暗く冷たい部屋の中。夢叶は泣きつかれたのか、虚ろな瞳を床に向けて、壁に背を預けて座っていた。不老不死だがまだ辛うじて人としての生活を送ることのできる身体を持っていたが、その身体がもうすでに人としての生活を送ることが不可能な状態になってしまったことに対して、今は悲しみに打ちひしがれている。
この身体が純粋な妖怪となったのであれば、ここを抜け出し、妖怪としてこの捨てられない命とともにこの世界にひっそりと存在することができただろう。しかし、この身体は人と妖怪の身体からできている。
世の中には半妖と言う人と妖怪から生まれた者も存在するという。それは、人からは『忌子』『鬼子』『化物』として忌み嫌われ、その者の人間の親は『裏切り者』『闇に落ちた者』『人の皮を被った化物』などと言われ、妖怪と同様に殺しの対象になる。そして妖怪からも同じような反応をされ、毛嫌いされる。
しかし、そのような半妖でも、同族がいる。半妖は一人だけではないのだ。種類は違えど同じ半妖がいる。
それだけでも、ここに今誕生した夢叶とは立場が違う。夢叶は一人、しかもたった今誕生したようなものである。それに、半妖は人と妖怪の子として生まれて来る。両者の血を半分ずつ受け継ぎ、きちんとした方法で生まれて来るものである。
だが、夢叶の場合は半妖と表しても良いとは思えない。いや、この際はっきりと言っておこう。夢叶は半妖でも無ければ人でもなく、妖怪でもない。簡単に言い表せば『混者』と言えるだろう。妖怪と人の、本当の意味での混ざりもの。血が半分などではない。もともとあった三つの身体を人形のように繋ぎ合わせたもの。腕を、足を、目を妖怪のモノと交換し、つなぎ合わせて『作られた』存在。夢叶は、人にも、妖怪にも、半妖にも畏怖され、忌み嫌われるような存在になっていた。
自分以外の知的生命体は皆敵と言っても過言ではない。誰からも受け入れてもらえない存在。そんな存在に、夢叶はなっていた。
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《力量を操る程度の能力》
夢叶の頭に、ふとそのような言葉が過ぎった。この言葉を聴いた夢叶はハッと目を見開き、顔を上げる。夢叶は、この言葉を知っている。いや、夢叶が知っているのではなく、夢叶を作る材料となった妖怪がもっていたからだが。
《繋を操る程度の能力》
この言葉も、夢叶の頭を過ぎる。これも材料となった妖怪のものだ。
『力量』は鬼が、『繋』は狐が持っていた能力だ。なぜ鬼が材料となっているのかが分かったのかは分からないが、なんとなくそう思ったのだ。
(じゃぁ、この額にある違和感は鬼のものだったのか・・・。)
何気なく額を触ろうとしてみる。すると、手のひらには、何か硬く、角のようなものを触っているような感覚が広がっていった。
(ははは、狐に鬼・・・。ほんとに化け物だ・・・)
この二つの能力の使い方はなんとなくだが分かる。ためしに、右手の握『力』、右腕の腕『力』を高くして、左腕の耐久『力』を下げる。そして、左腕の神経の『繋』がりを断ち切る。左腕の感覚は無くなり、腕を動かすことはできなくなった。そして、右手で左腕を掴み、肩の付近から
引き千切った。
左腕の神経との繋がりを切っていたため、痛みは無く、握力と腕力を高め、左腕の耐久力を低めていたため左腕は薄い和紙を破るよりも力を入れることなく千切れた。千切った腕や千切れた後からは肉を多い隠すほどの量の血の量が噴水のように出ていた。
夢叶は何も言わずに千切れた左腕を千切れ痕にくっつけるようにして押し付けた。そして、回復力を高め始める。腕は数十秒で元に戻り、体内ではさっきの行為によって出た血液がまた体内で精製されていく。
そのような光景を何も思わず、ただ淡々と夢叶は見ていた。少し経ち、腕と血液量が元に戻る。夢叶は、フッと笑う。
「俺は、もう、『人』には戻れないんだろうな・・・」
身体は、もうすでに妖怪と完全に混ざり合い、もう元に戻すことはできそうに無かった。そして、このような光景を見ても何も感じなくなり、人としての普通の心を持たなくなってしまった。今、目の前で人間が死のうと、なにも感じることが無いだろう。
夢叶には、もう、人としての普通の心を取り戻せる自信が無かった・・・。