ある夏の夜。蒸し暑さとは裏腹に、緊張で背筋が凍りつくのが犯罪現場だ。
何かから逃げるかのような足取りで、人混みを避けながら駆け抜けていくのは一人の女性監視官。
息を切らせながら、巡査ドローンの警備を抜け、一人の男性監視官に駆け寄り、女性監視官は俯きながら重い口を開く。
「共に捜査をしていた執行官が二名やられました...」
女性監視官の言葉を聞き、男性監視官は険しい表情を見せると手を握りしめ、地面を見ながら言う。
「二係、三係ともに全滅。残すは俺達一係のみか...。くっ...この捜査は中止だ。これ以上犠牲を増やさないためにも...」
女性監視官は俯いたまま、辛い口調で男性監視官の呟きに答える。
「それはできません...。公安局本部に掛け合ってみたところ、それは局長が許してくれませんでした。彼を野放しにしていたら犠牲者が増えてしまう可能性があるから、と...」
男性監視官は歯を食いしばり、より険しい表情を見せると肩を震わせながら一人呟く。
「奴の犯罪係数さえ分かれば執行できるというのに...!」
男性監視官の言葉に女性監視官は今、一番思い出したくないことを思い出し、半泣きになりながら。
「私は...彼の犯罪係数を測定しました...」
そう呟く。
男性監視官は驚きの顔を見せると女性監視官に何か言おうとするが、それを遮るように女性監視官は続ける。
「彼の犯罪係数は......15です..........」
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「あ゛ぁぁぁぁぁー!!」
男の大声とともに、街中が騒がしくなる。
秋の始まり、そしてあの事件から三年後。大通り、茶毛の男は執拗に倒れこんだ金髪の女性を蹴り続ける。
女性は顔、腹、足から血を流すも、うめき続けながら助けを求めている。
周りの人々はただ見ているだけで誰も助けようとしない。「公安の奴らはまだか!?」などと騒いではいるが、茶毛の男を止める者は誰もいなかった。
騒ぎを聞きつけ、青毛の男は茶毛の男に近づきながら一人呟く。
「全く。エリアストレスがいきなり上昇したと思えば...」
青毛の男はコートで隠していた腰のホルスターから大型の拳銃を取り出し、まだ存在に気づいていない茶毛の男に銃口を向ける。その銃を見た市民達は、驚く者もいれば逃げる者もいた。
『犯罪係数・265・執行モード・ノンリーサル・パラライザー・落ち着いて標準を定め・対象を制圧して下さい』
銃から鳴る指向性音声による銃の所持者にしか聞こえない命令に、青毛の男は「分かってるよ」と呟くと引き金を引く。
発砲音とともに青白い弾丸が男の背中に命中すると、一瞬の悲鳴とともに身体を震わせ、その場に倒れこむ。
青毛の男は続けて金髪の女性に銃を向ける。
『犯罪係数・アンダー90・執行対象ではありません・トリガーをロックします』
先程まで緑色の光を放っていた銃は、赤色に光ると完全にトリガーをロックした。無言で銃を見つめながら過去の事を少し思い出す。
「...ドミネーターによる執行も、これで何度目なのか...」
青毛の男は『ドミネーター』と呼ばれる銃をホルスターにしまうと、左腕に装着されている腕輪型の携帯情報端末で仲間に連絡する。
「こちらハウンド3。対象を制圧した。被害者の女性は無事だ。潜在犯の回収を頼む」
青毛の男、執行官は一方的に通信を切ると、その場から立ち去った。
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公安局刑事課一係のオフィスにて・・・
「桐ヶ谷さん!なんでいっつも一人でやって一人で終わらせるんですか!?」
青毛の男、桐ヶ谷 凛人(きりがや りんと)は女性監視官、桜木 遥(さくらぎ はるか)の説教を受けている。
「そー!あの時だって二人で捜査してた時に任務が終わったからって勝手に一人で帰っていったし、刑事課は人手不足だから一係の監視官は私しかいないし、ってか何で二係、三係ともに監視官は二人いるのに一係は私しか...」
まさしく飽きたという表情で桐ヶ谷は桜木の話を聞くが、そのほとんどは頭の中を通過するだけ。それを少し離れたデスクで黙認している二人の執行官が笑いをこらえている。
「なあ、浪河。またやってるな〜あの二人。喧嘩するほど仲が良いって言うが...っとこれは喧嘩じゃなくて、一方的なお説教か...」
「やめてよ、道咲。私もう笑いそう...」
男性執行官の道咲 登(みちざき のぼる)と女性執行官の浪河 雷花(なみかわ らいか)は恒例のコントとも言える二人のやりとりを見て面白がっていた。
桜木は口を休めず淡々と説教を続けている時、オフィスの扉が開く。
「一係さん、またやってんの?」
右手を腰に当て、左手に紙の資料を持つ女性は二係の監視官だ。
女優並みのスタイルと透き通る声は公安局の誰もを魅了する。一係の男子以外は...。
「あ、二係の李世さん。ちーっす!」道咲は執行官であるのにも、上司とも言える監視官にタメ口を叩くが、清宮 李世(きよみや りぜ)は気にしていない。
「ミッチー!久しぶり!」と清宮。
盛り上がりムードの中、一人ため息をつくのは桐ヶ谷。
「三年前はもっと真面目だったのにな...公安局」
桐ヶ谷の言葉に身震いをする浪河。
「三年前...」
彼女の口から自然と言葉が出てくる。
それは三年前、公安局に勤めていた者にしか分からない恐怖。聞くだけでは分からない、その恐怖を身体で感じた浪河は思い出したくもなかった。
桐ヶ谷は自分の失言を改める。
「済まない。口が滑ってしまった」
桐ヶ谷も三年前の事件に関わった一人だ。
そう、あの時の男性監視官と女性監視官。
「まあ、そんな気を重くしないでください。で、何の用です?清宮さん」
咄嗟に話を切り替えたのは桜木。さすがにこの雰囲気ではいけないと思い、話を切り替えた桜木の判断は間違いではなかった。
「あ、そうそう。実は...」
ここで声のトーンを少し落とす。
「三年前のあの男がまた現れたらしいの」
「!?」
桐ヶ谷と浪川は絶望した表情を見せると固まってしまった。それも無理はない。悪夢の時を過ごした唯一の生き残りの刑事だからだ。
二人の表情を確認した清宮は、苦の顔をしながら話を続ける。
「ごめんね。いきなり。けど、これ以上に重要な事は今無いの。他の公安局員もざわついてる。また『悪意の代償事件』を起こして欲しく無い。これは私からも、公安局から、もっと言えば厚生省からのお願いよ」
数秒の沈黙の後、桐ヶ谷は怒りを抑えながらも、清宮に言う。
「分かりました。今度こそ奴を処刑してみせます...」
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「や、止めてくれ!金ならいくらでもやる!だから命だけは...!!」
中年の肥えた男性が尻餅をつきながら、大金の入ったカードを先の地面に落とす。しかし、それを踏みつけながら美しくも闇のようにも見える長髪をした男が微笑みながら中年の男に近寄る。
「君は世田谷区ホログラムデザイナーアートの社長、豊久 茂雄(とよひさ しげお)だね?僕は金城 夜斗 (きんじょう よると)。これで僕達、友達だね」
透き通るような声が錆びた鉄骨が覆う室内を漂う。金城はしゃがんで豊久との目線を揃える。微笑む顔は幸せよりも死を連想させる冷たい笑み。
「あ、あんたの望みは何だ!何でもやる!家でも、女でも、会社でも何でもやる!」
豊久は冷や汗をかきながらも、必死に命乞いをする。だが、金城の笑みはそれをかき消す。
「僕が欲しいのはそんな物じゃない。形ある物はいつか消える。君が今言った、家も女も会社も、先の未来では跡形もなく消えているだろう?だが、君がした事は?仕事が遅いを理由に二十四時間三百六十五日、一分たりとも休みを与えず社員を働かせ、過労死させる」
壁でこれ以上下がれない豊久。そこに顔を近づけながら金城は微笑む。
豊久はもう生きてる心地がしない。
「それは仕方ないんだ!うちの会社のアート作品は日本全土で期待されている!それを裏切る事はできない!一分たりとも時間を無駄にはできないんだ!!」
息を切らせながら豊久は自分を弁護する。
金城は立ち上がり、胸元から刃渡十センチはあるナイフを取り出す。その美しい顔立ちはナイフとは似合わない。微笑みを絶やさず、金城は手元でナイフを弄びながら豊久に言う。
「定期的サイコパス診断のパス」
それを聞いた豊久の顔が青ざめた。何せ、自分だけしか知らない事だと思っていたからだ。その顔を見た金城は満足そうに話を続ける。
「君は今何色かな?深淵の闇よりも遥かに暗い色になってるんじゃないかな?
さっき君は何でもくれるって言ったね?僕は君の命が欲しい」
豊久の体が突然激しく震える。それは恐ろしいほどの恐怖で支配されているからだ。だが、豊久は声にならないようなかすれた声で言う。
「そ...そんなの...できるわけ...」
金城はため息をつくと初めて真顔を見せ、豊久に言い放つ。
「従業員への残忍な対応。そして、サイコパス診断から自分だけ逃れようとした罪。君の命がその悪意の代償だ」
振り放ったナイフは豊久の首に入り、そのままの勢いで抜かれる。
切断された大動脈から噴き出てくる大量の血液が周囲を赤く染めた。
金城が少し槙島寄りになってしまいましたが...。まあいいとしましょう!
ちなみにPSYCHO-PASSは一期と二期。それに小説と漫画、映画とほぼ全て拝見させていただきました。ほぼ全てというのは、二期の漫画はまだ読んでいないので...。