一応自分の中での投稿時間は午後7:30〜8:15なので基本この時間帯で投稿したいと思っています。
では、どうぞ!
ある夏の夜。蒸し暑さとは裏腹に、緊張で背筋が凍りつくのが犯罪現場だ。
小雨の中でパトカーの回転警告灯が辺りを照らす。
「こちら一係シェパード1、二係と三係に告ぐ。一係は犯人を追い、西と東に別れる。二係と三係は北と南を頼みたい」
雨など気にせず、パトカーの横で携帯情報端末から二係と三係に連絡をとる一係監視官 桐ヶ谷 凛人。そして桐ヶ谷を中心に周りにはシェパード2一係監視官 浪河 雷花。ハウンド1一係執行官 菅谷 遥希、ハウンド2一係執行官 栗原 楓がドミネーターを手にしている。
桐ヶ谷は二係、三係と連絡を終えると、一係の仲間に告げる。
「よし。俺達は西と東を担当する。俺は西を担当する。菅谷、栗原は浪河を守りながら東を担当してくれ。ここは日本で一位二位を争う巨大廃棄区画だ。迷うなよ」
その言葉に栗原は戸惑いながらも反論する。
「そ、それは危険過ぎます!桐ヶ谷監視官の命が危ないです!」
それに浪河も続く。
「そうね。栗原さんの言う通りよ。貴方が危ないわ」
二人の発言をまるで予想していたように桐ヶ谷は早急に答える。
「菅谷。俺と来るか?」
すると、菅谷はドミネーターを持った手を自分の肩に持っていく。
「桐ヶ谷監視官が男好きなら行ってもいいけど?」
その顔は小馬鹿にしてるような、遊んでいるかのような無邪気な顔だった。
桐ヶ谷は鼻で笑う。
「という事だ。残念ながら俺は同性愛者ではない。執行官達、監視官を頼んだぞ。だが自分の命も考えろ」
浪河と栗原は不安そうだが、菅谷は生き生きとしている。
菅谷はドミネーターを振りながら。
「問題ねーよ監視官!任せろって!じゃ、ご武運を!」
ーーーーーーーーーー
明るい元都会をドミネーター片手に進む三人。10分近く歩いていると菅谷は暇そうにポケットに手を入れながら歩いている。
「ったく〜。こんなに歩いてるのに人一人いねーな」
菅谷は愚痴をこぼすと足元の石を蹴る。
栗原は「仕方ないでしょ。廃棄区画なんだから」と言うが、菅谷は納得がいかない。
しばらくそのまま歩いていると、浪河が叫び出す。
「皆止まって!!」
いきなり叫ばれた二人は浪河の警告で止まったのではなく、驚きで硬直している。浪河は先を歩いていた執行官二人の前を数歩進むとしゃがみこむ。
「これ...トラップよ」
浪河が見つめる先には直径1cmにも満たなそうなワイヤーが両端の壁で繋がっている。浪河はそのワイヤーの行き先を目で追うと、そこにはブザーらしき物と小型爆弾が設置されている。
栗原は浪河にゆっくり近づくと、ワイヤーを見てから小型爆弾の方へ歩く。
小型爆弾をまじまじ見つめると。
「監視官、下がっていてください。私が解除します」
と言って爆弾をいじり始める。
菅谷は「俺は下がらなくて良いのかよ...」と呟くも、栗原は爆弾解体に集中している。
数秒後、栗原は爆弾を解体。繋がれていたワイヤーを外すと、爆弾を持って菅谷に見せる。
「これ、見て」
「どれどれ〜」と菅谷は言うと、栗原から爆弾を取り、色々な角度から見る。
「あ〜、これはC4だ。プラスチック爆薬。一部改造されてるな。威力も見た目と違ってでかい。監視官が止めなかったら今頃俺達は土に還ってたな」
執行官二人は浪河を見つめる。
栗原は「よく気づきましたね」と絶賛。菅谷も「俺も栗原も、借りが一つできたな」と言う。
それも聞いた浪河は照れながらも言う。
「たまたま菅谷さんが持っていたドミネーターのわずかな光がワイヤーに反射しただけ。それよりも、先を急ぎましょう」
一行は既に危険性の無い爆弾を完全に解体すると、廃棄区画の奥へ進んで行く。
ーーーーーーーーーー
10分後、浪河達一行は一つの巨大建物の中にいた。この建物は多くの場所へ接続できる言わば駅のような場所だ。電気があまり生きて無いのか、薄暗い建物を歩いていると、前方から人影が現れる。
「監視官。誰かいますよ?」
菅谷は監視官へ忠告すると、ふざけながらドミネーターを人影へ向ける。ドミネーターは即座に対象の脅威を測定する。
『犯罪係数・350・執行モード・リーサル・エリミネーター...』
「なに...!?」と菅谷は驚くと、周りにいた浪河と栗原のドミネーターも作動する。
『対象の脅威判定を共有します。執行モード・リーサル・エリミネーター...』
浪河と栗原も自分のドミネーターがエリミネーターモードへ変形した事に驚きを隠せなく、とっさに人影に向かってドミネーターを構える。
沈黙の数秒後、暗闇から出てきた人影は、形を成していく。それは、ポケットに右手を入れた男だった。
浪河は「止まりなさい!」と警告するもその警告に反し、そのまま歩み寄る。
「おいおい。止まる気ねーのかよ...」
菅谷はドミネーターを構える手に意識を集中させる。すると男はいきなり奇声を上げながらポケットに隠し持っていたナイフを振りかざしながら走り始める。
菅谷はドミネーターを男へ向け直すと「くっ!執行する!」と叫ぶ。ドミネーターから発砲された青白い弾丸は男の胸へ命中。男の声は奇声から悲鳴に変わり、胸辺りの血液が沸騰すると急激に膨れ上がり、数秒で破裂する。
消し飛んだ胸から生暖かい臓器が垂れ落ちる。
「最近の若者はこうなのか?」
と菅谷は呟く。それに続いて栗原が「あんたも若者でしょ」と言うと菅谷はため息をつく。
執行官二人が背後にいた浪河に桐ヶ谷へ連絡するように言おうとした時。
「待って二人とも!まだ誰かいる...」
菅谷と栗原は即座に振り返る。そこには射殺された男のそばに美しい黒髪、長髪の男が立っている。かかとまである大きい真っ白なコートの下に真っ黒なセーターを着て、黒いジーパンを履いている。その男は真顔で自分の足元にある死体を眺めている。
菅谷は男に向かって話しかける。
「おい。死体に近づくな。色相が悪化するぞ」
男は無表情のまま、ゆっくりと菅谷達を見つめる。
男は自分の足幅くらいのゆっくりとした足取りで一係に近づいて来る。その度に茶色のブーツのかかとが地面に当たり、音を鳴らす。その音が建物内で反響する。
菅谷は男へ警告する。
「おい!止ま...」
「君達は正義をどう思う?」
「は!?」
菅谷の発言の途中で男が割り込む。菅谷他一係は戸惑うが、菅谷は警告を繰り返す。
「止まれって言ってるだろ!」
男はその警告も無視し、ゆっくりした足取りで一係へ近づく。約五メートル辺りまで近づいた時、右のポケットからリボルバー式の拳銃を取り出す。コルト・アナコンダ。装弾数6発、ダブルアクションの大型リボルバーだ。
「な!?」
菅谷他一係は驚く。シビュラシステムにより、様々な犯罪が抑制されている中で拳銃を持っている男が居る事に。そして、男の服は新しい。廃棄区画に住む浮浪者の殆どは服を取り替える事はできない。だが、男の服装を見る限り今買ったと思える程新しい。
一係は近づく男と同じ速度で後ずさる。浪河は男に向かって話しかける。
「貴方、廃棄区画の人じゃないでしょ!どうやってその銃を!?」
男はその問いに答える気はない。一定のスピードで一係に近寄る。
「君達は正義をどう思う?」
美声が建物内を反響する。菅谷と栗原は浪河の前で手を出し、浪河を守っている。
「あいつ...聞く耳持ってないですよ。監視官」
と栗原は浪河に小声で言う。浪河は少し戸惑うも、発砲する気は無いが銃を持っている事から判断する。
「発砲を許可します」
栗原は「了解」と呟くと、ドミネーターを男へ向ける。
『犯罪係数・25・執行対象ではありません。トリガーをロックします』
ドミネーターの発光が緑から赤へ変わる。
「え!?」
栗原は驚く。すると菅谷も続けてドミネーターを構える。が、菅谷のドミネーターも赤色へ変わる。
「何なんだこれ!?」
と菅谷も驚く。その後、浪河もドミネーターを構えるも、状況は変わらない。
一係はただただ後ずさる数が増えていく。
「そんな正義では僕を判断する事はできない」
男は立ち止まり、一係もそれにつられて立ち止まる。男は拳銃を監視官である浪河へ向ける。コルト・アナコンダのハンマーを起こし、引き金に指をかける。
「もう一度問う。君達は正義をどう思う?」
菅谷は身体を前に出して反撃しようとするが、栗原が菅谷の胸元に手を出して止める。
栗原は男に向かって話す。
「私達の正義は潜在犯を取り締まる事。そして、街の平和を守る事よ。私からも聞くわ。貴方の正義は何?」
男はゆっくりと顔を栗原へ移す。銃は浪河に向けたまま栗原に言う。
「見た感じ君は執行官だね。確かに君の言っている事は正しい。まるで、教科書のお説教のようだ。じゃあこちらからも、僕の正義を教えてあげよう」
男は一通り三人の顔を見回すと、表情を変えずに三人に話し始める。
「僕の思う正義は人間が人間らしく考え、人間らしく生きる事だ。人が無謀に、システムに縛られ、システムがその人の最善の道を教えるのでは無く、その人が自分から進んで行き、自分の未来を掴む事が本当の正義だ。君達には見えないのか?拘束された人々が」
数秒の沈黙。浪河はドミネーターを下げると前にいる二人の間から一歩出る。
「貴方の言う事も間違ってない。確かに今の人は皆システムに管理されている。でも、そのシステムのおかげで犯罪も減ったし、人は幸せを手にしているのよ」
浪河は男の拳銃にも恐れずに説得させる。だがそんな説得では男は納得しない。男は一秒ほど目を閉じると、浪河を見直す。
「それは、君の正義か?廃棄区画に住む浮浪者も、何もしてないのに捕まった潜在犯も、そこにいる執行官も、幸せだと思うか?」
その言葉に浪河は黙り込む。すると菅谷は赤いドミネーターを構えたまま。
「俺は幸せだ!こんな良い監視官の元で働けるんだからな!」
すると、栗原も続く。
「私も幸せよ。今、こうして生きて皆と話せるんだから」
男は二人の発言を聞いてため息をつく。コルト・アナコンダの銃身が天井に空いた穴から入る月明かりを浴びて輝いている。
「そうか...それは、残念だ」
男は銃口を浪河から菅谷へ向けると躊躇なく発砲する。とっさに避けようと動いた菅谷の左足に命中する。
「ぐあああぁぁぁ!!!」
菅谷の悲鳴が上がる。菅谷は足の傷を上着で被せて止血を試みる。その後、ベルトを太ももにきつく巻きつける。
「素晴らしい状況判断だ」
男は感嘆の声をもらすと再びハンマーを起こし、引き金に指をかける。
浪河はいきなりの出来事に唖然とするが、すぐに我に帰ると、菅谷へ駆け寄る。
「菅谷さん!しっかりして下さい!私も止血します!!」
駆け寄る浪河に菅谷は心配をかけないようにする。
「俺は大丈夫だ...。くっ...自分の心配をしろよ...監視官」
栗原は男への殺意が大きくなる。
「お前...何をしている!!」
栗原は男に殴りかかろうとするが、男の高速の回し蹴りが栗原の左太ももに命中する。
「くっ...!!」
栗原は菅谷をかばう浪河の横へ飛ばされる。栗原は太ももを強打した痛みで立つ事ができない。
「栗原さん!!」
浪河は床に転がったドミネーターを拾うと、男へ向ける。
『犯罪係数・18・執行対象ではありません。トリガーをロックします』
ドミネーターは再び赤く変色する。
「何で下がってるの...!?」
浪河は男に対する恐怖心が一気に増す。愉快犯か人を痛めつける事で快感を得ているのかは分からないが、その異常な精神は何者でもない恐怖が自分を襲う。
「人を逃さない為に、君はどうする?」
男は再び浪河達に近づいてくる。浪河は涙目になりながらも抵抗する。
「やめて!もう来ないで!!」
男は一係に出会ってから一切表情を変えていない。何者も寄せ付けない無表情。だが、そこから美しさも見える。
「人間は足の親指を切断されると走れなくなるらしい。足を狙う事は獲物を捕らえる為の第一手段だ」
男は一係とあと三メートルの辺りで止まる。
菅谷は目線と声で男を威嚇する。
「監視官に手を出すな...」
すると、男は再び拳銃を菅谷へ向ける。
「君達はもうチェックメイトだ。男と女。馬力があるのは男の方だ。先に処分するのは男の方が効率が良い」
男が菅谷に向けて引き金を引こうとした瞬間、栗原が負傷してない右足で地面を蹴る。発砲と同時に菅谷を突き飛ばす。男が発砲した弾丸は栗原の左脇腹付近を貫通。口から血を吹いてその場に倒れる。
菅谷は悲壮に満ちた顔になり、栗原に近寄る。浪河も体の震えが止まらないくらいの恐怖に覆われて、栗原の状態に絶望する。
「お...おい...栗原...嘘だろ...?おい!栗原!!」
「栗原さぁん!!は...早く止血しないと...!!」
栗原はうつ伏せで出血が激しくなりながらも必死に仲間に伝えようとする。
「もう...止血は遅い...ですよ...」
菅谷も浪河も泣きながら栗原にすがる。
「もう喋るな!出血が酷くなる...」と菅谷は心配するが、栗原は微笑みながら。
「もう...私はダメだよ...。はぁ....はぁ...。みんなに看取られて死ねるなんて...幸せね......」
栗原の目は既に閉じていた。広がった血の池に座っていた菅谷と浪河はまだ温まりのある栗原の温もりを感じながら栗原の最後を見届けた。
「男を庇って女が死ぬのか。従順な愛なのか、仕事上の関係なのか」
男の言葉に菅谷は激しい殺意を覚える。
「てぇめぇぇぇ!!」
男は菅谷の殺気にすら劣らない。
「怒らないでくれよ。僕は君を撃とうとした、でもその女は君を庇って死んだんだ。その女が死んだのは君のせいだろう」
「何なんだよお前...それでも人間かよ!!」
「僕は人間だ。あらゆるシステムにも拘束されていない真の人間だよ。まあ、そもそもこんな銃なんて必要無い。体術を使えば君達なんてすぐに殺せる。でも打撲だと痛いだろう。だから僕は楽に逝かせてるだけだ。...そうだな、君とのお喋りは捗りそうだ。仕方ない、先にもう一人の女の方を殺るとするか」
浪河は体が震えたまま動く事ができない。金縛りにあったように血の池に磔にされている。
菅谷は「止めろ!監視官には手を出すな!」と叫ぶが、男に言葉なんて通用しない。準備を済ますと浪河に銃口を向ける。トリガーに指をかけて発砲しようとした時。
「やめろぉぉぉぉ!!」
とっさに身体が動いた菅谷は浪河を突き飛ばす。発砲音とともに押された浪河は振り返ると胸元から血を流した菅谷が倒れている。
「す...菅谷さん...」
歯が小刻みに揺れ、絶望な顔つきで菅谷に寄る。菅谷は若干唸った感じて呼吸をしている。
「監視官...さっきの借り...返せたな...」
「馬鹿な事言わないで!菅谷さんも死なれたら...私...」
菅谷は最後に顔を引きつらせながらも笑顔を作ると。
「心配するな...あの世で栗原にっ...会ってくるよ...」
浪河はただ涙を流すだけで何もできない。自分の無力さに失望する。菅谷はそんな顔をしている浪河の頬を血まみれになった手でそっと触る。
「そんな顔するな...今までありがとな...桐ヶ谷監視官にも...よろしく伝え......」
菅谷の声が途切れるとともに、まぶたもゆっくりと閉じる。
「菅谷さん.......」
浪河の目つきが一瞬変わる。菅谷の落としたドミネーターを拾うと男に向かって両手で構えようとした時、地面に座っていた浪河の腹に男の蹴りが入る。
その蹴りは腹の中心に入った為、一時呼吸困難になる。
浪河は苦痛の表情を見せるとその場にうずくまる。
「そこに転がっている君達の仲間以外も排除しといたよ。確か、二係と三係だっけ?公安局もこれまでという事だ」
男が浪河にそう呟いた時、浪河の携帯情報端末が非常電波を受け取り、無線が繋がる。
『シェパード2!応答せよ!...おい!浪河!聞こえないのか!?...くそっ!!』
その無線を聞いた男は、
「出なくて良いのかい?」
と言うが、内臓破裂しそうな勢いで蹴られたその痛みから身体が動かせない。
「そっちのお仲間も大変そうじゃないか」
男は左手のコートの袖をめくると、腕時計を確認する。
「そんな友情ごっこを見せつけられたら殺る気失せちゃったよ。僕はもう帰るね。また会おうか」
男は浪河に背を向けて立ち去ろうとする。浪河は必死にさっき拾ったドミネーターを最後の力で男に向ける。
『犯罪係数・15・執行対象ではありません。トリガーをロックします』
そのドミネーターの音声が終わるとともに意識が遠退いた。
それから25分後。意識が戻った浪河はまだ少しだけ痛む腹を抑えながら立ち上がる。横を見れば二人の死体と二人の血の池。
「禾生局長、こちら一係シェパード2 浪河です。これ以上の捜査は危険です。今すぐにでも中止すべきです」
『今回の捜査の緊急中止は認めない。これ以上犠牲者が出たらどうするつもりだ』
「犠牲者が出たらって...。こっちはもう一係の私を残して皆殺しにされているんですよ!!桐ヶ谷さんだって生きてるか分からないのに...」
『君の意見より捜査の方が重要だ。捜査を続けたまえ』
禾生は一方的に通信を切る。携帯情報端末の非常電波はこれ以上使えないという警告が出ている。
「菅谷さん、栗原さん...。ごめんね...」
浪河は自分のドミネーターをホルスターにしまうと、二人のドミネーターを両手に持ってパトカーに向かって走り出した。
ーーーーーーーーーー
事件発生から1時間23分経過。
「はぁ...はぁ...」
脇腹と蹴られた箇所が時々痛む。巨大建物から人が見える場所まで一度も止まっていない。
パトカーと複数のドローンが停まっている事に興味を持った野次馬達の中をかき分け、パトカーへ向かって走って行く。パトカー付近にいる桐ヶ谷を見て浪河は少し安心する。
息を切らせながら、巡査ドローンの警備を抜け、桐ヶ谷に駆け寄り、浪河は俯きながら重い口を開く。
「共に捜査をしていた執行官が二名やられました...」
浪河の言葉を聞き、桐ヶ谷は険しい表情を見せると手を握りしめ、地面を見ながら言う。
「二係、三係ともに全滅。残すは俺達一係のみか...。くっ...この捜査は中止だ。これ以上犠牲を増やさないためにも...」
浪河は俯いたまま、辛い口調で桐ヶ谷の呟きに答える。
「それはできません...。公安局本部に掛け合ってみたところ、それは局長が許してくれませんでした。彼を野放しにしていたら犠牲者が増えてしまう可能性があるから、と...」
桐ヶ谷は歯を食いしばり、より険しい表情を見せると肩を震わせながら一人呟く。
「奴の犯罪係数さえ分かれば執行できるというのに...!」
桐ヶ谷の言葉に浪河は今、一番思い出したくないことを思い出し、半泣きになりながら。
「私は...彼の犯罪係数を測定しました...」
そう呟く。
桐ヶ谷は驚きの顔を見せると浪河に何か言おうとするが、それを遮るように浪河は続ける。
「彼の犯罪係数は......15です..........」
桐ヶ谷は今まで生きてきた中で一番の驚きを感じる。
「15だと...!?どういう事だ...」
浪河は両手に持っていたドミネーターを運搬ドローンには戻さず、護送車の二人が座っていた場所に置くと、桐ヶ谷の下へ戻る。
「これからどうしますか...」
桐ヶ谷は俯いたまま希望無さ気に言う。
「くそっ...。菅谷も栗原も...報われないだろうな...」
浪河の目から静かに涙が溢れる。だが、桐ヶ谷の目は怒りそのものだ。
「いつ奴に会えるか分からないが...。俺は絶対に奴を処刑する...」
ーーーーーーーーーー
廃棄区画の中、前方から老婆が歩いてくる。
「こんな所を一人で歩くのは危ないよ」
男の言葉に老婆は答える。
「それは君も同じだろう」
男は老婆を前に立ち止まると、老婆も同じく立ち止まる。
「おばあさん。家まで送ってあげようか」
男は親切な言葉を使い、老婆に接する。それに老婆は答える。
「では、家まで送ってもらおう。公安局までな」
男は一瞬考えるが、すぐに理解した。それと同時に右手をポケットに入れ、リボルバーを握る。
「君は...」
老婆はゆっくりと口を開く。
「私は厚生省公安局局長の禾生だ」
男は禾生には見えていない拳銃を握ったまま、微笑む。
「それはすいません。おばあさんなどと言ってしまって。僕は金城といいます」
「そんな事はどうでも良い。謝って欲しいのは私の大事な部下達を皆殺しにした事だ」
禾生の言葉に金城はあの時の無表情に戻る。
「彼等は僕の部下を殺した。一人だけじゃない。全部合わせると6人だ。だから僕が全部殺った」
禾生は少し考えた後、金城に問う。
「...君の目的は何だ」
金城はその問いに対して、何の間も開けずに答える。
「人間が人間らしく生きられる世界を望んでいる。システムに拘束されない真の意味で自由を得れる世界だ。僕はそれを達成させる」
禾生は鼻で笑う。
「くだらん発想だ。まるで子供が考える叶わぬ夢だ。...で、なぜ公安の人間だけを狙った」
金城は再び微笑む。
「くだらないとは失礼な。立派な理想の夢だよ。で、なぜ公安の人間だけかって?それはさっきも言った通り、僕の部下を殺した事と付け加えてシビュラシステムを強化、継続させているのは公安の人間だ。人類を縛り、潜在犯と言うだけで隔離、処刑をする。それらの行為全てを交え、刑事達の命がその...」
金城は一瞬にして無表情に変わる。
「悪意の代償だ」
ーーーーーーーーーー
パトカーの前でこれからどうしようかと考えている桐ヶ谷と浪河。
二人の沈黙を桐ヶ谷の携帯情報端末から鳴る着信音が断ち切る。
「誰からですか」
という浪河の問いかけに、桐ヶ谷は携帯情報端末を見る。
「...局長からだ」
浪河はそれを聞き黙り込む。
「はい、桐ヶ谷です。失礼ですが捜査は続けていますが今の状況だと...」
桐ヶ谷の言葉を遮るように禾生は話し始める。
『この捜査は今を持って終了する。君達は直ちに公安局へ帰還せよ』
「長!!」
って思った人いますよね〜。はい、長いです。
これを前書きに書いたらネタバレ的な感じになってしまうので今書きました。
でも、最大字数って15万字なんですよね...。それに比べたらって考えると大した事ないのかな〜...?
皆さん。私も読み返して思いましたよ。
「長!!」