃありますよ。自分よりもずっと格上の相手と対峙したときとかは特に。しかし、ここ最近はそのような存在の人とは出会いませんでしたからねぇ」
射命丸は「私にもきちんと恐怖というものがあるんですよ」と震える腕をもう片方の手で押さえながら答える。
そんな射命丸をちらりと見て、博麗は「はぁ~」と溜め息をつく。
「また、めんどくさいのが出てきた・・・」
箒を両手に持ち、繋達が降りていった階段の方向を見る。そして、また「はぁ~」と溜め息をついた。
※10/19日 修正、変更しました