PEST   作:リボーンズ

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諸事情により、いつもは日曜日更新のところ土曜日に更新させていただきます。
本編としては11話です。
前回が長すぎたのもありますが、今回はやや短めです。



予見眼

顔が焼けるように痛い。

視界もぼんやりとしていて、顔の左側にはコクピット内の機器の破片が食い込んで左目は完全に見えなくなっている。

機内に煙が立ち込め、警告アラートがけたたましく鳴り響く。

ノエルがウェナトリアの600㎜エネルギー砲を放った後、ゼシルはプレディカドールの脱出装置を起動させた。

『樹』の根が機体に絡み付き脱出装置のシステムエラーを起こしたがなんとか脱出ポッドの射出に成功、しかしタイミングが遅れてしまい爆発に巻き込まれた。

脱出ポッドは爆発に煽られバランスを崩し、すぐに墜落。

爆発の衝撃と落下の衝撃でコクピット内が破損し、その破片がゼシルに襲いかかったのだ。

 

意識レベルが低下してきたのがわかる。

痛みも、あまり感じなくなってきた。

死ぬ直前は、こういうものなのだろうか?

何も成長できず志半ばで死んでしまうのは、酷く悲しいことに思えた。

 

ふと、意識の中に一人の少女が浮かび上がる。

ゼシル達のリーダー格、ノエル。

自分が死んでしまえば、彼女は悲しむだろう。

ノエルが仲間を大切にするという性格は、よく知っていたはずなのに。

あの時のゼシルは、撃つ側の気持ちも考えずただ敵の殲滅のために行動した。

撃たせたのは、ゼシル自身。

ここで死ねばノエルをさらに悲しませてしまう。

 

「まだ...死ねない...。」

 

危険を省みない行動は、ノエルが何よりも嫌うこと。

だから、早くノエルに謝らなくては。

 

コクピットを開こうと手を伸ばした。

自分で開けようとしたが、先に外部から何者かによってコクピットが開かれた。

差し込む眩い太陽の光に、思わず右目を細める。

 

「ゼシル!」

 

コクピットを開けたのはノエルであった。

逆光でよく見えないが、必死にここまで来てくれたのがわかった。

 

「怪我、酷いじゃない...!」

 

血にまみれたゼシルの顔を見て、言葉を失っている。

痛みの感覚が鈍っていて実際どれ程の怪我なのか自分でもよくわからない。

ノエルはゼシルを運び出そうと中に乗り込むなり、涙を流して彼に寄り添う。

ごめんなさい、と何度も何度も謝罪をするノエル。

 

「ノエルは...悪くない、よ...。俺の方こそ、ごめんね...?」

 

空いている右手でそっと抱き寄せる。

人の温もりを感じ、生きていることを実感した。

 

 

 

「『樹』の殲滅を確認、こちらの被害状況を確認中。」

 

ヴィンセントから入れられた『樹』殲滅の完了の連絡はすぐにカース大佐の知るところとなった。

艦内では状況の確認や、未だ帰還していない者達の捜索に慌ただしくなる。

 

「ランドール大尉の隊はどうなっている?」

 

「ウェナトリア小破、プレディカドール壱式も小破。ゼシル・ミラーガ機は脱出ポッドを射出させた模様です。」

 

そうか、とだけ答えたカース大佐は席を立ち窓の方へと視線を向けた。

本来の作戦ではより多くのMMSを投入するはずだったのだが、優秀なパイロット達のお陰で少数で作戦を遂行することができた。

『樹』との戦闘での損失がプレディカドール弐式1機だけ、上出来な結果と言えるだろう。

 

「遭難中の隊との連絡は全て繋がりました。負傷者多数、死亡0とのことです。」

 

予定外の暴風雨との遭遇から始まった今回の作戦。

総被害は輸送ヘリ、プレディカドール弐式数機、壱式数機、そして回収不能のウェナトリアということになる。

 

「お手柄ですな、カース大佐。」

 

「いや、バーグ中佐とシドニー支部の戦力の力も大きい。感謝してもしきれないな。」

 

やがて、捜索に出ていたクーデリカや他の隊員も帰還、もちろん遭難していた隊を無事に連れて帰ってきた。

そしてヴィンセントの隊も既に安全圏まで撤退を完了させており、カース大佐は最後の仕上げに取りかかる。

 

「航空機部隊発進。緑の化け物と共に樹海を焼き払え。」

 

間もなく輸送艦から数十機にも及ぶ戦闘機が発進、大型のAAPや同化された兵器を含めて緑の蔓延る地表を一瞬のうちに焦土へと化した。

ニュージーランド北部の生体反応が著しく減少し、AAPの巣窟となっていたニュージーランドはようやく奪還されたのだった。

南米にある第一世界樹攻略の重要な足場となるニュージーランド。

人類は第一世界樹殲滅という大きな目的に一歩、大きな一歩を踏み出すことができたのだった。

 

 

 

第88独立機動中隊はニュージーランドでの作戦後、すぐにインド洋P.E.S.T総司令本部へと帰還した。

本来ならば機動中隊としてシドニー支部から直接戦力不足の戦地へと向かうのだったが、機体の補給及び怪我人の治療のためにということであった。

 

幸いゼシルに命の危険はなく、傷も現代の医療技術を用いれば数週間で元通りになるという。

しかし、そうだとわかっていてもノエルの表情は暗かった。

いつもとはまるで人が違う。

 

「あたしのせいだ...。」

 

医療施設の待ち合い室で、ノエルは呟いた。

いつもと違うノエルの様子に心配を隠せないボマーは、静かに声をかける。

 

「隊長のせいじゃない。あいつは、あいつなりの最善策を実行しただけなんだよ。」

 

何よりも仲間を大切にするノエルの信念。

その信念をひたすらに守り抜こうと努力してきたノエルにとって、ゼシルの大怪我はあまりにもショックが大きすぎた。

 

「あたしが強かったら、もっと強かったらこんなことにはならなかったのに。」

 

今なら少しだけ、クーデリカの気持ちがわかる気がした。

誰かを守るために、自分が強くなって皆の盾となる。

だけどそれは自己満足に過ぎないこともわかっている。

いくら強くても周りには心配をかけるし、一人で突っ込んでも仲間はきっと援護に駆けつけるだろう。

結果としてそれは仲間を危険に晒すことと同じである。

 

血にまみれたゼシルを思い出す度、恐怖に駆られてしまう。

いつか大切な仲間を失ってしまうのではないか。

クーデリカのように、孤独な強者になって周りを守るのが正しいのではないか。

 

「もう、わかんないよ...!」

 

ガラス越しの、痛ましい姿のゼシルを見つめてノエルは涙を溢した。

何もかもが、悔しい。

仲間を傷つけ、信念すら揺らぎかけている、そんな自分に腹が立った。

 

ぽん、とボマーがノエルの頭に手を添えた。

ボマーは何も言わない。

ただ、彼女の言葉を聞いて無言で慰めるだけ。

今のノエルには何よりもありがたいことだと思えた。

白い無機的な空間に、少女の悔恨の慟哭が響き渡った。

 

 

 

「17番とのリンクに乱れを確認、このままでは...。スタインズ主任!」

 

P.E.S.T本部にある技術開発局所有の地下施設で、1つの実験が行われていた。

暗い噂の絶えない技術開発局。

当然そこには上層部にすら知られていない極秘の実験があったのだ。

そして今まさに、極秘の実験が行われているのだった。

 

次々とモニターに現れるエラーの文字。

実験は、失敗に傾きつつある。

 

「うーん、困りましたねぇ。」

 

困ったと言いながら、技術開発局主任エドガー・スタインズの口許には歪んだ笑みが浮かんでいた。

他の研究員が慌ただしく動き回る中、エドガーだけは至って平然と状況を見守る。

 

「主任、せめて困っている顔をしながら言ってください。」

 

そう話しかけたのはコミュニケーターの被験体にしてエドガーの助手である少女、ステラ・サリンジャー。

どこか嬉しそうにしているエドガーに常々不安を抱いていた。

 

「大変困っていますよ、このままでは『アスポデロス』が逃げ出してしまいますからね。」

 

歪んだ笑みを浮かべる口からは静かな笑い声が漏れた。

ステラの不安通り、この状況すら楽しんでいるように見受けられる。

ステラは強化ガラスの向こうに捕らわれている1体の大型AAPを見つめた。

この大型AAPは、実験用コードネームとして『アスポデロス』が与えられている。

そしてこのアスポデロスは、コミュニケーターの発する脳波でAAPをコントロールすることができるかどうかの実験の被験体として捕らえられていた。

 

「17番、アスポデロスに同化されつつあり!コントロールを維持できません!」

 

強化ガラスに囲まれた部屋の中でアスポデロスは大きくうねり、ひたすらに防壁に向かって体当たりを繰り返した。

細長い4本足の先に車両を備え付け、その姿はゼシル・ミラーガ少尉が南アフリカ鉱山基地で交戦した大型AAPに酷似している。

人型に近い上半身の首の付け根にはコントロールするための操作ユニットが組み込まれており、その中で被験体番号17番のコミュニケーターがアスポデロスのコントロールを行っている。

しかし、アスポデロスからの侵食で既に17番は同化され、コントロールを失ってしまっていた。

 

「失敗、ですかねぇ。処分できますか?」

 

「防壁に穴が開けられました。化学薬品による処分は研究施設の外にまで影響がでるため不可能かと。」

 

やり取りの間にもアスポデロスは防壁に攻撃を与え続け、ついに防壁は破られてしまった。

研究員からの悲鳴が沸き起こる。

 

アスポデロスは施設の防壁を破り、そのまま兵器運送のための地下通路を進んだ。

技術開発局所有の区域を突破されれば、その先は彼らでアスポデロスを止めることはできない。

本部へ連絡し、増援の要請をしなければならないのだ。

 

「サリンジャー、あなたの機体は出撃できますか?」

 

「主任が機体の調整を行うなどと言った後、返ってきていません。」

 

おっと、と思い出したかのように手を打つスタインズ。

単なる研究機関という名目の技術開発局にはそれほど多くのMMSは配備されていない。

つまり、アスポデロスの追撃に出られるMMSはないということだ。

 

「仕方ありません、本部に増援の要請を。実験のことは言っちゃダメですよ?大型AAPが逃げ出したとだけ伝えなさい。」

 

 

 

「なに、スタインズの研究施設から大型AAPが逃げ出しただと!?」

 

P.E.S.T総司令本部の管制室でエーリッヒ・アイヒンガー大佐の声が上がった。

エドガーを前々から快く思っていなかった彼には、より不快に思う出来事である。

前向きに考えるなら、エドガーの失態を追及することができる。

しかし増援要請を出された今になっては研究施設外に被害が出ればエーリッヒも責任の一端を担うことになる。

 

「既に数機のプレディカドールが鎮圧に向かっておりますが撃破報告はなし。並みのパイロットでは太刀打ちできない程のAAPかと思われます。」

 

並みのパイロットでは太刀打ちできない程の強力な大型AAP。

エース級のパイロットはほとんどが最前線に駆り出されており、連れ戻すにしても時間がかかりすぎる。

 

「88中隊は出せんしな...。」

 

機体の補給、負傷者の治療のために一時的に第88独立機動中隊は動けない。

ならば数で押して無理矢理にでも撃破へ持ち込むことも考えたのだが、あまりに被害が大きすぎる。

 

「大佐、研究施設から近いMMSハンガーに『予見眼』がいますが、どういたしましょう?」

 

「噂のパイロットか。何やら訳ありの人物らしいが...。」

 

エーベル・ハーネ准尉。

事故で記憶を失ったと同時に相手の行動を予測するという能力を得た少年である。

事故が原因でコミュニケーターとしての力が目覚めると言ったケースは稀にあるのだが、検査の結果、彼はコミュニケーターでもないと言われていた。

コミュニケーター以外の能力者ということもあって、周りからの期待は大きい。

さらにその能力を活かした戦闘スタイルで今までの被弾率は0%という驚異の数値を叩き出したらしい。

そこから『予見眼』の異名を付けられ、将来的にはエースパイロットも夢ではないとされている。

 

コミュニケーター以外の能力者、エーリッヒ自身はそんなもの信じられないと思っていた。

 

「手並み拝見とするか。ハーネ准尉を出撃させろ。目標を地上へは絶対に出すなと伝えておけ。」

 

 

 

「せっかくお花に水をあげてたのに、人使いが荒いなぁ。」

 

地下通路を進む1機のプレディカドール弐式。

そのコクピットには『予見眼』の異名を持つ少年、エーベルの姿があった。

彼は異名の通り、予見する能力を持っている。

相手が取る次の行動を、確実に読み取るその力はコミュニケーターを越える能力とも言われていた。

もっとも、その予測能力はAAPにしか通じない欠点を持っている。

 

「さて、もうすぐかな。」

 

一人呟くと、モニターにこちらへ近づく影が映り込んだ。

例の研究施設から逃げ出したという大型AAPである。

4本足の先にはそれぞれ車輪が付けられ、見た目に似合わず動きは俊敏そうであった。

 

「AAPは、嫌いだね。」

 

自分でも理由はわからないが、AAPに対して極度の憎しみを抱いている。

記憶がないからわからないが、AAPに大切な誰かを奪われたのかもしれない。

ただ純粋に、AAPに殺意を向けて戦う。

 

プレディカドールの羽を展開させ、迫り来るAAPに向けて最大速度で飛翔させた。

急ブレーキをかけた大型AAPは体を旋回させて上半身の触手を遠心力で振り回す。

 

プレディカドールの体勢を低くし、無造作にその攻撃を避けると途端に今度はバックステップを踏んだ。

今プレディカドールがいた所には何やら蒸気が上がっていた。

恐らくは大型AAPが吐き出した酸性液。

並みのパイロットでは避けられなかった攻撃であろう。

 

「甘いね、予測の範疇だよ。」

 

右、左へと連続で繰り出される触手を避けて距離を取りつつガン・シックルから弾丸を飛ばした。

全弾命中、しかし大型AAPは怯んだだけに過ぎなかった。

 

大型AAPは数本の触手を勢いよく伸ばし、プレディカドールの足元に触手を突き立てた。

まるで、伸びたゴムが縮むような勢いで体当たりを仕掛けてくる。

エーベルは眼を細め、集中力を高めた。

大型AAPの足の間、その空間を狙ってプレディカドールを最大速度で突っ込ませる。

プレディカドールは大型AAPの股の下を通り過ぎるようにすれ違い、大型AAPの背後を取ることに成功。

 

何も言わず、淡々と背後から弾丸を放つ。

無数の弾丸が大型AAPの足を吹き飛ばし、やがて動くことすらできなくなった。

 

とどめを刺そうと、プレディカドールで接近する。

 

「ん、なんだろう?」

 

大型AAPの上半身に当たる部分に、何やら筒上のカプセルのような物が見えた。

側面には、『17』と数字が記されている。

 

詳しく見てみようとモニターを拡大したその瞬間、そのカプセルは爆発を起こした。

跡形もなく吹き飛んだカプセル。

その爆発は何かの証拠を隠すための自爆装置だったのか、やけに不自然に見えた。

 

「まあ、いいかな。任務完了。」

 

その様子を地下通路の監視カメラから見つめていたのは技術開発局主任、エドガー・スタインズ。

その口元には、不気味な笑みが浮かんでいた。

 

 

 




今回は主に話の繋ぎと、今後の展開の起点となる回でした。
今回、新たに二人の人物が登場しました。
今後も活躍したりするかもしれませんので、覚えておいていただけると幸いです。
次回は来週の日曜日を予定しております。
では、また次回にm(__)m
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