PEST   作:リボーンズ

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またも遅くなりました(;つД`)
結末もそう遠くないので遅くとも頑張って続けていきます。


進撃の要塞

「なんとか侵攻ルートを変えろ!このままだと都市部が廃墟になる!」

 

米国に位置する数少ない地球本土の都市に向かって、AAPの侵攻が始まっていた。

人工島を作り海へと逃げた人類であったが、その居住スペースに対して人類はあまりにも多すぎたのだ。

やむを得ず危険が蔓延する地球本土に強固な壁と防衛設備を備えたいくつもの防衛都市を形成、その中で全人類の過半数を越える人間が暮らしていた。

 

数日前に監視衛星から送られた映像。

それは、大規模なAAPの群れが米国の防衛都市へ向かって侵攻しているというものであった。

 

P.E.S.T本部はすぐに都市部の防衛のため部隊を派遣。

しかし、侵攻を阻止するどころか勢いを抑えることも敵わなかった。

 

「対AAP弾、斉射開始っ!」

 

最前線に投入された戦闘車両オルーガの一群が一斉に攻撃を開始する。

巻き上がる粉塵、特殊な化学薬品の込められた対AAP弾を絶え間なく撃ち込む。

 

しかし、敵は怯むことなく前進を続けた。

 

何故ならば――

 

「こいつは、でかすぎる...!」

 

「ひ、怯むな!撃て、撃てぇ!!」

 

監視衛星によって探知されたAAPは、大規模な群れではなく超大型の1つの個体であったのだ。

 

さらに、まるでその個体が要塞であるかのように体内から小型のAAPを生み出していく。

まさに移動要塞であった。

 

抵抗も虚しく移動要塞は着実に都市部へと近づく。

すなわち、絶望へのタイムリミットが少しずつ0へと向かっていたのだった。

 

 

 

技術開発局主任、エドガー・スタインズは研究室で文献を閲覧していた。

もちろん彼も米国へと迫る危機は把握していたのだが、仕事が舞い込む前に少しでも研究を進めておきたいという思いがあったのだ。

 

人工生命についての記述。

ノアの残した古い文献である。

エドガー自身、人工生命には興味があった。

ステラなどのクローンもノアの技術を用いて生み出したものであるが、より強力な人工生命が必要なのだ。

クローンの量産も可能ではある。

しかし、成功体が生まれる確率は高いとは言えない。

 

「おや、これは。」

 

そのとき、古い書物に挟まれていたのだろう1枚の写真がひらりと落ちた。

おもむろにそれを拾い上げ、眺める。

 

「うーん、どこかで見たことがあるような気がしますねぇ。」

 

写真に写っていたのは1人の少年。

中性的で優しげな表情をしたその少年は、1輪の花を見つめていた。

 

「予見眼、ですね。」

 

傍に控えていたステラがその写真を覗き込み、そう呟いた。

予見眼の異名を持つパイロット、エーベル・ハーネ少尉に写真の少年は酷似していた。

 

「ああ、思い出しました。ですがそれだと不自然ですねぇ。」

 

この写真はあまりにも古い。

少なくとも数十年以上前のものだろう。

数十年以上も前に撮られた写真に、なぜ現代を生きる人間が映っているのか。

 

そもそも、何故ノアの書物からこの写真が出てきたのか。

 

「何かしらの繋がりがあると見てもいいでしょう。ゆっくり調べ上げたいところですが...。」

 

書斎に近づく人の気配を感じ、言葉を切った。

研究を妨げられるのを嫌うエドガーは例によって不機嫌な顔をそちらへと向ける。

 

「主任、本部からの要請です。」

 

現れたのはやや焦り気味の研究員、そしてその後ろには本部所属のエーリッヒ・アイヒンガー大佐。

 

「久しぶりだな、スタインズ。」

 

手振りだけで研究員を下がらせ、書斎にはエドガーとステラとエーリッヒの3人のみとなった。

わざわざ人払いをしたのだ、何かしら言いたいことでもあるのだろう。

 

「これはこれは大佐殿。本部から私に要請ということですが、いったい何をしろと?」

 

「その前に貴様に聞かねばならんことがある。」

 

書斎に張りつめた空気が広がる。

しかし、エドガーはその不適な笑みを崩さない。

 

「スタインズ、貴様は化け物を使って何を成そうとしている?」

 

「AAPは我々の敵でしょう?それを使って何かを成すなど――」

 

「惚けるのも大概にした方が身のためだ。既に証拠が出ている。医療関連企業ディアンケヒトも貴様との繋がりがあったようだな?」

 

懐から数枚の写真を取りだし、スタインズに放り投げる。

ディアンケヒトの施設内部の写真、そして異形と化した人間の死体の写真。

 

さらには、ディアンケヒトの研究員から得られた証言が記録されたメモリーまでもが提示された。

 

「言い逃れはできんぞスタインズ。場合によっては反逆罪にかけられる。」

 

その瞬間、カッターナイフを持ったステラがエーリッヒに飛びかかった。

完全な不意討ち、しかしエーリッヒはその動きを見切った。

 

「うっ!」

 

片手でカッターナイフを払い落とし、逆の手でステラの首を掴みそのまま宙吊り状態へと持っていく。

 

「コミュニケーターを複製して何がしたい?化け物を操って何がしたいのだ?」

 

「くはははは...!大佐殿、あなたは何もわかっちゃいない。AAPは、人類を発展させる素晴らしき存在なのですよ。」

 

ゆらりと立ち上がり、エドガーはエーリッヒの目の前に移動する。

手首の部分から小型のスタンガンを取り出し、ステラのことを全く気にせずにエーリッヒにスタンガンを突き付けた。

 

「ぐあっ!?」

 

「きゃっ」

 

感電したエーリッヒとステラは床に倒れ込む。

 

「AAPはこの腐敗した人類のあらゆる問題を解決に導いてくれるのです。」

 

人類の敵が人類を助ける、エーリッヒにはわからない考え方であった。

現に、AAPは人類を滅亡させるべく攻撃してくるのだ。

それがいったい、どう解釈したら人類の救世主といえるのか?

 

「知っていますか?あの化け物が出現してから戦争や内紛の数は大幅に数を減らしたんですよ。」

 

エドガーの説明では、強大な敵の存在が人類を本当の意味で1つにさせると言う。

 

さらにAAPは環境汚染問題の解決や人口の過度な増加を抑え、異分子を消し去り、地球と人類のコントロールをも可能にする。

また、強大な敵の存在という物理的・心理的ストレスが人類を進化へと導くと言うのだ。

 

「私はAAPの利用を考えています。心配は要りません、制御できない危険な個体は全て殲滅しますからね。最終的にはAAPを完全にコントロールして人類に対し適度なストレスを与え続けます。強大な敵を前に人類は1つとなり、進化への素晴らしき道を辿ることになりますよ。」

 

書斎に響き渡る笑い声。

理想を語るエドガーの目には狂気じみたものが浮かんでいた。

 

「神を気取るつもりか、スタインズ...。貴様の進化論は間違っている。地球を恐怖で支配するつもりかっ!」

 

感電による痺れが薄まりつつあったエーリッヒは懐から拳銃を取り出し、その銃口をエドガーへと向けた。

その瞬間、エドガーの口許には歪んだ笑みが広がり、一発の銃声が鳴り響いた。

 

 

 

 

第88独立機動中隊は現在、米国の都市部へと向かっていた。

超大型のAAPが侵攻しているらしく、その迎撃に駆り出されたというわけである。

 

今回のAAPは前例がないため階級の高い指揮官ですらその対応に困り果て、AAPに詳しいエドガー・スタインズが作戦の指揮を執ることとなっていた。

 

何ならエドガーには策があるらしく、その作戦のため88中隊が召集されたのだ。

 

「あたし達は囮か~。まあ気楽と言えば気楽だけど。」

 

輸送ヘリの中で、ノエルは言葉を溢した。

彼女の目は普段の凛とした光を灯していたものとは違い、どこかぼんやりとしている。

ディアンケヒトの研究施設での調査以来、普段の快活少女とは違う様子であったのだ。

 

「ノエル、大丈夫?」

 

そんなことを聞いても彼女なら大丈夫だと答えるに決まっているが、ゼシルは尋ねずにはいられなかった。

 

「ん、何が?」

 

「なんか最近、様子変だから。」

 

しかしノエルは視線を動かそうとせず、ずっと窓の外を眺めている。

 

「ちょっと考え事。大丈夫よ。」

 

案の定、大丈夫と答えたノエル。

予想はできていたがゼシルはそれがもどかしかった。

妹のシエルもずっとノエルのことは気にかけている様子であるが、なかなか聞き出せないのだろう。

 

そのとき、ボマーが目をキラリと光らせ、眼鏡をかけていないのに眼鏡を上げる仕草をした。

 

「恋煩いってやつだな。」

 

先程までぼんやりとしていたノエルがボマーを睨み付け、凄まじい速度で飛び蹴りを繰り出した。

 

「んなわけないでしょ、この変態!」

 

「ぐはぁっ!」

 

なぜ変態呼ばわりされなければならないのか、というボマーの心の叫びが聞こえた気がした。

 

床に倒れ、ボマーが力尽きた。

お前の命は無駄ではないぞ。

 

ノエルのアークドライブフィニッシュが決まってしまったが、少しばかりか場の空気が和んだようである。

ノエルの顔色も良くなったように見え、シエルもクスクスと笑っていた。

 

「88中隊へ出撃要請。パイロットは搭乗機にて出撃命令まで待機せよ。繰り返す――」

 

流れるアナウンスに、彼らに再び緊張が走る。

だが、ノエルも頭を切り替えたようで先程までの沈んだ表情はない。

 

「あたし達は囮だから、絶対に無理しないこと。これは命令よ。」

 

ボマーも復活を果たし、その場にいた全員が彼女の言葉に力強く頷いた。

 

 

 

超大型AAP、コードネームは『フォートレス』と言う。

フォートレスは無数の大型AAPが融合した1つの個体であり、体内から小型AAPを生み出す特性がある。

 

「これは敵が多すぎるっ!」

 

出撃した第88独立機動中隊はすぐに敵と接触、戦闘を開始した。

 

ゼシルはプレディカドールを最大速度で飛ばしながら、確実に飛来する小型AAPを撃ち落としていった。

動きを止めればすぐにAAPが群がってくる、常に動き続けて敵を撹乱しなければならない。

 

すれ違いざまにシックルで鳥型AAPを切り裂き、逆側のガンモードのガン・シックルで狙いもつけずに弾を撃ち出す。

 

「ん、なんだ?」

 

レーダーに高速で接近する敵影が映り込んだ。

鳥型とは速度が違いすぎる。

新種だろうか?

 

「戦闘機型か...!」

 

捕らわれた戦闘機にAAPが同化したのか、はたまた戦闘機を模して体を変化させたのか。

どちらにせよ、この高い機動性では厄介な敵となるのは間違いない。

 

ガン・シックルを乱射し、できる限り弾をばら撒く。

あの高機動性では狙ったところで外すのがオチだろう、こうした方が当たりやすいのは経験上から理解していた。

 

狙い通り乱雑な射撃の方が効果があったようである、翼を撃ち抜き戦闘機型は次々と墜落していった。

 

目前に迫るフォートレス、そこからは絶え間なく小型AAPが生み出されている。

かつてない大規模な襲来に、ゼシルは疑問を抱いた。

 

何故この防衛都市にこんな大規模な群れが襲来したのか。

 

偶然というわけではないだろう。

人類の居住区は地球本土の数パーセントに過ぎず、この群れがその場所を通過する可能性は極めて低い。

 

これは偶然ではなく目的があって侵攻しているのだ。

 

それさえわかれば...。

 

『都市部の民間人の避難完了まで約15分。』

 

考えを巡らせる暇はなく、ただ目の前の敵を迎え撃つしか道はない。

残り15分耐えきれば囮役である彼らの任務は完了するのだ。

 

フォートレスから放たれる熱エネルギーの照射。

ニュージーランドで『樹』が使用した攻撃方法と原理としては同じものであろう。

厄介なのは、その砲口が至るところにあるということだ。

 

放たれる無数の攻撃を掻い潜り、確実に反撃を積み重ねる。

 

ゼシルは再びプレディカドールのブーストを噴かし、群れの中へと飛び込んだ。

 

 

 

一方、ノエルも奮闘の最中にいた。

射撃兵装の少ないノエル機には厳しい戦闘である。

 

加えて、先日の所属不明機のパイロットのことが気になって仕方ないのだ。

クーデリカにどこか似ている雰囲気。

直接見たわけではないため断定はできないし、むしろノエルの思い過ごしの可能性が高い。

 

しかし彼女はずっと気になっていた。

 

コクピットに鳴り響く警告アラートがノエルを現実へと引き戻す。

鳥型AAPが3体、ノエル機へと迫っていた。

 

「ちっ。」

 

舌打ちしつつAAPと距離を取り、手首のMMSガンを放つ。

精密さに欠ける武器のため命中率は高くないが、あくまでもこれは牽制に過ぎない。

 

推進式アンカーに切り替え、3体のうち右側の個体へ向けて射出。

がっちりと捕らえ、遠心力で振り回して他の2体へと叩きつけた。

 

これだけの動きでも汗が滲んできている、それは精神的な焦りを示していた。

 

「集中力に欠けるわね...。」

 

背後から迫る敵影をレーダーに捉え、振り向きざまにツインシックルでバラバラに切り裂いた。

360度どこを見ても化け物の大群がいる。

集中力に欠ける現状ではかなり厳しいといえる。

 

「っ!?」

 

上下両方からAAPの接近を知らせるアラートが鳴り響き、一瞬ノエルの思考が止まってしまった。

普段なら難なく切り抜けられたであろう状況、しかし今はそんな余裕がなかったのだ。

 

しかし、迫るAAPはノエル機に到達する前に爆散した。

 

「ぼーっとしてちゃ墜とされるぜ、隊長さんよ。」

 

重武装のボマーのプレディカドールの姿があった。

ガトリング砲にミサイルポッド、肩にはキャノン砲まで備え付けたバランス力無視の武装。

動く武器庫ともいえそうなその風貌を普段は馬鹿にしていたノエルであったが、圧倒的な数のAAPを前に今だけは心強く感じていた。

 

「だ、大丈夫よ!あたしだって本気出せばあれくらい...!」

 

「ツンデレだと男が寄って来ないぞー。」

 

いつも通りのくだらないやり取り。

今はそれが何よりも心強く感じる。

いったい、どれほど仲間に助けられてきただろうか。

 

ノエルは頭を振って思考を切り替えた。

余計な事は考えるな、目の前の敵に集中しろ。

 

『都市内部の避難完了。第2フェイズへと移行、リミッターの解除を許可する。』

 

作戦本部からの通信を受け、ようやく避難が完了したという知らせが入れられた。

 

「各機へ通達!機体リミッターの解除を許可、あたしに続け!」

 

「「了解!」」

 

ノエルの号令でそれぞれが機体のリミッターを解除した。

疑似無限機関のエネルギー出力のリミッターを解除することで一時的に凄まじい量のエネルギーを生成することができる。

 

その高エネルギーはAAPを引き付ける効果もあるらしく、今回はその特性を用いてフォートレス及び小型AAPの群れを誘導する。

 

防衛都市の正面扉から都市部内部へ誘導し、その中で殲滅するという算段である。

 

その後の作戦においてフォートレスの侵入ポイントは重要らしく、失敗は許されない重要な役割。

 

「こっちだぜぇ化け物おぉ!ヒャハハハハ!」

 

何が楽しいのか、クイーガーが愉快そうな笑いを上げて前方を飛ぶ。

時折、機体を宙回転させて背後から追ってくるAAPに向けて射撃を繰り出し、AAPの注意を完全に引き付けていた。

 

やがて88中隊は正面扉より防衛都市の内部へと侵入、フォートレスもその後を追っているようで見事に第2フェイズは成功を収めた。

 

 

 

その頃、クーデリカはノーヴィアントレーネーのコクピットで出撃の瞬間を待っていた。

今回クーデリカは88中隊とは別行動で作戦へと参加することとなっていた。

というのも、この作戦の指揮官はエドガーであるからなのだが、いったい彼女に何をやらせようというのか。

 

「パーピリオブースターの使い方はわかりましたね?期待していますよ、マナロフ少尉。」

 

エドガーからの通信を受け、クーデリカは気持ちを引き締めた。

 

パーピリオブースター。

ノーヴィアントレーネーに搭載された特務仕様の兵装である。

 

「しかし、使いこなせるかはわかりませんよ。こんな危険な代物、暴走でも起こしたら...。」

 

「問題ありませんよ。あなたなら十分に使いこなせます。それに既に一度...いや何でもありません。」

 

エドガーの言葉を濁した様子に違和感を覚えたが、すぐにその考えは打ち消されることとなった。

出撃のアナウンスである。

 

『ノーヴィアントレーネー、発進準備完了。クーデリカ・マナロフ少尉、出撃願います。』

 

深呼吸をして精神を落ち着かせる。

失敗は許されない、確実に使いこなして見せる。

 

「ノーヴィアントレーネー、いきます。」

 

 

 

 




今回はエドガーの目的が明らかになりました。
また、パーピリオブースターなる新装備も登場です。(たぶん次回のみの活躍ですが。)
ちなみにパーピリオはラテン語で蝶の意味を持つパーピリオーから取りました。

次回もこのペースでの更新になると思いますが、気長に待っていただければ幸いです。
では、また次回m(__)m

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