PEST   作:リボーンズ

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本編10話目です。
字数は普段の約2倍くらいかと。
バランスが下手でしたごめんなさい。



矛盾の渦

羽を撃ち抜かれ、噴煙を上げて地面へと墜落したクーデリカの駆るノーヴィアントレーネー。

その様子を目撃していたゼシルとノエルはすぐに戦闘のあった場所まで駆け付けた。

やや離れていたため、到着には少しの時間を要する。

 

ゼシルとノエルが到着した頃には噴煙は収まりつつあり、地面を抉って着地したのであろうノーヴィアントレーネーの姿のみがあった。

メインカメラの作動ランプはまだ光っており機体そのものへのダメージは問題なさそうだが、ノーヴィアントレーネーはピクリとも動かない。

 

「マナロフ少尉!大丈夫!?」

 

外から声をかけようとするゼシル。

しかし、その言葉に返事はない。

コクピットで気を失っているのか、もしかすると怪我をしているかもしれない。

不安が頭を過り、ゼシルはノーヴィアントレーネーを這い上がってコクピットの解放を試みた。

 

「ちょっとゼシル、周り気にして!まだ敵が近くにいるかもしれない。」

 

「あ、うん。ごめん。」

 

ノエルはこの状況でも冷静さを欠くことがなかった。

もっとも、倒れている機体が妹のシエルの機体だったとしたら、彼女とて冷静ではいられないだろう。

 

コクピット周りにあるパネルを展開し強制解放コードを打ち込むと、空気の出入りする音が鳴ってコクピットが開いた。

 

「マナロフ少尉!?」

 

食い入るようにコクピットの中を覗き込むと、そこには気を失っているのであろうクーデリカの姿があった。

僅かに呼吸はしている、命に別状はないだろう。

 

ゼシルはひと安心したところで、クーデリカをコクピットから外へと運び出そうとコクピットの中へと入っていった。

思わず見渡してしまう、ノーヴィアントレーネーのコクピット。

ゼシル達のプレディカドール弐式とは全く異なるものであった。

脳波でコントロールすることが多いため、必要以上に操作系の装置を積んでいないようだ。

スイッチの類いはプレディカドールよりも少ない代わりに、状況を把握するためのモニターが多数、備えられていた。

脳波や心拍数を示すモニター、ホーネットとの接続状況を示すモニター、その他いろいろある。

 

しばらく見ていたため、不審に思ったノエルがコクピットの入り口を覗くように顔を見せた。

 

「ゼシル、なにやってるの?」

 

「ごめん、なんでもないよ。マナロフ少尉運び出すから手伝って。」

 

ゼシルの言葉に肯定も否定も示さなかったが、黙って手伝うことにしたようである。

相容れないノエルとクーデリカ。

その対立に終止符が打たれる日は来るのだろうか?

そんな不安を抱えたまま、なんとかクーデリカを運び出すことに成功。

機体の電源を切り、先程までゼシル達がいた辺りまで彼女を運び込み、地面に横にさせる。

 

一連の作業を終え、ノエルもゼシルも疲れて地面に座り込んだ。

夜明けまでもう少しというところで、疲れも溜まっているはずなのだが眠る気にはなれなかった。

 

「中尉、見張りしてるから少し寝た方がいいよ。」

 

「ありがとう。でも、こいつが近くにいると気が立って寝らんないわよ。」

 

クーデリカに対するノエルの嫌悪は相当なものだった。

無理もない、インド洋での作戦のときも今回の作戦も、クーデリカは独断で行動している。

隊長として身勝手な部下が気に入らないのはわかる。

だが、クーデリカの過去を知ったらノエルは同じことが言えるだろうか?

少なくとも、ゼシルが隊長の立場なら責めることはできないだろう。

 

『貴様は情が移りやすいからな。自分を強く持て、甘さは自分を殺すぞ。』

 

訓練兵の頃、教官に言われた言葉だ。

確かに、情が移りやすいのはわかっている。

それでも、わかっていても、割り切ることができないのだ。

 

そういう事も含めて、自分の弱さを克服するためにP.E.S.Tへ志願したのに、何をやっているんだろう。

 

ゼシルもノエルも沈黙のまま数時間を過ごした。

お互い眠っている訳ではない。

各々の思考に精神を沈め、答えを求めて苦しんでいる。

太陽が地平線から顔を出したのか、東の空が紅く染まっていた。

その空を見上げて、ゼシルは葛藤の中でもがき続けていた。

 

 

 

「ん...。」

 

クーデリカが目を覚ましたのはそれから間もなくのことだった。

視線を巡らせて現在の状況を確認しようとしている。

 

「マナロフ少尉、具合は大丈夫?」

 

「あれ、私どうして...。戦っていて、撃ち落とされて...。」

 

敵に撃たれて墜落したところまでは覚えているらしい。

ゼシルはそれからの事情を簡単に伝えた。

 

「そうでしたか。助けていただきありがとうございました。」

 

「気にしないで。ところで、マナロフ少尉を襲ったAAPはどうなったんだろう?」

 

ノーヴィアントレーネーの高エネルギー圧縮照射砲に似た攻撃を行うAAP。

中には遠距離攻撃を行う個体も存在すると聞いていたが、ゼシル達は一度も遭遇したことがない。

少しでも敵の情報が知りたかったのだが...。

 

「私を攻撃したのはAAPではありません。あのレーザー攻撃は恐らく『樹』によるものかと。」

 

AAPを生み出し、世界樹の中継地点を担う存在である『樹』は遠距離攻撃ができると聞いたことがあった。

溜め込んだエネルギーを高温の熱エネルギーとして照射する攻撃。

『樹』の攻略に航空戦力が使えない理由の1つである。

 

「じゃあ、攻撃された方向を調べれば『樹』の位置が特定できるってことか。」

 

「そういうことです。気配から大体の位置も掴んでます。」

 

ややふらつく足で立ち上がり

すぐに背を向け、ノーヴィアントレーネーが倒れている方向へ歩き始める。

 

「マナロフ少尉、どこ行くの?」

 

ゼシルの問いかけに、体の半身だけを振り返らせて答えた。

あまりにも弱々しく。

 

「片翼でもなんとか飛べます。『樹』を、殲滅しないと。」

 

片方の羽を失い、おそらく機体のエネルギーも危険なこの状況で単機での『樹』攻略を行おうと言うのだ。

ゼシル達に援護を頼むわけでもなく、一人で敵陣に突っ込むつもりだ。

 

ゼシルがクーデリカを止めようと口を開いたその瞬間、先にノエルが言葉を発した。

 

「待ちなさいマナロフ少尉。」

 

止められることがわかっていたのだろうか、クーデリカは何も言わずにノエルを見返した。

二人の間に流れる一瞬の沈黙。

不意にノエルはゼシルを見て指示を飛ばした。

 

「ゼシル、機体どこかに停めてるんでしょ?取りに行って。」

 

「りょ、了解...。」

 

その場の冷えきった空気から逃げるようにゼシルは走り出した。

来るときは数時間かかったが、今度は目的地も道筋もわかっている。

往復でもさほど時間はかからないだろう。

 

あの場からゼシルを追い出し、ノエルは二人で話をするつもりだ。

喧嘩にならないことを祈って、ゼシルはプレディカドールを停めているポイントへ走り始めた。

 

 

 

「インド洋での作戦、そして今回の身勝手な行動。反省の色は全く見えないわね。」

 

先に口を開いたのはノエル。

二度までも身勝手な行動をされたのではたまったものではない。

いい加減、彼女の行動を咎める必要がある。

 

「...。」

 

しかしクーデリカは何も答えない。

反省していないのか、そもそも悪いことだとすら思っていないのか、どちらにせよ無言の返事がノエルの神経を逆撫でした。

 

「黙ってないで何か言ったら?そういう態度、ほんとムカつくから。」

 

やがて意を決したかのように、ノエルの目を見て静かに話し始めた。

 

「私は、私の戦いをします。じゃないと、何も守れない。」

 

以前に問い詰めたときにも言っていた、守ることに対する固執。

しかし、味方を危険な目に遭わせていいということにはならない。

 

「あんたの拘りに付き合って、隊員が怪我したら責任取れるの?」

 

またもクーデリカは沈黙。

少しの間が空き、睨み付けるようにノエルを見つめて言葉を放った。

 

「その臆病さが、罪のない弱者を殺すんですよ...。」

 

その言葉に、ノエルは鈍器で殴られたかのような感覚を味わった。

黙れ、黙れ、黙れ...!

 

次の瞬間にはクーデリカの頬を殴っていた。

静寂の空間に響く、鈍い音。

クーデリカは声を上げる訳でもなく、口元から血を流してただノエルを見返していた。

その目は、蔑みの色を帯びている。

 

「ミラーガ少尉を追いやったのはこのためですか?図星を言われて、弱い自分を見せたくなかったから?私と言い合いになれば、痛い所を突かれるとわかっていたからですか?」

 

近くの樹木の幹に荒く突飛ばし、クーデリカの襟元を掴んだ。

理性が利かなければ、もう数発は殴っていただろう。

 

「言い加減にして!こっちの立場も知らないで...!」

 

間髪入れずに、するすると堰を切ったかのように言葉が出てくる。

ノエル自身、もう止められなかった。

 

「あんたが隊列さえ崩さなければシエルだって怪我をしなくて済んだ!今回だって、あのままヘリを防衛してれば戦力が分断されることもなかったのに!あんたのくだらない正義感に、あたし達を巻き込まないでよ!」

 

次に顔色を変えることになったのはクーデリカであった。

くだらない正義感、その言葉に思わず反応してしまう。

そんなものじゃない、失った仲間への償い、それが生かされた意味だと信じて戦い続けてきた。

ノエルの言葉に存在を否定されたも同然であった。

 

「中尉は、地獄を見たことがないから!」

 

襟元を掴んでいるノエルの腕を払い除け、今度は逆にノエルの襟元を掴んだ。

突然の行動に驚いたノエルはクーデリカの単純な足掛けに引っ掛かり、そのまま転倒する。

普段は大人しい性格なだけに、声を荒げたクーデリカに勢いで負けてしまったのだ。

 

「自分に力があれば助けられたはずの命を、たくさん失ってきたんですよ!力があれば、皆まとめて守れたはずなんです...!」

 

ああ、この少女は。

 

恐らくは仲間か大切な人を過去に失ったのだろう。

そして、その人を守れなかったことに責任を感じ、こうして他の誰かを守ることで罪滅ぼしをしているのだ。

 

大切な人、ノエルにもそう呼べる人はたくさんいる。

友人だってたくさんいるし、妹のシエルもいる、第88独立機動中隊の仲間がいるのだ。

だから、どれだけの理由があったとしても、仲間を危険な目に遭わせてはいけない。

 

「あんたは一人で背負いすぎなのよ。結局、誰かを傷つけることになる。」

 

これ以上の喧嘩を続ける気力も失せてそれだけを言い、そのままの体勢で明るくなりつつある空を眺めた。

 

 

 

一連の話を、ゼシルは盗聴器で聞いていた。

近くの茂みに盗聴器を仕掛け、途切れ途切れながらも二人の言葉に耳を傾ける。

我ながら悪趣味だとは思うが、どうしても二人のやり取りが気になったのだ。

全てを吐き出してはいないだろうが、おそらく本音でぶつかったはずだ。

 

クーデリカは矛盾を抱えている。

弱者を守ろうとすると、仲間を危険な目に遭わせてしまう。

そして仲間を守ろうとすると、力なき弱者が犠牲になっていく。

クーデリカは自分を犠牲にその両方を守ろうとしているのだ。

そして、その決意が空回りして結局仲間を危険な目に遭わせてしまっている。

クーデリカのかつての仲間がそうしたように、仲間を守るために危険の中へ自らが飛び込む、それが彼女の戦いなのだ。

 

もう仲間を失いたくない、だからがむしゃらなまでに強さを求め、全ての危険を一人で背負い込もうとする。

 

仲間を守りたいというその気持ちをゼシルは理解できる。

だがクーデリカの取った方法は、必ずしも正しいとは言えないのだ。

 

人は誰かと協調することでその弱い存在を守ってきた。

一人で背負えるほど人間は強く作られていない。

それがわかっていながらもクーデリカは孤独に戦う、その裏にはクーデリカとノエル達の間に聳え立つ壁がある。

 

その壁は、信頼関係というものだ。

 

MMS乗りとして実力も、戦いへの覚悟も、クーデリカには勝てない。

だから、彼女との信頼関係を結ぶにはゼシル達自身が強くなるしかないのだ。

 

時間はかかるかもしれない、だが彼女を孤独から解放しなければまた悲劇が繰り返される。

 

「苦しいね、クーデリカ。」

 

聞こえもしない相手を想い、ゼシルは静かに呟いた。

ゼシル自身も、どうしたらいいのかはっきりとわからない。

クーデリカも恐らくは、孤独の中で戦い続けるのは苦しいはずだ。

 

ゼシルは自分の正しいと思う道の入り口を見つけたような気がした。

 

 

 

 

 

 

それから数時間が経ち、プレディカドール弐式の回収の際に合流できた捜索隊を連れてノエル達のいるポイントへと戻った。

プロペラの巻き起こす風に髪をなびかせてこちらを見上げるノエルとクーデリカ。

未だ二人の対立は続いているが、以前のようにノエルが極端にクーデリカを敵視するような雰囲気は感じられなかった。

 

「ゼシル!遅いわよ!」

 

プレディカドールのスピーカーを起動させ、外にいるノエル達に声をかける。

 

「ごめん!一旦、カース大佐の所まで戻るから中尉達もヘリに乗って!」

 

小破したノーヴィアントレーネーをコンテナに収容し、残された人員を乗せて捜索隊のヘリは艦が待機している湾岸部へと飛翔した。

 

 

 

 

「となると、『樹』の位置はこの辺りということになりますな。」

 

「少数でもウェナトリアを盾に接近させれば勝機はある。」

 

輸送艦内の小会議室で、帰還したノエル達は作戦会議に呼び出されていた。

捜索隊の話では先日の嵐でまともに動ける機体が少なくなり、当初の作戦に支障が出ているとのことだった。

クーデリカの報告から大体の『樹』の位置を特定し、次の作戦を組み立てている最中である。

 

「既存の隊は皆バラバラになっている。急遽新たに隊を編成するしかあるまい?」

 

カース大佐の提案により、シドニー支部所属のヴィンセント大尉率いる隊にゼシルとノエルが組み込まれることとなった。

第88独立機動中隊のヘリも残るメンバーも未だに見つかっておらず、クーデリカと他数名が捜索隊として再出撃することも決定された。

 

「カース大佐。自分はプレディカドールを失い、現在出撃できる状況ではありません。」

 

「報告は受けている、安心しろノエル・バニミール中尉。」

 

カース大佐がそう言うと、同席していたバーグ中佐がモニターを操作し、1機のMMSを表示させた。

 

「試作機ですがバニミール中尉にはこの機体で出撃してもらいます。」

 

『MMS-001-3 Venatoria』と示された文字。

モニターには細長い4本足を持つ機体が映し出されていた。

『樹』攻略用に開発されたという大型MMS。

 

試作機を与えられるというのは責任が重いということである。

驚きの表情を必死に隠し、あくまで毅然として敬礼をするノエル。

 

「必ず、戦果を上げてご覧に入れます!」

 

「よし。30分後に全ての隊は再出撃だ!次の攻撃でニュージーランドを落とすぞ...!」

 

 

 

クーデリカの報告から割り出した『樹』のある座標へと向かうヴィンセント大尉率いる小隊。

大型輸送ヘリは遥か上空を飛行し、彼らを目的地へと運んでいく。

 

ヘリの下側に設けられているMMSコンテナの中では出撃直前の準備が進められていた。

試作機の運用ということもあり、準備は周到に行われる。

 

「プレディカドールとはシステムが全く違うわね...。」

 

ウェナトリアを一時的に与えられたノエルはそのコクピット内で機体の調整を行っていた。

また、急遽テストパイロットに選ばれたため操作方法すらまともにわからず、短時間で頭に叩き込む必要があったのだ。

 

「こっちも大変だよ、中尉。なんせ足が使えないんだからね。」

 

どこか楽しげに言うゼシル。

足が使えないと言ったのにはウェナトリアの特性が関係していた。

 

ウェナトリアは『樹』から放たれる攻撃に対して高い防御力を誇る機体である。

また、その攻撃の盾となるべく機体が大型化され、それに伴い機動力の低下や小回りが利かなくなったなどのデメリットが生まれる。

小回りが利かなくなったことで、今度は小型や中型のAAPに対しての防御力が下がり、これは致命的な欠点と言えるのだった。

 

そこで開発陣が考案した解決策として、防衛ユニットとしてプレディカドールを結合させようという案が出された。

 

機体の胴体部分の上にプレディカドールの下半身を収容する部分を造り、そこでプレディカドールと合体させようというのだ。

 

その形態は、4本足の下半身と極端に細い上半身を合わせ持つ異形のものであった。

 

当然、移動はウェナトリア側に任される。

ゼシルが足は使えないと言ったのにはそういう理由があったからだ。

 

そして今回、ウェナトリアの防衛ユニットとして搭載されるプレディカドールにはゼシルが乗ることとなっていた。

もっとも、この運用方法ではウェナトリアとプレディカドールのパイロットのコンビネーションが重要となってくる。

第88独立機動中隊の中でも比較的にコンビネーションの良いノエルとゼシルが選ばれたということである。

 

「なーんか、ゼシルに乗っかられてると思うと癪ね。」

 

完全、わがままな女王発言である。

ノエルは常にゼシル達を引っ張るリーダー、そして頼もしい女王なのであった。

そんな性格だから、弱音を吐くことは滅多にないのをゼシルは知っている。

今の憎まれ口も、試作機を与えられたプレッシャーを紛らすためのものであろう。

 

「絶対、成功させようね。」

 

「と、当然よ!言われるまでもないわ。」

 

ゼシルの言葉に強がって答えるノエルを見て、ゼシル自身も気合いを入れ直した。

 

 

 

 

「MMS発進、作業員は直ちに退避せよ。繰り返す――」

 

輸送ヘリの内部の出撃を知らせるアナウンスが響き渡り、集まっていた作業員が一斉に退避する。

どうやら、目標地点に到着したらしい。

 

「バニミール中尉、ミラーガ少尉。お前らのコンビネーション、期待しているぞ。」

 

ヴィンセント大尉から通信が入れられ、次いで出撃の命令が下される。

コンテナの扉が開き、気圧の変化で流れ込んできた冷たい風がコンテナ内を満たした。

 

「ランドール隊、出るぞ!各機続けぇ!」

 

ヴィンセントの駆るプレディカドール壱式のカスタム機が羽ばたき、続いて彼の部下の機体である通常のプレディカドール壱式が飛び出した。

ウェナトリアには長時間の飛行はできない。

そのため、第一段階としてヴィンセント達が目視にて『樹』のある詳細な座標を発見し、そこへウェナトリアを投下するという作戦であった。

 

まもなく、ヴィンセントからの通信が入ってきた。

『樹』のジャミングのためか途切れ途切れに聞こえてくるも

 

「『樹』を、目視にて、確認!周りに、は多数の、AAPもいる!現在、交、戦中!――」

 

ヴィンセントの報告を受け、ついにゼシルとノエルも戦場に降り立つ時がきた。

ウェナトリアは機体の重量が重いため、ヘリのバランスを考慮してプレディカドールのようにコンテナの横から飛び出すわけにはいかない。

コンテナの底面が展開し、そのままホバリングを行いつつ地上へ降下するスタイルである。

 

「ランドール大尉からの連絡を確認、出撃タイミングをそちらに合わせます。」

 

オペレーターからの通信を受け、ノエル達のタイミングで一気に降下する。

普段よりも緊張は大きかった。

 

「ゼシル、準備はいい?」

 

「うん、いつでも大丈夫。」

 

ふぅ、と1つ深呼吸。

スピーカー越しに、ノエルの深呼吸も聞こえてきた。

自分達の戦い方次第で作戦が左右されるプレッシャー。

しかし、やるしかない。

 

「ノエル・バニミール、ゼシル・ミラーガ。ウェナトリア、出るわよ!」

 

ノエルの号令と共にMMSコンテナの底が展開、そのままウェナトリアは一気に降下を開始した。

一瞬ふわりと浮く感覚。

着地に失敗しないよう、推進剤を吹かして落下する速度を調節する。

 

地上では既に煙が上がっており、先に出撃したヴィンセント大尉達が交戦しているのが見てわかった。

直後、やや離れた地点から眩い光が放たれる。

 

「中尉、2時の方向から熱源来るよ!」

 

「わかってるっ!」

 

眩しく光った直後、熱源が急激な速度でウェナトリアへと放たれた。

おそらく、『樹』による放熱攻撃であろう。

ゼシル自身見たのは初めてであったが、体内に溜め込んだエネルギーを熱エネルギーに変換して照射する、レーザー攻撃のようなものだと聞いている。

 

ウェナトリア本体の左右から隠し腕のような物が展開され、その腕を機体の前に構えた。

すると、その腕を中心に七色に輝く薄い膜を形成し始めた。

 

拡散式耐熱リフレクター『アイギス』。

 

ウェナトリアに搭載された『樹』の攻撃に対する鉄壁の防御を誇る装備。

 

直撃したレーザーすら何事も無かったかのように弾いたその防御性能は目を見張るものがあった。

 

「すごいな...。」

 

「油断しないで。まずは雑魚から掃除よ。」

 

近づきつつある地面、そして地上で待ち受けるのは多数のAAP。

ヴィンセント大尉の部下の機体は、既に片腕を失っているようだ。

それを庇うように立ちはだかるヴィンセントのプレディカドール壱式。

彼のプレディカドールは改造されており、4本に及ぶメインアームと腰から展開するサブアームがそれぞれ射撃兵装を構えている。

計6挺のMMSマシンガンから立て続けに火を放ち、迫り来るAAPを確実に葬っていった。

 

ウェナトリアが地面に着地すると、それに気づいたAAPが一気にその矛先をウェナトリアへと向ける。

鳥型、四足歩行型、さらには戦闘車両と同化したタイプなど様々である。

 

「失せろ、雑魚!」

 

ノエルの声と共に、ウェナトリア本体の前面に搭載されている600㎜エネルギー砲が放たれる。

大径口のエネルギー砲は直撃した戦闘車両を一瞬のうちに蒸発させた。

 

「ちょろちょろしつこいな...!」

 

一方でゼシルは頭上から襲いかかる鳥型のAAPと対峙していた。

数が多く狙いを定めて撃つようでは防衛が間に合わない。

ましてや小回りの利かない今の状況では正確な射撃よりも放たれる弾数が重要になってくる。

 

今回、ゼシル機に装備されている武装は普段のガン・シックルとはやや異なっている。

刃を折り畳んだ状態のガン・モードの銃身に、より多くの弾が装填できるように長めの銃身パーツを取り付けることで連射のできる銃へと姿を変えていた。

それに伴い近接戦闘用のシックル・モードへの切り替えはできなくなっているが、元より今回は近接戦闘は想定していない。

 

コクピット内に響くAAPの接近を知らせる警告アラート。

ウェナトリア本体も動くため、正確な接近方向がわからない。

しかしゼシルは直感でその方向を感じとる。

 

「左、右か?いや、両側かっ!」

 

左側のモニターに視線を移し、その眼中に迫り来るAAPの姿を捉えた。

反対側のAAPには目もくれず自身の直感を頼りに狙いをつける。

左右両方のロングガン・シックルから同時に弾が吐き出され、今にも噛みつこうとしていた鳥型AAPの頭を吹き飛ばした。

緑色の体液がプレディカドールに降り注ぐのも気にせず、すぐに他のAAPへと注意を向けた。

 

「キリがないわ...。」

 

ノエルの舌打ちと共に愚痴が溢れる。

確かに、このまま戦闘を続けていると『樹』を撃破する前にウェナトリア本体のエネルギーが尽きてしまう。

なんとかして『樹』へ近づく必要があるのだが...。

 

そのとき、ヴィンセントからの連絡が来た。

 

「雑魚はなんとか俺らで引き受けよう。二人は早く『樹』の殲滅を!」

 

ヴィンセントの申し出に一瞬の躊躇いが生まれたが、自分達がやらなければ他に『樹』の殲滅を行える者はいないのだ。

迷っている暇はない、早く『樹』を撃破して戦線から離脱しなければ結局は無意味なのだから。

 

窮地に追い込まれつつあるヴィンセント達を置き去り、ウェナトリアは『樹』への侵攻を開始した。

 

 

 

一方、『樹』から遠く離れてしまった第88独立機動中隊の輸送ヘリは大きな川の中に横たわっていた。

その周りでは2機のプレディカドール弐式、ボマー機とクイーガー機がAAPに対して迎撃を行っている。

 

「くそ、弾薬が尽きそうだ!」

 

ボマーのプレディカドールに装備されている大型機関砲から放たれる弾丸の数が少しずつ減っていき、やがて弾を吐き出すことはなくなった。

予備の弾薬も使いきり、ヘリの弾薬庫からの補給も受けられない。

 

「ちっ、こっちも弾なくなっちまった。」

 

クイーガー機もガン・シックルの弾丸が尽き、いよいよ迎撃が間に合わなくなってくる。

彼らだけならば今すぐにでも離脱することができるのだが、後ろには半壊した輸送ヘリがある。

内部には整備兵やヘリのパイロット達が身を潜めているのだ、その人達を置いて逃げるわけにはいかなかった。

 

こんな逆境の中、クイーガーは一人で笑みを浮かべる。

心の底ではこの状況がまずいとわかってはいるものの、それに反して溢れる笑いが止まらない。

 

「ヒャハハハハ!やっぱ戦いは白兵じゃねぇとなぁ!」

 

シックル・モードへと切り替え、戦車と同化したタイプのAAPに肉薄する。

すれ違うその瞬間に、下から振り上げたガン・シックルの刃がその戦車の砲塔を切り飛ばした。

 

「っと、危ねぇ。」

 

クイーガー機の背後から、大型獣型AAPが樹木に匹敵するほどの太い腕でクイーガーに襲いかかる。

いったいどのような操縦センスをしているのだろうか、クイーガーはプレディカドールを空中で一回転させ、その攻撃を回避した。

MMSとは思えない身こなしで大型獣AAPの背中に取りつく。

そして、ガン・シックルを首であろう部分にあてがい、力の限り引き裂いた。

吹き出る体液と奇声を浴びるその風貌は、まるで狂戦士。

 

「初陣でこの動きができるのか...。」

 

ボマーは思わずクイーガーの操縦センスに目を見張った。

近接戦闘であの身こなしができれば恐いものなしであろう。

 

そんなことを考えていると突然鳴り響く警告アラートでボマーは我に返った。

前方から突っ込んでくる、戦闘車両と同化したAAP。

プレディカドールの全身でその体当たりを食い止め、背後の輸送ヘリを守った。

 

「おいおい、やべぇよ...!」

 

ボマー機の弾倉は空であり、射撃で敵を引き下がらせることはできない。

右腕の大型機関砲をパージさせ、中から現れた護身用のMMSナイフで応戦する。

同化された部分のAAP本体にナイフを突き立て、なんとか撃退を試みるも簡単にはいかない。

続いて左側からAAPの接近を知らせるアラートが鳴り、左腕からもナイフを展開させて迎撃体勢を取った。

 

しかし護身用程度の武装で満足に迎撃できるはずはなく、まもなくプレディカドールの左腕に取りつかれて同化が始まってしまった。

脱出装置は今ならまだ間に合う。

だが、ここでボマーが逃げ出しては背後の輸送ヘリを守れない。

いっそのこと自爆でもして敵を丸ごと殲滅しようか、そんなことを考えたときだった。

 

上空から放たれる数本の光の筋。

その光の筋はボマー機が押さえている戦闘車両同化タイプのAAPと、左腕に取りついているAAPを焼き払った。

機体の左腕も同時に失ったが、一先ず助かったと言えるだろう。

 

「マナロフ少尉かっ!?」

 

そこには光の筋を放ったホーネットを機体の周りに纏い、静かに舞い降りてくるノーヴィアントレーネーの姿があった。

 

 

 

ウェナトリアの展開した両腕で木々を薙ぎ倒し『樹』への接近を試みるゼシルとノエル。

ある程度接近しなければ反撃の余地はなく、また、放熱攻撃のタイミングも非常に重要となってくる。

『樹』の表面は非常に堅い木化層で覆われており、これは通常の兵器やエネルギー砲を使っても容易に破壊することはできない。

『樹』の弱点、それは放熱攻撃の際に砲口が開く、その内部の組織である。

ウェナトリアの『アイギス』で放熱攻撃を耐えきった後、600㎜エネルギー砲で内部の組織を破壊するという作戦であった。

放熱攻撃は連続で行えないこと、そして砲口が閉じるまでの時間は極めて短いことがわかっている。

故に、放熱攻撃を受ける地点は600㎜エネルギー砲の射程内に限定されるのだ。

 

木々を盾にこちらの射程内の地点まで接近することに成功したゼシル達は、ついにウェナトリアを『樹』の射線上に晒した。

勝負の時間は短く、僅かな狂いも起こってはならない。

 

やがてウェナトリアの姿を捉えた『樹』は、溜め込んだエネルギーをここぞとばかりに一気に放出した。

熱エネルギーを収束させて放つ強力なレーザー攻撃。

 

「くっ!」

 

ウェナトリアがすかさずに『アイギス』を展開、その攻撃を完全に受け止めた。

『樹』からの距離が近い分、今回の攻撃は凄まじいものである。

機体周辺の温度が急激に上がっているのが感じられた。

 

やがて放熱攻撃が止み、今度はウェナトリアの射線上に『樹』の内部の組織が捉えられた。

遮るものはなく、この距離なら確実に直撃させられる。

 

「これで、終わりっ!」

 

ノエルの声と共に今にも600㎜エネルギー砲が放たれようとしたそのとき、不測の事態が起こった。

 

「ダメだ、ノエルっ!」

 

機体の真下から接近する敵を捕捉したときには既に遅かった。

600㎜エネルギー砲が火を噴くと同時に地面の下から『樹』のものと思われる強靭な根が襲いかかってきたのだ。

 

「そんな!?『樹』自体が動くなんて聞いてないっ!」

 

『樹』の攻略例が少ないこともあったが、十分に予測しておくべきだった。

『樹』そのものの防衛手段が放熱攻撃のみだと思い込んでいたため、根による攻撃手段も持ち合わせているとは考えつかなかった。

 

幸いなことに、根はウェナトリアのコクピットを直撃することはなかった。

しかし左後ろ足を破壊し、そのままウェナトリアはバランスを崩す。

放たれた600㎜エネルギー砲の射線にも狂いが生じ、『樹』の弱点たる砲口から大きく着弾地点がずれてしまった。

咄嗟に機体を動かし、なんとか射線を戻そうとしたものの砲口内部への直撃は果たせず、その周辺を抉り取ったのみに終わった。

このままでは砲口が完全に閉じ、次の放熱攻撃がいつなのかもわからない。

 

作戦は失敗に終わってしまうのか?

 

いや、まだ終わっちゃいない。

ゼシルはやけに醒めた頭の中で1つの作戦を思い付く。

 

ウェナトリア本体からプレディカドールを分離させ、一気に『樹』の砲口へと突進。

下からの根による攻撃を辛うじて回避、勢いを緩めることなく砲口を目指した。

 

「ゼシル、何を...?」

 

ロングガン・シックルの追加銃身をパージし、通常のガン・シックルへと戻して近接戦闘用のシックル・モードに切り替えた。

砲口が閉じるかどうかのその瞬間にガン・シックルの刃を内部に食い込ませ、力いっぱいに引き裂く。

再び開き始めた砲口の、さらに奥へと刃を食い込ませ弱点となる内部を露出させていった。

 

「中尉、今だっ!」

 

「まずあんた逃げなさいよ!」

 

『樹』に取りついたプレディカドールは離れる様子を見せない。

このままエネルギー砲を撃ち込めば爆発に巻き込まれてしまうのは明らかであった。

 

「時間がないから、早く!」

 

どうしても、撃つのを躊躇ってしまう。

作戦が失敗するかもしれない、だが、そのために仲間を危険に遭わせていいはずがない。

 

「撃て、ノエルっ!」

 

ゼシルが無理矢理抉じ開けた砲口内部へ、600㎜エネルギー砲を撃ち込む。

迸るエネルギーが砲口へと吸い込まれ、やがて爆発を起こした。

ゼシル機もその爆発に巻き込まれたものの、『樹』はその活動を停止した。

 

コクピットの中、ノエルは震える体を自らの腕で抱き締める。

目から溢れ落ちる涙の粒。

そして、悲痛な叫びがそのコクピットの中を満たしていった。




第10話でした。
キリのいいところで切ると話が進まず、話を進めようと書いたらなかなか切る所が見つからず結局2倍の文字数になりました。
読むの大変です、ごめんなさい。
以後気をつけます。
では、また次回にm(__)m

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