けっこう字数に差がありますがご了承ください。
そろそろ物語も折り返しですかね。
医療関連の民間企業、ディアンケヒトの研究施設を調査していた第88独立機動中隊。
その内部は逃げ出したAAPに荒らされ、まさにホラー映画さながらの光景である。
男性陣と別れ、ノエルとクーデリカは施設の奥へ奥へと進んでいた。
いくら戦闘訓練を積んだ兵であっても、本能的な部分では恐怖を感じている。
何度かAAPと同化された研究員らしき者と交戦したが、一向に慣れてはこない。
「大尉、何か聞こえません?」
前を進んでいたクーデリカは、突然そんなことを言い出した。
ノエルは恐る恐る耳を澄ませ、聴覚に全神経を傾ける。
すると、カンカン、と何か金属音が聞こえてきた。
「...ほんとだ。ていうか、近づいてきてない...?」
その音は最初こそ小さかったものの、確実に大きくなってきている。
それが意味するのは、音源の接近である。
ノエルとクーデリカは自動小銃を構え、周囲を見渡した。
徐々に迫る恐怖。
相手はこちらの位置を掴んでいるのか、迷うことなくこちらに近づいてきているようであった。
やがて、その音が止まり...。
「大尉、上です!」
クーデリカが叫び声を上げた。
あろうことか、天井に通っているダクトを突き破ってAAPが姿を現した。
突然のことに思わずノエルが悲鳴を上げ、その声が施設内に響き渡った。
辛うじて最初の攻撃を避け、すぐに体勢を立て直す。
片膝を床につけたままの姿勢で自動小銃を構え、狙いも定めずに発射した。
しかし、その銃撃は易々と避けられたようである。
非常電源の明かりだけではこちらからは視認しずらい。
対するAAPは視覚を頼っているわけではない故に、こちらが不利なのは明らかであった。
クーデリカもコミュニケーターとしての能力だけでは厳しいだろう、そもそもクーデリカは正規の訓練を受けていないため、こうした戦闘には慣れていない。
ノエルは腰につけていた手投げ式の照明弾を手に取り、床へ投げつけた。
その瞬間、眩い光が辺りを包み、ノエル達は視界の確保に成功した。
この照明弾は投げた後数分の間光を発し続け、こうした暗所での視界確保に使われる。
光に照らされ、ようやくAAPの姿を確認することができた。
このAAPも、どうやら人間に同化したタイプらしい。
人間の首元に食虫植物らしき頭があり、背中からは4本の触手。
視界がはっきりとした今となっては何の脅威でもない、すぐに片付けようとしたとき、ノエルとクーデリカは引き金を引くことができなかった。
「ちっ、証拠隠滅のための殺処分に来やがったな...!」
同化された人間が、言葉を発した。
たしかに同化されて数分ならば人間の意思を保つことはできるらしいが、ここ数分の間に誰かが争ったような物音はしなかったはずだ。
つまり、この人間はノエル達が来る前、少なくとも数十分前以前に同化されたことになる。
しかしそれでも、目の前にいる同化された人間は意思を保っているようだ。
「あなた、まだ意識を保っていられるの?」
「ああ、そうだ。そもそもそうしたのはお前ら研究員だろうが!」
AAP、いや、その人物が触手を勢いよく伸ばしてノエル達に襲いかかる。
回避するものの、こちらから反撃するには少々気が引ける。
何か事情を知っている様子であり、ディアンケヒトの研究内容の実態を掴む鍵になるかもしれない。
「待って、研究員とは関係ない!あたし達はこの施設で行われていた研究の内容を調べに来ただけなの!――そもそも、あなたは何者?なんで同化されても意識を保っていられるの?」
その人物はノエルの言動を怪しむように見ているが、どうやらノエル達がこの施設の研究と関係がないことを理解したようだ。
「俺は、この施設の被験者の一人だ。あんたらが施設の奴らと関係ないってなら、話してやってもいい。」
その人物が話し始めたとき、奥の通路から走ってくる二人の人影が見えた。
「ノエル大尉、マナロフ少尉!」
ノエルの悲鳴を聞いたのであろうゼシルとエーベルが駆けつけたらしい。
二人はノエル達の目の前にいるAAPを認識すると、すぐに自動小銃を構えた。
「待って二人とも。これからこの人と話をするわ。」
「つまり、ここではAAPとの人為的な合成と、そのコントロールを試みる実験が行われていたのね?」
AAPと同化された男性から話されたことと、ゼシルが先程奥の部屋で見つけたというノートに記されていたことから考えるに、そういう結論が出た。
「そういうことだ。だが、何のために化け物の制御を実現させたいのかまでは俺も知らねえ。」
何故、AAPの制御が必要なのだろうか?
確かにAAPを制御することができれば人類に対する脅威は激減するだろう。
しかし、わざわざ人間と合成して制御させるというのは、あまりに非効率である。
「軍事利用、なのかな。」
ぽつりとノエルが呟いた。
大型のAAPを仮に制御することができれば大きな戦力となり得る。
ゼシルの報告にあったノートには、人類滅亡の日とされる『最終浄化』なる日が近づいているという記述があったという。
最終浄化というものが具体的に何を示すのかは不明だが、その日に備えて戦力を早急に集めなくてはならない、ということなのだろうか?
確かにこれならば秘密裏に研究が行われていたというのにも納得がいく。
未完成の技術に頼る姿勢は人々の不安を煽ることになり、さらに人間を制御ユニットにするという非人道的な技術は世間の反感を買うのは目に見えているからだ。
しかし、それもどうにもしっくりと来ない。
そもそもP.E.S.T上層部が軍事利用を目的にディアンケヒトに研究を依頼していたのなら、88中隊に今回のような任務を与えることはないはずだ。
ならば、この研究はP.E.S.Tとは無関係、そして別の目的があるのだと推測できる。
とにもかくにも、目の前のAAPと合成された男性は貴重な手がかりだ。
ここで非人道的な研究が行われていたという動かぬ証拠である。
「ここでの非人道的な研究の証拠に、あなたを連れていきたい。人類のためなのかどうかはわからないけど、こんなの間違ってるわ。――だから、あなたにも協力してほしい。」
「...それは、できねぇ相談だ。」
ノエルの要請に断りをいれる男性。
証拠さえあれば非人道的な研究が公にされ、このような研究は絶えるはずだ。
それは男性も願っていることだろうに、だからこそノエル達は男性の反応を疑った。
しかし、続いた男性の言葉にノエル達は反論することができなかった。
「定期的にな、俺の意識は途切れるんだ。その間、この化け物の制御はできねぇみたいだしな。成功体と騒がれたみたいだが、実際の、ところは、完全に化け物を制御、できるわけじゃない、欠陥品、なんだ...よ..。」
話の最中、男性の動きが急に変わっていった。
体をうねらせ、フラフラと足取りはおぼつかなくなる。
「皆さん気をつけてください。男性の意識レベルが低下しています。」
異変をいち早く感じ取ったクーデリカは一同に注意を呼び掛けた。
男性の顔をは辛そうに歪み、そこにはすでにAAPとしての本能が残っているだけ。
こうして意識を失っている間に、研究施設を荒らしたのだろう。
それだけでも凄まじい戦闘能力を持っていることがわかる。
ゼシルは自動小銃を構え、ノエルとクーデリカの前に立った。
「来るよ、気をつけて!」
エーベルの声が響き、その瞬間にAAPは触手を振り上げて襲いかかってきた。
一方、研究施設の外で逃げ出したAAPの駆除を行っていたシエル達は未だに戦闘を継続させていた。
戦闘といっても、小型種の殲滅のため一方的に攻撃を加えるのみである。
しかしその数が多く、市街地に逃げられてしまうと民間人にまで被害が出てしまう。
一応、この人工島の自衛組織も展開しておりその心配は少ないのだが油断は禁物である。
「クイーガーさん、前に出過ぎですよ。」
隊の副官を任されているシエルは、必然的にこのメンバーの中では指揮を取らねばならない。
普段は姉のノエルがビシビシと指示を出すのを影からサポートするだけである故に、こうして直接指示を出すのは苦手な部類であった。
引っ込み思案の大人しい性格もその要因の1つであろう。
「副隊長さんよ、何か接近する機影があるようだぜ?」
クイーガーの報告を受け、シエルはレーダーに視線を移す。
こちらに向かってくるのは1機のプレディカドールのようである。
「識別コードは...アンノウン?所属不明機?」
どこの隊の機体かと思い識別コードの表示を試みたのだが、エラーが出たのである。
不審に思ったシエルはAAPの駆除をボマーとクイーガーに任せ、自らの機体を接近する所属不明機へと近づけた。
「そこの機体、止まってください。所属先はどこですか?目的はなんですか?」
所属不明機の進路を塞ぐようにシエル機を浮遊させる。
通常、左肩のアーマーには機体番号や隊のエンブレムといったものが施されているのだが、その所属不明機は意図的にそれを隠しているようだ。
所属不明機からの返答は無く、そのままシエル機を通りすぎようとする。
増援を求めようかとも思ったが、ボマーとクイーガーを呼ぶわけにはいかない。
再び機体を浮き上がらせて所属不明機の進路を塞ごうとしたところ、あろうことか攻撃を仕掛けられた。
「きゃっ!?」
完全な不意打ちに避けきれなかったシエルはすぐにバランスを整え、メインカメラに所属不明機を捉えた。
次いで、反撃とばかりにガン・シックルから銃弾を放つ。
が、相手はなかなかの腕があるようだ。
華麗に回避し、そのまま逃げるようにシエル機を通り抜ける。
向かっている先は、恐らく例の研究施設。
シエルもプレディカドールのブーストを噴かして所属不明機の後を追う。
何が目的なのかはわからないが、所属不明でこちらに行動を仕掛けたということから考えるに味方ではないだろう。
焦る気持ちを抑えつつ、シエルは機体を最大速度で飛翔させた。
複数の銃声が響き、暗い施設内は静寂に包まれた。
横たわるAAPと合成させられた男性。
そしてAAP特有の体液と男性の血液が辺りを染めてあげていた。
男性が完全に意識を失う前に、どうやらAAPの本能的行動を抑えていてくれたようだ。
本能と人間としての意識がせめぎ合い、AAPの行動は酷く鈍いものであった。
それ故にノエル達は苦戦することなく撃破することができた。
「証拠が、欲しいなら...中央の、実験棟に行け...。あそこなら、まだ...」
言い終わらぬ内に、その男性は息を引き取った。
ゼシル達はその男性を助けることができなかった無力感を味わいながら、静かに手を合わせる。
中央の実験棟、確か外から見ると真ん中に聳えている円柱型の施設のことである。
ここまで気が付かなかったのだが、どの案内板や施設内の地図を見てみても中央の施設についての記述は一切なかったのだ。
恐らく、そこに証拠に繋がる何かがある。
AAPを利用した非人道的な研究を行ってまで成し遂げたかったもの、その全貌を確かめなければならない。
そのとき、ノエルへ連絡が入れられた。
外部で戦闘を行っているはずのシエルからである。
『お姉ちゃん、そっちに所属不明のプレディカドールが向かってる!通信にも答えてくれないし、目的もわかんないよ!』
このタイミングで所属不明機が襲撃してくるとは。
ほぼ間違いなく証拠隠滅の為に来たのであろう。
MMSを投入したということは、施設ごと爆破する気か。
「わかったわ。ゼシルとクーデリカとエーベルは例の実験棟に向かって。あたしは迎撃に出るわ。」
「一人じゃ危ないよ。俺も行く。」
ゼシルの申し出はありがたいが、実験棟の調査には一人でも人員が欲しいところだ。
シエルも追撃しているというし、問題はないはず。
「あたしは大丈夫。それに、カスタム機もあるしね。」
施設の外へと走り出たノエルはすぐさま停めていた新たな愛機へと乗り込んだ。
機体を起ち上げて徐々に視界をクリアにしていく。
プレディカドール弐式カスタム、それが新たなノエルの機体である。
大尉へ昇格するの個人的に機体を改造することが許され、改造された機体は全て『カスタム』と名が付けられる。
ノエルの機体は彼女の戦闘スタイルに合わせてカスタマイズされていた。
まず、一般機のメイン兵装となるガン・シックルが撤廃され、代わりにツイン・シックルが搭載された。
これは鎌の刃部を片腕に2本分取り付けることによって威力を上げる意図がある。
その形状は鎌というより爪に近く、近接戦闘により特化したと言えるだろう。
また、手首には中距離戦用のMMSガンを搭載、さらに切り替え式の推進式アンカーも装備。
腕に装備を多く詰め込んだ結果として腕がやや大型化し、その分パワーも上昇している。
脚部には脛の部位に展開式のブレード、それぞれの足の爪先にもエネルギー刃の発生装置を備え付け、完全に近距離戦闘に特化したカスタマイズが施された。
機体のシステムを確認し、異常がないことを確かめるとノエルは顔を上げてメインモニターを見た。
レーダーにも映ってはいるが、少しずつ例の所属不明機が近づいてくるのが見える。
「よし、いける。」
小さく呟き、ノエルは機体のブーストを全開にしてプレディカドール弐式カスタムを飛び上がらせた。
太陽の光を反射する真っ白に塗装されたその機体は、パイロットの意思を表すが如く存在感を放っていた。
最後の方でカスタム機が少しだけ登場しました。
次回はカスタム機の戦闘です。
新年度突入ということで第一週目はたぶん忙しくなると思うので、次回は一旦お休みです。
申し訳ありませんm(__)m
では、また次回に。